銀灰の神楽   作:銀鈴

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神楽舞い散れ哀れな巫女よ/The w‘α’rld is over【03】

 

「禁呪《現実改変(ヒューム・リライト)》!」

 

 刹那、現実は捻れ曲がり私達の負傷は全快した。

 玉兎の聖剣、神境偏在モチヅキの原型能力。僅かでもコントロールを誤れば大惨事を引き起こす大魔法。だが反動を7人で分割し、思考能力が魔剣で跳ね上げられている今なら問題ない。

 やはり私とアインは対墜星に特化しすぎて、『獣』に対して確実なダメージを与える術を持っていない。だけどその分、こうして土台を整える術は幾らでもある。

 

「魔剣の造り手に魔剣で挑む、いい度胸してるじゃん」

「そもそもが俺たちの尻拭いだ。娘の前でへばってなんていられるか!」

 

 そして土台さえ整えれば、動き易くなるのは自明の道理。当然のように禁呪を利用しながら、2つの影が魔力を昂らせながら出現する。

 片や怒気を隠そうともせず、海面を抉るように鎮座する銀色の死神。

 片や暴風で海を割りながら、双剣と機械翼を構える最強だった剣士。

 

「全く、悪魔側の魔剣なんて冗談じゃありません。噛み砕いてやりましょう」

「6年もあれば模倣は出来るだろう。だが所詮は模倣、次は俺が斬る」

 

 迫る影はそれだけではない。

 禁呪の利用が出来ず満身創痍でこそあるが、戦意にも覇気にも些かの曇りを見せない獣王が。

 次こそはと覚悟を決めた、絶死の光を広げる最強が。

 

「アヤメよ、すまぬが此度も借りるぞ」

「ええ、禁呪まで切ってるんです。寧ろ使ってくれなきゃ困りますよ」

 

 そして今、大刀から大鎌に握る武装が変化した魔王が。

 各々が得物をその手に携え、まだ終わっていないと戦意の炎を荒らげる。こんなところで、倒れている暇はないのだ。未来を切り拓くには、『獣』を斃すしかないのだから。

 

劔の誓約(ちかい)を今此処に!」

 

 展開される2振り目の聖剣。侵食する幻想世界に近い力の波動。ただでさえ限界だった世界というテクスチャに、無数の細かい罅がはいっていく。

 

我が身は既に邪悪な怪物、元徳大罪併せ呑み、人から外れた異形の力

 6と6と6の名の下に、知り得た見果てぬ未来を奏でよう

 

 顕現する力は過去の改変と再生。過去に起きたことであればそれを今起きたものとして再生し、逆に過去に受けた傷はその過去を改変して消失させる御技。

 

1振りの刃として、力として、そして大切な者の為、煌めく世界を切り拓かん ー限界突破(コンプリート)!」

 

 これで本当に、切れる手札は全て切った。後はもう『何かを諦める』ことを前提とした手しか打つことが出来ない。命か、魔剣か、それとも世界か。

 

偽・天地失墜(Fallendown)──生死を巡りし円環の理、世界は(Pilgrim Remnant )斯くも残酷で、それでも美しい(Syarasouju)!」

 

 だが、だ。第2ラウンドと言うには色々と遅きに失している気がするが、これにて1つ仕切り直し。全員が既に全力な以上、今のうちに息を入れてやるしかない。

 

「総員散開! またあの魔法が来ます!」

 

 ミーニャ女王の警告の声。舌打ちしながら大きく回避すれば、眼前スレスレを黒輝の柱──いや、槍が通過した。そして当然、ただ一撃では済まないらしい。見上げた視線の先、そこにあったのは無数の黒い光輪。

 これまでは頭上に2つと背後に1つだったその数は、今や概算で1000を超過。悪魔を無尽蔵に召喚する(ゲート)のような役割から外れ、例の未知の魔法により黒光の槍を私たちに向けて連射している。我が意を得たりと言わんばかりに放たれるソレは──

 

「「ピアッシャー……ッ!!」」

 

 ママと言葉が重なった。どうやら向こうも同じ見解らしい。

 本来のピアッシャーと比較して、効果範囲は半端、照準による収束は杜撰、操作性は皆無に見えるし、強度も恐らく貧弱、ただし出力だけは天井知らず。

 しかしそれでも作り手として理解できる。させられる。

 粗悪模倣品(デッドコピー)が目の前にあるぞ、と。

 

「アイン、全員に不用意な接近は控えるように通話を──」

「もうしていると報告する!」

 

 だが私の警告は、僅かに遅かったらしい。

 ズン、と腹の底に響くような低く鈍い衝撃音。『獣』の方向から聞き取れたそれは間違いない、クラッシャーの紛い物。それに撃墜されたのは──

 

「──ッ、やはりです、か」

 

 血塊を吐き捨てながら、苛立ち混じりにミーニャ女王が告げる。即座に致命傷から全快したが、即ちそれは物理限界を超えてなお接近が出来なかったことの証左だ。そしてその2種が再現出来たということは……

 

「アヤメ、合わせて!」

「「──次元断!!」」

 

 半ばから切り落とした尾の動きで飛来したのは黒い斬閃。重ねた斬撃で相殺しか出来なかったそれは、間違いなくスラッシャー。案の定これも再現されてる。

 

「奴を斬る。合わせろ古き最強」

「勝手に合わせる、ぶちかませ今の最強」

 

 だが尾を振り切る今の動きは大きな隙だ。そんな恰好の機会を、2人か逃す筈はなく。

 

「リミッター解除。出力限界超過──朱系烈星(セクエンス)!」

「心眼。次元の彼方に消え失せろ──因果切断(イジェクト)!」

 

 解き放たれた2つの斬撃。

 これまでの数倍にはなろうかという極大の烈光と、先程の砲撃を見るに強制転移能力を含んだ影。ガラ空きの胴体に向けて斬閃は突き進み──直撃の寸前、闇色の結界に阻まれた。

 やはりこれもディフェンダーの粗悪模倣。出力さえ足りていれば防げるのは開発者として嬉しい事実だが、敵対するとなれば厄介極まりない。

 

「最大火力は防がれて、逆に向こうの攻撃は止める手立て無しですか」

 

 これでかつての英雄戦争でその能力を大部分喪失しているというのだからやっていられない。7英雄全員が勝ちを諦めて漸く、という事実が嫌な形で現実味と実感を帯びてきた。

 

「同感だとッ、否定する」

 

 黒い光槍の雨が吹き付ける中、薙ぎ払うように放たれた吐息(ブレス)を間一髪回避。海も空も叩き割る威力に冷や汗を掻きながら、反撃でこちらも光槍を射出。威力では負けず質はこちらが上の筈だが、物量に負けて獣に届くことなく消失する。

 

「全員へ!」

「アヤメよ!」

 

 何か手は、そう思考を回している時だった。

 よく似た2人分の声が禁呪のリンク越しに届いた。

 

「私があの土手っ腹に風穴を空ける! 20秒だけ守りか回避をお願い!」

「余が首を落とす。上手くいくかは分からぬが、10数秒あればよい!」

 

 全く同じ、自分の力を疑わない『獣』を打ち倒すという宣誓。リィンの方は分かる。聖剣の能力で[斬った]という過去を挿入して、首を落とすのだろう。だけど魔法主体のママが一体どうやって、そんな疑問に視線を向けた先には目を見張る光景があった。

 

「限定武装、強制接続。エネルギーチャージ開始!」

 

 背負った棺桶の蓋が全て開き、そこから無数のパーツが飛び出していく。片腕で構えた大鎌を中心に装着されていき、完成したのは十数メートル単位の巨砲。及び反対側の肩分には外付けと思しきエネルギー炉心までもが存在している。

 あからさまに規格外な、人が生身で使うことを想定していない武装だった。まるで艦砲射撃では当てられないから人に武装を移植したとでもいうかのような、全てを焼き尽くさんとする暴力の塊。

 

「前の戦争の残りだからこれしかないけど、絶対に撃ち抜く!」

 

 異様な機械の威容は雑多な神秘なんて寄せ付けず、これなら大丈夫だろうという予感を感じさせる。唯一問題である被弾も、既にパパとアヒムさん、ミーニャ女王が向かっているから心配は薄い。

 

「距離を斬り、天を斬り、地を斬り、世界を斬ったかの絶刀。かの神秘を今ここに、余が呼び戻さん!」

 

 だから問題はむしろ私たちの方だ。

 幾ら守勢に得手があるとはいえ、あくまでこちらは2人。直撃こそないが、幾らか掠るような攻撃は通してしまっている。それでは間に合わない、剣士の端くれとしてそれでは絶刀に届かないと理解出来るから。

 

「アイン、金烏と戦った時のこと覚えてますか?」

「肯定する。だがどうして今……認識した、そういうことか」

 

 数秒でいい、リィンが集中し切る時間を作る。そうすればきっと首を落としてくれる筈だと信じて、笑って限界を踏み越えよう。

 身体回復だけに留めていた《現実改変》の出力を上昇、握る愛剣を延長しスリーハンデットにまで展延させる。同様にアインも相当無理な魔力操作を《現実改変》で誤魔化して、極大の魔法陣を形成していく。

 

武技装填(Loading)ーー」

「封印術式解放!」

 

 あの時はお互いを殺しあった2つの絶技。

 金烏の秘剣と魔族の大呪法。

 今度はそれを、私とアインで肩を並べて──

 

「神威抜刀──天鬼雨!」

「封印術式──展開ッ!」

 

 世界を千々に刻む斬撃の大渦と、神をも封印する超抜級の極大封印が解き放たれる。

 百花繚乱、花吹雪のように斬閃が乱れ舞い、踊り、花火のように狂い咲く。地平の彼方まで切り裂かんとする大渦は、『獣』までの道を切り開くが初見それまで。私という紛い物の技量では、劣化ディフェンダーの結界を越えられない。

 

「でも、」

「捉えたと宣告する」

 

 今回ばかりはそれでいい。

 道さえ切り拓けば、後に到来する封印は間に合うのだから。スラムファイアで放たれた弾丸が跳ね、踊り、形成する幾何学模様。それは瞬く間に『獣』を取り囲み、術的な拘束と封印が展開されていく。

 無論、競り合いにならない程の出力差があるため長くは保たない。だがこれで攻撃の手を一時的に中断させ、本体の動きも止めることが出来た。

 

「ジャスト20秒だ」

「役割は果たしましたよ!」

 

 これで漸く、本命が届く。

 

「ヒュージバレル、発射(ショット)!」

「神威抜刀──クサナギ」

 

 世界を揺らす激震の砲声と、柳のように静かな一閃が駆け抜けた。

 

 規格外の巨砲の咆哮と共に放たれた弾丸は、動きを止めた『獣』の腹に向けて彗星のように直進。ディフェンダーによる防御を速さの一点で突き抜けて、着弾。鱗を砕き肉を穿つ生物的な音を響かせながら、体内の半ばまで突き進んだ辺りで炸裂。一瞬の青い閃光の後、その腹を内側から吹き飛ばした。

 

██████████ッ!!!??!

 

 アレは間違いなく、絶滅剣と同種の生命が浴びてはいけない致死の光。熱。破壊の暴力。()()()()()()()()()()()()()としか言いようがないレベルにまで破壊された『獣』の腹部を見て、そんな感想しか私は抱けなかった。

 

「ッ、すまぬ。1つ斬り損ねた!」

 

 そんな衝撃に紛れ、『獣』の首が1つ落ちてきた。何をされたのか理解できていない驚愕の表情、少なくとも私にはそう見える[斬られていた]ことにされた首が落ちる。吹き飛んだ脚の1つとともに墜ちていく。

 

「問題ありません。仕留めます」

 

 最終セーフティ解除

 リクエスト承認ーー機動衛星砲モチヅキ最大出力

 地上からの座標入力を確認

 目標:『獣』と認識

 当該空間への砲撃準備

 

「聖剣、執刀──」

 

 対星殲滅兵装起動

 エネルギーチャージ開始

 砲撃まで3秒

 

 『獣』の斬撃により晴れた空から、異様に輝く歪んだ満月(モチヅキ)が顔を覗かせていた。

 

 砲撃まで2秒

 

 水面に斬り落とされた首と、千切れ飛んだ脚が墜ちる。それは【悪魔】にとっては最早エサなのだろう。上空で戦う私たちを無視して群がり。

 

 砲撃まで1秒

 

「──月焔咆哮、降り注げ契約の星屑(ミスラトロン・スターダスト)ッ!」

 

 禁呪越しのカウントが0になった刹那。その全てを飲み込むように、宇宙(ソラ)から極大の光輝が降り注いだ。

 あの時私たちが受けた一撃と同様、掛け値無しの最大出力。一度使えば半日は冷却時間を置かなければならない衛星砲撃。それは粗悪なディフェンダーを撃ち抜き、範囲内にある全てを焼却していく。

 

──────

 

 絶叫すら掻き消して、光の中で『獣』のシルエットが崩れていく。

 背骨が砕け下半身が脱落し、先ずは辛うじて残っていた腕が。次に翼のシルエットが歪み始め、ボロボロと焼け落ちていく。

 これで決着が付いて終わってくれれば良かったのだが……やはり、そうは問屋が卸さないらしい。光の中、爆発するように膨れ上がった魔力の反応。

 

縺雁燕縺溘■縺輔∴縲√♀蜑阪◆縺。縺輔∴縺?↑縺代l縺ー

 

 飛び出してきたのは小さな人型。

 首筋や肩周りから《レッサー級》のような触手を無数に生やし、指のない手脚を生やし、王冠のように黒い光輪を被った小さな生き物。真紅の目には怒りが湛えられ、牙の生えた口は裂けたように歪んでいる。

 かつて『獣』であった【悪魔】の飛翔する先は、私たちに向けて一直線。先程までの戦いで有効打を殆ど与えてない以上、一番弱いと判断されたのだろうか。確かにそれは事実だが……

 

谿コ縺励※繧?k縲√%繧御サ・荳翫↑縺冗┌諠ィ縺ォ!

 

 元の形に戻した愛剣を構え、アインとリィンを庇うように一歩分前へ踏み出した。それを蛮勇と見たか、チャンスと見たか。笑みから感じる感覚に嘲笑が混じり、光輪と同じような魔剣が『獣』の手に生み出される。

 

「残念ながら」

 

 こちらも銀灰色の光刃を展開し構える。恐らく身体能力は全て向こうが上、魔力も、魔剣の出力も、きっと私では敵わない。けど。

 

「人型になった時点で、私の勝ちです」

 

 私の剣は殺人剣だ。

 正確には人型の生き物を効率よく殺す為の剣だ。

 多少触手が生えている程度、何の障害にもなりはしない。

 

「シィ──ッ!」

 

 身体に刻み込んだ動きが、力任せの黒光刃を柔らかく巻き込み逸らす。滑らせた刃の動きのまま手首に当たる部分を深く斬り、そのまま流れで背後に抜ける。動きの勢いを逃さないよう片足を軸に回転し、上半身の動きで輪を描くように再び一閃。咄嗟に逸らされ首を落とすには至らなかったが、体勢は大きく崩せたのでよしとする。

 

縺イ縺」

 

 悪魔の眼しかない顔に表情はない筈なのに、こちらを恐怖しているような感覚が伝わってくる。が、遅い。

 聖剣の能力で運動力を制御、足を無理やり整えて踏み込み。迫る触手を躱しつつ袈裟斬りに一閃、触手ごと大きく背中に斬痕を刻む。そのまま身体を再度聖剣で制御し、燕返しの要領で逆風に一文字。

 再度身体を制御し強制停止。『獣』の胸と腹部にそれぞれ、両手を以って鎧抜きの容量で全力の打撃。聖剣の制御でその状態から踏み込み加速。全力のハイキックで頭を砕きつつ、パパのいる方向へと蹴り飛ばした。

 

 これで人間なら、手首、脇の下、首筋、又の下の太い血管を切断。念のため心臓と内臓も破壊しつつ、頭部も損壊させた。無論、『呪滅』の幻想世界による毒も仕込んである。

 あまりひけらかしたくない、私の技術の集大成。手応えは十二分。順当に考えて、助かる見込みは何処にも存在しない。

 

「生きたいって気持ち、今なら私にも分かります。でも赦す道理がありませんから」

 

 加えて、やるなら何処までも念入りに。

 万が一も奇跡も偶然も許しはしない。

 逃げ出そうとしたのか動いた手足をアインの狙撃が撃ち抜き破壊。加えて銀河のように煌めく秘呪の塊が『獣』を飲み込み、断頭台へ連行するように運んでいく。

 

蜉帙′縲∝精繧上l繧九?ゅ♀縺ョ繧後?√♀縺ョ繧後?√♀縺ョ繧後∞縺?∞??シ

 

 そして──

 

「6年も経ったけど、約束は果たしたよ……みんな」

 

 元の形を取り戻した大鎌が、静謐な死の宣告として振われた。

 最早『獣』に抗うことはできず、誰も邪魔をする者はいない。一瞬遅れて噴き出した鮮血は、『獣』がまだ人であった頃の名残か。

 惨禍の空気を切り裂いて、鋼の三日月が最後の決戦に終止符を刻み込んだ。




アヤメ   残り7日
アイン   残り13日
残存正規兵 約1,000人(獣王国軍は全滅)
残存人口  約147万人

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