銀灰の神楽   作:銀鈴

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0と1の関係【10】

 ため息を1つ吐き出して、気持ちを落ち着ける。無理に扇動するような事をしたせいか、ちょっと精神的に疲れた。でも、あんな宣言をした手前休んでいる訳にもいかない。一度深呼吸きて、心を落ち着かせた。

 

「ごめんなさいアイン、勝手に巻き込んで」

 

 人がある程度はけるまで、まだ時間はある。だからさっきのことを、今のうちに謝っておく。結果的にだけど、危険へ向かわせることになるのだから当然だ。

 

「気にすることではない。当方の存在意義は、悪魔を殲滅することだ」

「え……?」

 

 淀みなくアインが口にした言葉に、思わず私は聞き返してしまった。なんというか、機械のようで人っぽさがない風に聞こえてしまったから。

 

「当方にも、この発言の理由は不明だ。しかし、己の根幹に刻まれていることだけは分かる」

「そうですか。……まあ、今は良いです。協力お願いします」

「認識した」

 

 頭を切り替える。どうせそんなこと、私の勘違いに違いないから。そんな会話を交わしている内に、随分人がいなくなった。ならもう躊躇うことはないと、私は箒をアインは杖を手に取り出撃準備を終える。

 

「さて、行きま──っとと」

「お願いお姉ちゃん、私も連れて行って!!」

 

 そうして箒に座り、飛び立とうとした瞬間だった。私のコートの裾が強く引っ張られ、そんな大きな声が響いた。溜息を吐きながら振り返れば、必死な顔でマオさんが私のことを見つめていた。

 なんて私が反応してしまったからだろう。少しだけ喜色を浮かべたマオさんは、回り込んで私の正面にやってきた。そして、深々と頭を下げて動きを止めてしまう。

 

「お願いします」

「連れて行くわけないじゃないですか」

 

 頭を下げられても、それを認めるわけにはいかない。もし一緒に来てしまったら、本人は確実に死ぬし私とアインも余裕がなくなる戦場に。それを理解できてしまう以上、誰がそんなことをするものか。

 

「それでも、それでもママを助けてくれたから……!」

「はぁ……」

 

 そんな私の考えは、マオさんには伝わってないらしかった。恩返しは良いことだけど、今回ばかりは有り難迷惑でしかない。この分だと、突き放さないときっとマオさんは付いてきてしまう。私が嫌われるだけで守れるなら、安い買い物かな。

 

「当方は、真実を告げることが有効と推測する」

「それは! いえ、そう……かも、しれませんね。確かに」

 

 そう思い突き放す言葉を告げかけた時、背後からアインが声をかけてきた。まあ、確かに一回治す時に突き放してこれだから、アインの意見も一理ある。突き放すより現状を理解してもらう方が、有効な手段な気がしなくもない。

 

「顔を上げてください、マオさん」

「それって!」

 

 パァっと表情を明るくして顔を上げたマオさんの顔を、箒から降りて両手で挟むように掴んだ。絶対に目を逸らさせないように、逃げ出せないように。

 

「時間がないので手短に済ませます。もう一度言いますけど、絶対にマオさんは連れて行きません」

「私だって悪魔くらい倒せるもん!」

「そういう問題じゃないんですよ」

 

 確かにマオさんなら、2〜3体なら《レッサー級》は倒せないこともないだろう。でも、たかがそれだけだ。魔剣を持った(アヤ)ですら、どうしようもない化け物がここにはいる。それに、

 

「もしマオさんが戦ったとします。私達と違って、どこかでマオさんは逃げることも出来ず確実に死にます。私達だって、手助けする余裕なんてないですからね。

 そうやってマオさんが死んだら、折角私が治したお母さんはどう思いますかね。それを少しでも考えました?」

 

 私が何より防ぎたいのはそこだ。それにマオさんが死んだら、もうあのお母さんは立ち直れないだろう。下手したら、自殺するなんてこともあるかもしれない。この時代ありふれた悲劇だけど、そんな物語私は大っ嫌いだ。

 

「でも、それならお姉ちゃんだって!」

「私は良いんです。だって私が死んでも、悲しんでくれる家族はもう全員いませんから」

 

 胸の痛みを堪えて、笑顔を作ってそう告げた。パパもママも、お義母さんも死んでしまった。血縁がある人もいないし、私は1人だからいいのだ。リュートさん達もおに、あの人も悲しんではくれるだろけど、家族じゃない。

 

「そんなのって……」

「兎に角。私達を助けたいなら、避難する人たちでも守ってください。多分、あの中じゃマオさんが1番強いですから。いいですね!」

 

 最後に語気を強めて、ジッとマオさんの目を見つめた。これで伝わってくれと思っていると、コクリと静かに首が縦に振られた。理解してくれたか分からないけど、少なくとも追ってくる雰囲気ではなくなった。

 

 それに内心安堵のため息を吐きつつ、ずっと控えてくれていたアインに目配せをする。もう行くという意思は伝わってくれたらしく、私が箒に乗り込み空へ向かうのに遅れずについて来てくれた。

 

「……街、保つよね」

 

 空から見渡した街は、先程までと比べて被害が更に広がっていた。宙に舞っていた埃も落ち着き見えたのは、惨状としか言い表せぬ光景だ。

 まず街の北区は見える限り、クリフォトの枝と共に全てがなぎ倒されていた。火の手もなく、蠢く黒と撒き散らされた赤だけが存在する平地。生存者はいないと見て良さそうだ。

 次に現在地である東区。私たちのいる南区よりは基本無事だけど、北区よりの場所は崩壊していた。悪魔の黒い影もウンザリするほど確認できる。ここまで侵攻の手が伸びるのは時間の問題だろう。

 南区は無事で、西区は高度が足りず街の影になっててよく見えない。けど、南区ほど無事ということはないだろう。

 最後に、中心に座する【ギムレー】の街。ここは、北側から侵攻してくる悪魔と交戦中だった。外壁に取り付く悪魔と地表から魔法砲撃を繰り返す悪魔に対し、魔法と……多分、Ⅰ型の魔剣を持ったチームで対抗している。でも、Ⅱ型がない以上いつかは破綻するだろう。

 

「それで、これからどうするアヤ」

「殲滅するのは決めてますけど、ちょっと待ってください。悪魔の数だけ掴みますから」

 

 隣に杖を持って浮かぶアインの問い掛けに、私は待ったをかけた。この方法なら、この腕時計の能力も万全に使えるかもしれない。

 

鋼に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴むため

 

 エターナル詠唱を紡ぎつつ、魔導具を操作する。能力使用中の活動時間無限化と、エターナルの使用者の能力の単純強化。この2つがあればきっと、地区1つ分くらいなら常時情報を処理できる。

 

限界駆動(Over Drive)──突き進め、無限に繋がる廻廊を(リボルビング・エターナル)

 

 他の魔剣の能力は使えない。それでも、情報を活かせるだけの処理能力を手に入れられることは、とても有用なことだ。時間無制限で起動した魔導具は、頭痛を齎すこともなく私の脳に情報を流し続けてくれた。

 

「感知できる範囲内で、小型の悪魔の反応が289、中型が175、大型が2。大型、つまり《メイジ級》を避けつつ殲滅が妥当、かな? アインはどう思います?」

「アヤの実力を正確に知らないため判断不能だ。だが、当方の記録を参照するに、現在の当方とアヤの2人がかりでも《メイジ級》の複数討伐は時間を要すると判断する。よって、避難民の保護を最優先目標たした場合、その判断は正確であると断定する」

「あ、ありがとうございます」

 

 思った以上に、しっかりとした答えが返ってきてびっくりした。でもこうやって背を押してくれるなら、迷う必要はない。誰かに背を押してもらうってこと自体初めてだから、浮かれてるだけかもだけど。

どっちにしろ、悪魔を殺すことには違いない。

 

「それじゃあ、本気で行きますか。《着装》!」

 

 放り投げた箒を中心として、ぞろりと鋼の部品群が現れた。

 普段は格納されている、戦闘用の強化外装。

 ブラシ部分がバーニアノズルに包まれ翼が展開し、本体は細い船のような外装が包み込む。船首には2門の砲が配置され、それら全てが射出されたボルトにより固定されていく。

 そうして落ちて来た箒に乗り込み、ハンドルとしてエターナルを差し込めば完成だ。

 

「最初は避難ルートの安全確保です!」

「認識した。アイン・ナーハフート、これより戦闘行動を開始する」

 

 そう言うが早いか、私たちは最大全速で地表へ向けて加速した。

 

「ッ!?」

 

 自分で作っておいてなんだけど、尋常じゃない加速に一瞬体が持っていかれそうになる。その感覚に満足感を覚えるのと同時、涼しい顔で複数の魔法を同時行使して追いついてくるアインに少しだけ嫉妬心が芽生える。

 

 と、そんな考えに思考を割いている間に、既に目標の悪魔は目視できる距離まで近づいていた。数は8、種別は《ビースト級》5に、《ソルジャー級》が1、《レッサー級》が2。やっぱり足が速いからか、《ビースト級》が多い。数も多く危険性も高いけど、まだ魔法が有効な以上致命的ではない。

 

「吼えろ」

 

 声で火器のロックを解除、そのまま突撃しつつ射撃した。

 魔剣の限界駆動中だからMPを気にせず、拘った薬莢排出機能が銀の帯を吐き出すような速度で弾丸が吐き出される。

 普通なら直線でしかない弾丸程度避けられるけど、生憎私のこれはⅡ型魔剣レッドキャップの模倣品。本家ほどとはいかないけど、弾丸は全て魔弾だ。

 

『Pc fcpp! Ycц?』

『Ycц! Ycц?』

『Yq ywtfg cpigitkhhgp!』

 

 何を喚いているのかは知らないけど、撃ち続けている弾は全弾悪魔どもの足に命中。仕留めきれずとも、十分その機動力を殺してくれた。そうなれば、後はもうただの的でしかない。

 

「シッ」

 

 自分で組んだ魔法に身を任せ、ハンドル代わりにしていた魔剣を引き抜く。足でペダルを操作し背面飛行に移行しつつ、両手の魔剣を閃かせた。切り落とせた《ビースト級》の尻尾は4本、1匹無力化し損ねた。

 

「アイン、やって!!」

「認識した」

 

 食いつかれる前に魔剣を納刀、空へ向けて方向転換して全開で吹き飛ばした。Uターンするように反転した視界の中で直後、悪魔の群れを重力球と紫電が包み込んだ。

 見た感じ、土・闇・雷の3属性複合魔法。サラッと高等技術を……なんて思っている間に、圧縮され焼き焦がされた悪魔の生命反応が消えたことが確認できた。

 

「ナイス!」

「この程度造作もない」

 

 そう言いながらも、アインはハイタッチには応じてくれた。表情は変わらないけれど、実はそういう気質なのかもしれない。

 

「それじゃあ、《メイジ級》が出ない限りこの戦法でいいですかね?」

「問題ない」

「ならその運びで!」

 

 そうして奇襲からの殲滅を繰り返すこと十数回。数が全然減らない悪魔に嫌気がさしつつも、次の攻撃に移ろうとした時のことだった。

 

「このままでは、戦況の打破は不可能と断定する」

「でも、これ以外に私たちだけで出来ることってありますかね。私は大規模魔法、悪魔だけを狙い撃てる自信ないんですけど……」

 

 それに(アヤ)が使える(ことになっている)魔法は、炎系統と土系統の2種類のみ。その大規模魔法は、前者は範囲焼却で後者は局地地震が良いところだ。生存者を巻き込むに決まっている。

 

「無論、当方にも現時点では不可能だ。だが、可能にする方法は存在する」

 

 隣に浮かぶアインが、無機質な光を湛えた右の瞳で私を見てそう言った。そして、アインの魔力が爆発的に増加し始めた。意味が分から──いや、もしかしてエターナルが反応してた通りに……?

 

「数日間の観察の結果、未だ暴き得ぬ情報が数点存在する点、己を過小評価しがちな点、己が身を顧みぬ点、その他数点問題はあるものの軽微と判断。アヤは当方の力を貸与するに能う人物だと断定した」

「え、うん」

 

 思わず敬語が崩れた。それにしても、私観察されてたんだ……確かにいつもより視線というか、捕捉されてる感じがしてたけど。

 

「よって、当方の指揮権を前任者から移譲する」

 

 アインがそう告げた直後、何か魔力の経路のようなものがアインと繋がったのを感じた。まるで魔剣を起動した時のような、というには接続が弱過ぎるけど不思議な感覚。

 

「何か繋がった感じはしますけど、これで何かなるんですか?」

「簡単に言うならば、アヤの命令1つで当方は保有する7つの魔剣を使用することができる」

「……はい?」

 

 もしかしたら、右眼はそうなんじゃないかと思っていた。でも、7本とか理解が追いつかない。というか、普通の人間はそんなに持っていても意味がない。何せ魔剣の基本的なルールがそうだから。なのに、使えるだって?

 

「後で、詳しく話は聞かせてもらいます。……でも今は良いです、何を命令すれば?」

 

 事情は知りたいが後回しだ。どうせ魔剣を7本も持っているというなら、(アヤ)としても無視は出来ないし。

 

「『やれ』という意思があれば、何でも良い……らしい」

「らしいってまた不確かな。まあいいや、やってください!」

「認識した」

 

 私の言葉にそう、いつも通りの言葉が帰ってきた直後だった。

 

再活性化(アンロック)──日の瞳よ、蒼天より世界を見渡せ(ヴァリオスホルス・ウジャト)

 

 アインの紫の目が緋色に燃え上がり、対応するように空を緋色の魔法陣が覆い尽くした。一見無機質な魔法陣にしか見えないそれだったが、普段から視線に晒され続けているから直感した。あれは目だ。秘密ごと看破する、天の瞳。

 

「ターゲットロックオン完了。魔剣ホルス 再封印(リムーブ)

 再活性化(アンロック)──世界を巡れ、山神たる大怪異よ(テンガイグフウ・オオテング )

 

 すぐにそれは消え去り、代わりにアインの左脚から風が巻き上がった。否、正確には不可視の力のような何かが、風のように街へ広がっていった。そしてその不可視の力によって、見渡す街の様々な場所から、小さな黒い塊……小型から中型の悪魔が、空高く打ち上がった。

 

「魔剣オオテング 再封印(リムーブ)

 

 そう力の推測はできるけど、こんな魔剣を私は知らない。聞いたこともない。けれど、ハンドルにしているエターナルの振動が、間違いなく魔剣であると言っていた。

 

再活性化(アンロック)──竜血に塗れよ悲劇の英雄、(グリーフヘイロー・ファヴニーレン)果てなき栄光を掴む為に(・ジークフリート)

 

 次に切り替わった……いや、使う魔剣を切り替える時点で異常なのだけど、変わった魔剣もまた異常だった。明らかに別格な力の増幅率、先程までと違って見た目の変化は一切ないけどそれは──

 

「もしかして、それ試作型じゃ」

「魔力充填完了、焼却を実行する」

 

 そんな私の言葉が届く前に、魔法による暴力が解き放たれた。

 私の身長程もある、極太の熱閃。それが打ち上げられた悪魔に向けて薙ぎ払われ、追い討ちとして大きな爆発が巻き起こった。

 私の探知できている悪魔の数は一気に減少して、残りは推定《メイジ級》が3体のみ。今ので他の悪魔は、少なくとも私が探知できる県内からは消滅していた。

 

「魔剣ジークフリート 再封印(リムーブ)ッ!」

 

 多分、アンロックがこの異質な魔剣の力を解放する詠唱代わり、リムーブが解放を止める言葉だ。そして今のアインの真っ青で苦しそうな顔を見る限り、私の魔剣と違ってノーリスクで使える訳ではないらしい。

 

「まだ戦えます?」

「問題ない。が、魔剣の使用には少し時間が必要だ」

「了解」

 

 反動もそれなりに大きいし、クールタイムが必要か。やっぱりひと段落着いたら、色々調べなきゃいけなさそうだ。魔剣なら、私にも何か出来ることがあるかもしれない。

 

「ならこれから《メイジ級》殺しに行きますけど、斬りやすいように足止めか拘束お願いできます?」

「通常の魔法行使なら無問題だ」

「上出来!」

 

 足止めまで自分でやる必要がないなら、私でも首を落とせる。その為の大鎌は、仕方がないからこの前と同じだ。いつか絶対に大鎌は作ると決めて、私は箒を飛ばした。

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