Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き、今回は24章となります。

いよいよこの物語も大詰め。残すはメディウスとの決戦のみですが、ここはその前段階の一クッションです。

ハッキリ言って短いですし、戦闘描写もありません。こういう話もあっていいと思ってこんな感じの話を書きました。どういう内容かはぜひご覧になって確かめてください。

では、どうぞ。


NO.29 その先に待つもの

テーベでの激戦を制し、遂にあのガーネフを倒してマルスは神剣ファルシオンと姉であるエリスを取り戻した。だが、その喜びに浸ることもなく次の地へと向かわねばならない。次の、そして最終の目標地点はドルーア。竜人族…マムクートの王国と言われている神秘に包まれた国である。

解放軍はテーベより出立すると、道々に物資の補給や兵士たちの補充などを行いながら一路ドルーアを目指す。長かったこの戦いも遂に最終局面を迎えようとする中、戦後のことを考える声も少しずつだが上がってきた。

 

軍へのスカウト

正規軍からの除隊

新たなる地への旅立ち

敗戦国の扱い

国家間の関係修復や再構築

 

等々、他にも細かいことまで言えば実に多岐にわたるが、こういった声がちらほらと陣中で聞こえるようになってきていた。無論、気が早いことであり、勝つのを前提としているあたりこういった油断が非常に危険なのは当然のことなのだが、次を見るのはある意味当然であり、仕方のないことといえた。

そんな中、あの黒騎士の周囲でも色々と動きはあるものである。

 

 

 

 

 

「よお、大将」

「ん?」

 

陣中を歩いている時に不意に声をかけられ、ガレスは振り返った。するとそこには、ジェイクとベックのシューターコンビが肩を並べていた。

 

「貴様たちか…」

 

立ち止まると、ガレスが振り返る。

 

「何か用か?」

「おいおい、ご挨拶だな」

 

つれない返答に、ジェイクがやれやれとばかりに肩を竦めた。

 

「最近、御無沙汰だったからご挨拶したのによ」

「貴様らにとってはそうかもしれんがな…」

 

心なしか、少々うんざりしたような口調でガレスが答えた。

 

「どうかしたのかい?」

 

ガレスの態度に引っかかったものを感じたベックが首を捻る。

 

「テーベからここまで、最近やたらと色んな連中が粉をかけてくる。だから、正直鬱陶しい…」

「ああ…」

「そういうことか…」

 

事情を理解したジェイクとベックが苦笑した。

 

「モテるねぇ、全く」

「下らんことを言うな」

「まあ、それだけ貴方の実力が評価されてるってことさ。実力がなければ、誰も声なんかかけないだろ?」

「さっきも言ったが、鬱陶しいだけだ」

 

本音なのだろうが、やれやれといった感じでベックとジェイクがお互い顔を見合わせた。

 

「ま、仕方ないさ。人格はともかく、実力ならあんたは頭抜けてるんだ。今のうちに唾つけたいって思う陣営がいたって不思議じゃないだろう?」

「俺など抱え込んだところで、火種にしかなるまい」

「それでも抱え込みたい事情っていうのがあるところはあるんじゃないか?」

「…確かにな」

 

ガレスの脳裏に、マケドニアでの決戦前のある記憶がよみがえった。が、とりあえずそれは置いておく。

 

「では、貴様たちの用件は?」

「いやぁ、今までの流れからは言いにくいんだけど…」

「とはいえ、大の男二人がモジモジしてても気色悪いだけなので、ハッキリ言うことにする」

「ああ」

 

半ば以上、二人が何を言いたいのかわかったガレスだが、二人が言うのであればと話を遮らずに待つことにした。

 

「あー…その、だ。この戦争が終わったら、俺らと気ままに旅でもしないか?」

「断る」

 

即断の回答だが、半ば以上こうなるとわかっていたジェイクとベックはガッカリというよりやっぱりといった表情になっていた。

 

「あー、やっぱり…」

「ま、そうなるか」

 

残念ではあるが仕方ないとも思いつつ、ジェイクとベックはこれ以上食い下がりはしなかった。話の流れでこうなるのはわかっていたし、いくら食い下がってもガレスが首を縦に振るとは思わなかったからだ。

 

「わかったよ。悪かったな」

「では、ついでに一つ聞かせてくれないか?」

「何だ?」

「貴方、この戦いが終わったらどうするつもりだ?」

 

ベックの問いかけにガレスは一瞬口を噤むが、すぐに、

 

「さあな」

 

と、答えた。

 

「その時になってみればわかる。そして、その時になってみなければわからん」

「答えになってるのかなってないのかわからない返答だねぇ」

「言うな」

 

ガレスがいつものように咽喉の奥で笑った。

 

「上手いこと煙に巻いたつもりだったんだ。お前らも察して煙に巻かれてろ」

「何だそりゃ」

 

三人顔を見合わせ、互いに苦笑しあう。

 

「まあ、あんたの意思はわかったよ。こっちとしても、ダメ元だったからダメージも少ないしな」

「ひょっとして他の連中から声かけられてるって言うのも、似たような用件だったりするのか?」

「察しが良いな。その通りだ」

 

ベックの質問にガレスが頷いた。

 

「余程物好きが多いのか、戦後に色々と誘われててな」

「さっきも言ったけど、それだけ皆あんたを買ってるってことさ」

「この軍に変わり者しかいないことの間違いだろう?」

「まあ、その側面がないとは言わないけど、他の誰もあんたに言われたくはないと思ってるだろうよ」

「そうだな。違う世界の住人なのだからな」

「クク、違いない」

 

そこで再び三人は苦笑しあった。

 

「わかったよ。あんたにその気がないんならどうしようもないな。今俺たちが言ったことは忘れてくれ」

「ただ、忠告ってわけじゃないけど身の振り方だけは少なからず考えといたほうが良い」

「ああ」

「んじゃあな」

「失礼」

 

軽く手を挙げると、ジェイクとベックはガレスの許を去って行った。

 

(身の振り方…か)

 

少しの間二人の後ろ姿を見送った後、二人に背を向けて歩き出しながらガレスが考える。先ほど言ったように、テーベを出立してからこちら、接触してくる人間が多くなった。そして、そのほとんどがさっきのジェイクとベックと同じような用件だったのである。

ダロス、バヌトゥ、シーザにラディ、アテナ、エッツェル、ユミル等々、色々な人物から戦後の誘いを受けていた。が、その度にガレスは先ほどのような返答を返して断っていたのである。

 

(連中にどういう意図があるのかは知らんが…)

 

あるいは意図などなく、純粋に厚意で誘ってくれているのかもしれないが、自身がどういう存在かわかっている以上、そういう認識でいるのは流石に能天気すぎるというものである。自身を抱え込んだことで余計な火種を抱えさせることにもなりかねないので断っているという側面もあるのだが。

 

(戦後…か)

 

そんなことを考えているとふと、目の前に迫りつつあるそのことを考えてしまう。先のことを見過ぎて足元を取られてしまっては元も子もないが、だからといって負けることを前提で戦いなど行わない。勝つことを前提としている以上、その先へ目を向けるのも当然のことであった。

 

(そう言えば…)

 

戦後を考えた時、不意にもっとも重要な人物の顔が思い浮かんだ。そして、その人物に最近お目にかかっていないことも。

 

(…ご機嫌伺いがてら様子でも見に行ってやるか。最期の御奉公だ)

 

我ながら柄にもない…そんなことを思うガレスだったが、これも最後が近づいているからこそか。そんなことを考えながらガレスは踵を返したのだった。

 

 

 

 

 

陣中、とある天幕。

数ある天幕の中で最も厳重に警備された天幕の中で、あまりすぐれない表情で座っているこの天幕の主がいた。

 

「ふぅ…」

 

その人物…ニーナがもう何度目かになるかわからない溜め息をつく。ガーネフを倒し、残るはメディウスのみ。それを考えれば嬉しくないはずはない。嬉しくないはずはないのだが、やはりどうしてもある人物の面影を追い求めてしまっていた。

 

(カミュ…)

 

情けないことだとは思う。しかし、いつからか芽生えたその恋慕の情は未だに失せることがない。もう死んでしまったのに…いやだからこそ、心に残る恋慕の情は日に日に大きくなっていた。

 

(ああ…)

 

叶うならばもう一度逢いたい。しかし、それはできない。カミュはグルニアの決戦において戦死したのである。だからこそ、どこかで区切りをつけなければけないのに、そのどこかが何時までも迎えられなかった。

 

(……)

 

浮かない表情のまま鬱々とした時間を過ごしていると、不意に天幕の外で人が倒れるような音が聞こえてきた。

 

(?)

 

その音に気付いたニーナがどうしたのかと思っていると、突然、

 

「いるか?」

 

と、天幕の外から声をかけられる。

 

(!)

 

一瞬ビックリしたニーナだったが、その声色が自分のよく知っている人物のものだと気付き、ホッとした表情になって

 

「ええ」

 

と、返した。すると音もなく天幕の入り口が開き、ニーナの予想通りの人物が現れる。

 

「久しぶりね」

 

その人物…ガレスの姿を見たニーナが軽く微笑んだ。

 

「そうだな」

 

ガレスも頷いて返答する。

 

「外に見張りの者たちがいたはずだけど、貴方何かした?」

「ああ。少し眠ってもらった」

「まあ…」

 

悪びれもしないその態度に、ニーナがクスクスと笑った。

 

「相変わらず酷い人」

「抜かせ。そんなのはとっくにわかっていることだろうが」

「確かにね」

 

再びニーナがクスクスと笑った。

 

「それで、どうしたの?」

 

ニーナが突然の訪問の理由を尋ねる。

 

「何、ちょっとしたご機嫌伺いだ」

「何それ」

 

ガレスの返答を聞いたニーナが三度クスクスと笑った。

 

「貴方、そんな殊勝な人物じゃないでしょう?」

「言ってくれるな…」

 

遠慮会釈のない物言いに、ガレスがフルヘルムの下で目を丸くしながら驚いていた。

 

「お前こそ、そんなに悪戯好きというか、意地の悪い性格ではないと思ったが」

「そう?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながらニーナが尋ねる。

 

「俺の知ってる限りではな」

「ふふ、ごめんなさい。久しぶりだったから少し意地悪したくなっちゃったのかもしれません」

「何だそれは」

「ふふふ…」

 

ニーナの返答に毒気を抜かれ、そんなガレスがまた面白かったのか、またもニーナがクスクス笑った。

 

「俺がお前と交流するのを快く思わない連中がほとんどだからな。無駄に面倒なことになるのを避けるためには仕方ないだろう」

「ええ、わかっています。一応は味方だけど、危険極まりない上に身元ですら不確かな危険人物ですもの。アカネイアの重臣だけでなく他の者たちも私と貴方が接触するのを好まないのも当然ね」

「…性格だけでなく、随分遠慮なくものを言うようになったものだ」

「ふふ、ごめんなさい。…何故かしらね、貴方にはこんな感じになってしまうのよね」

 

本当に不思議…と呟いたニーナ。そして今までの様子を観察していたガレスは、随分とニーナの様子が安定していると思っていた。もっとも、これも演技の可能性も十分あるのだから楽観はできないが。

 

「でも…」

 

不意に、ニーナの表情が引き締まってその口元が呟く。

 

「ん?」

「でも、本当にご機嫌伺いに来てくれたの?」

「ああ」

「そう、ありがとう」

 

ニーナが微笑んだ。そしてその微笑みは今までの何処か作ったようなものではなく、本当に自然なものであった。ガレスも思わず戸惑ってしまうほどに。

 

「少しは気が紛れたか?」

 

内心でこんなことふうに動揺しているなどとは決して悟られぬよう、ガレスがいつも以上に皮肉気な口調でニーナに話しかけた。

 

「ええ」

 

ガレスの問いかけにニーナが頷く。

 

「最近、少し鬱々としていたのは事実だから」

「グルニアの黒騎士の件だな?」

 

再度のガレスの問いかけにニーナが無言で頷いた。今更隠しても意味がないことだし、どこにも属さないガレスだからこそ隠す必要もなかった。

 

「こうなることはわかっていました。…でも、ダメですね。いつまでも終わったことを引き摺っているようでは」

「仕方ないことだ」

「え?」

 

侮蔑か、嘲笑でもされるかと思って覚悟していたニーナだったが、予想外の同意するような意見に呆気に取られていた。

 

「人の気持ちなど、そう簡単に変わるものでもない。それが真剣なものであれば尚のことな」

「……」

 

そんなことを言うとは思わなかったのだろう。ビックリした様子で固まっているニーナに気付いたガレスが、照れ隠しをするかのように咽喉の奥で笑った。

 

「ククク…俺としたことが、柄にもないことを言ったな」

 

まあいい。そう続け、ガレスは身を翻す。

 

「何にせよ、少しは気が紛れたようならいい。だが、いずれ気持ちに折り合いはつけろよ」

「わかっています」

「結構」

 

邪魔をしたなと最後に言い残し、ガレスはそのまま天幕を後にした。

 

 

 

「ふぅ…」

 

ガレスが去って行ったのを見送ったニーナは、大きく息を吐いた。そして、椅子に深々とその身を預ける。

 

(どういう風の吹き回しだったのかしら?)

 

久しぶりに姿を現したガレスが、その理由として述べたのはご機嫌伺いというものだった。だが、ガレスという人間をそれなりにだが知っているニーナにとっては、それを素直に信じることなど到底できない。

とは言え、じゃあ何か別の目的があって、それは一体何なのかと考えてもニーナにはわかるわけはなかった。

 

(まさか本当に、気に掛けてくれただけ?)

 

でも、そんな理由でわざわざガレスが動くかしらと考えると、首を捻らざるを得ない。考えても埒が明かない問題に、ニーナはそれ以上考えるのをやめることにした。

 

(でも…)

 

先ほどのガレスの会話で、改めて気付いた思いが一つあった。

 

(やはり、あの方への想いは気の迷いだったのですね)

 

オレルアンで敗残兵に蹂躙されかけたところを救われ、オレルアン城での祝勝会で二人で過ごした時間があった。そう言った経緯から気になる存在であり、折を見て要所要所で交流したり、もっと有り体に言えばガレスと親しげにしている女性の姿を見て面白く思わなかったこともある。

だがそういった、ハッキリ言ってしまえば嫉妬の類の気持ちを見せていたニーナであったが、カミュと再会して言葉を交わし、そして悲しみに打ちひしがれていた間にニーナは自分の心に燻るカミュへの恋慕の情がまだ残っていることを嫌というほど自覚していた。と同時に、一時はあれだけ執心だったがガレスのことも、ここで再会するまで思い出さなかったのである。

そして先ほど再び言葉を交わしたが、ニーナの心には一時期の感情の昂りはもうなかった。無論、この軍内の他の人間と比べると特別な感情はあるが、それは言うなれば感謝や親しみといったものであって、決して男と女の感情ではなかった。だからこそニーナは、ガレスに一時期感じた嫉妬や恋心は、生命を救われたことによる一時の感情の昂りだと判断したのだ。そして、自分の心を捉えて離さないのが誰なのかを再確認もしたのである。

 

「……」

 

ガレスに対する複雑な想いを自覚しながら、ニーナは暫くガレスの去って行った天幕の入り口を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

ドルーア城を臨む戦いにガレスの姿はなかった。最後の屋外戦ということで、これまでの方針通りに騎馬兵、飛行兵を軸に布陣を敷いたため、重騎士であるガレスの出番はなかったのだ。

本陣で戦況を見つめながら、ガレスはこれまでとそしてこれからを考える。やがて、解放軍の勝利の鬨の声を耳にしたガレスは己の天幕へと戻っていった。

長かったようで短かったこの戦争も、後少し。

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