銀灰の神楽   作:銀鈴

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 どぽん、と全身を砕くような衝撃と共に、アヤメは海の底へと墜ちていく。

 頭と身体を分たれて、最早その身に聖剣や魔剣の加護はない。

 既に死の運命はここに確定し、まだ出来ている思考は泡沫の夢に過ぎない。

 沈んでいくアインの姿が見える。

 結晶になって砕けていくパパの姿が見える。

 無残な姿で水底へ落ちるリィンが見える。

 

 

 そして大きな、慟哭が聞こえて来る。

 

 

 ()()()

 

「こんなところで、終われない」

 

 残った命を使い尽くすように、アヤメが言葉を吐き出した。

 音が聞こえるはずも無い水の中だ、幻聴だったかもしれないが構わない。自分の意思を決めること、ただそれだけの為の言葉だったのだから。

 

「死んでもよかった」

 

 どうせ生き残っても、もうアインもパパもママもいない世界だ。そんな場所に1人で居ても意味がない。その過程で大好きなパパとママを手に掛けなくてはならないのも最悪だ。

 

 戦う意思なんてこれっぽっちも湧いてこなかったし、寧ろ戦いたくないとずっと心は叫んでいた。そのザマがこれとは、全く笑えない話だけど。そう自嘲気味に呟きながら、微睡む意識を叩き起こす。

 

「でも」

 

 そう、でも。

 

「手を伸ばしたい、理由が出来た」

 

 戦おうと、思えてしまう理由が出来た。

 どうして、どうして、泣きながら助けて欲しいと叫ぶ死神(ママ)の姿。死の間際に見た光景が、脳に焼き付いて離れない。

 

 ずっと、ずっと、アインとリィンが戦っている間、考えていた。

 

 みんなが幸せに大団円となる結論。

 

 誰かを殺すか殺さないか、そんな物騒な答えじゃない第3の選択肢を。きっとある筈だと信じて。

 

 もう一度、戦いという舞台に上がろう。

 

 覚悟は既に心の内に、戦う理由はこの胸に。

 

 この手に資格を掴み取らん。

 

「だから──」

 

 最後に1つだけ。

 我儘で、横暴で、無茶苦茶で、荒唐無稽で。

 けれど希望になり得る最後の賭けを、文字通り命魂を使い潰す大博打を打たせてもらう。

 

 私たちでは出来なかった。

 

 私たちでは足りなかった。

 

 誰1人として救われない、最悪の結末に至ってしまった。

 

 だから、誰でもいい。

 誰でもいいから助けてあげて欲しい。

 全てを背負って、何度も何度も自分も他人も殺し続けた悲しい人を。私の大切なお母さんを。

 

 ──そして、遥か昔から。

 

 嘆きに応えて戦って、希望を齎す無敵の英雄……その名前は決まっている。

 

 それは奇しくも墜星の1人と同じ名前で、誰よりも私の両親に救いを望んでいた者の名前。

 

 それは神と成ってしまった英雄(にんげん)殺す(救う)ために演じられ、奉納されてきた逆回しの英雄譚がエピローグ(プロローグ)

 

 その名は──

 

勇者召喚術式、展ッ開!!!」

 

 条理を超えて開かれたのは、誰もが知る禁呪の1つ。

 

 人間界の滅亡と共に流出した王国の秘術。

 

 代償として『死』を伴う大儀式の魔法陣を、なけなしの命を振り絞り描いていく。

 

 自分の別たれた身体を素材に。アインを取り込み、リィンを飲み込み、その全部を巻き込みながら。

 魔法なんて、最悪脳さえ無事なら使えるのだ。だったら魔法陣を描けないなんて道理はない。例えあったとしても、蹴飛ばさせてもらう。

 

 禁呪の代償は術者の寿命10年分。命を全部捧げることで代用。

 禁呪の対象は異世界の若者。私とアイン、リィンの3人へ書き換え。

 禁呪の効果は召喚者を勇者にすること。ここの変形はなし。

 錬金術を応用して自分の身体、そしてアインとリィンの身体も分解してエネルギーへ変換。

 術者3人、呼び出し先は3人、効果を受けるのも3人という無茶苦茶な術式を描き切る。普通こんな魔法が実現するはずがない。まともに動作せず、私の足掻きは失敗に終わるのがオチだ。

 

 だとしても。

 

 今この場に限っては、その0が1に変わる理由が揃っている。

 

「力を貸して、リィン!」

 

 幻想世界《転生》

 私は触れたことがないけれど、こういう真似だってできるはずだ。

 術式というプログラムの根幹を「召喚(転移)」から「転生」に書き換えることも。

 だってそれが、幻想世界の本質だから。

 

 ここまで来たら、やれることは全部載せだ。

 

 秘呪の原理を応用して、呼び出した者にこの術式を刻むように。

 精霊術の原理を応用して、私とアインの聖剣を依代に。

 武技の原理を応用して、私たちの全てを継承するように。

 

 広がり続ける魔法陣はついに重なり3つに増殖。蝶が舞うように溢れる泡の中、術式が静かに動き始めた。

 

 高度に発達した科学は魔法と変わらず、人の思考の限界まで“は”科学は万能で全知全能なのだという。

 ならば魔法だって、想像の彼方まで突き抜けたって良いはずだ。

 

 身体が消えていく。

 

 思考が溶けていく。

 

 自分が自分であるかもわからなくなって、存在が無に消えていく。

 

 死が、満ちていく。

 

 そんな中でも決して、最後の魔法は止めさせない。

 

「さあ、来い。無敵の勇者(ヒーロー)

 

 抗いようの無い運命の、操り人形になるくらいなら。

 いっそ全て壊してしまえばよかったのだ。

 

「祈りの果てに、悲しい世界を救ってみせろ」

 

 そんな願いの言葉と共に、アヤメ・キリノという四半獣人の少女は世界から消滅した。

 続いてアイン・ティアードロップという冒険者型人造人間の少年も、光の粒となって消失する。

 そして最後に、リィンの姿も魔法陣へと溶け消えて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さ あ、英 雄 譚 の 幕 開 け だ 
 さ 雄 譚幕 開 け

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前作タイトル回収。

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