Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~ 作: ノーリ
前回の続き、今回は17章の外伝ですね。
ハッキリ言って今回は箸休め的なお話です。特にイベント的なものがあるわけでもありません。あのキャラが加入するぐらいのもので。
ですので、いつも以上に肩の力を抜いて気楽に読んで頂ければと思います。
では、どうぞ。
アリティア城を取り戻し、泡沫の休息を取った解放軍は再び進軍を始める。オレルアン、アカネイア、グラ、アリティアとドルーアの支配地から奪還したものの、ドルーア本国、並びにグルニアとマケドニアの主力国家はまだまだ健在である。両雄並び立たずというわけではないが、この中途半端な状態で世界が安定するということはあり得なかった。
次に解放軍が目標を定めたのがアリティア北方にある一つの城だった。その名はマクロニソス。アリティアがドルーアの占領下の時代に物資補給拠点として大きな役割を果たした城である。
この城にいる敵の残党を片付けなければ、後背を突かれる可能性があった。後顧の憂いを断つために、解放軍は一路、マクロニソスへと向かったのであった。
「さて…」
マクロニソス城の近くに布陣した解放軍は出撃の準備で慌ただしく動いていた。そんな中、当然ガレスもその陣中にいた。アリティア城外での宴会時の甲冑を脱いだリラックスした姿ではなく、いつもと同じ漆黒のフルメイルにフルヘルムの姿だった。真紅の瞳が少し先にそびえ立っているマクロニソスの城を射抜く。
「今回は城内戦のようだが…」
呟く。そして、
「俺の出番はあるのか?」
誰に問うでもなく、自問自答するように続けてそう呟いた。普通に考えれば謹慎を解かれていない今の立場なら出撃の声がかかる確率は低いだろう。だが、アリティア城内戦で重装兵が何人か重傷を負ったということを聞いていた。
救護班や衛生兵の活躍で一命をとりとめ、快方には向かっているものの、まだ戦列に復帰するには時間がかかるとのことらしい。であれば、戦力を整えるために謹慎解除もあるかもしれない。
(まあ、そこら辺はマルスの匙加減一つか)
自分にはどうすることもできない以上、指揮官の指示に従うしかなかった。謹慎解除の上出撃となれば楽しませてもらうだけだし、そうならなければ今回も留守番をするだけだ。
(ククク、俺としてはどちらでもいいがな)
戦場に出るのであればたっぷり楽しませてもらうだけだし、出撃が許可されないのであれば今回も後方でのんびりするだけである。
(どちらになるか、さて…)
その結果を待つべく、ガレスはマクロニソスの城から目を外すと、自身の天幕へと戻ったのだった。
「ダクティル様」
マクロニソス城城内、守将であるダクティルの許に兵士がやって来た。
「例の魔道使いを連れてきました」
「うむ、ご苦労」
部下を労うと、ダクティルは視線を兵士の隣に向けた。そこには、この部屋に連行させられてきた一人の魔道士の姿があった。
「ぐっ…」
悔しそうに忌々しそうに己の現状を嘆く青年の魔道士。名をエッツェルと言った。
「どうだ、我らに協力する気になったか?」
青年…エッツェルにダクティルが尋ねた。言葉通りであるならば、もう何度もこういったやり取りが行われているのだろう。だが、
「…断る。その気はない…」
恐らく何度も同じ返答をしたであろうエッツェルがそう言って拒否したのだった。
「なんだと! 流れ者の魔道使いのくせに、何様のつもりだ!」
エッツェルの拒否の返答に、ダクティルが怒りをあらわにした。何度聞いても変わらぬ答えに業を煮やしたのだろう。そのままダクティルはエッツェルを連行した兵士に顔を向けると、
「おい、この男の持ち物を身ぐるみ剥いでどこぞに放り込んでおけ。何か役に立つことがあるかもしれん」
と命令した。しかし、それを聞いた兵士は少し困ったような表情になる。
「身ぐるみと申しましても、所持品は魔道書と指輪しか…」
これが、兵士が困惑した理由だった。身ぐるみ剥いだところで、大したものはないのだ。しかし、ダクティルは兵士のその一言に興味を惹かれた。
「指輪? どれ、見せてみよ」
そう兵士に命令する。別に大した意図があったわけではなく、ただほんの興味本位だった。しかし、
「!! 待て…返せ…」
指輪を取り上げられたエッツェルがそれを取り戻すために実力行使に出ようとしていた。
「それは…アーシェラの…」
指輪を奪い返そうと暴れはじめる。そして、ダクティルに手を伸ばした。
「むっ! 何をするか!」
「貴様、ダクティル様から手を放さんか!」
ダクティルの服を掴んだエッツェルを兵士が引き剥がす。だが、エッツェルは尚も食い下がることをやめない。
「ぐっ…! 頼む…返してくれ…その指輪だけは…」
執拗にそう懇願するエッツェル。魔道士だというのに、その手の力は戦士にも勝るとも劣らないほどのものを見せていた。余程エッツェルにとって大事なものなのだろう。
「こいつ! 放せ! その薄汚い手をどけろ!」
「がはっ…」
しかし、エッツェルの想いは届かなかった。やっとの思いで何とかダクティルはエッツェルを引き剥がしたものの、本当に一苦労だった。
「おい、早く連れていけ!」
「はっ!」
またこんなことになるのは避けたいのだろう。ダクティルが即座に命じる。兵士も心得たとばかりにすぐにエッツェルを連行したのだった。
「ふん、こんな安っぽい指輪なぞ…」
その、エッツェルが最後まで執着していた指輪をジロジロと眺めながらダクティルが小ばかにしたように呟いた。が、
「ん? 指輪…指輪か…」
何かを閃いたのだろう。その指輪を見ながらブツブツと呟いたのだった。
「よし、行くぞ皆!」
マルスが号令をかけ、マクロニソス城の攻略が始まった。戦力的にバランスの取れた編成で挑んだ今回の出撃メンバーの中にガレスの姿はない。戦力的には非常に大きいのだが、やはりまだまだ謹慎を解くわけにはいかないのだろう。とは言え、
(必要とあれば何も気にせず出てくるんだろうけどな)
そうも思っているマルスだった。止めようにも止められるような人員はいない。自分のできることはそうならないように慎重に攻略していくことだった。その甲斐あって解放軍は順調に攻略していく。そんな中、大広間では、
「連れて参りました」
先ほどエッツェルを連行した兵士が戻ってきた。その言葉通り、傍らには再びエッツェルを連行してきている。
「うむ、ご苦労」
ダクティルが労うと、兵士は軽く頭を下げて後ろに下がった。
「さて…おい、お前」
ダクティルがエッツェルに視線を向ける。そして、
「指輪を返してやってもよいぞ」
と続けた。
「!」
その言葉に、エッツェルが驚きで目を見開く。但し、当然のようにタダでというわけではなかった。
「そのかわり、同盟軍の相手をしてこい。ちゃんと働けば考えてやる」
「……」
交換条件であり、その条件はエッツェルの予想通りのものでもあった。しかし、エッツェルにとってはあの指輪は何よりも大事なものである。そのため、返す返事は一つしかなかった。
「…素手では戦えん」
不承不承ではあるがエッツェルがそう言う。魔道士である彼にとって、肉弾戦は門外なのだ。丸腰ではどうしようもなかった。
「ん? …まあ、そうだろうな」
エッツェルの言葉にダクティルも頷いた。そのため、
「魔導書を返してやる」
と、当然のように続けたのだった。そしてこれも当然のように、
「ただし、裏切ればどうなるかわかっておるだろうな」
と、付け加えることも忘れなかった。ダクティルから魔導書を受け取ると、エッツェルは即座にその場を後にしたのだった。そして、マクロニソスの城の一角にその姿を現す。
「…やむを得ん。とりあえずは従っているふりでもしておくか」
指輪を取り返すためとはいえ本当に解放軍と戦う気などはエッツェルにはなく、どうにかお茶を濁すことに努めるようにしたのだった。
解放軍はその後も城内のそこかしこで残党と渡り合った。しかし、ここまでの歴戦の戦いを乗り越えてきた精鋭だけあって、戦況は有利に動いていた。
「ここまでは取り敢えず問題なしか」
これまでに入ってきた各所からの報告を聞き終えたマルスが、その内容からそう判断した。
「そうですね」
傍らのアベルもマルスに同意した。今回はジェイガンはお留守番であり、その代わりがこのアベルとそして、
「王子!」
馬を走らせてマルスの傍らへとやって来たカインだった。
「カイン、どうしたんだい?」
「はい」
慌てて下馬すると、カインが叩頭する。
「実は、妙な敵兵を見つけまして」
「妙な敵兵?」
その、何とも捉えがたい報告にマルスの表情も訝しがるようなものになった。
「はい。魔道士なのですが、こちらに積極的に攻撃してくる様子がないのです。向こうから近づいてくることもないのですが、こちらから近づくと攻撃してくるので、敵であることは間違いないと思うのですが…」
「成る程ね」
カインの報告を聞いてマルスが少し考える。
「如何なさいますか?」
カインがマルスの判断を仰ぐ。
「積極的に敵対してくるなら戦わざるを得ないけど、その敵はそうではないのだろう?」
「はい」
「なら、そのままにしておこう。ミネルバ王女のように無理やり戦わされているのかもしれない。マチスやロジャーのように説得すれば仲間になるかもしれないけど、向かっていったらかかってくるのだったら取りあえず後回しにしておいた方が良い。放っておけば危害を加えないなら、こちらとしても余分な戦力を割かなくても済むしね」
「かしこまりました」
「アベル、戦況は?」
「進捗としては先ほどからそう変わりないかと。ただ、どの方面でも優勢とのことで、そろそろ玉座への道も開けるのでは…」
その進言とほぼ時を同じくして、前線の部隊が玉座の間へ突入したとの報告がマルスたちにもたらされた。
「読み通りだね」
「ありがとうございます」
アベルが恭しく頭を下げた。
「それじゃあ仕上げと行こうか。カイン、アベル」
「はっ」
「御意」
側近の二人に声をかけると、彼らを引き連れてマルスは玉座の間へと向かったのだった。
「ぐっ! ぐおおおおっ!」
断末魔の悲鳴を上げながら、ダクティルが倒れた。これにより、解放軍によるマクロニソスの城の制圧は完了した。
マルスは戦後処理や城内の見回り、残っていた敵兵がいた場合の処理などを次々と部下に指示をしていく。そうして一息ついたところで、
「王子」
今回の出撃メンバーの一人であるノルンが話しかけてきた。
「ノルン。どうしたの?」
マルスが顔を向けるとノルンと、その傍らに見たことのない魔道士風の優男がいた。
「???」
見覚えのないその顔に、マルスの頭上に?が浮かぶ。と、
「その、この方が王子にお話があるそうです」
ノルンがそう答えた。
「彼は?」
マルスがノルンにその魔道士の素性を尋ねる。
「先ほどの戦いでの敵兵の一人です。ただ、ここを私たちが制圧したことを知ると投降してきました。そして、王子にお会いしたいと」
「ふーん…」
マルスはもう一度その魔道士の顔を見た。そうしながら、先ほどのカインの報告を思い出していた。
(もしかしてこの人が、さっきカインが言っていた魔道士かな?)
恐らくそうだろうなと思いながら黙っていると、ノルンが言葉を続ける。
「魔道士でしたので、万一のために魔導書は預かっています。また、簡易ながら身体検査も行って、凶器の類は持ってはいないことは確認済みです」
「わかった。ありがとう」
「はい」
そのまま、ノルンはその魔道士の斜め後方で魔道士の動向に目を光らせている。
「もう行ってくれても大丈夫だよ」
「えっ!?」
マルスにそう言われ、ノルンは驚いていた。表面上敵意がないのはわかったとはいえ、それをうまく隠しているだけかもしれない。それに、マルスの側には他に誰もいないのだ。ここで主人と、投降してきたとはいえ先ほどまで敵兵だった者を二人きりにするわけにはいかなかった。
「いえ、私はここに残ります」
(真面目だなぁ…)
臣下としては当然かもしれないが、目の前の人物の見当がおおよそついている以上、その必要はないと思うのだが仕方ないかと内心で苦笑しながら、マルスはノルンが同席することを許可した。
「さて…」
改めてマルスは魔道士に向き直る。
「待たせたね」
「いや」
魔道士が首を左右に振った。
「あんたがマルス王子なのかい?」
そしてそう続ける。
「うん。君は?」
「俺はエッツェル。旅の魔道使いさ」
魔道士…エッツェルがここで初めて自己紹介した。
「急に面会を申し込んだ非礼は許してくれ。どうしても一言礼が言いたくてな」
「僕に?」
エッツェルのその言葉にマルスは驚いた表情になった。カインからの報告でこうなることは予想していたが、それでも礼を言われるような心当たりはないからだ。
(どういう意味だろう)
不思議に思ったマルスがエッツェルの話を黙って聞くことにした。
「ああ。あんたのおかげでグルニアの連中に奪われていた指輪を取り返すことができた。ありがとうよ」
「そうか」
事情を理解してマルスが口を開く。
「大事な指輪だったのかい?」
何とはなく、マルスがエッツェルに尋ねた。
「死んだ女房の形見さ。グラがアリティアを裏切った戦いで巻き込まれちまった…」
「そうか…あの戦いでは僕も父を亡くした。心中、お察しする」
「ありがとうよ。…しかし、こんな戦乱の時代がまだまだ続くのかね」
「いや、そうはさせない」
エッツェルが独り言のように言ったその言葉に、マルスは思わず条件反射的に答えていた。
「僕たちが終わらせてみせる。そのために戦っているのだから」
「終わらせるため…か。随分キザで青臭い言葉だが、あんたが言うとそんな気もしねえな」
エッツェルは自分の感じたことを素直に口に出していた。そして、
「どうだい? 俺もその戦いに参加させてくれないか?」
と、先ほどまでは考えてもいなかったことをマルスに伝えたのだった。
「え? いいのかい?」
エッツェルのその申し出に思わずマルスが尋ね返していた。
「戦力が増えるのはありがたいけど、君は奥さんを戦争で…」
「だから、さ」
エッツェルがマルスの言わんとしていることを遮っていた。
「軍に加わるのは嫌だが、俺もさっさと終わらせたいのさ。こんな時代を、な」
「わかったよ、ありがとう。僕たちは喜んで君を歓迎するよ」
「決まりだ、な」
そこでマルスとエッツェルは互いに固い握手を交わしたのだった。こうして後顧の憂いを断った解放軍は、更に新たなる心強い仲間を迎え入れることになったのだった。敵が残していった軍資金も戦費として徴収すると次なる戦いへと向かう。
アリティアを解放した今、いよいよ残るはドルーア。そして、その中核となるグルニアとマケドニアとの戦いである。そして、解放軍の進軍ルート的にまずぶつかるのはグルニアであった。
そこではどんな戦いが待ち受けているのか、それは今はわからぬことだが、一つだけ確実にわかっているのは、激戦になるであろうことだった。