Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き、今回は22章の前夜的なお話になります。

ちょっとした前置きみたいなお話ですので物語的には進展しませんが、ご了承いただければと思います。

では、どうぞ。


NO.26 三つの頼み

マケドニア国境での戦いを制し、解放軍は進軍を続ける。国境を超え、次に目指すはマケドニア本城。その間、マルスはミシェイルに何度か使者を送ったものの、全て色よい返事が返ってくることはなかった。

 

「戦うしかないのか…」

 

やりきれない表情になってマルスが呟く。半ば予想していたことではあるが、それでもそれが現実のものになるとガッカリするのは否めない。とは言え、避けられる戦いではないのは明確なことでもある。であれば、やることは一つ。

 

「負けるわけにはいかないからね」

 

色々と考えるところはあるものの、総大将がそう肚を決める中、陣中でも様々な動きはある。周囲が色々と動く中、あの黒騎士にもまた少し、ちょっとした出来事があった。

 

 

 

 

 

「もし」

 

陣中、ちょっとした用事を終えて天幕へ戻るところだったガレスを呼び止める声がした。

 

「ん?」

 

俺を呼び止めるとは、いつもの物好き連中かと思いながらガレスが振り返ると、そこには予想だにしない人物がいた。

 

(こいつは…)

 

頭の中を整理して記憶を呼び起こす。

 

「…確かグルニアで加わった老将軍だったか?」

「うむ」

 

そこでその老将軍…ロレンスが頷いた。

 

「ガレスだ」

 

カレスもまたいつものように、簡潔に自己紹介する。そして、

 

「俺に何か用か?」

 

と、ロレンスに尋ねた。

 

「特段の用というわけではない」

 

対してロレンスも簡潔に答える。初対面になるガレスと普通に渡り合うあたりは流石歴戦の勇士といったところだろう。

 

「ただ、ここに加わってから色々なところでお主の名を聞くのでな。どのような人物かと思って訪れてみただけだ」

「成る程…」

 

ガレスが納得しつつも、どことなく呆れる様子で返した。

 

「どうせ、その噂というのはどこも碌なものではないだろう?」

「うむ」

 

ロレンスがハッキリ答える。人によっては気分を害する回答ではあるが、ガレスには全く気にならず、それどころか変に誤魔化そうとしたりオドオドしないのが逆に好感が持てた。

 

「クク、本人を目の前に言ってくれる」

「そうかな? お主はそんなことを気にするようには見えんが」

「クク、本当に言ってくれるな」

 

いつものように咽喉の奥でガレスが笑った。

 

「それで? 本人を目の前にした感想はどうだ?」

 

ガレスが尋ねた。

 

「お主は危うい」

 

それに対するロレンスの答えがこれである。

 

「相当な使い手であるのは見ただけですぐにわかる。だがそれ以上に存在自体が危うい。まるで、気付かぬ間に取り返しのつかないところまで侵食する猛毒のようにな」

「ほぉ…」

 

ロレンスの感想に、中々いい着眼点だとガレスは思っていた。的確に自分を表現しているとも思っている。

 

(流石は歴戦の勇士といったところか)

 

ガレスはロレンスの洞察力に内心で非常に感心していた。

 

「クク、それで? 危険な俺を排除でもするつもりか?」

「…いや」

 

少しためらった後、ロレンスは首を左右に振る。

 

「お主が危険なだけの存在だったらそうしたがな」

「違うとでも?」

「うむ」

「クク、どこでそう判断したことか」

「簡単なこと。お主を悪く言う者だけではなかったからだ」

「ほぉ…」

 

ロレンスが言ったその理由に、ガレスが面白そうに呟いた。

 

「筆頭はマケドニアのマリア王女に、竜人族のチキ…といったかな? その二人だったが」

「クク、あいつらはガキだからな。ガキは騙されやすい」

「かもしれん。だが、それ以外にも必ずしも多くはないが、お主に味方する者はいた。その者たちと話し、その情報を聞いて儂なりに総合的に判断した結果、お主は排除するべきではないと、少なくとも儂はそう判断した」

「そうか」

 

フルヘルムの下で、ガレスがいつものように楽しそうに笑っていた。

 

「で? 俺をそう判断してどうするつもりだ? 何か頼みでもしようとでもいうのか?」

「有り体に言えばそうなる」

「何?」

 

半ばあてずっぽうに言ったことに頷かれ、ガレスが予想外のことに驚いていた。

 

「…俺に頼みだと?」

「うむ」

 

念を押してもう一度聞いてみたガレスだったが、やはりロレンスの答えは変わらなかった。

 

「俺のような危険な存在に頼み事とはな…」

「それだけ、切羽詰まった状況なのだと考えてもらってくれて構わん」

「…フン」

 

面白くなさそうにガレスが鼻を鳴らした。

 

「まあ、聞くだけ聞いてやろう。受けるかどうかは俺次第だしな」

「うむ。儂も無理強いするつもりはない。こちらの都合を押し付けるのだからな」

「そう聞くと確かに余りいい気はしないが、下らんおためごかしを使う奴らよりは余程ましだ。話してみろ」

「わかった」

 

ロレンスは頷くと、己の頼みをガレスに語ったのだった。

 

 

 

 

 

ロレンスからの頼みを聞いた明くる日、今日の行軍を終えた解放軍はいつもと同じように天幕の設営を始める。

無論、ガレスも同じように設営をしていると、その許を尋ねてくる人影があった。

 

「ガレス」

「ん?」

 

聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはやはり予想通りの姿があった。

 

「ミネルバか」

 

もう何度目になるだろうか、この軍の中では大分濃い付き合いになっている赤い竜騎士の姿があった。だが、今回は彼女だけである。

 

「…お前一人か?」

 

思わずガレスが尋ねていた。大体妹のマリアが一緒にいるか、部下の三姉妹のお付きがあるかのどちらかなのだが、今回はどちらもいない。ミネルバ一人だけだった。

 

(珍しいことも…と思ったが、もしかして初めてかもしれんな)

 

「ああ」

 

それに対し、ミネルバも頷いて答える。

 

「そうか」

 

設営の手を止めると、ガレスは立ち上がった。そして、ミネルバと正対する。

 

「何か用か?」

「用があるから来た」

「ハッハッハッ、もっともな話だ」

 

楽しそうにガレスが笑ったが、それも一瞬ですぐに笑いを収める。

 

「ここでは何だな」

 

ガレスが周囲を見渡す。当然のことだが周囲には一般兵や指揮官がいるために耳目が集まる。聞かれて困るような用事ではないかもしれないが、かと言って聞き耳を立てられるのはそれはそれで気持ちのいいものではない。

 

「場所を変えるぞ」

「うむ」

 

ミネルバを引き連れ、ガレスはその場を後にした。その、妙な取り合わせになる二人組を、周囲は黙って見送ったのだった。

 

 

 

 

 

「さて…」

 

先ほどの場所から少し離れ、少し開けた場所まで来るとガレスが振り返った。

 

「で、用向きは何だ?」

 

ミネルバに尋ねる。

 

「まずは、先だっての戦いで我が部下を助けてくれた礼を」

 

そう答えると、ミネルバは軽く叩頭した。

 

(礼?)

 

何のことか一瞬わからなかったガレスだが、すぐに思い当たる節に辿り着く。ラーマンに攻め入る前のカシミア大橋での戦いの件であろう。

 

(その件で礼を言ってくると言うことは…)

 

あのことについて知っている可能性が高いかとガレスは思っていた。何しろ、ペガサス三姉妹はミネルバの直属の部下なのである。であれば、知っていると考えた方がよさそうだ。ガレスはそう思っていた。

 

「さて? 何のことか?」

 

だがポーズとはいえ、一応ガレスはすっとぼけてみる。が、

 

「下らんはぐらかしは止せ」

 

ミネルバはにべもなかった。

 

「カシミア大橋での一件は部下たちから聞いた。これだけ言えば十分だろう?」

「成る程」

(であれば、あのことも…)

 

十中八九、知っているだろうなと思いつつガレスがパオラたち三人に思いを馳せた。

 

(奴らめ、ミネルバには報告していたか。…まあ確かに、あの時奴らに牽制目的で出した名前はマルスとハーディンだったからな。あの二人に報告はしていないのであれば、嘘はついてはいないか)

 

今考えた通り、確かにパオラたちは嘘はついていない。だが、秘密を漏らしたということに関して言えば事実であった。その相手がマルスやハーディンではなくミネルバということだけのことである。

 

(クク、いずれ少し痛い目に遭ってもらうか)

 

心中でそう決めると、ガレスはミネルバに向き直った。

 

「別に、あいつらを助けたわけではない」

「何だと?」

 

その言葉に、ミネルバの表情が少し歪んだ。

 

「どういうことだ?」

 

そしてその意味を問うべく、ミネルバが言葉を続けた。

 

「簡単なことだ。あの戦場で誰かが死ぬのはわかっていたから、それを阻止するために出た。その対象があくまでお前の部下だったというだけのことだ」

「そういうことか」

 

ガレスの言ってることの意味がわかり、ようやくミネルバは納得いったのだった。

 

(死の匂い…か)

 

そしてふと、不意に頭に浮かんだそのことについて考える。自分には理解できない概念だが、ガレスには人の死の運命がわかるらしい。

もっとも、戦場であるのだから人死には日常茶飯事。そこを考えれば、それなりに名のある者や面識のある者が死の運命に直面したときだけ動くことにしているのだろう。可哀想な話であるが、一般兵の戦死まで助けていたらいかにガレスといえどもパンクしてしまう。だから、一般兵には可哀想だが、一般兵は切り捨てているのだろう。

 

(運が良かったと言うべきか)

 

ガレスがいたことでエストが死なずに済んだことに、ミネルバはそう思っていた。最初こそ、得体の知れない恐ろしい奴だと思っていたし、今も基本その認識は変わっていない。だが、生命を救われたからだろうか、マリアが妙に懐いてしまったため、マリアを危険に晒さないためにも仕方なくガレスと交流を持った。

そうして交流を積み重ねているうちに何となくだがミネルバもガレスの人となりがわかり、距離感も掴めてきていた。

 

(だからこそ…)

 

今からとあることを頼もうとするのだが、その前に一つやっておかないといけないことがある。

 

「そうそう、誤解のないように言っておくが」

 

急にミネルバの論調が変わった。

 

「何だ?」

 

ガレスがミネルバに視線を向ける。その、何度向けられても未だに慣れない真紅の瞳に気後れしそうになるが、ミネルバはそれを表には出さずに続けた。

 

「さっき部下たちにカシミア大橋の件について聞いたといったが、あれは私の方から無理やり聞いたのだ。決してあの子たちが進んで口を開いたわけではない。それだけは理解していてくれ」

「ほぉ…」

 

ミネルバが釘を刺したが、ガレスは瞬時に違和感を感じた。そして、

 

(全くの出鱈目というわけではないだろうが、大部分は嘘だろうな)

 

と、思っていた。実はミネルバが三姉妹からカシミア大橋の件で事前に報告・相談を受けていて、それで実際のところはどんな手を使ったのかを明らかにするために三人をガレスのところに派遣したということは考えられる。

しかし、ガレスがこのことを誰かに報告するのかと三人に尋ねた時のあの三人の反応から、恐らくその可能性は低いと思っていた。あの三人に限らずだが、反応が素直過ぎるのだ。

持って生まれついた性格か、そういうことが不要な立場だったからかはわからないが、自分に正直というか、反応が素直というか、マケドニアの面々はそういうところが他の連中より垣間見えることが多かった。

 

(人としては褒められたことだが、上に立つ者としては必ずしもそうではないのがな)

 

国を預かる立場になれば正直や素直だけでは到底太刀打ちできない。欺き欺かれてが通常の世界になる。だがミネルバには、そういったところが見受けられない。

 

(惜しいな)

 

このまま解放軍がこの戦争に勝利することになれば、マケドニアは当然代変わりしてミネルバが国王の座に就くことになるだろう。しかし、今のミネルバでは国王に即位しても一波乱・二波乱あるのではないか。ガレスはそんなことを思っていた。まあ、それを乗り越えれば国王として申し分なくなるだろうが、どうなるかは未知数だった。

 

(まあいい。今こんなことを考えてもどうしようもないことだ)

 

ウダウダこんなことを考えていても話は進まない。そのため、ガレスはとりあえず話を進めることにした。

 

「そういうことか」

 

内心でどう思っているかは表に出さず、ガレスは納得した振りをすることにした。

 

「ああ。だから、あの子たちをあまり責めないでくれないか。頼む」

「わかった」

 

ガレスの返答を聞き、ミネルバがホッとしたような表情になる。

 

(わかりやすいというか、本当に素直な奴だな)

 

ガレスがそう思っている中、

 

「では、本題に入る」

 

と、ミネルバが表情を引き締めた。

 

「実は、お前に頼みがある」

「頼みだと?」

「ああ」

 

ガレスの質問に、ミネルバが頷いて返した。

 

(よくよく頼みごとをされる日だな、今日は)

 

昨日のロレンスのことを思い出し、ガレスはフルメイルの下で声を抑えながら笑った。

 

「何だ。聞くかどうかは内容によるが、言うだけ言ってみろ」

「うむ…」

 

ミネルバが頷くと、ガレスに用件を伝えたのだった。

 

 

 

 

 

(さて、どうしたものか…)

 

ミネルバと別れ、設営中の自身の天幕へと戻る間、ガレスは珍しく悩んでいた。脳裏にあるのは当然ロレンスとミネルバからの頼み事である。まさか同じような頼みだとは思わず、ガレスとしては珍しく頭を悩ませていたのだった。

 

(黙殺してもいいのだが…)

 

こうやって悩んでいるということは、随分人間らしさを取り戻したものだと面白くなり、思わず顔がにやける。だが、だからと言って悩みがなくなるわけではない。

 

(二つともブッチぎってもいいが…)

 

さてそれが得策かというとそうとも言い切れず、ガレスは非常に頭を悩ましていた。と、元の場所に戻ってきたところで、設営途中だった自身の天幕が完成していることに気付く。

 

(ん?)

 

誰か物好きがやってくれたのかと思っていたが、その中からひょっこりと顔を現した人物にガレスは驚きを隠せなかった。

 

「貴様…」

「やあ、ガレス」

 

にこやかな笑顔を向けたのは何とマルスである。その後ろから、カインとアベルが出てきた。二人はガレスを見た途端、余り気分の良さそうなものではない表情を浮かべる。

もっとも、あからさまに敵意を向けない辺り、オレルアンやアカネイアの連中よりは随分ましではあるが。

 

「…これは、お前が?」

 

マルスたちの後ろにある天幕を顎で指示してガレスが尋ねた。その行為に、カインとアベルはムッとした表情を強めるが、

 

「ああ」

 

マルスは気にした素振りもせずにそう答える。

 

「用事があって君のところに来たんだけどいなかったからね。で、設営が途中だったんで勝手にやったんだけど…迷惑だったかい?」

「いや…」

 

ガレスが首を左右に振った。

 

「余計な手間が省けてありがたい」

「それはよかった」

 

相変わらずのニコニコ顔でマルスが答えた。

 

(食えん奴だ)

 

先ほどのミネルバとは全く違った応対に、ガレスは内心で苦笑した。

 

「それで、何の用だ」

 

ガレスが尋ねる。

 

「用もなく散歩に来たというわけでもあるまい」

「まあね」

 

頷くと、マルスが笑顔を収めた。

 

「次の戦い、君にも出撃してもらうから。それを伝えに来たんだ」

「何だと?」

 

そのマルスの伝達事項に、ガレスが少し驚く。

 

「城内戦ではないのだろう?」

 

念のためにガレスが尋ねた。

 

「ああ」

「なのに俺の出番があるのか?」

「屋外戦だからって君たちのような重騎士…装甲兵が出ないっていうのはないよ?」

「確かにな。だが、今までは屋外の戦いは機動力の優れる騎馬兵や飛行兵が主力として戦ってきただろう。だから少し気になっただけだ。それに、重騎士なら他にも面子はいるだろう」

「…まあ、その辺は事情があってね。あまり詮索しないでくれると助かるな」

「…フン、まあいい」

 

少しの間、マルスの真意を測るかのようにその様子を観察していたガレスだったが、やがてそう答えた。

 

「何を考えているかはわからんが、御大将自らの御指名とあれば断ることもできん。ここのところ暇もしていたしな」

「やあ、よかった」

 

ガレスの返答を聞き、マルスがホッとしたように答えた。実際にホッとしているのかもしれない。

 

「それじゃあ、次の戦いでは頼むよ」

「ああ」

 

了承の言葉を聞いて満足すると、マルスはガレスの天幕を後にしたのだった。そのまま、入れ替わるようにガレスは己の天幕に入ると椅子に身を投げ出して身体を休める。

 

「ふぅ…」

 

そして大きく一息つくと、今日と昨日のことを思い出していた。

 

(妙な一両日だったな)

 

ロレンス、ミネルバ、マルスの三者と顔を突き合わせることが重なるだけでも珍しいのに、その内容がまた珍しいので、ガレスはそう思わざるを得なかった。マルスからの伝達事項はまだ普通のことだったからいいが、ロレンスとミネルバから相次いで頼まれ事を、しかも同じようなことを頼まれるとは思わなかった。

 

(クク、俺は余程運命とやらに嫌われているようだ)

 

自分を皮肉り、ガレスはフルヘルムの下でいつものように静かに笑ったのだった。

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