銀灰の神楽   作:銀鈴

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夢幻墜落、幸福幻想、(ピースフル)砕けた世界の墓標はここに(ワールド)【05】

「さて、では打って出るぞ」

 

 そう魔王然とした表情に戻ったリィンさんが言い、直後次元系魔法による転移特有の浮遊感に私は包まれた。一瞬の暗転が訪れ、次の瞬間には私たちはニードヘッグの艦外に立っていた。

 

「でも打って出るって、どうやってです? さっき探知できるみたいなこと言ってましたけど、もしかしてそれで?」

「いいや、違う。余の能力では、実はそこまで正確な位置は分からぬ」

 

 まあ、何も変わらず接すると決めたのだ。少しばかり重い事情を告白されたところで、何を変えるということはしたくない。ましてや、私だって十分に重い事情を抱えているのだから。

 

「だが、余達は既に敵魔剣の影響下から逃れ、2度目の干渉も跳ね除けた。暴走していようと、魔剣の担い手がそれに気付かぬことはあるまい。であれば、次の行動は予測出来よう」

「まず間違いなく、私たちを攻撃しにしますよね」

「うむ。そして余達には、未来を予知する魔剣アヴァロンがある。であれば、迎撃は容易であろう? これ以上無理に敵地に踏み込む必要などあるまいて」

 

 私の問い掛けに頷き、リィンさんは笑みを浮かべて答えた。

 

「欲を言えば余の同胞を、例え命を宿さぬ肉の器でしかなかろうと戦には巻き込みたくはないが……仕方があるまい」

「やっぱり、そうなりますよね」

 

 ニードヘッグによる映像越しではなく、こうして生身で見た以上私にも分かる。ここで製造されていた……いや、ここにいる人造人間は全員生命活動を停止している。それが死んでしまったのか、別の理由なのかは分からないけれど。

 

「未来を認識した。襲撃までは残り87秒、不味い状況にあると断言する」

「方角は?」

「確率が高い順に報告する。当方から3時の方向、9時の方向、6時の方向。極めて低確率で0時の方向となる」

 

 この状態でもニードヘッグが動けるということが分かっているのか、真正面からの襲撃の可能性は低いらしい。なら丁度いい。

 

「余が3時の方向を担当する、アヤメは9時を、アインは6時を頼む!」

「分かりました!」

「認識した」

 

 リィンさんの一声で、私たちはそれぞれの方向へ向かって走り出した。足を踏みしめて確認した感じ、義足の調子も悪くない、これなら私も十分に戦うことができそうだ。

 

「よし」

 

 そうであればもう、わざわざ苦手な魔法戦に甘んじる必要はない。

 右手で保持していたエターナルにスラッシャー、ピアッシャー、クラッシャー、ディフェンダー、チョーク、ルンペルシュテルツヒェンの6種を装填し起動。

 

「《装甲》」

 

 そして魔剣の加護を受けつつ、即席で魔法による腕甲を作成。本当なら胸当ても欲しいけれど、金属だけでは作れないので断念。相手は相当の手練れだと思うから心配な点だが、最悪な夢のお陰で今の私の調子は相当良い。

 

 最後に胸に下げたペンダントを起動。探知範囲を全開にしたところで、私にも敵が知覚出来た。予想よりも2倍近いスピード、アインの予知した87秒より速く、私の所にこの影は到着するだろう。

 未来は無数の可能性がある。そのうちの幾つかを視る魔剣なのだから、予知のブレは仕方ない。そしてこの程度のブレであれば、問題はない。

 

「酷い……」

 

 ようやく肉眼でも見える範囲に現れたそれは、全身に継ぎ接ぎだらけのボロ布を顔も見えない程に纏った歪な人型(ひとがた)をしていた。

 具体的に言うのならば、人の左肩にもう一体の頭を縫い付けたようなアンバランスな身体。骨格的に右側が男性、左側は華奢で小柄だが男性か? であるのに何故か脚の長さは揃っており、尻尾のように逆立った第三の脚まで存在している。

 

 右側の手に握られているのは、直刃で両刃の刃を持ち、開いたU字の鍔と柄から伸びる長い飾り紐が特徴の魔剣。間違いなくⅡ型魔剣オネイロイだ。左側の手に握られているのは、随分と大きいがリボルバーに分類される拳銃。

 

 正直やりにくそうな相手であり、怒りよりも哀れみを感じてしまう姿だった。

 

 ただそれでも、相手にしないという選択肢はなく、やり難いだけであって対処法がないわけではない。

 

「参る」

 

 だからこそ、私は超高速で迫る相手に向け速した。スキルによる鑑定は悪魔と同様バグっていて頼れない。故にこそ、先の先を取る。

 義足を履いての実戦は、夢の中で散々繰り返したお陰で問題ない。むしろ以前より、歩法も踏み込みも格段にやり易くなっていた。

 

「くぉRr「SぅKrSssaGGiiiaaaaa!!」」

 

 二重に重なるような、聞き取れず意味もわからない音の羅列。殺意を込めたそんな咆哮を響かせながら、懐にまで迫った私に魔剣が振り下ろされる。

 

「シッ!」

 

 技術は込められていても、パパの剣より御し易い以上問題ない。右手のエターナルを相手の刀身に沿わせるようにして受け流す。同時に一歩踏み込み震脚。刃を斬り払いながら相手の小指を切断し、射線の通った相手の胸に全力の打撃を叩き込んだ。

 

 手応えは十二分。クラッシャーの能力も込めた以上、確実に心臓とその周辺の組織は破壊した。ただし、相手は魔剣使いである。

 

「そこまで歪められても、やっぱりこの程度じゃ死にませんか」

 

 魔剣を手放させるか、首を斬り飛ばす以外に確実な殺傷方法はないのである。それは大きく凹みどす黒い色に染まった胸元と、口元と思しき場所から理解できた。

 同時に向こうも、知能がどうなっているかは分からないが私を強敵と認識したらしい。2つの声が同時に響いた。

 

「「限界駆動(Over Drive)──」」

起動せよ夢幻刃(ヒュプネロトマキア・)恒久の夢に身を捧げよ(ポリフィリムオネイロイ)

起動せよ記憶刃、(ズィナミソピアー・)力以って障害を排除せよ(アムネシア)

 

 詠唱もなく、最初から完了していたものを呟いただけという印象を受けた解放句。やられた、そう舌打ちするももう遅い。劇的な変化が、私の後方で生まれてしまっていた。

 

 丁度リィンさんのいる方向に突如として、巨大な影が出現する。半壊した細長いトンボのような胴体に、無理矢理組み合わせたような獣の四足と肉食獣の頭、ただしその片目はトンボらしい複眼が接続されている私が相手にしているのと同じ異形。間違いなく、ニードヘッグ同様魔剣と繋がった機体だろう。

 

「SぃssT「ネennnッ!!」」

 

 そして、そのことに気を取られた瞬間、私の目の前には刃が迫っていた。不覚、未熟、後悔するももう遅い。斬り飛ばした筈の小指部分には青く透き通った結晶が生え、しっかりと魔剣を保持している。

 

「こん、のぉ!」

 

 ただ太刀筋は先程と変わらない対処できる程度のもの。そう判断して受け流そうとエターナルを突き出し、桁外れに上昇した力にそのまま跳ね除けられた。

 咄嗟にルンペルシュテルツヒェンで強化したディフェンダーの防壁を展開したお陰で斬られはしなかったけれど、あまりの衝撃に大きく吹き飛ばされる。魔剣込みでも、完全に膂力負けしていた。

 

「ぐ、此奴め……!」

 

 時を同じくして、リィンさんの方でも動きがあった。異形のトンボ型機体に魔力による翅が形成され、探知が出来ない攻撃によってリィンさんが刻まれていた。

 すぐに傷自体は癒えているようだし、魔剣や魔法による攻撃も命中させている。だが再生可能なのは魔剣機体も同じらしく、攻め手に欠けるといった様子。

 しかもそちらの方から、甲高い異音が響き始めていた。不快なその音が、ただでさえ足りていない私の集中を乱してゆく。

 

「やり難い……!」

 

 そう状況把握に思考を割いた間隙に飛来した弾丸をディフェンダーで防ぎ、馬鹿みたいな加速の踏み込みをスティンガーの光槍で牽制して踏み止まらせる。その結果、飛び散る円筒の中身を魔法で焼却するのも、私の手数を減らし正気も削っていた。

 

 口では問題ないと言えても、頭では冒険中によくやった死体処理だと理解していても、やっぱり自分と似た顔を燃やし続けるのは、心にくる。

 リィンさんの方はそうも言ってられない。魔剣機体が身動ぎする度に円筒が砕け、踏み潰され、鉄錆の臭いが充満している。

 

「性能の把握を完了した。これより介入を開始する。アヤメ、リィン、一時後退を推奨する」

 

 それでも何とか戦場を拮抗させていた時だった。そんなアインの言葉とともに、頭上に莫大な魔力を感じた。私の方には氷系統の魔法陣が、リィンさんの方には雷系統の魔法陣が形成され、素直に牽制をばら撒きながら全力で後ろに跳ぶ。

 

魔法再活性(スペルリブート)、吹き飛ぶがいい」

 

 直後、私の眼前には氷が吹雪く銀世界が形成され、リィンさんの方向には電撃による磁界と熱界が形成されていた。多分前者は可能性の拡散、後者は収束によって変質させた魔法。そして明らかに時間を稼ぐため、足留めをするための魔法だった。

 

「やれそうです?」

「相性が悪いな。アヤメはどうだ?」

「力負けしてます。一度殺しはしたんですが、もう無理ですね」

 

 そして意図しないまま、リィンさんと私は背中合わせになっていた。お互い、互いの戦況を魔法で認識していた同士。余計な言葉は無くても、考えは通じ合っていた。

 

「ところで、私はあの機体を相手にする手段があるんですが」

「奇遇だな、余もあの人型ならば嬲れようぞ」

「決まりですね」

「決まりだな」

 

 確認も要らないほど、いざ戦ってみれば息が合う。そんな感覚に苦笑しつつ、立ち位置を入れ替える。私は魔剣機体を、リィンさんは人型を相手にするように。

 

「では、また後で」

「うむ、また後でだ」

 

 アインの魔法の効果が切れかける中、そのまま私達は駆け出した。

 

 ・無限は夢幻を纏う

 

 走りながらチョークの能力をエターナルに付与し、形状を使い慣れた大鎌のそれに変形。同時に左刃にコドクとマンチニールを装填し起動、出力を底上げし加速した一歩を踏み出した。

 対するリィンさんも、全身に龍属性の魔法を纏い長大なディーアボロスの刃を以て、吹雪を斬り払いながら人型に吶喊した。

 

「アイン! 防御は任せます!」

「認識した!」

 

 そしてリィンさんが人型の左腕を斬り飛ばすと同時、私が切り上げた大鎌も歪な機体の右前足を断ち切っていた。ただ、出力差でごり押せる向こうとは違い、私が相手にする機体には謎の探知できない攻撃が残っている。

 

「成る程、そういうからくりでしたか」

 

 ただそれは、アインがしっかりと防いでくれたので問題ない。それに私だって仮にも技術者、ここまで接近してしまえば攻撃の方法は見破れた。

 タネを明かせば簡単な話。魔物特有の生態を利用した、超音波による攻撃だった。肌や建造物を切り裂いて行くのは、詳しい原理は不明にせよ音の力。

 

「もう効きません」

 

 ならば本来は防諜防止用だが『自身を中心に一定範囲から音の出入りを禁止する』という魔法を使ってしまえば、事実上無力化出来る。魔法陣成形から発動までの時間は、アインによる防御で問題がない。出力差的に長時間は厳しいだろうけれど、攻撃手段を奪った以上相手はまな板の上の鯉である。

 

「1つ、2つ、3つ!」

 

 緊急連絡用の念話系統の魔法陣を作成、アインへと接続しつつ手も決して止めずに大鎌を繰る。

 振り上げの勢いに身を任せ、片手を離し大鎌の柄を中心に身体を回転。体制を入れ替えて胴を抉るように一閃。深く突き刺さった大鎌を起点に最大火力の炎を体内に向け解放し、爆発と同時に大鎌の形成を解除。爆風を踏み台に空へ飛び上がる。

 

「クラック!」

 

 空中で手元に大鎌を再形成しながら、構成が乱れていることを視認した翅の魔法をハッキングし破壊。一時的な機能不全に陥れる。

 

(風を送る、好きに使うといい)

(感謝します!)

 

 直後、私の背後で暴風が吹き荒れた。意図的にハッキングしやすく制御を放棄されたそれを、アインの意思に従って乗っ取る。そのまま私を斜め下方向に吹き飛ばす力として利用した。

 

「斬ッ!!」

 

 落下する力と魔剣込みの腕力、重量その他諸々を加えた斬撃は、ただでさえ半壊していた魔剣機体の首を苦も無く落とした。起動停止した機体から一本の魔剣が排出されたのを見計らい、エターナルの内部に納刀。エターナルを短剣に戻し、左刃を腰に戻す。

 

「奇怪な姿ではあるが、やはり余の同胞よな。初期の太刀筋など、目を瞑っていても見切れようぞ」

 

 私が魔剣機体を片付ける間に、リィンさんの戦闘も終局へ近づいていた。厄介であった3本の脚は、リィンさんの尾による打撃で崩壊。立っているのもやっとといった様子の人型。

 

「死してなお、任務の遂行ご苦労であった。せめて、安らかに眠れ」

 

 破れかぶれといった様子の突撃をひらりと躱し、片手でディーアボロスを一閃。頭と思しき部分が2つ飛び、返す一閃で縫い付けられていた胴が縦に2つに分割。血霧に濡れながら、瞑目して祈りを捧げていた。

 

 そうして訪れた、一瞬の静寂の中。

 

 ジャラリ、と嫌に響く鎖の音が、別たれた死体から響いた。

 

「アヤメ!」

 

 リィンさんが尾で弾いた魔剣オネイロイを打ち返すように収納するも、這うような鎖の音は止まらない。その異常事態にリィンさんが飛び退いた直後だった。

 

 オネイロイを握っていた人型の方からは、熱気を纏った9つの黒鎖が。銃を握っていた人型の方からは、冷気を纏った3種の鉄鎖が。其々に断面から飛び出し、結晶を生みながら別たれた2つを無理矢理に結合した。

 

「「████████████(Ahhhhhhhhhh)ッ!!!」」

 

 そうして作り直された更なる異形からは、()()()()()()()()()()()()()魂削る絶叫の二重奏が響き渡り──隠し切れない、悪魔の気配が漂っていた。

 

 

 





《Ⅱ型魔剣 : オネイロイ》
 直刃で両刃の刃を持ち、開いたU字の鍔と柄から伸びる長い飾り紐が特徴の魔剣。中華風の形状で、鍔には不可思議な紋様が刻み込まれ、中心には深紫に透き通った結晶が埋め込まれている。
 起動して出現する機体は4足の獣。魔剣機体の特徴として使用者の脳と直結して動作するが、例外として剣は消えず担い手も同化しない。その為、主に獣に騎乗して戦うことになる。
 所有者 : フォーアフート・アインス

【能力】
 基準値 : B 限界値 : A
 照準 : C 範囲 : A+ 操作 : D
 維持 : A+ 強度 : B

【詠唱】
 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為
 神託と休養を司り、陽日の終わりに住まう者よ
 象牙の門より現れ出でて、我らを泡沫に誘い給へ
 夜と眠りと死を纏い、深山幽谷より顕よ
 我らは(うつつ)に耐えられない、夢幻の彼方でなければ生きられない
 故にこそ、卑しき戦から逃げ出して、恋に狂える恒久へ
 もう何もかもから、遠く遠くへ逃げ出したいから
 限界駆動(Over Drive)──起動せよ夢幻刃(ヒュプネロトマキア・)恒久の夢に身を捧げよ(ポリフィリムオネイロイ)
【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇65%
 ・生物特効100%
 ・悪魔特効500%
②限界駆動
 ・自身を中心に直径50kmの空間を、現実と区別することの出来ない夢へと落とす
 ・特定の相手にだけ幻覚を見せることができる




《Ⅱ型魔剣 : アムネシア》
 Ⅱ型魔剣オネイロイの兄弟剣。結晶の色は黄緑。起動するとかつては蜻蛉の魔物であった機体が出現する。魔剣機体の特徴として使用者の脳と直結して動作する。
 機体の大きさは凡そ10m程。極めて優秀な飛行性能を持つ。本来の主武装は羽撃きによる音波と牙のみ。そこを魔剣の能力で無制限に跳ね上げた出力により、桁外れに強化して運用する。かつては強襲用の機体として使われた。
 所有者 : ズーへ・アインス

【能力】
 基準値 : C 限界値 : E〜A++
 照準 : C 範囲 : E 操作 : C
 維持 : D 強度 : A
【詠唱】
 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為
 悠久の常春は失われた
 夢の世界への逃避は許されず、生きられぬ現を彷徨うばかり
 耐えられない、壊れてしまう、現実(いま)からどうか、目を背けさせて
 この身を苛む苦痛の元ごと、遠い果てまで消し去って
 限界駆動(Over Drive)──起動せよ記憶刃、(ズィナミソピアー・)力以って障害を排除せよ(アムネシア)
【効果】
①通常駆動
 ・自身のステータス上昇65%〜300%
 ・生物特効120%〜250%
 ・悪魔特効600%
②限界駆動
 ・担い手の記憶を焼却することで、記憶のある限りどこまでも出力を上昇させる
 ・手にした誰にでも能力が解放できる
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