かつての異世界人……ママの故郷である地球人類が【悪魔】に対抗するべく製造したと思われる機甲兵器群、及びそれらをベースとした試作型魔剣の開発は、想定以上のとんとん拍子で進んでいった。
挑戦してみてもいいかという提案は、やはり私抜きで艦隊の修復を試みたいとのことで特に断られることもなく承認。
魔法の知識と違い科学の知識には疎いが、別にそれならば魔法で解析すれば良いだけのこと。搭載されていた[artificial intelligence system]なるよくわからない物の復元は無理だったものの、駆動システムと武装系は1日あれば掌握出来た。
打ち捨てられていた同型機の数と簡略化されたシステムから察するに、間違いなくこれらは軍用の量産機。獣人界における画一化された鎧と槍に当たるのだろう。仕様が違うのはエース機だったのだろうか、操縦席にあった乾涸び朽ちた死体には申し訳ないが、正直機体への興奮は止まらなかった。
片や4脚からなる多脚戦車。
片や変形して手脚が生えた半人型になる戦闘機。
話でしか聞いたことのない、完全なる異世界の道の技術。恐らく協力してくれたアカネさんの知識が無ければ、あと数日は理解に時間がかかっていただろう。
「──けどこれ、魔剣なんて代物を使ってる私達が言える話じゃないですけど……正気を疑う武装ばかりですね」
当てがわれたユ=グ=エッダの一角、新兵器を開発する為の区画の一部にて。私はため息と共に言葉を吐いた。
「そうなのかと疑問する。かつてアヤメが使っていた、装甲箒の弾と同様のものに思えるのだが」
「全然別物です、これと比べたら私のは猿真似以下です」
まずは多脚戦車の方だが……何もかもがおかしい。
まず移動速度なのだけど、魔法による補助も何もないのに素の私の半分くらいの速度はある。時速に換算すると、平均速度が200キロに少し届かないくらいだろうか。
次に装甲も何故か鍛造製法で作られており、試した限り質量系の魔法を除き上位の魔法でもびくともしなかった。概算の耐久値はレイ級クラス、まるで理解出来ない。
最後に攻撃兵装なのだが、背部から背負うように私の身長程のサイズがある砲塔が伸びている。それが打ち出す弾なのだが──
「まずはこの、HEAT弾……って読むと思われる弾ですが」
「ふむ」
「細かい原理は知りませんが、科学技術だけなのになぜか【メイジ級】の装甲をぶち抜ける威力です。序でに尋常じゃない威力の爆弾でもあるみたいですね」
「待って欲しい」
アインが理解不能といった顔をしているがやめるつもりはない。そういう慌てたアインの顔、結構好きなのだ。
「次にこの……名前の意味は分からないんですけど、APFSDS弾ですが」
「まだ当方、情報の処理が出来ていないのだが!?」
「分かりやすい例えると、細い本命の弾を大きな分離するガワで包んだ弾で【デストロイ級】の装甲も貫通して突き抜けます。序でに結構な毒性の金属が芯みたいで、生き物に当たると体内がぐちゃぐちゃになるかと」
「……」
驚きを通り越してアインがドン引きしているが、私だって同じ気持ちだ。地球には魔物のような敵対生物がいなかったと聞くのに、どうしてこんな物が存在しているのか。理解出来るがしたくはない。
「最後に榴散弾、名前から分かる通り爆弾をばら撒く砲弾ですね。火力は大分低いみたいですが、それでも【ビースト級】以下は虐殺出来る威力ですかね」
「もうお腹いっぱいだと否定する」
「同感です」
因みにこれらの推定威力は、アカネさんとの合同検証の結果だからほぼ確実だ。近接用の装備として前方にサブアームに接続それた機関砲剣ブレードまであり、多分見つけられなかった砲弾種もまだ数多くある筈だ。
……人と人が殺し合うのに、こんな物まで必要だった世界。ママの世界は平和で、科学が発展していて、いい世界だと思っていた。だけど実際は、そんなことはなかったのかも知れない。
「ということで、私たちの技術で再生産した魔剣機体がこっちです」
そんな陰鬱な思考は一旦切り捨てて、バラバラに分解した多脚戦車ではない真っ白な機体を両手で指し示す。
悪魔と区別するための真っ白な装甲に包まれた、6m超の流線型の胴体。動力炉と弾倉を兼ねた後部。私の義足と同じ空中歩行を仕込んだ虫のような4脚に、大艦巨砲バンザイな砲身。駆動システムが魔法式になったことで、誰でも使えるようになっている。
加えてユビキタスを参考にしたネットワークシステムで情報の送受信が可能。更にアカネさんからの要望で、サブアームと脚部はユビキタス互換性がある。ブレードではなく作業用マニピュレーターを取り付ければ、大陸艦隊の外壁修理だって可能だ。
「今まで語ってきた性能はそのままに、近接兵装のブレードをスラッシャーと光刃に。砲撃の弾種類にピアッシャーの光槍を。防御兵装にディフェンダーの光陣結界を、悪魔を引き剥がす為にクラッシャーの衝撃波装甲を追加しました。あとアトラク・ナチャとユビキタスを参考にして、自己再生と複製が可能です」
鋼材の材質が解析出来て、それが金属か樹木辺りであれば、高位の魔法使いなら複製出来る。制御系のシステムばかりはそうもいかないがそれはそれ。アカネさんとユビキタス、スマイヤーさんとメメントモリ、タツミヤさんとアトラクナチャという、最高峰の担い手と機体がすぐ近くに居るのだ。サンプルは取り放題であるし、術式や接続方法の模倣だって幾らでも出来る。
そも機甲兵器としてではなく魔剣として作るのだから、システム面は丸ごとそちらへ挿げ替えてしまえばいいだけのこと。難しいがやれない事はなかったし、やった。それだけの話だ。
「認識した。だが1つ質問をして良いだろうか?」
「ええ、なんでもいいですよ!」
「当方は記憶が確かであれば、戦闘機も最終的には回収したと認識している。それは何処だろうか?」
アインの目がキラキラと輝いていた。私は戦車の方が趣味に刺さったけれど、アインは逆だったらしい。それだったらちょっと、いやかなり申し訳ないことをしちゃったかもしれない。
「えぇっと、それが……ですね」
「うむ」
「冷静に考えると、あの【終末】の空を飛ぶことが不可能だと分かりまして」
だってそうだろう。幾ら光陣による結界があろうと、飛べば悪魔に即座に激突するような空の密度で戦闘機は飛べない。ついでに言えば、悪魔だって知恵がある。ジェットエンジンに魔法で生み出した異物を投げ込み、爆破させることくらいはしてくるだろう。
「確認する。もしや、作っていないのか……?」
「そんな、捨てられた子犬みたいな目で見ないでください……」
悲哀が満ちたそんな目で見られては、個人的に未完成品を出すのは承服しかねるが出さない訳にはいかない。
「一応試作機は作ったんですが……その。塗装も武装の取り付けも、まだ何もしてないというか……」
言葉尻を濁しながら、顔を背けてスキルの中から魔剣機体を引き摺り出した。
一応これでも、魔剣としてあと一歩で完成という場所にまでは持っていった。だが搭載してある魔剣はシールダーの光陣のみ。機頭に大型の機銃、翼下にミサイルは複製搭載してあるが……こんな合金の灰色が剥き出しじゃ、流石に味気がない。
「完成前の未塗装機、それもまた趣のある良き物だと感心する」
「好きなんですか? 戦闘機」
「肯定する。空を舞う翼は、やはりカッコいい方が良いだろう」
「同感です」
そんなに気に入ってもらえたなら、やっぱり完成させてしまおうか。ノーズアートにカッコよくドラゴンマウスでも描いて、パーソナルマークも何か付け──と、そんなことを考えていた時だった。
明らかに人ではない金属質の足音と、聴き慣れた足運びの音が耳に届いた。リィンを呼びに行ってもらっていたアカネさんが戻ってきたらしい。時間切れだ。
「────以上が、新型魔剣に関する報告よ」
「うぅむ、よもや本当に一夜で開発を完了させるとは思わなんだ。またアヤメの非常識が加速しておるではないか……」
完璧なだけにタチが悪いとボヤきながら、頭痛を堪えるようなポーズでリィンが姿を見せた。頭痛薬と胃薬、あとで作って渡した方がいいかもしれない。
「はぁ……さて、こうして顔を合わせるのは久方ぶりであるな。アヤメ、アイン」
「話すの、ずっと通信越しでしたからね」
「余、もう魔王辞めても良いと思うのだが。実務は元の3人な行っておるし、戦うのを早める気はないから良いではないか」
「せめて2ヶ月は駄目だと否定する。現状の魔王国が落ちたら、当方たちは滅亡まっしぐらだ」
「余も半年後には、恐らくだが稼働限界が来ておるのだよなぁ……」
私はあと1ヶ月と2週間程度、アインも2ヶ月くらい、リィンが半年。全員が全員、中々に短命だ。ここは終末期の病棟か何かだろうか? 外は【終末】だからあながち間違いでもないか、笑えないが。
『あなた達3人が死んだら最後、1ヶ月もしないで世界は滅びる予測なのだけど……まあ私も、整備されなくなったら数ヶ月で狂い死ぬから同類ね』
「アカネさん、そんなに危ない状況なんです?」
『まあそうね。通信業務の所為で負荷が掛かりっぱなしだもの。ああ、必要で変えの効かない業務なのは分かっているから、心配は無用よ』
本来想定されていた限界より遥かに短くなっていた時間に質問すれば、そんな答えが返ってきた。圧倒的な利便性と戦場を辛うじて維持している最大の要因は、やはりそう易々と使える物ではなかったらしい。
「うむ、まあ寿命に関してはどうなる物でもなかろ。それで本題であるが、アヤメが開発したという魔剣はどれだろうか?」
「それなら、この多脚戦車が」
『今朝の時点で動作は確認済み。等級の分類をするなら、間違いなく試作型になるわ』
これを作り上げたのは私の力だけじゃない。魔界の色々な人が協力してくれて何とか完成した……私が、初めて打ったオリジナルの試作型魔剣だ。
「《有象無双レギオン
「……余の勘違いでなければ、
「βは戦闘機だったんですが、企画倒れになったので残念ながら。γは考えてませんでしたが、戦艦とか複製出来たら面白そうですね。居住性を完全に排除した武装の塊みたいな船を」
天啓だった。恐らく私たちの世界に戻るまで、展開することは出来ないだろうけどいい案かもしれない。戦闘機と違って、大陸艦と同じ原理で浮かべれば何の問題もない。幸いサンプルは干上がった海と思しき場所に転がっているし。
『あらいいわねそれ。巨大兵器なんて唆るじゃない、開発は手伝うわよ』
「潜水艦や空母が意味を成さないのは残念だと落胆する」
「
「うぐぅ……新型の魔剣開発を1日で開発しただけでも前代未聞だというのに、意気揚々と増やす算段を立てるでないわ!」
リィンが噴火した。残念、今はこれ以上の案を膨らませることは出来ないらしい。だが数日あれば後1振り、戦艦型のγは作れそうだし作ろうか。まあ、それはそれとしてもだ。
「訂正しておくと、リィンは新型の魔剣って言ってくれますが、実際は大したことじゃないんですよ? 試作型とは言うものの、既存技術のパッチワークです。よく出来たモザイクアートですよ」
「そんなモザイクアートですら、アヤメ以外に完成させた者はいないのだが……よいか、うむ。アヤメが今更、自己認識を改めるとも思えぬし」
最近になって技術の水準が特別であるのは自覚したのだが、リィンからはとうに諦められていたらしい。刻みつけられた性分だし、今更変えられないのは確かなのだけど。
「それで、魔剣としての能力はどうなっておるのだ?」
「通常駆動の状態で最大300機までの複製。限界駆動中は試作型特有の5km圏内の悪魔の弱体化、整備と継戦の手間を考えて自己再生、あとは複製機の独立遠距離無線操作ですね」
作っていた際のイメージとしては、大量生産大量消費が根本だ。そういう文明だと聞いていたし、ユビキタス・ネットワークの参考元であるWorld wide なんとかというシステムもそれを助長していたと聞いた。
総じて、地球産の試作型魔剣と思って作成した。当然ながら、コア部分であるクリフォト結晶の色はミスリル色。作っている最中に気がついたら蒼色ではなくなっていた。
「しかし総勢301機か……贅沢を言っておるのは分かっておるが、もう少し戦力があると助かった。いや、うむぅ、5キロ圏内の悪魔を弱体化出来ると考えれば……」
「悩んでいるところ悪いが、この試作型魔剣の真価はそこではないと否定する」
渋い顔をして考え込むようにしたリィンの言葉に、即座にアインが否定を入れた。そう、この魔剣の真価はそこではない。正確にはまだこの程度ではない。
「ふむ、というと?」
『この魔剣、複製体がまた複製体を生成できるのよね』
「たわけぇ!」
再びリィンが爆発した。だが、出来てしまった物は出来てしまった物なのだから、どうか現実を受け止めて欲しい。
「流石に1回目に複製される100%の機体と比べて、2回目は性能が75%、3回目は50%まで低下します。4回目の複製は無理でした。ので、1→300→90,000→27,000,000のラインで複製展開が可能となっています。理論値ですが」
「つまり、2709万301機が理論値であると。弱体するのも機体の性能だけであると。相違ないな?」
「ええ」
呆れ切ったような顔で言われた言葉に頷いた。実際に複製を最大展開することは、残念ながら展開する場所がなく出来なかった。だがそのくらいのポテンシャルを秘めているのが、私の作った試作型魔剣レギオンαだ。
「ところでアヤメよ。現状、獣人界と魔界を合わせた総人口がどの程度か知っておるか?」
「500万人くらいですよね」
「アヤメの作りおった魔剣の最大展開数は?」
「2709万301機ですね」
「5倍を超えおるではないか……!」
「そのための遠隔操作機能です」
何せ悪魔の数はこれを上回る。数に対抗出来ている訳でもなければ、最大展開時の最終複製体は一騎当千と言うことも出来ない。
だが、1人の剣を持った英雄より100の弓を持った凡兵が優遇されるのが戦術である──と、何処かの兵法書で読んだ記憶がある。ならばきっと、この魔剣も間違いではない筈だ。アカネさんが生捕にした悪魔に遠隔操作の練習がてら実験した限り、弱体化は重複したし。
「うむ、まあ、そうさなぁ。Ⅱ型と言うことは、敵を斬り続ける限り起動は可能……であるか。乗り手の問題さえ解決出来れば、桁違いの戦力になるのは間違いないであろうなぁ」
『乗り手の問題も手は打ってあるわ。これまで戦力不足で参加できていなかった
「解決しておるではないか……!」
崩れ落ちたリィンが床を叩く。だがそれでも、個人の体調が万全である前提で800万機。十分なようにも感じられるが【デストロイ級】……いや、【メイジ級】に対抗できるのが301機と考えると流石に心許ないか。何せこの地球では、本来の性能があるこの戦車が数万機以上あってなお負けているのだし。
「であれば、既に運用計画もあるのであろう?」
『ええ。貴方がGoサインを出してくれれば、今日から運用は出来るわ』
「部下が有能過ぎて、余がやれること戦闘しか残っとらん……」
『お望みなら書類仕事は山のように残ってるわ』
「嫌じゃ……いやじゃ……余は書類などもう見とうない!!」
なんと言うか、魔界の政情がどんなバランスで保たれているのかが見えた気がする。君臨すれども統治せず、ただし王は過労している。地獄だろうか。
『と、うちの魔王様がこんな調子なのよ。多分あなた達と一緒にいる方が楽なんでしょうし、休息がてら1日引き取って貰えるかしら?』
「それは、構いませんが……」
一応アインにも確認してみるが、無言で頷きを返してくれた。異存はないらしい。
『本当に冗談抜きで、主戦力のあなた達が倒れたら終わるのよ。獣人界にはまだ酒場とか残ってるのでしょう? そこら辺で騒いだりなんだりして、発散させてくれると助かるわ』
それじゃあと、自分も指揮官機を再生産出来ない程ダメージを受けているだろうに、こともなげな様子でアカネさんは魔剣を手に去っていった。
残されたのは私たちと、崩れ落ちた体制のまま固まるリィン。確かに改めてリィンを注視すると、尾の竜鱗が翳っているし角も荒れている。枝毛も結構多い。ストレスフルな状況にいることがよく分かる。
「すまぬな、お前様達は新婚であるというのに」
「いや、リィンは実質的に義妹な親友ですから」
「肯定する。当方達にとって、何も問題ではない」
「ぐぬぅ、夫婦の余裕を見せつけおって。余のやけ酒に付き合ってもらうぞ!」
そういうことになった。