銀灰の神楽   作:銀鈴

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いまは昔あるところに/Recollection【05】

 気がつけば、また過去の残響は通り過ぎていて。

 けれど耐性でも出来たのか、今度は長く意識を失う事はなかったらしい。視界の端に映るレコーダーの時計は、私たちが意識を飛ばしていた時間は10秒程度だったということを示していた。そして──

 

『一体、何があった』

 

 このモノトーンの残影は、アヒムさんにだけ見えていなかった。

 

『ケラウノスよ、お前様には見えておらなんだのか?』

『ああ。俺からすれば、突然貴公らが気絶したとしか言えん』

 

 そんな会話を確かに聴覚で聞きながら、私の意識は未だにモノトーンの過去に囚われたままだった。

 頭の片側、戦闘者としての私に影響はない。

 だがそちらではない片側。日常を生きる私の思考は、衝撃から立ち直れないでいた。

 

「端的に言って、過去の記録の再生に巻き込まれていると報告する。時期は英雄戦争期、七英雄イオリ・キリノを中心としたものだ」

『ほう、具体的な内容は?』

『イオリ・キリノとリュート・カンザキの談合であった。何やら他世界から転生者を連れてくると話しておったな』

『……そうか、その時期か』

 

 納得した様な頷きと溜息が聞こえてきた。

 物心ついていなかった私やアイン、産まれてすらいなかったリィンと違い、アヒムさんは当時を生きていた。だからこそ知っているのだろう。あの後、世界がどうなったのか。私たちの知る獣人界へ、どの様な道を辿ったのか。

 

「何か、あったんですね」

『ああ。軍が最も同族を殺し、殺された時期だ。貴公には──そうだな、セプテントリオが離反した時期と言えば理解しやすいか』

「ええ。そうですね」

 

 世界をかつての時代に、子供が笑えた時代に巻き戻そうとする凍てつく颶風。あの人がそんな思想を持つ様になる程、悪魔も転生者も暴れたのだろう。それは私たち以降の世代が胸に刻む『転生者を名乗る者は警戒しろ。あわよくば逃げろ』という言葉が証明している。

 

『しかし余、アイン、アヤメの3人のみが見、ケラウノスが見ておらぬのは何の差であろうな』

「血の繋がり、或いは年齢の差だと推測する。当方、アヤメ、リィンの3名に共通し、ケラウノスのみ異なる条件はその2つだと認識する。ならばまだ前者の方が意味を感じる」

 

 私たちは全員ステータスシステムで言えば、個人の至る限界点にいる。性別や種族では矛盾が生じ、職業や純血種か否かという点も同様だ。ならば残るのはその2要素のみ。

 そして、この過去は恐らく墜星の見せる幻だ。ならば血縁の方がよほど理屈が通る。

 

『ふむ……なるほど、把握した。つまりこの一件、俺には参加資格がないということか』

『済まぬな、余らに巻き込むような形となって』

『いいや、構わん。己を刃と定めた以上、俺に出来ることは斬ることのみだ』

 

 ぶっきらぼうに、あるいは斬り捨てるようにアヒムさんが告げる。光に向けて前進することを是としながらも、自分を剣と定めた言葉。

 そこには私との、否、戦争帰り特有の平和との隔絶があった。私には察知出来ない刃金の決意。平静に繕ってはいるが、こんなにも揺れている私の心とは違うモノ。

 

 そんな恐ろしくも眩しいモノを見たせいなのだろう。

 

「──私のママって、あんな風に泣く人だったんですね」

 

 普段なら隠せる様な言葉が、思わず溢れた。

 

 私の知らない、知ることすら出来なかった顔だった。

 天真爛漫、磊々落々、傍若無人。そういった言葉が似合う姿こそが、私の知るママの姿であった筈なのに。モノトーンの過去に映った涙と決意の姿は、あまりに私の記憶にある姿と乖離していて。

 けれど悲しいくらいに、2つの姿はよく似ていて。

 

「一体どれだけ、(むすめ)の前で無理をしていたんでしょうね」

 

 想像して、感謝や賞賛より先に恐れがきた。どう考えても普通じゃない。明るく優しい母親と、悲壮で揺らがぬ死神と。表裏が分かれすぎている。

 泣いて、嘆いて、苦しんで。それでも世界をどうにかしようと、手を打ち続ける。ずっと前に前に前に前に……(わたし)という存在を核とし決意を胸に、闇の未来を切り開くため進み続ける存在。

 あまりにもそんな人物、人間離れし過ぎている。

 

『知らん。だが英雄なぞ、所詮はそんな存在(もの)だ』

 

 揺れ続けていた私の心を斬り裂くような言葉が、通信越しに投げかけられた。

 

『常人には理解できず、理解されず、進み続け理想を実現できてしまう破綻者。できてしまった成れの果て。そういう存在こそが、英雄と呼ばれることになる』

 

 そういった手合いは腐るほど見てきたと、己が身を魔剣と定めた男が言う。

 

『そして最後には、本当に欲しかったモノを取り零す。俺のように、死神(ヤツ)のように』

 

 それは常の様子とは違い、あまりにも弱々しい声だった。

 

『貴公が一体何を見たのか俺は知らん。知ったところで共感できるとも思えん。だが1つ、先達として助言をしよう』

 

 しかしそんな弱い影を振り払って。刃で斬り捨てたように、私がママから感じた印象そのままに“心を切り替えて”、さも何事もなかったかのように言葉が続けられる。

 

『喜べ、アヤメ・キリノ。貴様は英雄足り得ない』

 

 それは暗に、私以外にはその素養があるという宣告にも等しい言葉だった。

 

『迷え、そして大いに悩め只人の娘。出来るからと命を燃やし、人であることを手放すな。そのような短絡、貫き通せるのは我々(えいゆう)だけだ』

 

 しかし同時に、()()()()()()()()()寿()()ような言葉で。

 

『悪くはない機会だ。貴公ら皆、考えるといい。己が真に誇るべきモノを』

 

 背を推すような言葉でもあった。

 

『考える時間というものは子供の特権だ。俺は頼るには能わん男だが、その時間を与えられる程度には大人であるつもりだよ』

 

 そうして、胸にほんの少しの疎外感(しこり)を残し。

 一線を引いた、突き放すような言葉で話は締め括られた。

 

 きっとそれは、正しい言葉だ。

 だがそれを認めてしまえば、私とアインの覚悟は否定されてしまう。『最後の時まで幸せに生きて2人で死にたい』という鉄火場の答えは、間違っていると認めてしまうことになる。

 痛くて、辛くて、苦しいだけの現実を、直視しないといけないから。

 もしかしたらそれは、私達が向き合うべきナニカなのかもしれないけど──

 

 ──なんて、思考を断ち切るように。けたたましい警告音が鳴り響いた。

 

 慌てて地図に視線を向ければ、減速を開始する予定ポイントが近づいてきていた。限界駆動を出来ない以上、このレギオンα[flagship]には担い手(私とアイン)魔力(ねんりょう)切れが起こり得る。

 その為の中継地点。その為の着陸だというのに、心の内側に潜ることにかまけて忘れていた。想いや理想より先に、対処すべき現実がある。変わらない、いつもの話だった。

 

「着陸態勢に入ります。後ろの2人は、何かに掴まっててください」

 

 私が蓋をした、自分が本当に望んでいること。そんなあるかも分からない心の深淵は既に遠くへ。操縦桿とフットペダルに意識を集中させた。

 

「仮想海術式展開、減速を開始する」

 

 アインの言葉の直後、機体の周囲に()()()()()()。行っているのは超軽度の現実改変、大陸艦隊やユ=グ=エッダが空に浮上するのと同じ術式だ。

 機体周囲の“空気”を概念的な“海”として書き換える。その事によって艦隊は空に浮かび、私たちは空気抵抗ではなく水の抵抗を受けて減速する。機体周囲の白波と水飛沫がその証だ。

 

「減速完了まで3、2、1──減速完了! 着地します!」

 

 段々と速度を殺し、高度を下げ、それでもまだ高速と言える速度で地面に着地。元々、空中軌道を目的として作ったとはいえ、とんでもないハードランディングだ。

 

「くッ──ぅ……!」

 

 魔法や機械システムの軽減を受けてなお、意識を失いかねない振動と衝撃が襲いかかってくる。そうして緑色の世界を4脚で深々と耕し、黒と茶色を抉り出して。ようやく私たちは停止した。

 目が回るような感覚があるが、4人の中で一番脆い私でこの程度。他の3人に関して心配は必要あるまい。

 そして、おおよそ10kmキロメートル先──今は地平線に沈んだ向こう、減速中にそれを見つけていた。自然に飲み込まれた街道が繋がる、燻んだ鈍色の城壁を。旧都エモフ、私のパパが産まれた故郷を。

 

 

 意外な事に妨害はなく、私たちは予定通りエモフ内部に侵入する事が出来た。朽ちてなお堅牢な外壁を駆け上がり、侵入したのは廃都サーマス同様に緑へ飲まれた街。人の営みが消えた獣と植物の世界。

 ある種かつての獣人界にも似たその環境は、快適でこそないか親しみが強い環境でもある。故に──

 

「この程度切り拓けば、休息には問題ないだろう」

 

 私たちの中で誰よりも、休息場所の確保が巧みなのは意外にもアヒムさんだった。

 かつては民家であったらしき家屋の内部から、天に聳える緑の大樹。そこに生い茂る葉に隠れるよう機体を隠し、かつ私たちが休める場所を数分足らずで構築していた。その手腕は、見事と言う他ない。

 

「少々、予想外だったと否定する」

「俺とて元々は1士官だ。この程度、前線で腐るほど経験している」

 

 軽く下草を刈った2人がそんなことを話していた。だが軍属と冒険者、所属は違えど昔からどちらも野営を前提とした職種だ。大将なんて地位の人物が、という驚きこそあれ、納得はできる話でもある。

 

「アヤメよ。獣避けに虫除け、存在偽装は展開し終わったぞ」

「ありがとうございますリィン」

 

 軍は大人数での進行を前提とし、その全員が僅かで休める場所を構築することを得手とする。対し冒険者は少人数での冒険を前提とし、少しでも自分達が快適に休めるようにすることを得手としている。

 つまり、今度は私の出番だった。

 虫、獣、魔物に悪魔、そして他者の目。休憩を邪魔するようなものを徹底に排除する、冒険者間に広がる結界術式。リィンに使って貰っているが、これさえあれば大抵の生物の手からは逃れられる。

 

「しかしこの術式、珍しい構成をしておるの。内側からも追い出す形とは」

「ミミズとかノミとかには効かないので、別の魔法に頼るしかないんですけどね」

 

 特にノミやダニは獣人にとって悪魔と同格に嫌われてる。抹殺用の道具や魔法まで開発されてるくらいに。

 そんなことを考えながら、小さな鍋に張ったお湯へ投げ込んでいた()()()()()戦闘糧食を取り出した。今の私が唯一食べられる方とは違い、色々と豪華なレトルト食品が詰め合わせになっている。

 地球産の技術を解析転用したもので、結構な種類メニューがあって美味しいんだとか。食べたことはないし、今後食べることも出来ないけど。

 

「3つ温めておいたので、適当に食べちゃってください」

 

 パッケージ軽く火傷しそうな温度になっていることを確認して、これなら大丈夫だろうと3人に手渡した。

 そのまま火は燃えるに任せて、アインの隣に私も座り込む。

 私が取り出すのはあいも変わらず、味も食感も薄い消しゴムのような物体(レーション)と甘さを煮詰めた液体。こうして他の戦闘糧食から漂う良い匂いを嗅いでいると、こんな物しか食べられない自分が少し恨めしく思えてくる。

 それでもまあ、こんな状態の私でも栄養とカロリーが完璧に取れるのだから、食べないという選択肢は存在しないのだが。

 

「食べるか、と提案する」

 

 そんな思考からは目を逸らして、いつも通りの味を咀嚼する中。付属品のスプーンで中を突っついていたアインが、見かねてかそんなことを言ってくれた。どうやらアインの物はスープ付きだったらしい。

 

「じゃあお願いします。前からちょっと食べてみたかったんですよ、これ」

 

 言って、リィンやアヒムさんもいるので控えめに口を開ける。餌を待つ雛鳥なんて単語が思い浮かんだが無視。おずおずと差し出されたスプーンを咥えた。

 塩っぱい、そしてスパイスが効きすぎている。獣人感覚だからか、人間感覚てそうなのかは分からない。だが言えることは、レーションの真逆に位置するような味だった。

 

「……味、濃すぎません?」

「その消しゴムと、甘ったるい液体よりはマシだろう」

「余はどちらも勘弁したいのだが……」

 

 リィンはどちらもお気に召さないようだが、実際進歩はしているのだ。進歩は。

 それにある程度強くなった人は、大抵異次元に物を収納するスキルを習得している。好みの食べ物は自分で用意して、こちらは本来サブで食べればいいのだ。尤も、そんな物資が無いから引っ張り出してきた物なのだが。

 

「飴玉ならありますけど、要ります?」

「うむ!」

 

 返ってきた元気の良い返事に苦笑しつつ、リィンに飴玉を投げ渡す。ママといいリィンといい、やっぱり甘い物が好みなんだろうか?

 

「まるで、子供の引率だな」

 

 そんな思考を巡らせる私と、スプーンと睨めっこしているアインの対面。どこか柔らかい雰囲気でアヒムさんがそう言った。そこに悪意はなく、寧ろ何かを懐かしむような気配さえ感じられる。

 

「お嫌いですか?」

「ああ。奴の言葉を借りるようで癪だが、幾ら強かろうと女子供は戦場にいるべきではない。……今では誰もが唱えることすら忘れてしまった、青臭い理想論だがな」

 

 そうでなければならないと。平和に暮らせた筈の者を守れない軍人など、存在する価値はないと。アヒムさんは言い切った。

 間違いなくこれこそ奴……セプテントリオさんの、願いの根源なのだろう。私には分からない軍属であるからこその信念。その発展形。暴風貪団(ボレアス)はいつの間にか姿を消していたらしく、もう本人に直接問いただすことはできないが。きっと。

 

「して、これからの予定だが。このまま旧城塞都市リフンへ向かう、で良いのであったな?」

 

 食事も済み、魔力も7割ほどまで回復した頃。改めてリィンからそんな確認があった。

 

「ええ、そのまま王都へ転移陣で直行。強襲をかける作戦になりますね」

「そこで疑問なのだが、アヤメに照準しておるらしい墜星の眼はどう誤魔化すのだ? 監視されておるのなら、強襲など成り立つまい」

「そのために、ちょっとリィンにも頑張って貰わないといけません」

 

 元々の作戦とは違う点がそこだ。

 このままでは強襲が意味を成さない以上、対策を講じる必要が出てきてしまった。最近こそ使わずに済むようになっているが、墜星の目を眩ます為の術を私は持っている。夜眠る際に貼っていた結界がそれだ。

 

「光学迷彩、魔力迷彩、現実改変、認識阻害。ここまでやって見つかるというのであれば、それはもうどうしようもないと否定する」

 

 加えて、燃費は悪くなるが空中を歩行して行くのだ。痕跡を辿られ発見されるなんて愚を犯す心配も、限りなく低くなるようになっている。

 

「それに当方とケラウノスで、複製機体の遠隔操縦も行うと追加する」

「王都への直接侵攻、サーマスから内部探索の橋頭堡作成を始めとし、複数の陽動作戦を展開する予定だ」

 

 魔剣性能と数の暴力による、完全なる力技。たった4人で行う、多面同時進行。これこそ私たちが取れる、唯一にして最高効率の作戦に他ならない。

 

「あくまで私たちも陽動の1つに見せかけます。事実、ユ=グ=エッダの艦隊突撃とかの手札も残ってるわけですし」

 

 そうして最後の確認も終え、全員が機体に乗り込む。

 

装填(ローディング)──黙示の喇叭よ鳴り響け、( Legionic Apocrypha)悪なる全てを裁く為に(Ignition)

 

 さあ、ここからが正念場だ。

 アカネさんのユビキタスの通信が届いていないように、レギオンαが複製機体を操作できる距離にも限度がある。特化装備と中継装備を内蔵させて、理論値で100〜200キロメートル。当然視覚の共有も何もない為、操作は離れれば離れるほど難しくなる。

 故にここからは時間との勝負になると、操縦桿を改めて握りしめ──────ノイズが走る。

 

 

 そこは白く清潔な空間だった。

 この前、私たちが飲み込まれた白い空間なのだろう。似たような情景が、部屋の窓から見えている。

 部屋の中にいるのは6人。イオリ・キリノと、ロイド・キリノと、クラネル・レイカー。そして見知らぬ老いた男女。

 そして、ママの手の内に抱かれた赤ん坊。

 理屈よりも理解よりも早く、その赤ん坊が自分だと認識した。

 安心しているのだろう、我ながら余りにも穏やかな寝顔だった。

 

「んじゃまあ、私から。一応報告させてもらうぜ」

 

 本来ならばきっと、明るく優しい空気が流れていた筈の空間。しかし今、そこには緊迫した重苦しい空気が流れていた。

 

「アンタと私、あとそこの旦那が聞いた神託な。獣人界の王宮でも確認が取れた。マジで来てるぜ、あの神が言う【悪魔】とやら」

 

 生前の玉兎が言う。あの生々流転を司るクソ神め、やってくれやがったと。

 

「で、だ。ウチの王宮は軍備拡張に納得した。少なくともあん時に見せられた、世界が丸ごと食われて無くなるってこたぁ……無い、とは言えねぇが時間は稼げる筈だ」

「良かった……それじゃあ、人間界は……?」

 

 ぐったりとした様子のママが、視線だけを向けてパパへ問いかける。

 

「アルディート王にも話は通してきた。軍に関しては難しいらしいが、冒険者の育成には力を入れるそうだ」

 

 元々そういう政策も取っていたから都合が良かったと。そういう話であったとパパが言う。

 

「残念だが魔界はダメだ。王宮にすら入れなかった」

「うちの子のお嫁さんの頼みだし、出来ることなら叶えてあげたかったんだけど……」

 

 その言葉に、一瞬思考が止まった。

 息子の嫁。ということはつまり、この人たちが父方の祖父母になるのだろう。

 初めて見た。初めて声を聞いた。こんな人だったのかと、訳も分からない気持ちが胸に込み上げてきていた。

 

「分かり、ました。なら、私がやるしかないみたいですね」

 

 しかし、そんな思いをぶち壊すかのように。異様な覚悟を込めて、ママがそんな言葉を口にしていた。

 

「これでも、私だって半神です。アレの、リィンネートの言いなりになるのは癪ですが……やらなきゃ、未来は無いんですもんね」

 

「命を削って、魂を削って、それでも私はこの子と……アヤメと、ロイドと生きたいから」

 

「悪魔を、殺す力を打ちます」

 

「イオリ・キリノの、全てを以って」

 

 そんなママの気配に当てられたのだろう。モノトーンの中の私がぐずり、大きな声で泣き始めていた。

 そうして、泣き声が響いて、響いて、響い、て────

 

 

 3度目ともなれば、身体も慣れてしまうらしい。今回気を失っていたのは2秒ほど。胸糞の悪い気分だけを残して、灰色の衝撃は去って行った。

 

『ッ、悪趣味な』

 

 通信から聞こえたリィンの言葉も、同じようなニュアンスに満ちていた。

 

「アヤメ」

「大丈夫です。作戦、再開!」

 

 肩に置かれたアインの手の温かさに助けられつつ、今度こそ私は空へと機体を駆け上がらせた。




アヤメ   残り22日
アイン   残り36日
残存正規兵 約2,000人
残存人口  約280万人

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