銀灰の神楽   作:銀鈴

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0と1の関係【08】

 チチチと鳴く、鳥の声が聞こえた。静けさに包まれていた世界に割り込んで来たその音に、一旦手元から目を離し窓を見上げる。

 

「あれ、もう朝か」

 

 気がつけば、窓からは光が差し込んできていた。例の装置を製作するのに熱中してて、いつの間にかそんな時間にまでなっていたらしい。

 

「ふわぁ……んー!」

 

 更に大きく欠伸をし身体を伸ばすと、色んな場所からバキボキと鈍い音が鳴った。少しストレッチして、身体をほぐしておいた方が良さそうだ。絶対今の状態じゃ、血行悪いだろうから。

 

「ひどい顔……」

 

 そんなことを考えつつ手鏡で自分の姿を見てみれば、それはもう酷い姿になっていた。

 実験失敗で出た鼻血を擦った跡、気絶で倒れたことによる埃、疲労で目に出来た隈、ボサボサになってる髪。どう考えても、とても人前なんて出られない惨状だ。1人の女子として、完全に終わっている。

 

「最近あんまり寝れてないし、そりゃこうなるよね」

 

 でも、最近の私の事情を考えれば納得できるものだった。なにせただでさえ昔から睡眠時間が短いのに、最近は輪をかけて短くなっているのだから。具体的には、2時間や3時間くらいしか寝れてないなんてことがザラにある。酷い時には、30分おきに目が覚めたりもするし。

 

「えっと……とりあえず《クリーン》して……後は《ヒール》じゃ意味ないし、《リフレッシュ》かな」

 

 上手く働かない脳を動かすために、考えごとをしながら喋りつつでも動かす。

 あー……うー……面倒だし《クリーン》を使いながら、両手にそれぞれの魔法陣を握って魔法を使えば良い気がする。実行しよう、した。まるで太陽光の塊を浴びたような気持ち良さ、良い感じに目が冴えて行くのを感じる。

 ちょっと待って、太陽光の塊? 何だそれ、まるで意味がわからない。まだちゃんと頭が回っていないみたいですね。

 

「うー……」

 

 漸く小型化出来た感知装置の実験したかったけど、諦めておいた方が良さそうだ。この頭じゃロクな判断ができる気がしない。

 というかそもそも、どうやって私はこの正式名称『腕時計型指定空間内認識結界発生装置』の試作30号機くらいを完成させたのだろう。図面自体は残ってるけど、明らかに今左手に巻いてあるのとは構成が違うし……

 

「まあ、いいか別に」

 

 図面は後で引き直せばいいし、完成してるなら問題はない気がして来た。

 何故か時計としての機能もちゃんとしてるのが理解できないけど。本来の機能としては、2つある竜頭の片方を回して効果範囲指定、ベゼルを回して効果時間指定の2種類だ。試運転してないから暴発の可能性もあるけど、きっと問題ないと信じてる。

 

「その前に、とりあえず納品しなきゃ……」

 

 寝惚け眼を擦って、ボサボサの髪の毛を1つに括る。その上から魔女帽を被って、跳ねまくっている髪の毛を押さえつける。流石に隈はそのまま残ってるけど、最低限これくらいまとまってればいいや。

 

「簡単だけど『街の中に行ってきます』でいいや。通じるだろうし」

 

 呟きながら書き置きを残し、携帯食料を食べながら工房を出る。目にしみる日光の光を鬱陶しい。魔女帽を深く被り、内心愚痴りつつ市壁の門へと歩いて行く。

 当然その間、初日の経験からして何かあると踏んでいたのだけど……珍しく何にも絡まれることなかった。しかもそのまま、一切のトラブルなく街の中に入ることが出来たのだ。

 

「アインさんは何処だろなっと」

 

 その事実に感動しながら私は、アインさんを探すため早速腕時計の魔導具を操作した。時計の竜頭を回し、範囲はこの街全体に設定。この街の大きさからして、私の頭で耐えられるのは……10秒がいいところかな。

 

「よし、起動!」

 

 コツンと時計を叩き起動した瞬間、割れるような頭痛と共に世界が拡散した。人、物、魔力の流れ、気候、温度、湿度、作用してる術式etc……範囲内で私が認識できる全ての情報が、一緒くたになって頭の中に流れ込んでくる。

 こんなものを戦場で、しかも戦場1つ全てを範囲にしてかつてのエースは使っていたのだと言う。全くもって信じたくないし、耐えられる頭が羨ましい。私には、到底届きそうもない高みだ。

 

「でも、見つけた」

 

 それでも出来た再現で、人を見つけることくらいは容易い。アインさんの居場所はどうやら、市壁に作られている大本棚。私から見て右方にある所の中腹辺りに居るらしい。

 幸い今私が穿いてるのはズボンだし、飛んで呼びに行っても問題ないかな。本棚も確か、貸出返却以外は立ち入り自由だった筈だし。そんな感じに自己弁護しながら箒で飛べば、すぐに合流することが出来た。

 

「………」

「これ、寝てる……のかな?」

 

 但し本棚近くの足場に居たアインさんは、目を瞑って直立不動の姿勢で固まっていた。耳を澄ませてみれば息も静かだし、やっぱり寝てるんだと思う。

 

「しかしこうして見ると……不思議」

 

 やっぱり表情の動きがないから、一層人形のように見えるなぁ。失礼だけど分類するなら、カッコいいというよりはキレイ系の奴。よく見れば、完全に顔のパーツの配置が左右対象なのも不思議だ。

 

 ……あのHMPという見たことのない、まるで()()()()()()()()()ようなステータス。それに加え、STR・DEF・AGLが5000ぴったり、MINとINTも7000丁度という異様の一言に尽きる能力。アインという名前も考えさせられる。もしかして、人造人間とかだったりして。

 

「流石にないよね、そんなこと」

 

 睡眠不足の頭で思いついたことだし、気の所為か妄想かのどちらかだろう。

 起こして良いのかわからないし、これからどうしようか……そう思って、箒に手を掛けた時のことだった。腰に佩いたエターナルが放つ、微かな振動が手に伝わってきた。それは、今まで魔剣と相対した時に決まって起こっていた反応。近くに魔剣があることの証左と言える反応だった。

 

「え、嘘?」

 

 どこかにあるのかと思って少し飛び回ると、どうやらアインさんに近づいた時に一番振動が大きくなっていることが分かった。

 これ、もしかして、アインさんが魔剣を持ってたりする? いや、元奴隷の以上持ってるはずがない。スキルの中にあるなら別だけど、弱くても反応している時点でそれは違う。

 

「んー……」

 

 よく目を凝らしてみれば、凄く分かりにくいけど何か力を感じる。調整して腕時計を起動し確認してみれば、一番アインさんの右眼に違和感を感じた。何か力が集まっているというか、力が濃いというか……そんなところで能力が切れた。

 

「む、当方の顔に何かついているのか?」

「ひゃっ!?」

 

 いきなり目が開いて声を掛けられ、箒のバランスを崩して床に頭を打ち付けてしまった。座標固定と浮遊のせいで、低い鉄棒で回転してしまったみたいに。

 

「くぁぁ……」

 

 箒をしまい座り込み、頭を押さえて痛みを堪える。思ったよりこれ、痛い……くる……

 

「すまない、当方が急に声を掛けたせいだ」

「い、いえ、覗き込んでた私も私ですから……」

 

 差し出された手を借り、立ち上がって頭を下げた。今回に限っては、私が全面的に悪いのが目に見えてるし。寝ている他人の顔をマジマジ見るとか、ね?

 

「して、当方に何か用か?」

「あ、はい。頼まれていた品物、納品しに来ました」

「認識した。見せてくれ」

「どうぞ」

 

 そう言いつつ、スキルに入れておいた服類と杖を取り出して手渡した。アインさんは受け取った後、私と同じ仕組みだろうアイテムボックス系スキル経由の早着替えで、服を渡した装備に変更した。そして数度手を握っては開くと、納得したように頷いた。

 

「合ってない部分はあります?」

「特にない。新品と考えれば、逆に気持ち悪いほどフィットしている」

 

 防具の方は、一先ずこれで問題はなさそうだ。となると、残りは武器としての杖兼近接兵装だけど……

 

「それなら良かったです」

「武器の性能は?」

 

 数度振って確認した後、アインさんをこちらを見てそう聞いて来た。そう言えば、隠蔽能力はあっても鑑定能力はないんだっけ、アインさん。

 

「近接兵装搭載型魔導杖『スローン』

 全長170cm、重量20kg、材質は最高品質の魔法合金製、魔法補助の触媒として内部にカーボナード。補助も安定化も照準補助も、最高品質と保証します」

「認識した。近接兵装はどうなっている?」

「カーボナードを仕込んでない方は、タマネギみたいに金属を張り合わせた強度重視の装甲になってます。そこに刻んだ術式は、慣性制御と衝撃強化、調律の3種類。要するにぶん回して叩きつければ相手が爆散します」

 

 しかもこの能力、魔法を無効化する悪魔にも作用する。前者2つの術式は悪魔に作用するものじゃないし、後者の調律は衝撃の伝わり方を変えるだけだから作用する。結果、生物にぶち当てればぐちゃぐちゃになるし、硬いものに当たっても粉砕できる便利用具だ。

 すぐ近くで見張れる人で、調整も用意だから渡せる武器だ。

 

「感謝する。使いやすい武装だ」

「これでも、鍛冶の腕だけで今の立場を勝ち取ってますから」

「認識した。ご主人は素晴らしい職人だ」

「ごしゅじ……!?」

 

 褒められるのは満更じゃ無いけど、その呼ばれ方はちょっと気持ちが悪かった。狙われる立場でも買う立場でも、奴隷制ってこれだから……

 

「その呼び方は気持ち悪いので、別の呼び方でお願いできます?」

「では当方はどう呼べば良い」

「ティアードロップじゃ長いし……面倒ですし、そのままアヤで良いですよ」

「認識した。しかしそれでは、アヤの立場が立たない。当方もアインと呼んでくれて構わない」

「了解です」

 

 これでまあ、少しは話しやすくなったかな? なんて思った、直後の出来ごとだった。

 

 突然アインが空を見上げ、瞬間街の中にけたたましい警報音が響き渡った。何かと身構えていると、落ち着いた男性の声で街中に声が響き渡った。

 

『上空に巨大な物体を確認。剥離したクリフォトの枝が落下していると断定します。当街内は結界により無傷となりますが、外周区に発生する悪魔の襲撃に備えてください』

 

 繰り返します、と同じ言葉が繰り返された。直後に上から轟音が響き、時計を使わずとも感じる莫大な魔力が流れて行った。

 それにホッと気が抜けた直後、再び繰り返された放送内容を漸く頭が理解した。確かにここは安全だ。けど、外周区はそうじゃない。落ちて来た枝にも、ひっついて来た悪魔にも蹂躙される。

 

「アイン、私は行きますけど貴方はどうします?」

「追従しよう。あの鍛冶場の人間を助けに行くのだろう?」

「ええ。他の奴らはどうでも良いですけど、あの2人は助けたいですから」

 

 あのマオという少女とその母がいなければ、外周区は見捨ててたと思う。でも、宿とご飯の恩義は忘れちゃいけない。個人的な事情も知ってしまった以上、あの2人だけは見捨て……見殺しに出来ない。非合理だって分かってても。

 

「さて。私は箒で行きますけど、アインはどうします?」

「飛んで付いて行こう。そもそも当方は、魔法で飛べる上今は杖もある。旅にもこの方法で同行しよう」

 

 そう言われてハッとした。そういえば普通に魔法が使える人は、私みたいな専用の箒がなくても飛べるんだった。ほんと、汎用性が高くて羨ましい。

 

「了解です。じゃあ、行きますよ!」

「認識した。当方の力、存分に振るわせて貰おう」

 

 内心で悪態をつきながら箒に飛び乗って、何か静止する様子に言っていた門番を無視して外周区へとんぼ返りした。

 

「……酷いね、これ」

「ほぼ2つの区が壊滅しているな。あの場所の生存者は期待しない方が良いだろう」

 

 軽く上空へ飛んで見渡してみれば、アインが評価したそのままの光景が広がっていた。

 まず鍛冶場があった場所を南区として、東西南北で分割して考える。すると、クリフォトの枝が落下して壊滅したのは、北区と東区の中間付近。王都の時よりは小振りな枝だけど、それでも10000mを超えた高度から質量体が落下して無事で済む筈がない。そして、何故か一緒に現れる悪魔も無数だ。きっとあそこは、殺戮に満ち満ちている。

 

「一先ず、マオちゃん達の所へ!」

 

 けど、だからどうした。助けたいけど、私の手はそこまで広くない。大切な人すら守れなかった私が、守ろうと思ってない人まで守れるなんて口が裂けても言えない。

 

「認識、当該人物を捕捉した。当方が先導しよう」

「ありがとうございます」

 

 そう言って、先行したアインの後に続くように箒を飛ばす。向かう先は、南区と東区の中間付近。王都の事件から考えれば、多分既に悪魔の群生による襲撃が始まっている場所。

 その事実に、とても嫌な予感がした。

 

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