Fire Emblem ~漆黒の灰色 炎の紋章に導かれて~ 作: ノーリ
前回の続き。今回は、新・暗黒竜になって追加された外伝のお話です。
このタイミングということで、加わるのはあの人物。そして、ガレスとはどういう絡みを見せることになるのか、内容は本文を確かめていただければと思います。
では、どうぞ。
一夜の休息を得たアリティア=オレルアン連合軍…いや、アカネイア解放軍は次なる目的地を目指してオレルアン城を旅立った。目指すは、ニーナの故国でもあり、この大陸全ての国家の宗主国であるアカネイア。そしてその王都、パレスである。
ニーナからアカネイアの炎の紋章である『ファイアーエムブレム』を託されたマルスが全軍の指揮を執る立場となり、解放軍は一路中央公路を南下し始めた。無論、本来辿るべき歴史ならばないような、一種の緊張感を孕んだまま。
その緊張感の源であるガレスは、以前にもまして厳しい監視の視線が四方八方から刺さる中、何か問題を起こすこともなく普通に行軍を続けていた。ガレス自身、今は何も起こす気はないから当然なのだが。とは言え、衆人環視が長時間続けば鬱陶しいことこの上ない。
(本当に鬱陶しい連中だ…)
辟易としながらも相手にするのも面倒臭いため、ガレスは黙殺を続けることにしていた。そんな中、時たま姿を見るニーナからはその都度、他の連中のものとは違う意味ありげな視線を受けるのだが、オレルアンの連中がニーナをカッチリと護衛するので、ガレスとニーナはあの夜の宴以降二人っきりになることどころか、言葉を交わすこともなかった。
もっとも、この時点でニーナがガレスをどう思っているかは知らないが、ガレスはニーナのことを他の連中と同列に扱っていたので接点がなくても別に何も思ってはいないのだが。
そんな、微妙な雰囲気と緊張感を孕んだまま南下を続ける解放軍にの許にとある知らせが入った。何でも、付近の村の子供たちが賊に囚われており、解放軍にその助けを求めてきたのだ。これに応じるか応じないかで解放軍内で少々の悶着があったが、最終的には進行方向にその村があるということで、行きがけの駄賃というわけではないが救援に赴くことが決まった。
そしてその地で、また新しい出逢いがあるのだった。それは無論、ガレスにも。
「フン!」
「ぎゃあっ!」
得物を一閃したガレスに斬られ、賊がまた一人その生命を散らした。今回の戦場は開けた場所ということでガレスにも出陣の命令が下ったのだ。と言っても、相変わらず前線ではなくて後詰めではあるが。
とは言え、先日のオレルアンでの戦いで兵力を増強した関係で指揮官級もかなり待機しているので、物資や人員を護ることは彼ら彼女らに任せることができたので、ガレスもゆっくりと前線へと歩を進めていた。
(手ごたえのない連中だな…)
先ほどから襲ってくる賊の何人かを処理しながらガレスは内心でぼやいていた。
(まあ、仕方ないのか。統率もクソもない賊では、この程度のものか)
折角の戦場ではあるが相手が賊ということもあってガレスは非常に物足りなかった。そのため、向かってくる敵を倒すだけにとどめ、自分から突っ込む真似はしなかった。と、前線の中に見たことのない人影を見つけた。
(ん?)
目を凝らしてよく見てみると、素早い動きで剣を振るう剣士だった。そして、
(女か…)
そう、その人物は女だった。性差により、力強さは自軍の剣士たちであるオグマやナバールよりも感じられなかったが、その分速さや剣技は互角か僅かにそれ以上に感じられた。それ程の腕前だったのだ。
(敵だったら面白い相手になったかもしれんが…どうやら違うようだな)
彼女が戦っているのは自分たちと同じく賊だった。であれば、彼女は味方ということになる。近くに村があるため、恐らく助けを求めてきたその村の戦士というところだろう。
(まあ、心強い味方が増えるのはいいことだ)
何とも、ゼテギネアにいた頃のガレスでは考えそうにもないことを考えながら、ガレスはゆっくりと前線へと向かっていった。
「お前、弱い」
前線。そう言い捨てて、目の前の賊を斬り捨てる黒髪の女剣士。彼女の名前はアテナ。先ほどマルスが村を訪れた際に、囚われた子供たちを取り返すために解放軍に合流した剣士である。
「くそっ!」
斬り捨てられた仲間の姿に、賊は歯噛みした。数では勝ってはいるが、目の前の女剣士はかなり腕の立つ人物であるのが今までの戦いでわかった。正直、まともに戦っては勝ち目がないことも。
「来ないのか? なら、アテナ、参る!」
「くそっ! なめるな!」
賊たちがアテナを取り囲んで一斉に襲い掛かった。アテナは持ち前の剣技と身のこなし、洞察力で何とか致命傷を喰らわずに凌いでいる。
(敵、多い。でもアテナ、凌ぎきれる。そうすれば、アテナの勝ち)
冷静に状況を分析しながらアテナは多数の賊を相手にする。サシの勝負ではないのに持ちこたえられるのは偏にアテナの技量ゆえなのだが、それ故に注意を万遍なく巡らせる必要があった。
そのため、アテナは平時なら気付くであろうとある気配を見逃していた。それは、彼女の生命を奪うべく物陰に隠れて遠くから矢を番えているハンターの存在だった。
「へへへ…」
下卑た笑みを浮かべながらハンターがアテナに狙いをつける。そして、アテナが背中を見せた直後、
「死ね!」
呪詛の言葉と共に矢が放たれた。矢は一直線にアテナへと飛ぶ。それを見た賊がほんの少しだけ唇の端を歪めた。
(???)
その姿を見たアテナが引っかかって内心で首を傾げる。直後、戦士としての第六感が正面を見据えながらも背後に注意をひかせた。
「!」
その時には、もう矢が指呼の距離まで迫っていた。かわそうにも傷を負うことは避けられない上に、対峙している賊が見逃してくれるはずもない。
(背に腹は、代えられない!)
覚悟を決めたアテナが痛みに耐えるために覚悟を決めたその直後、金属音がすぐ近くから鳴り響いた。そして、アテナを貫くはずの矢はいつまで経ってもその身に激痛を与えなかった。
「だ、誰だテメェ!」
代わりに賊がアテナの向こうに向かってそう叫ぶ。アテナがチラリと視線を向けると、そこには漆黒の鎧に身を包んだガレスの姿があった。
「誰でもいいだろう。知ったところで貴様らの運命は変わらん」
「んだとぉ!?」
賊が凄む。だがガレスは、
「フン…」
鬱陶しそうに鼻を鳴らすだけだった。
「お前…?」
アテナもまた、突然現れたガレスに戸惑っている。だがガレスは答えることなくアテナに告げた。
「その連中の後始末は任せてもいいな?」
「わかった。お前、どうする?」
「フン」
そこでガレスは先ほどアテナに向かって放たれた矢を親指で指さす。
「ああいう真似をしてくれた連中を、もてなしてくるのさ」
「わかった。行け」
「ああ」
ガレスはこの場をアテナに任せると、紅い目を光らせてそのままアーチャーへと歩みを進めた。
「アテナ、お前たち倒す」
今は戦闘中ということもあり、ほんの少しの間だけガレスに意識を向けたアテナは、すぐに振り返って賊たちを睨み付けた。
「あぁ!?」
「面白いこと言ってくれるじゃねえか!?」
「死ぬのはテメェだよ!」
いきり立った賊たちが口々にひねりのない脅し文句を吐き捨てると、己の得物を構え直す。だが、アテナは怯みもしない。
「お前たち、卑怯者。アテナ、そんな奴らに負けない!」
「んだとぉ!?」
「ナメやがって…」
「殺してやる!」
そうして、賊たちはアテナへと襲い掛かった。賊たちを睨み付けて得物を構える中、アテナが楽しそうにニヤリと笑ったのだった。
「ふぅ…」
軽く一息ついたアテナが剣を鞘に収める。彼女の周囲には、物言わぬ死体となった賊たちが斬り捨てられていた。
「……」
そしてゆっくりと首を巡らせると、アテナはある方向に視線を定める。その先には、悠然とこちらに向かってくるガレスの姿があった。
傷一つ負うことなく、先ほどと全く変わらない様子で自分の方に向かってくるガレスの姿に、アテナは楽しそうに微笑んだ。
「あいつ、強い」
素直にガレスに抱いた感想を吐露する。そして身を翻すと、そのまま子供たちが囚われている砦へと走って向かったのだった。
「マルス、アテナもお前と行く」
賊退治ということもあって大した苦戦もせずに終了した後、アテナがマルスにそう申し出た。
「え?」
突然の申し出に、マルスが戸惑いの表情を見せる。だが、アテナは変わらぬ態度で話を続けた。
「アテナ、お前たちに助けられた。受けた恩は返す。これ、人として当たり前のこと。アテナ、マルスの戦いに力を貸す。マルス、助かる」
「ありがとう。これからの戦い、君の力が得られるなら心強いよ」
「こちらこそ。よろしく頼む」
「ああ」
二人はしっかりと握手を交わした。ここにまた一人、頼れる仲間が解放軍に加わったのである。と、
「ところで…」
不意に、アテナが周囲をキョロキョロと見渡した。
「? どうしたんだい?」
アテナの行為の意図がわからず、マルスが首を傾げて尋ねた。
「あの男…どこだ?」
「あの男?」
誰のことかわからず、目的の人物の名前を聞こうとしたところで、
「! いた!」
お目当ての人物を見つけたアテナがマルスの前から走り去った。一体誰を探していたのかとアテナの向かう方向に首を向けたマルスは直後に固まってしまい、そして真っ青になった。
「! ちょっと待った、彼は!」
慌ててアテナを呼び止めるマルスだったが、残念ながらその声はアテナには届かなかった。
「おい!」
マルスの前から立ち去ったアテナが目的地に着くと、両手を腰に当てて目の前の人物を呼んだ。予想外に大きな声だったために、周囲も思わず視線を向け、そして直後にマルスと同じく固まってしまった。何故ならアテナの視線の先にいたのは…
「ん?」
アテナに向かって振り返ったその人物は、紛うことなきガレスだったからである。現時点では声をかけるどころか、腫物扱いしているガレスだけに、周囲に一瞬で緊張が走った。だが、
「お前は先ほどの…」
マルスや他の連中の予想を裏切り、ガレスは普通にアテナに応じたのだった。
「何か用か?」
そして身体ごと振り返ると、ガレスはアテナに正対する。その、あまりにも普通な応対にそれを見ていた連中は今度は目を丸くしたのだった。
「アテナ、礼を言いにきた」
「礼だと?」
ガレスがフルヘルムの下で眉根を顰める。が、ガレスがそんな状況であることなどもちろん知る由もなく、アテナは話を進めた。
「そうだ。お前、さっきアテナ助けてくれた」
「ああ…」
礼の意味がようやくわかり、ガレスは拍子抜けしたように呟く。
「気にするな。あんなもの、ただのついでに過ぎん」
「でも、助けてくれたことに変わりはない。助けられたら礼を言う。人として当たり前のこと」
「律儀なことだ…」
ガレスがいつものように、楽しそうにクククと笑った。
「わかった。ありがたく頂戴しよう」
「よかった」
アテナが軽く微笑む。和らいだ雰囲気に、周囲もホッと一息ついた。が、ガレスと解放軍の関係を知らないアテナは遠慮会釈なくその先を続ける。
「お前、強い」
次にアテナが口にしたのはそんな言葉だった。
「ん?」
フルヘルムの仮面の下で、ガレスが楽しそうに笑った。
(考えてみればこんなふうに普通に誰かと会話をするのも久々のことか…)
ゼテギネアでは暗黒道に堕ちたため、自軍の者とさえ会話らしい会話などほとんどなかった。ここに来てからも暗黒道の呪縛からは完全に抜け切れていないために、周囲から腫物扱い…あるいは敬遠されているのが手に取るようにわかった。
そのため、最後に交わした他人との会話らしい会話など忘れてしまうほどに昔のことであった。そして今、久々の会話らしい会話をガレスは少し楽しんでいた。
(俺らしくもない…)
そうは思わないでもなかったが、嫌な気分かというとそんなこともなく、ガレスは暫しアテナに付き合うことにした。
「そうか?」
ガレスが答える。
「ああ。アテナ、嘘つかない。お前、本当に強い」
「光栄だな」
ガレスとしてもアテナの技量は遠目にも近目にも目の当たりにしたのだ。一角の戦士にそう言われて、悪い気はしなかった。が、ガレス自身も周囲もアテナに驚かされるのはここからであった。
「アテナ、強い奴好き。だから、お前のこと、好き」
「…何だと?」
突然の告白にガレスが一瞬言葉を詰まらせ、周囲も驚きを隠せなかった。だが、すぐにガレスはその言葉の意味を悟る。
『好き』というフレーズが使われたから勘違いも起ころうが、いわゆるLOVEではなく、LIKEの意味の方であることは明白だった。少し考えればわかることである。それを裏付けるかのように、目の前のアテナはニコニコ楽しそうに笑っているが、恥じらったり顔を赤くしている様子はなかった。
(青臭いガキでもあるまいし…何を考えているんだ、俺は)
少し溜まっているのかと内心で自嘲しながら、ガレスは再び先ほどと同じ言葉でアテナに応じる。
「それは…光栄だな」
「ああ。そのうち、手合わせ頼む」
「いいだろう。死なない程度に手加減してやる」
と、侮辱されたと思ったのか、アテナがムッとした表情になった。
「アテナ、そんなに弱くない。お前、アテナのこと見くびり過ぎ。ばか」
「クク…そうか」
アテナの態度に面白くなったのか、ガレスが軽く笑った。だが、すぐにいつもの調子に戻る。
「ならば、それが大言かどうかはいずれ確かめさせてもらおう」
「望むところ。アテナ、負けない」
「クク…向こうっ気の強い女だ」
そして、ガレスはアテナの前から立ち去った。久方ぶりの楽しい時間を過ごして。周囲の連中がまだ呆気にとられる中、ただ一人、もう一人の当事者であるアテナだけは満足そうにその後ろ姿を見送った。
こうして、解放軍に頼もしい味方がまた一人加わったのだった。