異世界の人々は北極南極を知らない   作:峻天

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011 パプニカで危険物発見

 レオナがデルムリン島に来て次の日。今日も良い天気で、また暑くなりそうだ。大江山ミコトと大河内アキラとマァムは早起きして、ドラドーラ号のキッチンで朝食を作って、昨日の昼食で使った弁当の三重箱に詰めている。何故なら、食べる場所は船内食堂ではなく、昨日の夕食と同じでダイの家前だからだ。朝食内容は、昆布またはカツオのオニギリ、タマゴの厚手焼き、チーズ入りちくわ、焼いたサケの切り身、ニンジンのグラッセ、ロールキャベツ、ほうれん草の和え物。そして定番の味噌汁。どれもミコトとアキラの世界にある物ばかりで、マァムはアキラに作り方を教わった。練度も日々に上がっている。

 

「この匂い。また知らない食べ物を作っているわね」

 

「私も初めてですね。どんな朝食を頂けるのでしょうか」

 

 起床したレオナとマリアンは脱衣所の鏡で身嗜みを整えて、客室R2に戻る途中の廊下で、食堂・キッチンから流れてくる味噌汁の匂いを受けた。二人にとって初めての匂いであるが、朝に元気が湧くほど美味しそうな匂いで朝食が楽しみになる。昨日の寝る前の話で、マリアンはカレーライスを食べてみたかったそうだ。そして再び足を進めて客室R2に戻り、後で部屋に来たドラミちゃんから「停船の向きを変えた」との話を聞いて窓から見える大海を眺めたり、談笑したりして朝食までの時間を過ごす。なお、ドラドーラ号の停船向きを反転させた理由は、レオナ達の居る客室から海が見えるようにする為の配慮である。そうしないと、甲板の下である此処の窓では岬の側面が目の前にあって景色が窮屈なのだ。ミコト陣営は、客人へのサービスも抜かりない。

 

「レオナ、マリアンさん。待たせたね。準備が出来たよ」

 

 それから15分経ってレオナ達は、ミコト達に呼ばれて廊下で合流。改めて「おはよう」と朝の挨拶をし、そしてドラえもんとドラミちゃんが先導して、皆はドラドーラ号を出てダイの家前へ向かう。因みにミコトは麦茶二リットル入りのペットボトル二本とと人数分の食器を入れたカゴを持ち、ミトンを嵌めたアキラは味噌汁を入れた鍋(大きめ)を持ち、マァムは朝食を詰めた三重箱を包んだ白いふろしき(ミッフィー&メラニーの絵柄)を持つ。ミコトの方の荷物が一番重い。男ならば、女のより重い荷物を持つべし!

 

(あの元気一杯な子が、ダイなんですね)

 

 ダイの家が見える所まで進むと、そこの家の近くでダイが元気良くパプニカのナイフで素振りをしていた。昨日貰ったばかりの武器に早く慣れろという事だろう。そんな彼を微笑ましく見ながら、距離を縮めていくミコト達。初めてダイを見たマリアンも、レオナの言った通りだと感じて自然に微笑んでしまう。

 

「ピィ!」

 

「あっ、レオナ、みんな。おはよう! ……そのお姉さんは誰?」

 

 近くまで進むと、昨日の夕食で使ったテーブルの上に居たゴメちゃんは笑顔で飛び立ち、ダイは気付いて素振りを中断し、ミコト達に向けて左手を振りながら挨拶した。それから、レオナの傍に居るマリアンを見て、綺麗な人だなと思いながら訊ねてくる。

 

「ふふっ、おはよう。彼女は私の専属のマリアンよ」

 

「初めまして、勇者ダイ。昨日はレオナ姫を助けて頂き、ありがとうございました」

 

 応えて笑顔でダイに朝の挨拶をするミコト達。次にレオナは自分の侍女を紹介した。続けてマリアンは、昨日初めてミコト達と会った時と同じように、深々とお辞儀をする。また勇者(前はテムジン達から)と言われて、ダイは照れ臭そうだ。その間にミコトとアキラとマァムはテーブルで朝食の配膳を始める。更にドラミちゃんは、マリアンの分の椅子を四次元ポケットから取り出す。レオナと話が終わったダイは家の中に入って、杖磨き中のブラスを呼ぶ。

 

「みんな、おはよう。今日も良い顔で何よりじゃ。……そちらの方は、レオナ姫に仕える者ですかな?」

 

「はい。長老様、その通りでございます」

 

 ミコト達から朝の挨拶を受けたブラスは笑顔で応え、今でもレオナの傍に立っているマリアンを見て、考えられる事を訊ねた。違いなく合っているので、素晴らしい洞察力だ。昨日の戦いでミコトの考えを読めた時といい、流石は長老。マリアンは応えて上の者と接するのと同じ姿勢で、昨日のお礼と自己紹介をする。初対面だが、以前にレオナから彼の事も聞いていてご存知だ。これでお礼を言うべき事は、全て果たせたのである。

 

「みんなー! お待たせ。ささ、席に座って」

 

 数分経って配膳が終わったら、アキラがダイ達を呼んだ。彼等は食事を楽しみにして椅子に腰を下ろし、それを確認したミコトとアキラとマァムも椅子に腰を下ろす。そして、いただきます。初めてのマリアンだが、早朝にレオナから聞いているので、遅れずに食事前挨拶が出来た。

 

 美味しく食べて談笑したり、マリアンは手先が器用で直ぐに箸を上手く扱えたり、飲み物を除いて食器に口をつけてはいけないという食事の常識からレオナとマリアンは味噌汁のお碗に対して戸惑ったり、料理が得意なマリアンがミコト陣営の料理レシピを知りたいと言ったり、そんな食事時間であった。そして、ごちそうさま。

 

「ダイ。これからの事だけど……パプニカ王国の人達を送るから、いつもより早く島を出発する」

 

「えーーっ!!」

 

 朝食の後は何をしようかとテンションが高いダイだが、言いにくかったミコトの突然の話で大きな声を上げてしまった。そんな彼に、此処から東遠くの海岸にある聖なる船を指して状態の説明をする。見ての通り帆がないから、このままでは国に帰れない事。そこで風動力ではないドラドーラ号が聖なる船を引っ張って、パプニカ王国まで連れて行く事。元々は今日の朝が、レオナ達の出発予定である。ミコト達の島旅行で、いつもの帰り時間は二日目の夕方前。レオナ達もそれに合わせると予定以上に、聖なる船に居る人達を待たせてしまうのだ。

 

「ごめんね。次来たら、この埋め合わせするから」

 

「うん、分かった」

 

 アキラは申し訳なさそうにお願いすると、ダイは駄々をこねる事なくレオナが無事に帰れる事を祈る心中で顔を縦に振る。彼女の言う埋め合わせとは、滞在時間を延ばすとか、美味しい物を作るとか、何か面白い事を用意するとか、色々ある。

 

「それと、ダイ。宿題を渡すから、字の勉強も頑張ってね」

 

「えー」

 

 抜かりなく、漢字ドリル一冊をダイに渡すミコト。嫌そうな顔をして漢字ドリルを受け取る彼を見て、苦笑するレオナ達。将来の為、携帯電話を使う為、必要な事だ。この前、ブラスに漢字辞典と国語辞典を渡してあるので、勉強の際に教わると良いだろう。宿題と言っても、提出はしなくて良い。やるかやらないかは、本人の自由である。

 

 その後、皆の話したい事が一通り終わったら、ミコト陣営とマァムが食器とテーブル・イスを片付ける。地面に付いたテーブル・イスの跡を、消しておくのも忘れない。ダイ達とレオナ達は、彼等の様子を見たり、お喋りしたりして待つ。

 

「帰る前に記念写真を撮ろう」

 

 そう言ってドラえもんは、カメラと三脚を取り出した。これはレオナにとっての記念写真だ。初めてであるから、ミコト達が見本を見せて説明する。そして全員は位置に着いて、カメラのオート撮影で写真を一枚!

 

 カメラから出てきた写真には、中央の森を背景にし、前列で左からドラえもん、ブラス、ダイ、ゴメちゃんを抱えるレオナ、ドラミちゃん。後列で左からミコト、アキラ、マリアン、マァム。勿論、一人一人が笑顔で写っている。

 

「ふふっ、お父様とお母様に見せるのが楽しみ」

 

「思い出を形にして残せるなんて、驚きましたね」

 

 ドラえもんから受け取った写真を見て、つい笑顔になるレオナとマリアン。お城に帰った後、初めて写真を見るパプニカ王と王妃はきっと驚くだろう。写真があると自分と出会った人物について説明しやすい。画像があれば、聞くだけよりも細かくイメージ出来るのだから。

 

 もうすぐ島を出発するので、皆は岬へ向かう途中で聖なる船に立ち寄った。そこでミコトとドラミちゃんとレオナは船に上がり、船尾甲板で海を眺めている船長に会う。関係者のマリアンが船に上がらずに他の皆と待っているのは、レオナと共にドラドーラ号に乗って帰るつもりだ。航海中でミコト達と話したいという理由はあるが、ドラドーラ号の快適さに味を占めたらしい。

 

「そうですか。……姫様と侍女を宜しく頼みましたぞ」

 

「はい。承りました」

 

 レオナから話を聞いた船長は暫し考え、反対する事なく信用してミコトに二人の命を預けた。それで彼は深く頭を下げて引き受け、パプニカ王国到着まで責任を持つ。航海中で万が一、二人の身に危険が及んでも全力で守ると。

 

 次はドラミちゃんが船長にトランシーバーを渡して、使い方や船の牽引での指示について説明する。実際に試してドラミちゃんのトランシーバーに繋いで話したところ、船長は「おお!」と感嘆して連絡に便利だと感じたのであった。航海中でドラミちゃんが指示を出し、受けた船長が乗組員達に伝達するという流れとなる。これで船長と話が終わったミコト達三人は聖なる船から砂浜に降り、皆と岬の方へ向かう。

 

「元気でね、ダイ。立派な勇者になって、また会える日を楽しみにしているわよ」

 

「うん、頑張るよ。レオナも立派な賢者になってね」

 

 岬の右側でドラドーラ号に乗り降りする場所の前にて、両組ともお互い別れの挨拶をした。最後にダイとレオナは名残惜しい気持ちを振り払い、自分の目標に向けてお互い頑張ろうと笑顔で握手する。誰からどう見ても、あの二人は恋人同士かと思われる雰囲気であった。だから見守って応援するギャラリー。しかしマリアンに至っては数年で、そろそろ婚期がヤバイのではなかろうか。

 

 最後の挨拶が済んだレオナはミコト達と共に、ドラドーラ号に乗った。そしてドラえもんとドラミちゃんは運転室へ行き、五人は甲板左側で出発を待つ。暫くして乗り降りする所の可動フェンスが閉まり、ドラドーラ号はゆっくりの横移動で岬を離れて行き、そのまま聖なる船の東へ。その間に、手を振りながら「またね」と叫ぶ両組。

 

 聖なる船の東まで横移動したドラドーラ号は、動きが止まって船尾(背面)のハッチが開いた。その円形のレンズからトラクタービームという光のチェーンが発射され、聖なる船の船尾に着弾。そしてゆっくりと、船と船の間の距離50メートルから、距離5メートルまで引き寄せられていく。この瞬間はミコト達も、ダイ達も、聖なる船の人達も、見て驚くのであった。

 

 ドラドーラ号の後ろまで引き寄せられた聖なる船は、今でも受け続いているトラクタービームによって船首をドラドーラ号に向けるように180度回頭された。そしてドラドーラ号は聖なる船を牽引して、東の大海へ発進するのだった。目指すはパプニカ王国。航海距離は約2400㎞。到着予定日は翌日の朝。聖なる船が耐えられない為、最大船速600ノットで航行しない。

 

 

==========

 

 現在、ドラドーラ号は55ノット(およそ時速102㎞)で、ラインリバー大陸の南の海を航行中。連結しているからまるで、海の上を走る特急列車のようだ。船二隻とも10㎝くらい海の上に浮いているので、船内に揺れはない。禁止しないが、安全の為になるべく甲板に出ないようにと聖なる船の人達に指示を出してある。勿論ミコト達も全員、船内に居る。

 

 午前は自由に自分の時間を過ごして、昼食を終えて今、ミコトは船長室でノートパソコンを使って色々学習中。ドラえもんも船長室に居るが、昼食の前に船の運行をオートにして午後は何もやる事がないので居眠り中。女性陣五人はリビング代わりの食堂におり、アキラとマァムとドラミちゃんは窓側の椅子に座って、レオナとマリアンは廊下ドア側の椅子に座って、テーブルの上に数個の携帯電話があり、携帯電話についての話をしている。因みに此処の椅子数は八人分。

 

「うん。メールはこれで良いよ」

 

「簡単なのね。文字を入れるのに、ちょっと大変だけど」

 

 メールについての説明の後、試しにレオナとマリアンは受け取ったばかりの携帯電話を説明通りに操作してアキラにメールした。それで問題なく届き、アキラは笑顔で応えて返信する。それで着信振動した携帯電話を操作して、返信メールを確認したレオナは自信あふれる顔で感想を言い、マリアンは同感して頷く。ミコトランド製は操作しやすいように作られているが、たとえド■モ製なら二人は使い方を理解するのに大変であろう。この世界の人間社会で電話は無い為、携帯電話で電話するとしたら、携帯電話を知らない人達からは、独り言を言っているように見えて変に誤解されてしまう。だから連絡はメール中心で、着信の知らせも音ではなくバイブレーション(振動)だ。まぁ、マナーモードである。

 

 次は、気に入った風景を撮影していつでも見られる写メについての説明。この世界に肖像権は無いが、勝手に人の顔を撮るのは良くないという注意も含めて。それから、自分の現在位置を知ったり携帯電話を持っている人の現在位置を知ったり出来るナビマップについての説明。人工衛星のX線透過で建物内・洞窟内の構造を読み取ってミコトランド内のコンピューターが解析して自動的に内部地図を生成するというカラクリの説明は難しいからしないが、パプニカ王宮の中の地図も出ると話したら流石に二人も驚いたと言うまでもない。けれどマリアンは、日常で偶にレオナと離れる事があっても、携帯電話があれば専属としての仕事がしやすいと大喜びである。王宮の何処に居ようと、迅速でレオナの呼び出しに応えられるのだから。

 

 携帯電話の説明が終わったら、のんびりと女の子同士で談笑。その内に夕方になってドラドーラ号がラインリバー大陸の南東海域に入る頃、ここ食堂の窓で北北東離れた海域にドクロマークの帆船が映った。偶々、レオナは窓を見た時にドクロ船を目撃して声を上げてしまい、四人も首を傾げて窓に顔を向ける。

 

「海賊の船よね? あれ」

 

 レオナは本で読んだ事があるのを思い出して確かめると、四人は顔を縦に振った。ドクロ船改め海賊船はこっちに向かって来ているにもかかわらず、皆に慌てる様子はない。何故なら、この船は高速で進んでいる為、風動力の海賊船は追い付ける筈がないからである。帆船でパプニカ王国からデルムリン島までは七日間掛かるに対して、ドラドーラ号なら一日間(本当は約二時間)だと、以前に聞いたのでレオナとマリアンは乗っている船の速さについて知っている。ほか、聖なる船の人達も。

 

 ラインリバー大陸東部(魔の森の向こう)でロモス王国も知らない所に盗人の町や海賊のアジトがあるらしく、この海域は運が悪いと海賊が出没する。その為、ロモス王国ソフィア港とベンガーナ王国の港またはパプニカ王国の港を結ぶ定期便にとっては厄介な海域だ。毎月デルムリン島へ行くミコト達もこの海域を通るが、ジェット機並みの速度で進むから気にする事はない。でも……。

 

――突然、海賊船の東の海面から何かが飛び出した!

 

「ガァアアアアアアアアッ!!」

 

 頭に大きい一本角があって鼻の上にまた大きい一本角で更にマンモスみたいに上へ曲がった巨大な二本牙が目立ち、海賊船よりも巨大な赤い(ややピンク)竜の怪獣が鋭い目で凄まじい雄叫びを上げて海賊船に……いや、ぶつかる直前の海面に顔から突っ込んだ。後も、東洋の竜(この世界で言うサラマンダー)のような長い胴体がアーチを描き続け、漸く尾ヒレが出て顔が突っ込んだ海面へ消える。もし当たったら、木っ端微塵だ。よって、怪獣に恐怖した海賊達は船の針路をラインリバー大陸東部へ変更して撤退。そんな一部始終を見ていた四人(ドラミちゃんを除く)は、驚いて言葉も失うのであった。

 

「……あ、あのモンスター。遠くから見ても、大きかったわよね」

 

「そうですね……。海賊さんの船よりも」

 

「ぶつからなくて良かったけれど、恐ろしいわ……」

 

(どこかで見た事があるような……。うーん)

 

 遠くからでも感じた怪獣のド迫力さに、震えた声で皆に言うレオナ。彼女と同様に恐怖のまま、頷くマリアンとマァム。比べて魔王の方がマシだと思える程である。アキラも震えているが、何か思い出そうとしているあたり、あの怪獣に見覚えがあるらしいい。

 

「みんな、落ち着いて。あれはリバイアサンと言って、海の平和を守っているわ」

 

 怖がっている四人を見てドラミちゃんは、リバイアサンと言う怪獣について説明して、敵ではない事も話して落ち着かせる。此処では説明しない逆に、船長室ではドラえもんがミコトに、リバイアサンは未来のミコト陣営が作った超大型ロボットであると説明している。ミコトとアキラが初等部四年生に進学する前の三月に公開した映画「ドラえもん のび太の南海大冒険」で登場したリバイアサンの再現だそうだ。海の治安を守るのが目的で、ああいうド迫力にしないと海賊は引き下がらないだろう。別に悪者を殺す気はなく、ただ脅かすだけであり、反抗してきたら船を沈まない程度に破壊して海底からトラクタービームで近くの陸地へ連れて行く仕様。密かに船難波のSOS対応も。各州に一体ずつで、計六体も大海の中を徘徊している。人間社会で騒ぎはあるだろうが、海賊に襲われて輸送に大打撃を受けるよりはマシだ。

 

『ドラミ殿。聞いて立ちすくむ程の恐ろしい声がしたのだが、そちらは……姫様は大丈夫かね?』

 

 リバイアサンにインパクトが強過ぎて四人は頭の中から離れない中、ドラミちゃんのトランシーバーが鳴って通信を繋げると、聖なる船の船長がレオナを心配して訊ねてきた。船内防音仕様のドラドーラ号と異なり、聖なる船の方はリバイアサンの雄叫びが丸聞こえになっていて、乗組員達は恐怖したらしい。窓が無い甲板下船内なので、外の様子も分からない。そんな不安感が漂う中で、船長はドラドーラ号の中の様子が気になったのだ。それでドラミちゃんは、レオナとマリアンは大丈夫である事を伝えて、さっき四人に話した内容と同じリバイアサンの説明もする。

 

『ふーむ……分かった。危険がない事については、乗組員の皆に伝えておこう。それでは失礼した』

 

 説明を聞いた船長は安堵して、半信半疑ながら味方だと分かったリバイアサンの事を頭の中に刻んで通信を切った。近い未来、全世界で新たにリバイアサンの伝説が生まれるだろう。今までなかった出現の原因は謎のままである。転生モンスターに関しても同じ事(ロトゼタシア州を除く)だ。

 

 数分後、廊下ドアが開いてドラえもんが入って来て、夕食の食材を入れたダンボール箱を持ったミコトが入って来た。島旅行二日目の昼食以降の食材は用意していない為、此処で持っている食材はミコトがノートパソコンでミコトランドに注文して、船長室にある電子レンジ外見の転移装置で送られてきた物である。注文品をダンボール箱にまとめて、その箱を魔法の筒に入れた状態での転送なので、転移装置は大きくない。狭い船の中だから当然だ。

 

「うん。僕もリバイアサンを見て驚いた。敵じゃないって、ドラえもんから聞いたよ」

 

 リバイアサンの話題が続いている彼女達に応えて、未来の自分が滅茶苦茶オーバーなモノを作ったなんて心の中で呆れながらミコトは話す。アキラは真実を後で知る事になるだろう。ややこしい話である以上、マァムには内緒だ。

 

「あっ、食材だ。夕食は決めたの?」

 

「今は夏だから、冷麺を作ろうかと」

 

「冷麺? 食べた事がないから楽しみね」

 

「私もです。作り方も是非」

 

「また知らない食べ物……」

 

 ミコトが持っているダンボール箱の中を覗き込んだアキラは、料理テンションを上げて彼に夕食メニューを訊いた。それでミコトの答えを聞いたマァムとマリアンは、冷麺とは何なのかと興味を持つ。しかし今日の朝食も昼食も初めて食べる物ばかりで、いいかげん馴染のある料理が食べたいと、レオナは遠い目であった。

 

 夕食はミコトとアキラが作る冷たくて美味しい冷麺。箸で麺類を食べるのは初めてである。食事の後は片付けた後に、皆でトランプゲーム。この世界のトランプゲームはポーカーとブラックジャックの二つだけでどちらもギャンブルであるが、此処ではミコトとアキラの世界で定番のババ抜きや七並べや神経衰弱をする。こんな意外な遊び方により、ギャンブルを好まないレオナとマリアンはトランプのイメージが変わったのであった。ゲームが終わったら、紅茶とカステラを味わいながら談笑。まったりと、レオナとマリアンとお話が出来るのは、これで最後である。

 

 後は入浴と就寝で、ドラドーラ号がベンガーナ王国の南の海域を通る夜を過ごすのだった。ベンガーナ王国の東隣にアルキード王国があったが、11年前に謎の大爆発で消滅してしまった。その後は吸収されて今はベンガーナ王国の領地だ。だからアルキード王国の南の海域という名前はない。

 

 

==========

 

 翌日の朝。今は晴れているが、昼から雨が降りそうだ。ミコト達は朝食の後に、片付けや降りる準備を済ませて、今は食堂に居て窓からホルキア大陸を眺めている。其処はパプニカ王国の遥か西で、森が広がっていて海沿いに海岸がない。

 

「あっ、塔だ」

 

「高いわね」

 

「ふふっ、あれは大礼拝堂よ」

 

「塔の礼拝堂なんて、珍しいね」

 

「高くする事で、神様がおられる天界と近い方が、私達の祈りが通じやすいんです」

 

 窓の景色で、ホルキア大陸が見えてから長かった森が漸く終わり、平原と海岸が暫く続くと見えてきた天高い塔。此処まで来るとパプニカ王国は目前だ。そこでレオナは無事に帰国できた安堵を感じつつ、自慢するように生き生きしてアキラとマァムに応えた。聞いて珍しく思うミコトに応えて、マリアンは微笑んで理由を説明する。高いと天に近いって、分かりやすい。

 

 パプニカ王国の港の南まで進んだドラドーラ号はゆっくりと減速し、止まると超低空浮遊が解けて海面に着水する。後ろで牽引されている聖なる船も同じく。着水した事によって、船内が波で揺れる。食堂での窓には、離れてパプニカ王国の全体が映っている。王国の一番前は港で木造・石造りの船ドックや倉庫等が建ち並び、至る所に山積みの荷物があり、船着き場に数隻の帆船が停泊している。港から北の階段または坂の先に大きな城下町があり、更に北はシンデレラ城みたいな美しいお城が建っている。西の森の北に並ぶ草木一つも無い荒れた山とは違い、王国の北と北東と東に並ぶ山は緑豊かで美しい。西の森の北が荒れているのは恐らく、その辺りに魔王の居城だった場所がある影響だと思われる。

 

「白が多くて綺麗な国ね」

 

「うん。住んでみたいなぁ、と思ってしまうよ」

 

「同感。あの司教さんが国を手に入れようなんて、納得だ」

 

 王国全体で木造の建物の殆どは白い塗装なので、眺めて美しく感じるマァム。やっぱり画像と本物は違うと思いつつ、同感だと頷くアキラとミコト。自分の生まれ故郷を褒められて、レオナとマリアンは嬉しそうだ。この後、ドラえもんは「甲板に出ても良い」と言い残して食堂を出て運転室へ向かう。これからは帆船より少し速い速度で船を進めるから、甲板に出ても大丈夫との事だ。

 

「わたしは船長さんに連絡するから、みんなは先に行ってて」

 

 そう言ってドラミちゃんはトランシーバーを取り出して、聖なる船の船長と通信を繋げた。彼女は後で運転室へ向かうが、ミコト達五人は頷いて食堂を出て階段を上って先の部屋のテーブルに荷物を仮置きして左サイドドアから甲板に出る。その間、ドラドーラ号は大きく左カーブしてパプニカ王国の港へ。

 

「んんー、やっぱり外は良いな」

 

「まったくだ。一日中船の中に居るのは窮屈だったからな」

 

「おっ、本当にパプニカ王国だ!」

 

「しかし、わずか一日で帰れるとは……」

 

「ああ、俺もびっくりだ。島までは七日掛かったってのによ」

 

「無事に帰れたのはいいが、昨日の恐ろしいうなり声は何だったんだ?」

 

「船長から聞いた話では、リバイアサンと言う巨大な竜の魔物らしいぜ」

 

「敵じゃないって言ってたが、本当かねぇ」

 

 ミコト達は船首甲板で涼しい風にあてられながら王国を眺めていると、後ろの聖なる船から八人の水兵達の歓声が聞こえてきた。両腕を上に伸ばして欠伸する二人。左の船フェンスから王国を眺めながら、会話する三人。昨日のリバイアサンについて色々考える三人。それぞれである。船長はというと、トランシーバーを携えて聖なる船の船首で立って待機。その隣に副船長たるコック。因みにこの世界では月火水木金土日の一週間がないので、七日間と言う。

 

「……? 大灯台の頂上から光がお城の方に?」

 

「もしかしたら、見張りの方が此方レオナ姫を確認されて、国王陛下に報告する為にルーラを使われたと思います」

 

「成る程」

 

 港の東にある大灯台の頂上に居る人達は望遠鏡を使って、ドラドーラ号に居るレオナを発見すると慌てて隊内の魔法使いがルーラで王宮に戻るところ。それを見て首を傾げるアキラに応えて、マリアンは考えられる事を話した。聞いて、仕事が早いと感心するミコト。ルーラとは一度行った事がある場所へ光の速さで移動出来る呪文である。非常に便利だが、使い手は稀少だ。しかし、エスタード州にあるダーマ神殿で転職すれば、誰でも習得可能。

 

 それから30分経過。港の近くまで進んだら、トランシーバーを用いて聖なる船の船長の案内に従って被牽引の聖なる船を、港の西端にある専用ドック(壁に王家の紋章がある)に押し入れてトラクタービームを解除した後、ドラドーラ号はドックと東隣の船着き場にバック停船して右の可動フェンスを下ろす。

 

 それまでの流れの間、港に居る人達はというと、こちらの船二隻を見るなり歩行や仕事などの自分の日常行動を止めてざわつく。その中で聖なる船を良く知っている者は驚愕の顔である。今の聖なる船は帆とマストが全て無くなっているのだから当たり前だ。もはや事件で、城下町の方から兵士達や野次馬達が港に殺到する有様。それでどうしようかと、溜息をつくレオナとマリアン。予想はしていたが、冷や汗が流れてしまうミコトとアキラとマァムであった。聖なる船の船長も、頭を抱えて胃を痛めている事だろう。

 

 自分の荷物を回収してドラえもん達と合流したミコト達は、ドラドーラ号の甲板右側で待機。暫くして、ドックの出入口から出てきて右(出入口を見る視点では左)に曲がり、こっちに走ってきた聖なる船の船長に誘導されてドックの出入口前へ移動。そこには、魔法の筒九本入りダンボール箱を持ったコックと水兵八人と、ロープで縛られている紺色フードの二人(テムジンとバロンで、民達に顔を見せない為)が立っている。そして、周辺に誰一人も通さない壁となっている百人近くの兵士達。円弧状の包囲の外側にざわつく野次馬達。まるで立てこもり事件のようだ。

 

 この状態で数分経つと、北にある城下町から坂を下りる立派な白馬馬車が見えてきた。本当に、この国は白が多い。その馬車はこっちに向かってきて、包囲の兵士達が道を開けて内側に入る。馬車の外の席で白馬を動かしていた、古ぼけた軽装備鎧(ピンク?)を着た短い白髪口髭の初老男性と、賢者の衣装(ミニスカ)を着た黒髪セミロングの若い女性(口紅を付けていて美人)は、馬車を止めて直ぐに降りて近付いてきてレオナに向かって跪いて、丁寧に迎える言葉と洗礼儀式の労いの言葉を告げる。二人は安堵の表情であるが、予定より六日早い帰還や見張り番からの聖なる船破損の報告で、どういう事かと訝しむ心境だ。当然、王宮で待っているパプニカ王も。

 

「ふふっ、ただいま。バダック、エイミ」

 

 初老男性(57歳)の名前はバダック。若い女性(17歳)の名前はエイミ。レオナは無事だと示す元気良い笑顔で、二人に応えた。それから二人とマリアンは互いに目で頷く。二人もマリアンと同じで姫様のお付きであるから、察しがつくのなら言葉でなくても意思を伝える事が可能らしい。仕事上で連携はとれていると思う。

 

「陛下がお持ちですぞ」

 

「さあ、馬車にお乗り下さい」

 

「分かったわ。……でも少し待って」

 

 笑みを返したバダックとエイミは立ち上がって馬車の方へ行き、左サイドドアを開けてレオナに乗車を促した。でも彼女は寂しそうに少しの時間を頂いた後に踵を返し、お別れを言う為にミコト達の元へ近付く。思ったよりタイミングが早くて名残惜しいからか、歩く足が遅い。

 

「みんな、ありがとう。初めての体験ばかりで、今回の旅はとても楽しかったわ」

 

「それは良かった。お姫様としての立場は、責任感や不自由なところがあって大変そうだけど、頑張ってね」

 

「話したい事や悩んでいる事があったら、気軽にメールしてね」

 

「無理はしないでね。アキラの言う通り、助け合いましょう」

 

 レオナは寂しい気持ちを振り払って、笑顔でお礼を言ってミコトとアキラとマァムとドラえもんとドラミちゃんの順に握手をした。その際に携帯電話の事を思い出したら、心の中にある寂しさが激減するのであった。次は「お世話になりました」とマリアンも同様にミコト達と握手。そしてダイの時と同様に、再会を楽しみにする笑顔でお互い手を振って別れの言葉を言う。挨拶が終わったレオナとマリアン(侍女らしく彼女の後ろに着く)は、また踵を返して馬車の方へ。別れの挨拶を見ていたバダックとエイミは、レオナに新しい友達が出来ていた事で、お付きの者として嬉しそうだ。正直なところ、異性のミコトを見て何か思う事はあったが、恋愛って感じがしなかった事で安心?している。

 

 レオナが馬車の中に乗ると、エイミがドアを閉めた。次は互いに頷き合うお付きの三人。そしてエイミとマリアンは馬車の外の席に腰を下ろして、手綱で白馬に指示して発進させた。馬車は右カーブして北方で兵士達の包囲を抜けて城下町への坂へ向かい、上って王宮へ帰っていく。それを見送るバダック。どうやら彼はパプニカ王からの命令があって、この場に用事があるらしい。

 

「さて……」

 

 バダックは気持ちを切り替えて威厳がある感じになり、包囲の兵士達や野次馬達に向かって、この件の詳しい事は後で国から知らせると伝えて皆を自分の持ち場に戻らせた。お姫様のお付きである立場から、兵士としての地位は高いようだ。周辺の騒ぎは収まったので、安堵するミコト達と聖なる船メンバー達。この場が静まったら、バダックはドックの出入口前へ歩く。

 

「若者達よ。レオナ姫が世話になった。わしはパプニカの兵士でバダックと申す」

 

 先ずはミコト達に向かって、お礼と自己紹介をするバダック。さっきの威厳の感じはなく、穏やかである。ミコト達も畏まった様子で自己紹介を返した。次は全員に事情聴取を行うが、その前に聖なる船の状態を見て貰う事になる。よって皆はドックの中へ。

 

「……ひどい有様じゃな。報告は本当だったか」

 

 真ん中の甲板に大穴が開いて帆とマストが無い聖なる船を見て、嘆くように呟くバダック。それで皆に加害者を見るような目で見られて、そっぽを向くバロン。実にその通りで、彼が聖なる船を壊した張本人だ。

 

「しかし、よく帰れたな。島まで遠いじゃろうに」

 

「はっはっは、帰りは彼等の船に引っ張って頂いた」

 

 帆が無い状態でどうやって遠い島から帰ってきたのかと不思議に思うバダックに応えて、聖なる船の船長は苦笑して、帰還方法について話した。ドラドーラ号は速かったから、わずか一日で帰れた事も話す。ミコト達は口出ししない。

 

「成る程。どうりで、予定より六日早かったんじゃな。……あんな凄い船を作った人に会ってみたいわい。かっかっかっ」

 

 聞いたバダックは納得し、ドラドーラ号のデタラメ性能で愉快に笑う。彼は「パプニカの発明家」と自称するそうで、技術系に興味があるらしい。それで「誰が作ったのか?」とミコトに訊いてきたが、お爺さん(年老いた未来の自分)と答えている。嘘は言っていない。天才だと言ってきても、苦笑して流すだけである。

 

「そういえば、テムジン殿は?」

 

 船の話はさておき、事情聴取で洗礼儀式の旅の責任者と話がしたいと思ったバダックは、キョロキョロしてテムジンを探す。ドック前に来てから今まで彼の姿はない事が、後になって気が付くのであった。

 

「……わしは此処におる」

 

「なっ!? これはいったい?」

 

「バダック殿。落ち着いて聞いてほしい」

 

 二人の水兵がテムジンとバロンに被せたフードを外して顔を見せると、バダックは驚愕して目を疑った。自分もパプニカ王からも信頼出来る人が、このように逮捕されているのだから無理はないだろう。そんな彼を見て、聖なる船の船長は遺憾である様子で、事情を説明する。テムジンとバロンがレオナを暗殺しようとした事、その上でパプニカ王国を乗っ取ろうと謀った事、バロンがキラーマシーンを使って聖なる船を壊した事、デルムリン島の者達とミコト達が二人の野望を阻止した事。最後に、コックが持っている箱を指して、テムジンの部下達全員を魔法の筒に入れてあると話す。

 

「うーむ……。テムジン殿、バロン殿。反逆を謀ったのは、本当かね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「ふん。否定はしない」

 

 未だ信じられないバダックは確かめると、テムジンとバロンは潔く白状した。ただ、テムジンは人が変わったかのように、元気がない弱気になっている。全てが失敗に終わって、正に人生を諦めた感じだ。バロンはプライドが高いから、シラを切るような見苦しいマネはしない。それで事実だと分かったバダックは、パプニカ王に報告し辛いと、右手で頭を抱えながら溜息をつく。それから、改めてミコト達にお礼を言うのであった。此処に居ないダイへの、お礼はいつか会えた時にするつもりだ。

 

「さて、王宮に戻るとするか。……の前に、護送する二人にフードを被せておいてくれ」

 

「はっ! 了解であります!」

 

 事情聴取が終わった後、バダックは水兵達と五人で、テムジンとバロンとテムジン部下九人(魔法の筒に入れたまま)を王宮へ護送して行き、コックと水兵達四人は旅の後片付けの為に、聖なる船の中へ行った。そして、聖なる船の船長はミコト達に「三日間、世話になった」と最後のお礼を言った後、ドラミちゃんにトランシーバーを返却する。

 

「私は船に戻るが、君達はこれからどうするのかね?」

 

「そうですね。……折角だから、観光しようかと思っています」

 

 ミコトは次の予定を考えて、聖なる船の船長の質問に答える。昼まで一時間以上はあるし、折角パプニカ王国に来たのに、直ぐ帰るのは勿体ない。それにドラドーラ号の速さなら、たとえ夕方までは大丈夫だ。

 

「そうか。君達の船は私が預かっておこう。本来なら、港の管理者に停泊の料金と税金を払わないといかんからな」

 

「船長さん。そこまでのご配慮、ありがとうございます」

 

 ドックを含む港の西端辺りの地主は王国であり、火元責任者は聖なる船の船長。自分の権限で一日中、ドラドーラ号を停めてある船着き場を貸してくれるようだ。よって、800G(ゴールド)の料金・税金を払わなくても良い。それでアキラが頭を下げてお礼を言うと、彼は笑って「世話になった謝礼だ。気にするな」と応えて、聖なる船の中に入って行く。

 

「ミコト。観光するって言っていたけど、お金は持っているの?」

 

「お金は持ってないよ」

 

「私も」

 

「はぁ……。私も持って来ていないわよ」

 

 マァムの質問で顔を横に振ったミコトとアキラは、この世界のお金を持っていない。パプニカ王国に行くなんて急展開は、予想しなかったマァムもお金を持って来ていない為、溜息をついてしまう。お金が無いと城下町で昼食は食べられないし、有料の神殿には拝観出来ないし、レイラへのお土産も買えない。勿体ないと思うくらい、つまらない観光になる訳だ。

 

「大丈夫。お金ならあるよ」

 

 ドラえもんは笑顔で、四次元ポケットからゴールド袋(5675G入り)を取り出して見せた。そのお金は未来のミコト陣営が残したもの一部と、ミコトハウスロビーにある自動販売機の収入だ。仕入れ先のミコトランドは無料なので、支出は一切ない。それで三人は安堵し、ミコト達五人はドックを出て港から坂を上って城下町へ向かうのだった。

 

 

==========

 

 パプニカ王国の城下町。中央に大きな広場があり、北の大通りの先は貴族達の居住区で一番奥は王宮があり、東の大通りの先は平民達の居住区で東門を越えた一番奥は広大な農場があり、西の大通りの先は工業区で一番奥は外の平原に出る西門があり、南の大通り全体がアーケード(アーチ屋根は無い)になっていて多くの店(安全の為、武器屋は含まない)や宿屋等が挟んでいて一番先は港である。前述の通り、どの建物も白ばかりだ。また、城下町の南西に多くの神殿や兵士の宿舎がある。一番人通りが多いのは広場と南大通りであるが、夜の工業区北部はゴーストタウン並で、秘密の多い施設もある所為で治安も悪い。そんな場所は、特に女子供は近付く事なかれ。

 

 午前は神殿巡り(大礼拝堂の塔以外)して、正午辺りは美味しいパスタ料理や海鮮料理で評判が良い店で昼食を食べて、午後現在は南大通りで各店の外に並べられている品物の数々を眺めながら歩いているミコト達。広い道の真ん中に荷馬車等が良く通り、両端には多くの歩行者で賑わっている。買う意思が無いのに、店内に入るのはマナー違反だ。冷やかしお断りについては、現代日本と比べて厳しいらしい。店内に入ってしまったら、せめて何か一個は買うべし。買わない商品に触れるのもダメ! 服に関して試着の際は、店員に申し出する必要がある。話は変わるが、彼等に美少女二人とロボット二人がいる為、こっちを見てしまう人が多い。特に彼女がいない男達は嫉妬の目で、ミコトを見ている。そんな妬ましい殺気を受けているミコトは、以前に麻帆良で運動部仲良し四人組(アキラ、明石裕奈、和泉亜子、佐々木まき絵)と一緒の休日買い物で慣れているので、何ともない。

 

「良い服が沢山あって、見ているだけでも楽しいわね」

 

「うん。質が良さそうな化粧品や、綺麗なアクセサリーもあるし」

 

「そういえば……。パプニカ王国で生産される布等の衣類は非常に品質が良いって、パソコンのデータにあったよ」

 

 女性に人気がある物ばかりで、テンションが高いマァムとアキラ。そんな中、ミコトは以前にノートパソコンで、パプニカ王国について勉強をした事を思い出して言う。東の農場で化粧品と布の原料を生産し、北の鉱山で宝石やパプニカメタル(アルミニウムのように軽く、鉄より丈夫で、磨けば美しく輝く)を採掘し、城下町北西部の工業区で化粧品や衣類やアクセサリー等を製造している。魔法の力を施した一部の製品は、軽く一万Gを越える程、かなり高価。それらを各国へ輸出もしており、経済大国のベンガーナ王国から収入が大きいようだ。逆に輸入については、調味料や肉類食材や家具類や国に無い生活用品等。

 

 衣服はまたの機会にして、記念にミコトはイエロースカーフ、アキラはブルーリボン、マァムはレッドリボン、レイラへのお土産に香水、以上四つの品物をそれぞれのお店で購入した後で中央広場へ向かう。購入した品物に、何の特殊効果はないし、高級品でもない。この世界は科学文明レベルが低く、紙を大量に生産出来ないので、此処にお買い上げの品を入れる紙袋は無かった。購入証拠の為のレシートも無い。なお、アキラとマァムのリボンは、色違いで御揃いのデザインだから友情の証みたいである。

 

 四方向の大通りが交差する中央広場。此処も人通りは多いが、朝と夕方の通勤ラッシュだと更に混み合う。王国に電気も水道も無いので、噴水なんてものは見当たらない。北西に武器屋と防具屋があり、北東に酒場やギルドや掲示板があり、南側は空きになっていて行商人が露店を開く事がある。ギルドとは冒険者達が集う場所で、依頼(クエスト)を受注したり、情報交換したり、旅の出会いを求めたり、色々ある。建物は広く、酒場も含まれる。店主はルイーダと言う、気が強い女将さん。店内で喧嘩するごろつき達でさえ、黙らせるという逸話あり。しかし現時点では、ミコト達と縁のない場所だ。トラブルが多いから、興味だけで入らない方が良い。

 

「どう? 似合うかしら?」

 

「うん。良い感じで、雰囲気も変わったよ。……アキラのリボンは久し振りだね」

 

「やっぱりゴムバンドではなくて、リボンにしようかな」

 

 中央広場南西にて、マァムはゴーグルを外してレッドリボンを着けて髪型をポニーテールにイメチェンした。そしてアキラの方も、ポニーテールに纏めたゴムバンドをブルーリボンに変えた。それでミコトに褒められて、ドラえもんとドラミちゃんに共感されて、二人は頬を紅く染める。本当に可愛いと思っているが、彼女達の気持ちを考えてストレートに言わない。ミコトはポニーテール好みらしいから、マァムも以後はその髪型で生活する事になる。アキラも以後はリボンだ。リボンについての話が終わったら皆は、直ぐ近くの白塗り木製ベンチで休憩。

 

「あの建物から出てきた男の人。凄い兜を被ってるね」

 

「大きい金槌が付いた兜なんて、変わってるなぁ」

 

「重くて、首が痛くないのかしら」

 

「そうだね。レスラーに向いていると思うよ」

 

「ええ。見る限り、あの人もレスラーだと思うわ」

 

 ベンチから北に離れた北西の武器屋から出てきた大柄な中年男性。店主に勧められて、ロシア人っぽい彼は「どたまかなづち」を装備している。あれを見てダサイと思いながら、珍しい顔をするアキラとミコト。少し引き攣った顔をしたマァムのコメントに、頷くドラえもんとドラミちゃん。彼女の言う通り、お連れの人がゴメスと呼んだ、あの男はレスラーで首の芯が強いから大丈夫だろう。しかし、あの兜は目立つので、周りの人達から変な目で見られている状態だ。彼等は南大通りへ行った後、再びミコト達はのんびりと広場全体を眺める。

 

「モグモグ……あっ!?」

 

「お兄ちゃん? どうしたの? ……うそ!?」

 

 ドラえもんはどら焼きを食べながら、ベンチから東に離れた南東の空き場所にある露店を眺めていたが、アラビア風のターバン行商人が売り物追加で道具袋から黒い玉を取り出した瞬間、驚愕して時間が止まったかのように硬直してしまった。それによって地面に落としてしまう食べかけのどら焼き。そんな彼を見て首を傾げたドラミちゃんも、そっちを見て驚愕して目を疑う。そんな二人の様子を見たミコトとアキラとマァムは「何事?」と状況が分からないまま困惑するのであった。

 

「く、黒の核晶……」

 

「くろのこあ?」

 

「説明はあとで! 急いで買い取って回収しないと!」

 

 ドラえもんは震えた声で、黒い玉の名前を呟いた。初めて聞いたミコト達三人は説明を求めるが、余裕が無いドラミちゃんは話を一蹴して、回収して処理するのが先だと言う。そして全員は立ち上がって、早歩きであの行商人の元へ。お金が足りなくて買い取れなかったらどうするんだろうと、ミコトは思いながら。

 

 露店の敷物の上には現在、やくそう、どくけしそう、まんげつそう、せいすい、せいなるナイフ、おなべのフタ、はかいのつるぎ(一個限り)、やいばのよろい(一個限り)、魔王の玉(一個限り)、以上九種の品物が並べられている。目的の黒の核晶は魔王の玉の事で、行商人が名付けたものである。本当の名前は分からないし、どんな効果があるのかも知らない。因みに、はかいのつるぎとやいばのよろいを見たミコト達は引き攣った顔をしていた。厳つい悪魔ドクロとか刃だらけとか、見た目は怖いから当然である。

 

「いらっしゃいませ! 当店に何をお求めかね?」

 

「……その黒い玉をください」

 

 いつもの営業スマイルで接客する行商人に応えて、ミコトはドラえもんに言われた通りに黒の核晶を指して注文する。それを近くで見れば、六枚花びらのツボミみたいなデザインで、サイズはソフトボールと同じくらい。今までの修行で培った本能から、訳の分からない亜寒・寒気を感じる。

 

「魔王の玉かね。五万ゴールドになるが、買うかい?」

 

「ご、五万ゴールド!?」

 

「高い……」

 

「行商さん。どうして、その名前に魔王があるんですか?」

 

 黒の核晶を手に取った行商人は「この人達も買うのを諦めるだろうな」と思いながら、ミコト達に黒の核晶の値段を掲示した。あまりにも高過ぎて目を見開くミコトとアキラ。そう簡単にはいかないと、溜息をつくドラえもんとドラミちゃん。二人と同様に驚くも、名前に魔王がある事について疑問を抱くマァムに応えて、行商人は買い取った日の事を思い出して話す。数年前、パプニカ王国から北西山脈にある地底魔城に潜った冒険者が買い取って欲しいと言われて買い取った事。一番奥の隠し部屋の宝箱の中の小さい宝箱の中の更に小さい宝箱の中から見つけたと聞いて、魔王の遺品であると判断した事。どういった効果があるかは不明だが、宝箱を三つ使ってまで厳重に保管されていたから、きっと凄い物に違いないと「商人の勘」が働いて高価にした事。しかしいつまで経っても、買ってくれる人が現れず、各国を旅して買い取ってくれる人を探しているのが現状だとか。コレの他に、はかいのつるぎとやいばのよろいも同様らしい。

 

「――っと、話が長くなってしまったね。……本当に買ってくれるのかい?」

 

「買います! 金貨50枚で良いですか?」

 

「ッ、金貨か……これはありがたい。正直、ゴールドだと重いですからな」

 

 大金を持っていた予想外で心中驚いた行商人は、ドラえもんからベンガーナ金貨50枚入りの布袋を受け取った。そして布袋を開けて本物か否か、枚数は合っているかを確認する。その間にミコト達三人は、こっちの財産はどれくらいあるんだろうかと、思うのであった。底が見えない感じだ。

 

「待たせたね。毎度あり」

 

 良い取引だと喜んだ行商人は、黒の核晶をミコトに手渡す。商人として、商品が売れれば良いので、お客さんが何に使われるのかについて疑問を持つ事も追求する事もしない。何があっても、責任は負わない。まぁ、クレームは受け付けないって事だ。

 

「四次元ポケットに入れてしまえば、一応は安心だね」

 

「えっ、それは危ない物なの?」

 

「ええ。詳しい事は、ドラドーラ号に戻ってから話すわ」

 

(危ない、か……。さっき触って感じたけど、とんでもない魔力だったなぁ)

 

 広場内南西のベンチに戻り、ミコトから受け取った黒の核晶を魔法の筒(物品用)に入れて、四次元ポケットに入れて安堵するドラえもん。そこでアキラは訊ねるが、ドラミちゃんは「後で」と言う。人が多い場所では、話せない内容らしい。危ない物らしいと聞いたミコトは、さっき黒の核晶に触れて感じた事から、否定できないと思うのであった。

 

「あっ、雨が降ってきたわ」

 

「……もう帰ろうか。もうすぐ夕方だし」

 

 昼からくもりだった天気だが、ついに雨が降り始めた。それでマァムは呟く中、広場全体では、濡れるのが嫌な人達は慌てて家に帰るか近くの建物の中に入っていく。いつの間にか、南東の露店は無くなっている。雨を気にしない人達は、何も変わった様子はない。そしてミコトが「帰ろうか」と言い出して、皆は「賛成」と頷いて、ドラえもんとドラミちゃんが出した傘をさしてドラドーラ号へ戻るのだった。因みに傘は三本で、ミコト以外は相合傘である。マァムに悪いから、ミコトとアキラの相合傘はしなかった。

 

 

==========

 

 港に戻ったミコト達は、西端のドックに立ち寄って聖なる船の船長にお礼と別れの挨拶を済ませた。そしてドラドーラ号に乗り込み、運転室へ行って出港し、パプニカ王国を出る。パプニカ近海を過ぎたら最大船速で、シーゲートのあるベンガーナ王国南方海域沖へ。今は大雨で風も強いから波は高いが、宙に浮いているこの船なら危険は無い。

 

 此処は運転室。最大船速まで急加速によるG(ジー)が収まったところで、ドラえもんは船の運転をオートに切り替えた後で運転席を後方へ回し、一番前列の座席に座っているミコト達四人と向かい合った。目的場所まで一時間以上あるので、ミコト達三人が気になっていた黒の核晶についての話に入る。

 

「……一言で言えば、地図が変わるレベルで大陸を吹き飛ばす超爆弾なんだ」

 

「もし爆発したら、パプニカ王国ところかホルキア大陸が地図から消えていたわ」

 

 大げさに怯える演技を見せたドラえもんとドラミちゃんからの衝撃的な話で、絶句してしまうミコト達三人。こっちはミコトランドのデータベースで黒の核晶の存在を知っているが、本来は魔界しか伝わっていない為、この地上に住む人々は存在を知らない。あの行商人が数年も、知らずに持ち歩いていたのである。知らないとは恐ろしいものだ。もし知ってしまえば、発狂するかショック死するであろう。まさかあんな危険物が自分の国にあったなんて、レオナに言えない話だ。知らぬが仏。なお、黒の核晶のメカニズムや製造方法については、暇があったらノートパソコンに参照の事。

 

「地底魔城で見つけたと聞いたけど、思った以上に魔王は狂っているわよ。きっと」

 

「確かに、正気じゃない話だ」

 

「うん。あんな爆弾が使われる前に、勇者のアバンさんが倒して良かった」

 

 マァムとミコトとアキラは、魔王に対する印象が悪くなってしまった。ドラえもんとドラミちゃんからも同じく。だがこれは、誤解である。黒の核晶について実は、魔王が作った物ではない。彼が魔界から地上へ上がる前に、知り合いのマッドな魔族から頂いた物(無理矢理)で、扱いに困っていた。地上侵略が目的なのに、あれを使っては本末転倒だから元々使う気はなく、厳重な宝箱に封印して隠したという訳だが、どこぞの冒険者が盗掘したのである。

 

「ところで、あの処分はどうするの? そのまま、ネイル村に持って帰るわけにはいかないし」

 

「そうね。爆発しないようにしてあると言われても、近くにあるだけで居心地悪いわ」

 

「もちろん。ミコトランドの地下深くにある危険物保管庫に入れておくよ」

 

 このまま黒の核晶をネイル村に持って帰るのは勘弁したいと考えるミコトとマァムに応えて、ドラえもんは苦笑いして対処について話す。危険物保管庫は、この世界で非常に危険な物を見つけたら回収して、管理下に置く為の場所だ。ミコトランドの地下深くにあるのだが、闇の世界という裏ワールドにある。あの世界は、モノクロで色が無い。

 

「……本当に恐ろしいわね。魔族って」

 

「いや、人間も一緒だよ。僕が前に居た世界では、パプニカ王国くらいの規模まで吹き飛ばす原子爆弾を作れるから」

 

「うん。この世界で今は無理でも、文明が発展して発明される可能性があるよ」

 

「まぁ、原料のウランやプルトニウムは存在するって、データベースにあったしねぇ」

 

 黒の核晶の一件で、魔族に対する認識を改めるマァム。しかし、人間も侮れないと言うミコトとアキラ。そこで、さらりと怖い事を言うドラえもんであった。現に、この世界の鉱山で採掘している人が放射性物質に被爆して倒れる謎の事故が、過去に何度も起こっている。当然、この場合は採掘場所を閉鎖して、新たな場所を探すという訳だが。あれは毒ガスだと判断している。

 

「そういえば、11年前にアルキード王国が大爆発で消えたと歴史にあったけど、あれと関係があるのかな」

 

「いえ、その可能性は低いと思うわ」

 

 こないだ、ノートパソコンで学んだ歴史内にあるアルキード王国消滅について、もしかしたら黒の核晶の所為だろうかと思ったアキラに応えて、ドラミちゃんは顔を横に振る。あれが原因だとしたら、テラン王国やベンガーナ王国も巻き込んでギルドメイン大陸南部が消失していただろう。ところが現実では、アルキード王国の王宮と城下町がクレーターと化しただけ。そういう事で原因は、未だ不明だ。

 

 そんな感じでミコト達は色々話している内に、ドラドーラ号はシーゲートを潜ってミコトランド南東ドックに到着。次に船から降りたミコト達はドックを出て、黒の核晶を危険物保管庫に置く為に研究所へ行くドラえもんやドラミちゃんと別れて、先にどこでもドアの館経由でネイル村へ帰るのだった。今回の島旅行は命の危機もあって大変だったが、友達も増えて楽しかったと思い返しながら、傘をさして館までの外を歩いて。

 

 

つづく

 




はい。パプニカ王国で、びっくりな第11話でした。

ハドラーの名誉の為に言っておきますが、決してアタマオカシイではありません。また、知り合いのマッドな魔族は、大魔王様の事でもありません。

マァムのポニーテールは、魔甲拳の鎧化(アムド)状態のと同じです。この第11話以降は、その髪型となります。
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