銀灰の神楽   作:銀鈴

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0と1の関係【07】

 翌日、アインさんに案内してもらってたどり着いた鍛冶場。そこは意外にも、私にも見覚えのある場所だった。何せここは、私があの少女に半ば誘拐される形で連れてこられた、あの家のすぐ隣だったのだから。

 

「ありがとうございます。私みたいな余所者に、大切な仕事場を貸していただいて」

「いえ、随分と本格的には使えなかった場所ですから」

 

 そう話している相手は、あの私を誘拐した少女の母。世間話程度だったけど、話を聞いた感じ元々ここは彼女の夫の持ち物だったらしい。それで手放さず小さな物は作っているけど、武具類は金属もない為かなりの間作ってないそうだ。

 

「こちらこそ、こんなに金属類を提供してくださってありがとうございます」

「ははは……実質タダですから」

 

 この工房の賃貸料代わりに私が提出したのは、一般的な鉄から始めてオリハルコン等の希少金属をそれぞれ5kgほど。ちゃんとアイテムボックス系の魔法効果のある袋に入れてあるので、知らなければ盗難なんて出来ない仕様である。重量軽減してないから超重いし。

 

「それでもですよ。こんな金属類を作れる魔法使いなんて、本来なら私たちがお目にかかれる相手じゃないですから」

「確かに。ミスリルくらいまでなら、作れる人はありふれてますけどね」

 

 実際、純オリハルコンを生成できる魔法使いを、私は片手で数えられるくらいしか知らない。対して、ミスリルはそれなりに地属性の魔法が使えれば幾らでも量産が効く。

 でもって、その片手で数えられる奴らはほぼ全員が同業者(Sランク冒険者)だ。つまり基本は金で動く人種で、大概重要な依頼で各地を転々としている。ここの人とは、遭遇する機会はないだろう。

 

「それでは、私はそろそろ……」

「分かりま──あ、1つだけお願いしてもいいですか?」

 

 立ち去ろうとした少女の母を呼び止め、私はそう言った。1つだけ、今言っておかないと後々大問題になりかねないことがあったのを忘れていたから。

 

「何でしょう?」

「出来る限り、娘さんに鍛冶場に入らないように言って貰えますか? うっかり入ってこられて怪我させちゃったり、何かあったら嫌なので……」

「ええ、それくらいでしたら」

 

 最後に握手を交わして、少女の母は去っていった。これで工房内に残っているのは、私とアインさんのみになった。余計な乱入がなければ、これでもう仕事兼趣味に時間を費やせる。

 

「さて。で、アインさんは武器と防具をどうするか、考えてくれました?」

「ああ。当方は大戦時に一般使用されていた防具で十分だ。武装も最低限、魔法の発動を補助してくれる物であれば文句はない」

 

 前者に関しては、買える物だし私も作れるから問題ない。構造としても、好みの色のボディースーツに、好みの色のレギンス。その上から男性タイプだと、長めの半パンと上着を纏う感じだし。後はブーツと、滑り止め用の指貫グローブ。

 安全性は、各所に仕込まれた装甲板と刻まれた補助術式によって、そこらの店で売っている防具より高いし運動性も高い。頭部はフリーだけど、防護フィールド的な何かが発生している。

 しかも図面も術式も、凡そ製作に必要な内容が全て公開されている。技術力と材料さえあれば、誰にでも作れる量産性まであるときた。いやまあ、そこのハードルが極めて高いのだけど。

 

「防具の色と、武器はせめて種別を教えてくれないと……」

「色は白で良い。武器は……そうだな。それなりの長さで強度のある杖なら何でも良い」

 

 染色が要らない分、白で良いというのは有難い。杖の方は……鈍器として使う想定ってことで良いのかな。あのステータスなら確かに、そんな使い方も想定しておいた方が良いのかも。

 

「強度……重くなるけどそれでも?」

「構わない」

「了解、それじゃあ後は自由行動でいいよ」

「認識した。では当方は、図書でも漁っていることにしよう」

 

 そう言って、アインさんも工房から立ち去っていった。これで正真正銘私1人、誰にも邪魔をされることはない。強度を上げ転移で侵入されなようアップグレードした結界を敷設し、私は偽装用のペンダントを外した。

 

「さて、いっちょやりますか!」

 

 やっぱり、こっちの姿の方がしっくり来る。最近はご無沙汰だったし、ちょっと張り切ってやろうかな。

 

 

「っんー! つっかれたぁ……」

 

 火が消えた炉の前で、そんな声を上げながら私は倒れ込んだ。そして魔法で汗やら汚れやらを綺麗にしてから、偽装用のペンダントを付ける。これでもう見られても、(アヤ)(アヤメ)だとバレることはない。

 

「やっと入れたー!」

 

 安心して結界を解除した直後、そんな声とともに小柄な人影が飛びかかってきた。それも転移なんて魔術まで行使してきて。反射的に反撃し兼ねたが、何とか腕の動きを止めてなされるがままにされた。

 

「けほっ、つう……」

 

 飛びかかってきたのは例の少女。無理な体勢で受け止めたせいで、ちょっと腕を捻ってしまった。ああもう、これだから……炉の火を落としてあるから良いものの。明日からも、作業中に結界を敷設しておかないと。

 

「あ、ごめんなさい……」

「2度としないでください」

 

 冷たくそう言い放ってから、埃を手で払って立ち上がる。当然、飛びかかってきた少女を立たせる事も忘れない。

 例え高レベルだろうが、例え高ステータスだろうが、痛いものは痛いのだ。誰だって、いつでもどこでも力んでる訳じゃないのと同じで。そこら辺を詳しく言い出すと、ステータスと肉体の関係に波及するからカットするけど。

 

「はぁ……」

「ごめんなさい」

 

 作った物はスキルに収納済みで、汚れなかった事だけが幸いか。にしても、今日は大鎌作るまではいけなかった。何本か試作品として作ってみたけど、なんかしっくりこないのだ。具体的に言うと、魔剣の力で作ったあの急造品より弱いし脆い。

 何処までもママに……いや、ママの影すら踏めない。魔剣に、どうあがいても届かない。造れないのだ、あの幻影と同じ性能の大鎌すら。ずっと私は、鍛冶や冶金を続けてきたのに。

 

「ならいっそ、利用する? 接続……コネクタは箒の流用で良いとして、性質をそのまま伝播させるには……」

「ごめんなさい!」

 

 私のエターナルの性質は、『私の力の増幅』と『収納した魔剣の調律及び行使』の2つ。その性質を利用するとなると、なんだろう……まあそもそも、コネクタはあっても力を伝えるにはどうすれば良いのかすら分からないのだけど。

 

「ぐす……ひぐっ」

「うん?」

 

 没入していた思考から意識を現実に引き上げたのは、手が濡れる感覚と泣いている声だった。意識を切り替えれば、何故か例の少女が大泣きしていた。

 

「えっと、あの、その、あの」

 

 これはどうすれば良いんだろう。ずっと考え事してたせいで何言ってたか分からないし、どう対応すれば……!? 私はこういう時、武器とか金属貰って泣き止んだって聞くけど、絶対それは私が特殊なだけだし!

 

「あ、あの、お花! お花とか欲しい!?」

「要らない……」

「えっと、じゃあ! じゃあ甘いお菓子とか、綺麗なアクセサリーとか!」

「要らない!」

 

 どうしよう。本当にどうしよう。あれもこれも要らないってなると、私の持ち物にもう泣いてる子を泣き止ませられるものがないんですけどぉ!?

 

「あぅ……」

「ぐすっ……」

 

 どうしよう、私まで泣きたくなってきた。今回は確実に私が悪いんだろうけど、ああもうどうすれば。私が泣いたら本当に収集つかなくなるから、絶対に泣けないけどッ!!

 

「マオ? やっぱりここだったのね」

 

 そこに助け舟として現れたのは、少女の母だった。ああ、安心した。これできっと泣き止んでくれる……

 少女が母に駆け寄って、わんわん泣きだしたのを見て私も気が緩んだ。それに釣られて涙腺が緩みかけたけど、手を握り締めた痛みで耐えた。

 

「すみません、考え込んでたら無視しちゃってたみたいで」

「なるほど、それでこの事態ですか……」

 

 呆れたように少女の母が言った。なんというか、いたたまれない空気に包まれる。全面的に私が悪いから言い訳はしたくないし……泣き声が収まったのを見計らって声をかける。

 

「ごめんね、えっとマオちゃん?」

「ゆるす……」

 

 思ったより簡単に許して貰えた。さっきまでの私の苦労は何だったのだろうか。やっぱり子供って、どう考えて動いてるのか分からない……

 

「あ、そうだお母さん。あれからアインさん帰って来ましたか?」

「いえ? 1度も顔を見せてないわ」

「分かりました。なら、明日あたり探しに行かなくちゃなぁ」

 

 今日はもう絡まれるだろうから動きたくないけど、完成した装備の調整はしたい。今日は一日をアインさんの装備に費やした訳だし。でも今日はもう市壁は閉まってるだろうし、合流は不可能だろう。

 そんなことを考えていると、ぐぅとお腹が鳴った。そう言えば、朝から何も食べてなかったっけ。

 

「よければ、ご馳走しましょうか?」

「いえ、そこまでお世話になるわけには。やり残した仕事もあるので、手持ちの物で済ませますよ」

 

 いつもいつも携帯食料をそのまま食べるのはアレだから、水に溶かしてお粥みたいにして。クソ不味いけど、黒胡椒と塩振っておけば割とマシになると思う。

 

「それに、マオさんを泣かせた私がいたら、折角の気分も悪くなると思いますから」

「お気づかい感謝します。それと、娘がワガママ言ってごめんなさい」

「私も悪いですから」

 

 と、そんなことを話している間に、話はなあなあになってしまった。私が我慢すれば、今回の話はこれで万事解決なのだ。だからイラついていても、考えないようにすればいい。それでいいんだ。

 

 そうして1人になった工房で、私はお粥状にした携帯食料を掻き込んだ。相変わらずの不味さが目を覚ましてくれる。お腹もいっぱいになったし、私の防具の調整くらいしておこうかな。

 

「よいしょっと」

 

 取り出したのは胸当て、腕甲、佩楯、脚甲、そして戦闘用のブーツ。着けてても邪魔だし、鉢金はもう着けていない。だから調整するのはその5つだ。

 

「ふふーん」

 

 鼻歌を歌いながら、胸当てから取りかかる。

 最低限心臓と肋骨付近だけを覆うそれを留める、竜皮と金属のパーツ部分。先ずは、かなり負荷がかかり痛んでいたそれを取り替えていく。次に金属板部分の凹みを裏から叩いて直し、歪んだ内部の魔法回路を修繕する。

 この胸当ての材質は朧水晶という、各種金属の合金に水晶が錬金術で合成された合金。極めて高い硬度と靭性、表面の魔術耐性、内部は魔力の循環効率が凄まじいという特徴を持っている……ママが若い頃、作り出した金属だ。

 

「これ自体、20年以上昔の骨董品なんだよね」

 

 細かい修繕を終え、磨いた胸当てを見て私は呟いた。ついでに言うと、腕甲と脚甲も、それに愛用してるコートもママからのお下がりだ。太腿を守る佩楯だけは自分で作ったけど。

 この装備一式を作ったママは当時8歳、私が佩楯を満足いく完成度で作れたのは13歳。ママが転生者だった点を考えても、どうしても才能の差を考えてしまう。

 

「……届かないなぁ」

 

 胸当てと同じように、前腕部の片面だけを覆う腕甲、下腿部の脛側だけを覆う脚甲を整備した。軽量化と頭部保護の術式が刻まれた胸当、軽量化と腹部保護の佩楯と違い、腕・脚甲は数キロある重量はそのままに強度と魔術耐性強化の術式がこれでもかと刻んである。

 全て、小柄で非力な人が使う為の術式構成だ。便利だけど、ここでも技術力の差を感じてしまう。目指す場所は、あまりにも高く遠い。

 

 

 そんな考えを振り払い、次に取りかかるのはブーツだ。

 私が普段から履いている、脚甲との同時使用を考えた例の大戦時のやつのカスタム型。蒸れてるので《消臭》の魔法をかけてから、リフレッシュ系の魔法陣を刺繍した中敷きを交換して、靴底に仕込んだ風の魔法陣が消耗してるから交換しておく。滑り止め内に仕込んでるスパイクは、アダマンタイトだし無事みたい。

 

「これでよしっと」

 

 エターナルに関しては軽く拭いてあげるくらいしか必要ないから、これでもう私の装備は整備するところがない。アップデートもそう簡単に出来ないし……

 となると、チャレンジしてみるのもありかもしれない。大戦時のエース級は全員出来たって言う、『空間魔法による戦場の常時把握』って技術の再現を。この前気が抜けてたとは言え、足に矢を受けるなんて失態をしちゃったし。

 

「原理はわかってる。問題は、私の頭がそれに耐えられるか」

 

 それも、正式な魔法の補助なしで。試作品を作って実験して、ああまずその前に図面を引かなくちゃ。思いつきで全部作れたママと違って、そういう部分はマメにしていかないと。

 

「……まあ、頑張りますか」

 

 いつか正体がバレた時、少しでも生き延びられるように。私が生きている意味は分からないけど、それでも死にたくはないから。今夜もきっと、徹夜することになるだろう。……化粧品、あとどれくらい残ってたっけ。

 

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