此処は麻帆良学園都市の世界樹前広場。散歩公園にあるような広場であるが、此処から北にそびえ立つ巨大な樹木「世界樹」を近くで眺める事ができるのが特徴である。その反対側には、女子中等部校舎やクラブ棟等の洋風な建物が建ち並んでいる。
天気は暖かい快晴。風は丁度良くて気持ち良い。ピクニックに最高な環境だろう。しかしメガネ少年一人が立って待っているだけで、その周りには人がいない。何の予兆だろうか? 当然ながら、彼も不思議そうな顔をしている様子。
立って誰かを待っているメガネ少年の名前は大江山ミコト。学年は男子中等部三年生(今年で15歳)で、ややスリムな体格に身長が175㎝と高い。髪は黒色で短く、女に近い顔をしていて落ち着いた雰囲気がある。服装は白いシャツに薄い青色パーカーで、黒いズボンにに白いスニーカー。まぁ普通で目立った所はない。
暫くすると、建物のある南から広場に入って来る黒髪ポニーテール少女の姿があった。彼女は小走りでミコトの元へ近づいていく。
黒髪ポニーテール少女の名前は大河内アキラ。学年は女子中等部三年生(今年で15歳)で、細身の体格で身長は175㎝と長身女性。髪型は膝上辺りまで長く伸ばした黒色ポニーテールで、前髪は眉毛が見えないパッツンで、横髪は胸まで長く下している。目はやや垂れ目だが、細めなので眼差しが鋭く感じる。顔立ちは可愛らしく凛々しくもある。雰囲気としては、ミコトと同じように落ち着いた感じだ。服装は首元に細いリボンが付いた青白いブラウスで、裾に白いラインが入った青いスカートで、黒いハイソックスに通学と別のローファー。因みに彼女のクラスメイト親友達が服コーディネートしたもので、本人が「ちょっとスカート短くないかなぁ」と恥ずかしかったそうだ。だが征服スカートの丈と同じである。
「ミコトー! おはよう」
「アキラ、おはよう。と言っても、もうすぐ昼だけどね」
ミコトの近くまで来たアキラは、手を挙げて振りながら笑顔で挨拶をした。彼も笑顔で彼女に挨拶を返す。
「そうだね。じゃあ、こんにちは」
「うん。こんにちは」
お互い苦笑いで、改めて挨拶する二人。確かに、広場の時計台は11時55分を指していてもうすぐ正午だ。
ミコトとアキラの関係を紹介しておこう。一言で言えば「幼稚園からの幼馴染」である。驚いた事に二人の家は隣合いで、全寮制の中等部に進学するまでは良く一緒に通学していた。現在、今のように大体一週間に一回は会っている。だが平日でも買い物等で偶然、鉢合わせする事もある。携帯電話(スマホではないよ)を持っているので基本的に毎日二回以上メールでやり取りしている。因みに恋愛は何処まで進んでいるのかは不明。相思相愛らしいが。
「敷物はあるから、いつもの場所へ移動しようか」
「うん。あ、今日はドラえもんだね」
ミコトは鞄からドラえもん絵柄の敷物を取り出して言った。アキラは頷いた後に敷物を見て、やっぱりだという顔をしている。どうやら予感はしていたようだ。ミコトはドラえもん(CV大山さん)が大好きで、毎週金曜日テレビを見ていたが今は、寮生活なので見る事が出来ない。家の両親に録画を頼んで、DVDを送って貰っている。自分でノートパソコンを持っているので、そのメディアプレーヤーでビデオ鑑賞をしている。
二人は広場の芝生まで移動し、敷物を敷いて腰かけた。そしてアキラはご機嫌な様子で、鞄からお弁当箱を取り出す。続けて修学旅行のお土産も取り出す。彼女は先週の間、修学旅行で京都まで行ってきたのだ。一般人の知らない「裏」で凄い騒動があったらしいが、まぁ関係ない話だ。
「はい。金閣寺のアクリルスタンド。それと京都名物のおたべだよ。ルームメイトと仲良く食べてね」
「ありがとう。京都修学旅行はどうだった?」
アキラは微笑んで、ミコトに京都お土産を二つ渡した。彼も微笑んでお土産を受け取った後、彼女に修学旅行の感想を訊ねる。
「うん。ヒヤヒヤする事が多かったけど、とても楽しかったよ」
アキラはちょっと引き攣った笑顔で答える。彼女のクラスである女子中等部3-Aは、バカ騒ぎする程に元気があり過ぎて、鬼が付く厳しい生徒指導教員(新田先生)に見つからないようにする事が何度もあったらしい。その所為か、修学旅行が終わって直ぐに原稿用紙(400字ではなく600字)を10枚での作文を書く宿題をくらったそうだ。しかも提出日は明日の月曜日である。特に「裏」と関わった生徒は、書けない内容が多い。理不尽だ……。
「アキラ……大変だったね。来月にある僕のクラスの長崎修学旅行でも心配だな。こっちも元気過ぎるから」
ミコトは苦笑いする。彼のクラスも5月に修学旅行がある。長崎の平和公園や佐世保のハウステンボス等を巡る予定だ。アキラのクラスのバカ騒ぎに対しても負けていない。だから心配なのだ。
――とまぁ、昼食前の会話は以上だ。
「そろそろ、食べようか。今日はサンドイッチだよ」
「うん。……綺麗で美味しそうだ」
アキラはニコニコして、そう言いながらお弁当箱のフタを開けた。そのサンドイッチを見たミコトは楽しそうな様子である。彼女の手作り弁当を毎週食べられるから当然だ。この幸せは、まったく羨ましい事で。
「ふふっ、ありがと。料理の腕はルームメイトの ゆーな にまだ及ばないけどね」
ミコトからの褒め言葉に謙遜するアキラ。ルームメイトの「ゆーな」のフルネームは明石裕奈で、彼女の親友の一人だ。料理の腕は上々らしい。因みに他の親友は和泉亜子と佐々木まき絵を合わせて三人いる。
「いただきます」
「いただきます」
合掌して食事の挨拶をする二人。そして、楽しい昼食を過ごすのだった。この先「美味しいよ」で「ありがとう」なんてベタな展開は目に見えているので、語る事を省いておく。
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場所は変わって、此処は学園長の邸宅。その中の和室書斎で、一人の老人が座椅子に座ってテーブル上の資料に目を通している。その資料には、いかにも御曹司って感じの男性の顔写真や彼らの個人情報等である。恐らくお見合い関係だろう。
老人の名前は近衛近右衛門。職業は学園長で年齢は80を超えている。容姿は簡潔に言うと、白顎鬚が細長い ぬらりひょん 爺さんだ。身長はやや低く、服装は殆ど白い和服を着ている。そして、先述した「裏」の関係者である。
説明が遅れたが「裏」は、一般人においてお伽噺とされる「魔法」を扱う者の事だ。しかも学園長は、関東魔法協会と呼ばれる組織の最高権力者である。
「フゥ……」
学園長は資料をテーブルに置いて溜息をつく。その原因はいくつかある。一つ目、孫娘が「まだ早いわぁ~」とお見合いから逃げ出す事が多い。二つ目、孫娘が修学旅行で危険な目に遭い「裏」と関わってしまった……以上。因みに孫娘とは、近衛木乃香という子でアキラのクラスメイトである。
「ッ!?」
学園長は突然、凄い形相の顔に変わって立ち上がった。その直ぐに北の襖を開けて廊下に出る。これは一体、何が起きた!?
「な、なんじゃ!? あの馬鹿でかい魔力は!? その上、儂にも分からん何かのチカラも感じるが……」
廊下に出た学園長は窓越しで、北東にある世界樹を見て驚愕した。そして動揺しながら呟く。見ただけでは何も変わっていないが、世界樹は膨大な魔力と未知エネルギーを放っていた!
(これは何か起こるか、想像もつかん。急いで魔法先生達に連絡じゃ)
自分の組織の者達に緊急連絡するべく、学園長は早足で和室書斎に戻るのだった。関東魔法協会が管理する世界樹は、人の手に余るものかもしれない。彼らにとって、まだ解明されていない謎が多いのだから。
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場所を戻して世界樹前広場。
「満足です。ごちそうさま」
「お粗末様でした。はい、お茶」
「ありがとう。……ゴクゴク」
アキラは微笑みながら、食後の挨拶したミコトに、水筒のお茶を差し出した。彼はお礼を言った後に、お茶を飲み干す。因みにお茶は麦茶である。
「それにしても……人がいないね。なんでだろう?」
「今更だなぁ。アキラ、僕も此処に来た時から思っていたんだけど、原因は分からないよ。先週は賑わっていたのに」
今更っていうアキラの質問にミコトは苦笑して、自分にも分からないと答えた。後に周りを見回すと、世界樹の様子に気づく。
「なんだあれ? プラズマ?」
世界樹の真上に白い光が集まっていた。あれは段々と膨張している。ミコトはプラズマだと思っているようだが、違う。魔力と未知エネルギーの集まりだ。
「あ、高畑先生」
「ッ!? あのデスメガネで有名な?」
広場の南からこっちに向かって走ってくる先生を見つけたアキラは、無意識で声を上げた。ミコトは「高畑先生」の名を聞いて驚く。かなり距離があるので先生の表情がよく分からないが、慌てているようだ。
次の瞬間、この場の視界が真っ白になる。世界樹真上にある光が、ミコトとアキラに突っ込んで来たのだ。誰にも反応出来ない光速でッ! それでも先生は怯まずに走る。
数秒経過……光が収まると、其処には直径5メートルのクレーターが出来ていた。ミコトとアキラの姿はない。世界樹は暴走が嘘だったかのように、静まっている。
「クッ。間に合わなかった……」
現場に辿り着いた先生は、息を切らす事なくクレーターを見て悔しい顔をする。彼の名前はタカミチ・T・高畑。英語担当の教師であり、アキラのクラスの副担任である。容姿は簡潔に言うと、メガネをかけた薄い金髪のおじさま。だが年齢は30歳と若い。身長はミコトより少し高く、服装は白いスーツ(紳士)を着ている。因みにミコトが言った「デスメガネ」とは、麻帆良学園都市内で「おイタ」が過ぎる不良生徒を次々と懲らしめた恐怖のメガネ先生として付いた二つ名の事だ。実際、ミコトのクラスにいる数人の不良がデスメガネの餌食となっている。あとミコトは不良ではないと言っておく。恐れられているから苦手意識があるだけだ。
「これは、まいったね……クッ」
高畑先生はクレーターを見ながら、右手で頭を抱えて「どうしたものか」と呟く。消えた二人は生きているのか死んでいるのか分からないし、生きていたとしても手掛かりが無いので捜索は不可能。つまり、お手上げである。
(アキラ君……すまない、僕はどうする事も出来ない。生きていたら困難があっても、ボーイフレンドと一緒に頑張って欲しい。無事に帰れる事を信じているよ。いつまでもッ)
高畑先生は空を見上げて、自分の愛する教え子の無事を心から祈るのだった。
――こうしてミコトとアキラの長い長い旅が始まったわけである。
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此処は何処かの森の中にある小さい広場。天気は晴れ。中央に不自然な円形の芝生があり、この上にドラえもん絵柄敷物で横たわっている大江山ミコトと大河内アキラが居る。二人は気を失っているようだ。この辺りに鞄や弁当箱(空)や水筒や京都お土産等が散らかっている。
暫くすると、アキラが目を覚ました。そして周りを見回したら「此処は何処?」と混乱する。気付いたら別の場所なのだ。誰でも混乱はする。
続けてミコトも目を覚ますが、次の行動はやはりアキラと同じだった。とにかく、二人とも無事で何よりである。
「ねぇミコト。なんで私達は森の中に居るの?」
「それは僕も聞きたいよ……。とりあえず、此処を片付けよう。話はそれからだ」
「う、うん……」
ああ混乱していても仕方ないと、ミコトは冷静になってアキラに応えた。彼女は不安のまま頷き、彼と一緒に散らかった物を片付ける。弁当箱と水筒はアキラの鞄に入れる。京都お土産二つと敷物はミコトの鞄に入れる。
片付け終わった後、ミコトは鞄から携帯電話を取り出して画面を確認する。しかし圏外となっていて、連絡もインターネットも出来ない状態だった。
「圏外か……予感はしていたけど」
「そうだね……電波が届かない森の奥かな?」
落胆する二人。訊ねるアキラに、ミコトは「そうだと言いんだけど」と答える。段々と不安が高まる一方だ。
どうしようかと悩んでいる時、西の木々から三つの青い物体が飛び出して来た。二人は驚いて西の方に顔を向ける。
その物体はスライムと呼ばれるモンスター。容姿は雫のような形をした弾力のある青いゼリーで、大きさは大体20センチはある。顔はマスコットキャラクターのように可愛らしい。邪気がなければ人を襲って来ない生き物だ。
「なんだあれ? 生き物?」
「か、可愛い……」
スライム達は、こっち向いて様子を見ている。ミコトは珍獣を見るような目で、アキラは可愛い小動物を見るような目で、スライム達を見つめた。すかさず、彼は携帯電話でスライム達の写メを撮影する。珍しいから友達にでも見せるつもりだろう。
見つめ合う数分後、興味を無くしたのかスライム達は東の木々へ去って行ってしまった。その後に、二匹の角ウサギが東から西へピョンピョンと広場を横切る。
角ウサギは、いっかくうさぎと呼ぶモンスター。容姿は額に一本角が生えたユニコーンみたいなウサギで、普通のウサギより一回り大きい。邪気がなければ、生態は普通のウサギと変わらない。
「さっきのウサギ。角がついてなかった?」
「……ついてたね。成長犬と同じくらい大きかったし」
いっかくうさぎを見た二人は、互いに顔を合わせた。そしてアキラから先に、乾いた声でコメントする。「これって夢?」と思うのであった。あとミコトは写メを撮っている。いつの間に!?
「……もしかしたら、此処は地球の何処かじゃなく、別世界かもしれない。これを見て」
「それ……大きな鳥にぶら下がった赤いワニさん?」
ミコトは携帯電話の画面をアキラに見せた。すると彼女は目を見開く。その画面には、大きい鳥がワニ顔の獣人の肩を鷲掴みにして飛行している姿があった。空でかなり距離がある為、写メを拡大させている。しかしミコト、いつの間に撮った!?
――これで二人は、異世界に居るという事実を理解した。
「私達、帰れるの?」
「それは……」
泣きそうな顔で訊くアキラに対してミコトは、答えられないまま黙る。彼も泣きたいが「男たる者、彼女の前で泣くな! 弱気になるな!」である。
「諦めなければなんとかなる。最悪、帰れないとしても、僕はアキラを一人にさせない! だから……ね」
「ミコト……うん。分かった。最後まで諦めないよ」
ミコトは絶望に負けず微笑んで、アキラの手を握りながら励ました。それで希望を持った彼女は笑顔になって応える。ここは抱きしめたら良いのに、ただミコトは純情なのか恋愛がそこまで進んでないのか分からない。恐らく前者だろう。
「次はどうするか、だけど。人が居る場所を探そう。村とか」
「その方が良いね。日が暮れる前に見つかるといいけど……」
ミコトは南にある細い道に指差ししながら言った。アキラは頷き、空を見ながら答える。日は高いので今は昼頃だろう。食料と水は京都お土産のおたべと水筒残りのお茶だけなので、遅くても明日までに村か町を見つけないといけないという訳だ。
二人は森の小さい広場を出て、南へ続く細い道を進む。その道は凸凹なので歩きにくい。道幅は一人分なので、ミコトが前でアキラは後ろだ。
100メートルくらい進むと、自動車一台分の幅がある道に出た。その道はまた森の中で、此処から西へ東へ続いている。分岐点のようなものだから二人は悩んでしまう。
「間違えると命取りだから慎重に行こう。僕は西の景色を確認するから、アキラは東の方を頼むよ」
「うん。分かった」
西と東の遠景を刮目して見る二人。西は……特に変わったものは見られなかった。東は……東北東に白い煙が上がっているのが見えた。あそこに人が居るかもしれない。
「ミコト! あれ見て」
「何か見つけたの? ……あれは煙だよね」
東北東の白い煙に指差ししながら言うアキラ。それを確認したミコトは、東へ進む事を決める。人が居たら良いなとドキドキする二人であった。あの煙、今は昼なので御飯を炊いているのだろうか?
東へ続く道は一本道で、少し左へ曲がり、この先少し右へ曲がると、真っ直ぐで100メートル先に村の入り口が見えた。それで安堵の表情を浮かべる二人。
「人が居ても、もし言葉が分からなかったらどうしよう?」
「あぁ……その場合はアレだよ。身振りで伝えるやつ」
「成程。ジェスチャーだね」
コミュニケーションの問題について、既に考えてあるとは流石だミコト。そうジェスチャーは英語とか話せない日本人が、外国人とやり取りする為の一番の手段だ。それでも大変なのだが……
実に村を発見出来た幸運で更に安堵した二人は、早足で村の入り口へ向かうのだった。ゴール前でラストスパートを駆けるかのようだ。走ってないけど。
つづく
はい。ネギまSSって感じの第一話でした。
何処の村なのか、お分かりですね?