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稼働中のシステムより通達
文明保存術式『プロメテウスの灯火』の稼働率は39%まで低下しています
時空間隔離法則『果ての蒼穹』の稼働率は17%まで低下しています
『獣』封印式『新世界秩序』──
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かつて果ての島と呼ばれた結晶島の中心。
その『獣』がまず感じたのは不快感だった。
何かが自分を停めている。身体を自由に動かせない。なんだこれは、どうして消えてなくならない。遥かな過去、放り捨ててしまった知性の残滓は答えを出せない。前へ、前へ、前へ、前へ、それだけを優先して進んだ轢殺の
ただ、否、だからこそ。
己を害するコトに関する嗅覚だけは敏感だった。かつて人であった『獣』だからこそ、その変化は如実に感じ取っていた。
己を押し込めていた何かが綻びている。砕けて、ほつれて、消えていく。
ならば最早、この場に留まる理由はなし。己が身体を、自らの眷属を刈り尽くした、7匹の獣共に対して報復を成し遂げん。
意味を失った知性の叫びに、未練がましく纏わりついていた結晶が砕け散る。最後のクリフォトの破片が崩れていく。
『████████!!』
『██████ッ!』
『██ッ!!!』
結晶の海を割って再誕する『獣』。
同時、悪魔の群れから上がる無数の歓声。封印に停滞していた主人を取り戻し、全ての悪魔に幻想が満ちていく。かつての英雄達により【幻想世界】という既存の魔法
喝采轟くその中心で──英雄戦争の置き土産が目を覚ました。
7つの首、10の冠角、6対の翼、6本の脚に、6爪を持った黒き龍。燃え落ちた炭のような極黒の鱗の奥に、熾火のように真紅の輝きを煌めかせる滅びの獣。
頭の先から尻尾の先までの全長は2000メートル程。同じ悪魔でも全長十数キロメートルはある【デストロイ級】には及ばないが、100倍程に圧縮された肉体が放つ圧力と幻想は依然健在だった。
しかし、かつて暴威を振るった時代から、その姿は変わり果てている。
7つの首は4本が切断されたままで再生されておらず、6対あった翼も1枚を残して破壊済み。6本の脚のうち健在であるのは2本だけ、爪に至っては全てが粉砕されている。また全身に濃い呪いを浴びており、本来強みであったはずの自己再生能力を事実上喪失。傷を負った瞬間で“停滞”した傷口は、ぼたりぼたりと腐った血液を垂れ流してる。
それらは全て生前の墜星、かつての7英雄が命を引き換えに刻んだ生の証。死を願う呪い。そして、今も続く廃絶を望む祈りだった。
『縺ソ縺、縺代◆』
そして、今も祈りは続いているからこそ。容易くその根源まで辿り得る。炎と氷の2色が描く破壊の螺旋、その暴威の向こう側。そこに今も自分を縛りつける停滞の根源と
『蜈ィ霆阪?√@繧薙£縺』
ゆっくりと、負傷も摂理も無視するように『獣』が浮かび上がる。3つの頭上に天使の輪にも似た黒い光輪を戴冠し、同質の強大な光輪を背後に背負ったその姿は異形と言っても相違ない。
変化はそれだけに留まらない。展開された光輪を通るように、無尽蔵に悪魔が出現を開始していた。かつての英雄達が直接、アヤメが魔剣越しに視た終わりの大地。そこから無限の悪意が流出を始め──
◇
かつての平和を取り戻したような、たった1日だけの束の間の日常。あまりにも優しく、自由な時間を過ごした翌日。その日は朝から、ひりついた空気が船には満ちていた。
それは今日こそが決戦の日だから……というだけの話ではない。なんとなく、朧げながら感覚があるのだ。世界が終わりそうと言えば良いのか、凄まじいモノが目覚めるような予感と言えばいいのか、そういった気配が。
「……ねぇアイン」
緊迫感のような、焦燥感のような、どこか落ち着かない空気の中。勇者の幻想に似た輝きを放つ聖剣を握り締めながら、最愛のパートナーの名前を呼ぶ。
「どうしたのかと疑問する」
「何人、帰ってこられるんでしょうね……?」
「いつになく弱気だと心配する」
「あはは……」
誤魔化すように笑うが、思っていたよりも言葉が暗い。前を向いて生きると、そう決めた矢先に現れた終わりの獣。ひしひしと肌で感じる『獣』の、大き過ぎてマトモに感知できていない超越級の魔力。人、悪魔、墜星、これまでかなりの鉄火場は潜り抜けてきたと自負していたけれど……情けないことに、思ったより当てられているらしい。
「負ける、なんて後ろ向きのことは言いませんよ? それでもきっと──いえ間違いなく、全員が無事に帰っては来れません」
それは漠然とした予感で、何より信頼すべき戦場を潜り抜けてきた直感だ。
復活したママとパパに再会してから、ずっと心の奥底で蟠っている感覚。こうして決戦が迫っているのに、モヤが掛かったような感覚は晴れなくて。何か忘れているような気がする。
「同意する。だが……」
あまりにも出来すぎた平和に奇妙な予感。そういったナニカの積み重なりに、嫌なもの感じた────刹那。
「ッ!」
「来たと認識する!」
疑問を抱くには、少々遅すぎたらしい。
どくん、と心臓が脈打つように魔力が揺れた。眼前に広がる嵐の壁の向こう側が、突如異世界に変貌したかのような極大の違和感。私たちの生きてきた世界が、魔剣越しに見た悪魔の世界に変貌したような感覚。
起きたのは幻想による世界の塗り潰し、正しくそう表現するしかない変化。変貌。私達が使う魔法と同種の技術であるだけで、出力の桁が違う異界の展開。そして、
『豸医∴繧』
──極光一閃。
3本の光輝が収束した烈光が、3日間人類を守り続けていた壁を破壊した。炎と氷の
『…………とんだ悪夢ね』
そして、流れ込んできた生暖かい外気と目に映った光景に誰もが理解した。
ああ、これはもう──駄目だ。
広がるのは色が塗り替えられた世界。
赤い、赤い血のような空。
黒い、黒い汚泥のように世界に満ちる悪魔の群れ。
この世界にあったものを喰らい尽くし、最早続くことのない“終わった”世界へと変貌させた轢殺と進撃の果て。
その住人である【悪魔】にも、当然変化は訪れていた。
どう見ても瀕死の重傷を負っているのに、数百キロ離れているのに“死”を肌で感じる『獣』はまだいい。
元より仮想敵であった《レイ級》《メイジ級》《ドラコー級》による制空権の制圧はいい。《デストロイ級》による攻城兵器じみた大質量もまだ予想出来ていた。だが、だが!
「それは、駄目でしょう……ッ!!」
想像もしたくなかった光景に、思わず叫んだ。
これまで敵数の勘定に入れていなかった《レッサー級》《ソルジャー級》《ビースト級》が全て、黒い輪を頭上に浮かべて空へと展開していた。
見ているだけで飲み込まれる穴のような、光を反射しない噂の『獣』の頭上と背後に同種の輪。それは恐らく『獣』の目覚めを起点に発現した性質のようだが……これは駄目だ。
警戒する相手か
『縺昴%縺』
急速に膨れ上がる異界の気配。自らの世界という拠り所を塗り潰され、否定され、消されていく濁流のような轢新を前に──私は歯を食いしばる。
金縛りに遭ったかのように身体が硬直する。まるで冒涜的な天使のような【悪魔】の群勢が、世界の境界を踏み越える。赤から青へ、文字通りの侵略を開始し──
『前を向け同胞よ!』
誰もが諦めと停滞に囚われ、気圧されかけた時。通信から雄々しい檄が飛んだ。聴き慣れた、懐かしいパパの声。この世界で誰もが知る、剣聖と呼ばれたかつての最強の声。
『今の我々には万夫不当の英雄がいる!
俺たちがいる!
その足を止めるのは
取るに足らない恐怖心でしかない!』
私、ママ、リィン、ミーニャ女王のように女の声では足りない。アインや魔界の人たちでも足りない。アヒムさんやパパのように、ある程度の年月を重ねた男の声だからこその鼓舞。心に勇気を纏い、一歩を踏み出させる力の震え。
『敵は群勢、されど我らは一騎当千の英傑だ
何も恐れることはない!
恐怖を捨てろ
顔を上げろ
決して立ち止まるな
退けば呑まれ
臆せば死ぬぞ!
進撃せよ!
進撃せよ!
進撃せよ!
未来を掴み取れ!』
返答は地鳴りのように世界を震わす大音声だった。
機関の駆動音が、応える戦意の叫びが、魔法の衝撃が、銃火器の息吹が、諦めと諦観を吹き散らしていく。まるで立ち込めていた暗雲が晴れ、雲ひとつない蒼穹が現れるように。
生き残ってきた者でしかない私たちに、何か決まった返答は存在しない。言葉も違えば慣習も違い、意思の疎通すら満足に叶わない人も少なくない。
だからこそ、返礼は誰でも分かる力の誇示で。
『
獣の王が繰る星の聖剣が。
『戦略級破壊魔法、並列起動。吹き飛べぇぇ!!』
幼銀の死神が操る無数の魔法が。
『戦略級破壊魔法《
魔界という船が放つ暗黒が。
『
傭兵の長が振るう絶凍が。
『
繋がりを広がる蟻の軍勢が。
『
万能に進化する鋼の蜘蛛が。
『
世界を斬り裂く黒蟷螂が。
『
守りと癒しの虹霓が。
『
『
無限に増殖する2種の機甲兵器が。
迫る無限に続く軍勢に向けて、各々が誇る武威を解き放った。無論それ以外にも、無数の船に搭載された火砲や魔砲が光を放つ。
三千世界をも焼き尽くさんとする鉄風雷火、殺戮の暴力が僅かに悪魔の戦線を切り開く。切り開き、押し広げ、手負いの『獣』へと続く道を一時的に形成する。
「……では、征こうか」
こじ開けられた道を眼前に、7人が登場した機体の艦首でリィンが告げる。その手にあるのは私が初めて手掛けたⅡ型魔剣。
「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
鱗を無数に固めた様な刃紋が浮かぶ、半ばから折れた刀身を持つ魔剣。
「余は魔なる真を継ぎし者、浄化と竜の一族也
余と近しき同輩に願い奉る
どうか今一度共に歩み給え」
それはリィンの花畑を守り、私たちにリィンを託した龍の亡骸。
「汝、怒りに燃えて蹲る者!
汝、死に行く者達を運ぶ翼!
我が祈りに、従うならば答えよ
汝の名は、ニードヘッグ !」
これまで魔界にある格納庫の中で眠っていた、魔剣の邪龍。
「
小回り、速度、耐久力。その全てにおいて枷を外された龍が、私たちを乗せて飛び立った。
今にして思えば幻想世界に似たニードヘッグの能力は、一定領域内からのエネルギー徴収と領域外からの攻撃の吸収、および自己再生。こんな形で再び乗艦したくはなかったが、あまりにも状況に能力が噛み合ってしまっていた。
「余が友の最後のフライトだ。加減はなしで行くぞ!」
リィンの悲喜が混じった宣言と共に、背後に吹き飛ばされそうな加速が私たちを襲った。
青い空に白い雲、そして光を跳ね返す濃紺の海。
赤い空に黒い雲、そして闇に染まった悪魔の海。
鬩ぎ合う2つの世界の境界を踏み越えて、黄昏の世界に最後の龍が飛翔する。
越境──瞬間、衝撃。
悪魔の世界に侵入した直後、異物を排除するかのように機体に衝撃が走った。魔剣の能力を貫通して、たった一撃で警告のアラートが鳴り響き始める。
私たちのいる頭部コクピットなどの
「予想通りですね。やりますよ、リィンさん、アヤメさん!」
「うむ、準備は出来ておる」
「本物と比べたら、多少出力は落ちますが問題なく!」
だがミーニャ女王の言う通り、こうなることは予期していた。ならば当然、対抗策は用意してあるに決まっている。
リィンの手にある赤い刀剣が翼を広げ、
ミーニャ女王の手にある巨剣が鈍く輝き、
私の愛剣に惑星系を描く銀弾が装填される。
「「
「
既に魔剣ニードヘッグは暴走状態。担い手が要らない蝋翼による飛翔の最中。だからこそ、かつて類を見ない三重起動がここに実現する。
「──
「──
「──
真魔剣ディーアボロス
獣王剣ライオンハート
人理剣アーメンテース
最も初めに打たれた3振りの試作型魔剣。それぞれ魔界、獣人界、人間界の王が振るうための剣が一堂に集い、一才の反発なくその機能を限界まで使い尽くす起動を果たした。
「アイン、制御はお願いします!」
「認識している!」
直後、私の握る愛剣と義手、アインの握る聖剣本体を中心として『共存』の幻想が展開される。それは死んだ筈の勇者が宿し、人理剣に焼き付けたらしき物。
勝者の証とはよく言ったものだ。よりにもよって私とアインに『共存』を託すなんて。……だけど、受け取ったからには“ちゃんと受け取る”努力くらいはする。勇者との約束を反故にするつもりは、私だってないのだから。
結果として、普段以上に完璧に溶け合い展開する魔剣の能力。
3重ねの弱体と相互強化によって、ママとパパだけを例外に5人全員の力を指数関数的に魔剣が跳ね上げていく。
「剣の誓いを今ここに」
そして──最後に道を開く魔剣は、たった1つと相場は決まっている。
「遍く全てを討ち滅ぼして、災禍渦巻く世界を斬滅し、命安らぐ楽土を創生せん」
共存の幻想の中、広がり続ける絶死の聖域。
魔剣が染まる。黄金の刃が、漆黒の中央部が、青白い光に染まって変生していく。臨界。そう表現するのがふさわしい威圧感を纏い、絶滅の魔剣が完成する。
「
絶滅剣ティタノマキア、その能力の本質は核分裂。単に投射するだけで絶大な破壊力と生命に対する甚大な毒性を帯び、然るべき手順を踏めばエネルギー源としても利用できる試作型魔剣。
「存分に使うがいいニードヘッグ。安心しろ、俺の力は無尽蔵だ」
《──ッ!!》
言葉にならない歓喜の叫び。同時に飛翔を続けるニードヘッグの顎門に、絶滅の極光が収束していく。無論魔剣としての格はニードヘッグの方が下、ハボクックのように研ぎ澄まされた影打ちというわけでもない。
故に、耐えきれず崩壊を始める機体。それを自前の回復能力で修復しながら、結果として帯電するように光輝を纏いながら飛翔が継続される。
「収束臨界、穿て!」
《──
上下に開かれた顎門をあまりの熱量に内部融解させながら、絶死の光を帯びた
「行くよ、
そうしてニードヘッグが接敵し、同時に理解不能な速度で圧壊した瞬間。
私たちは英雄2人の魔法により、艦外へと飛び出した。