今年もよろしくお願いします。
私達の世界に戻るよりも、この世界に永住した方が良いのではないだろうか? 持ち上がっていたそんな問題に、明確な否が突き出されたのは翌日のことだった。
きっかけは昨日読んだ新聞にあった『核兵器』という文字から、何処となく嫌な気配を感じたこと。
幸運なのは、アカネさんが回収しようとしている転送装置内で、その機械を見つけ私に修理を頼んだこと。
そして不運は、その計器を修復した途端に警報が鳴り響き、止まることなく鳴り続けたこと。
つまり──だ。
「結論から言いますと、このままだと遠くない内に人口の8割が死ぬことになります」
私とアイン、転生者としてアカネさん。そして政治方面としてミーニャ女王とリィン。最後にアドバイザーとしてアヒムさんを加えた以上6人。実質的な国のトップが集まった会議室で、私はそう結論づけた。
単純な、非常に単純な話だ。核兵器というのは、その圧倒的な破壊力とエネルギーの代償に使えば放射能という毒を撒き散らす。しかもその毒は100年も200年も残り続けて、子供にすら影響するらしい。
正直私も文献でしか見たことがない話だし、アカネさんに聞いても同様だった。薬学ではない錬金術でも似たような話は聞いた気がするが、それも既に記憶の彼方だ。
「それは……つまり、どういう?」
「分かりやすく言えば、生身で旧魔界の汚染された大地にいるようなものですわ獣王陛下。おそらく、レベル換算200以上で状態異常に対して対抗手段を持っていない人物は、このままでは危険です」
ミーニャ女王にアカネさんが答える。だが実際、その基準も類推からなる曖昧なものだ。確実に大丈夫と言えるのは、私たちを含むレベルシステムのカンスト組のみだろう。アヒムさん以下、それもいつまで保つか怪しいものだが。
「ふむ……危険性は分かりました。生憎と私は数理には詳しくありませんが、他ならぬ魔王国からの警告です。信じましょう」
目に見えず、臭わず、即座の影響力もないが、人を死に至らしめる汚染物質。私自身その程度の知識しかないが、危険性だけは上手く伝わってくれたらしい。
「ですが、そんな毒相手に私たちが何を出来ますか?」
「分かりません」
その言葉に私は首を横に振る。実際なにも私は知らないのだ、地球が生み出した文明の火について。アカネさんやタツミヤさんも同様、『どんなものか』は知っていても『どう対処すればいいか』については分からない。
「対処療法としてだが、余の大規模浄化魔法を使えば或いは……といった感じであるな」
「故にアヒム・ロイス・ケラウノス、当方達に教えて欲しい。同種の力を持つ魔剣の担い手である貴方に、この汚染の対処法を」
無知の知とは、確か地球の偉人が言った言葉だったか。だけど今この現状では、無知は罪だ。だからこそ、同じ核というエネルギーを使う人物に根回しをしておいた。私達だけでダメだった場合危険性を伝えるように、そしてその対処法を改めてこの場で示して貰うために。
「残念だが、高位の浄化魔法以外に対抗手段はない。その場を離れる以外に方法はないだろう。絶滅剣と同種の毒であるならば、だがな」
だが、現実がそんなに簡単に解決する筈もなく。解決策は魔力の薄い地球では、事実上不可能な方法しかないとのことだった。
「曰く、確か被曝というのだったか。俺はラーテルの獣人が持つ対毒性で解毒しているに過ぎん。それもあくまで、魔剣の制御から離れた分という少量だ。無作為に巻き散らかされれば、俺とて死は免れない」
ここまで言えば、市民が騒ぎ立てる『移住計画』を阻むことも出来るだろうと。アヒムさんは言外にそう言っていた。
この場はあくまで秘密会議。機密保持のため、護衛すら存在しない正真正銘の最高機密。だが実際に“そう言った”という事実が有ると無いとでは、何もかもが変わってくる。
「では、やはり禁呪の使用は不可避ですか。魔王国の方では機械転送の計画もあると聞きましたが」
「電力不足がネックになっておる。だが元より交流があったのであろうな。余らの世界への転送は、時間さえあれば可能であるそうだ。アカネよ、そうであったな?」
「肯定しますわ、我らが魔王。あと1日程あれば、ユ=グ=エッダと大陸艦隊の転送は可能でしょう」
そこら辺の調整は、禁呪を知る者として私も担当したから間違いない。急造も急造になるから、一回使えば壊れるような脆さになってしまったが。元設計図は保管してある、最悪新しく作ればなんとか出来よう。
「分かりました。資金はこの際無視するとして、電力と魔力の消費を始めに詰めていきましょう」
極秘の会議は、そうして夕方まで続き──崩壊した地球の日が沈み、獣人界と魔界でも幻術の空が暗く落ちた頃。
星の光もない闇夜の空に、一条の光が疾った。
火球のような、流星のような眩い閃光。
生命の息吹枯れたこの星において、即ちそれは金烏の飛翔に他ならない。
「イトナミより、全
なればこそ、対策の1つや2つ打ってある。
「金烏の再活動を確認。総員、直ちに戦闘体制へ移行せよ」
かつてこの世界にあった電子のネットワークとも、ユビキタスの作る魔剣のネットワークとも違う、クローン特有の生体ネットワーク。そこに命令がコンマ数秒の誤差もなく駆け巡る。
瞬間、音もなく光が地上に灯った。
1つ、また1つと点灯するのは、青白い鬼火のような輝き。待機状態にあった魔剣レギオンαの多脚戦車──総数400万機。視界確保用の青白い灯火に浮かび上がる白い装甲は、さながら這いずるガシャ髑髏か。無機質に、不気味に、一方的に。この世界の性質に沿った力が、圧倒的な“数”を以って鋼の産声を上げた。
「……順当に、取り込んでくれたのね。この世界の、私たちの故郷の力を」
大地を染め上げる青白い百鬼夜行を睥睨して、静かに金烏が言葉をこぼした。
恐れも怯えもそこにはなく、金烏の胸にあるのは安堵のみ。何せこの軍勢が現れたという事実が、金烏が果たすべき役割を果たし終えたことを意味しているのだから。
ハナから金烏の目的はたった3つ。
世界が滅びるまでの時間と墜星・勇者が儀式を完遂するための時間を稼ぐこと。
そして生き残りの人類に、
そして眼下の百鬼夜行は、その2つを満たしている。
【終末】の世界を征く力として、地球の無機質にして冷徹なコレは役に立つ。
これを再現した以上、銀灰の巫女を始めとして【悪魔】の知識を得た者はいる筈だ。そう手配してあった。
ならば望みは後1つ。
「神楽舞いなさい、銀灰の巫女。あの人を……私達の神を、目覚めさせるために!」
夜の闇に金烏が咆哮し、炎翼を大きく羽撃かせる。
古来より巫女とは、神の代弁者にして代行者とされる。だが同時に役割としてはその正逆。神に捧げられる者であり、神に奉納する者でもある。
その中でも神楽舞いは、穢れ祓いと鎮魂・招魂を意味している。
神楽殿は世界1つと大陸艦隊。
打ち鳴らすのは雅楽ではなく、剣と魔法の鉄火曲。
それでいい、否、そうでなければならない。緑の颶風を纏う銀の女神は、そうでなければ目を覚まさない。
「
聖剣完了。最後の役割を果たすべく、金烏の姿が増殖する。陽炎にブレるように、蜃気楼が生まれるように。知識を齎す2羽の鴉ではなく、行先を照らし導く八咫の烏として。
「我ら
「──総員、抜刀」
なればこそ、対話もなく相互理解も存在しない。
艦隊にサイレンが鳴り響く中、シャランと涼やかな鋼の音が連続した。
「
「
「
「
空に輪唱した金烏とは対照的に、地に満ちた言葉が連唱する。そして──
「刃金に満ちよ、我らが祈り──希望の
──決戦の火蓋が落とされた。
「青に満ちたる恵みの
残りたるは墓場の主。縛鎖を千切り、枷を壊し、狂い泣き叫んだ栄華の墓標」
燃え盛る感情の空に向け、凍てつく数理の地上から無数の砲塔が天を衝く。装填される
戦車砲の砲塔基部。仰角という概念を無視して顕現した無数の光槍が、燃え盛る天空を穿たんと睨め付ける。
「アクタガワより
詠唱をしているイトナミとは別のエクスプローラーが、生体ネットワークを通して命令を下す。結果、寸分の狂いもなく放たれた第1射。飽和状態の光槍による弾幕が、夜空を白光で染め上げた。
「静まり返りし灰墓の世界は、悪なる魔性に凌辱された
なればこそ、墜ちよ流星。奈落の底より、我らは厄災の群れと戻ったぞ」
「これだけいると、狙う手間が省けるわね!」
となれば必然、金烏も黙ってはいない。
受ければ致命の傷を負い、身を躱す余裕はなく、弾幕に身体を捻じ込む隙間もない。そんな殺意の塊に、取れる方法は多くない。
逃げるか、守るか、その2択。
金烏が選んだのは両者。尽きぬ分身を盾として、弾幕を突き抜けることで状況を切り抜ける。その墜落は稲妻のように。多くの犠牲を払わされながらも、数十体後半の数金烏が地上に舞い降りた。
「ッ、回復が遅い!」
舌打ちをしながら、遅々として再生しない身体を駆って金烏が翔ぶ。地表スレスレ、砲を放てば誤射は免れぬ低空で愛剣の刃を振るい続ける。
だが、無論それだけでは収まらない。先程の前者の選択、射程外へと飛び上がった金烏も多くいる。確保している制空権をむざむざ放棄するなんて馬鹿のすることだ。
「降り注ぎなさい、武技・斬撃の流星雨:焔之型」
未だ眩い眼下の空に向けて、炎を纏った長大な刃が振われた。不遜にも空へ手を伸ばした報復刃。かつての金烏が半身が研ぎ上げた刃が、天が落涙するような炎の雨として降り注ぐ。
「今こそ新たにこの名を示す──我が名はレギオン」
魔剣レギオンα、その詠唱は未だ途上。完全起動は成っていない。
だがこれは、戦争にして生存競争。そんなものを待ってやる道理なんてどこにもない。何せもとより魔剣の詠唱は、後世において悪用されない為のセーフティ。意図的に作られたロスタイムだ。
金烏の半身が、詠唱の隙を突かれて討たれたように。
もう半身が、隙を作らぬよう2000時間を越え起動させたように。
対策することが当然で、していないのならば付け入るのみ。
「剣の誓いを今ここに
戦火に生まれ、残火に育ち、戦奴と刻まれた幾千夜。今ここに越え、我らが命の本懐を果たさん」
だとしても、試作型魔剣は伊達じゃない。
「ミカゴヤマより
大地を覆う百鬼夜行から、神聖さを感じさせる光のベールが現出した。幾重にも重なり大陸艦隊を包み込み、戦場においてはある種の壁として全域を区切り分断する。
そして、ようやく地表に到達した焔斬の流星雨も尽くが光のベールを突破出来ない。墜星・金烏、なにするものぞ。鋼の機構が唸りを上げた。
「
これまで精彩を欠いていた機体が、あるべき動きを取り戻す。
「ヨバミロハより
「アクタガワより
「「──撃て!!」」
弾幕としてではなく、過剰出力により極太の光線と化した槍が空を薙ぎ払う。闇を払い、焔を吹き消し、幾体かは金烏をも飲み込み消滅させる光の柱。砲撃中に自壊を続けながらも、3次複製機が迎撃弾を消滅させる。
そこに吸い込まれるように、130mmカノン砲が火を噴いた。撃ち込んだのは榴散弾。かつての日本風に言うのであれば、近未来化改修済三式弾。空を飛ぶレイ級とメイジ級を撃ち落とすための武装が、金烏を穿ち炎上する。
瞬間、空が焼け落ちる。
夜空を舐める朱焔が、空を真紅の色彩へ染め上げた。
「ぐっ、ぅぅぅ!!」
遮る物のない空での至近弾、それも地対空専用の殺傷弾。いかな墜星、いかな金烏とて防げない。全身を実体弾で穿ち破壊され、非実体の焼夷弾の熱で視界が揺らぐ。
遅すぎて役に立たない再生は、考えるまでもなく不死殺しの影響だ。完全ではないからか消滅までは至らないが、それでも影響はあまりにも大きい。本来の力すら、もう発揮出来ていない。
「ならこちらも、相応の手は取らせて貰うわ」
既に戦況はレギオン有利。“実”が“数”を凌駕するはずの世界に於いて、“数”が“質”を覆し始めている。まるで、かつての英雄戦争のように。
実際金烏の分身が1人に対し、レギオンの必要数はおおよそ3機。だというのに、どう見ても追い詰めれているのは金烏の方。だが、手負の獣をそこまで追い詰めたことが間違いだった。
「確かに効果的なのよね。自爆って。何せ私も一回、それでみんなを救ってるもの」
懐かしそうに目を細め、笑顔を浮かべた金烏が内側から爆散する。鎧のかけらに体を構成するクリフォト結晶、武器や鎧も撒き散らし炎と金属の大旋風を巻き起こす。
魔剣レギオンの機体、その防御力は貧弱だ。当たらなければ良いを地でいくせいで最低限の守りしかないレギオンに、そんな暴威は耐えられなかった。
「無念の命が紡ぐ自爆連鎖、どうか楽しんでいただきますよう」
上空の金烏の生き残りが、指を鳴らすために地上の金烏が自爆する。その度に数機から数十機のレギオンが破壊され、戦局の針が再び動き出す。
「レトワールより
描き出されたのは修羅の巷。命の価値が限界まで希薄になった、地球らしい破滅の輪廻。大量生産大量消費の大殺界。その結果として顕現したのは、自爆と自爆が重なる地獄の坩堝。
「さあ、これが戦争よ。我らが巫女」
次々と命の灯火が消えていく。意味もなく死者だけが増えていき、生存者も石臼で轢き潰されるように磨耗していく。
どこまでも冷酷に、燃え盛る戦場が凍てついていく。
「奏なさい、戦火の歌を。奉じなさい、その全てを!」
死者は数字に、戦果は虚無に、実感は彼方に。落ちて、落ちて、落ちて。その果てに。ほんの一瞬、金烏の分身が消え失せる。“数”が“質”を上回った。覚醒という不条理で巻き返される直前の、確かに存在する敗北と停滞の時間が訪れた。
「イトナミより残存全機へ。弾種:HEAT装填」
そして当然、その隙を逃す存在はこの場にいない。寸分の狂いもなく、全ての砲塔が最後の金烏を照準し。
「撃て」
地の百鬼夜行が瞬き、空へと破壊が駆け上がる。直後、鋼と火薬の暴威が最後の金烏を飲み込んだ。本来あるべき装甲貫通弾としてではなく、魔剣特有の生物特効が乗った榴弾として空を焼き──
「残念、その程度じゃ届かないわ」
──尽くす寸前、夜天に火の粉の輪が顕現する。
数日前の焼き増しのように、金烏が背負うように展開した日輪が全てを吸い込んでいく。爆炎も、黒煙も、金属片も、炸薬も、全てをエネルギーと化して禁呪が取り込んでいく。
禁呪《
一度は大陸艦隊を撃沈しかけたそれが、再び炸裂しようと収縮を始める。夜中にあってはならない、夜明けの太陽が夜天に昇る。
「禁呪《次元曲変》、解ほ──」
「クラック」
凝縮された焔の輝き。擬似太陽が爆発するその寸前、ガラスが割れるように日輪がひび割れた。
「──う?」
「禁呪というのは、使うことが禁忌とされているから禁呪なんです。だけど同時に有用であることは確かで、だからこそかつての時代には研究が重ねられた」
太陽が砕ける。太陽が落ちる。生まれるはずの歪みを金烏の内部に炸裂させながら。本来なら暴れる
「つまりですね……2度目はありません」
内側からの灼熱に溶け落ちる金烏の下方。浮上を始める2つの艦隊を背に、冷め切った2つの紫紺が見下した。
アヤメ 残り44日
アイン 残り58日
残存正規兵 約2,000人
残存人口 約500万人
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《有象無双レギオンα》
1m程の長さの、穂先が音叉のように分たれた短槍型の魔剣。眩く光を反射する銀の色は、かつて世界を席巻した機甲兵器群の色。処理する情報量の問題から、実質的に
【能力】
基準値:D 限界値:B
照準:B 範囲:EX 操作:C
維持:EX 強度:A
【詠唱】
刃金に満ちよ、我らが祈り──希望の
青に満ちたる恵みの
残りたるは墓場の主。縛鎖を千切り、枷を壊し、狂い泣き叫んだ栄華の墓標
静まり返りし灰墓の世界は、悪なる魔性に凌辱された なればこそ、墜ちよ流星。奈落の底より、我らは厄災の群れと戻ったぞ。
今こそ新たにこの名を示す──我が名はレギオン
剣の誓いを今ここに 戦火に生まれ、残火に育ち、戦奴と刻まれた幾千夜。今ここに越え、我らが命の本懐を果たさん
【効果】
①通常駆動
・自身のステータス上昇70%
・生物特効120%
・悪魔特効500%
・搭乗者を必要とする魔剣機体の複製操作
②限界駆動
・周囲5km圏内の悪魔を弱体化
・複製機の独立遠距離精密操作
・魔剣機体の自己再生