「俺たちは、アヤメ達が何処まで経緯を知ってるかは分からない。だから、分からない部分があれば聞いてくれ」
「認識した」
アインの頷きを確認してから、ゆっくりとママの口が開かれた。
「まずは……そうだね、時期の整理から。
人間界で『獣』との決戦があったのは、戦争の後期も後期。それこそ初期型の冒険者型人造人間──そこにいるアイン、いや、この場合はアルブレヒト・スノードロップの方がいいかな。いちばん最初に製造した彼ら彼女らが全滅した後になるね。
そして、本来ならアレが最終決戦の筈だった」
恐らく全てが終わって始まった場所が、本来予想されていない戦場だった。そんな事実のカミングアウトから、話は始まった。
「今を生きる人から見て、戦争の終結1年前。今で言う【
命を削って打った魔剣。主義を曲げてまで作った人造人間。滅びかけていた異世界の住民。あの時はまだ世界にいてくれた沢山の神々。そんな持ち得る全部を味方につけて、悪魔の本拠地に攻め込む作戦も立案されてた」
「……悪魔の本拠地って、何処です?」
さらりと明かされた重大な情報に、瞠目しながらも思わず聞き返す。その場所さえ分かれば、まだ対策の立てようもあったのだ。今はもう恐らく、実現不可能だけど。
「その情報も、無くなっちゃってるんだ」
悲しそうにそう呟いて、言葉の代わりに1つの方向をママは指差した。方角的には海、だろうか? 大陸間の海は渡ることが不可能な絶海だった筈で、何もない大海原であると記憶しているのだが。
「大陸間連絡橋で閉じた三大陸の内海、その中心。そこに悪魔の本拠地、当時は『果ての島』なんて呼んだ次元の裂け目を有する島がある」
「でも、その場所は……」
「そう、今は結晶樹クリフォトの幹がある場所になっている。加えていえば、私たち7人が死んだ場所でもあるね」
あまりにもあっさりと、そんな事実が明かされた。
「話を戻すよ。
【終末】が発生してからはもうダメダメでね。まず最初に神様達が『獣』に殺されて、次に魔界が悪魔と魔剣の暴走で滅んで、獣人界も当時の王様が死んじゃった。人間界なんて、この時点で半分くらいの人が死んだ。
その頃にはもう、世界の残酷さに耐えられる人も少なくなっちゃっててね。世界最強の7人に全てを賭けて、敵の頭を暗殺するなんて無茶が罷り通った。平たく言って斬首作戦だね。
これが大凡、最終決戦前までの流れ」
何か質問はあると視線で訴えかけられたが、私は静かに首を横に振る。時系列こそはっきりしたし新事実もあったが、肝心な部分はまだ先だ。
「じゃあ続けるね。
1回目の斬首作戦の舞台は地球。可能な限りの準備を整えて、全員が命を捨てて挑んだ決戦だった。……でも、結果は2人の知ってる通り。地球の機甲戦力とこっちの魔剣戦力で取り巻きを殲滅して侵入したのはいいものの、想定よりもずっと強くてね。
私も、ロイドも、ティアも、
だからまあ、割と納得はしてるんだ。私やロイドが大罪人だって言う評価は。私達は、人を殺しすぎた」
勿論アヤメにそんな奴の娘だって悪評がついたのは許さないけれど、と最後に言葉を付け足しながらも。自分の手のひらを見つめながら語るその姿は、どこか薄暗さを感じざるを得なかった。
「でもって、当時の私たちはこの時点で『獣』に勝つことは諦めてね。仕切り直した2回目の、こっちの記録に残っている最終決戦。なんとかかき集めた残存勢力を全部使い捨てて、一縷の望みに賭けた終わり。その結末は、確か玉兎の記憶で見ていたよね?」
「最後の瞬間、どうなったかだけは知らないと否定する」
問いかけに、アインが知らないと否定する。そう、私たちが知っているのは
「じゃあ端的に。あの時、私がやっていたのは幻想世界の大暴走。神へと昇ること、神なんて存在へ成り果てること。自分という存在を、自らの法則を描くだけの存在に書き換えること」
「俺についても同様だ。そうしてイオリと一緒に人間を辞めて、俺たちは『獣』を封印した。幻想で塗り潰した今の世界で、クリフォトと呼ばれる結晶を生み出して」
言い切り、一拍おいて。
「改めてちゃんと名乗るよ。
私は七英雄改め『炉と和平の神』イオリ」
「同じく英雄改め『剣と蒼穹の神』ロイドだ」
まあ神なんて言っても、多少生身の人間より死に難くて強いだけの存在だけど。なんて付け足しながら、こちらに手を伸ばして言葉が続けられた。
「「2日後に封印が解ける『獣』に滅ぼされないために、逆にヤツを滅ぼす為に、世界に力を貸しにきた」」
……教会でも、建てればいいのだろうか。
叩きつけられた情報の量に圧倒されて、私はそんなことを考えるのが精一杯だった。
◇
「────ということが、ここに来る少し前にありまして」
当然、そんな内容の話を私とアインだけで抱え込めるはずも無く。会議の予定時刻より少し前、全員が集まったタイミングで洗いざらい暴露した。
『ありがとう、話そうとしていた議題の9割が無駄になって10割が片付いたわ』
結果として、貼り付けたような笑顔を浮かべたアカネさんを始めとして議場が凍りついたのは言うまでもない。
何せ実質さっきの話は『抗おうと抗わずともあと2日で世界は滅ぶ』、滅びを避けるには『今より遥かに強かった頃の世界が封印しかできなかった怪物を倒せ』なんて無理難題を突破するしかないという内容なのだから。
『話は聞いていたわよね、獣王? もうこの際なんでもありよ。国家総動員も秘蔵の何かも全部放出するわ。出し惜しみもなし、例の『獣』とやらの討伐に全ベット。後先なんて考えないわ』
『落ち着いて下さいアカネさん。こんな時に自棄でも起こしたんですか!』
『当たり前じゃない。自棄にでもならなきゃ、やってられないわよ』
だからこそ、案の定。こういうことも起こり得る。むしろ起こらない筈がないのだった。
『要するに、私たちでは守りきれなかった【悪魔】の群勢が、頭を得て能力も強化されて数も増えて襲ってくるのでしょう? おまけにその頭は、かつての世界を蹴散らす程強い』
アカネさんが語る悪魔の強化については、先程のパパとママの話が一区切り着いた後に明かされた内容だ。
曰く『今はまだドラコー級が出てきた程度だけど『獣』が目覚めたらそれだけじゃ済まない』、『幻想世界の大元が解放されたら、その影響下にある群勢も恐ろしく強くなる』とのことらしい。
『無理に決まってるじゃない、そんなの』
やっていられるか、という話だ。
真正面からぶつかった金烏が襲来した際の第一次攻勢。
主戦力が欠けていたが戦力は万全だった昨日の第二次攻勢。
そのどちらも、結果は私たちの惨敗ときている。だというのに、ただでさえ負けているというのに、《レッサー級》から《ドラコー級》まで基礎能力が上がる? 冗談はやめて欲しい。冗談じゃないから困るのだが。
『幾ら本物の神様とやらが協力してくれると言っても、話を聞く限り人だった頃には勝てなかった化け物が相手。かと言って親玉を無視して逃げたとして、私たちの全力を持ってしてもすり潰されるのが関の山』
『それは……そうですけど……』
『英雄戦争末期に、一縷の望みをかけた斬首作戦が強行された理由が嫌なくらいわかるわ。勝ち目がそれしかないんだもの』
もしまともに戦闘が成立するのであれば、まともに戦闘を成立させた方がいいのだ。人類同士であれば語るに及ばず、生存競争であってもそれは変わらない。
安定した火力、安定した回復、安定した防御、安定した補給。そういったものこそが戦場の最強であって、少数精鋭の最強部隊で相手の頭を刈るなんて正気の沙汰じゃない。チェスで突然キングを取れないように、普通はそもそも実行すら出来ない。
だからそんなことをする理由は、まともに戦闘が継続出来ないか早期決着を望む場合のみ。追い詰められて後がないような状況でなければ選択出来ないし、してはいけないのだ。
『魔界は……そうね、長めに見積もって食料は5日分。それだけ確保したら、後はもう全て兵器関連にリソースをぶち込むわ』
『イオリさん達は、どう見ますか?』
自棄気味なアカネさんと対照的に、まだ冷静なミーニャ女王がママに聞き返す。旧知の仲で小さい頃からの付き合いらしいけど、正直あまり詳しくない。
「多分この場にいるみんなが死力を尽くして、4日間保てばいい方だと思うなぁ……」
明かされた絶望の現実に、辟易しながらアインと手を繋ぐ。私の寿命は残り約10日──240時間、アインは約18日──432時間。あれだけ少ないと思っていた残りの天寿すら、私達は全う出来ないらしい。
『はぁ……………そう、ですか。ならば本当に、そうするしかないみたいですね』
深い、深いため息の後。覚悟を決めたようにミーニャ女王が言う。
『避けられない敗北が待っているのであれば、精々頑張って足掻いてみましょうか。奇しくも同じ7人、やれないことはない筈です』
イオリ・キリノ
ロイド・キリノ
アヤ・T・カンザキ(アヤメ・キリノ)
アイン・ティアードロップ
ミーニャ・S・ニライカナイ
リィン・M・D・ラーグルフリョゥトリムルン
アヒム・ロイス・ケラウノス
恐らくこれが、少数精鋭の最終メンバー。『獣』と相対する今の時代の最強になる。その人数はかつての英雄達と同じ7。男女比まで同じとは、とんだ皮肉もあったものだ。ミーニャ女王とアヒムさんを除き、血縁関係があるのも笑うしかないが。
「しかしアヤメの御母堂たちの時代と違い、余らに後はないぞ? よしんば此度も封印したとして、次世代には抗える者はおるまい」
「文字通り背水の陣、オールインだと認識する」
墜星達の実力を考えて比較するに、恐らくこの作戦は成功しない。それを理解していても、“やるやらない”ではなく“やって成功するか失敗するか”しか選択肢は残っていない。
『
『ええ。ですが彼らが、大人しく私の話を聞いてくれるか……』
「そういうことなら、私が話を通しに行きますよ」
着々と必要な要素が埋められていく中、触れられた話題に私は手を上げ割り込んだ。獣人界の
『良いのかしら? 直接『獣』とやらに相対する人は休んで貰おうと思っていたのだけど』
「構いませんよ。というよりも、私が直接お願いしに行くのが一番早いと思います。これでも一応、スラム街でお姫様やってましたし」
浅いところの連中とはスラム時代冒険者時代合わせて顔見知りが多いし、深いところの本当に危険なお歴々とのパイプもないことにはない。話がどうなるかは分からないが、少なくとも門前払いされることはないだろう。
「ただ私はもう深く関わっていない身なので、全面協力をしてくれるかは微妙なところですが……」
『それでも構いません。仮にも女王である私が行くよりは、ずっと良い結果になるでしょうから』
「なんとか、自分のシマを守るくらいの協力はお願いしてみます」
私の知らない私兵や密輸武器、薬、そういったヒトやモノはあるのだろうし、多分それくらいなら何とかして貰える。自分の商売圏を好き勝手に荒らされた挙句、商売相手すら居なくなるのかも知れないのだから。
『協力してくれるなら、魔界からは……そうね。どうせ扱いきれていないのだから、レギオンαの機体を1000機は供出するわ』
『なら獣人界からは土地と権利を。元の住民との協議はして貰いますが、貴族街を除いて城下は解放しましょう。商売の権利もまあ、こっちの艦上限定で開放しましょうか』
「大盤振る舞いですねぇ」
それだけ手土産があればきっと、なんとかなる。それでもどれだけ生き残れるのかは分からないが、悪いだけの未来が訪れないと信じよう。
『なら次は艦隊の修復ね。現在進行形で進めているけれど、ユ=グ=エッダもシヤルフも損害状況は中破から大破。2日じゃ小破状態に戻すのが限界よ』
「それなら私が直すから大丈夫! どっちの船も、元は私が作った物だからね。ソフトウェアは無理だけど、ハードは1日あれば直せるよ」
なんて規格外な発言も飛び出しながら会議は進み、チクタクチクタク時間は進んでいく。ほんの少ししか残っていない平和を刻んで、時計の針は進み続ける。
最後の優しい時間は、穏やかなまま流れて行った。
アヤメ 残り10日
アイン 残り18日
残存正規兵 約1,300人(獣王国軍は全滅)
残存人口 約150万人
なおセプデントリオさんが入っていないのは、適性が対人S大型A超大型Dくらいだからです。
アヤメちゃんが入ってるのは幻想世界分のブーストがありきですね。
感想と評価&コメントをくれると嬉しいです!
【おまけ】
英雄戦争について
本作開始6年前に集結した世界規模の総力戦。期間は約10年。最終局面で世界の命運をかけた作戦が決行され、失敗した。
【初期】15年前
突如3大陸の中心に巨大な島、及び複数の浮遊島が浮上。果ての島と命名。
出現した敵は《レッサー》《ソルジャー》《ビースト》級まで。数多くなく、一過性の脅威と認定。
イオリ、神託を受け緊急事態と認識。各国の王に直談判をして警告
獣人界は肥沃なことと恩があった為、即座に行動開始。
人間界は政変後の政争があり軍備の増強以外のことは実施不可。
魔界は聞く耳を持たず。
【中期】13年前
《レイ》《メイジ》級が出現を開始、敵軍増大により果ての島への接近が困難に。
制空圏の喪失により各大陸の内部にまで悪魔が侵攻。冒険者による対抗が始まるが、後手後手となり成果は薄。
獣人界──善戦
魔界───対応が出来ず大損害
人間界──制空圏喪失により劣勢
イオリ達、1度目の敗北。魔剣の製作を決意。
【後期】10年前
《デストロイ》級が出現を開始、世界が大混乱に。イオリ達、2度目の敗北。
各国首脳、このままでは滅ぶだけだと判断。人獣魔連合軍が結成。果ての島攻略作戦が立案される。また複数柱の世界に思い入れがある神が降臨。各種族のバックアップを開始。
その後押しもあり、15振りの試作型、1500振りの試作型、30000振りのⅠ型魔剣が作成完了。各国へ配備される。
【終期】7年前
【
魔界──戦力を作戦へ全て回した結果、ガラ空きの首都にデストロイ級の軍勢が出現。壊滅した。その後辛うじて助かった人員が、ユ=グ=エッダを始めとした3種の大陸航空艦へ退避。文化保存、最悪のケースの場合に避難出来る場所として稼働開始。
この際、試作型魔剣ムスペルヘイムとニヴルヘイムが暴走自爆。魔界全土が汚染される。
獣人界──同様にガラ空きの首都にデストロイ級の軍勢が出現。当時の近衛の精霊術で一部の軍ごと先王が帰還。三日三晩の戦いの後、先王戦死、親衛軍壊滅を代償に防衛を成功させる。
人間界──イオリが異常を察知、3人で転移して反抗を開始。無茶を承知で参戦した結果、王国が半壊する程度の被害で決着。八岐と玉兎の生前も無事に済んだ。
またこの際、
【最終幕】開始6年前
最善の準備を整え、地球を舞台にした最終決戦が開始。敗北。手のひら返しの大批判が勃発。
1ヶ月後。散発的な戦いを制しながら、大きく数を減らした最終戦力が集結する。
指揮系統が失わらた魔族と獣人も人王が率い、イオリ自身も異世界転生チート持ちを、複数の次元から寄せ集めて戦力を補充。攻略戦が開始。
・初動
イオリとティアにより大規模儀式魔法を発動。大陸に刻んだ魔法陣と仕込んだバッテリーを利用した超術式。それにより魔法が効かないはずの《レイ》《メイジ》までをも光の柱で消滅させていく。当時の英雄達の相棒であった竜と不死鳥により龍すら総動員し、生き残ったデストロイを喰らい撃滅していく。
しかし果ての島は無傷。降り注ぐ光の中、凍らせた海面を連合軍が進軍。
・次動
果ての島及び獣の防衛により術式崩壊。終末が再開し、完全な総力戦へ移行。前へは進めず、下がれば死ぬ。地獄の戦場。敵の全力を石臼のように轢き潰しながら、命をすり潰されながら再侵攻。
・終幕
チート部隊、進行。敗北前提、1%の勝ちを拾いにいく死出の道。物量に負け1人、また1人と脱落。最終目的地である獣の居場所に辿り着いたときには、後の七英雄しか残っていなかった。文字通りの世界最強、これ以上の戦力は用意できない。破滅は覆らず、2度目の最終戦が開始。
【終幕】6年前
作戦は失敗した。
イオリとロイドの昇神による幻想世界《和平》の流出により、獣は封印。和平の幻想が世界に広がり、平和による停滞が発生。人間性の堕落が開始。
システムが書き換えられ、アヴルムにはクリフォトが、カウンターアンカーとして人間界にはセフィロトが展開。蓋をされたことにより、終末が停止。悪魔の出現数も大幅に減退。
時を同じくして墜星が誕生。人間界が嵐の壁に覆われ、大陸間連絡橋を勇者が切り落とすことで完全に断絶。クリフォトの安定、イオリ・ロイド両名を救える誰かを探して墜星が活動を開始。
【現在】
世界に2柱の神を残し、緩やかな滅びが完了した。