Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~ 作: ノーリ
前回の続き、今回はグルニアの木馬隊との戦いです。
では、どうぞ。
パレスを取り戻し、ミディアを始めとする捕虜や、ホルスを始めとするアカネイアの旧臣たちを迎え入れた解放軍はまた一段と勢力を増していた。そしてその勢いに押されるかのように、次なる目的地へと旅立つ。
次に目指すのはアリティア。そう、全軍を率いるマルスの故国である。マルス、並びにアリティアの騎士たちはやっと懐かしき故国を取り返す戦いに入ろうとしていた。
しかし、その道のりは当然たやすいものではなかった。まず立ち塞がったのが、長距離射撃の部隊であった。
機械仕掛けのその戦車隊…通称を木馬隊という、グルニアの主力部隊の一つであった。
機械音を響かせながら、戦車隊がマルスたちを待ち受ける。彼らを突破することが、アリティアを取り戻すための第一歩だった。
だが、そう簡単に突破できる相手ではない。遠くに見えるその威容に、解放軍の誰もが厳しい戦いになるのを感じていた。
「マルス」
攻撃の号令をかけようとするマルスの許へ、ニーナがやってきた。
「ニーナ様!」
その姿を見、声をかけられたマルスは臣下の礼を取る。
「楽に」
「はい」
ニーナに促され、マルスは顔を上げた。そのまま進んできたニーナが、マルスの隣に並んで遥か先に布陣している戦車隊をジッと見据える。
「グルニアの戦車隊…強敵ですね」
その威容を目の当たりにしたニーナが思わず呟いた。
「はい。ですが、アリティアを取り戻す上で、避けては通れません」
「そうですね。でもマルス、無理はいけませんよ」
たしなめるようにニーナがそう忠告した。
「人々の希望は、貴方の双肩にかかっているのです」
「わかっています。ですがご安心ください、ニーナ様。敵は広い範囲を攻撃できますが、その分、懐に飛び込まれれば弱い。勝機は十分にあります。私の戦いぶりをご覧ください!」
「期待していますよ、マルス」
「はい。ここは間もなく戦場になります。ニーナ様は後方でお待ちください」
「ええ」
ニーナはマルスの言に従い、後方へと戻った。その際、チラッと今回の出撃人員に選ばれていたガレスに視線をやったが、それも一瞬ですぐにその場を去った。
(……)
対してガレスはというと、それには気付いていたが特に反応するわけでもなく無視していた。ここで反応すると後々面倒なことになるのはわかっていたからだ。
(オレルアンやアカネイアがな)
脳裏にハーディンやミディアたちの顔が浮かび、ガレスは何時のように鎧の下で喉を鳴らして苦笑していた。
「よし、行くぞ、皆!」
そんな中、マルスの号令がかかる。そして、解放軍と戦車隊の戦いの火蓋は切って落とされた。
「さて…行くか」
得物のサタンブローバ―を手に持ち、ガレスも動き出したのだった。
今回の戦いにおける作戦はいたってシンプルであった。戦車隊の長距離攻撃を重厚な鎧で身を固めた装甲兵で防ぎ、騎馬隊が一騎に距離を詰めて戦車隊を各個撃破するというものである。
騎馬隊と肩を並べる機動力を誇る飛兵は、今回は射撃兵器が相手ということもあって出撃してはいなかった。
進軍経路は北・南・中央の三路があり、解放軍は部隊を分けて進軍していく。北はドーガとホルスを要としてオレルアン軍が、南はトムスとミシェランを要としてレナの兄のマチスや少々機動力に欠けるがオグマやナバール、シーザやラディといった身軽な傭兵、剣士部隊が担当していた。
そして残る中央を、ガレスを要としてアリティア軍が進軍していた。
「フン!」
自分に向かって真っすぐ飛んできたクインクレインの巨大な矢を、ガレスが両断して破壊した。
(何の変哲もない只の巨大な矢であれば、造作もないことだ)
ガレスはこともなげにそう考えていた。北と南でも巨大な矢が飛び交ってはいるが、所詮は矢である。避けることも斬り捨てることも容易であった。加えて、ガレスのような重装甲であれば、受け止めることもできないわけではない。とはいえ、何度も受け止めていればいかに重厚な鎧でも破壊されてしまうし、そもそもが受け止めた時の衝撃がダメージとして蓄積される以上、それはあまり利口なやり方ではなかった。
(無駄な傷を負わんことに越したことはないからな…)
ガレスがそう考えながら、前方に目を向ける。攻撃の合間の隙を縫って一気に距離を詰めたジェイガンとカインとアベルが、敵シューターを殲滅している光景が目に入ってきた。
(ふむ…)
あの様子だと突破口を開くのも時間の問題だなと判断し、ガレスは息を吐いた。仕方がないとはいえ、まんまの壁役は気分のいいものではないし疲れるのだ。
「北と南の状況は?」
そんな中、状況が落ち着きだしたのを感じたからかマルスが側にいたゴードンに尋ねた。
「はい。北と南はまだ膠着状態です。ただ、それでもジリジリとこちらが押しているので、ここよりは遅れることになるでしょうが、突破は時間の問題かと」
「わかった」
頷きつつも、マルスは厳しい表情を崩さない。
「何か気がかりでもあるのか?」
それが少し気になったガレスが、マルスに尋ねた。
「うん。こちらは戦力を分散して進んでいる。にもかかわらず、それにしては進軍が順調なのが気になってね」
「成る程な」
ガレスが頷いた。
「我々に合わせて敵も戦力を分散しているからじゃないでしょうか?」
ゴードンがマルスに尋ねた。
「それはあるだろうね。ただ、敵は先に布陣していてこっちを待ち構えていたんだ。仕掛けをしようと思えば僕たちが来る前にいくらでもできたはずさ」
「もう一つ。マルス様だけを狙って兵力を集中させることだってできたはずだ。犠牲は多大になるだろうが、大将首さえとってしまえば戦は終わりだ。しかもマルス様は神剣ファルシオンを使える英雄アンリの末裔。ファルシオンの力なくてはメディウスを倒すのは不可能…とは言わないが、限りなくゼロに近い。それを考えれば、不審に思うのも仕方はないと思うよ」
マルスの横に並ぶマリクが自分の考えを披露し、それに同意するかのようにマルスも頷いた。そして、マルスはそのまま上空を見上げる。
「航空戦力がないのも気になるところだ。こちらは戦力を分散させているのだから、上空から奇襲というのは非常に有効な手段だと思うんだけど。…考えられるのは、シューターで戦力を固めているために味方に被害が及ぶのを避けたということぐらいだけど」
「けど、何です?」
「…グルニアの木馬隊とまでその名を知らしめている程の練度の高い部隊が、そんなお粗末な実力とは思えない。味方の被害を考慮に入れたとしても、シューターなら援護射撃でも十分牽制になる。そういった点からも、どうも腑に落ちないんだよ」
「確かに…そうですね」
マルスとマリクの意見を聞き、ゴードンがしきりに頷いていた。
(よく考えているな)
ガレスもまた、表面には表さないもののマルス(とマリク)の推論に感心していた。ガレスから見ればまだまだ尻の青いガキだが、それでも年齢にそぐわぬその観察眼に敬意を表していた。
(立場が人間を創るとはよく言うが、コイツはその典型的な例かもしれんな)
そんなことを考えていたガレスが、
「索敵はしているのだろう?」
と、マルスに尋ねる。
「勿論だよ」
「だったら、問題はないだろう。異常があればすぐにお前のところに報告が入るはずだが、その様子もないようだからな」
「確かにね。今のところ入ってくるのは、北と南からの伝令だけだし」
「なら、目の前のことに集中しろ。隠し玉があるかもしれn」
ガレスがそう注意しようとした直後、まるでタイミングを見計らったかのように
「ぐうっ!」
「がっ!」
という、悲鳴のような声が不意に聞こえてきた。
「ん?」
「!」
「今のは!?」
気になったマルスたちが前線へと首を向ける。そこには、ジェイガンと斬り結んでいる、オグマやナバール、アテナのような剣士の姿があった。
カインとアベルはその剣士にやられたのか、腕や肩から血を流し、その出血部分を片手で抑えている。そしてその二人をかばうかのように、ジェイガンがカインたちと剣士の間に入って戦っていた。
「! カインとアベルが!」
その光景に、マルスは驚きを隠せなかった。聖騎士のジェイガンと、自分の両腕と言っていいカインとアベルが苦戦しているところなど、ここ数年見たことがなかったからだ。しかし今現実に、三人は危ない状況になっている。
「マルス様、早く救援に!」
「うん!」
マルスが頷く。ジェイガンたちの働きによって中央のシューター部隊は全滅しているため、もうシューターの長距離射撃を心配する必要はない。この頃には北と南からの伝令で、南北のシューター部隊も制圧したことを知ったため安心して部隊を進めることが可能だった。そんな中、
「先に行くぞ」
一人、ガレスがそう言い残してさっさとジェイガンたちの許へと向かったのだった。
「あ、ちょっと、勝手な真似は!」
マリクがたしなめようとするが、
「構わない。行かせてやってくれ」
他ならぬマルスがそれを押しとどめた。
「マルス様!?」
「マリク、ガレスの実力は君も良く知っているだろう?」
「しかし…」
確かにマルスに言われるまでもなく良く知っているが、何せ相手はジェイガンたち三人を相手にして渡り合っている凄腕である。いくらガレスの実力を知っていても、一抹の不安を抱くのは仕方なかった。
「今は僕たちも用意を整えることが先決だ。早ければ早いほど、救援に向かうのも早くなる」
「わかりました」
マルスにそう諭され、気を取り直してマリクが頷いた。
「ゴードン、マリク、部隊の集合を急いでくれ」
「わかりました!」
「はい!」
マルスの命を受け、ゴードンとマリクが足早にその場を走り去る。二人を見送った後で振り返ると、マルスはガレスの背中を見ていた。
(…死んだら死んだで、その時は……)
ガレスの背中に視線を向けるマルスの口元が、ほんの少し、本当にほんの少しだけ歪んだのだった。
「ふん!」
「ぬうううっ!」
ジェイガンと剣士が激しい鍔迫り合いを繰り広げている。馬上からの攻撃ということで一見ジェイガンに有利に見えるが、実はそんなことはなかった。そのアドバンテージをイーブンにするほど、剣士の力が強かったのである。
(寄る年波には勝てんか…!)
そうは思いたくはないが、剣士を弾き飛ばすこともできない現状にジェイガンは内心で臍を噛むしかなかった。
「ジェイガン隊長!」
「我々も加勢します!」
カインとアベルはそう告げて言葉通りジェイガンに加勢しようとする。が、
「来るな!」
その申し出は、他ならぬジェイガンによって拒絶された。そうしながらも、ジェイガンは目の前の剣士と息の抜けない攻防を繰り広げている。
「しかし!」
カインが食い下がった。が、
「手負いのお前たちではこの剣士の相手は無理だ! 深手になる前に後退せよ!」
「何を言うのです! 隊長を置いて我々だけで後退できるわけがありません!」
アベルもカインと同じように食い下がった。が、
「隊長命令だ! 後退せよ!」
『ッ!』
そう言われては従う他はない。軍である以上、上官の命令は絶対なのだから。
「…わかりました」
「すぐ戻ります! それまで御武運を!」
カインとアベルが悔しさを隠しもせずに後退した。と、
「フッ」
剣士が軽く笑い、ジェイガンの得物を押し戻した。
(ッ! 何て力だ…)
先ほどから嫌というほど感じている感想を改めて感じ、ジェイガンは剣士から距離を取った。
「末期の別れは済んだか?」
「大口を」
挑発するような剣士の言い草に、ジェイガンは取り乱すこともなく答えた。
「そんな戯れ言は、この皺首を取ってから言うのだな」
「…なら、そうさせてもらおうか」
そう答えると、剣士は再びジェイガンに挑みかかった。攻撃を受け止めたジェイガンはまた剣士と斬り結ぶ。一進一退の白熱した攻防が再び始まった。
何合か斬り結んだ後、不意に一騎打ちは終わりを迎えた。剣士の攻撃に、ジェイガンは得物を弾き飛ばされてしまったのだ。
「しまった!!」
思わず己の得物を視線で追う。そして、その隙を見逃すような剣士ではなかった。
「悪く思うな」
らしくないセリフを吐きながら、剣士がジェイガンの首めがけて刀を振るう。得物に気を取られて反応が遅れてしまったため、気付いたときには凶刃がすぐ側まで迫っていた。
「覚悟」
「!」
彼我の距離と剣を振るうスピードにより、ジェイガンはその攻撃を避けられないことを悟った。そして、その刃がジェイガンの生命を刈り取ろうとした時だった。突然、耳をつんざくような大きな金属音が周囲に響いたのだった。
「ぐわっ!」
そして、剣士が吹き飛ぶ。
「!?」
何が起こったのかわからずに呆気にとられたジェイガンだったが、すぐにその顔が緊張で強張った。いつの間にかすぐ側に、見知った顔があったからだ。
「貴様…」
「ククク…」
不快感を隠そうともしないジェイガンの視線の先には、当然のようにガレスの姿があった。
「さっさと下がれ」
それだけ告げると、剣士と対峙するために少し前に進み出る。
「バカを言うな、儂はまだ戦える! 第一、貴様なぞに任せられるか!」
「そうか」
結構な罵声を浴びたがガレスは一向に気にする様子もなかった。その代わり、サタンブローバーをひっくり返し、刃に近い部分を手に持った。
「ならば、俺が下がらせてやろう」
「何?」
不審がるジェイガンに気にせず、ガレスは逆持ちしたサタンブローバーの柄の部分でジェイガンの馬の尻を叩いた。予想だにしない刺激に馬が暴れ出す。
「うおっ!」
いきなりの暴れっぷりに必死の手綱裁きを見せるジェイガン。が、落ち着かせるのを黙って見ているようなガレスではない。
「行け」
そう言うと、ガレスは再度馬の尻を叩いた。と、馬はガレスの命令に従うかのように馬首を返すと後陣へと向かったのだった。
「き、貴様!」
「クク、振り落とされるなよ…」
怒りの形相を向けながらも遠ざかっていくジェイガンを見送ると、ガレスは剣士に向き合った。
「待たせたな」
「フン…」
剣士が鼻を鳴らした。
「攻めてきても良かったものを。こちらの用意が整うまで待つとは、律儀な奴だな」
「寝込みを襲うような真似をして勝っても意味はない。ただそれだけのことだ」
「ククク、成る程。だがその信念が命取りにならなければいいがな」
「試してみるか?」
「クク、当然だ」
そこで会話は途切れ、そして一騎打ちが始まったのであった。
「ジェイガン!」
『ジェイガン隊長!』
前線から戻ってきた…と言うより、強制的に戻らされたジェイガンをマルスとカイン、アベルが迎えた。
「無事だったかい?」
「は」
馬上から降りてマルスに恭しく礼をするものの、その表情は未だに憮然としている。
「隊長?」
「何処かお怪我でも?」
「違う」
ジェイガンの様子がいつもと違うことに気付いたカインとアベルが訝し気にそう尋ねるも、ジェイガンは憮然としたままだった。と、
「ガレスと何かあったのかい?」
察したマルスが尋ねた。
「は」
ジェイガンは何の抑揚もなく一言そう答えた。
「勝手に戦いに割り込まれ、無理やり戦線を離脱させられました」
「…全く、ガレスらしいね」
マルスが苦笑する。しかしジェイガン、そしてそのことを聞いたカインとアベルも憮然とした表情になった。
「あの男…」
「好き勝手してくれる…」
「……」
カインとアベルが文句を呟く。ジェイガンは何も言わないものの、やはり不服そうな表情は晴れない。が、
「マルス様が許可を出されたのでしょう?」
と、尋ねた。
「うん。カインとアベルが手傷を負ったのが見えたんでね。部隊の集結には時間がかかりそうだったんで、先行してガレスにだけ先に行ってもらった。それに、ガレスは重装兵だから機動力には劣るからね」
「であれば、我ら臣下としては口を挟むことはできませぬ」
それだけ告げると、ジェイガンはいつもの様子に戻った。隊長にそう言われては、部下であるカインとアベルも何時までも不満タラタラでいるわけにもいかない。不承不承であるが、ジェイガンと同じように納得することにした。
「すまないね」
そんな彼らの心中を察したマルスが申し訳なさそうに謝った。
「いえ、臣下であれば当然のことです」
「ありがとう。僕はいい部下に恵まれたよ」
「勿体ないお言葉」
三人が軽く叩頭した。そんな三人にマルスが苦笑していると、
「マルス王子!」
不意に、誰かがマルスの名を呼んだ。振り声のした方向に振り返ると、そこには今駆け付けたのだろうか、ミディアの姿があった。
「やあ、ミディア」
軽く手を挙げたマルスに対し、ミディアは下馬すると叩頭する。
「遅れました、申し訳ありません。思いのほか掃討に手間取りまして」
「そんなことはないさ。君は騎兵だし、寧ろ早い方だよ」
「ありがとうございます。で、戦況は?」
「中央路もシューターは全て片付けた。だが、強敵が陣取っててね」
「強敵?」
ミディアが表情を強張らせる。
「ああ。今、ガレスが戦ってるよ」
「! あの男が!?」
ガレスの名を聞いたミディアが反射的に前線に目を向けた。そこには確かに斬り結んでいるガレスと、そして…。
「! あの人は!」
ガレスの相手をしているもう一人の顔を見た途端、ミディアの顔色が真っ青になった。
「どうかしたのかい? ミディア」
「申し訳ありません、マルス様!」
ミディアはそれだけ言うと、大急ぎで愛馬に跨り、そして前線へと飛び出してしまった。
「あっ! ミディア!」
「何を!」
マルスやジェイガンが止めるのも聞かず、ミディアは矢のように前線へと向かってしまった。
「マルス様!」
「ジェイガン! ここに残って僕の代わりに部隊をまとめてから進軍してくれ! カイン、アベル、済まないが一緒についてきてもらうよ!」
「ハッ、王子!」
「お任せください!」
カインとアベルのみを引き連れ、ミディアの暴走を止めるためにマルスは彼女の後を追ったのだった。
「ククク、そら」
「っ!」
横薙ぎされたサタンブローバーを剣士は何とか剣で受け止めた。が、
「ぐわっ!」
その衝撃に耐えきれず、そのまま吹き飛んでしまう。そして、何度か地を派手に転がることになった。
「ククク…」
剣士はすぐに立ち上がって体勢を立て直したものの、ガレスは追撃することもなく悠然と立って笑っていた。まるで、猫が鼠をいたぶるかのように。
(くうっ…)
その姿に、剣士は内心では恐怖が隠せなかった。その戦闘能力の高さも驚愕ではあるが、得体の知れない恐怖感というものがガレスから絶え間なく醸し出されているのを感じ取っていういるからだ。
(こいつは何だ、バケモノか!?)
思わずそんなことを考えてしまう。この男と戦うぐらいなら、竜になったマムクートと戦う方がよっぽど楽かもしれないとまで思い始めてもいた。そして、そんな剣士の心理状態を見抜いたかのようにガレスが振りかぶる。
「これで終わりか? ククク…」
死の宣告さながらにそう告げながら、ガレスが大上段からサタンブローバ―を振り下ろした。剣士は何とかかわすが、そのタイミングも戦闘開始当初より間違いなくギリギリになっていた。
(このままでは…)
勝ち目はない。そう思って打開策を探ろうとした瞬間、
「ナイトメア!」
ガレスが剣士に向かって右手を広げる。と、いきなり黒い霧のようなものが何処からともなく噴き出し、剣士の身体を包んだ。
「な、何だこれは!?」
慌ててそれを振り払おうとするもののそんなことができることもなく剣士の身体はその黒い霧に包まれた。直後、剣士は自分の身体がガクンと重くなるのを感じた。
(い、意識が…)
急激に意識が薄らいでゆき、顔を上げるのも困難になる。
「中々楽しめたが…」
そんな剣士に止めを刺すべく、ガレスがゆっくりと近寄ってきた。
(このままでは…!)
その足音を耳にし、剣士は意識を失うまいと必死で抵抗する。だが、身体が言うことをきかない。そうこうしている間に、ガレスは剣士の目と鼻の先まで来ていて、そして動きを止めた。
「そろそろ終わりにしてやる」
そう宣告すると、サタンブローバ―を振り上げた。そして、頭上から振り下ろす。ここまでかと剣士が諦めたが、そうはならなかった。直後、ガキンという強烈な金属音が響いたからだ。
(な、何だ? 一体何が…)
確認しようとするもそこまでが限界だった。剣士はそのまま力なく地に伏したのだった。
「…何の真似だ?」
己の得物を防いだ槍の持ち主…ミディアを見ると、ガレスは不機嫌そうにそう尋ねた。攻撃を防いだのがオレルアンの連中ならば、納得はできないがまあわからなくもない。オレルアンにはかなり警戒されているからだ。だがミディア…アカネイアの連中となると話は当然変わってくる。アカネイアの連中もオレルアン同様にガレスを警戒してはいるが、それでも主君であるニーナの危機をガレスが救ったというのは聞き及んでいるため、こんな真似をするとは思わなかったのだ。だが、ミディアはガレスの質問には答えない。代わりに、
「…殺したのですか?」
そう、怖い表情になって馬上からガレスを睨んできた。
「…そうしようとしたところをお前が割って入ってきたのだろう。それを考えれば、俺がこの男を殺したかどうかはわかるだろう」
面白くなさそうにそう言うと、ガレスが仕方なくサタンブローバ―を引いた。敵に止めを刺そうとしたところを邪魔したのには何かしら理由があるはずと思ったからだ。それを聞いてから再行動することにしたのだ。
(どう言い繕うつもりか…)
お手並み拝見とばかりにミディアと剣士に視線を向ける。と、ミディアは慌てて馬から降りた。そして、
「アストリア!」
と、その剣士の許へと駆け付けたのだ。
「う…」
だが、アストリアと呼ばれたその剣士は意識を取り戻さない。短く呻くだけである。
「アストリア、しっかりして!」
剣士…アストリアのすぐ側で跪いてミディアが声をかけたり身体を揺らしたりする。だが状況は変わらず、アストリアは一向に目を覚まそうとしなかった。
(成る程)
そしてガレスは、ミディアの行動で大方を察する。
「お前の男か」
「っ!」
明け透けなガレスの物言いに、ミディアの頬が赤く染まった。が、それも一瞬。ここは戦場ということもあり、すぐにガレスをキッと睨む。
「貴方、アストリアに一体何を…!」
「ククク、そう睨むな。只眠らせただけだ」
そのまま、ガレスはアストリアへと視線を向けた。
「放っておいてもそのうち起きる。生命に別条はない」
「本当ね?」
「こんなくだらないことで嘘をついてどうする。まあ、気のすむまでそのまま介抱でもしていろ」
そしてガレスはサタンブローバ―を肩に担ぐ。
「目が覚めたらその二枚目に伝えておけ。生命拾いしたな、と」
「あ、貴方…」
「クククククク…」
ガレスは愉快そうに笑うと、その場を後にしたのだった。ガレスがその場を離脱した後、入れ替わるようにマルスたちがやって来た。
ミディアは勝手に飛び出したことを謝罪すると、アストリアについて説明。程なく目を覚ましたアストリアと再会を喜び合ったのだった。
その頃には解放軍は中央通路にて戦力の再編成が終わり、改めて城を目指したのだった。
長距離兵であるシューターは、その分懐に入られると弱い。一気に間合いを詰められた解放軍に、シューターの残敵部隊は有効な対処もできずに一人、また一人と生命を落としていくことになった。そして戦力を終結させたためその後は大した時間もかけることなく、新たなる仲間を加えてグルニアの木馬隊との戦いは解放軍の勝利で幕を閉じたのだった。