緊急依頼がギルドに張り出されてから数日。私達は街を出て、ある物を調整しながら目的地へ向かっていた。
「フッ!」
「っ!」
時刻は明け方。朝露の残る草を踏みしめながら、私はアインと打ち合っていた。訓練とは言え、当然お互いにお互いを殺す気で。しかし私は私の手に余る大きさの大剣を、アインは捻れた木の枝の様な杖をと言ったように、お互い本来の得物ではない物を扱っていた。
即ち、魔剣。この前譲ってもらった損壊したⅠ型魔剣。簡単に言えば、出来る限りの範囲で打ち直した。
くの字に折れ曲がったスラッシャーが2本、へし折れた長槍型と融解した馬上槍型ピアッシャーが1本ずつ、槌部分が砕けた大槌型と柄が折れ手斧サイズになった大斧型クラッシャー。
破損前の物を使ったことがあり、それだけサンプルがあって、その発展系のⅡ型も4本手元にあり、1つを
芯材にクリフォトや結晶憑きと同じ結晶が、加工されて使われているだなんて思いもしなかった。外装が魔法陣を内部にまで刻んだ合金を超圧縮して、そこから刃を出すなんて製法も予想外過ぎたけど。
「シッ!」
「ッ!!」
私が今握っているスラッシャー。これは完全に打ち直すことができた。ママの手癖までは真似できないから、正確にはスラッシャー・リビルドとでも言うべきだけど。
対しアインが握っているのは、元クラッシャー。こっちは機能こそ再現出来たものの、斧や槌ではなくメイスになってしまっている。頼まれてアインの杖に組み込んだ分ニーズは満たせたけど……なんというか微妙な気持ちだ。
そして最終調整中の長槍型ピアッシャーと、まだ安定していない馬上槍型ピアッシャーの亜種がある。手続きで拘束された昨日のうちに打ち直したとは言っても、私もたった4本しか直せてないから何も言えない。
「さてと。今朝はもうこれくらいでいいでしょう」
「もう少し使っていたかったが、仕方ない。認識した」
そう言った直後、魔剣の限界駆動が解除され一気に疲れが押し寄せてきた。Ⅰ型特有の時間制限だ。Ⅱ型の反動に慣れてる分気にならないけど、それでも割とキツイ。
私は同じレベルの人達と比べると、フィジカルな面はかなり貧弱なのだ。こうしてアインと打ち合うのですら、Ⅱ型魔剣のサポートがないと1時間と保たないくらいに。炉の前で槌を振るのとは、運動の質が違うのだ。
「すみません、今日の朝ごはんアインに頼んでもいいですか? 今のうちにやっておきたいことがあって」
「認識した」
魔法で汗と臭いを飛ばし、同じようにしていたアインからクラッシャー・リビルドを受け取る。置き場のないスラッシャーは、一旦地面に突き立てておく。
「ふぅ……」
そのまま昨日の野営地に戻っていくアインを見送り、この荒らしてしまった草原へ座り込んだ。まさしく戦場跡な惨状は修復しないといけないし、それにこの威力を覚えているタイミングじゃないと出来ないことがある。
「さて、と」
魔剣の反動で重い身体に鞭打って、今度はエターナルを握り限界駆動。疲労を無視しつつ、一昨日回収したルンペルシュテルツヒェンを
今から相手にするのは、魔剣の認識としては物言わぬ無機物。つまり私の技術を、100倍にして行使できる。技術者としての
「分析、開始」
今は仕方ないと自分の中で疑問にケリをつけ、まずはクラッシャーの方に分析をかける。手合わせ兼耐久試験を昨日からかなり続けていたけど、外装にも内部にも変形すらなし。傷もほぼない辺り、製法の再現も問題なく出来たとみて良さそうだ。
次に確認したスラッシャー・リビルドも同じ。確実に千度は打ち合っているのに、傷らしき傷は確認できなかった。内蔵されている術式も正常に稼働中、これならちゃんと魔剣として認められる。
「納刀」
そう断定してエターナルを触れさせれば、そこにあったのが幻だったかのようにスラッシャー・リビルドは消え失せた。代わりにエターナルの中に納刀されており、ちゃんと限界駆動も使えるようになっている。
「次」
クラッシャーはそのままに、自前のスキルにしまっておいた調整中の長槍型ピアッシャーを取り出した。こっちはまだ耐久試験は行ってないけど、同じ合金を同じ倍率で圧縮しているから破損までの限界は理解できている。故に、それを込みで稼働している術式の調整を行えば完成だ。
「納刀。
納刀して限界駆動を起動。順手に持ち替えたエターナルを仮想的に向けて突き出せば、光の槍が先端から発射された。うん、問題なく使えるみたいだ。
ここまでは予定通り、ここからが本番だ。
装填を外し、今度取り出したのは湾曲した大きな長方形の物体。即ち盾だ。そしてこれは、初めてママ以外が作った魔剣になるかもしれない武装でもある。
「本体の耐久性は元々過剰気味に作ったから問題なし。でもこの限界駆動の想定出力だと、Ⅰ型10本程度しか同時に結界で止められないかなぁ……?」
手合わせの際の威力を脳内で反芻しつつ、口に出して問題点を確認する。あくまで量産の効く範囲内の威力でそれくらいなら、あの依頼では意味をなさない可能性が高い。もう少し耐久性能は上げるべき、かな?
そうと決まれば話は早い。エターナルを穴を開けていい盾の部分に刃を向け手で固定する。そして釘を打つ要領で均等な距離に穴を開け、突き込んだエターナルを起点に錬金術と真円を作る魔法の併用で成形した。
「強度は……まあ、Ⅰ型を同時25発が限界かな。精神防御も一緒に限界値は上がるからいいとして。もうちょっと防御範囲狭める?」
呟きながら、事前に用意しておいた調整用のパーツを組み込み錬金術で同化接合。軽く動作確認を行いながら、乱れた内部を最適化していく。
「1回完成すれば、6割破損までは耐えられるのになぁ……」
魔剣の内部の調整は、例えるならバラバラに配置された音符を、楽譜に乗せて旋律にし、曲にしていくような作業だ。そう考えると破損に関しても、半分程度音が消えても判別出来る辺り曲に似ている気がする。
そう考えると、調整者には聞こえる魔力の反響音も曲が流れるように聞こえて──
「出来たぞ」
目を閉じて作業を楽しんでいると、トントンと肩を叩かれた。思っていた以上に時間が経っていたらしい。
「あっはい、今行きます」
地力の100倍の干渉力を以ってしても、魔剣の完成はまだまだ遠い。遥か彼方の
ギシギシと、何かが軋む音が聞こえた気がした。
◇
私達が依頼で指定された
まあ、要するに。実質、旅の危険度と目的が増えただけとも言えるのが現状だ。ただ1つ、変わったことがあるとすれば……
「当方は構わないが、アヤはいいのか。先程の街に宿泊しないで」
「ええ、私達のせいで迷惑かけたくはないので」
街に立ち寄りはしても、泊まらないようにしたことだろう。だって私達が襲われるだけならまだしも、私達のせいで無関係の人が死ぬ……そんなことは御免だから。
あとはそれに付随して、アインとの会話が明らかに増えた。元々の事務的な内容ばっかりのものじゃなく、日常会話みたいなものが。そのお陰か、少しだけトラウマに遭遇しても余裕が出来た気がする。
「ありがとうございます」
「当方に現在、感謝される心当たりはない」
「ですよね。言っただけです」
焚き火を弄りながらそう返した。こんな気持ち、誰かに言う必要なんてない。それにもし言ってしまったら、私はアインのことを他人として見れなくなる。そうしたら、もし切り捨てるような時になっても……私はきっと、アインを見捨てられない。
「っ」
と、そんな弱い自分を再認識していた時のことだった。魔物・獣避け兼侵入者を感知する結界に、複数人の反応があった。それも四足歩行ではなく二足、森ならともかくこのだだっ広い平原なら可能性は2つに1つ。同業者か、或いは敵対者か。
「アイン」
「認識している。黒だ」
「わかりました」
黒、つまりは敵対者ということだ。タイミングを考えるなら、北風貪団と考えるのが妥当だろう。もし違っても、他人のテリトリーに挨拶なしで侵入してきたから正当防衛が通る。
大きく溜息を吐きつつエターナルを握る。アインも同様に杖を握り、五感の拡張と共に臨戦態勢が整った。隠蔽されているせいで分かりづらいけど、音と匂いからして敵の人数は少なくとも10を超えている。
「囲まれてますね」
「ああ、どうする?」
「火を消したら、それを合図に」
「認識した」
小声での作戦会議をそれで終え、背中合わせに別の方向へ向く。
こうなることは見越していた。こんな目立つ場所で野営していた理由も、わざと仕掛けて来てもらうためでもある。だから──最初から、加減なしでいかせてもらう。
「「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
土を被せて火を消しつつ、即座に魔剣を起動。限界駆動を起動させて、暗闇の中を駆け出した。現代の夜は、天を覆うクリフォトのせいで、星の光も月の光も乱反射して意味をなさない。だから私も敵も見えないのは同じだけど、私の方が魔剣の分他の五感で感じ取れる。
「シッ!」
まずすぐ近くにいた1人目。
技術も何にもないスピード任せの拳を鳩尾に叩き込み、くの字になった相手が差し出して来た顎に逆の拳を叩き入れる。グラリと崩れ落ちた身体を魔法で作った金属で縫い止めれば、出来る限り静かな無力化が完了した。
2人、3人と同じように処理した直後、私の背後から重く響く激音が届いてきた。散々聞いたアインの魔剣の音だ、間違いなくこれで気づかれる。奇襲相手に奇襲した優位は失われたけど、先に数名落とせたのはでかい。
「
そう分析しつつ、次の目標に向けて踏み込んだ瞬間、見知らぬ男声での詠唱が耳に届いた。まずいと分かっていても、急に動きは変えられない。だからせめて、防御姿勢だけでも取ろうと腕をクロスし── 直後、腕甲が火花を散らし、莫大な衝撃が私を襲った。
「かはっ……」
動作途中の空中ということもあり、私はあっけなく吹き飛ばされた。そうしてバウンドしながら転がされる中、聞こえてきたのは連鎖する銃撃音。なのに
「チッ」
しかし状況を確認し、一も二もなく私は飛び退いた。空中に逃げたことで無防備を晒すことになったけど、伏せていた場所に殺到する銃砲撃の雨を見れば、どちらが良かったかは火を見るより明らかだ。
そして厄介なことに、音より速い銃撃を行う人物は私とアインの中間位置を陣取っている。これじゃあ合流もできない。
「ああもう、厄介な!」
靴底の魔法陣を起動、空を蹴って地面に墜落した直後、再度音速超えの銃撃が掠った。頬から流れる血をそのままに、調整も終わってない盾のⅠ型魔剣に一旦身を隠した。
さてどうする。時間はそんなにない。何せこの銃撃を行なっている相手は、Ⅱ型の魔剣使いだ。このⅠ型擬きではそんなに耐えられないし、それにさっき確認した残敵も無視できない。驚くべきことに全員が、近接武器の他に銃やバズーカのような物を所持していた。囲まれて掃射されたら、どう足掻いても生き残れない。
「「「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
そして、考える暇なんて与えないとばかりに次の試練が来た。3方から襲い来る光の斬撃。命中したら致命必死のそれらを、全力で飛びのいて避ける。
本当なら盾を起動したいけど、エターナルを起動している以上
「どうする……!」
だが
その二者択一の決断は容易には下せず……当然、迷いは戦闘の大きな隙となって現出した。
「死ねぇい!!」
「しまっ!?」
いつのまにか回り込んでいた敵の一人が、私に向けてスラッシャーを振り下ろしていた。回避は間に合わず、片手は銃撃の防御に使われている。故にこそ、咄嗟にエターナルでスラッシャーを受け止めた。そう、受け止めてしまった。
「きゃっ!」
膂力の倍率はともかく、質量と衝撃はどうしようもない。呆気なく私の手からエターナルが飛んでいった。そして当然、魔剣が手から離れればその加護は消え去る。例え2振り一対の魔剣であっても、それは変わらない。
結果、無防備を晒すことなった私に、追いついてきたもう2振りのスラッシャーが振り下ろされ──
「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
詠唱と共に発生した木材が私を守るように顕現し、全ての攻撃を受け止めた。