Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~ 作: ノーリ
前回の続き、今回は20章の外伝ですね。
外伝のお話は新になってからの追加要素のため、特にイベントがあるわけでもないので、新たな仲間が加わるぐらいしか見どころがありません。
今回も同じですので、サラッと読んで頂ければと思います。
では、どうぞ。
激戦と形容する以外に相応しい言葉が見つからないグルニア軍との決戦に勝利した解放軍。
補給や休養、取りあえずの国内統治の問題など、山積する問題を片付けるのに少し日数を費やすことになった。
無論、その間にドルーア…そして、グルニアなき今唯一ドルーアに与しているマケドニアから攻めてくることも予想されていたためそれに対抗する手段も抜かりなく手配していたのだが、その心配は杞憂に終わった。ドルーア、マケドニア共に攻めてはこなかったのだ。
この件については、解放軍内でも様々な意見が飛び交っていた。
『戦力が整っていないのだろう』
『様子を見ているのではないか』
『ドルーアとマケドニアの間で連携が取れていないのではないか』
『まだ、情報が伝わってないのでは?』
『攻めるより待ち受ける方を選んだのではないか?』
色々な意見が飛び交ったが、どれもすべて憶測でしかない。全て正しいかもしれないし、全て間違っているかもしれない。どちらにせよ、当事者ではなく部外者である解放軍にはそういった敵の内部事情はわからぬところである。
とにもかくにも、態勢を整える時間を得て、解放軍は陣容を立て直した。重傷者も少しずつ復帰しており、兵も指揮官も戦力不足を解消とまではいかないが、大分カバーできるようになってきていた。
そして何より、日を追うごとにニーナの様子が落ち着きを取り戻してきていた。直接明かされたマルスしか知らぬことではあるが、想い人であったカミュを失い悲嘆にくれていたニーナだったが、それでも解放軍の盟主たる自覚は持っていたのか、日を追うごとにいつもの姿に戻ってきていた。
もっとも、内情を知っているマルスには、ニーナが無理をしているように見えて仕方なかったが、本当に無理をしているのか、それとも内情を知っているからこそそう見えてしまっているだけなのかはわからないところである。マルスも流石にそのことを突っ込んで聞くようなデリカシーのない行いは慎んでいた。
そんなこんなで、少なくとも表面上は落ち着いた解放軍はいよいよグルニアから軍を進める。次なる目標は、ドルーアのもう一つの同盟国であるマケドニア。ミネルバ・マリアの王女姉妹と、パオラたち三姉妹やレナ・マチス兄妹の故国である。だがその前に、後顧の憂いを断つため解放軍はグルニア国内に残る残存勢力の鎮圧へと向かうことにした。そして、その中の一つである東の山脈にて、また新たな出逢いを迎えることになるのだった。
「住民どもの抵抗はおさまったのか?」
東の山脈のグルニア軍残存勢力の指揮官であるラリッサが部下に尋ねた。
「それが…あの大男が暴れて手のつけようがありません」
その部下の報告に、ラリッサがイラつきを抑えきれなさそうに舌打ちをした。
「他の住民を人質にとればよいではないか!」
「住民どもは、すべてさらに奥の洞窟に隠れてしまい…」
申し訳なさそうに報告する部下に、ラリッサは更に忌々しげな表情になる。
「ええい、もうよい! 今、同盟軍が近くまで来たとの報があった。まずは奴らを一度撃退する。あのバケモノはそれからゆっくり料理すればよい」
解放軍の到来を知ったラリッサは、住民は一先ず置いて解放軍との戦いに力を注ぐことにした。一方、その洞窟内。怯えた表情で身を寄せ合っている住民と、それを護るかのように仁王立ちしている容貌魁偉の偉丈夫がいた。
「大丈夫かい、ユミルさん」
住民の一人がその大男を慮って話しかける。
「痛くない。気にするな」
振り返った大男がそう答えた。ユミルと呼ばれたその大男は、容貌は勿論だがその話し方や身に着けているものからも他の住民たちとはずいぶんかけ離れた雰囲気を放っていた。
「しかし、わしらを守るために武器を持った兵士たちと…」
「みんな、こんなオラを人間としてあつかってくれただ。だから、守るために戦っただけだ。 気にする必要はねえ」
口調こそぶっきらぼうだし、その容姿も粗野な感じがする大男…ユミルだが、その実は非常に好感のもてる男のようだった。
「すまないねぇ…」
そんな住民の言葉に気にするなとばかりに得物を取ると、ユミルは洞窟の出口に向けて歩いてゆく。
「オラ、入口に出て見張っているだ。他の国の軍も来ているらしいだ。でも、みんなを傷つけるヤツはオラが許さねえ」
そんなユミルの背中を、住民たちはありがたいような心苦しいような複雑な表情を浮かべて見送ったのだった。
「よし、行くぞ!」
『はっ!』
マルスの号令で、各指揮官が走り出していく。東の山脈の残存敵兵力はとある洞窟に逃げ込んでいた。
通称、炎の洞窟と呼ばれるその内部には、煮えたぎるマグマが流れている灼熱の洞窟である。暑さもさることながら、万一その中に落下でもしたら生命はないだろう。故にマルスは、今回の出撃に際して敵との戦い以上にそのマグマに注意するように申し伝えてきた。もう少し言えば、敵との戦いではそれほど悲観的に見てもいなかったのである。
何故なら、ここにいるのは残存勢力である。そして自分たちは、先日グルニア黒騎士団の本隊との戦いで見事これに勝利した。言い方は悪いかもしれないが、残存勢力が本隊以上の強者揃いということはありえないと思っていたからだ。
無論、油断はしてはいない。だが、普通に互しあえば負けるとは思ってはいなかった。
そんなマルスの予想通り、戦局は解放軍に有利に進んでいく。
「失せろ」
己の前に立ちはだかる敵兵を一振りで絶滅させ、ガレスは進軍を続けていた。普段からガレスと共に作戦行動を行う人員は殆どいないのだが、今回は完全に一人であった。
ガレスの強さを見込まれて単独行動をマルスに命ぜられていたのである。まあ残存兵力の掃討という任務だけに、ガレスが不覚をとることはまずないだろうとマルスが考えていたというのもあるのだが。そしてその予想通り、ガレスは苦も無く敵兵を屠っていく。そしてズンズンと行軍を続け、遂にユミルたちが立て籠もる洞窟へとガレスは辿り着いたのだった。
(ん?)
その洞窟の入り口に仁王立ちするユミルの姿に、ガレスは不意に足を止めた。
「んん?」
ユミルもガレスに気付いたのか、怪訝な表情になって眉を顰めた。
「貴様、何者だ」
ユミルに向かってガレスが尋ねる。が、
「なんだ、おめえは?」
と、質問に対する返答ではなく、ガレスの質問と同じことをユミルが言ってきた。
「オラ、ここにいる。村のみんなを守っているだ。ジャマすんならおめえも許さねえぞ!」
と、得物を構えて非常にありがたい忠告をしてきた。
「…フン、まあいい」
興味なさげにそう呟いたガレスはその場を後にする。その報告を受けてか、それともただ単に偶然か、その後にマルスがユミルの許を訪れた。
「君は? …グルニアの兵士じゃなさそうだけど…」
「なんだ、おめえは? オラ、ここにいる。村のみんなを守っているだ。ジャマすんならおめえも許さねえぞ!」
先ほどガレスに浴びせた言葉と全く同じことを言い、ユミルはマルスを威嚇した。慌ててマルスがユミルの誤解を解こうと試みる。
「誤解だ。ぼくらはグルニア軍の残党を倒しにきた。君たちを助けに来たんだ」
必死でユミルにそう訴えるマルスだったが、ユミルの警戒は解けない。
「ここにいる連中も、そう言ってみんなを洞窟に連れ込んだだ。でも、そりゃウソだっただ…オラ、もうだまされねえ!」
「だますつもりはない。…でも、信じられないのなら仕方がない。とにかく、ここにいては危険だ。 村の人たちとどこかに隠れていてくれ。そして、ぼくらの戦いを見ていてくれればいい。ぼくらが、だますつもりかどうかそれで分かるだろう?」
「…だまって見てろと、 そういうことだか?」
「ぼくらは、君たちをだまさない。必ず助け出す。それを証明してみせたいんだ」
「…わかっただ。なら、オラは手をださねえ。でも、やっぱりだましたと分かったら絶対に許さねえからな!」
「ああ。それでいい」
マルスは頷くとその洞窟を離れた。今自分が言った言葉が嘘ではないと証明するために。
その後は特筆することもなく残兵討伐は進んでいった。やはりここまで勝ち進んできた解放軍には残兵ぐらいでは太刀打ちできるわけもなく、終始有利に戦闘を進めてゆく。そして、
「おのれ、われらは負けん。アカネイアごときに負けはせんぞおっ!」
敵将であるラリッサにも難なく手が届き、戦いを挑むことになった。しかし、やはり先だってのカミュと比較すればその実力差は如何ともしがたく、少しずつ圧倒してゆく。
「ぐわあっ!」
やがて、ラリッサの身体を槍が貫いた。
「お、おのれ…。グ…グルニアが…貴様ら…ごときに…」
無念の言葉を残しながら、ラリッサは絶命したのだった。こうしてここ、東の山脈のグルニア軍残存兵との戦いは終了したのであった。
戦闘後、ユミルが護っていた洞窟からグルニアの民間人たちに事情を説明して解放軍はこれを救い出すことに成功する。
「マルス王子、わしらはグルニア軍の人に護ってやると言われて、ここに来ました。ですが、洞窟に入ったとたん人質として盾にすると言われて…。王子に来てもらえなければどうなっていたかわかりません。本当に、ありがとうございました」
「いえ、ご無事で何よりです。もう先ほどの兵たちは残っていませんので、気を付けてお帰りください」
「はい。重ね重ね、ありがとうございます」
住民たちは何度も礼を言いながら洞窟を後にしたのだった。そして、彼らと入れ違うようにユミルがマルスの許にやってくる。
『!』
その容貌から警戒のために武器を構えようとした側の者たちを制し、マルスがユミルへと応対した。
「マ、マルス王子…あんたの言うとおりだっただ。疑ってすまなかっただ」
実情を知り、姿を現したマルスに非常に申し訳なさそうにユミルが頭を下げた。
「いや、分かってくれればいいんだ」
マルスが意にも介さない様子でそう答える。この辺りの懐の広さは流石に様々な勢力を束ね、後の世に聖王とまで称される器の片鱗であろうか。そんなマルスにユミルも感化されたのだろうか、
「その、おわびになるかどうか わかんねえだが…オラにも手伝わせてくれねえか?」
と、助力を申し出てきた。
「…ぼくらの軍に参加するということ?」
「んだ」
ユミルが頷く。
「オラはこの国でも一、二を争う力持ちだ。戦いなら誰にも負けねえ、きっと役に立つだ。…でもその、バケモノみたいだっていやがるんなら、無理に…」
最期の方は語尾が鈍るというか勢いがなくなる。これまでの辛かった記憶を思い出しているのだろう。だがマルスは、そんなユミルの危惧を払拭するかのように歓迎の意を示す。
「とんでもない! 君は、グルニア軍をむこうにまわして大暴れした戦士じゃないか。力を貸してくれるなら大歓迎さ。ぜひ、一緒に戦ってほしい」
「あ…ありがとう。絶対、ぜったい役に立ってみせるだ!」
そしてこの武骨な大男はニコッと笑うとマルスと握手を交わした。こうしてまた一人、頼れる仲間が解放軍に加わったのだった。
東の山脈での残存兵の掃討と住民の救助が完了したことで解放軍は目的を達成し、撤収の準備に入っていた。その最中、
「おぉ?」
ガレスは誰かから不意に声をかけられた。
(ん?)
振り返る。そこには、しきりに不思議な顔をしてガレスを見ているユミルの姿があった。
(こいつは…)
視線の先にいるその姿に少し驚きながらも、
「何だ?」
と、ガレスがユミルに尋ねた。
「いや…」
ガレスを見ながらも様子は変わらず、しきりに首を傾げながらユミルが口を開く。
「おめえ、さっき会っただよな?」
「ああ」
ガレスが頷いた。
「そうだよなぁ…」
ガレスの返答を聞いたものの、それでも不思議というか納得いかないといった表情でユミルがしきりに首を傾げている。
「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」
フルヘルムの兜の下で、ガレスがいつものように咽喉の奥でクククと笑いながらユミルに尋ねた。と、
「う…ん…」
と、何とも歯切れの悪い返答が返ってくる。
「なあ、しつこいようだけどもう一回聞くぞ。おめえ、さっきオラと洞窟で会っただよな?」
「ああ」
「うーん…」
しかしユミルは、そのガレスの返答に納得いかないとばかりに腕を組んだ。
「なんだ、何か文句でもあるのか」
ユミルの態度が引っかかり、ガレスが尋ねる。
「いや、文句っていうかよ…」
どういったらいいものかといった表情でユミルがボリボリと後頭部をかきながら、言葉を選ぶように口を開いた。
「なんつーか…さっき会ったおめえと何となく雰囲気が違うような気がすんだ」
(! コイツ!?)
その一言に、ガレスが笑いを一瞬で引っ込めて真顔になった。といっても、それもフルヘルムの下のことなので誰もが気付くわけはなかったのだが。
「…気のせいだろう」
少ししてガレスが言ったのはその一言だった。
「俺のような格好の戦士など、この軍には他に二人といない。それを考えれば、お前の気のせいだ」
「うーん…」
それでもまだユミルは納得のいかない表情をしていた。そこに畳みかけるようにガレスが続ける。
「それに、先ほどは戦場という場所だ。戦場独特の雰囲気の中では、そういったことはままあるものだ。平時と戦時では様子や空気が違うのは当然のことだからな」
「ん、そうだな」
ガレスに諭され、ユミルが頷いた。納得したとも見えるが、この場の雰囲気に流されて、無理やりそう思い込んだとも見える。実際にどちらかはわからないが、何はなくとも取り敢えずユミルは納得したようだった。
「オラはユミルだ。マルス王子に頼んで軍に加えてもらっただ。おめえは?」
「ガレスだ」
「そうか。宜しく頼むだ、ガレス」
「ああ」
「んじゃオラは、他の連中に挨拶してくるだ」
「そうか」
「それじゃな」
そう言ってクルッと振り返り去って行ったユミルの後ろ姿を、ガレスは暫く厳しい視線で見つめ続けていたのだった。
(奴め…)
ユミルが自分の目の前から去った後、軍から少し離れた森の中でガレスがフルヘルムの下で苦虫を噛み潰していたような表情をしていた。撤収準備真っただ中のため天幕は既に引き払っており、一人でゆっくりできる場所がなかったため、森の中に身を隠していたのである。そして、その脳内に浮かんでいたのはユミルの姿だった。
(まさか気付くとはな…)
驚きとも忌々しさとも取れない表情になってギリッと唇を噛んだ。何に対してかというと勿論先ほどのユミルとの件であり、
『なんつーか…さっき会ったおめえと何となく雰囲気が違うような気がすんだ』
の一言であった。先ほどは何とかあしらったものの、実はユミルの言ったことは間違いではなかった。
どういうことかと言えば、今回の戦いではガレスは影を創り、その影が実際に戦っていたのである。つまり、洞窟内でユミルが会ったガレスは影であり、そして今さっき会ったこのガレスは本体なのである。ユミルはその違いに気がついたのだ。何かしら確証があったというわけでゃなく、本能的なもの、直感的なもので感じたのだろうが。
(形は蛮族のような格好だったが、その分直感は優れているというわけか?)
ありそうな話だと思いながら、ガレスはユミルには少し警戒するように己を戒めたのであった。ところで、何故今回は影を創ってそれを出撃させたかというと、単純にガレスの我儘である。
戦場の地形を聞き、そして今回の出撃のメンバーに選ばれたガレスは早々にこうすることを決めていた。
(溶岩の流れる洞窟だと? そんなクソ熱いところなぞ行けるか! 蒸し風呂など、ふざけるなよ)
ただでさえフルメイルで熱を逃がさない格好なのに、鎧は漆黒のため余計に熱さを吸収してしまう。この格好のまま入れば当然のように鎧の中はサウナ状態になるだろう。そんなところに進んで入りたがるほどガレスはマゾではなかった。そのため、影に押し付けて自分は天幕の中でのんびりとしていたのだ。
(しかし…その差異に気付くとは…)
ガレスは驚きを隠せなかった。とはいえ、既にマケドニアのペガサス三姉妹には自ら種明かししているので、水面下で噂が広まっているかもしれないが、自ら種を明かすのと相手に見破られるのはまた気分が違うのだ。
(まあ、この戦いも大詰めのようだしほぼ絡むこともあるまい。関わらなければどうということもないか)
己を無理矢理そう納得させると、ガレスは言いようのない敗北感のようなものを抱えたまま軍へと戻ったのだった。