Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き。今回は、新・暗黒竜になって追加された外伝の二話目のお話です。

ここで仲間になるあの人物を含め、この辺りから急激に頭数を揃えつつあるアカネイアの将たち。彼ら彼女らとガレスがどういう化学反応を起こすのか。見守っていただければと思います。

では、どうぞ。


NO.11 生まれるのは火種か協調か

遂にパレスを奪還した解放軍は、その勢いのままにアカネイアの旧領を再び取り戻していった。

だがアカネイアの西方地方に、頑としてアカネイアへの復帰を拒み続ける元アカネイアの騎士が治める地があった。その騎士の名はホルスといい、アカネイアが瓦解する前は忠義の厚い騎士の誉高かった人物である。

そんなホルスが、アカネイアが再興しても尚旧領に服するのを拒み続けていた。ホルスの人となりを知っていたニーナはその事実を信じられないものの、ドルーアへと攻め込むためにそのままにはしておけず、ホルスを討伐する命を下したのであった。

 

 

 

 

 

「ホルスよ」

 

アカネイアの軍…つまり、元々の自国の国軍を迎え撃つことになったホルスの許に、軍監としてドルーアから派遣されているデジャニラが赴いてきた。

 

「反乱軍が首都パレスを奪い取ったらしいな」

「…ああ」

 

対してホルスは抑揚のない返事を返す。その様は、無理に感情を押し殺しているように見えた。

 

「あの忌々しいアカネイアの小娘め…」

 

対してデジャニラは不機嫌さを隠すこともなくそう吐き捨てる。

 

「やはり、生かしておくべきではなかったわ。グルニアのカミュが何と言おうとな」

「……」

 

ホルスはデジャニラの暴言に何も反応しない。それに気付いたデジャニラが不機嫌そうにホルスをねめつけた。

 

「ん? どうした、ホルス。まさか祖国に戻れる…などとは考えていまいな?」

 

ホルスは何も答えないが、デジャニラは構わず先を続ける。

 

「もし、そなたが裏切れば、この地に住まうそなたの領民どもがどうなるか…」

「わかっている!」

 

それ以上は聞くまでもないとばかりに、ホルスがデジャニラを怒鳴りつけた。

 

「もはや私はアカネイアの騎士ではない。ドルーアに降った日から、この時が来るのを覚悟していた」

「それでよい」

 

ホルスの返答を聞いたデジャニラは満足げに頷いた。

 

「ならば兵を率い反乱軍を討つのだ。そなたの大切な民のためにな…」

 

それだけ言い終わると、デジャニラは城を守備すべく戻っていった。

 

「…出陣!」

 

デジャニラが遥か遠くへ行ったのを確認した後、ホルスは部下たちにそう命じた。端正なその顔立ちは感情を読み取らせなかったが、それでも少しだけ苦渋に満ちた表情をかたどっていたのだった。

 

 

 

マルス率いる解放軍は戦いを有利に進めている。ホルスの兵は決して弱卒というわけでも練度が低いわけでもない。しかしここまで数々の戦いを乗り越えてきた解放軍と、アカネイア陥落後は精々が反乱分子の鎮圧程度の任務しかしてこなかったホルスの軍では結果は明らかだった。解放軍は終始優勢に戦いを進めていく。

 

「…つまらん戦だ」

 

その様子を、後方部隊のガレスが眺めながら呟いていた。今回は大規模戦闘にはならないだろうということと、どちらかといえば開けた地形での戦いということで主力は騎馬や飛行部隊だった。ということで、ガレスは今回はお留守番なのである。

そして後方から戦況を見ていて、ガレスは心底今回の戦いに参加しなくてよかったと思っていた。

 

(あんなつまらん戦では、鬱憤が溜まるだけだ。後ろでのんびりしている方が余程マシだな)

 

前線に出て戦ってる人間が知ったら激怒しそうな感想を思い浮かべながら、ガレスはその場を後にした。相変わらず、周囲は後方部隊なりの仕事を行っているが、ガレスはそれを手伝う素振りもない。

…と言っても、周囲もガレスに仕事を割り振るつもりはないのでおあいこではあるが。

 

(さて…どうするか…)

 

暇を持て余したガレスが腕を組んで考える。知り合い…というか、多少なりとも親交のある連中はここには誰もいなかった。

ゴードンとバヌトゥ、ミネルバは出陣しており、マリアは負傷兵の看護。アテナは他の剣士連中と手合わせをしているという状況である。

 

(…少し休むか)

 

あの戦況では、遅かれ早かれ決着はつくだろう。ならば、それまでのんびりさせてもらおうというのがガレスの出した結論だった。マルスもガレスが、戦闘時はともかくそれ以外の時は常軌を逸した行動をしているわけではないので、その行動に制約をかけてはいなかった。

そのため、自分の天幕へと戻ろうと歩を進めようとしたガレスだったが、

 

「待ちなさい」

 

思いもしない足を止める声に、驚いて素直に従ってしまった。

 

(ん?)

 

誰だと思って声のした方を振り返ると、そこには見慣れない女騎士が一人。

 

(この女は…)

 

見慣れはしないが見覚えのある顔である。誰だったかを思い出そうとしたガレスだったが、意外とすぐに思い出せた。

 

「お前、確かパレスの捕虜の一人だったな」

「ええ、ミディアよ」

 

そして彼女…ミディアがゆっくりとガレスに近づいてきた。

 

「…ガレスだ」

 

相手が名乗ったので、当然の礼儀としてガレスも自分の名を名乗った。

 

「聞いてるわ、マルス王子から」

「ほう?」

 

それはそれはと思いながらガレスが頷いた。ミディアはガレスから少し距離を置いて止まる。

 

「…それで? 何の用だ?」

 

自分の目の前に立っているミディアの表情から、警戒心アリアリなのが読み取れ、思わず笑ってしまいそうになるのを堪えながらガレスが尋ねた。

 

「え、ええ。一応、助けてくれたお礼をしておこうかと…」

 

そう言ったものの、所在なさげといった感じでミディアは落ち着きなくしている。その様子に、ガレスは思わずからかいたくなった。

 

「ククク…そう怖がるな」

 

なので、挑発するように笑いながらミディアに話しかける。

 

「別に、取って食ったりはせんから安心しろ」

「こ、怖がってなんか…」

 

ミディアが若干しどろもどろになりながらそう反論した。しかし、相変わらず所在なさげにしている上に目が泳いでいるとあっては説得力はない。

 

「まあ心配するな。取って食いもしないが、押し倒して無理やり犯すような真似もせんからな」

「なッ!」

 

赤裸々な物言いに、ミディアが顔を赤らめる。だがすぐに、その表情は怒りへと変わった。

 

「無礼者!」

 

そして咎める。あまりの声の大きさと鋭さに、周囲の人間もビックリして止まってしまい、珍しいものを見るようにミディアとガレスに交互に視線を向けていた。

 

「あ…」

 

思わず我を忘れて叫んでしまい、周囲の耳目を集めてしまったことにミディアが居た堪れない表情になった。

 

「ククク…」

 

対してガレスはどこ吹く風といった感じで、いつもの様子からまるで変ったところがない。

 

「それで?」

「え?」

 

言っている意味がわからず、ミディアが思わず聞き返した。

 

「用件はそれだけか?」

「え、ええ…」

 

口篭もりながらもミディアがそう答える。

 

「そうか。だったら、謝意は受け取った。さっさと戻れ」

「なッ!」

 

その、あまりに無礼な物言いにまたミディアが怒りに震える。

 

「何て無礼な…!」

「クク…そう怒るな」

「怒るに決まっているでしょう!?」

「そう言うな。お前のためでもあるのだからな」

「…どういう意味?」

 

まだ納得はしていないのだろうが、ガレスに今の返答の意味を尋ねる。

 

「お前は聖騎士だったな?」

「ええ」

「なら、頭もそれなりに聡いのだろう? だったら、俺が他の連中にどういう態度で臨まれているか、何となくでもわかるはずだ」

「それは…確かにそうだけど…」

 

ミディアが少し言い淀む。救出されて間もないが、確かにガレスが周りから腫物の様に扱われているのは理解できていた。本人は気にしていない様子だが、それでもそれを面と向かってハッキリ言えるほどミディアは他人を慮ることのできない女性ではなかった。

 

「そんな俺と一緒に居たら、お前までいらん誤解を受ける。だからさっさと戻れ。まだ新参なのだから、余計な厄介ごとに首を突っ込みたくないだろう」

「…わかったわ」

 

少しの間逡巡していたミディアだったが、やがて口を開いた。鬱屈した思いはあるが、本人がこう言っている以上はどうしようもない。ここは素直に従うしかなかった。

 

「では、私は戻ります。それと…」

「ん?」

「オレルアンでかどわかされそうだったニーナ様を助けてくださったそうですね?」

「ほぉ…誰に聞いた」

 

まさかそんなことを知っているとは思わず、興味本位でガレスがミディアに尋ねた。

 

「ニーナ様ご本人から。それもあって、その件も含めてこうしてやってきたのですが」

「クク…律儀なことだ。だが、あれは只の成り行きだ。別にあいつだから助けたわけではないし、そもそもあいつがあの時あの場所にいたのも勿論知らなかった。全ては単なる偶然の副産物だ」

「それでも、ニーナ様が貴方に助けられたのは事実です。ですから、お礼を言わせてください」

「わかったわかった。気持ちは十分受け取った。だからさっさと戻れ」

 

流石に鬱陶しくなったのか、ガレスが手をヒラヒラと振ってミディアに戻るように促した。その扱いに三度ムッとしたミディアだったが、これで義理は果たしたとばかりに軽く叩頭してその場を立ち去ったのだった。

 

「まったく、律儀な女だ」

 

その律義さに可笑しくなり、ガレスがいつものように咽喉の奥で笑った。そうこうしているうちに、戦いは最終局面に入ったようだった。

 

「問題はないようだな」

 

現在の彼我の戦力差を確認すると、もはや負けることはないだろう。そう判断したガレスは自身の天幕へ戻るために身を翻したのだった。

程なくして敵将のデジャニラは討たれ、そしてホルスは降伏した。そしてその身柄は…

 

 

 

「いいえ、それはなりません」

 

戦闘後に降伏し、裏切り者であるために死を望んだホルスだったが、ニーナはそれを許さなかった。

 

「!! ニーナ様…」

 

顔向けできないかつての主君に、ホルスは合わせる顔がなく苦虫を噛み潰したような表情で顔を背けた。

 

「久しぶりですね、ホルス」

「はっ…」

 

かつての主従が立場を違えて再び相見える。

 

「話は聞きました」

「……」

 

ニーナのその一言にもホルスは無言を貫いた。何を言っても言い訳になってしまうという思いもあるのかもしれない。

 

「貴方の言うように、アカネイア騎士の名を汚した罪は万死に値…いえ、それ以上です」

「仰る通りです。返す言葉もございません」

 

ホルスは粛々とニーナのその叱責を受け入れた。

 

「ニーナ様、何を…」

 

思わずマルスが間に入ろうとしたが、ニーナに目で制されてそれ以上立ち入ることはできなかった。

マルスが自分の意を汲んでくれたことを理解すると、ニーナはそのままその先を続ける。

 

「ですから、貴方には騎士らしい死など授けません。生きて汚名をそそぐのです」

「!! なんと……私に生きよ、と?」

「その通りです」

 

ニーナが首肯した。

 

「貴方は、民を守るために出来るかぎりのことをした。それは誇るべきことです。ですが、ここで死んではただ裏切り者としてのみ名を残してしまう。それは、貴方に従う部下たちも裏切り者の汚名を着たままということです。それでもいいのですか?」

 

理を説いてニーナがホルスを説得した。

 

「…それは……」

 

ニーナの言い分は間違ってはいないため、ホルスが戸惑いを見せた。逡巡していることがありありとわかる。

 

「これからの行いで、貴方が間違っていなかったことを示すのです。それでこそ貴方を信じて従い、不幸にも散っていった者たちも浮かばれる……。裏切りを行った価値が本当にあったと言えるのではありませんか?」

「ニーナ様……」

「生きて、共に戦ってください。私たちと共に。死ぬことは許しません、いいですね? ホルス」

 

ここで、勝負はついた。かつての主君にここまで言われては、ホルスも断る術を持ち合わせていなかったのである。

 

「…はい。ニーナ様の、御心のままに……」

 

こうしてホルスは解放軍に降った。解放軍はまた一人、大きな力を迎え入れたのだった。

 

 

 

「無事に終わったようだな…」

 

天幕の中で椅子に座って休んでいたガレスが一人呟く。ここでの勝利と、敵将の一人であるアカネイアの旧臣、ホルスが無事に仲間になったことも、後陣に伝えられてきていた。

 

「戦力が増えることは喜ばしいことだが…」

 

しかし…とも、ガレスは思っていた。

 

(パレスを落としたことによって、この世界での宗主国であるアカネイアの旧臣どもが続々と加入してきている)

 

それは解放軍にとっては痛し痒しではないかとガレスは思っていた。

 

(ここまで解放軍を主導してきたのはマルスのアリティア軍とハーディンのオレルアン軍だ。それがここに来て、アカネイアの勢力が急激に増している)

(いかに宗主国とは言え、解放軍にとっては新参だ。幸い、今まで加わったアカネイアの連中は良識のある奴らばかりだからまだいいが、そこを勘違いして図に乗る連中が出てこなければいいが…)

 

「この先、一波乱、二波乱あるかもしれんな。何もなければいいのだが…」

 

そんなことを呟き、そして自分が柄にもないことを呟いてるのに気づいたガレスが自嘲した。

 

「ククク、俺らしくもない。…だが、悪くはない」

 

己に確実に起きている変化を感じながら、ガレスは立ち上がると天幕を後にしたのだった。

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