Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~ 作: ノーリ
前回の続き、今回はペラティでの戦いですね。と言っても、今回のメインは戦闘ではありません。
では何なのか。それは、読んで頂ければと思います。
では、どうぞ。
港町ワーレンでの戦いを終え、マルスたち解放軍はワーレンを後にした。当初の予定では敵の追撃を逃れるために迅速に離脱するはずだったが、その必要もなくなったために事前の準備に十分な時間をかけてワーレンを後にしたのだった。
船に揺られ、次に目指すはペラティ。大小幾つもの島々からなる島嶼国家である。
船に揺られて目的地を目指す解放軍の面々の表情はあまり明るくない。それは、慣れない船旅と言うのも理由の一つ。そしてもう一つは、ワーレンの戦いでまたも恐ろしい姿を見せた暗黒の重騎士の姿が誰の脳裏にも大なり小なりあるからだろう。
では、その暗黒騎士…ガレスはと言うと。
「ん…」
ゆっくりと目を開けると、ガレスは視線の先に板張りの天井を見ることになった。
「ここは…?」
上半身だけ起こすと、まだ覚醒しきってない頭で周囲を見渡す。目に飛び込んできたのは板張りの個室だった。
「そうか、そうだったな…」
そこで今の状況がどのようなものだったかを思い出したガレスが、そのままその場…ベッドの上から起き上がった。
「ふぅ…」
そして軽く息を吐くと、身体を捻ってゴキゴキと骨を鳴らす。大分身体がほぐれたところでガレスは空腹を感じた。
「飯にするか…」
そのままガレスは己に割り当てられた個室を出て行く。そして、どこかへと足を向けたのだった。
船内の食堂。深夜や早朝でもない以上はいつでもガヤガヤと賑やかなこの場所は当然今も賑わっていた。指揮官級の専用食堂なのか、一般兵の姿は見えない。それでもそれなりの人員がいるのは、『腹が減っては戦ができぬ』を体現しているとで言えよう。一人で食事をしている者もいるが、基本、何人かでグループを組んで楽しくお喋りをしながら食事を囲んでいた。
「ぐっ!」
「おいサジ、大丈夫か?」
「慌てすぎなんだよ。ほら、水」
「ふぅ、食った食った」
「ドーガ、お前…」
「ちょっと食い過ぎじゃないか?」
「気を付けないと、太りますよ」
「ジュリアン、少しジッとしてて。口元が汚れてるわ」
「あ、ありがとう、レナさん」
「…いいなぁ」
「ぼやくなよ、カシム」
こんな感じで和気藹々とした時間が過ぎていた。そして、その食堂にまた一人顔を出す。が、その人物の顔を見た者は、思わず固まってしまっていた。
(フン…)
自分の姿を見て周りの人間の態度が変わったことはあまり面白くないその人物…ガレスだったが、それ以上は取り立てて気にすることもなく食事を取りに向かった。その姿を見た解放軍の面々の多くは、声を潜めながらガレスについてヒソヒソと話を続ける。
(面倒な連中だな…)
鬱陶しいと思わないでもないガレスだったが、相手にするのも億劫なので放っておいた。そのまま一人分の食事を受け取ると、あいている長椅子に腰を下ろして食事を始める。その様子を、解放軍の面々の多くは自分たちも食事やお喋りをしながら遠巻きに観察していた。
(人が飯を食ってるのを見て、何が面白いのか…)
引き続き鬱陶しさを感じながらもそう思っているガレスだが、実害はないので放っておいた。四方から視線を感じながら空腹を満たしていると、不意に自分の真正面に気配を感じた。
(ん?)
不思議に思って落としていた顔を上げる。と、
「ここ…宜しいかな?」
同じように自分の分の食事を持っている一人の人物の姿があった。
(こいつは…)
確かに見たことのあるその人物のことを思い出す。
「ご老人か」
そして目の前の人物がガレス自身の記憶と一致したため、その人物のことを呼んだ。もっとも名前を知らないために、『ご老人か』などと言う呼び方でぼやかしていたのだが。
「好きにしろ」
そして、そう続ける。
「では、お言葉に甘えるとしようかの」
そしてその老人はそのままガレスの正面に腰を下ろした。
(変な組み合わせ…)
その様子を遠巻きに見ている面々がそう思ったのも無理はない。だが彼ら彼女らの内心など知るわけもなく、二人が向き合って食事に手を付けた。
「自己紹介が遅れたの。儂の名はバヌトゥ。火竜族のはしくれじゃ」
(ん?)
聞きなれぬキーワードに、ガレスが顔を上げた。
「火竜族? 何だそれは?」
「おや、やはり知らぬか」
その返答が予想出来ていたのか、バヌトゥは食事をしながらガレスの質問に答えだした。
「我らは竜人族…人間はマムクートと呼ぶが、そういう種族での。己の本来の姿、力を竜石という石に封じ込めた者じゃ。故に、人であるこの姿は仮のものと言った方が良いかの」
「ほぉ…」
自分の元居た地ではお目にかかれない種族を目の当たりにし、ガレスの興味、好奇心が刺激された。
「面白い連中だな」
「ほっほっほっ、お主には敵わんよ」
その言葉にガレスの動きがピタリと止まり、バヌトゥを正面から見据える。
「どういう意味だ?」
「ふふふ…」
口元を隠しながらバヌトゥが意味ありげに笑った。
「自分で良くわかっているじゃろう?」
そして声を潜め、バヌトゥはガレスと二人だけしか聞こえぬほどの音量で続ける。
「お前さん、只の人間ではないだろう?」
「!」
図星を当てられたことにガレスが一瞬驚いた表情をする。が、それも本当にほんの一瞬ですぐにいつもの表情に戻った。しかし、バヌトゥはその表情の変化を見逃さなかった。
「図星とは言え顔に出すとは、修行が足りぬのう」
「貴様…」
ガレスの視線が鋭くなる。普通の人間が向けられたら震えあがるようなその視線も、バヌトゥは平然と受け流して食事を続けていた。流石に年の功と言うべきか肝が据わっていると言うべきか、大したものである。
「…それを知って、どうするつもりだ?」
ガレスが尋ねた。返答如何によっては手荒な真似も辞さないつもりだったからだ。だが意外なことに、
「何もせんよ」
バヌトゥから返ってきたのはそんな返答だった。
「何だと?」
まさかそんな返事が返ってくるとは思わず、ガレスは拍子抜けしたような表情になった。それが面白かったのか、バヌトゥがニヤリと笑う。
「わしら以外に人間とは異なる存在がいたのが興味深くてな。寧ろ親交を深めたいと思っているのじゃが、迷惑か?」
「……」
暫く呆気に取られていたガレスだが、ようやくバヌトゥが言ったことを理解したのか、頭を抱えるように額に手を置いた。
「何とも…」
そして、いつものものとは違う力ない笑いを漏らす。
「食えんご老人だ」
「ほっほっほっ、誉め言葉として受け取っておこうかの」
楽しそうにバヌトゥが笑うと、食事を終えたのかトレーを持って立ち上がった。
「ではの。また暇ができたら、茶飲み話にでも付き合ってくれ」
「…考えておく」
「期待しているぞ、お若いの」
そしてポンポンとガレスの肩を二回ほど叩くと、バヌトゥはその場を後にした。二人の様子を周りで見ていた面々は、ガレスが自分のペースを乱されている様子に目を丸くしていたが、一番変な感じでいるのは誰あろう本人であるガレスだった。
(…ここは変わり者の集まりか)
他の面々が知ったらお前にだけは言われたくないと揃って口にしそうなことを考えながらガレスも食事を終えた。そして、先ほどとはまた異なった思惑を纏った数多くの視線を集めながら、ガレスは食堂を後にしたのだった。
こうして、ガレス自身は意図していなくとも、アテナ、ゴードン(?)に続く、三人目の理解者が解放軍に現れたのだった。
「ふぅ…」
昼下がりの穏やかの陽の光の下、ガレスが軽く一息ついて船の甲板でのんびりと時を過ごしていた。
今回の戦場となるペラティは島嶼国家ということもあり、重装甲で小回りの利かないガレスには出撃の指示は出されなかったのだ。ここまで船旅をしてきたということもあり、ガレスはいつもの鎧を脱いで甲板に姿を現していた。鎧を着こんだまま万一海に落ちたら大事ということと、漆黒の鎧のために照り付ける太陽の光を吸収して内部が蒸し風呂以上の地獄になるということ、後、海風から鎧を護るという理由でガレスは前回のワーレンでの休息時に続いてここでも身軽な恰好をしていた。
「…いい天気だ」
空を見上げ、思わず呟く。快晴の空に太陽が浮かび、ジリジリと地上を照らしている。この場面だけで見れば実にのどかに平和に時間が過ぎていた。
とは言え、少し離れた場所では今もマルスたちが戦っているのだが、ともすればそんなことも忘れるほど穏やかな時間が流れていた。そののどかな雰囲気に誘われたのか、ガレスは思わず欠伸をする。
(この俺が欠伸か)
欠伸を終えた後、思わずそんなことを思ってしまう。向こうにいた頃は暗黒道の完全な支配下であり、疲れや眠気なども感じることなくただひたすら戦闘と殺戮に明け暮れていた。それを考えれば欠伸などあり得ないことであった。
転生によって全く違う地に堕ちてきたとはいえ、未だに完全には暗黒道の支配下からは抜け切れていないため戦闘欲求や殺戮欲求などは旺盛だし、暗黒魔法も使えるがそれでも以前に比べれば大分人間らしさを取り戻してはいた。もっとも、今後も少しずつではあるが暗黒道の支配下から抜け出して人間らしさを取り戻していけるのか、それともここで打ち止めなのかはわからないが。
(まあ、今そんなことを心配しても始まらん。とりあえず今は…)
ガレスはそのままその場で甲板の上に寝転んだ。
(少し昼寝でもするか…)
穏やかな陽気に誘われて、ガレスは眠気に身を任せてそのまま眠りに就こうとした。が、
「おや」
目を閉じたところで、頭上から誰かの声が聞こえた。
(ん?)
どこかで聞き覚えのあるその声にガレスは思わず目を開けた。逆光で少し目のくらんだ視線の先にいたのは、自分と同じ異質の存在だった。
「…ご老人か」
呟くと、ガレスは上体を起こしてそのまま船縁へと背を預けた。
「すまんの、邪魔をしたか?」
少しだけ申し訳なさそうに、老人…バヌトゥが話しかけた。
「いや…」
ガレスが大きく息を吐く。
「まだ横になったばかりだからな。別に構わん」
「そうかね」
ガレスの了承が取れたところで、バヌトゥもガレスの隣に腰を下ろした。
「それで、何の用だ?」
早々にガレスがそう切り出す。
「ほっほっほっ、先だっての食堂のことを忘れたわけじゃなかろう? お主と親交を深めに来たんじゃよ」
「成る程な…」
その時のことを思い出し、ガレスが軽く頷いた。
「マルス王子や他の者から事情は聴いたが、流石に儂も驚いたわい。お主、違う世界から来たというのは真か?」
「まあな。どうやらそのようだ」
隣から、少し覗き込むように尋ねてきたバヌトゥに、ガレスが平然と頷いて答えた。
「何と…」
だがやはりバヌトゥには刺激が強すぎたのか、驚いた表情を浮かべている。
「全く…信じられんのう」
「信じる信じないは貴様の勝手だが、事実は事実だ。仕方あるまい」
「うむ。確かにそうじゃがな…」
それでもやはり信じられないのか、難しい顔をしてバヌトゥは小首を捻った。
「それに、俺に言わせれば貴様らのような種族がいることの方が驚きだがな」
ガレスが呟いた。
「ん? お主の元居た世界には儂らのような竜人族はいなかったのか?」
「マーメイド、ホークマン、ウェアウルフのような面白い種族は色々といたがな、竜に変身できる種族は流石にいなかった」
「ほぅ…。だが儂らからすれば、それほど多くの人間以外の種族がいることに興味を覚えるがのう」
「…この世界にはいないのか?」
バヌトゥの返答に少し興味を持ったガレスが尋ねた。
「わからん。世界の果てまでくまなく旅すればどこかにいるかもしれん。だが少なくとも、このアカネイア大陸には知的種族は二種類だけじゃ。即ち、人間と我ら竜人族」
「成る程な」
ガレスがしきりに頷いた。思えば、この世界に堕ちてきてからこの世界の基本情報的なものは頭に入れたが、それ以外の情報は皆無に等しい状態なのだ。これ幸いと、ガレスは頭に新しい情報を叩きこんでいた。
「全く…」
対称的にバヌトゥは疲れた表情になってふぅ…と息を吐く。
「まだまだ世界は広いわ」
「そうだな」
全くもってその意見には同感だったので、ガレスも頷いて同意した。そして、
「ご老人」
続けざま、ガレスが口を開いた。
「何かの?」
「今度は俺が聞いてもいいか?」
「儂に答えられることならな」
「なら大丈夫だ。何故戦いに参加した」
「どういう…意味かの…?」
意図が図りかね、バヌトゥがガレスに尋ねた。
「貴様は俺のような戦闘狂いでもなければ、どこぞの国や組織に所属しているわけでもあるまい。竜に変身できるということは十分な戦闘能力があるのだろうが、進んで戦いに身を置くようには思えん。寧ろどちらかと言えばそう言うのを忌避して身を隠す隠者のようなタイプだと思った。だからこそ、戦場に身を置いているのが不思議でな」
「これはこれは…」
ガレスの推察に、バヌトゥが驚きに満ちた表情を浮かべた。
「自分で戦闘狂いと言っているから単なる猪武者かと思えば、何の何の中々の洞察力ではないか」
「…褒めるのか貶すのかどちらかにしろ」
「おお、これはすまんの」
そうは言いながらも、バヌトゥは悪びれもせずに楽しそうに笑った。
「確かにお主の見立て通りじゃよ。儂はある目的があってここに身を寄せている」
「それは何だ?」
「人探しじゃよ」
バヌトゥはあっさりと自信の目的をガレスに告げた。
「もうどのぐらいになるかのぉ…」
「成る程な」
バヌトゥの返答にガレスが頷いた。
「貴様にとって余程重要な人物のようだな」
「うむ。だが、儂だけに重要なわけではないぞ。人間にとっても重要な存在じゃ」
「ほぉ?」
そのバヌトゥの語り草に、ガレスは少し興味を惹かれた。
「それは…ぜひ逢ってみたいものだな」
「そのうちの。神竜王様のお導きがあればの…」
そう答えた時のバヌトゥの神妙な表情に、ガレスもそれ以上は何も言えなかった。
「さて…」
一息つくと、バヌトゥが腰を上げる。
「そろそろお暇するかの」
「そうか」
「うむ。戦場で肩を並べるときはよろしく頼むぞ」
「ああ」
「それと、昼寝の邪魔をして悪かったの。ゆっくり休んでくれ」
ではの、と最後に言い残し、バヌトゥはその場から去って行った。ガレスは再び横になるが、目が冴えてしまったのか一向に眠気は襲ってこなかった。
(やれやれ…)
内心で溜め息をつくと、昼寝を諦めてガレスが立ち上がった。
「終わったようだな…」
丁度その時、遥か遠くから歓声が上がったのが聞こえた。首を巡らせると、その先にあったのは今回の目的地であるペラティ城だった。
「さて、次は何処へと行くことになるやら」
俺が暴れられる場所ならいいがなと思いながら、ガレスはそのまま自分に割り当てられた船室へと戻っていったのだった。