銀灰の神楽   作:銀鈴

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最後の転生者

 宇宙(ソラ)から降り注いだ極大の光輝。

 それは担い手である玉兎と、その通信を傍受したアヤメが耳にした通り【対星殲滅兵装】という名が付けられた超兵器。

 悪魔という多次元からの侵略に対し、███が星の海からの侵略者に対抗すべく生み出した聖なる剣。遥か遠い夢の彼方で見た、空想の根や別宇宙の神々、絶滅の彗星を穿つ剣。

 

 聖剣【神境偏在 モチヅキ】とは──星空を焼き、天体を滅する星の聖剣だ。

 

 今は本来想定された運用からは外れ、地表を埋め尽くす悪魔に矛先が向いているが、その威力は絶大。

 地表から約30万キロメートルという、次元を裂けても、世界を震わせても届かない、宇宙空間という魔力も空気もない死の世界で断絶された絶望の距離。神のような例外的存在の力があろうと、辿り着くことが精一杯な夢の世界(ドリームランド)から一方的に降り注ぐ、時空間を捻じ曲げタイムラグなく直撃する神罰の星屑。光の柱。

 

 そんなもの、生身の人間が立ち向かえる類の脅威じゃない。

 

 だというのにその光が、たった4人の人類種に向けて放たれた。

 

 ならばその結果は、押して知るべしというものだろう。

 

「星辰は未だ揃わず、だが封印は既にねぇ。夜空から星が降った以上、破滅の時はすぐそこだ──なんてな」

 

 天空を覆うクリフォトの枝に空いた新円の穴から、欠けぬ満月(モチヅキ)が大地に光を落とす。太陽の光を反射した星光が、太陽の消えた灰の世界を照らしていく。

 

「まあ、手前らにゃもう聞こえてねぇか」

 

 はらりはらりと雪のように銀の灰が舞う中で、月光を背負う無傷の玉兎が眼前の惨状を見て呟いた。

 

 衛星砲の圧倒的な破壊力に破砕された王都の守護結界。

 同様に撃ち抜かれた黒泥から王城を守っていた結界。

 それらを貫通してなお勢い衰えぬ砲撃を受け融解した城壁。

 聖剣アインによるエネルギーベクトル操作を質量で押し切り。

 アヤメ達が展開していた防壁に守られた部分を残し、赤熱し溶け落ちながら泡立つ地面だった場所。

 死屍累々

 現状を示す表現において、これ以上相応しい言葉はないだろう。

 

 誰よりも前に出ていたリィンは力の象徴である龍化が解け、魔王然とした姿から本来の少女の姿へ戻っている。真魔剣ディーアボロスもその手から離れており、加護が途絶えたことで反動により意識は既にない。

 誰よりも早く砲撃に気付き防壁を展開したアヤメは、多量の失血と魔剣の封印を外した反動により行動不能。最後にアヤメを庇い意識を失ったアインに覆い被さられ動けずにいる。

 最後方に居たミーニャ女王も大小様々な傷を負い、身の丈程もある罅割れた巨剣を支えに意識を飛ばしていた。魔力を直接ぶん殴る……今の獣王にのみ許される物理を棄却した暴挙で、最後の最後に直撃だけは防いでいた。

 

 たが、それだけだ。

 少女達は奮戦虚しく全滅した。

 新しき魔の王も、銀灰の巫女も、最後の光も、覚醒した獣の王も、等しく月光が焼き尽くした。

 汝ら、未だ英雄に足らず。玉兎の予想通りに裁定は下される。酷な運命(さだめ)だとは思うが、過去の自分たちよりまだ数段弱い。それでは駄目なのだ、封印が外れた後に滅びしか残らなくなってしまう。

 

「さ、て。アレを撃っちまった以上、私ももう長くねぇ。つー訳で、とっとと本懐を遂げたいんだが……」

 

 はぁ、と玉兎が大きく溜息を吐いた直後だった。

 

「ようやく見つけたぞ、墜星・玉兎」

 

 世界に青白い絶滅光が差し込んだ。溶け落ちた大地を覆い、静まり返った空に溢れ、絵のレイヤーを切り替えるように世界のテクスチャを剥がしていく。アヤメが命を削って通した無理が、魔剣と本人の基本性能だけで斬り滅ぼされていく。

 

「手前が残ってんだよなぁ、獣人界最強」

 

 そうして現れたのは、絶滅剣ティタノマキアを握るアヒム・ロイス・ケラウノス。

 そうして顕わになったのは、覆い被さるような巨大な木々に囲まれ光の落ちない暗い森。

 無貌の混沌が有する神の土地と、人の叡智が粋たる絶滅の聖域が、お互いを喰らい合い侵食し合いながら拮抗する。何せ絶滅剣の形成する光の聖域は、本質的には《幻想世界》と何ら変わりない。魔法の才が絶望的な獣人が使えるように、チューニングされた再現技術なのだから。

 

「だが、残念だったなぁ最強。手前が遅いお陰で、主君も何もかもこの通りだ! 裁きの雷(ケラウノス)は、裁かれる相手がいなきゃ動けねぇもんな。手を叩いて(いわ)ってやる」

「ああ、我ながら慚愧の念に耐えない話だ。俺にはその分、涙と思いを背負うことしか出来そうにない」

 

 空間を軋ませながら衝突する、玉兎の願う『回帰』の祈りと、アヒムの振るう『絶滅』の誓い。

 片方は紛い物だが、複数の《幻想世界》が衝突した場合には相剋が起きる。『全員で生きたい』という祈りと『全員で死にたい』という祈りがどうあっても共存できないように、双方が双方を己の念に染め上げようと殺し合う。邪道で切り込み、正攻法で対抗し、絶滅が回帰を侵略する。

 

「しかし、獣人族の非魔法親和性種の精霊使いってのは大変だよなぁ? 相棒がいなけりゃ、知っていても私らの居場所すら見つけられねぇ」

「否定はせん。精霊を介さねば蜜穴熊(ラーテル)種である俺に魔法は使えず、あの戦争で傷を負った我が精霊は未だ眠りについたままだ」

 

 自身の領域が広ければ広いほど、当然己の法則を適応させ易くなる。

 逆に己の領域が狭ければ狭いほど、法則は弱まり適応させ辛くなる。

 だからこそ始まるのが、謂わば領域の陣取り合戦。かつての戦争時にはありふれた、しかし無限を内包する宇宙なき現在(いま)お互いを潰すしかない異界の領土争い。

 

「前に遊んでやった時よかマシだが、そんなザマで何が出来る?」

「貴様を斬る。墜星・玉兎……いや、クラネル・レイカー」

「チッ、認識阻害が剥がれてりゃあバレるか」

 

 ゆらりと青白い光に染まった絶滅の魔剣が鎌首をもたげ、星光を導く回帰の聖剣が頼りなくその光を反射する。一触即発、膨れ上がる闘志に呼応して2つの世界の境界がスパークし──

 

「撃ち貫け──」

「──星爆(ハイドロ・バースト)

 

 何より早く絶光が、青白い極大斬撃が薙ぎ払われた。

 玉兎が衛星砲を放つ直前、意識の移り変わる僅かな間隙を貫いて。絶滅光が進路上の尽くを焼き尽くす。回避の遅れた玉兎の腕も、大地も、大気も、王城を守壁も、その先にある黒泥すらも区別なく。生ある者を絶滅させる輝きが一閃。

 かつてアヤメ達へ向けて放ったものとは桁が違う、正真正銘死の一撃。()()()()()()()()玉兎の腕を無感動に一瞥し、返す刀で玉兎をそのまま斬滅せんと青褪めた光が収束する。

 

「──け、モチヅキィ!」

 

 が、しかし玉兎は止まらない。消し飛ばされ"絶滅した"腕が再生せずとも、墜星と化してから久しく感じなかった痛みが思考を焼き尽くそうとも。頭が沸騰するような激痛の嵐さえ平気で抑え込み、痛みに顔を歪めながらも星の聖剣を瞬かせる。最初から全力全開。最大の障害を排除すべく、最速で極大の光輝が地上へと放たれた。

 

「エネルギー、縮退」

 

 距離によるタイムラグなく直撃する月の煌めき。それに対し、玉兎への斬撃を中止してアヒムが腰貯めに魔剣を構える。同時、キュィンと感高い音が鳴り渡り絶滅剣の輝きが増していく。

 

「手前は邪魔だ! とっととくたばりやがれ、最強!」

 

 だがしかし、出力という前提は変わらない。いかな出力特化の試作型魔剣とはいえ、聖剣の最大出力には及ばない。

 

「いいや、否だ過去の英雄! 勝つのが己でなくなろうと、後進が拓いた道は途絶えさせん」

 

 だからこそ平然と、アヒムが魔剣のリミッターを解除する。炉心融解(Meltdown)には届かせずも、魔剣の担い手を保護する力を排除。魔剣の生み出す毒素を蜜穴熊(ラーテル)特有の毒耐性で受けつつ、更に魔剣の出力を平気で上昇。更に更に放出されるエネルギーを収束し──

 

「滅ぼせ──原始星光(デュートリオン)!」

 

 刹那、ただの余波で絶滅する回帰の祈り。絶死の聖域に染め上げられた大地から天へと昇った裁きの雷が、宇宙から落ちる光輝の柱を迎え撃つ。何するものぞ、星の聖剣。あろうことかたった1人、たった一振りの魔剣に、光の柱は両断された。

 

「ぐ、がァッ……」

 

 そして当然、影響はそれだけに留まらない。

 依然満月(モチヅキ)は無傷のまま。しかし玉兎の全身から絶光がひび割れるように発生する。自分の世界を塗り潰された反動に、相手の世界に内部が侵される。とりわけ今回玉兎を汚染したのは絶滅神話(ティタノマキア)、別の世界で不死身の神が毒に侵され死を選んだ逸話の残る神話体系。相性は問答無用で最悪だ。

 

「……やはり、今の俺ではこの程度か」

 

 同様に、アヒム自身にも無茶の代償が訪れる。

 チャージしていたエネルギーを使い切り、絶滅剣は輝きを失った。あと数分は確実に同じような砲撃は放てない。更に外したリミッターによる致死の毒も身体を蝕んでいる。死ぬことは決してないが、精霊の加護薄き今これ以上は動けない。

 

「だが、かつての雪辱は果たさせてもらった」

「たかだか腕1本程度で、今更──!」

「いいや、これで良い。貴様の策略に乗るとは忸怩たる思いだが、貴様がクラネル・レイカーであるならば話は変わる」

 

 今にも飛びかからんとする玉兎に対し、大剣を地面に突き刺しアヒムが首を横に振る。あくまで自分は主役ではなく、王に仕える剣でしかない。故にこの瞬間出来ることは、裁きの雷の役割は既に戦場から消えたと瞑目する。

 

「貴様と奴の関係は知っている。戦友(とも)の晴れ舞台だ、以降俺は手を出さん。このひと時は女王の剣たる裁きの雷(ケラウノス)ではなく、ただの友人として道行を照らす光となろう」

 

 言って、高密度の魔力の波動が世界に満ちた。アヒムの精霊及び使える魔法の属性は光。普段は主に移動や補助的に使うが、この属性の本質は癒しと浄化だ。なればこそ、単純な回復魔法が使えないなどと言うことはなく──

 

「もう、十分休んだ筈だ。そろそろ目を覚ませ、戦友」

「はは……そうまで言われなら、起きない訳には、いかない……よ、ね!」

 

 戦友の声に応え、戦場の一角が爆発した。

 それはミーニャ女王と精霊の手により、崩れ落ちた瓦礫に偽装して作られていた簡易安置所。それを内側から破壊して、2人の人影が現れる。

 

「そう、ですよ、リュート君。折角の舞台に遅刻なんて、怒られます」

 

 傷こそ塞がってはいるものの、その姿は変わらず致命傷のソレだ。リュートは黄金鎧の残骸を乾いた血の色に染め、乱雑に撫でつけられた髪は白髪を鉄錆色に染めている。レーナも同様、取り敢えず傷は塞がった程度の回復状態に過ぎない。

 

 それでも尚立ち上がるのは、友の声に応えるため。師匠との約束を果たすため。恩人との約束を果たすため……嗚呼、数えれば幾らでもある、背負い重ねた絆と想いの為に。

 

「約束を果たします」

「貴女を殺しに来ました」

 

 主役は遅れてやってくる。

 暁の果てに導かれるように、止まっていた歯車が軋みをあげて動き出した。

 

 

 

 全てを、見ていた。

 全てが、見えていた。

 血を失い朦朧とする意識の中。降り積もる銀灰に埋もれながら、私は、私だけがその全てを見ていた。防ぐことが出来なかった満月(モチヅキ)に照らされて。焦る玉兎も、あっさりと最強が全てを上回る光景も。私達全員を回復させた回復魔法も。"死"を覚悟した目で立ち上がった、リュートさんとレーナさんの姿も。何もかも。

 

「ぅ……ぁっ──」

 

 なのに、身体が動かなかった。寒い。寒くてたまらない。指先は凍えるようで、無くなった筈の両脚と左手まで痛い。造血剤も飲んだ、聖剣も起動している。なのに、力が入らない。

 

 私はまた、見ていることしかできない。

 

「覚えてますか? 師匠。随分と昔の約束ですが……最後に死合う前に、一杯お酒に付き合ってくれるって」

「ああ、大切な弟子との約束だ。忘れるわきゃねぇ」

「良かった……レーナ、お願い」

「受け取って下さい」

 

 玉兎の言葉に安心したように微笑んで、リュートさんが黄金の波紋から傷だらけのスキットルを3つ取り出した。そしてその内の1つを、隻腕の自分に代わってレーナさんに玉兎へと投げさせる。

 

「コイツは?」

「僕があの人たちと……イオリさん達と異世界旅行をしていた時に見つけた、秘蔵のお酒です。本当はうちの子とアヤメちゃんそれぞれの祝い事の時に、祝杯として飲むつもりだったんですが……」

「私たちの終着駅は、此処だものね。師匠との最後の思い出に」

 

 此処で、終わり……?

 聞きたくない言葉に、一瞬思考がフリーズする。

 

「「「乾杯」」」」

「もう、作られた世界も悪魔に滅ぼされた……多分、この世に現存する最後の一杯です」

「原材料が神って呼ばれたドラゴンの生き血なんですよ?」

 

 まるでこれから殺し合うなんて雰囲気を全く感じない、和やかな談笑。静まり返った絶死の聖域に、キュポンと栓を外す音が響いた。瞬間、周囲に満ちる濃厚な酒精と血の香り。こんな状況だというのに、美味しそうという感情で思考を塗り潰すそれを、三者三様に一息で飲み干して。

 

「……最後に飲むには完璧で、勿体ない酒だった。美味すぎる」

 

 それぞれが、スキットルを投げ捨てた。カランカランと金属音が響き、再び戦場に静寂が訪れる。そして漸くこのタイミングで、私に覆い被さるアインが、気絶していたリィンが、ミーニャ女王が身じろぎをした。

 お酒に回復の力でもあったのか、意識を取り戻そうとしている。だけど遅い、余りにも。もうあの3人の間に割り込めるタイミングは無く、どうしようもなく終わり向かって完成していた。

 

「さて、どうやら全員目を覚ましたようですし……始めますか、師匠」

「アイツらに、何か言葉は残さなくていいのか?」

「ええ。最後の言葉なんて、聞こえはいいですが人を縛る呪いにしかなりません」

 

 ただ、と一拍置いて。

 

「ありがとう、戦友(アヒム)。そして、後は任せた」

「ミーニャ女王を、この世界をよろしくするわ」

「……ああ、任されよう」

 

 私たちには何も言わずに、リュートさんは玉兎へ向き直る。その瞬間、空気が変わった。戦場でもなく、聖域でもなく、呪いでもなく、言うなれば──決戦のような、終局の気配に。

 

「かつての戦争で、僕は片腕を失った。だけど本当は、失ったものはそれだけじゃない」

 

 リュートさんの無くなった片腕に寄り添うように、レーナさんが並び立つ。

 

「僕はあの時、レーナのことも失っている」

 

 風が、逆巻いた。

 

「致命傷を負った私がこれまで生きてこられたのは、私達の剣のお陰。失った身体の大部分を、あの魔剣の神秘で補っていたから」

 

 桁違いの魔力の嵐が吹き荒れる。

 

「それを今、返すわリュート君。私を、使って」

「ありがとう。そしてさよなら、レーナ」

 

 深くキスを交わして、残された片腕でリュートさんがレーナさんの胸に腕を突き込んだ。血は流れない。しかしビクンと大きく痙攣した身体に、致命的な何かが起きたことを察する。

 刹那、周囲の空間に騒めくような振動が広がっていく。それはまるで世界が悲鳴をあげているようで、やめてくれとの懇願のようだった。

 

「真名、凍結解除。開け我が蔵、宝物殿──!」

 

 レーナさんの胸元に出現した黄金の波紋。そこから引き抜かれたのは、異様な剣とも呼べないような代物だった。

 長さは一般的な長剣程度の、蒼銀に明滅する文様を備えた三つの円筒が連なる、穂先のないランスのような形状の物体。石臼が回るようにそれぞれが違う方向に回転するソレは、間違いなくこの世にあってはならない力だと直感的に理解した。

 同時、レーナさんの姿が結晶となって砕け散り、致命的にリュートさんの存在がズレた。そこにいるのは間違いなく、私の育ての親その人である筈なのに……今はまるで、異世界人か異星人のよう。

 

「漸く抜いたな、手前の魔剣を!

 【運命開闢 ロストフェイト】を!」

「もう10年振りになりますかね、この剣を握るのも。──そして、これが最後になる」

 

 その言葉と共に、回転を早めていく異質な魔剣。言葉にすればただそれたけだが、魔力が見える目を得たせいでその異常さが嫌という程見てとれた。八岐の斬撃が何百も重なったかのように、刀身の周りで時間も空間も次元すらも歪んでいる。

 

「僕にはもう、不死を殺す手段はこれしかない。

 貴女と決着をつけるには、これしか残ってない」

 

 玉兎の言葉はない。ただ代わりに月が、爛々と、絢爛に、その輝きを天井知らずに増していく。

 

「──幻想、乖離。

 遠き夢幻の裁定者よ。我が最後の誓約に、正しき結末を」

 

 

 

 この魔剣が完成したのは、数ある試作型魔剣が開発されるよりもずっと前。ティアさんの【占錬回帰カドケウス】と同じ頃だった。あの時はまだ、深刻に捉えている人がいなかった悪魔の侵攻。それに対してあの人が、文字通り魂を捧げて打った最初の魔剣。あの人から受け取った時、忠告された言葉がある。

 

『初めに言っておくよ、リュートさん。この魔剣を3回使った時、リュートさんは死ぬ。初めてで、勝手が分からなくて……あんまりにも、私の世界を込め過ぎた。だからなるべく、使わないで……死なないで』

 

 けれど初めてこの魔剣を使ったのは、英雄戦争の末期。前線から退いていた僕たちが呼び戻される程、終わっている戦場で。僕は初めてこの剣を抜いて──片腕を失った。天も地も埋め尽くす、地獄の顕現にしか見えなかった悪魔の大群勢。それをたった一撃で消滅させた代償に、僕は戦う力を失うことになる。

 

『ごめんね、リュートくん。私、先に行っちゃうみたい……』

 

 次にこの魔剣を使ったのは終戦間際、七英雄が最果ての島に乗り込む決死の作戦。みんなが突入する為の道を切り開くために、最後の1回を使い──僕は、レーナを失った。なんとか魔剣を代替にレーナは取り戻したけれど、生き残ったのは僕らだけ。アヤメちゃんを助けるという約束を果たすために、僕らは今日まで生き恥を晒してきた。

 

 だけどそれも、今日で終わり。

 

 さっき魔剣を握った時に、はっきりと分かった。これを撃てば僕は死ぬ。いや、恐らくもう遅いか。この魔剣の力は、悪魔と停滞が支配するこの世に於いて敗者の力。恐らく後数分、それで身体は耐え切れず寸刻みに崩壊する。とても本来の力なんて出せそうにない。けれど──ああ、それで十分だ。

 

「いざ仰ぎ見よ、これが()()が示す最後の憧憬! 原初の地獄!!」

 

 約束は果たしたよ、イオリさん。貴女の娘は、あんなに強く優しく育ってくれた。

 約束を守れなくてこめん、ジーク。お父さんはやっぱり、過去にしか生きられなかった。

 幸せにすると約束しろ、アイン・ナーハフート。アヤメちゃんを守れるのは、君しかいない。

 そしてありがとう、レーナ。こんな僕なんかに、最後まで付き合ってくれて。

 

 三重の螺旋が世界を回す。世界を壊す。

 満月の聖剣が世界を照らす。世界を壊す。

 

 何も変わらない、終わりの絶景。天と地に分かれた離別の光。此処からが正念場、世界の終わりが始まると知っておきながら、何も口に出来ない自分が口惜しい。

 今更になって、脳裏に無数の思い出と約束がよぎる。きっとこれが走馬灯、末期の時に見る幻覚なのだと理解して──思わず、笑みが溢れた。

 

「だ、め、です……リュート、さん!」

 

 掠れた声で、僕を呼ぶ声がした。

 視線を向けた先にいるのは、アイン君に肩を支えられて立つアヤメちゃんの姿。その背後には、剣を携えたミーニャ女王や魔王の姿もある。ああ、これなら安心だ。きっと、終末(アティエル)を乗り越えられる。だから大丈夫だと高らかに笑おう。いつか憧れた、英雄王の様に。

 

月焔咆哮、降り注げ契約の星屑(ミスラトロン・スターダスト)ォッ!

炉心融解(Meltdown)──創世前夜の世界を拓け、戦乱の剣(エヌマ・エリシュ・ティルフィング)!!」

 

 そして、世界から音が消えた。

 




アヤメ 残り72日
アイン 残り86日

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《運命開闢 ロストフェイト》
 蒼銀に明滅する文様を備えた三つの円筒が連なる、ランスのような形状をしている試作型魔剣。別の世界における、空想の世界で語られた原初の剣を模して造られた。正確には試作型魔剣の試作型のようなもので、詠唱が存在しない。
 所有者 : リュート・カンザキ
 
【能力】
 基準値 : D 限界値 : EX
 照準 : EX 範囲 : A++ 操作 : B
 維持 : A+ 強度 : A++
 
【詠唱】
 ー詠唱なしー
 炉心融解Meltdown──創世前夜の世界を拓け、戦乱の剣エヌマ・エリシュ・ティルフィング
 
【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇800%
 ・魔法強化500%
 ・悪魔特効1000%
 ②限界駆動
 常軌を逸した高出力により無数の次元断層を生み出し、時空間ごとその場にあるものを崩壊させ死滅させる力場を投射する。
 
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