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システムの再起動が完了しました
自己メンテナンスを開始・・・完了
システム正常作動を確認
文明保存術式『プロメテウスの灯火』の稼働率は18%まで低下しています
時空間隔離法則『果ての蒼穹』の稼働率は10%まで低下しています
『獣』封印式『新世界秩序』が停止しました
侵略性生命体【悪魔】の首魁である『獣』の撃破を確認
《轢新》による《和平》の中和が喪失しました
リソースの簒奪に成功しました
残存神数計測……完了、2柱と確認
対抗する幻想世界はありません
メインシステム復旧
擬似世界展開・固定回復式クリフォト 展開
メインシステムの限界駆動を開始します
移行完了まであと……
「終わっ、た……?」
そうして、あまりにもあっさりと。
いっそ拍子抜けするほど簡単に、『獣』と呼ばれた最大の脅威の首は落ちたのだった。光に包まれる巨大な肉体諸共、灰が舞うように黒い粉へと変じて散っていく。
「恐らくは、終わったのだと認識する」
『獣』が変じた黒い粉が降り頻る中、まだ現実感がないようにアインが言う。
「思っていたよりも、楽に倒せたのう……?」
「簡単、と言うには語弊がありますけど……ええ」
どこか一歩でも間違えていたら誰かが死んでいたし、そもそもが最初から全力だ。限界だって1つは超えている。船の方では相当の人数が傷を負っているだろうし、私たちに余裕もない。
だがそれは、裏を返せば“その程度でしかなかった”ということでもある。
奇跡に縋ることも、更に無理を重ねることも、何もなかった。
これまでの死戦であれば、寧ろここからが始まりと言っても過言ではなかったのに。敵である筈の『獣』の気配は、この世から完全に消滅している。
「…………おかしい」
未だ悪魔が溢れている現状、警戒こそそのままに。勝利のムードに包まれる中、ぐるぐると巡り続ける思考を整理するために呟いた。
何も考えずに出た言葉だったが、そう。おかしい、おかしいのだ。何もかもが。
「何がおかしいのかと疑問する」
「分かんない、分からないんです。でも絶対に、何か……何かがおかしくて……」
私達は致命的な何かが見えていない。アインと揃って禁呪を解除した瞬間に、その疑念は確信へと変わった。
確かに私たち7人は強かった。大した被害もなしに倒せたことは良いことだ。怨敵たる『獣』も、進歩こそあれ6年前の傷と長年の封印で弱っていた。それは確固たる事実であり、疑いようのない現実だ。
だが、だが、だがしかし。
八岐が、玉兎が、金烏が、勇者が、
聖剣の有無や連戦という当時の状況、そして現代の『獣』が弱体化していたことを加味して考えたとして……
「警戒しすぎではないのか? 余もアヤメも、こうして生きて帰れた。実に平和な帰結で、良い結末ではないか」
これにて神楽は終わり、負担の大きい禁呪を解除して万々歳。みんなで帰って、幸せな時間を過ごしました。めでたしめでたし。
リィンの言う通り、それが自然な流れと帰結な筈なのだ。私もアインも、1週間は命が残った。もう会えない筈だった、ママやパパという家族もいる。そんな《平和》で《晴れ渡った空》のように気持ちが良い大団円。それでいい、それこそが最善である筈なのに────
「──気持ちが悪い」
あり得ない。そんな筈がない。おかしいのだ、常識的に考えて。
ユビキタスの能力で拡張された思考を使って、何度結果を演算しても
想定されていた『獣』の戦力は、
だというのに私たちは全員無事で『獣』を切り抜けた。
なればこそ……そこには必ず『自分たちの力』以外の、何らかの力による介在がある。そうでなければ『呪滅』などという最悪の幻想を宿す者を産む世界に、『平和』なんて幸せな幻想が実現する筈がないのだから。
そう、例えば。
始めから『獣』の力を何者かが奪っていたとか。
「…………まさか」
平和。
そう、ここまでの思考のキーワードは平和だ。
晴れ渡る空のように小気味良い、けれど実態は数多の血と屍の上にこそ成り立つ終端の願い。
感じていた違和感が、点と点が結びついていく。
全員の生存、弱すぎる『獣』、Ⅰ型魔剣の模倣技、何故か悪魔に効く魔法、聖剣も魔剣も使わない英雄2人、神と獣、幻想世界の果て、《和平》と《救翔》の幻想、墜星、勇者の言葉、ここからが全ての始まり、僕の親友を頼むの意味。
つまり──ッ!!!
「さて。そろそろ限界かな?」
「ああ、見るべきものは見れた」
気付きたくなかった真実に目を向ければ、聞こえてきたのはそんな言葉。パパとママ……否、剣聖と死神が優しい目で語るそんな話。何かが終わって、何かを始めるような文脈。もう時間がない。
「リィン、幻想世界の出力を全開に!」
少しでも距離を取るためアインとリィンの手を引き後退しながら、制御を手放す勢いで自らの幻想世界を最大展開。ミーニャ女王とアヒムさんは間に合わない、近過ぎる。私たちも間に合わないかもしれない。
「「
そうして戸惑いながらも、リィンが出力を上げた刹那──全てが平和に幕を下ろした筈の戦場の中心で。ここまで秘され続けていた英雄の剣が、神威としか言いようのない気配と共に解き放たれた。
墜星特有の底知れぬ呪詛だけでも、勇者のような清涼な闘気だけでもない。光と闇の双方を併せ持った、混沌としながらもある種荘厳な力の爆発。それに触れたあらゆる総てが、凍りついたように時間が止められていく。
「神剣到想・鍛造開始」
刹那。紡がれる
響く音に連れられて、正真正銘の時間停止という縛鎖が、例外すら許さず世界を絡め取っていく。
「ああ、忌々しきかな我が運命。我がひと時の幸福さえ、汝は斯様に奪い去るのか
無限に連なる闇の群勢、悪魔の進撃は止まらない」
対抗出来たのは私とアイン、リィンの3人だけ。何もかもが、力の爆発に巻き込まれた瞬間に存在を停滞させ始める。それ以外は誰も、抗うことすら出来ていなかった。
無数の悪魔が、遠く飛翔する戦闘機が、戦車が、氷と鋼の翼が──ミーニャ女王やアヒムさんでさえ、彫像にでもなったように止まっている。呼吸も、意識も、拍動もなし、幻想も凍てつき動かない。
「瞳が映す未来の果ては、
我が身を捧げた献身さえも、無限の悪意に届かない
なればこそ、我、幻想と罷り成る」
吹き荒れていた風が静まり返る。
荒れた海面がその形のまま凪に変わる。
魔力の流れが緩やかになり、差し込む陽光すらも翳り曇る。
「我が身は既に
絶叫する闇の奔流に、時計の針が緩やかに動きを衰えさせていく。1秒が2秒に。2秒が4秒に。チクタクチクタク、無謬の流れを示す時間が、衰え、停滞し……完全に、動きを止めた。
「例えこの身が砕けようと、いつかの未来、光なき戦乱の地平が果てに、平和の灯火を創成せん」
悲壮な覚悟を秘めた闇の宣誓。伝わってくる感情は、痛い程の悲哀と絶望。しかしそれでも、未来へ繋ぐという光を
「是非もなし。
噴出する闇に寄り添うように優しい風が包み込む。決して光を絶やしはしないと、血を吐きながらも刃金を振るう光の宣誓。
「「禊ぎ祓え誓いの聖剣、果てなき未来に繋ぐため ー
それは私とアインが紡いだ聖剣とは、ある種同一の始まりながら正逆に位置する力だった。
恐らくこの世で初めて生誕した魔剣と聖剣。その
「
気味の悪い静寂の中、凪いだ音で紡がれた聖剣の銘。
「──ッ!?」
「ぐっ、これは……」
それを耳にした瞬間、全身に数百キロの重りを括り付けられたかのような衝撃が私達を襲った。こちらも既に幻想世界を最大出力で展開しているのに、そんなことはお構いなし。
あの『獣』と同じだ。出力の桁が、規模が、威力が根底から違い過ぎる。幻想世界という魔法の至る果て。善も悪もなく、ただ圧倒的に、一方的に、容赦なく自らの
「──やっぱり、アヤメ達は残っちゃうか」
それは人という軛から解き放たれた、人型をしているだけの異界存在。つい先程までは味方だった筈の2人が、明らかな害意を持ってそこに君臨していた。
「ふむ、“やっぱり”とな。アヤメの御母堂よ、つまりはそう解釈しても良いのであるな?」
するりと、そんな空気を切り裂いて。大鎌を構えたリィンが告げた。敵であるのか否か、ほぼ答えが決まっている問いを。
「自らの
同じように大鎌を構えつつ、静かに
「……どうして」
そう、私は問わずにはいられない。
どれだけ陳腐でつまらない結末でも、私は大団円でよかった。それでよかったのだ。あと7日。たった1週間幸せな時間を過ごせれば、それだけで。
「どうして、大好きな両親と殺し合わなきゃいけないんですか!」
揺れる心、ぐらつく精神を凍てつかせて。愛剣を握り、いつもの戦う者としての心に切り替える。
長年ずっと私を助けてくれた心の防衛術だ。このくらいで、技の冴えは鈍らない。身体の動きも変わらない。ぼろぼろと溢れる涙で視界は悪いけれど、このままでも戦えるくらい私は壊れている。歪みが極まっている。
でも、だからこそ。
どうしてと泣く心が止まらない。嫌だと叫んで、染み付いた身体の動きを止めようとしてる。それはきっと、無視してはいけない最後の一線だから。問わずにはいられない。
「答えて下さい! 答えて、答えてよ……」
アインに庇われ、涙を散らしながら。消え入りそうな声で叫ぶ。どうして。どうして。騙すでもはぐらかすでもいい、納得できる理由を出してと。
「……俺とイオリが至った果ては、かなり難儀なものでな」
そんな慟哭に折れたのは、
「アヤメが生きる未来を守るために俺達は神になった。ここまでは話した通りだな?」
コクリと、涙を堪えて小さく頷く。
「その際に幻想世界の媒体にしたのが、この双剣と大鎌だ。丁度アヤメとアインくんの聖剣と似たようなものになる。なら、こんなものを制御もせずに解放し続けたらどうなるか。分かるだろう」
「……暴走すると、推測する」
「ああ、その通り。ただ正確には、当時の『獣』に対抗するために意図的に聖剣は暴走させた」
私たちの聖剣と同種の剣の暴走、それは即ち幻想世界の制御放棄だ。自らを
「自らのルールを押し付ける幻想世界、その至る果ては世界の書き換えだ。既存のキャンパスに書いてある絵を、上から塗り潰して別の絵に変えるような暴挙」
「……元々あった[
世界を守る、そんな状況であればその行為は英雄だ。だが一度平和が訪れてしまえば、勇者も英雄も等しく人殺しのろくでなしに成り果てる。在り方はきっと、何も変わっていないのに。
「そして今、色を塗り広げていた片方が死んだ。そうしたら、どうなると思う?」
「つまり、お前様たちの幻想だけで染め上げられてしまうと?」
リィンの問いに
元々あった[この世界]を染め上げようとした《轢新》に対して《和平》が展開されて、今は《轢新》が消えたから《和平》一色に世界が染まりかけている。だがそれなら……
「それなら、別にそのままでも良いんじゃ」
「本当に?」
思わず呟いた言葉に、今まで見たことのない鋭い目をした
「見てみなよ、周りを。人を。世界を。『平和であってほしい』『幸せな今が続いて欲しい』そんな願いの所為で、全てが止まったこの世界を」
「……っ」
「その上で、もう1回聞くよ。本当に、私とロイド以外は何も存在出来ない世界がいいの?」
反論は、出来なかった。
「……私達は、クソ喰らえと思ってるよ」
『獣』を止めなければ、魔剣越しにみた世界にこの世界も染め上げられていた。2人が対抗して幻想を撒き散らさなければ、『獣』を止めることは出来なかった。
だけど、一度暴走した幻想世界は止まらない。
一度暴走した幻想世界を止める方法はただ1つ。
「ならば、粛々と首を差し出せば良いと提案する」
何もわざわざ、殺し合う必要はないとアインが言う。
「それで済まないから、こうなってるんだよ」
「例え俺たちを殺しても、この停滞を塗り潰せなければ意味がない」
しかしそんな提案は、どうしようもない事実に否定される。
現に私とアインの幻想世界がいい証拠だ。金烏と戦っていた時と同程度まで出力をあげているのに、自分たちの身を守る事しかできていない。
ならば結論はただ1つ。覚醒しろ、戦場の中で。自分たちを越えて行け。そんな叱咤激励なのだと理解した。自分の両親がそういうタイプの人間なのだと知っているから。だが──
「──それでもまだ、おかしな点が残ってます」
それでは、八岐が、玉兎が、金烏が、勇者が残した言葉に説明がつかない。自分たちの主人を殺して欲しい、そこは合致する。だけど次いで言われた『救って欲しい』、そこがどうにもずれている。それに。
「それじゃあ、私たちだけで『獣』を打倒できたことに説明がつきません」
先に推測した『誰かが力を奪っていた』でもなければ、それ以外の方法でもない。何せ自分たちの口から『拮抗していた』と語ったのだ。それでは前提を満たさない。
「ああ、それなら簡単な話だよ」
そんなことかと言わんばかりに、軽い口調で
「ねぇ、リィン・M・D・ラーグルフリョゥトリムルン。いや、転生神リィンネートの転生体。元々[
一体この
私達はこれまで何回『獣』を殺したのか、と。