Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~   作: ノーリ

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おはようございます、作者のノーリです。

本日、これまで連載していた作品が終了したので、早速新作の連載を始めました。

前作を読んだ方はお判りでしょうが、またクロスオーバーで、またとんでもクロスです。

引き続いての方はこちらでもどうぞ宜しく。御新規さんもやはりどうぞ宜しくお願いします。

では、三作目のとんでもクロス、どうぞ。


NO.00 Prologue 前編

「オオオッ…俺が…この俺が…負けるというのか…」

 

とある世界のとある時代、幾つかの国々を巻き込んだ大きな戦争があった。そしてその最終局面、一人の騎士の胸を一振りの剣が深々と刺し貫いていた。

 

「む…無念だ…後少しで…世界を…手に」

 

悔しさをまざまざと滲ませながら膝を着き、そして倒れ伏すその騎士。かつては人格者であり、誰もが慕っていた彼は、しかしある時から力を渇望し、その誘惑に負け、そして堕ちてしまった。だがその末路は、敗北をもって最期を迎えた。

死の間際、その赤く光る眼で見たもの。それは、自分に敵対していた連中が自分のために黙祷を捧げているところだった。

 

(フッ…)

 

今際の際にその姿を嘲る。それは、甘いと思ったが故か、それともお人よしと思ったが故か、あるいは別の感情からか、それはわからない。どのみち、もう意識を取り戻すことはないのだから。

そうして彼は、その数奇で哀れな生涯を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

オレルアン平原。

当方の島国タリスより遂に兵を上げたアリティアの王子マルス率いるアリティア軍。彼らは西進を続け、ようやくオレルアン王国に足を踏み入れることができた。

草原の国オレルアンは、建国以来大陸の盟主国であるアカネイアと深い関係を持つ北方の大国である。だが現在は国土の大半をマケドニアに占領され、防戦一方の非常に苦しい立場に追われていた。

そのオレルアンにアカネイア王国の唯一の生き残りであるニーナ王女が身を寄せている。解放軍の大義名分、旗頭的にも、そして戦力の増強と言う意味でも、アリティア軍がまずこのオレルアンと合流しようと考えるのは実に当然なことであった。

そして今、オレルアン王国の玄関口であるこのオレルアン平原にて、アリティア軍とマケドニア軍との戦闘が繰り広げられていた。

その最中だったのである、後にどんな戦局すら一変させると称される異形がこの世界に現れたのは。

 

 

 

 

 

「よし、大体は決着がついたな」

 

各所からの報告を聞き、アリティア軍の指揮官であるマルス王子が一息つく。

 

「左様ですな」

 

傍らに控える老騎士のジェイガンが答えた。マルスにとっては一番の側近であり相談役であり、そして守り役の頼れる存在である。流石に寄る年波には勝てなくなってきているようだが、それでもまだまだ十分に一線を任せられる存在だった。

 

「後は、城周辺の騎馬部隊を残すのみですな」

 

傍らにもう一人控えていたモロドフ伯爵が状況を付け加えた。ジェガンと並ぶマルスの側近である。彼は戦場に出ることはないものの、その豊富な知識や経験はアリティア軍に欠かすことのない存在であった。

 

「うん。ジェイガン、じい、全軍に命令を。用意が整い次第、足並みを揃えて奴らに突っ込む!」

「ははっ!」

「承知しました!」

 

マルスの命令を伝令に伝え、陣容が整うのを待つ。向こう側もこちらが何をしようとしているのはわかっているはずだが、それでも突撃してこないのは騎馬の利を生かすためか、こちらが橋の手前に陣取っているため一斉に攻撃できないことを警戒しているためか。恐らくは両者だろう。

そうこうしている間に各地に向かっていた歩兵部隊が合流する。そして十分に陣容が整ったところで、

 

「全軍、突撃!」

 

マルスが剣を抜いて命じたのだった。それに従い、各部隊が橋を渡って城を目指す。そしてそれに呼応するように、マケドニア軍の騎馬部隊もアリティア軍に向かって突撃を仕掛けてきた。そして、両軍の端緒がもうすぐ交わろうとしたその時、それが起こったのだった。

 

「! 何だ!?」

 

最初、アリティア軍でそれに気付いたのは将であるマルスだった。そして、

 

「全軍、停止!」

 

慌てて号令をかけて全軍の進行を止める。伝達手段が肉声か伝令ぐらいしかないだけに全軍に命令が行き届くには時間がかかってしまい、両翼は既に戦いに入ってしまったが、それでも中央付近は端緒を開く前にマルスの命令が届いて進軍を停止した。

それは敵軍であるマケドニア軍でもそうだったのだろう、敵の指揮官であるベンソン将軍が同じように全軍の突撃を止めたのである。

 

「マルス様」

「いかがなさいましたか?」

 

ジェイガンとモロドフが主人の真意を尋ねに側に駆け付けてきた。と、

 

「ジェイガン、じい、あ、あれ…」

 

そうして、小刻みに震えながらマルスが目の前を指さす。確認するかのようにその先を見たジェイガンとモロドフもギョッとした。そして、それはマケドニア軍も同じだった。

 

「将軍、あれは一体…」

「うむ…」

 

部下に問われたがわかるわけもなく、ベンソンは重々しく頷くしかできなかった。だが、それも仕方のないことだろう。

何故ならば、それに気が付いているアリティア軍とマケドニア軍の将兵の視線の先では、信じられないことが起こっていたからだ。空間がぐにゃりと歪み、黒い穴が開いていた。その穴からはバチバチと電気が幾重にも弾け飛んでいる。

やがて、その電気の弾け飛びの感覚が短くなっていき、それに呼応するかのように黒い穴は更に黒さを増す。そして、

 

「うわっ!」

 

まるで太陽のような眩しさに思わずマルスを始めとしてその場の全員が顔を背ける。そして瞼の裏で閃光が無くなったのを感じ取ると、徐々に目を開けた。

そこには、先ほどまであった黒い穴もなければ弾けるような電気ももうなかった。だが代わりに、予想だにもしないものがそこにあったのだった。

 

「黒い…騎士…?」

 

誰かが呟く。そう、そこにいた…あったのは、全身を漆黒のフルプレートの鎧で固めた漆黒の騎士の姿だった。その手には彼の得物だろうか、とても大きな両刃の斧が握られている。そして騎士自身は気を失っているのだろうか、微動だにしなかった。

 

『……』

 

誰もがどう反応していいのかわからず、戦場は戦場には不相応な静寂で満たされた。そして、

 

『!』

 

その場にいた大半の人間が驚愕に目を剥く。なんと、その黒い騎士が動き出したのである。

 

「ぐ…うっ…」

 

地の底から湧き出てくるような唸り声を上げながら黒騎士は上半身を起こす。そして、後頭部に手をやりながら現状を把握するように周囲を見渡した。

 

(ここ…は…?)

 

事実、黒騎士は現状把握のために周囲を見渡していたのであった。そして、自分に向かって注がれている大量の視線に気付くことになる。

 

(何だ…この連中は…)

 

自分のことを奇異な視線で見つめてくる周りの連中に思うところがないでもないが、取りあえずは立ち上がることにした。その姿に周りの連中がまたざわつく。

 

(うるさい奴らだ)

 

そうは思ったものの、彼としても現状の把握がままならないため、さてどうしたものかと考えようとした。が、

 

「ええい、邪魔だ!」

 

それを許してくれない者がいた。マケドニア軍の将であるベンソンである。戦場を乱された腹いせからか、理解できない状況に終止符を打つためかはわからないが、彼は単騎、黒騎士に向けて突撃したのである。

 

「あ、将軍!」

 

部下が慌ててその後を追う。その時には、ベンソンはもう黒騎士のすぐ側まで迫っていた。

 

「死ね!」

 

得物であるナイトキラーを振りかぶると、黒騎士に向かって突き刺す。馬蹄の音とその掛け声に気付いた黒騎士が咄嗟に移動したものの少し遅く、その左肩が貫かれた。

 

「きゃっ!」

 

噴水のように噴き出た血に、レナが口元を押さえて蒼ざめる。天馬騎士としてレナより場数を踏んでいるとはいえ、シーダも顔を顰めていた。その頃交戦地では、ベンソンが余裕の表情で馬上から黒騎士を見下ろしていた。

 

「ふん、木偶か」

 

碌に反撃もしてこない黒騎士の姿に心理的な優位に立つと、ベンソンは黒騎士の肩に刺さったナイトキラーを抜く。そして、再び振りかぶった。

 

「失せろ!」

 

黒騎士の生命を刈り取ろうとナイトキラーが振り下ろされる。だが、今度はベンソンの思い通りにいかなかった。

 

「…やかましい」

 

黒騎士は傷を負ってない右手で獲物の斧を持ち直す。そして、左手は添えるようにその斧に添えると、ブンと空中を一薙ぎした。耳が痛いばかりの金属同士の交差音がし、そして、ベンソンの手からナイトキラーが吹き飛ばされ、大分後ろの地面に突き刺さった。

 

「な!」

 

自分の手の中から獲物が吹き飛んだことに呆然としながら目の前の黒騎士を見つめるベンソン。そんな彼に向かって斧を構えると、

 

 

 

「死ね」

 

 

 

黒騎士は慈悲も何もなくそう一言だけ呟き、そして鎧の隙間から見える赤い目が鋭く光った。それが、ベンソンがこの世で見た最後の光景だった。黒騎士が恐ろしい速度で斧を横薙ぎにする。だが、何も変化は起こらない。しかし、黒騎士が斧の刃を地面にドスンと突き立てた時、状況に変化が起こった。

ベンソンの上半身が、ズレ始めたのである。まるで、ズ…ズズ…ズズズ…と言う擬音が入るかのように黒騎士が薙ぎ払った位置で身体が滑り落ち、そして地面に落ちたのだった。それも、馬の首ごと。そしてそして次の瞬間、噴水を思わせるかのようにベンソンの身体と馬の首から血が吹き上がり、程なく残された胴体部分も倒れたのだった。その光景に、アリティア、マケドニア両軍が驚愕をもって目を見開く。

 

「しょ、将軍!?」

「将軍が一撃で!」

「ば、バケモノだーっ!」

「に、逃げろーっ!」

 

マケドニア軍は一撃で将を討たれたことに恐慌状態になって蜘蛛の子を散らすかのように我先にと逃げ出した。そして、アリティア軍はと言うと、

 

「……」

「れ、レナさん!? レナさーんっ!」

「……」

「し、シーダ様! シーダ様っ!」

 

遠目とは言えその光景を見てしまったレナとシーダがその場で気を失ってしまい、ジュリアンとドーガが二人を支えた。そして、

 

「う…うええっ…おええっ…」

「ご、ゴードン! おい大丈夫か、しっかりしろ!」

 

同じくもろにその光景を見てしまったゴードンがその場で嘔吐し、カシムが必死になって介抱していた。一方、将のマルスはと言うと、

 

「あ…う…」

 

黒騎士の気配に中てられて碌に動けないでいた。口の中がカラカラに渇き、汗が次から次へと噴き出してきて止まらない。と、

 

「お下がりください、マルス様! カイン、アベル!」

 

ジェイガンがマルスをかばうように黒騎士とマルスの間に入った。と同時に、その両脇をカインとアベルが固める。だが、それだけではなかった。カインとアベルの脇を固めるように、オグマとナバールが姿を現したのである。

五対一で対峙する中でジェイガンたちは何も動きを見せず、黒騎士の出方を見ていた。と、

 

「小僧…」

 

フルフェイスの兜の奥で目を赤く光らせながら、黒騎士がマルスに語り掛けてきたのだった。

 

「な、何だい?」

 

気後れしつつもマルスが答える。

 

「お前が指揮官か?」

「あ、ああ」

 

咽喉をカラカラに渇かせながらマルスが答える。正直言って相対しているだけで震えが止まらないのだが、だからと言って誰にも投げられないのだから仕方なかったのだが。

 

「そうか…」

 

マルスの答えを聞くと、黒騎士は顔を横に向けた。そこには、死体となったベンソンがあった。

 

「最初に聞いておくが、そこに転がっている愚か者はお前の手の者か?」

 

ベンソンを指さしながら黒騎士がマルスに尋ねる。

 

「い、いや、違う。僕たちの敵だ」

「そうか。ならばよかった。もし貴様の手の者なら、話し合いにはならんだろうからな」

 

その言葉に、マルスを始めとして主だったものが少し安心した。話し合いを口にしたということは、その意思があるということである。それがわかっただけでも収穫というものである。

 

「それで…?」

 

だが緊張の時間はまだまだ続く。

 

「え?」

 

今言った言葉の意味がわからず、マルスが黒騎士に尋ねた。

 

「そこに転がっている愚か者と同じく、お前も問答無用で斬りかかってくる輩か? だったら…」

 

そこで地面に突き立てていた斧を抜くと、マルスに向かってその刃を向けた。勢い良く刃が向けられたため、ベンソンの残り血が跳ねてマルスの顔を濡らす。

 

(! 何て膂力だ…!)

 

両刃の、どう見ても相当の重量がある巨大な斧を軽々と振り回すその姿に、マルスは驚きが止まらなかった。と、

 

「望み通り、相手になってやるが…」

 

そのまま斧を構えると、黒騎士はマルスを始めとするジェイガンたちに殺気を送った。その殺気に、ジェイガンたちが一斉に武器を構える。そして、一触即発のピリピリムードになったところで、

 

「! 待ってくれ!」

 

それを打ち破ったのはマルスだった。

 

「マルス様?」

 

代表してジェイガンがその行動の意味を尋ねる。

 

「ジェイガン、武器を収めてくれ! 他の皆も!」

「王子…」

「しかし…」

 

カインとアベルも困惑顔になる。そんな中、いち早くマルスの指示に従ったのはオグマとナバールだった。

 

「宜しいのですか、王子?」

「ああ」

「わかった」

 

オグマとナバールがそのまま鞘に自分の剣を収める。

 

「さあ、ジェイガンたちも!」

「…仕方ありませんな」

 

マルスに念を押され、ジェイガン、カイン、アベルもオグマたちに倣って己の得物を収めた。全員が武器を収めたところで、

 

「この通りだ。こちらに敵対する意思はない。だから貴方も収めてはくれないだろうか」

 

と、マルスが語り掛けた。

 

「フン、よかろう」

 

取り敢えず敵対する意思がないことを確認した黒騎士が先ほどと同じように自身の得物の刃を地面に突き立てる。

 

「話し合う余地があると考えていいんだな?」

「勿論」

「結構」

「良かった。では、戦後処理を終えてから改めて」

「ああ」

 

こうしてマルスは拠点の制圧に向かい、そしてオレルアン平原での戦いは終止符を打った。ありえない出逢いを一つ、もたらして。

そしてこの出逢いがこの世界に何をもたらすのか、それは今は誰にもわかるはずはなかった。

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