異世界の人々は北極南極を知らない   作:峻天

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010 レオナ姫の色々な体験

 タケコプターや水神槍の力で空を飛んで、海上の聖なる船に乗り込んだレオナとマァムと大江山ミコトと大河内アキラとドラミちゃん。この船の状態について、船体の船首と船尾と側面と船底に損傷はないが、帆のマスト二本全て折れていて甲板中央に大穴が開いている。爆発があった割には、幸い大きな火事にならなかったようだ。外に船員達が居ないところを見ると、全員船の中らしい。

 

「マリアーン! 船長さーん!」

 

 心配しながらも大穴から中に入り、タケコプターを外すレオナ達。そしてレオナは大声で、船員達を呼び掛けた。ミコト達は彼女を見守りながら、無事を祈っている。此処は、さっきキラーマシーンを収めた格納庫のようで部屋が広い。前方と後方でドアが二つ。中に置いてある物は少ないが、アレを隠す為だと思われる大きな白い布が目立つ。

 

 部屋の前方と後方の壁の向こうで騒ぎの音が聞こえ、暫くすると両方のドアが開いた。前方ドアから、濃い青色の中世船長服を着た銀髪初老男性(船長)と料理人の白い服を着た茶髪中年男性(コック)と軽装備の鎧を着た強そうな筋肉男性六人(水夫兼兵士)が出て来る。後方ドアから、白いエプロンのある長袖ロングスカート紺色メイド服を着たロングストレートぱっつん黒髪20代後半女性(侍女のマリアン)ともう二人の水兵が出て来る。以上、11名がテムジン部下でない者達である。その全員は、レオナを確認するなり直ぐに跪くのであった。配置はレオナ視点で左からマリアン、船長、コック、その三人の後ろに水兵八人。

 

「お帰りなさいませ。姫様」

 

「ええ。みんな、無事でよかったわ」

 

 船長が代表して、レオナの帰還を喜び申し上げた。船メンバー全員の無事を確認したレオナは、安堵の表情を浮かべて応える。ケガひとつも無い彼等は、洗礼儀式の旅の責任者で命令権があるテムジンの命令で、格納庫から離れた部屋で待機していたそうで、爆発に巻き込まれなくて済んだらしい。外に出ないようにと言われて疑問はあったが、その理由は聞かなかった。因みに侍女のマリアンが無事だった事で、レオナが涙を流しそうであったのは内緒。

 

「姫様。その者達は、どういう関係ですかな?」

 

「島で出会った友達よ。良い人だから心配は要らないわ」

 

 ミコト達に目配して質問した船長に対して、レオナは微笑んで彼等を紹介した。それでミコト達は自分の名前が出た事に合わせてスマイルでお辞儀する。彼女の言った通りだと見て感じ取れた船長達は、笑みを返して警戒心を消すのであった。なお、紹介の際にはダイ達の事も伝えている。

 

――次はテムジン達について説明した。

 

「そ、そんな。司教様が……」

 

「驚きましたな。司教様が反逆を謀っておったとは……」

 

「ふーむ……。それで外出禁止の命令があったのかもしれん」

 

 レオナから事情を聞いて、マリアンと船長と水兵達はショックを受け、コックも同様で外出禁止の理由を理解して呟いた。テムジンはパプニカ王からも信頼されていた人物なのだから、これは仕方ない。そんな彼等を見て俯き、何とも言えないミコト達。その後はテムジンの部下達を入れた魔法の筒九本を束ね入れた段ボール箱(ミコトランド製品)を、彼等に預ける事になる。その箱の上面に赤色油性マジックで「お取扱い注意」の手書きあり。殺すのと同じになるので、一本でも紛失は厳禁なのだ。

 

「船長さん。この船は直りそう?」

 

「今直ぐ、速やかに調べて参ります」

 

 この船について訊ねるレオナに応えて一礼した船長は船の点検の為に、副船長でもあるコックと八人の水兵達を連れて前方ドアを潜って出て行った。テムジンがもう反逆者と分かった事で命令権が無くなったので、外に出ても問題ない。残ったマリアンは跪き姿勢から立ち上がり、レオナの傍に着く。彼女の身長は169㎝ほど。

 

「皆様。司教様の陰謀からレオナ姫をお守りして頂き、ありがとうございます」

 

「紹介するわ。専属のマリアンよ」

 

 メイドとしての通常立ちポーズになったマリアンは、ミコト達に向けて深々と頭を下げて謝礼した。次にレオナは微笑んで自慢げに、彼女の事と関係を紹介する。それで家族みたいに大切な人だと感じて、微笑むミコト達。

 

「メイドさんかぁ……。初めて見たわ」

 

「僕も。去年の学園祭で見た事があるけど、本物は初めてかな」

 

「そうだね。私はクラスメイトの家で見た事があるよ」

 

 メイドについて会話するマァムとミコトとアキラ。マァムは村で暮らしているので、当然ながら王城や貴族の屋敷等に居るメイドを見た事はない。まぁ城下町に行けば、買い出しのメイドを見掛ける可能性はある。ミコトの場合は、麻帆良学園の学園祭で見たメイドのコスプレイヤーだ。アキラは、クラスメイトのお嬢様 雪広あやか からのクリスマスパーティー招待で参加した際に、会場でメイドを見た事はある。更に執事の事も。

 

「レオナ姫は、また島に戻られるのですね」

 

「ええ。目的の洗礼儀式を果たすためにね」

 

 次の予定について話し合うマリアンとレオナ。島に戻ったらダイ達と一緒に昼食。それから改めて洗礼儀式の場所へ向かい、目的を果たす。島で一泊して翌日に帰国の予定だが、この船は直せるかどうかは分からない。現状では船長からの報告次第だ。

 

 そんな感じで皆は一時間近く話し合っていると、浮かない顔をした船長が戻って来た。コックと水兵達は今でも作業中であり、天井の大穴からでも甲板を走り回る彼等が見える。

 

「姫様。申し上げにくいのですが……」

 

 レオナ達は船長からの報告を聞く。折れてしまった帆のマストは、修復資材が足りない上に、船ドック等の設備がある場所に入渠させないと直すのは困難であるとの事。それから、この船はひとまずイカリを上げて海の流れを利用して島の砂浜まで移動させてある。そして、砂浜へ流された帆とマストは回収済み。島に戻る場合は、船首で下したハシゴを使うと良い。

 

「此方にキメラの翼が二個ありますので、侍女と共に国へお戻りになられてはどうでしょう?」

 

「こんなの、情けな過ぎて嫌よ」

 

 せめて先に帰そうと船長は案を出すが、レオナは難色を示して拒否した。彼女の負けず嫌い?に対して、苦笑いするマリアンとミコト達。確かに皆を置いて、おめおめと先に帰るのは情けない。レオナ本人としては、皆で旅立って皆で帰りたいのだ。

 

 船長の言ったキメラの翼とは、使う事で出発地点の町へ瞬間移動(正しくは光速移動)出来る不思議なアイテム。効果範囲は一個につき、一人まで。似た効果の呪文ルーラとは違い、目的地を選べない。移動場所のマーキングは、主に教会等で神にお祈りする事などして決定されるようだ。品薄である為、価格は高価で時価(日によって変動)である。ホロと言える程レア度が高いのだが、ミコトランドで無限に生産可能で、もし商人達が知ったら大騒ぎである。また、高価であるから偽物が出てもおかしくはなく、鑑定士に頼んでおくと安心だ。

 

「し、しかしですな……。うーむ」

 

「船長さん。わたしに良い考えがあります」

 

 島の北近くにあるラインリバー大陸のソフィアの港町に助けて頂く案はあるが、帰国が予定よりもかなり遅れてパプニカ王に心配をかけてしまうと、思い悩む船長に対してドラミちゃんは助け舟を出した。先にドラドーラ号の事を話しておき、提案内容を説明する。その案は、ドラドーラ号がこの聖なる船をトラクタービーム(光のチェーン)で牽引し、パプニカ王国へ送り届ける事である。自分の船にそんな救助の機能があった事について、ミコト達三人は初耳であった。

 

「太陽の力で動く船……聞いた事がないわね」

 

「そうですね。帰りはなんとかなりそうで良かったです」

 

「はっはっは、とても便利な船をお持ちですな」

 

 聞いて驚くも、帰りについては期待できると思ったレオナとマリアン。航海で常に風向きを意識しないといけない帆船の苦労を一番よく知っている船長は、我が国にもあのような船が欲しいと、大笑いして羨む。ミコト達三人は、ノートパソコンの画像ではなく生でパプニカ王国を見られるのが楽しみの様子だ。

 

(帰りは遅くなりそうね。後でお母さんに連絡しないと)

 

 レオナ達をパプニカ王国に送ってから帰ると決まったので、マァムは母のレイラに連絡しようと考えた。その連絡方法は、ミコト陣営が二人に渡した携帯電話である。ミコトの世界で使われている物と比べて、操作が非常に簡単に作られているので、携帯電話の画面からの説明で覚えれば、この世界の人でも電話やメールや写真撮影等が出来る。人工衛星からの送電なので充電不要。また、人工衛星経由なのでこの世界の分割結界を越えて通信可能だ。

 

 今後の予定についての話がまとまったところで、皆は格納庫の前方ドアを潜って、廊下の奥の階段を上がって、外の甲板に出て、船首甲板へ移動した。因みに後方ドアの先は主に、船旅でレオナが使う部屋がある。また、廊下の奥にもう一つの上がる階段がある。

 

「レオナ姫、皆様。どうかお気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 

「洗礼儀式を果たす道中で、ご武運を」

 

「ありがとう。行ってくるわ」

 

 また無事の帰還を信じて、微笑んで見送るマリアンと船長。心配をかけない為にも、レオナ達は元気良い笑顔で応えた後、ハシゴで船から砂浜に降りた。そしてダイ達の居る所へ向かうのだった。テムジンとバロンを引き渡す為に水兵二人も連れて。

 

 

==========

 

 此処はダイの家の近く。水兵二人がテムジンとバロンを連れて聖なる船に戻って行った後、アキラはアーティファクトを解除して普段着に戻り、ドラえもんが出した大きい敷物を敷いて、ドラミちゃんが大きめのお弁当の三重箱と麦茶2リットル入りのペットボトル二本と人数分の小皿・箸・おしぼり・コップを出して、敷物の上に座った皆はピクニック気分で昼食だ。島旅行毎回より人数が一人多いが、お弁当は多めに作ってあるから問題ない。

 

「……? ねぇ、スプーンとフォークはないの?」

 

「レオナ。これを使って食べるんだ。名前は……何だっけ?」

 

「お箸だよ」

 

 細長いケースを開けて中の箸を見て首を傾げるレオナに対して、ダイが箸で挟む持ち方をしながら応えるが、名前を忘れた。それでアキラが苦笑して教える。ここからレオナは初めて日本の食文化を体験するのだ。なお、マァムとダイとブラスは三ヶ月の間で箸の使い方を覚えている。

 

「……成る程。でも、難しそうね」

 

「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」

 

「うむ。コツさえ掴めれば、上手くいく筈じゃ」

 

「ピィ!」

 

 現在、共有の箸を器用に使って三重箱から小皿へ食べ物を配膳しているアキラとミコト。その様子を見て使い方を理解し、自分にも出来るかなと心配するレオナに対して、マァムとブラスとゴメちゃんは笑顔で自信をつけさせる。まぁ、無理はせずにゆっくりすれば良い。お行儀については、皿を口につけない事と変わらない。

 

「初めて見る食べ物があるけど、美味しそうね。誰が作ったの?」

 

「アキラとミコトが、早起きして作ってくれたわ」

 

 前に置かれた皿の食べ物を見てどんな味がするか、ドキドキするレオナの質問にマァムが上機嫌で答えた。技量はアキラに及ばないが、寮生活だったミコトも料理は出来る。お弁当の中身は、昆布かカツオのオニギリ、タマゴの厚手焼き、かまぼこ、肉団子、タコ型ウインナー、プチトマト、ポテトサラダ、キュウリつけもの、大学イモなど。

 

(仲良くお弁当を作ったのね……アキラとミコトの関係はどこまで進んでいるのかしら)

 

 二人の恋愛について、関心を持つレオナ。彼女は日常、城内の私室で恋物語の本を好んで読んでいるので、ああなった。皆は気付いていないが、マァムは二人の仲を羨ましがっているか、心がモヤついている。もしかすると、ミコトに気があるのかもしれない。友達関係でも三ヶ月間、仲良くやっていればそれでおかしくはないだろう。思春期であり、年齢が同じである事も影響は大きい。

 

「配り終わったし、食べようか。みんな手を合わせて」

 

 ミコトが合図を出して、皆は合掌して「いただきます」と食事前の挨拶をした。初めてのレオナだが、皆の真似をする感じで挨拶をした。皆より遅れてしまったのは仕方ない。でも、最初だけで次からは大丈夫だろう。見てもらう方が早いと考えて、挨拶の説明はしなかった。

 

(食事の挨拶が違う。……まだ知らない事が山ほどあるのね)

 

 いつもの日常はお城に居るのが多くて、外の事をあまり知らないレオナは痛感して、もっと勉強しようと思うのであった。彼女は未成年でありながら、王位継承者としての自覚がある。将来が楽しみだ。しかし、今回についての勉強をしようにも異世界の文化だから、それについての書物は存在しないのだが。

 

 そして箸を手に持った皆は、昼食を美味しく召し上がった。島旅行毎回の事ながら、皆の笑顔を見てアキラは嬉しそうである。そういう作り甲斐のある気持ちから、料理の腕は上達して今は、彼女の女子寮ルームメイトを超えたかもしれない。

 

「また落ちたわ」

 

「レオナ。がんばれー」

 

「頑張って」

 

「箸を横にして挟むと、滑り落ちにくくなる筈だよ」

 

「挟む力も少し抜いて大丈夫」

 

 レオナは箸でタコ型ウインナーを挟んで口へ運ぼうとするが、左手で持った皿に落とした。それでダイとマァムは応援し、アキラとミコトはアドバイスする。以前、初めて箸を使うマァムとダイとブラスの時も同じアドバイスだった。

 

――こんな感じで、皆は楽しく昼食を食べた。

 

 そして「ごちそうさまでした」と食事後の挨拶。食事中に説明を聞いたレオナは皆に遅れる事なく挨拶が出来た。だからドヤ顔であった。今度こそ出来たと彼女の負けず嫌いは分かりやすい。

 

(美味しさは、マリアンのお弁当と並ぶわね)

 

 パプニカ王国で、偶にはお城の近くの良い場所へピクニックに行った時での、マリアンお手製弁当と比べて美味しさは互角だと評価するレオナ。人と人を比べるのは失礼なので、口に出さない。食べ物と別として、初めての飲み物の麦茶は喉渇きに良く効くと好評だ。だから皆より多く飲んだのである。

 

 昼食を片付けた(敷物はそのまま)後は一時間くらいの休憩。その時間を使って、レオナが気になっていた事について応える話し合いとなった。それはロトゼタシア州についてであるが、その前にこの世界について説明する必要がある。始めにドラえもんがフルカラーのギルドメイン州の地図を、四次元ポケットから出して皆囲いの中心に広げる。

 

「先ずは確認。これは何の地図か、分かる?」

 

「色が付いてるわね。……世界地図よ」

 

 レオナは地図右下にあるホルキア大陸を見つめてから、時計周りで全体を見回してミコトに答えた。何故、ホルキア大陸を見つめたのかと言うと、自分の国がある大陸で親しみがあるからである。だから誰でも世界地図を見れば、始めは自分の居る場所を見る事が多いだろう。

 

「でもこれ、世界の一部だってさ」

 

「えっ? どういう事?」

 

 ミコトは訂正を言おうとするが、ダイがセリフを取って口をはさんだ。それでレオナは首を傾げている間にミコトはダイに文句言わず、ドラえもんに地球儀(竜星)を出して貰う。

 

「地図の玉?」

 

「レオナ。これが本当の世界地図だよ」

 

「えぇっ!? 世界って丸かったの!?」

 

「事実よ。此処も太陽と月と一緒なの」

 

「丸いけど、とても広すぎるから平面に見えるんだ」

 

 ミコトは地図の上に置かれた地球儀(竜星)を回して、北半球にあるギルドメイン州を見せつけながら説明すると、さっき珍しそうに見ていたレオナは驚愕した。今まで勉強で教わった事と正しいかどうか、混乱する彼女に対してマァムとアキラが補足する。

 

 次はミコトが地球儀(竜星)を回しつつ、レオナにロトゼタシア州や他四つの大陸群や北極南極について順に説明していく。以前にブラスが頑張って復習させたおかげで、ダイは理解出来ている。なかなか大変だったらしいが。

 

「今まで知らない国が沢山あるのね。でも、なんで私達の地図はこれだけの範囲しかないのかしら?」

 

「レオナ姫よ。四角で囲んだ赤い線が見えるじゃろう。あれが原因なのだ」

 

 ちょっと深刻な顔になったブラスはレオナの疑問に応えて、地球儀(竜星)にあるギルドメイン州を囲む赤い線を、杖で指しながら分割結界について話した。それで彼女は船長の言葉を思い出す。地図の端まで行くと天気に関係なく突然、凄い霧に覆われて危険なのだと。そう、あの霧は分割結界の壁である。航海で一般的に遭難するとされているが、彼等の地図の反対側に出てしまうから別の場所に錯覚するだろう。

 

「外の人達と交流出来ないなんて意地悪ね。あの結界を抜ける方法はあるの?」

 

「間違いなく大騒ぎになるから、今のところは人々に公開しないけど、方法はあるよ」

 

 眉間にシワを寄せて、気に入らない顔をするレオナ。そんな彼女の質問に、ミコトは苦笑してシーゲートの事を話す。そこまで話すとややこしくて長くなるので、自分(未来)が造ったとは言わない。吉(発展)が出るか凶(戦争)が出るかはさておき、世界中の人々を交流させたいと思うミコトは将来、数十年後にどこでもドアと同じゲート集合の旅行ステーションを建設しようかと考えているようだ。まぁ、戦争が起きてしまったら施設の閉鎖だろう。

 

 レオナが「機会があったらシーゲートを見せてね」と言って、これで世界についての話は終了。きっかけ又は時が来るまでは、家族・家臣・国民に秘密である。その後はミコト達の住所について等の話をした。

 

 休憩が終わったら、いよいよ洗礼儀式へ出発である。但し、決まりがあるみたいで当事者を含めての同行メンバーは四人まで。という訳で案内役のダイ、当事者のレオナ、後はクジで決めてマァムとアキラ。ミコトはクジが外れて落胆したのは言うまでもない。ダイも残念そうだ。あと、人間ではないゴメちゃんが同行しても問題ないだろう。

 

「皆、アキラ。気を付けてね」

 

 再び武装したダイ達四人一匹は、留守番のミコト達に見送られて、洗礼儀式の場へ出発するのだった。何のトラブルも起こらない事を祈って……。

 

 

==========

 

 ダイの家近くを発って、島中央の森の沿いを回って、北から入る森林道をもう一度通って南へ進み、洗礼儀式の場へ通じる洞窟入り口に到着したダイ達。パーティーの基本並び順はダイが先頭で、レオナが二番目で、マァムが三番目で、アキラが四番目。アキラが一番背が高いので、最後列である。

 

「ダイ。これが入り口なの?」

 

「そうだよ」

 

「ピィ」

 

「賢者と似合わない気がする」

 

「そうね。これはどう見ても……」

 

 レオナは引き攣った顔で、入り口を指しながらダイに確かめた。それで彼とゴメちゃんは何ともない顔で肯定するが、アキラとマァムもレオナと同じ気持ちである。何故、彼女達が難色を出したのかと言うと、大きく口を開けた悪魔の顔みたいな入り口だからだ。人間の誰だって警戒はする。

 

 取り敢えず、ダイ達は洞窟の中へ。その内部の構造は、直径約20メートルの深い大穴で時計周り螺旋状の下り道がある。松明が無いと暗い。また、モンスターのドラキーがコウモリみたいに徘徊している。昼間はこんな感じだ。それでダイとアキラが腰掛けのキャンプLEDランタンを光らせて、一行は左の壁に左手を当て続けて下り道を進んで行く。中央の穴空中に居るドラキー達は、彼等の行く先を見守っているだけ。

 

「行き止まりのようね。……ダイ?」

 

「ちゃんと道はあるよ。見てて」

 

 螺旋の道を九周して、漸く大穴の底に到着。しかし、彼女達が見回しても行き止まりだった。ダイは笑ってレオナ達に応えた後、螺旋道終点がある東と反対で西の大岩に近付く。

 

「……ひらけゴマ!」

 

 ダイは大岩に向かって両腕を大きく広げ、呪文を唱えた。すると、大岩が淡い光を放ってゴゴゴと大きな音をたてながら右へスライドし、隠された道が現れる。それを見て、驚くレオナ達。だがアキラは、大岩が動いた事に驚いたのではなく、自分の世界にあるアラビアンナイト絵本「アリババと40人の盗賊」の有名シーンが、異世界に来てまさかの実物を見た事に対してである。これはミコトに良い土産話だ。

 

「へへーん。驚いた?」

 

「ふふふ、良い不意打ちだったわよ」

 

「いひゃ、ひゃ」

 

 生意気そうにドヤ顔するダイに対して、レオナはイイエガオで彼の両ほっぺを軽く抓って引っ張る。後に続いてマァムからも。こんな目に遭うから、負けず嫌いな子に向かって威張らない方が良い。良い度胸だ。なお、アキラはアラビアンナイト土産話を考えていて、仕返しはしない。ダイの自業自得だから、ゴメちゃんは助けないようだ。

 

 皆(ダイは両頬を擦りながら)は再び足を進めて先へ。隠された道は少し下り坂で、直径150メートルの円の弧の大きさで左へ曲がり続けており、先に進むにつれて気温が上昇していく。また、硫黄の匂いも強くなっていく。

 

「暑くなってきたわね。……この匂いは何なのかしら?」

 

「そうね。この匂いは初めてだわ」

 

「そういえばさぁ、アキラ。その服は暑くない?」

 

「大丈夫だよ」

 

 先に進んで、ついに外の真夏の気温を上回ったところで、レオナはハンカチで顔面の汗を拭きながら呟いた。それに同意して頷くマァム。ダイはアキラの戦闘服を見て、さっきから気になっていた事を言う。確かに首から下全ての肌を覆うボディスーツで、更にチャイナドレスとセミロンググローブとロングブーツだから暑そうな格好だ。だが、水神槍の加護があって耐熱・耐寒の働きがあるから、此処の暑さでも問題ない。

 

「あっ、明かりが見えてきたわ」

 

 このまま進んで、暗かった前方に明かりが見えてきた。それでレオナ達は喜ぶが、あの明かりは焔色である。太陽の光ではない。紛れもなくマグマの光だ。ダイ達は早足で、あの明るい所へ。

 

 長い曲がり道の終わりで右へ直角に曲がって進むと、直径約200メートルのドームみたいな広い空間に出た。其処の中心にマグマが広がっていて、周りの壁沿いに足場がある。生まれて初めて本物のマグマ(溶岩)を見たレオナ達(来た事があるダイとゴメちゃんは除く)は冷や汗を流して息を呑むのであった。もしも落ちたら白骨化して一巻の終わりとなる。

 

 この場の構造について。中央は言うまでもなくマグマ。北は外へ繋がる出入口とダイ達。西は足場の行き止まりと赤い宝箱ひとつ。東はマグマに沈んだ足場。南西は魔界へ繋がる出入口と高台。南東は洗礼儀式の場へ繋がる出入口と足場の終わり。ただ、南西だけは遠く隔離していて、しかも高台に鋭い牙のようなフェンスがある為、空を飛ばないと行けない。

 

「あそこに宝箱があるわ。行ってみましょ」

 

「レオナ! 罠かもしれないわよ」

 

「罠はないよ。開けられないだけなんだ」

 

「鍵がかかってるんだね」

 

 右(西)の赤い宝箱へ向かおうとしたレオナを、慌てて呼び止めるマァム。彼女は用心深い。前に行った事があるダイの一言で、アキラは宝箱にロックがかかっていると分かった。鍵がかかっているなら仕方ないと、レオナは宝箱の中身が気になると思いながら諦める。今度、魔法の鍵か最後の鍵を持って、また此処に来る日はあるのだろうか。

 

「ピィ! ピィ!」

 

「とにかく、目的地は左だよ」

 

「ねぇ、ダイ。あっちは?」

 

「えっと……マカイと繋がっているって、じいちゃんが言ってた」

 

「マカイ……魔王の世界なのね」

 

「そうだね。外の出入口を見たら納得、かな」

 

 南東を指して正しい道を教えるゴメちゃんとダイ。目的地ではない南西の出入口が気になったレオナは、其処に指差してダイに訊ねた。それで彼の答えを聞いたマァムは引き締まった表情で南西を見つめ、アキラは外の出入口の造形を思い出して納得する。そんなやり取りの後、皆は東の途切れた道へ。

 

「ヒャダイン!」

 

 レオナは氷の呪文を唱えて、進む先の溶岩に冷気を放った。着弾したら溶岩は冷却され、大量の湯気をたてて紅蓮の光が消失して固体化して黒い足場となる。彼女の装備した魔力増幅腕輪による呪文強化なので、あっという間だった。しかも凍り付いて魔力が染み付いて、短くても一日は足場が溶岩に戻らない。

 

「よし! これで進めるぞ!」

 

「ダイ! また滑って転ばないようにね」

 

「またタンコブができても、治してあげないわよ」

 

 凍った溶岩へ走って突っ込もうとするダイに対して、呼び止めて注意するマァムとレオナ。それで苦笑するしかないアキラとゴメちゃん。そして皆は、滑らないように注意して、凍った溶岩を渡って南東の出入口へ。

 

 皆は南東の出入口前に辿り着いて一応、この大空洞全体の様子を見回したのだが、この足場から北北西30メートル離れたマグマの上面に発生した渦らしきものを目撃してしまった。それで訝しむ間に、赤くて大きい物体がゆっくり浮上する。その物体は、溶岩原人であった。

 

 溶岩原人とは、セントベレス州やエスタード州に生息するモンスターのドロヌーバの系統にあたる。外見は、人がベッドのシーツを被ったような形で、表面は赤くドロドロして、顔はハニワのようで不気味。体長は約五メートルで、キラーマシーンより大きい。実はこのモンスター、元は魔界に居たが、どこぞの不法者が此処の南西からマグマに放り込まれた。それから一年以上も眠り続け、さっきレオナのヒャダインの魔力を感知して目を覚ましたようである。ロクでもない不法投棄から始まった厄介事だ。

 

「溶岩のおばけ!?」

 

「ダイの友達……じゃなさそうね」

 

「うーん、あのモンスターは知らないなぁ」

 

「私もよ。……戦う事になったら、勝てるといいけど」

 

 驚いた様子のダイを見て、デルムリン島の友達モンスターとは全く関係ないと面倒くさそうに理解するレオナ。今でもノートパソコンでモンスターの勉強をしているが、あれはまだ知らない為、レベルについて心配するアキラとマァム。

 

「ピィー! ピィー!」

 

「来るぞっ! みんな!」

 

 東の方を見ていた溶岩原人はキョロキョロして、こっちを見るなり移動を始めてゆっくり近付いてきた。血肉を食らい、更に力を得る為に。それで戦意を感じたゴメちゃんは叫び、ダイ達はレオナを守る三人前衛という陣形になって臨戦体勢に入る。今日は戦闘が多い日だ。これで最後にしたいのも本音。

 

 水で溶岩を冷やして固めて溶岩原人の動きを止めようと思ったアキラは、水神槍の力を解放して相手の頭上に極太の水柱を落とした。しかし、思わぬ事態が発生する。

 

「うわあーっ!?」

「きゃあっ!?」

「きゃあっ!?」

「きゃあっ!?」

「ピィーッ!?」

 

 アキラの水柱を受けた溶岩原人は白い湯煙に包まれ、直ぐに大爆発して弾け飛んだ! その衝撃波で、ダイ達は後ろの南東出入口に飛ばされる。戦闘突入前に、溶岩原人を倒してしまった。

 

 何故、水をかけただけで爆発したのかと言うと、水蒸気爆発である。水蒸気の体積は、なんと水の約1700倍! 水柱を受けた溶岩原人の体内に大量の水が入ってしまい、非常に高温のマグマボディによって一気に気化して、爆発的な水蒸気で体が破裂した訳だ。

 

 さっき東で、レオナが氷の呪文で溶岩を冷却しても水蒸気爆発が起きなかったのは、魔力の冷気をぶつけた訳で水(氷)をぶつけたのではない。いや、水(氷)がぶつかっても、呪文の冷気が水蒸気爆発を防いでくれる。

 

「いてて……。なんで爆発したんだ? 水をかけただけだよな」

 

「うぅ……。私も聞きたいわよ」

 

「……ごめん。私も分からない」

 

「……溶岩に水をかけたら爆発するって、分かったんだし、気をつけましょう」

 

「ピィ」

 

 爆発で飛ばされて転んだ痛みを我慢して、身を起こして立ち上がる皆。水蒸気爆発を知らないダイは不思議に思った。レオナもアキラも。初めて経験したからマァムは今後の注意を呼び掛け、ゴメちゃんも同意して頷く。このパーティーを立て直したところで、下手したら取り返しのつかない事態になるところだったと思ったアキラが皆に謝罪。それで笑って許し、南東出入口の奥へ。因みにダイとゴメちゃんは、大空洞から先は行った事がない。

 

「なんだこれ?」

 

「本で見た事があるわ。これは旅の扉ね」

 

「こんな所で、本物を見れるなんて」

 

「そうだね。向こうはどうなってるのかなぁ」

 

 曲がりくねったS字の暗い道を抜けて、奥の空洞に到着。此処は渦巻いた光があって明るい。光の渦は旅の扉であり、ダイは珍しそうに見て、レオナ達は実物を見れて感激した。そして皆は、未知の体験にドキドキしながら、旅の扉に入る。視界が全て真っ白になって、別の場所へ移動。

 

 移動した先は移動前の空洞と似ているが、南の方に外への出口があり、更に南近くには石造りの祠が建っているのが此処からでも見える。直ぐに外に出られるので、予想外に驚くダイ達であった。前の場所と違って近くにマグマは無いので涼しいが、外に出ると真夏の暑さだ。

 

「デルムリン島なのかしら? 此処」

 

「おれ、知らないよ」

 

「ピィ」

 

 洞窟の外に出た皆は、周りを見回した。此処は高さ20メートルくらいの崖に囲まれていて、洞窟と祠がある以外は草も木も何もない。人々は此処の存在を知らず、狭くて寂しい感じだ。レオナはダイに訊いても、知らないらしい。顔を横に振ったゴメちゃんも同じく。以前に、タケコプターまたはキメラ(友達モンスター)で空中散歩した際に島全体を見下ろしてきたが、此処を見た記憶はないとの事だ。そんな中、アキラはマァムと一緒に携帯電話のナビマップで位置を調べている。あのナビマップは人工衛星によるものだ。因みにアキラの携帯電話は、自分の世界のド■モ製ではなく、ミコトランド独自の製品である。ミコトのも同様。

 

「此処はロモス王国の西にある山の中らしいわ」

 

「えっ、そんな所に?」

 

「どうして分かるの?」

 

「これを使って、私達の居場所を調べたんだ」

 

 自分の居場所が判明したマァムはダイ達を呼んで、今いる場所を教えた。いつの間にか遠くまで移動した事実で、びっくりするダイ。訝しむレオナに対して、アキラは自分の携帯電話を指して説明する。ナビマップについては勿論、いつでもどこでも携帯電話を持っている人と話が出来る事についても。

 

「手紙みたいなものが直ぐに届くとか、パプニカに帰って城の中に居ても、皆と話が出来るのね? 私も欲しくなったなぁ」

 

「おれも使いたいけど、字の勉強をしないとダメだってさ」

 

 とても便利な携帯電話の魅力を感じて、私も欲しくなったレオナ。携帯電話を十分に扱えるためには、字を読めないといけない。だから、文字の読み書きが不十分なダイは携帯電話を貰っていない。メールをするにも、字が読めないと始まらないのだ。ダイは剣の修行ばかりで勉強が遅いから、来年の夏(一年後)に携帯電話を渡す予定。因みにブラスは機械が苦手らしいので、携帯電話を持っていない。レオナにも携帯電話を渡す件については、洗礼儀式が終わった後にミコト陣営が検討。

 

 話はこの辺にして、皆は南近くの祠へ。その中は洗礼儀式の場であるが、結界(見えない壁)に拒まれてレオナしか通れなかった。どうやらパプニカ王族及び才の賢者しか、中に踏み入れる事を許されないらしい。もしかすると、決まりである人間メンバー四人以下でないと、資格者でも入れてもらえないかもしれない。始めからの出直しは、御免被りたいところだ。

 

「あっ、ごめんなさい。私しか入れないって、忘れていたわ。悪いけど、此処で待ってて」

 

 旅立つ前に洗礼儀式の説明を聞いた内容を思い出し、この結界について謝るレオナ。それでダイ達は頷いて、祠の中に入って行く彼女を見送る。知らない地でレオナを一人にするのは心配だが、辺りに邪悪な気配はないから大丈夫だろう。

 

 祠の外で待っている間は退屈なので、アキラがミコトに無事到着のメールを送った後、皆で武器の素振りをする。こんな暑い時に、よくやるものだ。

 

――レオナが戻ってくるまで、二時間以上経過した。

 

「えっ、もう夕方なの?」

 

「レオナ、おつかれ。……長かったね」

 

 青空の色が藤色に染まり始めてきた頃、レオナが祠から出てきた。彼女は外の様子に目を見開き、ダイ達は待ちくたびれている。洗礼儀式で祈りを捧げて詠唱文を上げたら、意識が精神世界まで飛ばされて天族(精霊)と会ったらしい。その最中は、時間感覚が分からなかったそうである。儀式を終えた事によるステータス変化は、魔力アップ(数値で表せば約50)だ。

 

 目的を果たした皆は、また洞窟を通ってミコト達の元へ帰るのだった。夏の夕方は長いから、急がなくても大丈夫だ。レオナは脱出呪文リレミトを使えるが、今回の洞窟は通過タイプである為、意味はない。たとえ洞窟内で使っても、祠のところに戻ってしまうのだから。……これも試練だろう。

 

 

==========

 

「この匂いは……カレーだ!」

 

「かれーだ? また聞いた事がないわね」

 

「ふふ、今日の夕食はカレーライスだよ」

 

「きっと気に入るわよ。ダイの大好物だもの」

 

「ピィ!」

 

 まもなくダイの家まで戻ると、流れてきたカレーの香ばしい匂い。それでダイは大喜びして猛ダッシュ。レオナは涎が出そうになるも、今日は初めてが多いなと、しみじみ思った。アキラとマァムは微笑んで、カレーライスについて話す。ミコト達はカレーライスを作って、ダイ達の帰りを待っているようだ。

 

「あっ、皆。おかえり」

 

「やあ、おかえり」

 

 ダイの家近くに作ったブロックかまどで、はんごう三個を炊いているミコトとドラえもんはダイ達を見て、労う笑顔でお出迎えした。なお、ブラスはドラミちゃんと一緒に、家のかまどでカレー入り鍋を炊いている。

 

「お疲れ様。もうすぐカレーライスが出来上がるから、そこのテーブルで待ってて」

 

 ミコトは家の前にあるテーブル・イスを指して、ダイ達に言った。彼等は笑顔で頷いて武装解除して、そこのイスに腰を下ろす。テーブル上にあるスプーンを見てホッとするレオナであった。アキラは手伝いたがっていたが、お気持ちだけ。因みにテーブル・イスは、ドラえもんとドラミちゃんが用意した物。本当に四次元ポケットは便利だ。

 

 夕食の配膳はミコト達。勿論、ブラスとドラミちゃんからも笑顔で労いの言葉を送った。それが終わったら席に着き、皆は食事前挨拶してカレーライスを口に運ぶ。夕食メニューは甘口野菜カレーとみかんゼリーだ。飲み物は麦茶。

 

「美味しい……。ダイがあんなに喜ぶ気持ちが分かるわ」

 

 レオナは満面の笑顔でカレーライスの感想を言った。甘口は辛口よりも、初めての人の口に合いやすい。ダイは幸せそうに食べているが、ほっぺが膨らむくらい口に詰め過ぎである。お厳しいブラスは眉間にシワを寄せているものの、大目に見ているようだ。まぁ、月に一回の楽しみだからしょうがない。

 

 皆はデザートのみかんゼリーを食べ終えて、ごちそうさまと挨拶。そして消臭スプレーで口の中(特に、口がデカいブラスとドラえもん)の強いカレー匂いを消した後は、ダイ達の短い冒険の話となった。アキラから「ひらけゴマ」の話を聞いた時は、ミコトが驚いたのは言うまでもない。それで不思議そうな顔をしたダイ達に、機会があったら絵本「アリババと40人の盗賊」を見せると対応。次は溶岩モンスターに水をかけたら爆発したという話。

 

「あれは多分、水蒸気爆発だと思う」

 

「水蒸気爆発?」

 

 肝を冷やしたミコトは、考えられる原因をダイ達に話した。それでマァムの質問に応えて説明する。水蒸気の大きさが水の約1700倍だと聞いて、皆は驚愕するも、納得するのであった。知識不足だと痛感し、水についてもっと勉強しようと決めたアキラ。

 

 いつか、ミコトがレオナに蒸気機関の事を話せば近い未来、パプニカ王国は革命的に大きく変わるだろう。先進国のベンガーナ王国を出し抜いて。但し、火力は石油・石炭ではなくメラの魔法石を使う。これなら二酸化炭素が殆ど出ないので、温暖化のリスクは低い。魔力素(マナ)枯渇の心配があるかも。

 

 あとは旅の扉や洗礼儀式の話をして、冒険話は終了。空はもう夜の帳が下りた。暗くなったので、キャンプLEDランタンのスイッチをON。ドラドーラ号のキッチンで洗う為に、食器の数々はカゴへ片付ける。翌日の朝食で使うから、テーブル・イスはそのままだ。片付けが終わったら、ドラえもんは花火セットを出す。島のモンスター達が騒ぎになるから、打ち上げ花火は無い。

 

「色が沢山付いて派手ね」

 

「レオナ。あれは花火だよ。火の色が色々あって楽しいんだ」

 

 珍しそうに花火セットを見るレオナ。それでダイは、先月にやった花火を思い出して話す。マァムは夏の間、偶にミーナやネイル村子供達と一緒に、ミコト陣営から貰った花火を遊ぶ事がある。勿論、使用後ゴミの回収もミコト陣営がしている。

 

「成る程。火に色があって綺麗ね。何度やっても飽きないかも」

 

 レオナが花火スティックを右手に持ち、ミコトがトーチでその先端に点火。それで鮮やかな緑色の火のシャワーが放出された。終わったら違う色の花火スティックで楽しむ。次の三本目、四本目と続ける。初めて体験する彼女は思わずの笑顔であった。

 

――花火セットが全て無くなるまで続いた。

 

「終わってしまうと、こんなに寂しいものなのね」

 

 火が消えた最後の花火スティックを見つめて、虚無感を感じるレオナ。それで共感の苦笑を浮かべる皆。花火大会が終わった時は、いつもそんな感じだ。演出も音もド派手な打ち上げ花火なら、今回の比ではない。

 

 花火を片付けた後、ダイとブラスとゴメちゃんに「おやすみ」とお互い言って解散。少し話をして、レオナとアキラとマァムは聖なる船へ、ミコトとドラえもんとドラミちゃんはドラドーラ号へ戻るのだった。レオナはドラドーラ号に泊るので、着替えを取りに行った訳で、アキラとマァムは案内役だ。理由は恐らく……。

 

 

==========

 

「船の中は涼しいのね。昼みたいに明るいし、雰囲気も」

 

「お邪魔します。……驚きましたね」

 

 アキラとマァムに案内されて、右サイドドアを潜ってドラドーラ号の中に入ったレオナとマリアンは、エアコンの風に当てられながら船内を見て驚いた。内装は外の木造な外見に反して、新幹線客室のような白い空間だから当然である。あと何故マリアンもお越しになっているのかと言うと、此処の客室は二人部屋だからだ。そんな部屋で一人はさみしいだろう。……他に一つの理由もあるが。

 

 この部屋の中央にある階段(船前方向き)を下りて、船内の真ん中廊下を進み、右で階段から三番目のドアを潜って客室R2へ。そこがレオナとマリアンが寝る事になる部屋だ。因みに客室R1はアキラとマァムが寝る部屋で、客室L1はドラえもんとドラミちゃんが寝る部屋で、ミコトは船長室で寝る。船長はドラえもんだが、ミコトが陣営のトップなのだ。

 

 ドラドーラ号の船内(甲板下)構造について。真ん中廊下(幅二メートル)の一番前(階段から奥)は運転室。前方から、左一番目は客室L1、右一番目は客室R1、左二番目は客室L2、右二番目は客室R2、左三番目は船長室、右三番目は物置部屋、左四番目は食堂・キッチンの連結部屋。右四番目は船後方に伸びる幅半分狭い廊下で、左壁中央のドア先は洗面所兼脱衣所・浴室、奥右のドア先はトイレ(位置は階段の後ろにあたる)と予備洗面所。各客室と船長室と物置部屋と食堂とキッチンの広さは六畳部屋(船前方後方向きの方が幅は広い)だ。

 

「へぇ、此処も明るくて良い部屋ね」

 

「そうですね」

 

 ロウソク明かりで暗く暑い部屋(聖なる船内)に対し、此処は明るく涼しい快適な部屋。それでレオナとマリアンは感激した。羨ましくもある。初めてのミコト世界現代ライフの体験だ。

 

 客室の構造について。ドアを潜って左端と右端にベッド(廊下側に頭を向ける)があり、奥真ん中には水色のカーテンで閉められた窓(新幹線のと似た形)と机・椅子がある。また、荷物はベッド下の引き出しに入れる。忘れ物注意だ。因みに全ての窓はマジックミラーみたいなもので、外からは窓が見えない。近い内レオナ達は、その違和感に気付くだろう。

 

「レオナ。お風呂の準備が出来たよ」

 

「アキラ、ありがとう。助かるわ」

 

「お世話になります」

 

 暫くしていると、二人分のタオル・パスタオル畳みを持ったアキラが部屋に入ってきた。レオナとマリアンは笑顔でお礼を言う。そして連れられて、脱衣所・浴室へ。そう、それこそがドラドーラ号に来た一番の理由である。聖なる船に浴室は無いので、樽の水を使って濡らしたタオルで体を拭くだけだ。しかし、流石に髪の毛までは難しいが。

 

 脱衣所・浴室に着いたら二人はアキラから、此処の使い方の説明を受ける。その際に、水とお湯が出るところを見て驚いたであろう。説明内容は、水道・シャワーについて、ボディソープ・シャンプー・リンスについて、髪を乾かすドライヤーについて等。

 

 脱衣所の構造について。部屋の形は船前方後方へ細長く、狭い幅は約170㎝。廊下ドアを潜って左端は大きい鏡と洗面の流し台と椅子二つと電源コード差込口二つ。その反対側右端は壁の右に浴室へのスライドドア。廊下ドアと正面の壁の中央は窓(ぼかし)があって、その右に三段ロッカーがある。浴室近くの床に大きいパスマットあり。浴室の構造については簡潔に言って、脱衣所から入って左は鏡とシャワー、右は湯船。部屋の広さは四畳半。因みに水道水は船尾内の機関部で精製される。逆に下水もそこで分解される。

 

「後でまた分からない事があったら、いつでも呼んでね。では、ごゆっくり」

 

 ホテルのスタッフみたいに笑顔で一礼して、この部屋を出ていくアキラ。そして二人はワクワクした感じで入浴タイムに入った。本来は身分の差で、こんな裸の付き合いはないのだが、マリアンはレオナにとって特別である。周りの者達からも認めている。お湯のシャワーを浴びるのは、自分のお城の中では味わえない体験だ。湯船の方は、そこより狭いが。まぁ、お城と船を比べる事自体が間違いだろう。

 

「本当に早く髪を乾かせて、便利ですね」

 

 入浴を終えてパスタオルで体を拭いて服を着て、今はマリアンがドライヤーを使いながら、椅子に座っているレオナに髪のお手入れをしている。かなり効果的で、二人とも感嘆してしまうのであった。レオナが終わったら交代でマリアンの番。何度も言うが、特別で身分は気にしない。後で丁度良くドラミちゃんが麦茶を持ってきて、二人は美味しく喉を潤す。最後に歯磨きして終わり。そして部屋を出て、船内各所のミコト達と話したい事を話した後で客室R2へ戻る。

 

「今日は初めての事ばかりで、とても楽しい一日だったわ。良い友達も沢山増えたし」

 

「ふふ、きっと忘れられない日になりますね」

 

 レオナは右ベッドの上に、マリアンは椅子に腰を下ろして、今日の事を振り返る。今まで信頼していたテムジンに対するショックを覆い返すくらい良い事が沢山あった故に、レオナは生き生きした笑顔だ。マリアンの言う通り、良い思い出になるだろう。

 

 楽しく会話をしている内に眠たくなってきたら、お開きにして「おやすみなさい(ませ)」とお互い挨拶をして、寝るのだった。この部屋の消灯はマリアンである。以前の説明で知った壁のスイッチをポチッとな。

 

 因みにだが、キッチンで夕食の食器洗いはミコトがやった。しかも、アキラ達がドラドーラ号に戻ってくる前に終わらせた為、世話好きの彼女は残念そうな顔をしたのも余談である。本当に仕事が早い幼馴染だ。

 

 

つづく

 




はい。レオナが色々体験した第十話でした。

マリアンはオリキャラですが、ゲーム「テイルズオブデスティニー」のマリアンと名前・容姿・性格が同じ、ゲスト的なものです。理由はネットでキャラクター画像が存在してイメージさせやすいからです。

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