銀灰の神楽   作:銀鈴

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夜中の夜明け、黎明に日よ昇れ【03】

「──目覚めた!」

 

 誰よりも銀灰色の滅びの近くにいた金烏は、歓喜と共に目を見開いた。静かに凪いだ世界の終わり、アヤメ・キリノが心象たる幻想世界。これで、最後のピースが集まった。

 

「ああ、今度こそ。今度こそ、私は失敗しなかった! 何もかもを台無しにしなかった!!!」

 

 銀天の太陽を眼前に、灰が降り頻る世界で、一転狂ったように笑いながら金烏が告げる。

 ああ何せ、墜星・金烏とはそういう存在だ。他の墜星とは、存在が根本から異なっている。

 

 墜星・八岐の根本を成していたのは、己に課した正義とそれを為せない怒り。そこから成る『過去も未来も、世界の遍く全てを斬滅する』という願いだ。

 墜星・玉兎の根本を成していたのは、誰よりも愛に溢れた心が壊れ傾いた欲。そこから成る『誰もが救われる、優しい現実を夢見たい』という願いだ。

 

 ならば、金烏の根本は何が成しているのか?

 その答えは願いにあらず。『今度こそ失敗をせず役に立つ。全てを台無しにしない』という自罰と献身の後悔だ。

 2人1対で1人の墜星。他人と他人では、狂信する願いは統一できる筈もない。故に八岐と同様、金烏の想いは内側へ向かい、足りぬ出力を共振によって無理やり上げ、誰よりと歪んだ墜星は完成している。

 

「ああ、我らが神よ。幼銀の女神よ! 今度こそ私たちは──」

 

 故に金烏から受け継ぐものは何もない。

 彼女らはあくまで伝達者にして先導者。

 先立つ鳥は跡を濁さず、神の身元に帰るのみ。

 

 だが、

 

「五月蝿い」

 

 歓喜に打ち震える金烏の言葉を阻むようにして、ユメウツツのような、健忘症(アムネシア)にかかったような、孤独(コドク)に戻ってしまったような……そして、煮えたぎる怒りを虚に装飾したような、どこか物悲しい声が響いた。

 

「さっきからゴチャゴチャと。なに一人で楽しくなってるんですか、気持ちが悪い」

 

 言葉に銀天の太陽が揺らぐ。地吹雪のように灰が吹き荒れる。

 そんな音すら滅びたような静寂の中、銀天の内からソレは現れた。

 紫紺の瞳に宿るのは意思という意思が感じ取れない、底すら見えない虚の闇。覇気はなく、力もなく、どこまでも凪いだ異様な雰囲気をソレは纏っている。

 

「ほら、貴女がずっと望んでたものですよ金烏。私のささやかな幸せをぶち壊して、実際に目にした感想はどうですか?」

 

 全身に銀色の炎を纏い、アヤメが金烏に笑いかける。

 その態度に先程負った致命傷の影響はどこにもない。首の皮1枚──否、背骨1本で助かったはずの傷口は健在であるというのに、だ。その原因は、現在進行形で傷口を燃やす銀焔に他ならない。

 

 傷が焼け落ち、銀の灰に変わっていく。

 

 それは断じて治癒や再生なんかではない。“傷口”という事象そのものが、焔に焼き尽くされている。銀焔が舐め、灰が舞った後には傷1つない素肌が復元されている。

 

 即ち、傷を負ったという事象を滅びで塗り潰し、現実を崩壊せしめたのだ。

 

「これが、私たちが望んだ終わりの希望……!」

 

 誰が見てもわかる。これは異常だ。世界に在ってはならない幻想で、世界の法則を塗り替えるような暴挙だ。

 それこそが、行き着いてしまった魔法の最果て。“自分の世界”で“今ある世界”を塗り潰す過程で、己自身が幻想の住人に成り果てる。

 

 故にこそ《幻想世界》

 

 玉兎の『回帰』ではなく、金烏の『再演』ではなく、古き魔王の『分断』でもなく、アヤメが広げるは『呪滅』というべきか。

 戦争終結から6年間。365日24時間欠かすことなく、世界人口の7割超に呪われ続け、自らも呪い続けた想いの積層。それが本来の願いすら押し潰して、混沌より溢れ出た。

 

「答えろって言ってるんですよ」

 

 視線が、合う。

 それだけで、金烏の両目が灰に変わった。金烏を中心として時間の停滞という《幻想世界》は、変わらず展開されているのに。焼け落ちた両目は即座に再生されたが、即ちそれは対抗が出来ている証拠だった。

 

「……素晴らしいわ。もっともソレが、私達の望みに能うかは分からないけれど」

 

 反論とともに、金烏が己の幻想を再度展開する。あらゆる総てをを停滞させる、かつての再演空間を。だがそれは、数瞬前と違い決定的な効果を発揮することができない。

 

 止めようとした空気が燃え落ちる。魔力が灰になる。アヤメ・キリノに触れようとするありとあらゆるモノが、祟られ燃えて灰になる。

 

 森羅万象、遍く総てが焼滅する呪いの世界を広げる者。

 世界を道連れに滅ぶ祟りの化身。

 今のアヤメは本人の意思と無関係に、そういうものに成り果てていた。

 

「そうですか」

 

 そんな現世界の秩序を否定する存在を。

    新世界の秩序を広げ続ける存在を。

    新たな世界を生み出す存在を。

    世界の法則を()める存在を。

 人がなんと呼ぶかは、古来より決まっている。 

 即ち────『神』と。

 

「だったらその身で味わってみてください、鳥頭」

「言うじゃない、成りたての癖に」

 

 そして今、『再演』と『呪滅』の幻想が真っ向から激突した。

 

 

 時を同じく、墜落したアインの方でもそれは展開されている。

 何せ『呪滅』の幻想世界は、アヤメとアイン2人の物。現在(いま)を生きる人身御供2人が背負う呪い故に。

 

「なるほどこれは、そういうものかと認識する」

 

 アヤメと同様、千切れかけた全身を銀炎に包みつつ、紺と紫の双眸が別の金烏に向けられた。分身は撃滅した筈じゃなかったのか、艦隊はとうなったのか。浮かぶ疑問は多々あれど、そんなことより優先すべきことがここには在る。

 

 付けられない指輪の代わりに生涯を契った証であるアンクレットから、ずっと思いが伝わって来ている。悲しみが、嘆きが、自罰が、怒りが、歪みが、無数の負の感情の濁流が。

 

 幸せにすると、約束した筈なのに。

 その正逆に位置する想いばかりが。

 

「当方に誓いを破らせたことは、当方自身の不徳として受容する。だがアヤメを泣かせたことは、許さないと否定する……墜星・金烏」

 

 真っ直ぐに金烏を見据えながら、いや、と(かぶり)を振ってアインが言葉を付け足した。

 

「──七英雄、人王妃メリッサ・ガラントともう1人。恐らく歴史の影に埋もれた名も知らぬ影よ」

 

 墜星に共通してかかっている認識阻害の魔法が、呪いに耐えきれず焼け落ちた。結果、焼却される認識のベール。真名炙出。秘されていた本来の()が、白日の元に晒された。

 

「残念ながら、少し違うわ」

 

 恐怖や強さとは未知であるからこそ。

 名付けという呪いを受け、不快そうに顔を歪めながら金烏は告げた。

 

「私は人王妃でも忍びの勇者でもないわ。『獣』の爪で身体を無くし、心を失い欠けた2つの人格を、悪魔の身体に転写した複製体よ」

「認識した。ならば当方も、悔いをなく滅ぼせる」

 

 刹那、交錯する聖剣2種の銃口と剣先。

 

「随分と囀ったわね、後輩」

「アヤメの涙を贖え、先輩」

 

 上空で始まった剣戟を合図に、銃撃と斬撃が交わった。

 先手を奪ったのはアイン。時間の停滞を焼き尽くしつつ、不死殺しではなく『呪滅』を込めた通常弾をラピッドファイア。

 リボルビングライフルという異質な武器の特徴を、最大限に活かした6連射だ。そうして飛翔する魔剣装填で必中が付与された弾丸、それらの行き先を見ることもなくアインは後退。回転弾倉を叩き、焼けついた薬莢を排出する。

 これまでメンテナンスを除き、一度も廃莢する必要がなかった魔力弾の術式薬莢。たった1発でそれが灰に変わった反動に戦慄を覚えつつ、それでも身体に染み付いた動作がコンマ数秒で再装填を成し遂げる。

 

「ッ、こんな弾丸程度!」

 

 飛翔する弾丸の軌道は正に縦横無尽。聖剣による運動力制御も相まって、呪詛と害意の塊が飛翔する。

 忘れてはいけないが、アインは冒険者型人造人間・後衛型の第1号。普段は支援に徹しているが、戦争を生き延びた技術は熟達だ。加えて魔剣なしとはいえ、対人最強の異名を持つアヤメとまともに戦闘が出来る近接戦の記憶も取り戻している。

 端的に言って、アインの射手としての腕は英雄級を凌駕している。

 

「遅いと否定する」

 

 呪滅の弾丸6つのうち3発を愛剣を犠牲に金烏が斬り払い、その武装が灰に変わった僅かな間隙。1秒にも満たないその隙に、超速の徹甲弾が金烏の心臓を破壊する。魔剣レギオンαに搭載され復元されたAPFSDS、その魔力再現体。幻想ではなく不死殺しが乗った弾丸が、問答無用で金烏を貫いた。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 無論、その程度では()()()()終わらない。

 

「時よ、止まれ!」

装填(ローディング)──全てを貫けるように(ピアッシャー)

 

 金烏の周囲の時間が極端に停滞し、スリーハンデットが4振り引き抜かれる。自壊前提、1腕1振り。不死殺しの効力が完璧ではないうちにしか使えない破壊技。炎翼を羽撃かせ、武技を放つ為に金烏が飛翔する。

 その後を追うのは無数の光条。レギオンαの乗員が放つものとは比較すら出来ない数の光槍が、金烏を撃ち落とさんと空を疾る。光芒はまるで相手を包む鳥籠のように、リアルタイムで全てを制御されながら金烏に迫る。

 

「天、地、界、次元断──混成接続!」

「──聖剣、演算。封印術式解放!」

 

 だが金烏とて英雄に数えられた古強者。自らの夫だった者のように『純粋な剣技のみで過去と未来を切り裂く』ような真似は出来ずとも、世界くらいならば斬り拓ける。少々溜めは必要だが、それも幻想世界で十分に作り出せる。

 その剣の構えを見た瞬間に、アインも切る手札を切り替えた。自らの妻のように『暗記した数万の魔法陣から任意の魔法を作る』ような真似は出来ずとも、既知の魔法陣くらい描くことは出来る。普段は使い道がほぼないが、彼もまたナーハフート故に。

 

「神威抜刀──天鬼雨!」

「封印術式──展開ッ!」

 

 似ているようで正反対で、

 正反対のようでよく似ている。

 そんな2つの力が真正面から激突した。

 

 片や人族が行き着いた剣の果てが1つ、世界を切り裂くという常軌を逸した大斬撃。

 片や魔族が行き着いた魔法の極みが一、神をも封印するとされる超抜級の極大封印。

 

 金烏を中心に鳥籠のような軌道を疾る弾丸が封印を描き、内側から放たれる6腕による大斬撃が術式を刻んでいく。同時に再演の幻想が結界を蝕み、呪滅の幻想がそれを相殺。炎翼の羽撃きが産む熱風は、聖剣のエネルギー制御で相殺する。

 

「はぁぁぁぁァッ!!」

「ぐっ……、だがこの程度でと否定する!」

 

 全くの互角。いや、僅かにアインへ天秤は傾いているか。そう誰もが判断しかけた時だった。

 

「な──ッ!?」

 

 突如、アインの展開していた封印術式が崩壊した。

 理屈は単純、燃料不足に他ならない。

 魔法とは、魔力が十分に充溢した環境でこそ本来の効力を発揮するもの。それだというのに大魔法を、魔力資源の枯渇している場所で使えばどうなるか。その結果が、魔法の破綻だった。

 

「抜かったな、後輩!」

 

 よって、勝利の天日は金烏に大きく傾くことになる。

 解放された世界を断ち切る斬撃の大渦(ヴォルテックス)。遠く地平線の彼方まで切断する刃が、全てを巻き込むようにして炸裂する。

 百花繚乱、花吹雪のように斬撃が乱れ舞い、踊り、花火のように狂い咲く。

 

「掛かったな、先輩」

 

 再び切る手札を切り替える。前衛戦闘者としての記憶が戻ったとはいえ、今のアインは後衛として最適化されている。故に斬撃の全てを躱すことは出来ず、瞬きを重ねるたびに傷は深まり血が流れ出す。だがそんな事など意にも介さず、笑みを浮かべたアインが銃口を金烏へ向けた。

 

 刹那、金烏の頭に過ぎる無数の可能性。

 発射される弾は何か。通常弾、徹甲弾、炸裂弾、実体弾の可能性も、追尾弾もあるかも知れない。それともピアッシャーか、或いは幻想を込めた弾か。

 だがいずれにしても、斬撃の大渦は越えられない。そう剣閃を紡いでいる。そして今は躱していられるだろうが、脚に斬撃が届けばすぐにそれも終わる。そう判断して集中し、無数の斬撃を重ね──

 

 眩い閃光と超高音が、金烏の視界と聴覚を焼き尽くした。

 

「い、ァッ!!??」

 

 閃光発音弾(フラッシュバン)、理解はしたが何も分からない。見えない。聞こえない。過集中により深まっていた金烏の世界は、焼き尽くされ白化し何も映さない。

 視覚は頼れず、聴覚も失い、しかし金烏の知覚はまだ2つ残っている。即ち魔力感覚と、魔法による直接知覚の2種類が。人王妃としてではなく、勇者としての無限の知覚が。

 

「そんなこと、承知している」

 

 そして、必然的にそこを頼らざるを得ない状況に陥れることこそ、アインの狙い。言葉とともに白煙が中域に立ち込め、金烏の知覚へ8人のアインが浮かび上がった。

 

(デコイ)を、小癪な!」

 

 発生したスモークは魔法探知を妨害するよくある魔法。立ち上がったデコイは音も、触感も、気配も、魔力も、姿すらも偽った完全幻覚。玉兎が好んで使っていた術式のマイナーチェンジ版。しかも金烏の斬撃が届けば消え去ったように見え、しかし別の場所へ再出現する目眩しだ。

 

 勝負を決められる機会は僅か。フラッシュバンの効果が残るこの数秒しかない。

 

 それは至極当然の判断で最適解の筈だ。だというのに、何かが引っかかる。まだ後一歩届いていない。剣の大渦の中心を照準しながら、光学的にも魔力的にも潜伏した状態でアインは思案する。

 

 撃つべきか、撃たざるべきか。

 

「……狙い撃つ」

 

 逡巡は一瞬、ただし弾種だけは変更する。これまで射撃レパートリーになかった呪滅の幻想と特殊弾を両立した弾丸ではなく、あくまでただの特殊弾へ。

 

 激音、そして衝撃。

 

 狙いを過たず飛翔したはずの弾丸は、発射直後に飛来した何かによって撃墜され爆散した。幻想を込めていた場合、自らの呪滅に呪い殺されるような近距離で。

 

「ぐッ……」

 

 見れば、金烏の背中。炎翼だと思っていた1対の翼の接続部、そこに不自然な炎の長さがあった。

 視線が合う。声もなく、音もなく、潜伏している筈のこちらを確かに見据えて、その鳥と視線が交わる。

 瞬時に自分の勘違いをアインは悟る。金烏は2人で1体、それは間違いない。だが金烏自身がそう認めた時点で、まだ何かあるのは明白だった。例えばそう、今のように。聖剣:神威抜刀フツノミタマは無機物ではない。生きた魔物が核となり、担い手と合体する人間界型の融合魔剣であると。

 

「……見つけたわ、そこね!」

 

 金烏の斬撃が吹き荒ぶ中、己の直感に従い空を駆けながら全弾を通常弾のままラピッドファイア。しかし音の壁を突き破った弾丸は、金烏に届くことなく爆散する。

 

「認識した、羽根か」

 

 今度は見えた、飛翔する弾丸に直接突き刺さった炎の羽根が。風切りバネのような形をしたそれは、恐らく暗器か何かの類なのだろう。クナイとかいう物が近いかも知れない。見たところ、刺さった物体を停滞させ爆散させる物らしい。

 

「……金烏の性能を把握した。これで終わりだと宣告する」

「そういうことは、倒してからいうものよ!!」

 

 時間が一瞬凍りつき、アインの前に金烏が出現する。瞬間的に出力を跳ね上げ、無理やり拮抗を破っての最終突撃。なるほど確かに、遠距離得意であるアイン・ナーハフートに対するには最適な戦法だ。

 

「残念ながら、当方(アルブレヒト)は既に克服している」

 

 振り下ろされた最初の2撃は、聖剣のストックによる打撃で手首を砕き妨害。下から掬い上げるような一刀には足裏を合わせ、聖剣による制御で足場に変え跳躍。最後の突きを不発させる。

 

 狙い、定め、アイアンサイト越しに星を見る。

 

「では、さらばだ」

 

 射撃。呪滅と不死殺しの魔弾が、聖剣の加護を得て物理法則を無視した動きで金烏へ飛翔する。

 射撃。通常弾で魔弾を追いかけるように一射。

 射撃。聖剣の加護を込めて2連射、歪んだ軌道とズレを持ちながら飛翔。

 射撃。ピアッシャーの光槍による鳥籠形成

 最後の1発は手元に残し、ブラフの意味も込めて全薬莢を排出。自ら一部は灰に変え、逆さの天を足場に跳躍する。

 

「こんな、程度!!」

 

 斬撃、魔弾に向けて1本目の刀が向かう。狙いは悔しいほどに正確極まり、このままでは間違いなく魔弾は切り捨てられる。

 故に2射目の弾丸が必要だった。魔弾を追い越す速度で放った弾が、斬撃よりも早く激突。ピンポールのようにそれぞれ別方向へ弾けた。

 

 斬撃、弾けたそれぞれの弾丸へ2刀が向かう。一体どんな探知能力を持っているのか、またしても魔弾を切り捨てるルートに刀が乗っている。挙句、既に4と5射目の弾丸まで切り捨てている始末。

 ()()()()()()ピアッシャーによる制圧射撃。八岐ならここまでやるという予測を前提に、金烏へも敵用した弾の雨。拡散、拡散、更に拡散。与えるダメージが衝撃のみにまで下がった弾幕で、2刀の振るうタイミングを破壊する。

 

 斬撃、最後の一刀。だがそれくらい、演算力の余った今ならどうとでもできる。

 突如、現実感を破壊して一時停止する弾丸。運動力の完全制御により、ただでさえ理解不能な動きが加速する。すり抜けた刃と再度最高速まで加速する弾丸が結果として残り、一直線に弾丸は金烏の心臓へ……その向こうにある聖剣へ向かう。

 

「チィッ!!」

 

 弾着の直前、弾と胴体の間を影が刺す。それは金烏の尾、3本目の脚に見える金烏の名の由来。そしてこの瞬間まで秘されていた最後の切り札。それが尋常ならざる硬度を以って魔弾を弾く。

 聖剣による修正は間に合わず、金烏の4剣は既に構えを完了。のこのこと落ちてくる獲物を斬り裂かんとし──

 

装填(ローディング)──血で染まりし紅頭巾、殺戮するは我にあり(フェルカーモルト・レッドキャップ)

 

 寸前、背後から4つの魔弾が金烏を貫いた。

 魔剣レッドキャップ、アヤメの心に傷を残した誰かの遺品。その能力は必中と移動速度の上昇だけではない。相手の死角への弾丸転移、その能力が火を吹いた。

 

「なん、4……?」

 

 最初に金烏が弾いた弾丸は3つのみ。それにたった今外れた魔弾も含め、故に4発。死を告げる数の弾丸が、金烏を蝕み呪っていく。

 

「最初に放った3発だと宣告する」

 

 そして、手元に残った最後の1発。手持ちのあらゆる物を込めた魔弾を、いわゆる零距離で金烏の額に照準。

 

「では、今度こそさらばだ。先輩」

 

 撃ち抜いた。




アヤメ   残り24日
アイン   残り38日
残存正規兵 約2,000人
残存人口  約400万人

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