銀灰の神楽   作:銀鈴

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0と1の関係【終】

 クリフォトの枝が落ちてきたあの事件から1週間。私とアイン、及び漸く出てきた【ギムレー】の街の警備隊で、1匹残らず落ちてきた悪魔は駆逐された。

 今回の事件における被害は、ギムレーの街は死者数名、重傷者数名、軽傷者多数の非常に軽微な被害だった。対して外周区は死者多数、重軽傷者は数え切れないほど、一部の区画が完全に壊滅し、私が南区と呼んだ区域以外は大なり小なり街が壊れるという大損害だった。

 

 当然ギムレーの街から外周区に支援はないと思われたが、炊き出しと崩壊した建造物の撤去及び再建築には手を貸すのだという。ほれは見栄か、保身か、それとも打算か。私には分からないけど、手を貸さないよりは良いことだと思う。

 撤去した使い道のないクリフォトの枝と、これまでの戦闘で壊れたⅠ型魔剣を数本譲って貰えたから個人的にも文句は言えないし。

 

 まあ、ということでだ。

 

「はい、特に経過に異常はないです。これなら、適切な治療が出来る人に任せれば、手も生えてくるでしょう」

 

 私も身分的にやらないといけないし、マオさん母を見捨てるわけにもいかないので、復興に手を貸していた。主に薬品関係で。これでも一応錬金術師でもあるから間違ってはないけど、私の本業は鍛冶師なのに……

 

 内心そんなことを考えながらも、魔導具化した聴診器を外した。ペタンと潰れた袖が痛ましいものの、処置はちゃんとしたからかマオさん母は健康そのものだ。

 

「助けてもらった上に、無料でここまでしてくれるなんて……なんて言えばいいか」

「1度助けの手を伸ばした以上、最後までやらないと不義理になりますから」

 

 助けるのなら、そもそも見捨てるか、最後まで面倒を見るかの2択しかない。よく言われる話だし、私だって出来て……ない、けどそうしたいとは思ってる。だから今回は、逃げずにここにいる。

 

「そんなことより、ソレの使い勝手はどうですか? 少なくとも、日常生活くらいなら出来ると思いますけど」

「ええ、本当に。こんなものまで貰ってしまって……申し訳ないです」

「一宿一飯というか、今もまだ工房使わせて貰ってますからね。これくらいなんてことないです」

 

 そんなことを話しているうちに、はだけていたマオさん母の服のボタンが閉じられていく。私が片手間に作った、不可視の力を手みたいに扱うための魔導具の効果だ。流石にこの外周区で、両手が使えない状態で放置は襲ってくれって言ってるようなものだし。

 

「アヤさんは、いつ頃旅に出るのですか?」

 

 世間話をしつつ診察とかに使っていた道具を片付けている時、そんな声が掛けられた。確かに私は、もうこの街にかなりの時間滞在している。それも今までから考えれば、到底ありえない日数。

 

「そうですねぇ……お金も溜まってきましたし、そろそろ出発しようかと思っています」

 

 ここに留まっていた理由の大半が、アインを買ったことによる資金不足だった。けどそれも外周区の復興支援、ルーファスの街の人たちからギルド経由で届いているお金、単純にクエストをこなした報酬などなど……色々仕事をこなした結果かなり稼げた。

 依頼の都合上、アインから離れるわけにはいかなくなった以上2人分資金を用意する必要があって、元々の予定より随分遅れたけど。

 

「それはあの男の子と一緒にかしら?」

「ええ、まあ。ちょっと訳ありで、離れるわけにはいけないので」

 

 残敵掃討をしている時、暇を見つけてはアインの身体を隅々まで調べたのだ。その、腰回りは裏からしか見てないけど。結果、本人の認識と照らし合わせて分かったことが数点あった。

 

 先ずは7本保有しているという魔剣について。そのどれ1つとして、私の知識にもリュートさんから貰った巻物にも無い魔剣だった。そして、全ての魔剣が肉体に埋め込まれ……いや、正しくは身体の代わりを担っていた。アインと会った時に聞いた始まりの光景、推定ママ達が助けた時に今の体になったと推測される。

 

 1本目は右眼。出力と能力からしてⅡ型で、アイン曰く銘はホルス。情報の認識と共有が能力の概要らしい。

 2本目は左脚の骨。同様にⅡ型で、銘はオオテング。念力を自在に操る能力だとか。

 3本目は右腕の骨。これも推定Ⅱ型で、銘はリベルタス。使うと状況が上手く運べる……とのことだけど、正確な力は不明。

 4本目は驚くべきことに心臓。試作型か最後期のⅡ型で、銘はジークフリート。心臓の代替をしているからか、詳しい効果は不明。でも能力は生きている筈の魔剣だった。

 5本目は右肺。多分Ⅱ型の魔剣だったんだろうけど、元の形から変質し過ぎてただの肺の代替となっていた。通常駆動は常時してるみたいだけど、限界駆動を使えば壊れそうだった。

 6本目は肝臓そのものから、他の内臓に侵食していた。多分Ⅱ型の魔剣で、人体に害は無い代わりに限界駆動は不可能なようだった。これもきっと、使えば壊れてしまう。

 最後7本目こそ、私が魔剣を魔剣として識別できない最大の理由だった。代替している部分は脊骨の一部。試作型か最後期のⅡ型で、銘はパナケイア。代替場所が場所だけに、アインの血液が微弱だけど影響を受けていた。効果は名前からして回復系統だろうけど、使ったことがないから不明だそうだ。

 

 結論を言うと理解不能。どうやって行ったのかも、どういう意図でこうなったのかも。ホルスを覗き肉で覆われてる以上直接触ることは不可能だけど、限界起動後は調整しないと機能停止に陥りかねない。

 だから、魔剣を整備出来る人がいないとダメだ。そして、現状魔剣を整備できるフリーな人は私しかいない。

 

「訳アリって……そういうことかしら?」

「そういうとこ?」

「男女の関係よ。惚けないで頂戴な」

 

 マオさんの母は、どこか楽しそうにそう言った。あー……ずっとではないけど、男女で一緒に行動してるとそう見えるのか。いや、今もこの家と工房に寝泊まりしてるし、そう考えると不思議じゃないかもしれない。

 

「アインとは特にそんな関係じゃないですよ? 冒険者やってる私が言うのも何ですが、仕事上の関係みたいな」

 

 けれど、私はアインのことを異性としては見れそうもない。裸を見られるのが嫌とかそういうのはあるけど、恋愛感情にはならないと言うかなんというか。

 

「向こうはそうじゃないのかもしれないわよ?」

「それこそあり得ないですよ」

 

 アインからはなんというか、人間の三大欲求が欠けてるような……いや、全般的に感情が薄いような雰囲気を感じるのだ。初対面の時よりは柔らかくなって来たとは言え。

 

「それにそもそもです。こんな女子っぽくないちんちくりん、惚れる人なんていないと思いますよ」

 

 もし私に好きな人が出来たら、そういう部分は変えようかとは思う。少なくとも身嗜みくらいは。今の所そういう予定はないけど。

 なんて考えているうちに、慣れる為に起動していた探知に反応があった。どうやら、買い出しを任せていたアインが帰って来たらしい。マオさんも合流してるっぽい。

 

「さて。アインとマオさんも帰って来たみたいですし、ご飯にしましょうか」

 

 どうせ明日には出発するつもりだ、最後くらいちょっと豪勢に作ろう。こうやって、調理台を使えるのも暫く先になるから。んー……小麦粉も生クリームあるし、シチューとか良いかもしれない。

 

「そうしてる分には、普通の女の子に見えますよ、アヤさん」

 

 後ろで何か言っていたようだけど、献立を考えていたせいか聞き取ることができなかった。

 

 

 翌日の朝、私たちは既に街を発って青空の下を飛んでいた。本当はちゃんとさようならをしたかったけど、下手にマオさんがついて来ようものなら大問題だったから。

 

「そういえば、アインは自分を助けてくれた人のことを探してるんでしたよね?」

 

 そうして街が目視の外になった頃、並走しているアインに私はそう問いかけた。魔剣は集めなきゃとは思うけど、それだけに執着してたら不和が起きる。2人旅をするならば、アインの目的も大切にしなきゃいけない。

 

「ああ、間違いない。当方の最優先目標は、恩人の捜索だ」

「分かりました」

 

 思っていた通り、アインの意思は変わらないらしい。それなら、あとは本人確認さえ取れれば……いいかな。私も、久し振りに御墓参りしたいし。

 そう思って私は、1枚のカラー写真を取り出し見せた。写っているのは、今は大罪人と呼ばれる7人。その全員が笑っている、現在では焼き捨てられるような物だ。

 

「真ん中の、銀髪でオッドアイの銀狼族の幼女と、隣に座ってる虹髪の幼女。多分アインを助けたの、この2人ですよね」

 

 途端に、アインの顔に驚愕が浮かんだ。どうして分かったと言いたげな表情をされると、どこか優越感を感じる。

 

「どうして、こんなすぐに」

「元々そうかもと思ってましたけど、アインの身体を見て確信しました。聞いた状況から考えて、あんなことが出来るのは1人しかいません」

「誰なんだ、生きているのか!」

「お、落ち着いてください」

 

 いきなり近くに寄って来たアインが、声を荒らげ顔を近づけ聞いて来た。いきなりそんなことされると流石にビックリする。

 私が一旦距離を置くと、アインもハッとしたようだった。何時もの冷静さが戻って来たことを確認し、コホンと咳払いをしてから続ける。

 

「銀髪の方がイオリ・キリノ、虹髪の方がティア・クラフト。……今は一般的に大罪人と呼ばれていて、既に故人です」

 

 苦虫を噛み潰す様な気持ちで、軋みあげる胸を押さえてそう告げた。言いたくもない言葉を言うのは、やっぱり辛い。堪えるために強く握りこんだ手の中から、血が少し垂れてきていた。

 

「そうか……なら、墓に手を合わせるくらいはしたい。場所を教えてくれ。当方が1人で行けば、アヤの依頼に支障をきたすこともないだろう」

「お墓は、ちゃんとした物はもうないです。荒らされて壊されて、なくなっちゃいました」

 

 最初はちゃんと存在していて、(アヤメ)も通っていた。でも、直しても直しても街の人たちは、存在が不愉快だと言って壊していった。だからもう、ママとパパのちゃんとしたお墓は存在しない。

 

「それより、軽蔑とかはしないんですね。あの人達のことを」

「当然だ。命を救ってくれた相手を、感謝こそすれ軽蔑する理由がどこにある」

 

 そういうアインの目は、やましいことなんて無いような真っ直ぐな目をしていた。今まで散々見てきた、口だけで(アヤメ)に取り入ろうとしてきた屑どもとは違う目だ。

 

「はは……ほんと、アインみたいに考えてくれる人が、もっと沢山居たらよかったのに……」

 

 知らず、涙が零れた。

 

「何故アヤが泣く。当方が何か失言でもしただろうか」

「いえ、ちょっと思うところがあったので」

 

 涙を手で拭って、頭を振って気持ちをリセットする。泣き顔を見られるのも恥ずかしいし。

 

「だが、墓参りすら出来ないことは残念だ……本当に、残念だ」

「ちゃんとしてないお墓なら、ないこともないです」

 

 大陸西部から南部にかけて聳える山脈にある、いつかパパとママが思い出の地だと言っていた花畑。そこには、私が建てたこじんまりとしたお墓がある。その存在を知っているのは、私と片手で数えられるくらいの人数しかいないけど。

 

「どうしてもって言うなら、ちょっと遠いけど案内しますよ?」

「だが、良いのか? 魔剣蒐集の依頼は」

「ええ。いつかは、行かないと駄目な場所ですから」

 

 西も、南も、中央も。いつまでも逃げて、近寄らないわけにはいかないのだ。心情としても、依頼としても。だから、そのいつかが今になっただけだ。

 

「認識した。ならば、案内を頼む」

「分かりました。って、もう向かってる最中なんですけどね」

 

 アインから写真を返してもらいつつそう返す。ちょうど次の街があるのが大体南西方面だったから、実質目的地に向かってる最中なのだ。遠く遠く、霞んで見える雲のかかった山脈へ。

 なんてことを考えながら、ふと思った。1人で旅をしているのも良いけど、現状も決して嫌じゃない。同行者なんていらないと思ってたけど、こういうのもアリかもしれない。

 

「あ、そうだ。多分今日は野宿になりますけど、夜番どうします?」

「当方とアヤで、それぞれ感知系の魔法を使っていれば問題ないだろう」

「あー……2人だとそういう手もありますね」

 

 そんな話をしている私は、考えもしなかった。

 これから先私たちが、あんな事件に巻き込まれるなんて。そしてあのような結末に至るだなんて。

 

 




次回
嘘つきの盗賊
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