銀灰の神楽   作:銀鈴

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魔を断つ剣、勇なる心、受け継ぐべき最後の光/The Brave【04】

 獲った。

 降り落ちる青白い極光が、勇者を飲み込んだ瞬間を見て確信した。

 金烏との戦いでは状況と船上という環境もあり終ぞ見ることはなかったが、絶滅神話(ティタノマキア)は墜星の不死性すら破壊する。それは玉兎を相手にした際の戦果で証明済みだ。

 

 だが──

 

「よもや、アレから間に合わせるとはな」

 

 アヒムさんの言葉に、私の予想が楽観でしかなかったと認識を改める。

 他ならぬアヒムさん程の使い手が撃ち漏らしたと言っているのだ。魔剣と限界駆動のぶん、私の感覚が鈍っていると見ていい。

 

「緊急脱出!」

「自爆コマンドを実行する!」

 

 そこまで思考が至り同時、背筋に氷柱を突き込まれたような悪寒が走った。加えて感じる、喉元にまで死が迫っている時のチリリと頸が焼けつくような感覚。

 

 このまま操縦席(このばしょ)に居たら死ぬ。

 

 そんな確信的直感に従って、万が一の為に搭載していたシステムを起動。バクンという音と共に両断されたスクリーン部分が爆発し、確保した空への進路に私たちの座る操縦席が打ち上がった。

 

「ッ、ゔ……」

「ッ!」

 

 だが、それでも少し遅かったらしい。

 背中に走った熱感は、攻撃を避けきれなかったことの証明だ。背中をやられたことだって、生まれて初めてだ。遅れて来た激痛に、無駄に思考へノイズも混じり始める。

 

 だが、だがしかしだ。

 

 このくらいの痛みなら、別に慣れている。気にするまでの事でもないと、改めて愛剣を握り締めた。

 

「シィッ!」

「はぁッ!!」

 

 出血の赤い尾を引きながら、無理矢理身体を反転。愛剣から銀灰色の光刃を発生させながら、背後に探知していたアインではない力の塊に向けて斬撃した。

 それはどうやらアインも同じだったらしく、銃口付近から同様の光刃を発生させソレに対して刺突していた。たった1人の銃剣突撃、だが威力は折り紙付きのそれと私の斬撃が交差して────そこにあった異様な光景に、一瞬思考が停止した。

 

 私とアインの攻撃を受け止めていたのは、蒼光が満ちた1振りの長剣()()だった。勇者の姿は何処にもなく、古い記憶で聖剣と呼ばれていた剣だけがそこにはある。

 しかしそこに姿はなくとも、確かに勇者の存在感とでもいうべきものがあった。

 

「なるほど、疑似精霊化」

 

 納得を言葉にしながら、決して逃がさないように力を強めた。

 精霊とは、自然発生した魔力が集合して形作られている存在である。身近なところでは、純血種の獣人が精霊術を使うために契約する存在だ。諸々の内容は飛ばすが、契約には私とアインが“目”を介したように、何かしらの物体が必要となる。

 そして、半分精霊の私ですらアインと契約出来たのだ。疑似的に精霊になっているという勇者が出来ない筈がない。無茶苦茶な理屈だが、理解した。

 

「聖剣を介した、精霊と化した未来の自分自身と、人間である過去の自分自身を契約したのかと認識する!?」

 

 何しろ、精霊という生命体に時間という概念は極めて希薄だ。机上の空論でしかないが、実現できる可能性は0%ではない。王城の書庫で、挑戦した研究論文を見たくらいには検討されていた話だ。

 だがそれは、過去も、現在も、未来さえも繋ぎ合わせてしまうような大暴挙だ。生も死も(うつつ)も希薄になる代わりに、疑似的に千里眼や未来視、過去視さえ出来てしまう。理論上は。

 

「事前情報があったとはいえ、まさか一目で見抜かれるとはね」

 

 聖剣から、勇者の声がした。

 何も不思議なことはない。なにせ致命傷を負い、大きく衰えていたとはいえ私のお義母さんは最高位の精霊だった。精霊の性質も、術の理論も、理屈も、この身を以って私は知っている。

 

鍛冶師(わたし)を前に、何もかも曝け出してよく言いますよ!」

 

 組み上げた封印魔法で聖剣の動きを妨害しつつ吐き捨てる。

 それに、ずっと言い続けて来た通り私の本職は鍛冶師だ。武具を創り、整備し、時には修復する者だ。なればこそ、武器を見ればある程度のことは理解できる。

 長さ約1500mm、刃渡り約1200mm、刃は広く直刃の両刃、両手で握れるほど柄は長い。分類するなら雑種剣(バスタードソード)か。装飾は華美なものはなく、権威を示すだけの最低限。細かい彫りをのぞけば、柄尻と(ガード)の先端にある蒼色(クリフォト)の結晶程度。最頻の使用者は右利き、斬撃を好み刺突の頻度は少なめ。多分、何回か仕立て直されてる。実用性を重視された、よく使い込まれたいい剣だ。

 

「決して届くことがない刃に、怯える必要があるかい?」

 

 拘束しながら理解を深めようと欲張った刹那、蒼の爆光が聖剣から噴出し私たちは吹き飛ばされた。

 弾かれた最中に見たのは、聖剣から勇者が生えるように再生していく姿。腕が、次は胴が、頭が、足が、輝きの中で再構成されていく。結晶化ではなく、光と化して勇者は再生するらしい。

 

「おかしい」

 

 だから、尚のこと不思議だった。

 

「何があったのだ、アヤメよ」

「あの剣も、鎧も、ただの業物です。聖剣じゃない」

 

 リィンの肩を借り傷を癒やしながら、逆手に愛剣を構えて言った。

 勇者が持つ旧聖剣とでも呼ぶべきか。あの剣は、私が見たことのある物の中でも最上位に食い込む業物だ。魔剣や聖剣を含めてなお、それは変わらない。鎧の方は微妙に断定できないが、同等クラスの代物に違いない。

 だが、それだけだ。

 聖剣や魔剣特有の構造は見受けられず、既知の理論の内部で完成している。特別なことと言えば精霊契約の媒介になっているくらいだが、それ自体は珍しいがそれまで。

 

「無茶苦茶ですよ、整合性がまるでありません」

 

 人の身で純血の獣人しかなし得ぬ精霊との契約をして、

 純血種の人族しか使えない武技を振るい、

 少なくともこれまでの“物体である”という、聖剣・魔剣のルールからも逸脱している。

 まるで、別世界の理で動いているような違和感が勇者にはあった。

 恐らく幻想世界かそれに類する物が展開されてる以上、そうと言えばそうなのだが……少し、違和感のベクトルが違う。

 

「もう1当たりで、見極めます」

「うむ、だが身体は保つのか?」

「最悪、薬に頼らざるを得ないでしょうね」

 

 現状、私たちの位置は奇しくも勇者を取り囲む形になっている。

 正面にいる私とリィンを頂点として、三角形を描いた頂点の位置にそれぞれアヒムさんとアイン。勇者がどう動こうと、誰かが対処できる配置だ。

 

「でも行きます、合わせてくださいね」

 

 だがそんな膠着状態、いつまでも続かない。続けられない。よって動くのならば、主導権を握る為にこちらから。私とアインの体力があるうちに。

 思えば、魔剣による無尽の体力がない完全に生身での戦闘は久し振りだ。だがまあ、やることの基本は変わらない。

 

 まずは、勇者の能力を解体する。

 

 遠く下方、レギオンαの残骸が爆破したタイミングで私は踏み込んだ。

 

「シィッ!」

 

 卑怯上等、一撃必殺。勇者とアヒムさん、尋常ならざる高出力の影響で探知の魔法はろくに機能していない。故に強制される有視界戦の隙を突く。

 勇者が瞬きをした一瞬に、静から動へと切り替え最高速で身を低く接敵。地を這う蛇か伸び上がる竜のように、銀灰の光刃を一閃した。

 相手からすれば私が消えたように見えるだろう、逆風から両断する暗殺技。魔剣の加護が乗った速度の今、例え一流相手でも容易く刈り取る自信はあったのだが……

 

「軽い剣だ」

 

 所詮私は片腕を無くした元一流で、相手はそもそも埒外の超一流。得物とリーチと重さの差も相まって、容易く剣を合わせられてしまった。

 けれどここまでは想定内。重なる剣のインパクトが起きる直前、光刃の展開を解除。すり抜けたところで再展開し斬撃を続行する。

 

「まあ、効きません、よねッ!」

 

 そんな2段構えの一刀も、煌めく鎧に阻まれた。

 これだから鎧は面倒なのだと舌打ちしつつ、あの時の銃弾と違い透かされなかった事実を確認。そのまま防がれた反動を利用して、勇者の聖剣に義手を添え牽制しながら全身を回転。今度は何も特別な力を込めていない回し蹴りを叩き込んだ。

 

超接近戦(インファイト)か……太刀筋といい、お父さんによく似ている」

 

 今度は鎧ごと攻撃を透かされた。まるで霞を蹴ったような手応えだった筈なのに、抜け切った瞬間に光の腕が私の脚を掴み取る。

 じゅう、と生身の部分が焼ける音と匂いがする。異常出力の高エネルギー体だ、予測はしていたが触れること自体が得策じゃないらしい。

 そして直に触れてみて分かったことだが、多分これは私たちの聖剣でも抑えきれない。エネルギー量があまりにも多すぎて、確実に処理能力が間に合わない。

 加えて不死殺しの打ち込みどころも不明だ。打ち込むべき場所がまるで分からない。性質的にそもそも打ち込めない可能性も、打ち込んだところで意味がない可能性すらある。

 

「でも、レディの脚を掴むのはマナー違反じゃないんですか」

「もしかして、戦場で女の子扱いされたいのかい?」

「まさか」

 

 だが今回のように、使って有利になる状況なら幾らでも使わせて貰う。ベッと舌を出し、口の中で生成していた煙幕の魔法を起動。黒煙を勇者の顔面に吐き出した。

 探知が効かず、五感にしか頼れない今だから意味があるジャミング付き煙幕。それのお陰で、控えていたリィン達が動き出せる。

 

「吹き飛ぶが良い!」

 

 一閃、光と化していた勇者の腕が飛んだ。

 赤い残光が描く円弧は、逆巻く銀河を翔ける流星だ。微かにではあるが、勇者自体にダメージを負わせている。圧縮された数多の秘呪がそうするのか、私には斬れなかったモノを斬っている。

 

「BANG!」

 

 ひとつ息を吐き、リィンに助け出されながらピアッシャーの光槍を展開。やはり銀灰色に染まったそれらを、視界の向こう、アインが放った同様の弾幕に合わせて投射する。

 当たれば間違いなく、何らかの影響はある幻想世界の破片が籠った光槍。中には通常弾も混じっているが、何故かそれに勇者は反応した。視覚は未だ封じているのに、剣を構えてこともなげに。累計24槍を瞬く間に切り捨てる。

 アインが放った弾丸は、実体弾はすり抜けて、魔力弾は鎧が防いでいる。そして、それらを飲み込むようにアヒムさんが放った極光斬は武技で回避。ここまでの情報を加えて考えた場合、大まかにその性質は掴めてきた。

 

「実体のある攻撃は殆ど透過。魔力由来の攻撃は出力次第で有効。特に純血種の技能。幻想世界は有効。同格のアヒムさんやリィンの斬撃は有効……」

「つまり、どうなのだ?」

「人類の限界クラスの多彩な技術を誇り、生物の限界を超えた魔力を保つ、人型の精霊体。端的に言って化け物です」

 

 まさしくそれは、人族、魔族、獣人族の特徴を取り込んだ生命体と言っても過言ではないだろう。人の至る究極系と言うべきか、或いは人智を超えた生命体と評するべきか。どちらにせよ、敵対する側からすればろくなモノじゃない。

 

 対処方法に関しては、わざわざ私が単独で、条件を変えた複数の攻撃を勇者に行い検証したのだ。この場にいる全員、わざわざ言わずとも1つくらいは有効打を持っている。故に……

 

「うん、ここまでかな」

 

 これから反攻だという時に、そう呟いて勇者が剣を下ろした。軽く脱力し、剣は下段……というよりも、本当に構えていない状態に。

 まるで意味がわからないし聖剣は起動したままだが、勇者は完全に戦闘態勢を解除していた。戦意すら薄くなっている。だからこそ、警戒を説くことができない。『ここまで』という言葉に、どうにも不吉な気配が拭えないから。

 

「天晴れだ。久し振りに、戦える職人の恐ろしさを思い出したよ」

「それはどうも」

「これが褒美になるかは分からないけど、1つだけ答え合わせを。僕の聖剣【永劫聖衰 ヤマトテンジョウ】は僕の肉体そのものだ。何せ僕には他の墜星と違って、蘇らせる身体がなかったからね」

 

 あっけからんと、あまりにも簡単に勇者は真実を口にした。

 剣でも、盾でも、防具や道具ですらなく、私やアインが付けている義体ように仮の肉体を聖剣としていると。それも一部ではなく、丸々全身を。

 

「それを明かして、貴様に何の得があるのかと疑問する」

「いい質問だ。情報を明かすことで僕には3つほど得がある」

 

 言って、指を3本立てて勇者は続ける。

 

「1つは僕の幻想世界『共存』の適用条件が、互いの能力を知ることだから。

 2つはそれによって君たちの『呪滅』『絶滅』『転生』『獣世』を見極めることが出来るから。

 3つは……僕も、最後のルールを破れるからだよ、アイン・ティアードロップ。かの大精霊の姓を受け継いだ遠い息子よ」

 

 まずいと思った時には、再び時が停止していた。

 

 無尽蔵の出力に任せた横暴極まり、けれどあまりにも繊細が過ぎる魔法からなる時間停止。その中で広がりゆく蒼救(そうきゅう)の星が満ちる恒星の宇宙、勇者曰く『共存』の幻想世界。

 それは私たち1人1人を星に見立てた惑星系(プラネット・システム)。本来なら恒星があるべき中心から、使い手である筈なのに外れた位置で、勇者は太陽に剣を捧げて宣言した。

 

「さあ、これにて前座はお終いだ。

 ここからが、これからが本当の戦い!

 何も救えなかった勇者が示す、最後の矜持!」

 

 探知魔法が完全にブラックアウト。魔力視ではなく単純な視覚すら、そのあまりに濃密な魔力で歪ませて。

 

「そしてこんな僕は踏み越えて、どうか救ってあげて欲しい。僕が大好きだった、優しい幼馴染を──

 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為!

 

 そうして、あり得ざる詠唱(いのり)停滞し(とまっ)た世界を貫いた。

 

かつての世には啀み合い、憎み合い、滅ぼしあった3種族

 そのうち1つ、人を司る種の名代として宣言する


 

 即ち、聖剣と魔剣の二重起動。

 常人であれば即座に命を落とす狂気の所業。私のエターナルや、そのシステムを応用したレギオン以外では、実現不可能な筈の異常。

 

3種族全ての勇儀が結ばれることは未だ無くとも、いつかの世界、いつかの未来に手を取り合わん

 

 だがそれを、平然と勇者は実行していた。

 

剣の誓いを今ここに


 

 私の知る『魔剣の二重起動は、魔剣の崩壊と担い手の死を齎す』というのは、あくまで“人”の理屈でしかない。ならば──墜星だったら?

 

数多の犠牲を背負いし果てに、悪鬼羅刹と蔑まれようと、屍山血河を踏み越えて、煌めく未来を創生せん

 

 その問いに対する答えは、旅の初めから持っている。

 私は今も克明に覚えている。

 つい先日、私たち全員で戦い大きな被害を受けながらも逃げ切った【デストロイ級】の悪魔。アレをたった1撃で、幼児より弱りきっていたお義母さんが灰に変えた姿を。

 

限界駆動(Over Drive)──手を取り合い希望を歌え(Cantare)人の徒、我らが祈りで救う為に(Amantes Amentes )

 

 故に、

 

「「偽・天地失墜(Fallendown)──希望の花を照らせ無限の光(Ayame Bloom)共に新たな道を選ぶ為に(Ain Soph Aur)!!」」

 

 勇者の語る『共存』なる幻想世界に全てを賭けて。停滞の縛鎖か消えた瞬間、自らに課していた封を破り私たちの聖剣を起動した。

 当然ながらアインとのタイミングは全くの同一。

 聖剣を起動した場合に私たちが行き着く末路は、幻想を撒き散らす神という名の災害だ。そのことは十分に理解している。理解しているが、この場で聖剣を起動しない場合、待っているのは抵抗の出来ない即座の死だ。

 

装填(Loading)ーー星天十字斬(グランドクロス)

 

 そうして、勇者から()()()()()()飛来した。

 それは次元を斬り捨てる一刀を、重ね合わせることで成す必滅の一撃。本物にも決して劣らぬ必死の技、研鑽の果てにある剣の(いただき)その一角。だが……

 

「「消し飛べ!」」

星爆(ハイドロ・バースト)!」

 

 蒼救が満ちる恒星の宇宙に、呪い滅する銀天の太陽が浮かぶ。大地を滅ぼし絶やす絶死の聖域が覆い尽くす。2つの幻想世界が重なり合う。いや、勇者のものも含めれば3つの幻想世界が『共存』していた。

 

 次瞬、激突する十字斬、青白の極光斬、銀灰の光刃槍。

 

 当然、世界に異様な音が響き渡った。

 ガラス同士を擦り合わせた音から出来た雷鳴のような音。空間そのものが──“世界”が悲鳴をあげ絶叫している声。

 そんな爆砕の前兆にしかし、込めた力は一片たりとも抜くことが出来ない。何せアヒムさんとアインを含めた3人がかりだというのに、完全に力が拮抗してしまっているのだから。

 

「人理剣アーメンテース……何故、人の王が振るう剣を持っておるのだ!」

 

 唯一出力不足で戦闘に参加していないリィンが叫んだ。

 魔族の王が振るう魔剣、真魔剣ディーアボロス

 獣人の王が振るう魔剣、獣王剣ライオンハート

 人族の王が振るう魔剣、人理剣アーメンテース

 それらは完全に同型の魔剣で、そして最も最初に打たれた3振りだ。能力は借り受ける力が種族で異なる以外は完全に同一。つまり、

 

「単純計算、無限の6倍ですか。やってられ……ッ、ないですね」

「同意、す、る……!」

 

 視界の端が銀灰に霞み、脳内に呪いの言葉が無限にリフレインされる中、何とか言葉を吐きだした。

 ああつまり、そういうことなのだろう。なんだかんだ、小難しい理屈を並べて理解しようとしたことが間違いだったのだ。

 力、ただ力。

 墜星・勇者の本質は、あくまで転生者・転移者のそれに変わりがない。

 チート、或いはバグ。

 その一言こそきっと、勇者の能力を示すには相応しい。

 圧倒的、ひたすら圧倒的なパワーが蹂躙を開始する。

 エネルギーの完全制御も、核分裂の完全利用も、全ての秘呪を継承した剣も、何も、何も関係ない。

 

「即座に暴走こそしないみたいだけど……うん、残念だよ」

 

 加えて既に、私とアインには限界が来ていた。

 勇者の言っていた幻想世界の特徴はあくまで『共存』、複数の幻想世界と重なって破綻しないことこそが本質であり──別にそれは、私たちの負担が消えたことを意味しない。

 

 呪いが、染み込んでくる。

 水のように臓腑に、油のように骨髄に、縊り殺すように全身へ行き渡り、縛り上げる衣のように纏わりついてくる。

 頭がどうにかしてしまいそうな吐き気と頭痛、気持ち悪さ。自分が自分じゃないものに書き換えられていく感覚。押し寄せるそれが強くなればなるほど、幻想世界の出力は天井知らずに上がっていく。

 

「随分と、お変わりになりましたね。勇者」

 

 そんな地獄の中──獅子の咆哮が、物理の限界を超えて耳に届く。

 

「僅かに遅れましたが、約束通り。

 獣人界第9代国王サトウ・N(ニライカナイ)・ミーニャ……参ります」

 

 紅き血染めの獣の王が、其処には居た。




アヤメ   残り12日
アイン   残り26日
残存正規兵 約2,000人
残存人口  約280万人

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《人理剣 アーメンテース》
 最初に作られた3振りの試作型魔剣の1つ。人間界を治める者に献上された力。
 片手で扱いやすいサイズの癖がない直剣型のオーソドックスな魔剣。
 限界駆動時は刀身部分に、白銀の魔力で編まれた女神の形が展開される。
 所有者:アルディート・ガラント→墜星・勇者

【能力】
 基準値:A 限界値:EX
 照準:A 範囲:B 操作:B
 維持:A 強度:EX

【詠唱】
 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為
 かつての世には啀み合い、憎み合い、滅ぼしあった3種族
 そのうち1つ、人を司る種の名代として宣言する
 3種族全ての勇儀が結ばれることは未だ無くとも、いつかの世界、いつかの未来に手を取り合わん
 剣の誓いを今ここに
 数多の犠牲を背負いし果てに、悪鬼羅刹と蔑まれようと、屍山血河を踏み越えて、煌めく未来を創生せん
 限界駆動(Over Drive)──手を取り合い希望を歌え(Cantare)人の徒、我らが祈りで救う為に(Amantes Amentes )

【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇500%
 ・生物特効300%
 ・悪魔特効800%
 ・魔剣を中心に直径100m圏内の《メイジ級》悪魔までの侵入禁止
 ・人の死者の魂は、全てここに帰る
 ②限界駆動
 ・半径10km以内の悪魔を弱体化
 ・魔剣を中心に直径100m圏内の悪魔から戦闘能力をレベル1相当になるまで剥奪
 ・人間界に所属している人型範疇生物に接続、エネルギーを限界駆動中に限りほぼ無限に供給する
 ・刻まれた全ての武技を扱える
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