大食い学生ことナイアに財布にあるだけの金の分飯を奢らされ、寮内でふて寝していたクリアが目を覚ましたのは太陽が真上に上がった頃……詰まる所、昼である。
「ふぁぁ……あー…ねみぃ…」
モゾモゾとベッドから這い出るが、目の焦点は合っておらず、足取りもフラフラしており未だ目が覚めたとは言い難い状態だった。フラフラしながら制服に着替えて、一回のリビングへと行き、冷蔵庫の中を開けてみるが、そこには何も入っていなかった……という訳ではなく、材料のみがスペースを取っていた。
「……何にも入ってねぇ」
ここで、漸く目が覚めたようでクリアは途方に暮れていた。昨日、ナイアに有り金の殆どを食い尽くされ残っている金といえば、100ミラ程度でそれ以外は財布を振っても決して何も出てこない。猟兵時代に稼いだ金額の殆どは学費につぎ込んでいるのでまともに使えるミラはほとんど残っていないことになる。
「……取り敢えず、気を紛らわすためにどっか行くか」
そう言って寮を出て向かった先は……
◆
「え、えーっと……お金がないから、ご飯を食べさせてくれ? あはは……生徒会にそんな依頼をしに来たのクリア君が初めてだよ」
なんと生徒会室だった。生徒会長の『トワ=ハーシェル』も初めての依頼に表情を引きつらせていた。それでも笑顔を忘れないのは流石であると言っておくべきか。
「俺だって、こんな惨めな依頼したかねーよ。 暴食漢に有り金分の飯を奢らされてなければの話だけんどな」
「暴食漢って……」
「ナイア=アルアジフだよ。平民クラスの」
「……あー…ナイア君かぁ」
トワも納得したような表情で苦笑している。その様子からトワも彼の異常な食欲を知っているのだろう。二人してナイアの食欲について頭を悩ませていると生徒会室の扉がノックされた。
コンコン
「あ、はーい。空いてるよ〜 」
「失礼します……あら、お取り込み中でしたか? 」
「ううん。大丈夫だよ」
ノックをして入ってきたのは、平民クラスの制服を着た長い黒髪の少女。その手に抱えているのはどうやら生徒会の仕事の書類のようだ。
「……トワさん、こちらの方は? 」
「あ、この子はクリア=ヴィルヘイム君。《Ⅶ組》の生徒だよ」
「成程、《Ⅶ組》の生徒、ですか……」
トワに『この子』と言われたことにかなり違和感を感じているようで変な表情をしているクリア。どうやら身長のせいでトワが二年であることを忘れているらしい。
それと、今入ってきた少女に品定めでもされているように見られているためクリアにとっては相当居心地が悪い。それに気づいたのか、少女は
「あ、ごめんなさいね。近くで《Ⅶ組》の生徒を見るのは初めてだから」
「…や、別にいいけどよ」
「自己紹介が遅れてしまったわね。 シオリ=シラサギよ…よろしくヴィルヘイム君……は少し長いわね。私もトワ会長と同じようにクリア君、でいいかしら? 」
「ま、呼び方は好きにしてもらっていーけどよ。…それより、会長殿飯…」
「あ…そうだね。でも、今回だけだよ? 」
「恩に着るぜ……」
あはは、と苦笑しているトワは机の上の書類を片付けながらそう言う。対してクリアはぱぁあと死んでいた表情がみるみるうちに輝きを取り戻していた。それだけ腹を空かせていたということだろう。
◆
「クスクス……」
「…笑い過ぎだと思うんですケド。シラサギセンパイ」
「ゴメンなさい、でも…ふふ、お腹がすいたから助けてくれって……ホント生徒会にそんな依頼したのクリア君が初めてじゃないかしら」
あの後、トワが仕事を終わらせると三人で食堂の方へと向かっていった。その際、シオリにもトワがいきさつを話した結果今に至るというわけだ。
「もぅ……シオリちゃんもクリア君をからかうのそこら辺にしといたほうがいいよ」
「ふふ…そうね」
「ふぅ……からかわれる側の立場は中々辛いな。いつも、からかう側だったから勝手がわかんねぇよ。分かりたくもねーけど」
「この際にからかうのやめたらいいと思うの私だけかなぁ……」
「やめたくても、やめられないんだよ 気がついたらつい、な」
「……あれ? クリア? 」
三人で談笑してると、クリアにとって聞きなれた少女の声がした。声が聞こえた方を見てみると、そこにはフィーが少し驚いたような表情をして立っていた。
「珍しいね。てっきりサラとふたりで朝から飲んでるのかと思った」
「俺サラほど酒が好きなわけじゃねーよ。起きたら飯なかったから会長たちにたかってるだけだ」
「それもどうかと思うけど? 」
「昨日、有り金全部持ってかれたんだよ… 」
「また、変な女? 」
やれやれ、と言ったふうに首を横に振るフィーを見てクリアは怒りがこみ上げてきたが、トワたちの手前あまり手荒なことはしたくないのかぐっと堪えていた。それよりも、二人はフィーの言った『変な女』のフレーズが気になっているようだが。
「ちげーよ! なんでお前は有り金持ってかれたって言ったらそこに直行すんだよ! 」
「前科ありだから」
「ぐ、言い返せねぇ…… 」
「「言い返せないの!? 」」
「と、とにかく…今回のはマジでちげーんだよ。 いや、変な生徒ってのは違わねーか」
「……どういうこと? 」
「えっと…」
変な方向に思考を行かせてしまったクリアに変わってトワが困ったような表情をしながら事の顛末を告げていく。聴き終わると、フィーは心底呆れたようにため息を吐いてクリアに一言
「バカ 」
と言った。しかし、多少の自覚があるためかクリアは言い返さずにその言葉を受け止める。……多少はショックだったようで少し落ち込んではいるが。
「仕方ない……トワ会長。クリアの分は私が払う」
「え、でも……」
「馬鹿な兄貴分の世話役は私だから」
そう言ってトテトテと食堂の受付にミラを払いに行く。その様子に少し、トワとシオリは呆気にとられていたが、復活したクリアが苦笑しながら
「…前からあーいう風なんだよ。フィーは。変に世話を焼きたがるっていうか…なんつーか分かんねぇけど」
「そうなんだ……(確信はないけど、それって…)いい妹分だね」
「会長殿までんなこと言うなっての…」
勘弁してくれ、と言わんばかりに肩をすくめてフィーが戻ってくるのを待っている。それから直ぐに、フィーは戻ってきたが両手に何かを持っている。
「……アイス。知らないの? 」
「いや、知ってはいるけど……なぜ? 」
「苦労しているってシェフが同情してくれた…ぶい」
「さいですか…」
ペロペロ食べているフィーを横目にため息を吐く。こういうところを見ていると、時々利用されているのではないかと思うことがあるが、まぁそれも別にいいかと自己完結しているとARCUSに通信が入る。
「はいよ〜… 」
『ああ、クリアか? 』
「おう、そうだが…なんか用か? 」
『いや、実はこの前のオリエンテーションで使った旧校舎の調査依頼の手伝いをしているんだが……』
リィンが掛けてきた内容を簡潔にまとめると『自分たちだけでは不安だから、少しでも実力の高いクリアが着いて来てくれると心強い。だから少し力を貸してくれないだろうか』という事らしい。
『どうかな? 』
「んー…そうさなぁ……」
チラリと横目でフィーやトワたちを見るが、訝しげに首をかしげているだけだ。旧校舎の調査となると、戦闘は確実に避けられないだろう。今度ある実技テストに向けていい練習になるかもしれないが、クリアとしてはただ単純にめんどくさかったため
「や、わりぃわ。ちょい用事あるしさ」
『そうか…… いや、用事があるならしょうがないな』
「また、今度があったら誘ってくれ 」
『ああ、分かった』
通信が切れると、フィーが真っ先に
「誰? 」
と聞いてきた。クリアはふぅ…とため息を吐くと、めんどくさそうに
「リィンから 」
「なんて? 」
「旧校舎の調査依頼を受けたんだと。それで手伝ってくれないかって言われただけ……って、なんで俺フィーに説明してんだ? 」
自分でも無自覚だったのか、説明したあとにそう気づいた。その様子に傍観していたトワとシオリも苦笑を隠しきれていなかった。フィーは説明されて当然といったような顔をしていたが。
「でも、その様子だと断ったみたいだね。……良かったの? 」
「ま、いいだろ。どうせ、行っても男しかいないむさ苦しいチームだろうからな。それなら、こっちで美少女たちとのんびりしていた方が得ってもんさ」
「あら、お上手ですね 」
「び、美少女……」
「……はぁ」
クリアの発言に三者三様の受け取り方をする。シオリは軽く受け流し、トワは言われ慣れていないのか正面から受け止めて照れ、フィーは呆れたようにため息を吐いている。
「あらー…一人以外受けが良くないなー」
「残念ながら、いわれ慣れてるの」
「隣で言っているの聞き飽きた」
「ハハー…どうりで受けが良くないわけか」
一人は間に受けているようで、未だに照れていたがクリアにとって守備範囲外なのか放置している。……フィーからは冷たい目線を向けられはしたのだが。
◆
あれから、楽しく? 過ごしたクリアとフィーは第三学生寮へと戻ってきたのだが……
「ただ……酒臭ッ! 」
「……っ! 」
寮内に漂うアルコールの臭いに思わず二人して鼻を覆ってしまう。その発端である人物はというと、フロントに備えてあるソファーに座ってテーブルに突っ伏していた。その周りには幾つもの酒瓶が転がっている。
「フィー…アレ」
「了解…」
フィーにアレ…水を取りに行かせている間に、クリアはサラを揺すって起こそうとする。
「おい、サラさん…起きろって」
「う、うーん……あら? クリ、ア? ……あー…気分悪い 水…」
「フィーに取りに行かせてるから、ほらちゃんと座れって 」
テーブルに突っ伏していたサラを起こしてソファーの背もたれに体を預けるように体を起こさせる。その時に顔を見ることができるが、本当に気分悪そうにしており、変に刺激してしまえば淑女があまり出してはいけないようなものが口から出そうなので刺激しないようにしていた。
「ったく…… 自分の飲める量くらい把握してんだろうに…」
「つい、ハメを外しちゃったのよぅ……」
「なんでんな事したんだか……」
「クリア、水持ってきたよ」
「おう。……ほら、水」
「ありがと……んく、んく」
フィーが持ってきた水を飲んで先ほどの顔色よりもホンの少し良くなったようだが、未だに少しの刺激を与えてしまえば吐きそうなのは相変わらずである。
「はぁ……いやーちょっと飲み過ぎちゃったわね〜」
「飲みすぎたって………ちょっと待て、サラさんの部屋の酒ってもうほとんど残ってなかったよな? 」
「………さぁ? どうだったかしらねー」
「オイ! まさか俺の部屋の奴取ったんじゃ… 」
そう言って、クリアはサラの肩を掴んで揺すった。
「あ…」
「……どうしたフィー…あ」
少し揺すっただけで吐きそうな顔色をしていたサラをクリアは揺すってしまったのだ。妙に静かなサラの顔を覗き込んでみると彼女の顔色は……見るのも無残なほど真っ青だった。
「うぷっ……も、無理」
「お、おい…ちょっと待て、後10秒…いや、あと5秒でお手洗いまで………」
「ごめ、も、む……り」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁッ!? 」
クリアの健闘むなしく間に合うことはなく、寮にはクリアの悲鳴と何かがビチャビチャと溢れる音が響いたそうだ(フィー談)
どもども、いかがでしたでしょうか第七話。
一応また、別のオリキャラが出てきましたが、千回ほど密度を濃くしなかったつもりなのですが、どうでしょうか?
最初は原作ヒロインの保険という感じで作成したキャラクターなんですよねーw うまくできたとは思っていませんが。後半は今回は、フィーのターンだったと思います。(多分ですが
今作品でフィーは『何故か』こんなふうになってしまいました……書けば書くほどどうしてこうなってしまったと思う部分ばかりですw
まぁ、書いてしまったものはしょうがないので、少し補足をさせてもらうとすると、この作品のフィーはどちらかというと、恋愛よりも依存に近い形でクリアになついています。そうなった経緯はごちゃごちゃあるんですが、それはまた本編の方でやっていこうと思っています。
そ・れ・と、今作品には全く関係ないのですが、ついに発表されました閃の軌跡続編!!
嬉しくて嬉しくてしょうがないです。あの終わりで次の作品出されたらたまったものじゃないですけどねw
新衣装も見たのですが、一番最初に目に入ったのはやはり、フィーでしたねw小説で彼女を少し優遇しているからでしょうかwただ、アレ…結構露出激しいですよね。胸の下まで見せてますしw
個人的には好き…ですけど! ラウラ・エマの衣装の方がいいなーなんて思っていたりもします。この調子でサラ教官の衣装も……え、それはない? 残念です。
フィールドも幾つか出ていたみたいですが、一番気になったのはリィンの背後が写っていたフィールドですね。雪が降っていたから季節的に冬辺り…もしかしたらノーザンブリアかとも想像したりしていますけどw
あ、言い忘れていましたが、男性キャラの衣装で一番かっこいいと思ったのは勿論ユーシスです! あの翡翠色の上着かっけーってなりましたもん。リィンのコート? よりもですw
ま、全部かっこよかったんですけどねw
おっと、続編ができた嬉しさであとがきまで長くなってしまいました。
続編発売までには、この作品も『閃の』終章までは行きたいですね。……え?なんで強調したのかって? 分かってるのに聞くんですか?ヤダ、もー…
続編も書くからに決まっているじゃないですかw 望んでいる人がいるかどうかは知りませんけど。自己満足で書きます。
ま、そういうことなので、今後ともお付き合いくだされば幸いです。
ではまた次回…ノシ