銀灰の神楽   作:銀鈴

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夢現つ【07】

 その日、私は夢を見た。

 ただただ幸せな2つの夢を。

 

 1つ目は、獣人の親子の夢。

 銀色の小さな男の子と、白い小さな女の子が、華奢な銀狼族の男性と遊んでいる姿が見えた。その側には、鞘に納められたユメウツツも。だからこれは、きっとアウルさんとアマルさんの過去なんだろう。

 みんなが笑顔で、楽しそうに遊んでいる。母親っぽい姿はないけど、それでも平和な陽だまりがそこにはあった。そしてそれが、2度と実現し得ない光景であることも理解できてしまう。

 

 もう1つは、私のママの夢。

 場所は我が家の縁側。4歳くらいの私をママが抱っこして、2人揃ってパパの膝枕で気持ち良さそうに寝ていた。聞こえてくる家事の音は、虹色の髪が見えたからお義母さんがやってるのだろうと分かる。そんな在りし日の、幸せな光景。その近くには、鞘に納められたユメウツツが無造作に置いてあった。

 ただ穏やかで、争いごとの気配が微塵もない日常の風景。きっと、私が1番幸せだった時の光景がそこにはあった。そしてこれは、夢でしか見ることのできないものだとも、嫌という程理解している。

 

 そんな幸せの幻影が遠くなっていく中、私は()()()()()()()()という確信を持って目を覚ました。

 

「なんだったんだろう……最後の」

 

 なにか、見つかったらタダじゃおかれないナニカに目を付けられたような、そんな嫌な感覚だった。その目線の主を探して辺りを見渡してみるけど、自分が寝かされている布団と、ここがどこか部屋の中ということしかわからなかった。後、外は夜であるようだ。

 

「なら、いいの……かな?」

 

 見当たらないし分からない、なら一先ずは先送りにしても良さそうだ。そんなことより、夢の感覚のせいかぐっしょりとかいた寝汗が気持ち悪い。着替えなきゃと目を瞬かせて起き上がったところで、異常に気がついた。

 

 いつも胸からかけていた、変装用の魔導具であるペンダントが無くなっていた。それに伴い、髪の色が変装用の真紅から地毛の緑銀に戻っている。変装が解除されてるなら、きっと目も元の色に戻っているだろう。

 更に掛け布団を捲れば、服装も元の戦闘装束から民族衣装っぽいものに変わっていた。それと、左脚には包帯がぐるぐると巻かれている。

 手当、してくれたんだろうか? 変装が解けた私の、アヤメとしての姿を見たはずなのに。意味が分からない。

 

「うーん……」

 

 とりあえず、悩んでも仕方がないのは確かかな。そう判断して、片方だけエターナルを取り出して気を引き締める。何があってもいいように、このままでも逃げ出せるように。

 気配を殺しながら、ゆっくりと光の漏れる扉へと近づいていく。引き戸となっているそこを慎重に開いて覗くと……バッチリ目が合った。合ってしまった。

 

「ッ」

 

 思わず引き戸を閉じたけど、きっと気づかれた。ということは、もう衛兵呼ばれていて、私を突き出して賞金儲けてうっはうは。きっと金には困らない旅になるだろう。対して私は……なんだろ、火あぶり?

 無論そんなことをされるつもりはない。どんな刑になるのかはすこーしだけ気になるけど、実際に受けるなんてやだし。だから……うん。変装道具が無くなるのは悲しいけど、いっそのこと跳ぶ先の座標を指定しない長距離転移とかを……

 

「起きたなら出てこいよ」

「それは、諦めて首を差し出せってことです?」

 

 アマルさんならどうにか出来るかもしれなかったけど、アウルさんからは逃げられない。詰みとまでは言わないけど、その一歩手前くらいの状況にはなってしまう。

 

「違えよ、何もしやしねぇから顔見せろってだけだ」

「信用出来ないです。だって、私の身柄を突き出したら一生困らないくらいの金が手に入りますよ?」

 

 確か、アヤメにかけられていた賞金はそれくらいまでにはなっていた筈。リュートさんたちがどうにかしてくれてるかもしれないけど、貴族や王族であろうと民意は変えられないのは分かってる。だからきっと、(アヤメ)は結局(犯罪者)以外の何者にもなってないだろう。

 

「なんでそうなる。ギルド所属の冒険者を突き出したところで、特に意味もないだろう」

「惚けないでください。アウルさんなら、今の私を見れば分かりますよね」

 

 私が、冒険者(アヤ)じゃなくて犯罪者(アヤメ)だってこと。

 口に出すことはないけど、言外に問いただす。扉を背にして、いつでも逃げ出せるような準備をしながら。

 

「さあな、何のことだか」

「そうですか」

 

 流石に、街へ何度も行っているアウルさんがアヤメのことを知らないなんてあり得ない。つまり、これは油断させた私を捕まえるための方言だろう。アマルさんがいないのが良い証拠だ。

 

「逃げよう」

 

 そう判断して、鍛冶魔法を行使する。作る魔法陣は、複雑で成功率も低いから嫌いな次元属性。しかもその中でも、高位でさらに成功率が低い長距離転移。私の場合詳しく教わることが出来なかったから、行く先なんて指定できない欠陥魔術。でも今なら、魔剣によるブーストがある状態ならきっと成功する。

 

「チッ、察しが悪いな」

 

 足音が近づいて来る。時間はもうない。だからこそ、1発で最短で成功させる為に魔力を込めて──

 

()()()()()()にしておいてやるから、怪我の具合見せろって言ってんだよ」

「ひゃっ!?」

 

 苛立ったような声とともに扉が開かれ、恐ろしい程に冷たい手が首筋に触れた。そのせいで集中が乱れ、魔法が暴発して魔法陣は金属の塊になってしまった。あぁ……折角上手く出来てたのに。というか、

 

「いきなり女の子の首触るとか、変態ですよ」

「自称犯罪者が言う言葉かよ」

「立場と感情は、そう簡単に結びつきませんよ」

 

 それこそ、長年そんな状況に晒されでもしない限りは。けれどまあ、それはそれとして。

 

「さっきのはどういう意味ですか? まさか、私をどうともせずに放っておくとでも?」

「ああ。あくまで俺が知ってるのは、依頼を受けてくれた冒険者でしか無いからな。多少背格好が似てるだけだろう?」

「詭弁ですね」

 

 もしギルドとか国が本腰で捜査を始めたら、記憶を読む魔剣とか魔法とかはあるだろうから1発でバレる。それに逃げた私はともかく、知っていて逃がしたアウルさんも重い刑が科されてしまう。

 

「詭弁で結構。恩人を売るよりはマシだ」

「獣人らしいですね」

 

 損得より、恩義とか強さを優先する辺りが本当に。

 

「そっちこそ、随分と人間らしいな」

 

 分かっている。恩義とか強さより、損得を優先して他人を信用出来ない辺り、私は本当に人間に寄っている。

 

「それで、落ち着いて話す気にはなったか?」

「……ええ、逃げる事は無理そうですし」

 

 振り向いた先、部屋の中からは冷気が流れ込んで来ている。となれば、私の動きよりも早く氷の魔法が飛んでくる。殺しでもしない限り、逃げるのは到底無理な話だ。

 

「で、何を話せって言うんです?」

「お前の事情は知らんし興味もない。だが、王都の状況くらいは教えてくれ」

「王都の状況、ですか」

 

 十中八九、世間では『私が悪魔を呼んでめちゃくちゃにした』と言われてるアレの顛末だろう。それなら、ある程度なら話せるかな?

 

「大勢死んで、それでもまだ無事でしたよ。誰かに操られてるみたいに、不思議と王城関係者にだけは被害がなかったそうですし」

「そうか。それなら良い」

 

 今の私の説明で何を納得したのかは知らないけど、アウルさんは頷いてくれていた。半分以上、自虐も含んでいたんだけど。

 

「それじゃあ逆に私も質問です。私のペンダントは何処ですか」

「アレなら、アマルが着替えさせた時に汚れてたからって持っていったぞ。ああ、着替えさせたのは俺じゃないから安心していい」

「それはどうも」

 

 もし裸を見られていたら、どうにかして記憶を吹き飛ばしていたところだ。裸を見せるのなんて、将来を共にすると決めた人以外には嫌だもん。

 溜息を吐きながら、部屋の中へ移動して座り込む。これ以上の長話をするなら、立っていても疲れるだけだし。

 

「そのアマルさんはどこに?」

「隣の部屋で寝てるよ。心底幸せそうにな」

 

 ということは、死んでしまいたいなんて状態からは変わってくれたのだと思う。アウルさんの大手柄だ。魔剣を取り上げただけの私なんかより、よっぽど凄い。

 うん? ちょっと待って。ということは……

 

「ペンダント……」

「気づいたか。ほれ」

 

 無造作に投げられた何かをキャッチする。案の定それは変装道具のペンダントで、汚れ一つない綺麗な状態になっていた。

 

「2億のご尊顔が見たかったんでな、許せ」

「私の懸賞金、もうそんななんですね」

 

 適当に言葉を聞き流しつつ、いつもの様にペンダントを首からかけた。途端に髪の色が変化し、アヤメの姿からアヤの姿に切り替わる。

 それにしても、懸賞金の額が跳ね上がっている。リュートさんたちも、案の定変えることはできなかったんだろう。『期待はしない、そうすれば傷つかない』何処かで読んだ言葉だけど、私はこれを第一に考えてても良いのかもね。

 

「それで、お前はこれからどうするんだ?」

 

 軽く溜め息を吐いて天井を見上げていると、そんな言葉が投げかけられた。

 

「これから、ですか?」

「ああ。俺とアマルは、ここを出て旅に出る。農具作ってもらって悪いが、もう住めそうにないんでな」

「でしょうね」

 

 畑も家も、村であったもの全てが森に飲み込まれているのだ。しかもその上、魔剣を取り上げる際の戦闘の影響だって残ってる。こんなところに住むくらいなら、根無し草の方が生活に困らない。

 

「私は、そうですね。色々事情はありますけど、旅を続けようと思ってます。色々なところへ行って、色々なものをみたいですから」

 

 平穏と安寧より、責任と真実を知りたい。私の運命とやらを知りたい。だからこそ、魔剣を集める必要がある。

 リュートさんたちからの依頼でも、魔剣を集めていく必要がある。

 そして最後に、ついさっき私を見ていた何か。アレには、魔剣を持ってないと足掻くことすら出来ずに殺される……そんな予感がした。

 

 だからきっと、私は足を止めてはならない。進み続けないといけない。行き着くべきところに、たどり着くまでは。でなければ、死ぬという確信に近い予感がある。

 

「そうか。なら、アマルの提案だったんだが……」

「一緒に旅はしませんよ。危険に晒されるのは、私だけで十分ですから」

 

 やっぱり私の旅に誰かが同行するのは、ちょっとばかり都合が悪い。アヤとしては遺言と趣味・依頼に従って動いてるから、誰かがいると邪魔でしかない。アヤメとしては勿論論外だし。

 それに、信用してないわけではないのだが……いつ告発されるかわからない恐怖と、常に同居なんてしたくはない。旅っていうのは、もっと自由気ままにするべきだと思うから。

 

「まあ、断られるだろうとは思っていた。だが、それを承知で頼む。麓の街に着くまでは、あいつと一緒にいてやってくれないか?」

「それくらいなら、別に構いませんけど」

「少し煩いかもしれないが、よろしく頼む」

「了解しました」

 

 さっきの理由に加えて、私と一緒にいることで後々の迷惑になることは目に見えている。それでも、行く道も一緒だろうから良いんじゃないかと思った。……人が恋しいとか、あるのかな。

 

「それよりもだ。旅をするって言うなら、移動手段はどうするんだ? この大陸は、徒歩だけで巡れるほど狭くはないぞ」

「秘密です。でも、ちゃんと手段は考えてますよ」

 

 あのボードを改良したもので、空を飛んで移動できる魔導具を作る予定を立てた。今言われて気がついたけど。

 作るなら魔法使いみたいな三角帽子と一緒に、箒とかもありかもしれない。家にあった物語の中で、同じ年頃の女の子がそういう風に旅してる物もあったし。でも1から設計するとなると、大体1日くらいは見ておくべきかな。

 

「ならいい。お前の怪我が治り次第下山するから、準備だけはしておいてくれ」

「それなら……明後日くらいですかね」

 

 1日休めば、疲れも取れて下山も楽になると思う。序でに乗り物の設計もしちゃえば一石二鳥である。

 

「無理な回復は体に毒だぞ」

「そこら辺は弁えてるので」

 

 回復系の魔法を使い過ぎると魔力中毒に、ポーションを使い過ぎるとポーション中毒になるのはちゃんと知っている。でも前者は新しく腕を生やすような力を、後者は点滴みたいに使い続けでもしない限りなりはしないから問題ないのだ。

 

「それじゃあ私、怪我治すためにももう寝ますんで。部屋に入ってきたら、ただじゃ起きませんからね」

「随分と信用がないんだな」

「だって、男は狼って言うじゃないですか」

 

 苦笑いのアウルさんに向けて、私も笑みを浮かべてそう言ったのだった。

 




おまけ(簡単な時間軸説明)

          ↗︎一部関係→あの空
ロリスミ→正史ルート→ハッピーエンド
    ↘︎IFルート→本作→なんとなくFate

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