覚醒判定→強制クリティカル!
この世界、もう誰も名を知る者は全て死に絶えた【アヴルム】という名の世界を運営していたシステム。それを簡単に言い表すのならば、『ステータスとスキル』としか言いようがない。
かつて神と呼ばれていた、世界を運営する種族によってデザインされたシステムだ。しかしそれは、英雄戦争を機に███・███によって一度完全に塗り替えられている。既存のシステムを殆ど変更しないまま、流れ出した彼女の渇望した祈りが全てを書き換えている。
見た目上は、かつて精神力を数値化したステータスはMINDと表示されていたが、現在はMINと一文字削れた程度の変化。しかしその本質は、致命的に歪められている。
全てに平等だったはずの世界のシステムは、努力には勝利が確約され、たった1つの個に依存する
だが、かつてのシステムは未だ健在。今も新しいシステムを壊し世界を取り戻すため、絶えず一万と一手目を打ち続けている。それが破滅の歯車を回しているとは、意思がない故に気づきもせず。
そんな中、特別な少女が世界の崩壊を願った。千載一遇の機会である今、それを世界というシステムが逃すことがあるだろうか? いや、ない。少女が抱く悲嘆と、未だ自覚していない己以外への赫怒に、世界は共鳴する。世界の零落を願う祈りの背中を押す。
その動き全てが、手のひらの上であり計画通りであることなど理解することなく。
「さて、ここからだ」
天を貫き聳え立つ、蒼の結晶樹クリフォト。その枝に腰掛けている人影が、眼下と言うにはあまりに離れ過ぎた戦場を、しかしその目で確と捉えながら呟いた。
元は白色だったであろう薄汚れたローブを羽織りフードを目深に被っているその人影は、小柄で分かりづらいが確かに女性。いつかアヤメが魔剣を通して視た、額に宝石のようなものを持つ人物だった。そのフードの向こうには、燻んだ青い長髪と、濁った青い双眸が覗いている。
「乗り越えてくれよ? 私達の最後の希望」
片手で医療用のメスを弄びながら、疲れ切ったような声音で彼女は呟く。常にアヤメを捉えていた、慈愛と色欲の混ざったような視線を一層強めながら。
かくして
◇
意味のわからない音声を聞いて、初めに感じたのは痛みだった。凍結したせいで紫色に壊死していた脚も、内側をぐちゃぐちゃにされたお腹も、未だに治療中の腕も、無傷だったはずの頭も、一切関係ない割れるような激痛。
「あ、あ、ああ、ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
直感的な表現をするなら、自分を内側から書き換えられるような感覚。そして、完成した物に異物が書き加えられていくような気持ち悪さ。最後に、このままだと私が私でいられなくなる、壊れ狂い死ぬような直感。
「ッ、まずい!」
「殺しきれなかったから!」
チカチカと明滅する自分のステータス画面には、壊れたような黒点が増殖し急激にレベルが上昇して行く様が、疑いようもない真実として示されていた。
そして、頭の中に流し込まれる新たな14個の知識。大戦以降、世界から消えた七大罪と七元徳というスキルを、ステータスに記述されているだけで悪影響を及ぼす力を強制的に理解させられていく。
「ぐ、がぁァァァァァァァッ!」
傷みを誤魔化すように吠えて、アインの腕の中から脱出。あとで切断が確定した脚を、無茶な強化で壊しながらリヨンさんに向けて突撃した。
「ひっ」
突き込まれた魔剣マンチニールを、三日月型の刃だけは砕きつつ身体に通す。ロクに再生出来ていなかった肺が壊れるけど、背中まで槍が抜けたお陰で捕まえられた。
歯を食いしばって耐えつつ、転身も限界駆動もしていないリヨンさんの顔を殴り飛ばす。骨を砕く感触を感じながら、引き抜かれようとするマンチニールを肋骨で挟んで止める。
気が狂いそうな傷みは気が狂いそうな不快感に上書きされ、そのどちらも気合だけで耐えて刺さったままのマンチニールをエターナルに納刀する。
「ひゅっ、ぁ……ぃあっ……」
気持ちの悪い速度で再生していく肺を感じながら、もう一歩も動けずその場に崩れ落ちる。もう抑えきれない。自分の制御が効かなくなってきた。
世界にどうしてと言う、嘆きが心に溢れかえる
世界よ滅んでしまえと、赫怒の炎が燃え上がる
その2つを、違う違うと心が虚飾で塗り固める
どれか1つだけならともかく、3つ同時なんて耐えられない。そしてどれも自分の本心だとわかってる以上、拒否も否定もさせてくれない。
そして意識が私の手を離れようとした瞬間、魔剣の夢に意識が飛んだ。
◇
本来ならマンチニールについての記憶が見える筈のタイミング。けれど、マンチニールに関しては何もわからなかった。ママが作っている様子も、その時の状況も、いつ作られた魔剣なのかも、総てが壊れ尽くしていて読み取れない。
たった1つ、読み取れたイメージは大樹。獣王国の首都に鎮座し、戦争前から現在まで変わらず街を見守っている大樹ユグドラシル。そのイメージだけが、暴力的に脳内に叩きつけられた。
チャンネルが切り替わる
当然次に見えたのは、マンチニールとリヨンさんの記憶。そう、マンチニールと被験体M164番の記憶だった。
『これより、第1回魔剣適合試験を開始する』
真っ白なタイルが四方に敷き詰められた空間に、男の人の声が響いた。しかしその姿は見えず、この場にいるのは視線の主である、今よりかなり幼いリヨンさん。そして、鎖で雁字搦めにされ中に吊られたマンチニールのみ。
『被験体M164番、起動しろ。そうすれば家に帰してやると約束した筈だ』
『は、はい! 刃金に満ちよ、我が祈り──』
リヨンさんが魔剣を握り、詠唱の始まりを唱えた瞬間だった。魔剣を握っていた両腕の肘から先が、骨を残して消し飛んだ。私にはママが魔剣に設定しているセーフティだと分かる、が。
『え……?』
リヨンさんにはわかるはずもない。
鮮血が吹き上がる。痛い。骨が見えている。痛い。感覚がない。毒か回っている。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッッッ!!!!!
『アあぁあァァァァァァァッ!?!?』
『起動時のパターン……黒に近いですが、僅かに反応あり!』
『おお! 遂に時代の担い手が!』
『やったぞ、今度こそ新たな魔剣が復活する!』
脳内に叩きつけられる激痛と死のイメージの中、聞こえてきたのはそんな歓喜と期待の声。それで、1発で理解した。嗚呼、これが《後天的魔剣適合研究所》という場所なのだと。
『再生の後、起動実験を継続する』
『治療班! 最大級の回復魔法を起動しろ!』
『了解。《エクスヒール》』
そして、目の前で腕が再生する。千切れた筋繊維が繋がり、血が通い始め、皮膚ができ、爪が生え、産毛が生える。痛みは消えないまま、数瞬前までと何も変わらない腕がそこにはあった。
『さあ、もう一度だ被験体M164! あと10……いや、4回だ。今日は4回でいい!』
『嫌……いや……いや!いや!助けてよお母さ゛ぁ゛ッ!?』
興奮する研究者の言葉に、リヨンさんが滂沱の涙を流しながら首を振って拒絶する。そして助けを求めた瞬間、首から走った激痛に挙げる声が潰された。その正体は電撃を放つ首輪。その結果、再度私から見ても殆ど変わらない結果の魔剣起動を繰り返し、視点が切り替わった。
次に見えたのは、リヨンさんを見下ろす複数の手術衣を着た人物。動こうとしても動けず、眩しい光に照らされる中、メスを握った獣人が呟いた。
『ではこれより、適合率上昇手術を開始する』
『んー! んーッ!!!』
『刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来を掴むため』
そして、痛みは不思議とないが、自分の身体が裂かれる感覚が走った。全身に広がったそれと同じように、身体の中を弄くり回される気持ち悪さ。詠唱があることからして魔剣であるそれは、奇しくも今の私と同じように人を内側から書き換える物だった。
それらが無限に思えるくらい繰り返される。そして私も、夢として見ている以上全てを追体験し続ける。これは、駄目だ。壊れてしまう。
『成功だ……!』
そんな記憶にも終わりが来て、最初の頃と比べると変わり果てたリヨンさんが、何も変わらないマンチニールを限界駆動しているシーンへと切り替わった。
『おめでとう被験体M164番、君は遂に目的を達成した……!』
『もう、終わ……り?』
『ああ、そうだ。君は自由だ』
『自由……?』
尤も、その時にはかつての名前すら忘れて、目的も記憶も擦り切れてしまっていたのだが。
『そもそも、ここは何……私は誰……?』
『ここは魔剣の調整施設、お前の名前は……そうだな。その魔剣マンチニールとM164から取ってリヨンとしようか』
『リヨン……私は、リヨン……?』
名前を付けて、壊れそうな全てから逃避する。そうすれば、そうすれば良いのか。私もリヨンさんと、同じように理解した。足りなかったパズルのピースが嵌るような感覚。それを実感した直後、場面がまた切り替わった。
『よう、無事かい嬢ちゃん』
次に見えたのは、全てが氷漬けになり崩壊した元研究所と、軍服を着て快活な笑みを浮かべているセプテントリオさんの姿。その姿に、リヨンさんが一目惚れしたのをなんとなく感じた。
『あっ……』
リヨンさんが、差し出されたセプテントリオさんの手を取ったところまでは、なんとか見えていた。だけど──もう、私が限界だった。ただでさえ壊れそうな状況で飛ばされたのに、タイミングが悪すぎた。
夢から切り離される。
現実へと堕ちて行く。
意識が、黒く、染まって……
◇
「これは……駄目なようだな」
アヤメが気絶したことで静寂に包まれた戦場。そこで1人、アヒムは呟いた。未だ限界駆動にはない試作型魔剣を構えつつ、見つめる先にいるのは血溜まりの中に沈んだアヤメ。その姿には、明らかな異変が起きていた。
ノイズが走るように点滅する、ミスリル色の毛並みの耳と尻尾。クウォーターであるはずのアヤメには存在しない筈の、獣……それも狼としての特徴が表出していた。同時に、尾に絡みつくように存在し、火の粉と灰を放つ鳥の尾羽のようなもの。長い髪の先端は翼のように広がり、焔のような色へ変わり火の粉と灰を舞わせていた。
狼と鳥、あり得ない2つの特徴が同時にそこには存在していた。
大罪や元徳と呼ばれていたスキルは、力の代わりに理性を奪い人を異形と化すスキルだ。それでも理性を保てば力と成るが、力に飲まれればそれはただの化物。前者がかつての英雄たちで、後者はかつて存在したという、腕が巨大な白骨と化した強欲な人間だろう。
「ならばせめて、苦しまぬように終わらせる」
目を伏せ十字を切って、アヒムが魔剣を振り上げる。
現状アヤメの意識がない為判別がつかないが、異常な肉体の変質が発生しているということは限りなく後者に近い。であれば、早めに処理することが最も有効な手段なのは、それこそ戦争以前から言われている話だった。
「先王ネイオン様と比べれば、未だ此の身は若輩もいいところ。だが、それでもお前の全てを背負うと剣に誓おう。故に眠れ、時代の犠牲者よ」
そうして断頭の刃が振り下ろされ──その刃は凍り付いた地面を切り裂くのみに終わった。
「遅かったか!」
アヒムが大剣を身に引きつけ盾にした瞬間、響いたのは連続した金属音。反撃として振るった魔剣は空を切り、その向こうに敵の姿を映し出した。
当然そこにいるのは、先程まで血溜まりに沈んでいたアヤメ。しかし今は、明らかに異常な状態で活動していた。ノイズが消え完全に顕現した変質を曝け出し、両手に魔剣を握り四つん這いで睨む様はまさに獣。その黄金に染まった瞳と縦に裂けた獣のような瞳孔も、その印象を加速させていた。
「どうして……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!」
その口から、呪い系統の魔法にも似た雰囲気を持った言葉が漏れ出した。
「いつも私ばっかり奪われる。私ばっかり見捨てられる。私だけが押し付けられる。私だけが苦しむことになる。いつもいつもいつもいつもいつも私ばっかり苦しむことになる! ふざけないでよ、巫山戯るなよ!」
そこに本人の意識はない。ここにあるのは、普段からアヤメが押し殺し蓋をして、見ないように封じていた本音だけ。『私が我慢すれば良い』そうやって積もり重なった人の悪意に、とっくのとうにその精神は限界を超えていた。
「ママも、パパも、お義母さんも、趣味も自由も時間も食べ物もお金も仕事も住まいも尊厳も大切な人も!」
ただ、我慢してそれを気づかせもしなかったことで、誰もそれに気づくことすらなかった。愛されて育ったその心は優しすぎて、それ故にこの時代を生きることに致命的に向いていない。
好意も、嫌悪も、苦しみも、楽しみも、怒りも、何もかもを押し殺してキツく栓をし封をする。それ故に周囲も、本人だろうと気づくことが出来ない、本人すら耐えられない歪みが生まれた。それだけの話だった。
「もう十分奪ったでしょ! もう十分痛めつけたでしょ!? それなのにまだ足りないのかよ、それで挙句は背負ってあげるから殺す? 冗談も大概にしろ!!」
大罪スキルという致命的な汚染を3つも背負うことで、漸く心の内から解き放つことが出来た本音。背負わされた罪業と、初めて口にした呪いによって、全てが歪んで壊れていく。
かつて英雄と呼ばれた者達が、今では大罪人と呼ばれるように。
かつて虐殺犯だっだ人物が、戦場では英雄と呼ばれるように。
世界を救う為に打たれた剣が、魔剣と呼ばれているように。
世界を滅ぼす為に打たれた剣が、聖剣と呼ばれるように。
「こんな世界なら、私から拒絶してやる。
壊してやる! 何もかも!」
故に、ここに運命は確定した。
錆び付いた運命の歯車は回り、運命の輪は回転した。定められた結末に向けて、誰にも止められない流れを生み出しながら。
「刃金に満ちよ、我が絶望──希望の
そして、悪意が解き放たれた。
過去に無数の転生者が介入してるせいで、政治宗教関係全部ぐちゃぐちゃでもんじゃみたいになってます。
序でにアヤメちゃんは、具体的に言うと白き墨から壊れてます。
おまけでアヤメちゃんの現状を前作読んでくれてた人に分かりやすく言うと、大罪スキル3つ+対応職業3つ同時取得(強制)です。