銀灰の神楽   作:銀鈴

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因みに魔剣に関する設定、色々最初の目録に追加したりしてます


夢幻墜落、幸福幻想、(ピースフル)砕けた世界の墓標はここに(ワールド)【終】

 魔族として生きることを許せるか。ジリ貧の乱戦で、墜落まであまり時間もない中リィンさんが言い放ったその言葉を、私は一瞬理解出来なかった。

 

「構いませんよ、私は別に。でも何で今そんなことを!」

「説明の時間も惜しいのだ! ただ不都合は起こらぬことを保証する。確認する、構わぬのだな!」

「どうせもう、私は獣人界じゃ生きられませんからね」

 

 それでも諾と返事を返せたのは、そんな考えが根本にあるからだった。私はもう、ほぼ確実に我が家には帰れない。縦しんば変えることが出来たとしても、別人としてだ。ならば別に、断る理由はない。

 

 そんな感傷に一瞬囚われかけ、魔剣の力を振るうことで無理矢理に振り払う。こんな考え事に思考を割ける程、この状況に暇はない。

 

()()()()。対象の承諾を確認、魔王権限を行使する!」

 

 犇く悪魔の一角を薙ぎ払った瞬間、そんなリィンさんの言葉が聞こえた。

 

「略式だが、これよりアヤメは余の臣民。余が守るべき存在。初めての余の魔族である!」

 

 瞬間、私の中に何かが付け足されたような、書き加えられたような奇妙な感覚が走った。けどそれは嫌なものではなく、寧ろ暖かさすら感じる変化だった。

 

「ディーアボロス解放条件確認、達成。守る為に余は殺そう。アヤメ、アイン、あと30秒だけ保たせよ」

 

 思わずリィンさんの方を向けば、一度私に笑顔を見せて頷いたあとリィンさんの気配が凪いだ。そしてすぐに、感情が抜け落ちたかのような顔で、周囲を薙ぎ払いディーアボロスを天高く掲げた。

 

刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為!」

 

 そして、長く赤い刀が脈動した。

 

かつての世には啀み合い、憎み合い、滅ぼしあった3種族

 そのうち1つ、魔を司る種の王として宣言する

 

 1つ、1つ、リィンさんが言葉を重ねる度に、悪魔の動きが鈍くなって行く。力は弱く、刃は通りやすく、重量までもが軽く変わって行く。

 

3種族全ての勇儀が結ばれることは未だ無くとも、いつかの世界、いつかの未来に手を取り合わん

 

 真魔剣ディーアボロスは試作型魔剣……つまり、あの花畑でいつも頭上にあった護虹剣ビフレストや、私も対峙した絶滅剣ティタノマキアと同格の剣なのだ。

 しかも、その性質と作られた経緯からして国防の最終兵器。そんな代物が味方であるのに、ここまで押されている方がおかしかったのだ。

 

剣の誓いを今ここに

 

 いつの間にか、私1人でも対処出来るほど弱体化した悪魔を前に、剣を振るうリィンさんが堂々と宣誓する。

 

総ての呪いを背負いし果てに、例え己の命が尽きようと、(はふり)を齎すその日まで、継いだ灯火、天に掲げ、煌めく未来を創生せん

 

 その言葉を最後に、長い刃の反りがある部分に魔力が集中する。本来なら特別な何かなしでは見れない筈の魔力が、肉眼で見えるほど一点に凝縮して形成されたのは、翼。

 かつての魔王国に於いて国旗に描かれていた、雄々しき龍の翼が魔力で編まれ形成された。

 

限界駆動(Over Drive)──立ち上がり叛逆せよ魔族の徒、(Verräter)我らが誇りを示す為に(Eclipse Diabolus)

 

 秘呪解放──全言語

 

 詠唱が完成した瞬間、何もかもが一気に切り替わった。

 マンチニールで生み出した植物の拘束が、全く破壊されることがなくなった。それどころか薙ぎ払う為に生み出していた荊が、薙ぎ払う軌道に合わせて悪魔化した人造人間を引っ掛けながら吹き飛ばして行く。

 

█████(ナニヲシタ)、『█████(ナニヲシタ)! ████████(キサマァァァァァ)!!』』

「敵に手の内を、明かす訳が無かろう!」

 

 秘呪解放──磁界渦

 

 リィンさんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()吼え、私の知らない術式の魔法が吹き荒れた。性質的に、磁力か何かを付与するような何か。

 それによって、一気にニードヘッグ上の人造人間が地面に叩き落される。どころか、追加で降りてくる悪魔化した人造人間もニードヘッグに触れることが出来ずに落ちて行く。

 

「聞いてみれば、存外不愉快な言葉だな」

 

 秘呪解放──龍翼翔

 秘呪解放──斬撃驟雨

 

 更に、龍の翼を広げたリィンさんがアインの展開する防壁を超えて飛翔する。瞬く間に悪魔と正対する位置まで辿り着き、翼を一度羽撃かせる。それだけで、悪魔の巨体が千々に裁断され千切れ飛んだ。

 どれも魔法としての構成が一切理解出来ない。ああつまり、これが魔族だけが使える切札。秘呪というものなのだと、否が応でも理解出来た。

 

「余の友から、龍から、離れるがいい」

 

 秘呪解放──金剛力

 

 そしてなんと、数十メートルはある悪魔の巨体をリィンさんが殴り飛ばした。追撃で撃ち払われた尾による一撃で、人肉の巨人が地上へ墜落……否、着弾する。重過ぎる衝撃音が響き渡り、同時にアインが崩れ落ちた。

 

「アイン!」

「当方は、問題ない。無事だ」

 

 アインの手からアヴァロンが滑り落ち、思わず駆け寄った私に凭れるようにアインが倒れてきた。肩越しに感じる荒い息、発汗、小動物のような勢いで脈打つ鼓動、そして私の右腕をべっとりと濡らす赤い液体。明らかに、無理をしていることが伝わってくる状態だった。

 

「そんな状態で、無事なわけないじゃないですか」

「だが、当方は──」

「頑張った分、しっかり休んでください。その間に、私とリィンさんでアイツはどうにかしますから」

「待て、アヤメ」

 

 言って、アインを甲板に寝かせて飛ぼうとした瞬間だった。勢いよくアインに手を引かれた。

 

「なんです?」

「持って行け。今は当方より、アヤメが持つ方が効果的だ」

 

 そして、アインが使っていたはずのアヴァロンを突き出された。確かに私とリィンさんで戦う以上効果的ではあるけれど、良いのだろうか。

 

「行け」

「……わかりました。

 装填(ローディング)──

 限界駆動(Over Drive)──幸いなる世界のために、(カレイドスコープ・)未来を映せ万象万華鏡(アヴァロン)

 

 アインから受け取ったアヴァロンをエターナルに納刀。シリンダーが回転して、青の下地に花柄が敷き詰められた弾丸が装填される。まだ未来を見ることは出来ないけど、これでエターナルに装填されている魔剣は10個。これまでで最大の数に、力が溢れていた。

 

「行ってきますね」

「ああ、健闘を祈る」

 

 念のためアインを中心に、私の常用する結界を展開。流れ弾程度なら問題ないようにして、空を飛ぶ為に龍属性の魔法陣を再生成。そして一蹴りで空へ跳び、リィンさんの隣に飛んだ。

 

「私も、やれるだけやります」

「助かるが、良いのか? 相手の地力は下がったが、性質は変わらぬぞ?」

「ええ。リィンが地上に落としてくれたので、本領も発揮できます」

 

 心配そうに尋ねるリィンさんに頷き、全力でマンチニールの能力を行使した。小さな頃に見た絵本のように、墜落した人肉の巨人を植物で拘束していく。

 

「そして何より、折角ならアインの魔剣を取り返したいじゃないですか」

「分かった。余としても、可能であれば取り返したいからな」

 

 リィンさんにとっては、絶氷剣と絶焦剣は一応両親の魔剣。取り返してからどうするのかは知らないけれど、それでもきっと手にしたい……の、かも知れない。少なくとも私なら、絶対に取り返したい。

 

「じゃあ、とっとと片付けることにしましょう!」

「なら、とっとと片付けることにしようか!」

 

 まるで示し合わせたかのように重なった言葉に苦笑しつつ、軽く拳を打ち合わせて地面に向かって飛翔する。やるのであれば速攻で。魔法が全て効かない以上、私に出来ることはそれしかない。

 

『█ █ █ █ █『█ █ █ ーー!!!』』

 

 そんな私たちを脅威と感じたか、私が拘束することて誘導できたからか。理由は定かではないが墜落する私たちに向けて、鎖をたなびかせ青い結晶体が人肉の巨人から射出された。

 結晶体の中心にいるのは、やはりゼーアフートとズーへのアインス達がつなぎ合わされた異形。ただ最後に見た時と違い、その両腕には、金属片としか言いようのない何かに鎖が接続されたものを握っていた。

 

 最早言語ですらなくなった叫びと共に、結晶体から動く鎖が動く。熱鎖と凍鎖、どちらも直撃すれば致命傷足り得るそれが狙って動き──

 

「アヴァロン!」

 

 このまま進めば、直撃して内臓をぶちまける未来が視えた。

 半端に回避すれば、凍結し腐り落ちる未来が視えた。

 受け止めようとすれば、焼け焦げ炭に変わる未来が視えた。

 無数に切り替わる、切り替わり続ける未来の情景。それらが齎らし続ける埒外の情報量の中、それでも生存と逆転の一手を掴み取る。

 

「リィン、磁界渦と幻燈惑です! 私が道を開きます!」

「了解した!」

 

 秘呪──磁界渦

 秘呪──幻燈惑

 

 迫る鎖の群れと私たちに反発する磁性が付与され、一気に鎖の勢いが低下して私たちから逸れ始め、無数に生み出された私たちの幻影に吸い込まれて行く。

 そうして稼いだ時間を使い、チョークの能力て付与した変形能力でエターナルの右刃を変形。エターナルをそのまま巨大化させたような、肉厚の刀身を持つ大剣へ。

 

「せぇい、やぁッ!!」

 

 2つの秘呪を突破してきた3本の鎖を、力任せに振るったエターナルで弾き返す。それだけで火傷するような熱と、皮膚が腐り落ちるような凍気に当てられて激痛が全身を駆け抜ける。

 

「叩き割る!」

 

 秘呪──竜破剛斬

 

 作り出した隙を見逃さず、飛び込んだリィンさんが秘呪込みでディーアボロスを一閃する。下手な魔剣程度なら真っ二つに叩き折れるであろう力が、一撃でクリフォトの結晶を砕き剥がす。

 

███(コロス)███(コロス)█████(ナーハフート)██████(オマエダケハ)ーー!!』』

 

 そこまで私たちがしても、怪物の視線が私たちに向かない。何処までもアインに憎悪を向けて、ニードヘッグに向けて異形が飛ぶ。

 アヴァロンで未来を視るまでもなく、結晶が砕けた隙だらけなその姿で。11本中左右に5本ずつ分けた鎖を翼のように広げ、空気を叩いて異形が飛翔する。

 

「アヤメ!」

「リィン!」

 

 だけど、それを許す訳にはいかなかった。

 リィンさんは立派な龍翼を羽撃かせ、私は龍属性の魔法を陣が融解を始めるまで出力を上昇させ、異形に向けて全力で飛翔する。

 

「砕けた世界の墓標として!」

「ここに眠れ、同胞よ」

 

 そして2人で×の字を描くように、お互いの魔剣を振り抜いた。確実に殺したという手応えから込み上げる吐き気を押し殺し、今度こそ2人だった2人を分かち断つ。

 

『あ、ァあ、なーハ、フーto……『タぃ、ちょ……』』

 

 最後にそんな言葉を零しながら、異形だった2人から、一本の凍鎖が天に向かって高く高く伸びて行った。しかしそれも、ニードヘッグに届くことなく力を失い落ちていく。

 

「終わった、んですかね?」

「で、あろうな」

 

 分かたれた遺体は急速にその色を失い、灰に変わって空気に散っていった。残されたのは、熱気と凍気を放つ2振りの魔剣だったものだけ。剥き出しになった黒砂の大地に、魔剣が墓標のように突き刺さった。

 

 そこまで見届けたうえ、アヴァロンの未来視まで使って安全を確認してから、ようやく私は力を抜いた。それを見計らってかニードヘッグが降りてきて、呪いを浄化しながら着陸する。

 

「今度こそ終わりで間違いないようだな。もう復活もしないであろう」

「です、ね。やっと、決着ですか」

 

 ドッと押し寄せてきた精神的な疲れに、思わずニードヘッグに凭れるように座り込みそうになる。だが“まだだ”と気合を入れて、ニードヘッグを登りアインの元へ向かう。

 

「無事、であるようだな」

「当然です」

 

 アインの質問に答えつつ、異常なまでの精神的疲労に思わず座り込む。そうだ、私は人を2人殺したのだ。それもアインの元同僚だった人間を。そう事実を認識してしまうだけで、心が潰れ方なほど苦しかった。

 

「ところでアヤメ、アイン、気づいておるか?」

「ええ、視線は感じられるので」

「肯定する。卓越した技術ではあるが、なんとか当方にも感知できている」

 

 だからこそ、今私たちのことを覗き見している人物が不愉快だった。気配は分からない。臭いもわからない。ただ、普段から視線に晒されすぎているせいで、私を見ている視線にだけは敏感になっていた。下手人がどこに潜んでいるか、検討がつけられるくらいには。

 

「という訳だ。出て来るが良い」

「あらら……オジサン、本当に見つかっちゃってたのね」

 

 一触即発に近い雰囲気の中、リィンさんの呼び掛けによってその人は姿を現した。年齢は多分2〜30代、やる気のなさそうな表情と物腰で、両腰に長剣と短剣をそれぞれ一対吊った軽装の剣士。

 

「仕方ねぇ、見つかった以上仕事をサボる訳にはいかねぇか」

「仕事とはなんだ、魔剣メメントモリの担い手よ」

「これでもオジサン、スマイヤー・ラプティスって名前があるんだぜ?」

 

 限界駆動したままのディーアボロスを突きつけ問い掛けたリィンさんに対して、曰くメメントモリという魔剣を持つ男性は両手を上げて言った。

 

「それに短気は良くないぜ? そもそもオジサン、戦いに来た訳じゃないんだって」

「ならば、ラプティスよ。仕事とは何だ」

「勧誘さ。あくま名目上はな」

 

 アインの問い掛けに、軽く笑みを作って男性が答える。胡散臭くはないが、作り物の気配がする笑顔だ。それを貼り付けたまま、男性が言葉を続ける。

 

「あんたたち3人を、魔王国第3首都ユ=グ=エッダに連行する。付いてきてもらうぜ? 悪いが決定事項なんでな、出来れば大人しく従ってくれると有難い」

 

 今まで感じたことのある中で一、二を争う濃密な殺気を放ちながら、ラプティスとかいう人はそう告げたのだった。

 

「まあ首都に近づいたら、武装解除とは言わないが……刃を収めるくらいはしてくれよな? オジサンもあんたらも、面倒ごとは嫌だろう?」

「……ふむ、拒否する理由はないな。2人はどうだ?」

「私も拒否するメリットはないと思いますね」

「当方も2人に同意する。ただ、選択肢がないと同義だと苦言を呈する」

 

 その名目上の勧誘に否を唱えられるほど、私たちに力は残っていなかった。

 




《真魔剣 ディーアボロス》
 最初に作られた3振りの試作型魔剣の1つ。魔界を治める者に献上された力。
 細く僅かに反った長く赤い刃を持つ刀型の魔剣。限界駆動時、反りがある側に黒い魔力で編まれた魔族の翼を象った形が展開される。
 ただし、効果範囲内に魔族が1人でもいると使用者が認識していない限り、限界駆動は発動出来ない。
 所有者 : リィン・M・D・ラーグルフリョゥトルムリン

【能力】
 基準値 : A 限界値 : EX
 照準 : A 範囲 : B 操作 : B
 維持 : A 強度 : EX

【詠唱】
 刃金に満ちよ、我が祈り──希望の未来(あす)を掴む為
 かつての世には啀み合い、憎み合い、滅ぼしあった3種族
 そのうち1つ、魔を司る種の王として宣言する
 3種族全ての勇儀が結ばれることは未だ無くとも、いつかの世界、いつかの未来に手を取り合わん
 剣の誓いを今ここに
 総ての呪いを背負いし果てに、例え己の命が尽きようと、(はふり)を齎すその日まで、継いだ灯火、天に掲げ、煌めく未来を創生せん
 限界駆動(Over Drive)──立ち上がり叛逆せよ魔族の徒、(Verräter)我らが誇りを示す為に(Eclipse Diabolus)

【効果】
 ①通常駆動
 ・自身のステータス上昇500%
 ・生物特効300%
 ・悪魔特効800%
 ・魔剣を中心に直径100m圏内の《メイジ級》悪魔までの侵入禁止
 ・魔族の死者の魂は、全てここに帰る
 ②限界駆動
 ・侵入禁止の解除
 ・魔剣を中心に直径5km圏内の悪魔から戦闘能力をレベル1相当になるまで剥奪
 ・剥奪した能力を焼却してエネルギーへ転換する
 ・魔界に所属している人型範疇生物に接続、エネルギーを限界駆動中に限りほぼ無限に供給する
 ・余剰エネルギーを消費して、自身の強化倍率を際限なく上昇させる
 ・全ての秘呪を代償なしで使用可能

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