銀灰の神楽   作:銀鈴

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月は全てを照覧す、汝は英雄足り得るか【終】

 まず感じたのは悲嘆。

 全てを見届けた女の断末魔の叫び。

 万全の準備はした筈だ。

 作戦だって完璧だった。

 なのに嗚呼、ああ、何が足りなかった。

 どうしてこんな結末になってしまった。

 映し出されるのは過去の情景。

 在りし日の世界が終わりを迎えた終末の刻。

 この世界が悪魔に敗北したその日の光景だった。

 

 

 総身が引き裂かれたような激痛に(玉兎)は目を覚ました。同時に耳に届いてきた激音に、自分の意識が飛んでしまっていた事を悟る。

 視界一面に広がるのは水晶の渓谷。イオリとロイドが語るには、時空間閉塞概念結晶体なる薄青の結晶が包み込んだ世界。(玉兎)達が、全てを賭けて決戦に挑んだ地。名もなき最果ての島。そこまで状況の把握が済んだ瞬間、私は起き上がろうとして──見事に失敗した。

 

「ごぼ──ッ!?」

 

 出そうとした言葉すら、喉がゴボゴボと血が奏でる泡沫の音に阻まれ声にもならない。疑問に視線を下げ、そこで漸く自分の状態を理解した。

 腹の半ばから先が存在していなかった。撒き散らされた臓物と夥しい血液を視線で辿った先にあるぐちゃぐちゃになった肉塊だけが、かつて自分の下半身だったのだろうと推測出来る。

 伸ばそうとした左手が存在しないのは、ヤツの爪を受けて、左の胸の辺りから抉り取られたから。

 視界が暗いのは、顔面が半分吹き飛ばされているから。

 声が出せないのは、巨大な牙で虫のように縫い止められているから。

 

 それでもまだ()()()()のは、あの2人が作り上げた魔剣を千切れかけた右腕が離さないから。

 

「……ふっ」

 

 ああ、つまり、(玉兎)は死ぬのか。

 認識した現実に、自嘲が漏れた。医者が、回復役が、まだ治すべき味方よりも先に死ぬ。とんだお笑い種だ。

 それでもまだ、戦いが続いていることは分かっている。響く激音、裂帛の気合い、魔法の炸裂する音に、物理的な衝撃音。その全てがまだ、この島に突入した7人の中に生き残りがいる事を示している。支援する魔力すら残っていないが、それでも趨勢を見届けようとして、(玉兎)は終わりを見た。

 

「──ッ!!」

「──」

「ッ、──!!」

 

 繰り広げられているのは、4人と1体の熾烈な闘争だ。

 

 8つの棺桶を背負い機械的な大鎌を振るう、幼銀の死神

 鋼の双翼を羽撃かせ世界を喰らう双剣を振るう、緑の颶風

 本来とは違う根源に無理矢理接続し神へ成った、白痴の魔王が端末

 かつて世界を救うべく呼び出された救世主、真なる勇者

 

 彼ら彼女らが相対するのは1体の獣。次元を渡り、世界を食い尽くし、宇宙を破壊する獣、行き過ぎたヒトの欲望の果て。自分らが【悪魔】と命名した、正気を無くした侵略的異世界生命体の長。それは、余りにも異様な姿形をしている。

 

 7つの首、10の冠角、6対の翼、6本の脚に、6爪を持った黒き龍。

 燃え落ちた炭のような極黒の鱗の奥に、熾火のように真紅の輝きを煌めかせる滅びの獣。

 頭の先から尻尾の先までの全長は2000メートル程。同じ悪魔でも全長十数キロメートルはある【デストロイ級】には及ばないが、どちらも人智を超越した生物という点に違いはない。

 

 だが、何よりも特筆すべきはその密度。

 

 如何なる原理か、凡そ本来の1/100サイズにまで存在として圧縮されているというのが戦友達の見立てだった。

 試作型と呼ばれた魔剣を使い、次元を斬り裂く剣技で以って漸く鱗が1枚剥げた。時空間をねじ曲げる魔法で以って、漸く肉を削ぎ落とせた。世界を滅ぼす文明の火を以って、漸くその骨を砕き折れた。

 

 この世界と、隣接した地球という世界のリソース全てを投入した最終決戦。その結末が、この全軍の9割が壊滅した惨状だ。

 

「……」

 

 脳裏に、走馬灯のように記憶(ヒカリ)がよぎる。

 

 

 初めに命を失ったのは、老いた人王(八岐)アルディートだった。

 苛烈な【獣】との闘争が続く中、魔剣を振るい世界を斬り裂く剣技で確実な傷を増やしていく。そうして首を1つと腕を1つ切断したところで、()()()()()()()()。『開闢剣タカマガハラ』、神をその身に降ろし神威を振るう試作型魔剣は、約20,000時間の限界駆動の果て、あってはならないタイミングで崩壊した。

 生まれた間隙は一瞬。反動で即死する前に予備の魔剣に人王は手を伸ばし、集いし英雄7人の誰もが護りに入り──その全てが間に合わなかった。

 

『──こふッ、』

 

 枯れた老体を、魔法で転送された【獣】の爪が突き破る。一撃で心臓を抉り出し、爪を引き抜く際に内臓ごと人王の身体は蹂躙された。もう助からない。それは誰が見ても明らかで……

 

『冥土の土産だ。その首ひとつ、貰って行く!

 神威抜刀──クサナギ!!』

 

 命の灯火が消える直前。純粋な剣技のみで、現在から過去を斬るという不条理の極みが【獣】の首を斬り落とした。

 

 

 次に命を失ったのは人王の妃、かつての騎士団長。

 友である不死鳥の支援能力と、握る試作型魔剣『転生剣トクサノカムダカラ』の死者蘇生の力により、本来誰よりも冷静であるべき人物だった。それが、長年連れ添った夫を子供が遊ぶような加減で引き千切られ、バラバラにされ、あまつさえゲラゲラと嗤われて、感情が理性を振り切った。

 結果、敢行したのは無謀な特攻。【獣】が持つほぼ全ての翼を破壊し尽くし、腕を1本斬り飛ばして、そこで彼女の魔剣も過負荷によって砕け散った。アルディート同様に、2000時間を越える限界駆動に耐え切れず、最後の役割を果たして魔剣の加護は消え失せた。

 

『ああ……あの忍者の娘の、言う通りでしたね。せめて最後に、アナタに……』

 

 末期の言葉は、怒り狂う【獣】の顎門に閉ざされた。

 斯くして、儚く保たれていた戦いの均衡は崩れ去る。

 

 

 その次は、(玉兎)の番だった。

 分析は出来ていた。あの終末の獣に付けられた傷は、通常の手段では治癒しない。積み重なった奴への呪いが『殺したのだから死ね』と対象が不死であれ不滅であれ、あらゆるものを概念的に『死者』にする力に変じているのだ。

 だからこそ(玉兎)は、死者蘇生という蘇りが失われた時点で自らの生存を諦めた。吹き飛んだ頭、千切れ飛んだ腕、このまま緩やかな死を待つのみなら、最後に一矢報いよう。

 

『擬似神格、再燃……禁呪、並列起動……とっておきだ。地獄の果てまでぶっ飛びなァッ!!』

 

 刹那、吹き荒れる呪詛の嵐。『神智剣プロメテウス』、自信を神の座へと一時的に押し上げる剣を使い尽くし、私は限界を超えて【獣】を呪い尽くした筈だった。腐り落としながら、再生という概念を封印する。二度と手足が、首が、翼が治らないように。ついでと欲張り腕を丸々1本腐汁に塗れた肉塊へと変貌させ、反撃で上下半身を別たれる。

 

 反動で意識を失う直前、死神の大鎌が、颶風の剣が、邪神の触手がそれぞれ1本ずつ【獣】の首を刈り飛ばしたのが見えた。

 

『作戦変更! プランB!』

 

 そして、指揮官であったイオリがそう叫んだ。総力戦の果てに勝利を狙うプランAではなく、次世代に繋ぐ為のプランBへ。自分たちの生存は諦める、カミカゼ式の作戦へと。

 

 

 そうして、最早"勝利"の2文字を得ることは叶わなく成った今へと至る。

 

「…………」

 

 走馬灯に飛んでいた意識を取り戻した(玉兎)は、声も出せず最後に残った4人を見上げていた。

 

 こちらの被害に対して、【獣】の被害は軽微だった。6爪は全てを砕き、6足の内4本を切断し、6翼の内5翼を損壊させたが、10の冠角を持つ7つの首は4本が健在。その生命活動には、些かの翳りも見えていない。

 

『……たった、たった2年。それだけしか、███と戦うことはできなかったけど。それでも僕は、幸せだったよ』

 

 そして、また1人。

 最後の真なる勇者が命を落とした。魔剣、聖鎧、かつての聖剣という3重の加護があってなお増えていく傷。血を失い過ぎたことにより朦朧とする意識の中、████████で動けない幼銀の死神に【獣】の凶手が迫る。ならば死に向かうだけのこの身、遠き青春時代に恋をした女性と守るべき世界に捧げよう。

 

『負けるなよ、蒼矢』

『タク──ッ!!』

 

 命の残りを燃やし尽くして、勇者は光の中に掻き消えた。

 ████████の完成まで、あと60秒。既に戦場は崩壊している。死神の鎌は届かず、翡翠の颶風は蹴散らされ、白痴の端末は無茶の代償に崩壊寸前。引き裂かれた次元の穴からは数定京単位の悪魔が噴出し、【獣】に与えた傷も時間がきっと癒すだろう。

 趨勢は完全に決した。

 この世界は、【悪魔】に敗北した。

 

『……ん、やっぱり足りないか』

『ティア!? 何をする気、駄目!』

『ごめんね、マスター。欠片は残すけど、私はここでお別れ』

 

 だがそれでも、まだだ、まだ終わってないと死神が吼える。それは全体から見れば、負け犬の遠吠えに他ならないだろう。だというのに、【獣】は油断も慢心もなく抹殺に掛かる。己を殺し得る唯一の存在を抹殺せんと、残った4つの顎門に輝きを収束させ──

 

『──バイバイ、マスター』

 

 そんな言葉を最後に、瀕死の白痴の端末が己が胸に刃を突き立てた。

 刹那、世界を破壊しながら出現する"本体"の一部。極彩色に色を変えながら泡立つ無限の泡が███と███を取り囲むように出現し、【獣】の輝きを受け止める。

 

『あ、あぁ、ああぁぁ、アアアアァァアッッ!!』

 

 半身の死に叫びながら、冴え切った頭脳が術式を完成させる。それはこの状況を覆し得る最後の切札、世界を███す██が██する。

 世界が█████に包まれていく中、(玉兎)の心に残るのはたった1つの心残り。最初で最後の弟子が記憶に浮かんで────────

 

 

 

 

 

 

 

 私 

 

 に 

 

 触 

 

 れ 

 

 る 

 

 な 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ィッ──!?」

 

 ぶちりと神経を引き千切られるような激痛が走り、私たちは現実へと帰還した。視界に映るのは最果ての島ではなく、変わり果てた現代の獣王国。

 同時、強制的に切断される禁呪の経路(パス)。アインの展開していた術式防御をズタズタに引き裂いて、禁呪を破壊せんと玉兎の魔力が禁呪を犯し破壊完了。それどころか、不死身に任せて私の攻性防壁まで7割方侵食を完了している。

 

「ヒトの過去を、好き勝手に踏み荒らしやがって……報いを受けなァッ!」

 

 このまま許したら、まず間違いなく死ぬであろう呪詛返しにして意趣返し。魔法のハッキングを介した術者の破壊に対して、私は躊躇うことなく接続の起点である左腕に向け魔剣を走らせる。

 引き抜いたエターナルを右手で握り、肘の関節を通して一息に。元々、どうせ二度と使い物にならない傷だった。そう心の中で割り切って、命と同じくらい大切だった()()()()()()()()()()()

 

「お断りですよッ!!」

 

 くるりくるりと左腕が空を舞い、走る激痛に意識が飛びそうになる。まさか私がこんなことをするとは思っていなかったのだろう、玉兎の顔に驚愕が張り付いていた。

 だがこれで玉兎は、私に干渉する為の起点を失った。私たちを繋ぐ経路は失われ、これ以上継続してハッキングは行えない。死の危機は脱したと言って問題ないだろう。

 だけど、当然この程度で終わるつもりはない。

 私の片腕は、私の命1つ程度で釣り合うほど安くないのだから。

 

「真名、看破──」

 

 正直ここまで、私の玉兎と争うモチベーションは極めて低かった。寝ている間に幻に呑まれ、起きてからは禁呪に対抗してきたがそれはそれ。仕事の邪魔をされたのは不快だけど、目の前にいれば助けるとはいえ獣人界は割とどうでもいいし、魔界は気になるが実情が見えず、八岐の時ほど直球の殺意は感じない。

 

 だが、事情が変わった。

 

 私の片腕の価値を取り立てるという理由もあるが、それ以上に。あんな過去を見せつけられて、何も感じるなというのが無理な話だ。だというのにケラケラと面白くもないのに道化のように笑い、振る舞い、散々リィンやミーニャ女王、私とアインのことを振り回しておいて……その実、玉兎はその目に何も写していない。

 まるで『主人公の活躍を隣で見せつけられる脇役』に貶められているような感覚。この場にいる全員を()()()()()()()()()ことは許せない。

 

「七英雄、医神クラネル・レイカー!

 私たちを、見ろッ!!」

 

 遺失魔法《幻想世界(ファンタズマ)》。類例の通りであれば何か1つ異界法則(玉兎のルール)で世界を塗り潰す魔法。

 玉兎の記憶を通じて見た、ママの展開した世界、パパの展開した世界、勇者の展開した世界、それらを束ねたお義母さんの宇宙と、悪魔の王が展開した宇宙。それら全てを見て、この魔法の本質を理解した。否、()()()()()()()()()()()を強制的に理解させられた結果、全てを知ってしまった。

 

第3封印限定解除(シールパージ・リミテッド3)──悲嘆の叫びで夢幻を砕け、エターナル!」

 

 だからこそ、認めない。魔法が行き着く果てが()()()()()であって堪るかと赫怒を込めて、撃ち放つのは神速の抜き打ち。聖剣として起動しているエターナルの左刃の封印を解除、私の命を喰らう刃を解き放った。

 機械仕掛けの鞘から底冷えのするような気配とともに姿を見せるは、ぬるりと光を反射する水底の様に昏くて青い呪いの刃金。打ち震えるような歓喜ともに私の命を吸うそんな魔刃を、私と玉兎の間にある空間に向け一閃する。

 

「──崩れ去れ、砂上の楼閣よ!!」

 

 残心を残し、悲嘆の左刃を納刀し再封印。

 ……幻想はいつか儚く崩れ去るもの。私の刻んだ青褪めた光を放つ斬線から、"世界"というテクスチャが死滅していく。斬線から罅割れへ、罅割れから断絶へ、銀色の灰を撒き散らしガラスが割れるように風景が壊れていく。

 

「ッ、つぅ……」

「アヤメ!」

 

 だが、痛みと出血を我慢できたのはそこまで。自分が起こした結果を見届けるより先に、私はアインに抱き止められた。かつて獣人界で使った時と比べて、出力は1/10がいいところ。なのにかなり命を持っていかれたが……これで、道は拓いた。

 

「私はいいですから、玉兎をッ!」

「「言われなくてもッ」」

「認識した!!」

 

 傷口を炎で焼きながら叫んだ声に、3人の言葉と行動が返ってきた。力技も力技で《幻想世界(ファンタズマ)》を破られ反動で苦しむ玉兎に、アインの放つ6発の不死殺しが直撃。その現実を書き換えようとする玉兎の禁呪を、全く同一の禁呪でリィンが相殺。そして──

 

「さらば、かつての英雄。我が国の誇りよ」

 

 獣の王が(きば)が玉兎を微塵に斬り刻み、壊れかけていた幻想世界ごとトドメを差した。

 分断された玉兎の切断面から、結晶ではなく血糊が噴出する。幻想を砕き、夢を晴らし、不死身を砕いた。なればこそ撒き散らされるその命の雫は、真実討滅という結果に繋がっている。

 もし叶うのならば、あの過去について話を聞きたかった。そう思いつつアインに身を任せ、激痛に意識を飛ばしそうになった──その瞬間だった。

 

 

 

──いいや、嫌だ。認めない。

 こんな結末は許されない

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 同時に聖剣から溢れ出た埒外の魔力が、玉兎の身体を構成するクリフォト結晶に共鳴する。それにより流出する、限りなく停止に近い停滞の縛鎖。八岐の時と同じ、抵抗出来ない世界の停止。

 だけど、玉兎は既に聖剣を起動している。それは間違いない、それにどうして全ての障害を突破したのに動けて……否、それ以前になんで口も喉も、身体自体が存在していないのに声を出せる!?

 

 停止した時間の中で、止まらない思考だけが空転する中、あり得ない光景が目の前で始まった。

 

 全てが、巻き戻っていく。

 玉兎から噴出した血液が、ミーニャ女王の剣が、現実改変の悪夢が、不死殺しの弾丸が、逆回しの映像のように巻き戻っていく。全てがあるべき場所へ、否、あったはずの場所へと回帰する。

 

「聖剣、執刀──」

 

 最終セーフティ解除

 リクエスト承認ーー機動衛星砲モチヅキ起動

 地上からの座標入力を確認

 目標:獣王国シヤルフ・王城

 当該区域への砲撃準備

 

「は……?」

 

 巻き戻った時間が再生した、千切れかけの玉兎と繋がる禁呪の経路(パス)から。

 

 異様な、音が聞こえた。

 

 全てが巻き戻った世界で、時間の停止が解除されたが……まずい。マズイマズイマズイマズイ!

 

「アイン、月は! 月は出て、何処にありますか!?」

「月、かと疑問する?」

「何処にあるか聞いてるんです!」

 

 叫びながら術式の構築──私じゃ駄目だ間に合わない。

 リィンに聖剣──詠唱が間に合わない。

 精霊術、秘呪、脳裏をよぎる考えは全てが遅すぎる。

 

 そうしている内に、アインが空を指さした。確認の為に向けた視線の先、天を覆うクリフォトの枝葉の先。そこには──異様に輝く歪んだ満月(モチヅキ)が在る。

 

「みんな私の後ろにッ!!」

 

 魔剣・全装填(フル・ローディング)。Ⅰ型魔剣ディフェンダーを、私が持ち得る唯一の盾を核として、極限まで強化しながら展開。きっとこれじゃ、まるで足りない。そう理解しながらも、今の私に打てる手はこれしかなかった。

 

 対星殲滅兵装起動

 エネルギーチャージ開始

 砲撃まで3秒

 

「ッ、認識した!」

「冗談であろう!?」

 

 私の展開した防壁の向きから、アインとリィンが全てを理解した。

 そしてそれぞれ、私では間に合わない魔法の防壁を次々に展開させていく。

 

 砲撃まで2秒

 

 ミーニャ女王も間一髪私たちの背後に着地。ライオンハートを手繰り精霊術による防壁を展開し──

 

 砲撃まで1秒

 

「もってけ寿命1週間! 第3封印限定解除(シールパージ・リミテッド3)!」

──月焔咆哮、降り注げ契約の星屑(ミスラトロン・スターダスト)

 

 屹立する無数の次元断層

 歪曲した空間による障壁

 精霊の描き出した虹の壁

 魔剣と聖剣による防御陣

 

 そんな小難しい理屈を吹き飛ばし、宇宙(ソラ)から極大の光輝が降り注いだ。




アヤメ 残り72日
アイン 残り86日

投影されている思いは『愛する者の手で死にたい』
適応されたルールは『愛する者の身内相手以外に殺された際に時間を巻き戻す回帰』

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《神境偏在 モチヅキ》
 天空に座す月そのものを改造した物が魔剣としての本体。子機として携帯する為に、医療用具の形で作られた物が複数ある。それらを纏めて1つの魔剣である。
 慈愛に溢れ、色欲にも正直で、何より優秀だった医者は、絶えなく続く戦争に斃れた。不死を得てもなお止まらぬ戦は、心を壊すに十分だった。
 所有者 : 墜星・玉兎
  真名 : クラネル・レイカー

【能力】
 基準値 : C 限界値 : B
 照準 : C 範囲 : EX 操作 : EX
 維持 : EX 強度 : A
【詠唱】
 刃金を穢せ、我が絶望──無明の過去(きのう)へ閉ざすため
 晶樹接続・還元解除
 生死の境は取り払われた、精霊の導き、医の智慧は死に絶えて、月の兎は地に堕ちる
 この身を捧げた2つの献身、生と精が描く二重螺旋。無限を目指した命の煌めき、積み上げ下りし夢の階段(きざはし)、果てなき旅路のその果てに、悪意の結末が舞い降りる。
 やめてくれやめてくれ、どうして私は間に合わない、潰える命を救えない
 預けられた背中は遠く、伸ばした片手が空を切る
 此くして、癒の星は地に堕ちる
 劔の誓約(ちかい)を今此処に
 契約はここに交わされた、太陽の戦車に乗り、我は再び月へと登る
 薔薇の色香に醜く微睡め、汚れた欲を解放しろ、千耳万目の名の下に、慈愛を以て受け入れよう
 月は全てを照覧す、全ては幸福な夢の彼方へ。深き眠りの扉を超えて、世界へ広がれ幻夢境
 青褪めた死人の獣よ、終わる世界の夢に果てるがいい
 ー神命奉還(フェイルオーバー)
 天地失墜(Fallendown)──
 天から見定めよ月の兎、(Mochitsuki Jugoya)汝は英雄に足り得るや(Dream Land)
【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇600%
 ・生物特効500%
 ・悪魔特効1000%
 ②限界駆動
 ・地表全土を範囲とした、当人にとって理想世界を夢見続ける超広範囲幻術
 ・世界に術をかけることによる現実改変
 ・月衛星砲からの超高出力エネルギー投射
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