動き始めたアヤメ達からは遠く、遠く、かつての王国の城の中。
墜星・勇者と呼ばれる彼は、今日も変わらず1人で空を見上げていた。
かつての戦友から借り受けた幻想世界で、完全に閉じた白乱の夜空を。最早誰も、同類すら居なくなってしまった孤独の中で。
「♪〜」
誰も彼もが動きを止め、草木も眠る丑三つ時。玉座の間だった場所に、1つの歌が響いていた。
内容は何も特筆すべきことはない、単なる未来を祝福する明るいバラードだ。ただ勇者に限ってそれは違う。
この歌は、片想いを拗らせていた青春の残り香で、遥か彼方に置いてきてしまった青春の残響。死して蘇った勇者に残る、どうしようもない執着の形。そして紛れもなく、自分が愛した人の娘に対する祝福のソレだった。
「……あと、少し」
無限に続いたリフレインが、まるでスイッチが切れたかのように突然停止する。
「あと少しで、運命が決着する」
勇者は、全てを見ていた。
アヤメも、アインも、リィンも、ミーニャも、何もかもを。
自分が彼らに強襲されようとしていることも。
何せ人間界は事実、墜星・勇者の世界だ。幻想世界は借り物なれど、森羅万象を掌握した彼だけの世界。彼の為だけの世界。彼女の為だけの揺籠。故にその中で生きる生命体を把握する程度、勇者にとっては僅かな苦にもなりはしない。
自分が勝つか
彼らが勝つか
決着の時はすぐそこで、同時に世界の終わりもすぐそこだ。自分が蘇り、生き恥を晒し続けて来た意味はこの日の為に。きっとそうなると勇者は信じている。アヤメ・キリノとアイン・ナーハフートを信じている。
「僕を倒せるのなら、それでよし。きっと、あの人は救われる」
だって、人とは無限の可能性に満ちた希望の器だから。果てなき光を胸に
「だけど僕を倒せないなら、例え君があの人の娘でも。僕がこの手で未来を奪う」
だからどうか、失望させないでくれと。希望を見せてくれと。こんな悲しい程に平和と停滞に閉じてしまった、誰も望んでいない世界を壊してくれ。新たな世界の開闢で、遍く全てを壊してくれ。他の誰でもない、自分たちのその意思で。
中天にて聖なる勇者は祈りながら、全ての臨界を待っている。
「
自分が一度分断したが、2人は既に真理へ辿り着いた。
「結晶樹の映す
ならば今度こそ、暴発ではなく新たな未来を紡ぐものとして。
「無限の祈りを奏でながら、新たな世界を待っている」
彼女が、彼女たちが怨敵と共に封じ込めた、悲しき岩戸を崩してほしいと。この世界ではもう勇者以外、誰も知ることがない真実を零しながら。
「さあ、銀灰の神楽を始めよう」
世界を救う為、召喚された異世界の勇者として。墜ちた星はその時を、今か今かと待ち焦がれていた。
全ては明日。きっと1日で、決着という終わりが訪れるから。
◇
『作戦の開始前に、改めて内容を確認します』
魔剣レギオンαの機体を受領した翌朝。
艦隊上で出撃準備を整えた私たちに、ユビキタス・ネットワーク経由でミーニャ女王から通信が入った。ブリーフィングは済ませた筈なのだけど、最終確認というやつだろうか。
『本作戦の目標は、こちらが先手を打ち墜星・勇者を撃破することによる安全確保。現在地点より、エモフの街を経由し、城塞都市リフンへ。そこから転移装置を利用し、勇者の居城である旧王都スヴィエールを強襲します』
そこまでは以前、聞いた通りの作戦だ。改めて確認するが、不自然な点はさして見当たらない。事実、八岐や玉兎、金烏の時とは違う視線が今朝から私に向いている。
威圧的でもない、粘着質でもない、焼けつくでもない、優しい視線。春先の陽光のように暖かく、しかして寂しさも感じる視線が。
ならばもう、見つかったと判断するべきだ。
既にそのことは伝えたし、だからこそ不意打ちではなく強襲に作戦が変わっている。長時間は使えないが、視線を切るための魔法はあるのだから。
『道中はきっと、苛烈な妨害が予想されます。ただ、ただ、それでもどうか──最後は、一緒に帰りましょう』
その言葉を最後に、通信が途絶する。
後に残るのは、機体越しに遠く響く重低音だけ。ごおん、ごぉん、とまるで怪物の唸り声のように音が重なっている。
ここはユ=グ=エッダ中央1番艦アルフヘイム、墜落後に増設された主砲の一部。魔術式の射出カタパルト。外面を移すスクリーン越しに、薄暗い艦内部からぽっかりと口を開けた空が見えていた。
「……とのことですが、実際生還率はどんなもんなんでしょうね?」
そこにあるのはたった1輌の多脚戦車とコンテナだけ。
本来であれば自らの脚か馬でも使って移動する予定だったらしいが、
形式としては殆ど馬車のそれ。引く生物が機械に変わり、引く乗物か補充物資を積んだ強力な武装コンテナ兼、リィンとアヒムさんの待機できる空間となっている。
そんな
『問題ない。勝つのは、我々だ』
『そういう話では無かろう、ケラウノスよ。とは言ってもだ、あまり悲観するでないアヤメ。余らであれば、如何様にも出来ようぞ』
通信越しに、そんな言葉が返ってきた。
これだけの戦力を有しながら、作戦を失敗することはないと思いたい。だがそれでも、相手は墜星なのだ。私たちの不死殺しは万全ではなく、相手は強大。
魔剣の加護がないということは、こんなにも心細いことだったのかと。今更ながら実感が追いついてきた。私は今、少しだけ揺らいでいる。
「帰ろうと、約束する」
「……ええ、そうでしたね!」
最後にかけられた、優しいアインの言葉。それで本当に、覚悟が決まった。知らず震えていた手も収まり、しっかりと操縦桿を握りなおす。
《──錬金式魔力炉心、1番、2番始動。超魔導ケーブル接続、異常なし》
《カタパルトレールの加圧を開始。加圧魔法、展開率31パーセント。更に上昇中────》
《偽装鏡面術式、前面開放。カタパルトレール、展開開始》
見据えた先、四角い空の色が切り替わった。鏡面に浮かぶ理想の薄明から、真実人間界の移す宵闇の曇天に。そこに映るものは、何もない。雪でも降ってきそうな暗い空と、寒々とした風に乗った魔力の輝きだけ。
そんな空へ梯子をかけるように、金属パーツがスライドしてカタパルトが展開されていく。資源不足の為、爆砕ボルトではなく魔法式の固定接合。設計した身としては、少し後悔しているポイントだ。
《カタパルト、展開完了。発射準備を完了したと通告します》
聞き慣れた声。作戦としては機密性が高い為、彼女以外に私たちを見送る人はいない。だけど、きっとこれで十分だ。
《イトナミより、
「Positive!」
「偽装鏡面術式、限定開放!」
『飛翔補助・滑空術式展開、いつでも構わぬ。アヤメ!』
私達の機体を覆うように、魔法の光が包み込む。放り出した空を翔けられるように。何にも見つからないように。音はなく、けれど確かに力を得て。
「レギオンα[flagship]、発進!」
言葉を告げた瞬間、加圧魔法式カタパルトによる埒外のパワーが私たちの機体を蹴り出した。
「ッ……!」
刹那、どう考えてもマトモじゃない加速が私たちを襲った。
これでも箒に乗っていた時は相当な無茶をして、慣れていた筈なのに。保護の魔法すら貫通して、強烈なGが意識をブラックアウトさせにくる。
その中でも、煌めく魔力の光だけはいやに鮮明で。次の瞬間には、私たちは曇天の空へ投げ出されていた。
アルフヘイムに増設された加速レーンを瞬く間に駆け抜けて、殺人的な加速のままに空へ飛び出す。風に乗るでもなく、仮想海に浮かぶでもなく、私たちは空を翔け抜けていた。
『昔よりも、随分と強烈な加速になったものだな』
『余らは問題ない、そちらは気絶などしておらぬよな!?』
「当然、です。ちょっと危なかったですけど」
「問題ないと肯定する」
煌めく魔力の粒子を帯びて、人を忘れた緑の野を睥睨し、多脚の戦車は空を切り裂き飛翔する。
その高度は未だユ=グ=エッダと変わらぬ上空数百メートル、速度はとうにマッハの世界。例え悪魔であろうと振り切れる、捕捉不能な限界スピード。
だというのに、否、だからこそ。
「レーダーに反応アリ!
──龍種だと認識する!!」
この世界における空の支配者。人よりも、悪魔よりも、一個の生命体として上位の存在。空の領域を侵すモノを撃ち落とす、神威の化身か現れた。
それも1体や2体じゃない。竜には非らず、真なる龍が数える限りで24。空を侵した私達を撃ち落とさんと、雲の向こうから顔を出す。
『よもやこの【終末】下に於いても、絶滅しておらなんだとはな!』
『旧サーマスに魔物がいた時点で考慮はしていた。問題はない、やるぞ魔王リィン』
認識阻害に偽装鏡面、何するものぞ。我らを欺くには余りに未熟。合わせられる視線には、そんな赫怒にも似た気配と尊大さが篭っている。
だけど、それがどうした。
こっちだって、お前達が居ることは想定して来ている。
「ロックオンシステム、同期完了。いつでも撃てると肯定する!」
機体後部、牽引しているコンテナの天面装甲が展開する。鋼の下に隠れていたのは、剥き出しのハニカム構造。しかしその六角形の孔1つ1つには、アイテムボックス系のスキルに似た黒き虚が存在している。
『済まぬ』
ならば、そこから出るものは?
『灰燼に帰せ、遠き我が同胞よ!』
轟咆一閃。
リィンの放った
ならばこそ、尋常な生物である龍が耐えられるはずも無く。
射線の塞がっている前方60度の空間を除いた、総数19体の龍は抵抗すら出来ずに生命活動を停止させた。だがそれは逆説的に、残り5体の龍に破壊力を学習させてしまったということ。
悪魔によって一度は絶滅近くまで数を減らされてなお、天空の支配者であった彼らは伊達じゃない。言葉も、文明も、人の持ちうる利点を持たずとも、上位者として君臨できた存在が弱いはずがない。
『──墜ちよ』
現に、ほら。数百キロは離れた先から、言葉と魔法が襲って来た。
無属性、龍種などの上位種の固有魔法《言霊》。その効果は、言葉で現実に影響を及ぼすこと。なるほど確かに、強力な魔法だ。普通であれば対抗のしようもなく、鋼の飛翔は止められる。
だが──
「温い魔法ですね。これじゃ、墜ちてはやれませんよ」
金烏の魔法と比べると、蟻と像並みに力が違う。術式の構成が甘い、術式の出力が低い、そして何より殺意がこもっていない。
「クラック!」
そんな魔法で私たちを殺そうだなんて笑止千万。私の干渉域に触れた瞬間、タイムラグなく魔法をハッキング。経路をたどり、回路を壊し、魔法そのものをオーバーロード。全てを跳ね返して、龍の脳みそを焼き切り──
「弾種:ピアッシャー、エネルギー充填100%。ファイア!」
追い撃つように、光の速度で放たれた砲撃が2体の龍を貫いた。
残り1体。だが気がついたときには、最後の1体の姿が消えていた。撤退した? いや、ここまで仲間を殺されてそれはあり得ない。ならば答えは1つ。魔法による姿隠しか、或いは──
「機体下方30mに高エネルギー反応、転移して来たと推測する!」
もう1つの可能性が具現化していた。
しかも厄介なことに、機体の下方という戦闘上の死角まで把握しているらしい。無駄に頭がいいと、心の中で舌打ちする。コンテナを連結している限り、空間的な立体軌道は封印されている。
だが、私たちにはもう1人。誰よりも強い男が味方にいる。
「ッ──!?」
他の誰とも違い、力に言葉や音すら必要なかった。
背後で爆発的に膨れ上がる殺気。絶死の聖域に迷い込んだ時のような、総身を貫き凍てつかせる死と終わりの気配。私達の幻想世界とは似て非なる、対極の終焉。
その片鱗が解放されて、それだけで終わりだった。
龍の動きが止まる。転移を終え、私たちの機体を噛み砕かんと大口を開けた龍が動きを止める。凍てついたかのように、或いは自分が被捕食者だと知ってしまった生き物のように。
「──」
そして、圧倒的上位の生物である筈なのに。まるで私たちへ恐れをなした様に、命を繋いだ龍は閉口して雲の上へと昇っていった。
レーダーに映る感知の光点が消えるのを確認して、背部コンテナの装甲が閉じる。あまり消耗をしていられる状況ではないのだ。武器弾薬に魔力も、あまり使わないに越したことはない。
『アヤメ・キリノ、エモフ到着までの時間はどの程度だ?』
「このまま順調に進めば……妨害がないならば、減速も加味して1時間ほどかと」
静かなアヒムさんの問い掛けに答える。
地図上では大体エモフの街まで、そのくらいの速度で私たちは進んでいる。だがカタパルトの加速もいずれ切れ、減速と着陸が待っている。そのことを概算で出せば1時間前後になる。
ただあくまで、その計算は妨害がないことを前提にしている。今の龍種くらいの妨害であれば殆ど時間のロスは起きないだろうが、これ以上の妨害もあると見ておくべきだろう。
『了解した。このまま待機を継続する』
『のう、ケラウノスよ。お前様、そんなに律儀な奴であったか?』
『今は作戦行動中だ。少しは緊張感というものを持て、魔王リィン』
『軍人とは、頼りにはなるが融通が効かぬのう』
ただ、こうしているとリィンのお陰で少しだけ楽しくなってくる。きっと私とアインだけでも、アヒムさんが加わっただけでも、もしミーニャ女王が加わっていた道中でもあり得ない明るさ。そんな優しい余裕が、今の私たちにはあった。
「楽しそうだが、何かあったのかと疑問する」
「いえ。最後の旅がこの4人で良かったって、そう思って」
そう、その言葉に尽きた。
これは獣王ー魔王連合国の最後の作戦で、私とアインが出ることが可能な最後の旅だ。その面子がこの4人で、本当に良かったと。心の底からそう思う。
そんな、私の安堵を切り裂くように。
──ジリ、と視界にノイズが走った。
それは、また過去の残影が現れる前兆。だがアレも来ると知ってしまえば驚くものでもない。飛行をオートパイロットに変更、気絶と衝撃に備える。
「ッ、来ましたか!」
視界にノイズが走る。
『やはり来おったか。余らに見せて、何を……』
視界にノイズが走る。
『待て、貴様ら一体なんの話を──』
アヒムさんの言葉を最後まで聞く事もできず、脳に直接何かを叩きつけられるような感覚が走り。私たちの中を、何かが駆け抜けていった。
◇
青く透き通った空が見えた。
まだ結晶樹に覆われておらず、悪魔の手にも落ちていない本来の空
そんな蒼穹と白い雲海を下に見て、黄金と翡翠の船が空を飛んでいた。
その玉座の様な船の乗員はたったの2人で、どちらも知っている人物だ。
片や、いつ見ても印象の変わらない私のママ。アヤメ・キリノ。
片や、私の知る姿よりもかなり若い私の義父。リュート・カンザキ。
在りし日の2人が、人間界の空にあった。
「ねぇ、リュートさん。実際に人間界の空を飛んでみて、どんな気持ち?」
「どんな気持ちって言われてもなぁ。昔は本当に、こんなことが出来るなんて思わなかったよ」
「確かに昔なら、異種族の飛行兵器だって言われて撃墜されかねなかったもんね」
2人の姿は、見たことがない程明るいものだった。
私の知るリュート公爵とも、ママの姿とも全然違う。或いは2人それぞれの伴侶と話している時とも違う。同郷の友人の様な距離感。
それは本当に楽しそうで、だけど同時に隠しようもない影がそこにはある。
「それで、早めに本音で話そうか。イオリさん。わざわざ僕をこんな場所まで呼び出して、何か相談したいことがあるんでしょ?」
「……まあ、リュートさんにはバレるか。じゃあ隠さずに話すけどさ。近くの異世界から、チート持ちの転生者を集めたいんだ。協力して」
一転、真剣な表情でイオリ・キリノは言った。
嘘偽りなく、私たちの常識であれば危険人物である転生者を集めると。
「イオリさんのことだから、きっと考えがあるんだと思う。だけど言わせてもらうよ。正気じゃない、絶対反対だ。僕らみたいにマトモな転生者がどれだけ少ないか、分かってないとは言わせないよ?」
「まあ、ね。私だって分かってるつもりだよ。どれだけマトモに見える人でも、転生者には死を経験したからか欠けが多い」
かくいう自分もその1人だと、自嘲を交えてイオリ・キリノが言う。
自分が抱える“鍛冶”という行為に関する異常極まる執着。愛娘にまで遺伝してしまった、欠損を埋めようとする願望。
力で叩き直されたがあまりにも傲慢であったという、リュート・カンザキの過去の性格。自己顕示の止まらない暴走。
そういった物ならまだ、良い。だが転生者にはそう言った、それ以上の欠損が多く、本来なら戦力としてアテにしてはいけない存在だ。
「でも、このままじゃ私たちは全滅する。誰一人として生き残れずに、あの【悪魔】に食われて死ぬ」
「冗談言わないでよ。確かにあの【悪魔】は強い。でも、実際に撃退出来てるじゃないか」
「数が少ないからね。100や200なんかじゃない、今度はもっと万、億、兆……少なくとも私が観測した未来だと、京をこえて垓に差し掛かるくらいの【悪魔】がいた」
「だとしても、最近イオリさんは何個も強力な魔法に武器を表に出してる。あの幻想世界なんて、一つ間違えば世界を塗りつぶす劇物なんだよ!?」
そんな、自ら世界を殺す様な術があってすら足りないのかとリュートが吠えた。
そんな言葉に真っ向からぶつかって、イオリが首を縦に振る。
「あの魔剣とかいう武器だってそうだよ。アレは、僕たちが手にして良い時代の武器じゃない。完全にオーパーツで、あんなのが世界に溢れたら世界が終わる!」
「そんな世界を終わらせる様な武器があっても、【悪魔】へ対抗するには足りないって言ってるんですよ!!」
涙を浮かべ、声を枯らして、叫んでいた。
「私がどんだけ頑張っても、作れる魔剣の数は決まってる! 試作型が15本、Ⅱ型が1,500本、Ⅰ型が30,000本! たったそれだけしか、命を削っても私には作れない!」
「いざとなったら、僕が原初の地獄を開く! それでも──」
「足りない、全然足りないんだよ! 未来が全く変わらない。ティアの占いでも見通せない! 黒一色に塗り潰されて、3年より先の未来がない!」
「それなら、転生者を連れてきて何が変わるのさ」
「戦争の、終わりが見えた。世界は【悪魔】と転生者のせいでめちゃめちゃで、大陸だって吹き飛んで。それでも1割の人間は生き残る。生き残ってくれる!」
裂帛の思いが叩きつけられ、段々と過去を覗く私たちとのリンクが外れていく。
「恨まれるよ、きっと」
「わかってる」
「この世界の人たちからも、転生者の人達からも、転生者を奪われた世界からの人達からも。きっと、世界全てに嫌われるくらいに」
「分かってる」
「分かってない! いい? イオリさん。僕が言ってるのは、あの子、アヤメちゃんにまでそれが引き継がれるってことなんだよ!?」
これまで平静を保っていた過去のリュートさんが、イオリ・キリノに掴みかかる。
その身長差と体格差は圧倒的で、瞬く間にイオリは空中に宙吊りになる。だがその表情は、欠片も曇ってはいなかった。
「それでも、やらなくちゃ誰も生き残れない。生き残れないんだよ、リュートさん……」
「……分かった。ならまずは、──から──と──を呼ぼう。顔見知りから集めた方が、きっと良い」
そうして段々と、世界が遠のいて──────