銀灰の神楽   作:銀鈴

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夢現つ【05】

 私怨と欲を優先した者に、当然のように天罰は下った。

 

 本来ならすぐに帰るつもりだったが……摘発の結果、癒着してる貴族の不正を暴くことになり一泊。ついでに不法侵入もバレてしまった。

 身分証と事情を説明してくれたなら開けたのに、と。酷く説教をされるだけで済ませてくれたのは、運が良かったと言うべきか。

 それはきっと私の力ではなく、隣で不機嫌そうにしていたアウルさんの力だったけど。

 

 因みにあの店主は、あれでこの街に唯一の錬金術師だったらしい。

 ただ腕は大したことないのに高値でふっかけてくるし、ここの市長とコネがあるせいで存続できていたとか。

 

 まあ、それはもう過ぎたどうでも良い話。

 

 大切なのは、今、私たちが直面している現実だ。

 

「ここって、間違いなく村があった場所ですよね」

「ああ」

「間違いない、ですよね」

「ああ」

 

 それっきり、言葉を口にするのを忘れたように揃って黙り込む。

 

 なぜならば、かつて村であった場所は()()()()()()()()()()無くなっていたのだから。

 

 私が泊まっていた小屋は蔦が絡みつき苔が生え、原型が辛うじて分かるくらいまで崩壊。他の家も似たような惨状で、酷いところは家一軒そのものが大樹へと変化してしまっている。

 昨日まで居た人の末路も至る所に存在している。見慣れない石像として、見覚えのある服を着た形で。或いは土塊の中に埋まっていたり、逃げ出そうとしたのか恐怖に引き攣った表情のまま、苔むした岩にへばりついていたり。

 今は収まっているようだけど、確実に暴走ないし限界ギリギリのナニカが起きていた。たった1日で、何万年も経過したように村は“終わって"しまっていた。

 

「すみません、アウルさん。私の判断ミスでした」

「そうだな。だが、予測して止めなかった俺も同罪だ」

 

 そういう私たちは、既にお互い装備を整え得物を構えている。

 私は魔剣を片方だけ、アウルさんは弓を。

 案の定壊れたボードはそこら辺の小屋の中に投げ捨てた。そして背中合わせで警戒しながら、この自体の元凶と思われる小屋……アマルさんがいるであろう場所に向けて歩いている。

 

「念のため言っておきますけど、もしもの時はお願いしますね。

 きっと、アマルさんを夢から覚めさせられるのは貴方しかいませんから」

「そっちこそ分かってるんだろうな? もしお前が負ければ、諸共に死ぬことになるぞ」

「当然。私、死ぬなら愛する人の腕の中って決めてるんです」

 

 嘘だが。

 そもそもそういう人とは巡り会えてないし、私が私である限り出逢えようはずもない。

 

「こんなご時世に、大層な願いだな」

「いいじゃないですか、こんなご時世なんですし」

 

 そんなことを話している内に、さっきから聞こえていた草を踏む音が段々と大きくなって来る。

 緑の中、僅かながら確認できたのは黒い色。悪魔の配色とよく似た、けれど違う雰囲気のモノで……少なくとも、敵であることは違いそうにない。

 

「ところで、仕掛けてくるならそろそろですかね?」

「だろうな。戦いは専門外っつってたが、勘は良いじゃないか」

「散々鍛えられましたから、ね!」

 

 言うが早いか、動くが早いか、私は魔剣を構えて地面を蹴った。

 同時、生い茂った草の中から黒くて大きな何かが飛び出して来る。

 

 獣の身体。長い尾。裂けた巨大な口。知っている姿より1回りは小さな身体。

 酷似しているのは《ビースト級》の悪魔に。けれど反射的に行った鑑定には『魔剣の眷属』と出た以上、完全にそれは完全に別の生命体だ。

 まるで話に聞いただけの悪魔を、子供が想像して再現したような完成度。

 だが、だとしても。

 この悪魔はどうしてもあの時を想起させる。

 

「死ねぇ!」

 

 揺らいだ心のままエターナルを逆手に持ち、飛びかかって来る偽悪魔に突貫。

 紙一重の位置で躱しながら、真横から頭部を一突き。

 頬から通し、頭を貫通。

 相手の勢いを利用して、そのまま叩き切った。

 

「……っ」

 

 けれど、予想外がここで1つ。

 普段使っていた短剣であれば、多少の引っかかりと腕を持っていかれる感覚があった。その重量差による反動を含め動く予定だったのだが……私の魔剣(エターナルの刃)はまるで温めたナイフでバターを切るように、偽悪魔の身体を切断した。

 

「でも、次!」

 

 だが、仕留めたことには違いない。

 活動を停止した魔剣の眷属は、霞のように空気へ溶け消えていく。

 身構えていた分、僅かに身体が固まるが片足を軸に制動。私の小さな足跡通りに苔と地面を削りつつ、無理やり体制を整える。

 

 制御できない力に舌打ちしつつ、方向を反転させた視界に状況を映す。

 

 劣勢。

 私よりも強者と見たか、弱者と見たか。アウルさんが相手にしている魔剣の眷属は5体。

 しかし流石は手練れの狩人と言ったところか。体捌きで最低限に傷を減らし、着実に矢と氷の魔法と矢で対抗している。が、あれでは焼け石に水である。

 加えて最悪なことに、眷属側はものともしていない……どこまでも、あの時のことを思い出させてくれる!

 

「シッ!」

 

 沸騰したままの思考に身を任せ、エターナルを順手に持ち替え踏み込み。アウルさんの乱戦に介入するように、4体の眷属に狙いを定める。

 剣で単体を相手にしていては間に合わない。しかし魔法を使っても、鉄程度の金属では殺傷するのに硬度が足りない、炎や毒性金属(ヒュドラタイト)じゃ環境を壊してしまう。アダマンタイトは重さ故に初速が遅い。なら──

 

「オリハルコン!」

 

 駆け抜けざまに眷属1体の額を貫きながら、全力の魔法を行使。アウルさんが相手にしていた物を含めた計4体、その足元から黄金の刃を発生させる。

 魔剣の製造にも使われるらしい高級金属の刃、それらは寸分の狂いもなく眷属の胴体を差し貫いた。そして、全てが黒い靄と化して消えていく。

 

「お前、戦闘は専門じゃないつってたよな?」

「ええ、対獣は基本専門外です」

 

 血を払うように刀身に纏わりつく霧を払い、改めて逆手に持ち直す。私の専門は対人だけど、対獣も力押しはまだ通るらしい。

 それに今回は、魔剣による後押しが正にも負にも大きい。

 錆びついた剣の腕も、普段より遥かに高い火力の魔法も、制御を外れた溢れる力も、まだまだ荒削りで錆だらけだ。

 お義母さんを優先して物作りをメインに変えて、戦闘から足を洗ったツケが出てきてしまっている。

 

「とんでもねぇな、Sランクって奴は」

「そうでもないですよ。私は、弱いです。本当に、本当に……」

 

 驚くアウルさんに対し首を横に振る。

 とんでもない、なんてとんでもない。だって私はあの時、守ってもらうだけの小娘に過ぎなかった。それしか出来ず、大切な人を守れず、身を犠牲にさせ殺してしまったのだから。

 

「ああ、そうだ。もし無事に終わったなら、これへし折って売れば結構な額になると思いますよ。純度99%のオリハルコンですから」

 

 沈んだ気分を軽口を叩いて誤魔化した。

 これ以上はあの時の状況を、トラウマを、的確に抉られて心がひどく軋むから。アヤを演じ続けるには、ここら辺が感傷の潮時だ。

 

「そんだけ青い顔をしてるから心配だが、冗談が言えるなら平気そうだな」

「ええ、ご心配ありがとうございます」

 

 言いつつ、飛び出してきた蟷螂型の眷属を斬り捨てる。

 この場にあふれる異形は、案の定あの偽悪魔だけではないらしい。

 

「どうも」

「仕事ですから」

 

 直後、アウルさんが私に向けて矢を射った。

 それをしゃがんで回避すれば、そこに存在するのは頭部を射抜かれた蟷螂型。まだ動く予兆を見せていたので、胴の節に魔剣を通して両断する。

 

「どうも」

「仕事だからな」

 

 この、妙に波長が合うようで合わない感覚。

 自分が色々と偽っている以上、不可避のズレがどうにも噛み合いを悪くしてしまっている。

 でもそれは、今は一旦置いておく。

 仕事だし、やりたいことの最中だし、何より──

 

「それより、早く行きましょうか。このまま止まってると、物量に推し負けます」

「らしいな。昔より、数も強さも増してやがる」

 

 そう言う私たちの視界の先には、数十匹の眷属がたむろしていた。

 偽悪魔同様、黒い霧を纏った鳥、獣、虫、人、名状しがたい何か。

 それら全てが、私たちに敵意を向けて唸り声を上げている。

 

「やれそうか?」

「やるんですよ。数秒、時間稼ぎお願いします」

 

 見つけられるだけで数量の比は1:10以上。

 ここまでの消耗と、これからの消耗を考えた場合……こんなの、まともにやり合っていられない。

 ならば反動があるのは覚悟の上、もう片方のエターナルを引き抜いた。左右双方逆手で構え、心に浮かび上がる詠唱(キーワード)を口にした。

 

「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為」

 

 謳い上げるのは、全能でも無双でもない祝詞。

 ただ前に進み、諦めず道を拓くという宣誓。

 

「運命の車輪は回転した。

 2つの円環に導かれ、最終走者は何を見る?

 移らい、戸惑い、揺らめいて、断崖を越えて飛翔しろ」

 

 魔剣から膨大な魔力が流れ込んでくる。

 体の中を力が駆け巡って、強制的に力を引き出して行く。

 使用者の意思次第で、どこまでも行けるように。そう優しい願いで打たれたことが、痛いほど伝わってくる。

 

「己が信ずる光を掲げ、無明の闇を切り拓け

 見果てぬ未来に吼えるのだ」

 

 次の瞬間には、魔剣の眷属たちが群れをなして襲いかかってきているのが視えた。けれどその動きは非常に遅く、今なら余裕で対応することができた。

 

限界駆動(Over Drive)──突き進め、無限に繋がる廻廊を(リボルビング・エターナル)

 

 エターナルの能力である『収納した魔剣の能力を一部借り受ける』効果が起動。お義母さんの聖剣(シャラソウジュ)に干渉して……何か、完全に弾かれる気配。

 それでも無理やりに干渉して、通常駆動の出力を僅かながら借り受ける。無理な干渉の結果、借り受けられたのは1割程度。

 それでも、この場では十分に過ぎた。

 

「フッ!」

 

 短く息を吐いて地面を蹴る。

 そのまま地面スレスレをスライディングしながら、比較的低い位置にいた獣型に向け右刃を一閃。まるですり抜けたかのように刃が走り、抵抗すら許さず獣型を霧散させた。

 蹴り散らした苔と土が舞う中、全開の魔法で魔法陣を形成。ボードにも使ったベクトルの方向を変える魔法を起動し、身体の向きを変え即座に反転。双刃を走らせる。

 

「まだ!」

 

 斬り払った後にまた魔法を起動、反転、斬撃。

 起動、反転、斬撃。起動反転斬撃斬撃斬撃──

 ピンボールのように跳ね回りながら、両手の刃を走らせ続けること数秒。50を越えていた魔剣の眷属は、全てが霧となって消滅していた。

 

 相手が悪魔でないため、魔剣の能力は十全とは言い難い。

 けれど全能力を3.4倍に跳ね上げるという時点で、もう常人の枠からは頭一つは飛び抜ける。

 それは即ち、魔剣が登場する前の英雄の領域である。

 

「一気に突き抜けます」

「了解だ、援護は任せろ」

 

 ならば、私が先鋒として駆け抜けるしかない。

 目指すは一点。原因であると思われる魔剣、そしてアマルさんの居場所。

 この村は、言ったら悪いけど小さな村だ。

 だから例え私たちが降り立った村の端からでも、本来あの巫女の小屋までは数分あれば辿り着く。けれど、

 

「なるほど、夢を持ち出すってのはこういう事ですか」

「理解してくれて何よりだ。取り上げるしかないだろう、これ以上は」

 

 この森に飲まれた村では、本来あるべき形が狂っていた。

 光を遮るような無数の大樹が、元は人であったのだろう石塊や苔生した何かが、絡み合う蔦が、襲い来る魔剣の眷属が。悉く私たちの邪魔をする。

 

「ぜぇ……はぁ……」

「平気ですか?」

「あぁ……お前に、遅れを取るわけには、いかねぇからな」

「そうですか」

 

 結果として小屋の近辺に辿り着いた時には、突入から1時間近く時間が経ってしまっていた。

 魔剣のお陰で私は未だに疲れは感じていない。だがアウルさんは違う。ここまでの強行軍に消耗しきり、息も絶え絶えと言った様子。

 ……あまりよくない兆候だ。肝心の時に動けなくなる前に、少し休憩を取った方が良いのかもしれない。私自身、魔剣の能力を切らしたが最後、昏倒するレベルで疲労の蓄積はあるだろうし。

 

「どうします? 少し休憩しても私は構いませんが」

「馬鹿言うな、ここで休んでなんていられるか!」

「あ、ちょっと!」

 

 私が止める間もなく、疲れ切った様子のアウルさんは小屋へ向かっていく。

 焦っている、急いでいるのは分かるけど、余りにも迂闊なその行動。

 それを注意しようと手を伸ばし──直後、感じ取った微かな殺気。明らかにアウルさんを狙ったそれに割り込むように、私は全力で踏み込んだ。

 

「伏せて!」

 

 小屋を切り裂いて放たれた燐光の斬撃、それに向け叫びながら飛び込んでいく。

 感じる威圧感は然程でもない。記録されたスペック上でも、ユメウツツよりエターナルの方が大半の能力で上回っている。

 だからきっと、迎撃の可否は私の腕次第。

 さあ技の錆を落とせ。

 やれるかじゃない。やるか、やらないか。

 私の心1つで結果は決まる!

 

「はぁっ!」

 

 順手に魔剣を持ち替える暇はない。

 両方逆手で握っている今、迎撃に片方は利用出来ない。

 ならばと、右刃に全体重を乗せて斬撃した。

 

 キィンと響く、甲高い金属音。

 次に鳴ったのは、パキンという金属音の折れる儚い音。

 ……果たして、勝利したのはエターナルの方だった。無理な割り込みで大きく体制こそ崩されたけど、刃毀れすることなく飛来した斬撃の力は霧散する。

 

「気持ちは分かりますけど、死にたいんですか!?」

 

 誰しも、善く思っている人の死に目には会いたくない。

 酷い目に遭っている光景は見たくない。

 その相手が家族なら尚更だ。

 ……私にだって、その気持ちは痛いほど分かる。

 

 でも、それじゃ意味がないことも思い知った。知らされた。

 身の丈に合わない無茶・無謀は、代償として不幸が跳ね返って来る。それで死んでしまったら元も子もない。だって、一度死んでしまったらもう二度と会えないのだから。

 

「すまない、迂闊だった」

「別に気にしはしませんよ。今言った通り、気持ちは痛いほど分かりますから」

 

 苦々しく思いながらも呟くなか、再度斬線が走った。

 けれど今回は、狙いが私たちではない。狙われたのは、先程斜めに斬りズレた小屋。それを完全に解体する為に、鋭い燐光が駆け抜ける。

 

「ふぁ……ぁ………」

 

 崩れた小屋から現れたのは、昔話で聞く天女のような姿をした人物。

 

 身に纏うのは昨晩見た巫女服に似た純白の衣装。

 右手に握られたユメウツツからは同じ色の薄衣が溢れ、重ね着をしたように淡い燐光が振りまかれている。

 眠たげな表情とは裏腹に、ばら撒かれる魔力の量は膨大。

 当然かのように浮遊し、風もないのにゆらゆらと揺れる服と髪。それが暴力的なまでの魔剣による出力を、嫌というほど表していた。

 

 血のように赤い目は半開きで、意識は淡く希釈済み。

 ユラユラとゆれるアマルさんは、まさに夢現つと言って相違ない。

 ヒトならざる者をその身に降ろした様にも見えるその姿は、危うく、儚く、どこか神々しさを感じさせた。

 

「異変なし、魔力感知よし。事前予想通りです」

 

 けれどその状態は、以前にも観測されて対処されている。

 よって、建てた作戦はそのまま続行。

 そう簡単に片がつくことはないだろうけど、無策で挑むよりは遥かに勝算がある。

 

「おいアマル! 約束通り迎えに来たぞ!」

「お……兄、ちゃ……ん?」

 

 アウルさんの声に反応して、アマルさんの目が開かれた。

 心を揺さぶるなら、最も効果的なのは親しい人の声だ。それに、親しい身内相手になら攻撃も弱まる。

 以前アウルさんがやったらしい作戦の再現でしかないけれど、それで止められた実績があるのだ。ただ動けるだけの私が魔剣を止めるには、その手に乗っからせてもらうしかない。

 

「ああ! お前と一緒に、外に出て行く準備が出来たんだ!

 だから一緒に行こう! 旅に出てみたいって、冒険してみたいって言ってたじゃないか!」

 

 それに、私がありあわせで軸にした願いごと。本気でそれを望んでいるなら、仮にでも同じ願いで旅を始めた者として手を貸さざるを得ない。

 この説得で魔剣を手放してくれれば上々。けれど多分──

 

「ごめん、ね、お兄ちゃん。

 私……村のみんなを、いっぱい、いっぱい、殺しちゃった。

 夢を見たの、みただけなのに、起きたらみんないないのよ」

 

 駄目だろう。そんな私とアウルさんの予想通り、泣きそうな声でアマルさんは否定した。

 分かっていたことだ。たった1日話しただけでも、アマルという女の子が大切に育てられた優しい子だというのは理解できる。それゆえに、きっと抱え込むのだろうことも。

 

「もう私、自分の両手が、血の色にしか見えないの!」

「幻ですよ、そんなの」

 

 声が届くかどうかは分からない。けれど、同性で年の近い者として。

 泣きそうな声でそう言うアマルさんに、思わず否定気味なりながらも言葉をかけた。

 

「貴女自身は何もしてませんよ。魔剣がちょっと暴走しただけです。強いて言えば、運の巡り合わせが悪かっただけです」

 

 あくまでこれ以上、変に刺激はしないように。

 今回の出来事は何も悪くないのだと。善意と不運が魔剣の機能を暴走させた、不慮の事故であると。

 そういうものだと言いくるめにかかる。

 

 尤も。アマルさんと魔剣を巫女として運用した村の体勢は、まあ悪として分類できるだろうが。そんなことを伝えるメリットはないから、特に言うつもりはないけれど。

 

「ごめんね、アヤちゃん。お兄ちゃん」

 

 けれどああ、やっぱりこの程度じゃ説得はできないらしい。

 

「でもこんな血に塗れた手じゃ、お兄ちゃんと旅なんかできない。

 運が悪くても、私が、魔剣で、殺した。ころしたのよ?

 ぬくぬくと寝てる間に、夢を見ただけで、村ひとつを全部」

 

 まるで夢を見るように、(うつつ)から離れるように、アマルさんの目が静かに閉じていく。

 

「なのに、私は魔剣がなくては生きていけない。

 魔剣を持っていると、私はみんなを殺してしまう。

 こんな現実なんていや、もう嫌なのよ。見たくないの……」

 

 空間に満ち始める異様な気配。

 魔剣の眷属が響かせる遠吠えが響き、世界が眠りに落ち始める。

 夢が現に滲み出す。

 

「だから……いっそ、殺して頂戴?」

 

 そんな異質な気配が満ちる中、勝手な願いを口にしたアマルさんの目が閉じられる。

 予想通りのユメウツツといった様子に、やるしかないと気を引き締めて──その口から詠唱が紡がれた。




 《全剣統治 エターナル》
 40cm程の鋒両刃(きっさきもろは)造りで、基部に6つの弾倉があるシリンダーが設置されている一対の短剣。持ち手は黒、刀身とシリンダーは鋼の色。装飾として、ミスリル色の線が3本刀身に描かれている。
 最大の特徴として、他の魔剣を回収して収納することが可能。また、収納した魔剣の力の一部を使うことができる。
 所持者 : アヤメ・キリノ

【能力】
 基準値 : B 限界値 : A+
 照準 : A 範囲 : D 操作 : C
 維持 : A+ 強度 : A+

【詠唱】
 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為
 運命の車輪は回転した
 2つの円環に導かれ、最終走者は何を見る?
 移らい、戸惑い、揺らめいて
 断崖を越えて飛翔しろ
 己が信ずる光を掲げ
 無明の闇を切り拓け
 見果てぬ未来に吼えるのだ
 限界駆動(Over Drive)──突き進め、無限に繋がる廻廊を(リボルビング・エターナル)

【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇150%
 ・生物特効120%
 ・悪魔特効600%

 ②限界駆動
 ・体力の先払い・吸収による活動時間無限化
 ・収納している魔剣の能力を一部解放
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