Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き、今回は22章です。

マケドニア…ミシェイルとの決戦のお話ですね。ここが終われば、残すは仇敵であるガーネフとメディウスの戦いのみです。もう少しお付き合いください。

では、どうぞ。


NO.27 天空を駆ける騎士

マケドニア本城。

軍の布陣を終え、城のテラスにて解放軍の到着を待つ一人の騎士がいた。

 

「陛下!」

 

背後から声をかけられ、一拍置いて騎士が振り返る。マケドニアの国王にしてミネルバとマリアの兄であるミシェイルだった。

 

「何だ」

「全軍、配置完了しました」

「そうか。御苦労」

「はっ!」

 

叩頭すると、その兵士はその場を足早に去って行く。ミシェイルはもう一度首を戻すと、眼下に広がるマケドニアの将兵の姿を見た。

 

(陛下…か)

 

そうしながら、先ほどの尊称を思い出す。

 

(未だに少し慣れんな)

 

内心で自嘲気味にそう呟いた。もっとも、そんなことを億尾にも出すことはないので、ミシェイルがそんな感情を抱いていることなど誰一人知ることもなかったが。

 

「さて…」

 

斥候の報告では、解放軍が来るまではまだ今暫くの時間が予想された。そして、ミシェイルはその前にやっておくことがあった。

テラスを後にすると、ミシェイルは中庭へと向かう。

 

「陛下、どちらへ?」

 

途中、声をかけてきた側近たちに、

 

「少し出る。供はいらん。奴らが来る前に戻るが、警戒は怠るな」

「ははっ!」

 

そう注意を促して己の騎龍に跨ると、ミシェイルは空高く舞い上がったのだった。

 

 

 

 

 

マケドニア本城近くのとある村。

この村の入り口で地上に降りたミシェイルは騎龍を降りると、真っ直ぐにある民家に向かってゆく。いきなり現れた国王の姿に驚いて平伏したり慌てて隠れたり、どう接していいのかわからずに複雑な表情で遠巻きに見ている村人たちには委細目もくれず、ミシェイルはその民家の門前に立った。そして、

 

「ガトー司祭、いるか?」

 

ドアをコンコンとノックする。

 

「うむ…」

 

少し遅れ、年輩の男の声がドア越しに聞こえてきた。

 

「失礼するぞ」

 

返事が返ってきたのを確認し、ミシェイルがドアを開けて中に入る。そこには、悠然と椅子に腰かけている一人の老人の姿があった。

大賢者ガトー。これまでも何度かマルスに道標を差し伸べてきた人物であり、そしてガーネフとリンダの父であるミロアの師である人物である。

 

「ミシェイルか」

 

ミシェイルの姿を見たガトーがその名前を呼んだ。

 

「何の用か?」

 

大体の用向きは何となくわかっているが、一応ガトーが尋ねてみた。と、

 

「同盟軍が攻めてきた。ここは、じき戦場になる。安全な場所へ移ってもらいたい」

 

ガトーが予想していた通りのことを言ってきたのだった。

 

「ふむ。心遣いには感謝する」

 

ミシェイルの、言葉通りの心遣いには謝意を示しつつも、ガトーはここを動く気はなかった。やらねばならぬこと、待っている人物がいるからだ。

 

「だが、ここを動くつもりはない。やらねばならぬことがあるからのう」

 

そのため、申し訳なくは思いつつもガトーはミシェイルの提案を拒否した。

 

「…なら、勝手になされよ」

 

ミシェイルも何となくこうなりそうなことは予想していたのだろう、意外とあっさりと矛を収めた。

 

「ただし、敵対するなら司祭といえど容赦はせぬ」

「そのようなつもりはない。…しかしミシェイルよ、そなたも愚かじゃな」

 

ガトーに釘を刺したミシェイルだったが、返す刀でそう反論されてしまう。

 

「愚か? 何故だ」

 

何を言っているのかわからなかったのだろう、ミシェイルが不審気な表情になりながらその言葉の意味を聞いた。

 

「あれほど可愛がっておったミネルバたちと事を構えておるではないか。そなたとミネルバ、二人が力を合わせればマケドニアはいずれアカネイアをもしのぐ大国になれたであろうに」

「……」

 

思うところや反論すべき言葉はあるのだろうが、ミシェイルはそれを良しとしないのかただ黙ってじっとガトーの言葉を聞いていた。

 

「それが、ガーネフに騙されつまらぬ野望に取りつかれたばかりに父子、兄妹が相争い滅亡の危機を迎えるとはな」

「…もう、すんだことだ」

 

やがて、重々しく口を開いたミシェイルの表情は固いものだった。だが、意志の強さだけはその口ぶりからまだ失われてはいなかった。

 

「俺は父王を殺して王になり、ミネルバは俺と国を裏切った。それだけのことだ。だが、まだ俺は負けたわけではない。俺にはマケドニア王家の至宝である『アイオテの盾』がある。いかに敵が弓部隊を揃えてこようと恐るるに足らぬ」

 

腰の部分に提げてあるその至宝にミシェイルがチラリと目を向けた。

 

「…勝てたとして、その後どうするのじゃ?」

 

ガトーがその先の展望を尋ねた。だがミシェイルは軽く左右に頭を振るばかり。

 

「今は、先のことなどどうでもいい。ただ、同盟軍を率いるあの小僧…アリティアのマルスだけは必ずこの手で仕留めてみせる。それが俺の、マケドニア王としての意地だ」

「そうか…」

 

ミシェイルの決意の固さにこれ以上はどんな説得も無理と察したガトーが諦めたように嘆息した。

 

「ならば、もう何も言うまい」

「では、さらばだ司祭。生命あらばまたお逢いすることもあろう」

 

軽く頭を下げると、ミシェイルはガトーの許を辞したのだった。

 

 

 

「父を殺した罪を自らあがなうことになるか…」

 

閉じられたドアの先、恐らくもう二度とは見ることのない背中を思い出しながら、ガトーはそう呟いていた。

 

「愚か…いや、哀れな奴よ…」

 

運命に翻弄された一人の被害者を思い、ガトーは嘆息することしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

「陛下!」

 

マケドニア本城に戻ってすぐ、ミシェイルの許へと側近たちが集まってきた。

 

「どうした?」

「同盟軍が攻めて参りました」

「来たか…」

 

その報告を聞き、ゆっくりとミシェイルが頷く。

 

「よし、事前の手筈通りに攻撃を開始しろ。奴らを必ずここで叩き潰せ」

『ははっ!』

 

叩頭すると、側近たちはそれぞれ散っていった。ミシェイルはそのまま再びテラスへ赴く。眼下には、確かにこちらに攻め寄せてくる解放軍の姿があった。

 

「…お前たちもそこにいるのか?」

 

語り掛けるように口を開く。だが、すぐに自嘲した笑みを浮かべた。

 

「フッ、未練だな。女々しい話だ」

 

ミシェイルはテラスを後にすると、再び騎龍へと向かった。背後から聞こえた鬨の声に耳を貸すこともなく。

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「ぎゃっ!」

 

戦いを挑んできた竜騎士を、ガレスが一閃の許に片付ける。先だってマルスの言った通り、今回ガレスは出陣していた。マケドニア城へと迫る最短経路は隘路であり、身動きをとることが難しい。しかもマケドニア軍の主力は竜騎士や天馬騎士であるために地形には左右されることがないと言っていい。そのため、どうしても挟撃ということに神経を回さねばならず、そちらへ回された連中は対応に苦慮しながら戦いを行っていた。

一方、平坦な道のりもないことはないがこちらは迂回路になっており、到着するのに時間がかかる。そのためこちらからは機動力に勝る騎兵や飛兵がマケドニア城に迫っていた。

さて、ではガレスはどちらに回されたかというと、説明するまでもなく最短ルートである隘路である。しかも前線に送られ、壁としての役割をさせられていた。

 

(成る程、こういうわけか)

 

次々に迫る竜騎士や天馬騎士と斬り結びながら、ガレスは何故今回マルスが自分を指名したのかがわかった。確かに、こうやって進軍するのであれば壁役としての重装甲の装甲兵は必要である。とは言え、

 

(一手に敵を引き受けさせられるのも、中々に癇に障る)

 

といった忸怩たる思いは当然あったりする。ちなみにマルスは迂回路から騎兵や飛兵を率いてゆっくりと攻め上がっているのだが。だから言うなれば、こちらは陽動部隊であった。

陽動と言えば聞こえはいいかもしれないが、誤解を恐れずに言えば捨て駒といっていいかもしれない。とにかく、こちらの最短ルートはガレスが先頭に立って獅子奮迅の活躍をしていた。そしてその背後から矢が放たれ、空を覆っている竜騎士や天馬騎士を次々と落としていく。

 

「よぉ大将、大丈夫かよ?」

 

ジェイクがガレスの様子を心配して声をかけ、

 

「あんたに任せきりなのはすまないが、俺たちは懐に入られると弱いんでね。申し訳ないが踏ん張ってくれ」

 

ベックは申し訳なさそうではあるがガレスに奮闘を促した。相手が竜騎士や天馬騎士とあってこちらには弓部隊が豊富に配備されたのである。

 

「私たちも精一杯頑張りますから、もうちょっとだけ耐えてください」

「ま、あんたなら大丈夫だろ?」

 

ノルンとカシムからも励ましとも揶揄とも取れない声援が飛んだ。更に最後方いるリフのリブローによって傷も回復させられるので、続けざまに竜騎士や天馬騎士の相手をさせられることになる。

 

「…全く、いいように使ってくれる」

 

文句とも愚痴ともつかぬことを零しながら、ガレスは再び戦場に仁王立ちした。

 

(確かに、こんな仕事は俺以外にはできんか)

 

ドーガやホルス、トムスやミシェランにロジャーといった他の重騎士の面々の顔を思い出しながらガレスはそう思った。この波状攻撃を受けきれるような人員となると見当たらないのだ。多人数で当たらせようにも隘路の地形ということもあって数の展開は難しい。となれば、少数精鋭で壁役をこなさねばならない。となれば、ピッタリの役目になるのはガレスである。

何よりガレスは戦い方が戦い方のため、近距離にいると巻き添えを食って同士討ちになりかねない。だからこそ、このルートで攻め上がるときにガレスを単独で運用することにマルスは決め、その援護役としてかなりの数の弓兵をこちらに回したというところであろう。

 

「まあいい、溜まった鬱憤はこいつらで晴らさせてもらうか」

 

眼前にまだまだ待ち受けている竜騎士や天馬騎士の姿を見据えると、ガレスはフルヘルムの下の真紅の両眼を不気味に光らせたのであった。

 

 

 

 

 

「やあ、ご苦労さま」

 

隘路を進軍してきたガレスたちを、迂回路で進軍してきたマルスたちがある場所で迎えた。マケドニア城の北東にある、とある村の入り口である。

 

「フン…」

 

能天気にも聞こえる労いの言葉に少しイラっとしつつもガレスは他の面々と共にマルスたちに合流した。

 

「随分と楽だったようだな?」

 

マルスたちの姿を見たガレスが皮肉っぽくそう尋ねた。確かに、返り血のような汚れが鎧や衣服にはそう付いていないし、第一からして迂回路を辿ったマルスたちが先に到着しているということが、何よりもマルスたちの状況を雄弁に語っているというものだろう。

 

「まあね」

 

苦笑しながらマルスが答える。一応、予想通りに展開したとはいえ申し訳なく思ってはいるらしい。

 

「君たちが敵の主力を引き付けてくれたおかげだよ」

「引き付けた? 押し付けたの間違いだろう?」

「手厳しいな…」

 

マルスが苦笑したが、ガレスは変わらず厳しい視線をマルスに送っていた。その様子に気付いた、マルスに従っている者たちが剣呑な雰囲気を纏い始め、一方でガレスと共に隘路を超えてきた者たちはどうすることもできずにハラハラと状況を見守っていた。

 

「…フン、まあいい」

 

どれほど時間が経ってからだろうか、ガレスが矛を収める。それがわかり、周囲は途端にホッとした雰囲気に包まれた。ガレスとしても、こんなところで事を構えるつもりはなかった。ただ、それもマルスに読まれていたのは業腹だったが。

 

(狸め…)

 

目の前にいる人当たりのよい青年を貶しつつも、ガレスは腹芸の達者なこの青年に賛辞を贈った。

 

「状況は?」

 

ガレスが尋ねる。

 

「周囲の敵は片付けたよ。後は城周辺の守備兵だけだ」

 

マルスが状況を説明する。

 

「そうか。ではこれからいよいよ攻略戦か」

「ああ。兵力をまとめて一気に攻め込む」

「わかった」

 

その先陣も俺が務めることになるだろうなとガレスは思いながら頷いた。と、

 

「マルス王子」

 

マルスの少し後ろに控えていたミネルバが少し前に出た。

 

「ミネルバ王女…」

 

ミネルバが何を言いたいのかは十二分に理解しているマルスが、それでもやはり少し苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

「お願いがあります」

「ミシェイル王子…いや、ミシェイル王のことですか?」

「はい」

 

小さく、だがハッキリとした頷きは、その意思の強さを示していた。

 

「兄は…ミシェイルは私にけじめをつけさせてください」

「…辛い戦いになると思いますが」

「王子、マケドニア国境での戦いの直前のことをお忘れですか?」

「え?」

 

何のことを指しているのかわからず、マルスが戸惑い気味に声を上げた。

 

「『マケドニアの過ちは、マケドニアの者の手で正してこそ意味があります』私はそう王子に申し上げたはず。確かに兄と戦うのは辛いことですが、余人に下駄を預けたら、それこそ私は一生後悔することでしょう。どうか、我が思いを汲んでいただきたい」

「……」

 

ミネルバのその真剣な眼差しと切なる訴えに、マルスはこれ以上は何も言えなくなってしまった。

 

「わかりました」

 

色々思うことはまだあるのだが、それでもミネルバを止められるとは到底思えず、マルスは了承せざるを得なかった。

 

「それでは、ミシェイル王はミネルバ王女にお任せしましょう」

「かたじけない」

「ただ、一つだけ確認させてくれませんか?」

「はい、何でしょう?」

「僕たちは手出しもしない方がいいのですか?」

 

マルスはそう尋ねた。そしてそれに対するミネルバの返答は、

 

「ええ」

 

という、簡潔にして素っ気ないものだった。

 

「手出し無用です」

「一騎打ちですか…無論、ミネルバ王女の強さは良く知っていますが、ミシェイル王子も相当な手練れだと聞いています。こんなことを言うのは何ですけど、生命を落とすかもしれませんよ?」

「承知の上です。ですが、兄との決着はどうしても一対一でつけたいのです。…その結果、もし不覚をとるようなことがあれば、その時は申し訳ありませんが、後始末をお願いします」

「そこまで覚悟の上のことだと?」

「はい」

 

ミネルバが強い意志をもって頷いたのがわかり、マルスは認めざるを得なかった。

 

「わかりました」

 

複雑な想いを抱きながら、マルスは首を縦に振った。

 

「それではせめて、ミシェイル王までの露払いは我々が務めましょう」

「ありがとうございます。我儘を申しまして、申し訳ありません」

「いえ、お気持ちはわかりますから」

 

ミネルバの意を汲んだマルスが力なく微笑みながらも頷いた。そして、命を下す。

 

「すぐに陣形を整えて進軍の用意を」

『ははっ!』

 

マルスと共に迂回路を進んできた指揮官たちがそれぞれの持ち場へと戻った。

 

「…と言うことで、合流早々申し訳ないがそちらも進軍の用意を」

「わかった」

『はい!』

 

応の返事と共にこちらの指揮官級も進軍の用意を遠の得るために戻っていく。ガレスもその身を翻したのだが、

 

「ガレス」

 

その足を止める者がいた。

 

「何だ」

 

振り返り、声をかけた者…マルスへとガレスが視線を向ける。

 

「十分に、気を付けてくれ」

「何?」

 

まさかそんなことを言われるとは思わなかったガレスが虚を突かれたように少しの間固まる。

 

「フッ…」

 

だがすぐに笑った。

 

「俺の心配とは…熱でも出たのか?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、ガレスにはこの後にやってもらわなくちゃいけないことがある」

「何だと?」

 

そこで初めてガレスの口調が怪訝なものに変わった。

 

「そんな話は聞いていないぞ」

「今初めて言ったからね」

 

抗議はするものの、マルスは涼しい顔である。だがすぐに表情を真面目なものに戻す。

 

「僕が今回君を指名したのにはその、やってもらわないといけないことがここであったからなんだ」

「フン、成る程な」

 

そこでようやく、この戦いの前にわざわざマルスが自分のところに出向いて今回の出撃に指名してきた理由がガレスにもわかった。

 

「それならそうと最初から言えばいいだろう」

「まあ、そうなんだけどね。そう言って出撃を断られたら困るから」

「狸が…」

「誉め言葉として受け取っておくよ」

「フン」

 

自虐したようなマルスの様に、ガレスがまだ面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「まあいい。だがせめて、何をやらせるかぐらいはここで聞かせろ」

「ある人に会ってほしい。ただそれだけだよ」

「そうか」

 

マルスの返答を聞いたガレスが納得したわけでもないが矛を収める。ここでこれ以上言い合っていても埒が明かないし、あまり時間もなかったからだ。

 

(腹は立たないこともないが、仕方ない)

 

そしてガレスはそのままマルスの後ろ…同じようにガレスに視線を向けていたミネルバへと顔を向けた。

 

「クク、どうした?」

「な、何?」

 

いきなり話を振られたミネルバが戸惑ったように口を開く。マルスも自分から話が逸れたことに気付き、後方にいたミネルバへと視線を向けていた。

 

「しょぼくれた顔つきだな。口ではああ言っていたが、兄貴と殺し合うのが嫌なら、俺が変わってやろうか?」

「ば、バカを言うな!」

 

指摘された内容に侮辱されたと感じたのか、ミネルバが真っ赤になって怒鳴った。だが、余人が聞けば身も竦むような怒声も、残念ながらガレスには効果がない。

 

「ククク、そうだ。それでいい」

 

いつものように咽喉の奥で笑った。

 

「お前はそれぐらい勇ましい方がお似合いだ。少しは気負った肩の力も抜けたか?」

「ッ! 余計なお世話だ」

 

ここで、ようやくいいように転がされていたことに気付いたミネルバが恨みがましい目でガレスを睨んだ。

 

「クク、まあそう怒るな」

 

だがガレスはいつも通りどこ吹く風で気にする様子はない。

 

「文句があるなら戦いが終わった後にいくらでも聞いてやる。せいぜいくたばらないように頑張るんだな」

「貴様に言われなくても!」

「そうか」

 

満足げに頷くとガレスはその場を後にした。

 

(ガレスなりの気遣いなのかな?)

 

二人のやり取りを傍らで聞く形になったマルスがふとそんなことを考える。言い方はあれだから褒められたものではないが、今の口ぶりだとすごく遠回しな『死ぬなよ』という表現に聞こえなくもない。その成果というべきかわからないが、現にミネルバは憤慨しているもののいくらか吹っ切れた表情をしていた。

 

(考えすぎ…だと思うけど…)

 

でも、もしそうだとしたら随分不器用というか遠回りな気遣いだなと可笑しくなり、マルスはミネルバに気付かれないようにクスッと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

「兄上…」

「来たか、ミネルバ」

 

マケドニア本城の城門前、マケドニア最後の戦力との激戦を、こちらも多大な犠牲を払って何とか制した解放軍は遠巻きに戦場を見守っていた。城を護るミシェイルの前にミネルバが降り立ち対峙する。兄と妹、実に久しぶりとなる対峙だった。

 

「いざ参れ!」

 

ミシェイルが得物である銀の槍を構えるが、ミネルバはそれに応じない。

 

「兄上…」

「何をしている。戦場で躊躇うは命取り…そう教えたはずだ」

 

厳しい表情でミシェイルがそう指摘した。だがその厳しさは、敵へ向けるものではなく身内に向けるもののような愛あるものにミネルバは聞こえていた。だからこそ、

 

「…槍を置き、新たな道を歩むことはできないか?」

 

一縷の望みをかけて説得してみる。が、

 

「未練だな」

 

即座にミシェイルがその申し出を断った。

 

「すでに違う生き方を選んだのだ、再び交わることはない」

「そうか…」

 

こうなることは半ばわかってはいたのだが、それでもやはり現実のものになると覚悟をしていてもショックは大きかった。だが、その現実に打ちのめされてはいられない。ミシェイルもそうだが、ミネルバもまた自分で選んだ現実を歩いていかなければならないからだ。だから、

 

「ならば、やむを得ぬ。参る!」

 

ミネルバも自身の得物であるオートクレールを構えるとミシェイルに突っ込んだ。ミシェイルは流石に悠々それを受け止めると、返す刀で突きを連発する。

 

「ッ!」

 

距離を取りながら上半身を細かく動かして回避すると、ミネルバも負けじと再びオートクレールを振りかぶった。それをミシェイルが上段で槍を構えて防ぐ

 

「くっ…」

「ぐうっ…」

 

鍔迫り合いにお互いの意地をかける兄と妹。そしてその光景を遠巻きに見ながら、解放軍も固唾を飲んでいた。やがて、ほぼ同時に二人が互いから離れる。

 

(やはり、強い!)

 

今更ながらの兄の強さに、ミネルバは内心で冷や汗を掻いていた。だがそれは、実はミシェイルも同じだった。

 

(腕を上げたな…)

 

目の前に立ち塞がる妹を、ミシェイルは素直に評価していた。兄として考えれば喜ばしいことであり、感慨も一入である。だが、ここは戦場であり目の前の妹は敵。そんな感慨に浸っている暇などあるわけはなかった。

 

「おおおっ!」

「はああっ!」

 

再び二人は雄たけびを上げながら斬り結び始める。周囲の人間が手に汗握り、咽喉がカラカラに渇いていくほどの緊張感を感じる中、体勢を変え、竜騎士同士のために高低を変え、そして攻守を変えながら激しく一騎打ちを行うこと数十合。終わりの見えないように感じたこの戦いも、やがて終焉は必ず訪れる。そして、訪れた終焉は

 

 

 

「ぐっ!」

 

ミネルバのオートクレールがミシェイルの身体を深く抉った。鮮血が勢いよく吹き出し、元から真紅だった鎧を更に赤く染め、ミネルバの顔にも鮮血が走る。

 

「ここまでか…」

 

薄れゆく意識の中、ミシェイルは急激に身体に力が入らなくなり、その手の銀の槍を落とした。

 

「許せ…マケドニアの民よ…」

 

今際の際にそう呟くと、ミシェイルは目を閉じた。その脳裏に浮かんだのは愛する祖国とそこに暮らす国民。そして最後に浮かんだのは、その中で幸せそうに笑っている自分と妹たちの姿だった。満足そうに微笑んだミシェイルの意識はその後、再び戻ってくることはなかった。

 

「兄上…」

 

そんな兄の表情に気付いたミネルバがやりきれない表情をしながら唇を噛んで呟くと、自分のマントを外して兄の遺体にかけた。こうしてやりきれない想いを抱え、ミネルバの心に深い傷跡を残した兄との一騎打ちは終了したのであった。

 

「終わったか…」

 

ミネルバの悲しい勝利を目の当たりにし、マルスがやりきれない表情で呟いた。勝利したのは確かに嬉しいことなのだが、ミネルバの心中を察するととても手放しで喜べないのだ。

 

「王子」

 

そんな中、傍らのアベルがマルスに進言する。

 

「何だい、アベル?」

「お気持ちはわかりますが、ここで立ち止まるわけにはいきません。マケドニア城の制圧を」

「そうですね。臣下として口が過ぎるのは承知で申し上げますが、感傷に浸るのは後のことかと」

 

マルスを挟んでアベルの反対にいたカインも同僚の進言に同意した。

 

「うん、わかってる」

 

二人の腹心の部下の進言に、マルスが頷く。

 

「そうなんだけど、その前にやらなくちゃいけないことがあってね」

「それは?」

 

アベルが尋ねた。

 

「城下にある村を尋ねないといけないんだ。そしてそこに」

 

マルスは一度言葉を切ると振り返る。そして、視線の先にいるガレスを捉えた。

 

「ガレス、君にも来てほしい」

「ああ」

 

いきなりの御指名だったが、事前に聞かされていたガレスはコクリと頷いた。だが、周囲の者にとっては初耳である。

 

「マルス様」

「それはどういう…」

 

意図を聞こうとしたアベルとカインだったが、マルスは彼らに向き直ると、

 

「ガトー様からそう言われてね」

 

とだけ答えた。だがその回答に、周囲がざわつく。

 

ガトー様が…?

一体どういう…

何やったんだ、あの男…

 

そこかしこからそんな感じのざわつきが溢れてくる。それを、マルスが柏手を打って静めた。

 

「ガトー様の御指名なんだよ。是非ガレスに会いたいってね」

「その…ガトー、だったか? そいつは何者だ」

「ガトー様って言うのは大賢者と言われてるお方でね。リンダの父親だったミロア司祭、そしてあのガーネフの師でもある御方さ」

「ほぉ…」

 

ガトーがどういう人物なのかを知らされてガレスは少し興味が出た。リンダの父親であるミロアとはもちろん会ったことのないガレスだが、ガーネフは良く知っている。

 

(あの負け犬の師匠か、一度顔を見ておくのも悪くはない)

 

どういう事情があって引き合わせるようなことになったかは知らないが、それなりに面白いものが見られるかもしれない。ガレスはそう考えた。

 

(良いように手の平で転がされている感じは否めないが…)

 

チラッとマルスの顔を見てそう思うが、まあ仕方ないとそこは割り切った。

 

「わかった」

「頼むね」

 

マルスがにこやかに微笑んだ。その笑顔に、やはり狸という印象が一番に浮かんでしまうのは仕方のないことなのであろう。少なくともガレスにとっては。

 

「と言うことで、僕らは今からガトー様のところに行ってくるので、皆は待機しながら並行して、哨戒や負傷者の救護、補給なんかを行っていてくれ」

「わかりました」

「はっ」

「じゃあ行こうか、ガレス」

「わかった」

 

反対意見が出ないのを確認したところでマルスがガレスを伴ってガトーのところに向かおうとしたが、

 

「待ってください!」

 

その直前に声を上げる者がいた。

 

「リンダ?」

 

誰かと思ってマルスが顔を向けた先にいたのは、リンダの姿だった。

 

「マルス様、私もお供させてください?」

「え?」

 

一瞬驚いたマルスだったが、すぐに得心した表情になる。

 

「そうか…」

 

リンダはミロア司祭の娘である。ガトーから見ればリンダは弟子の娘であり、リンダから見ればガトーは父の師でもあり、同時に仇敵の師でもある。無関心でいるなと言う方が無理のある話だった。

 

「…わかった、いいよ」

 

少し悩んだマルスだったが了承した。ガトーからはガレスを見極めるために連れてこいと言われたが、それ以外の人間を連れてくるなと言われたわけではない。それに、リンダは先述の通りガトーと全くの無関係というわけでもないのだ。もしかしたらあまりいい顔はしないかもしれないが、そもそも誰も供を連れてくるなと言われたわけでもない。これらから判断し、マルスはリンダの供を許したのだった。

 

「ありがとうございます!」

 

リンダの表情がぱあっと華やいだ。だが、ガレスの姿を見てすぐに少し気後れしたような雰囲気になる。

 

(う…)

 

最初程ではないが未だになれないその威圧感に内心でたじろいでいるとガレスがそれに気付いたのか、

 

「クク、心配するな。取って食ったりはせん」

 

と、いつものように咽喉の奥で笑ったのだった。

 

「だ、誰が心配してるのよ!」

「ククク、さあ、誰かな?」

「ッ!」

 

軽くあしらわれたことに不満タラタラの様子だったリンダだったが、騒いで万一お供の話が取り消しになったら目も当てられないので抑えた。そんな二人の様子にマルスが気付かれないようにクスッと笑う。

 

「じゃあ、行こうか」

「ああ」

「はい!」

 

ガレスとリンダをお供にして、マルスはガトーの許へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

マケドニア城麓の村。戦いが始まる前にミシェイルが訪れた一軒の家屋にノックすると、マルスはガレスとリンダを伴ってその家に入った。

 

「参られたか」

 

家屋の中には一人の老賢者の姿があった。

 

(こいつが…)

(この方が…)

((ガトー(様)))

 

ガレスとリンダは初めて目の当たりにするガトーに同じ感想を抱く。まあ、初対面の人間に対する感想としては極々普通の者だと思うが。

 

「よく来たなマルス王子。儂がガトーだ」

「はい」

 

マルスは頷くと、持参した光と星のオーブをガトーの前に置く。

 

「そうか、約束通り光と星のオーブを持ってこられたか」

 

マルスが持参した光と星のオーブを見てガトーが頷く。

 

「うむ、これでスターライトが作り出せる。暫し待たれよ」

「はい」

 

頷くと、マルスは一歩下がった。ガトーはその二つのオーブに念のようなものを込めていくと、やがてその二つが形を失って溶け合いはじめ、そして周囲が眩いばかりの光に包まれた。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

「……」

 

余りの眩さにマルスとリンダが手をかざして悲鳴を上げた。そんな中、唯一ガレスは顔を背けることもなく手をかざすこともなくジッとその様子を見ている。そして、

 

「できたぞ」

 

そのガトーの一言にマルスとリンダが恐る恐る目を開ける。そこにはここに入ってきたときと同じ室内の光景があった。唯一違うのは、ガトーの前にあった光と星のオーブがなくなり、その代わりに一冊の魔道書が置いてあることだけだった。

 

「さあ、持っていかれよ」

 

ガトーがマルスにその魔道書を渡す。

 

「それがマフーを破る唯一の呪文、スターライトじゃ。それを用い、ガーネフを倒されるがよい」

「これが…」

 

マルスは己に手渡されたスターライトの魔道書にまじまじと視線を落とした。魔道士ではないマルスにはこの魔道書の価値や力はわからないが、魔道士ならばわかるのだろう。

 

「ではリンダ、これは君に」

 

故に、マルスはその魔道書をリンダに手渡した。

 

「は、はい」

 

恐る恐る手を伸ばし、リンダがそれを受け取った。と、

 

「その娘は?」

 

ガトーがリンダに視線を向ける。

 

「あ、わ、私は」

 

リンダが自分のことを説明しようと口を開いたが、

 

「ミロア司祭の御息女です」

 

と、先んじてマルスがガトーに説明した。

 

「ミロアの?」

 

その説明に、ガトーの表情が驚いたものになる。

 

「はい」

「そうか…」

 

思うところがあるのだろう、何度も何度も頷いた後、ガトーはリンダに再び視線を合わせた。そして、

 

「こちらへ」

 

と、リンダを手招きして呼んだのだった。

 

「は、はい」

 

父親の師であった人物に呼ばれ、緊張しながらもスターライトを抱きしめたままリンダがガトーの許へと向かう。そして、その眼前で立ち止まった。

 

「…成る程な」

 

じっくりとリンダの顔を見た後、ガトーが得心が言ったように頷いた。

 

「あ、あの…」

 

ガトーの意図がわからず、居心地が悪くなってきたリンダがか細く声を上げた。と、

 

「確かに、ミロアの面影がある」

 

ガトーが呟いた。その一言に、リンダが父であるミロアのことを思い出し、何故か緊張も解けた。余裕を持って、ガトーに対峙する。

 

(うむ…)

 

リンダの表情が変わったのがわかり、ガトーは内心で頷いた。そして、それを悟らせないように再び口を開く。

 

「リンダ…だったかな?」

「はい」

 

リンダが力強くハッキリと頷いた。

 

「マルス王子がこれをお主に託したということは、お主にガーネフを任せたということなのだろう。わかるな?」

「はい」

「だが、ガーネフは強敵ぞ。もしかしたらお主の父であるミロアと同じ運命を辿るかもしれん。それでもいいのか?」

「はい。覚悟はできています。それでも、私はやらなければなりません」

「そうか」

 

リンダの決意が固いことを知り、ガトーは諦め半分、頼もしさ半分といった感じで頷いた。

 

「ならば、儂からこれ以上言うことはない。武運を祈る」

「ありがとうございます」

「うむ」

 

ガトーに一度頭を下げると、リンダはそのまま下がった。

 

「さて…」

 

そしてガトーはその視線を最後の一人、ガレスへと向ける。

 

「お主が件の黒騎士か」

「そこの狸王子が何と言っていたかは知らんが、確かに俺が黒騎士ガレスだ」

 

ガレスが頷いた。

 

「狸は酷いんじゃないかな?」

 

マルスが苦笑したがガレスは意に介さず、そしてそれはガトーも同じだった。ジッとお互いを見据えている。

 

「…そこの狸から聞いたが」

 

口火を切ったのはガレスだった。

 

「だから、狸は止めてくれないか?」

「黙ってろ」

「参ったな…」

 

自分の意見を一刀両断されマルスが苦笑した。そんな二人…というか正確にはガレスを、リンダがビックリした表情で見ている。

 

(アリティアの王子であることに加えて、全軍の総司令官の立場なのに…)

 

どうしてこんな失礼な口がきけるのか。そして、何故それをマルスが咎めないのかリンダは不思議だった。無論、ガレスの特殊性というのもリンダは承知しているが、それを差し引いても失礼が過ぎる。それなのに、その失礼を許されているのがリンダにはどうにも理解できなかった。

リンダがそんな思惑で自分を見ていることなど知る由もなく、ガレスはガトーに向かってそのまま続ける。

 

「貴様が俺をここへ呼んだそうだな」

「うむ」

 

ガトーを貴様呼ばわりするガレスにリンダは再び内心で驚いていたが、当人であるガトーは気にも留めた様子もなく頷いていた。

 

「では聞こう、俺に何の用だ」

 

ガレスが単刀直入にガトーに尋ねた。

 

「何、大したことではない」

 

それに対し、ガトーはそう答える。

 

「ただ、マルス王子が自分の手に余る異質を軍に迎え入れたと愚痴をこぼしての。儂に何とかしてくれんかと泣きついてきたのだよ」

「が、ガトー様…」

 

内情をばらされてマルスが困惑した表情になった。だが、ガレスは気にも留めた様子はない。

 

「ほぉ…」

 

頷くと、寧ろ楽しそうに咽喉の奥で笑ったのだった。

 

「で、貴様は俺をどう見る」

 

ガレスが単刀直入にガトーに尋ねる。

 

「うむ…」

 

一息つくと、ガトーはジッとガレスに視線を向けた。ガレスはその、無遠慮と言えなくもない視線を浴びながらも気にする様子はなく悠然と立っている。寧ろ、残りの二人であるマルスとリンダの方がハラハラしたり緊張感に堪えられなくなっているぐらいだった。

 

「成る程のぅ…」

 

どれだけ時間が経ったかわからないが、やがてガトーが口を開いた。

 

「終わったのか?」

「うむ」

 

ガレスの問いかけにガトーが頷く。

 

「そうか。では、教えてもらおうか」

「断る」

「何?」

 

ガトーの返答にガレスが怪訝な口調になった。

 

「どういうことだ」

 

発言の真意を知るため、ガレスがガトーに尋ねた。

 

「簡単なことよ。この一件はマルス王子の求めに応じたまでのこと。それ故、マルス王子にだけ伝えることにするだけだ」

「俺は当事者なんだが?」

「他人の自分評など聞きたいのか? お主、そんなことには関心はなさそうだがな」

「関心はないが、貴様の観察眼には少なからず興味がある」

「そうか」

 

ガトーが頷いた。だが直後、ガレスを真っ直ぐ見据える。そして、

 

「しかしながら、やはり断る」

 

そう宣言したのだった。

 

「フン、余程俺には聞かれたくないということか?」

 

ガレスが忌々しそうに面白くなさそうに鼻を鳴らした。雰囲気が剣呑になったことを肌で感じ取り、リンダがビクッと身を震わせる。

 

「まあ、そうじゃな」

 

対してガトーは泰然自若といった様子のまま答えた。

 

「チッ…」

 

暫くの間ガトーを睨んでいたガレスだったが、やがて忌々しそうに舌打ちをして視線を外した。

 

「そこの狸といい貴様といい、食わせ者の多い世界だな、ここは」

「言ってくれる。お主が一番の食わせ者だろうに」

「フン、何とでも言え」

「ふっふっふっ」

 

ガトーが楽しそうに笑う。その姿に、マルスとリンダが内心で驚いていた。ガトーは笑わないなどという偏見は持っていなかったが、それでもこの場で笑顔が見れるとは思っていなかったからだ。

マルスとリンダがそんな失礼な感想を抱いているとは露知らず、ガトーが徐に口を開く。

 

「まあ、そう臍を曲げるな。“異界”の御仁よ」

(! こいつ!)

 

今までの間にやはり何らかの確証を得たのだということがわかり、ガレスは警戒心を強めた。それはわかっているのだろうが、それでも尚ガトーは飄々とした様子を崩さない。

 

「どれ、せっかくここまで足を運んでくれたのだ。何か一つ、儂がお主の願いを叶えてやろうではないか」

「何だと?」

 

いきなり変わった話の展開に、またもガレスが訝しげな口調になった。

 

「貴様、何を企んでいる」

「企んでいるとは心外だの」

 

凄むガレスだったが、ガトーは飄々と受け流す。この辺りは流石に年の功といったところか。

 

「やり方に多々問題はあるようだが、それでもこれまで随分と働いてくれたようだからな。その働きに報いてやろうとしたまでのことよ」

「いきなりそんなことを言われてもな…」

 

ガレスが警戒する。初対面の人間に、ましてやマルス以上の狸である目の前の男にそう言われても素直に頷くことはできない。当然のことといえた。

 

「…身構えるのは無理もないがな」

 

そんなガレスの心中を察したかのようにガトーが言葉を続けた。

 

「疑い過ぎは損をするぞ」

「フン…」

 

再びガレスが鼻を鳴らす。そして、

 

「何でもいいのか?」

 

と、この件に関して初めて前向きな発言をした。

 

「うむ。但し、儂ができることに限るがな」

「そうか。だったら…」

 

そしてガレスはガトーにあることを頼んだ。これをもって全ての用件を片付けたマルスたちは、ガトーのワープによって次なる戦いの場へと送られることになる。

そこはテーベ。あのガーネフが待ち受けている幻の都だった。

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