異世界の人々は北極南極を知らない   作:峻天

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012 緊急連絡で王子の救出

 レオナ暗殺未遂事件から九ヶ月経過。その間に積み重ねた修行で、ダイとマァム(ポニテ)と大江山ミコトと大河内アキラは強くなり、瞬動術をマスターし、制御補助なしで闘気・魔力を制御出来るようになった。日常生活で変わった事があるといえば、毎晩レオナと携帯電話メールで一日の出来事等の世間話をしたり、ビニールハウスによる畑仕事を始めて村に貢献したりしている。魔の森のモンスターの村侵入が二回あって、退治したりもした。いつまで気にしていてもしょうがないので、黒の核晶の事はすっかり忘れている。各国で大きな事件も無く、今でもギルドメイン州は平和だ。最後に、パプニカ王国でテムジンとバロンはどうなったのかについてだが、裁判が終わって二人は自由が限られた奴隷として国に貢献している。過酷な扱いはしない。死後はどうなるのかについて曖昧(天国と地獄は本当にあるのかは不明である事)であるから、生きている間に罪を償うべきであって、処刑はしないとの事だ。

 

 そして今日の夜。嬉しい知らせと言うか大事な話があって、マァムがミコトハウス二階に来ていた。よって現在、ミコト達五人はリビングで紅茶でも飲みながら談笑している。その嬉しい知らせとは、今晩にレオナからのメールを読んだ事から始まった。因みに皆は入浴済み。

 

「ふふ、驚いたわ。先生がパプニカ王国に来ていたなんて」

 

「今日、国王陛下との謁見で、レオナがダイや私達の事を話したらしいね」

 

「次のデルムリン島旅行で、アバンさんに会えるから楽しみだな」

 

 嬉しい知らせの内容は、漸く勇者アバンが見つかった事であった。彼等(教え子が一人いるらしい)は明日にロモス王国ソフィア港行きの船定期便でパプニカ王国を発って、到着先の港から小舟をレンタルしてデルムリン島へ渡る予定で、ダイと出会うのは約九日後になる。何事もなく予定通りであれば、12日後の島旅行でミコト達がアバンとご対面となるので、とても楽しみの様子だ。

 

「あのね……先生にも、この世界の本当の事を教えてあげても良いかしら?」

 

 提案してミコト陣営にお願いするマァム。時が来るまでは、何もきっかけがない限り、世界の真実について秘匿としているが、ギルドメイン州を救ってくれたアバンにも知って欲しいのだとか。また、自分の様々な知識を広めて役に立てたいと本人が言っていた理由もある。それでミコト陣営は、誰一人も反対しなかった。

 

「今、アバンさんは男の子一人と旅をしているって、メールにあったけど、どんな人だろうね?」

 

 当日に出会って友達になれるかもしれない少年の事が気になるミコト。それで苦笑しながら頷く四人。残念ながら、アバンの教え子はお偉いさん苦手で謁見に出ていない為、レオナはアバンから聞いた事しか知らない。聞いて知った範囲では、自分と年が近い男の子である事だけだ。

 

「そういえば、アバンさんのところでマァムの先輩がいるって、前に言ってたよね」

 

「ええ。名前は確か……ヒュンケルと言う銀髪のお兄さんって、聞いているわ」

 

 アバンの教え子という今の話題で、以前のマァムからの話を思い出すアキラ。それで先輩についてもう一度話して、いつか会ってみたいと思うマァム。彼の名前はヒュンケル。今年で21歳になる。15年前の魔王討伐後から一年間、アバンから剣術を学んだ先輩で、卒業後は一人旅で今でも剣の修行を続けていると聞いている。当然、経験の差でダイやミコトよりも強い。

 

 こんな感じで、そろそろ寝ようかなと思う時間まで、アバンに関する話は続いた。その後は玄関へ移動して、ミコトとアキラ(ドラえもん達はリビングの片付け)が、帰宅するマァムを見送る。それから洗面所へ行って、二人仲良く歯磨き。この世界に歯医者さんは存在しないので、歯石掃除はミコトランド内のメディカルルームで行っている。そのほか、年一回の人間ドックも。健康が一番だから、メンテナンスは重要だ。

 

「アキラ。明日で、この世界に飛ばされて一年になるね」

 

「もう一年かぁ……。あっという間だね」

 

 歯磨き・うがいを終えて、洗面所の直ぐ近くの西窓から、キラキラ星降る夜空を眺めて、自分の両親やクラスメイト友達の事を思い出しながら遠い目をするミコトとアキラ。夜空に広がる無数の星の何処かに、かつて自分が暮らしていた地球の太陽系があるかもしれない。中等部三年生から一年経てば、今のクラスメイト達は卒業して高等部だ。こっちは取り残された気分である。もしも異世界へ飛ばされなかったら、二人とも共学高等部(男子校・女子校で別か共学校のどちら)を志望して進学する進路コースの筈だった。

 

 気が済むまで夜空を眺め続けた後、二人は互いに「おやすみ」と言って自分の部屋に戻って、パジャマに着替えてベッドに寝入るのだった。

 

 

==========

 

 七日後。その日の夕方始め(時計で表すと15時頃)に緊急事態が起きた。ミコト達三人は日常通りに昼から、ミコトランド修行場で修行をして休憩している時に、ドラえもんとドラミちゃんが「大変だ!」と叫びながら駆けつけて来たのである。

 

「そんなに慌てて、何があったの? まさか、モンスターが村に入って来たとか」

 

「いや、身内や村の事じゃないんだけど……ラインハット王国の王子が誘拐された」

 

 此処で緊急と言えば、魔の森のモンスターの村侵入だと思ったミコト達だが、ドラえもんは顔を横に振って事情を話す。さっきまで、ドラえもん達は作業ロボットと一緒で、セントベレス州ラインハット王国北はずれにあるどこでもドア小屋のメンテナンス作業を行っていたところ、王国を出た人達……山賊と見られる数人の男達が、王子だと思われる子供を担いで、東遠くの遺跡らしき建物へ向かって行ったのを目撃したとの事。ラインハット王国の事情については此方と無関係だが、偶然で一大事なところを見てしまった以上、人道的に放っておけないのだ。

 

「王子様を助けに行きましょう!」

 

「そうだね。急ごう!」

 

 地面に置いたハンマースピアを拾い上げ、強く握りしめて気を引き締めた表情で言うマァム。それでアキラとミコトも、武器を拾い上げて頷いた。三人とも凛としていて、勇ましい。目的地で救出の際に人間同士で戦う可能性が高いが、修行を積み重ねたおかげで、九ヶ月前と比べて覚悟も勇気もある。

 

 ドラえもん達も賛成してそうと決まれば、今日の修行を中止し、走って修行場を出るミコト達五人。タワーホテルのエントランスを通り抜け、外に出てどこでもドアの館へ向かい、中に入ってセントベレス州と通じる南西どこでもドアを潜り、その先の小屋から外に出る。因みにミコト達三人が、セントベレス州に足を踏み入れるのは初めてであった。しかし携帯電話のナビマップを使う事で、迷子になる心配はないだろう。

 

 小屋の外。天気はミコトランドと同じで晴れ。この小屋は低い山の上にあり、南遠くにラインハット王国の王宮と城下町(王宮の直ぐ西)が建ってあり、南東遠くに高い山脈があり、東遠くに目的地である遺跡があり、かなり南西遠くに広い川や川を挟む二つの小さい建物がある。周辺は殆ど平原で、小さな森や岩山がいくつかある。更に丸いサボテンや竜の子供や少し大きいスライムに乗った小人等の、モンスター達が徘徊している。

 

「あら、此処は昼前なのね」

 

「時差か……。これはまた新しい体験だ」

 

「うん。北に太陽があるのは、初めて見た」

 

 セントベレス州の時間は、ギルドメイン州より四時間遅い。それで、以前にダーマ神殿へ行った時と逆だと感じるマァム。前に居た世界でも海外旅行に行った事はなく、初めて時差を見たミコトとアキラは、生活のリズムがおかしくなりそうだと思った。これは所謂「時差ボケ」である。

 

「あっ! 変なネコを連れた子供が遺跡の中に入って行った」

 

「しかも一人だけ」

 

「なんだって!?」

 

 紫色のターバンとマントを身に着けた六歳くらいの子供やチーター模様のネコが、東遠くの遺跡に入って行くところを、双眼鏡で見たドラえもんとドラミちゃんは驚いて声を上げた。それを聞いて驚愕し、無謀だと思ったミコト達。普通に考えて、小さな子供が大人数人に敵う筈がない。下手したら殺されるか、奴隷として売られるかもしれないのだ。勇気と無謀は違う。よって時間が無いと思ったミコト達五人は、走って東遠くの遺跡へ。

 

「あっ! 不気味なモンスターが入口に出てきた」

 

「確かに不気味ね。両手が蛇になっているなんて」

 

「強そう……。中に入って行った子供は大丈夫かな」

 

 前方の地面の中から出てきたセミとモグラの合成モンスターを何度も避けて進み、漸く遺跡の近くまで来たミコト達。しかし、古ぼけた茶色の石造り遺跡の出入口から、両手が蛇になっている覆面マスクとマントの人型モンスターが三体出てきた。名前はダークシャーマンとへびておとこ二体。不気味にくねらせる蛇両手の彼等を見たミコトとマァムは「呪われそう」だと顔を引き攣らせ、アキラも同感してあの子供の事を心配する。確かに子供一人では、勝てそうにない。取り敢えず、ドラえもんとドラミちゃんはミコトランドのデータベースにアクセスして、ミコト達三人にモンスターの特徴を説明する。注意すべき事は、上級催眠呪文ラリホーマと極大閃熱呪文ベギラゴンの二つだ。ベギラゴンの威力は修行場のシミュレーターで見た事はある。

 

「貴様らは何しに来た? 誰一人も此処を通すな、とゲマ様から命令を受けている。お引き取り願おうか」

 

「誘拐された王子様の安全を確認するまで、このまま帰らないよ」

 

 ゲマと呼ばれる上司の命令で、出入口を立ち塞ぐ三体横一列の真ん中のダークシャーマンが、ミコト達に訊ねて威嚇した。だがミコト達は怯まず、武器を構えて答える。彼等を倒さないと中に入れないのである。帰りの事を考えると、放置しないで退治してしまったほうが安全だ。

 

「そうか。返答はどっちにしろ、逃がす気はないのだがな。……我ら光の教団の邪魔をする者は許さぬ。此処で死ぬがいい!」

 

 ダークシャーマンは叫ぶと、へびておとこが二体同時にミコト達へ襲い掛かった。その直ぐにダークシャーマンは両腕に炎を纏わせてベギラゴンを唱え始めようとするが、ミコトが瞬動で間合いに入って斬りつけて仰け反らせて阻止。表情が見えない覆面の中で驚いた事だろう。左のへびておとこはマァムへと、右のへびておとこはアキラへと対峙する。敵を倒す手段を持たないドラえもんとドラミちゃんは後ろへ下がって応援だ。もしもこっちに突っ込んできた時に備えて、ひらりマントを出している。

 

 早く仕留めて食べようとする敵三体とも蛇の腕で、人間の急所である喉首を狙って嚙みつこうとするが、ミコト達三人は持っている武器で攻撃を弾いた。修行場のシミュレーターで高レベルのモンスターと模擬戦をしてきた三人なら、反応出来ない速さでもない。急所攻撃に失敗して苛立ったからか、両腕の蛇手ラッシュによる激しい猛攻。だが武器(ミコトは盾がある)で防がれたり、回避されたりして、一撃も入らない。

 

「がぁあああああっ!?」

 

 猛攻の中、隙を見つけたミコトの反撃で、ダークシャーマンの右腕を斬り落とした。それで彼は苦悶の悲鳴を上げ、斬られた右腕蛇は地面を飛び跳ねる。その様子を見ていたドラえもんは、最後の足掻きで嚙みついてきたら危ないと判断して、四次元ポケットから瞬間接着銃を素早く取り出して撃ち、今でも飛び跳ね続けている右腕蛇を地面に貼り付ける。片腕を失った事で、ベギラゴンを撃たれる心配はなくなった。

 

「グギャアッ!?」

 

 蛇手ラッシュ攻撃を捌いていたマァムはバックステップで距離を取り、正式僧侶修行で習得した中級真空呪文バギマを唱えて、へびておとこを切り刻んだ。その次は、右腰ホルダーにある魔弾銃を素早く抜いて射撃。以前にネイル村長老が魔法薬莢に込めた中級火炎呪文メラミが命中して、へびておとこは炎に包まれた火ダルマとなって断末魔の叫びを上げる。呪文を使った後に魔弾銃を使えば、このように呪文を連続で放つのが可能だ。

 

 蛇手ラッシュ攻撃しているもう一体のへびておとこは足元がお留守(前ばかり見ていて、足元にも意識を向けていない)のようで、アキラの足払いですっ転んでしまった。それで起き上がろうとするが、彼女の水神槍の力による間欠泉(噴火みたいに地面から吹き上がる水柱)で上空へ吹き飛ばされる。そしてアキラが水神槍を大きく振り上げて、放った三日月状水刃による追い撃ちで一刀両断。空中で左右真っ二つになったへびておとこは地上に落ち、安全の為にドラえもんとドラミちゃんが瞬間接着銃で、左右の腕蛇を地面に貼り付ける。

 

「くっ……。撤退してゲマ様に報告だ」

 

 自分の仲間がやられて一人になり、片腕も失って戦況は不利だと判断したダークシャーマンは、悔しい思いをしながら遺跡の中へ逃走した。強敵な邪魔者が現れたと、上司に伝える為に。そんな彼を見たミコト達は、直ぐに追わないで一息をつく。こっちは全員無傷で、今回の戦績は完勝であった。ダークシャーマンのベギラゴンを阻止した結果だろう。

 

「もしかしたら、王子様を誘拐した犯人は人間に化けたモンスターかも」

 

「さっきのモンスターは言葉を話せていたから、その可能性はあるわね」

 

「どちらにしても、誘拐犯は人質を取る事が多いよね。その時はどうしよう」

 

「……そうだ! 前にロトゼタシア州で手に入れたアレが役に立つかも」

 

 遺跡の中に居る誘拐犯について考えるミコトとマァム。そこでアキラは以前にテレビで良く見かけた事から、誘拐事件において最悪の展開について話した。それで皆は対処方法に悩む中、ドラえもんは何かを思い出して四次元ポケットから黄色い玉を取り出して、人質対処作戦を説明する。黄色い玉はイエローオーブと言って、未来のミコト陣営がロトゼタシア州どこでもドア小屋建設時に襲ってきた盗賊達からの戦利品らしい。そして、人質を取られても大丈夫だと分かったら、ドラえもんとドラミちゃんはとうめいマントで隠れて、用心して遺跡の中へ。

 

「ぬわーーーーっっ!!」

 

 ミコト達は遺跡の中に入ろうとしたその時、出入口の中から断末魔の叫びや地面が響く位の大きな衝突音と共に強烈な熱風が吹いた。それで驚いて反射的に両腕で熱風を防いだ彼等は、中で何があったかを確かめるべく早足で遺跡の中に突入する。王子や紫の子供は無事なのか、不安であった。

 

 遺跡の中に入って、真っ直ぐの坂通路を下っていくと、広い部屋に出た。この部屋の床や壁や天井も、外側と同じ茶色い石造り。両端で二つの水路があり、部屋出入口は前方と後方で二つのみ。天井は高いので、体育館のように広い。明かりは、天井近くで高い所四方のタテシマ模様の隙間から入る太陽の光で少し明るい。

 

 此処で繰り広げられている様子を目の当たりにして、ミコト達は驚いてしまう。部屋の中央に立って、こっちを向いている紫ローブの魔族が死神の大鎌を持って、あの紫の子供を人質にしているところ。紫ローブの魔族の足元で、救助対象の王子がチーター模様のネコと一緒に倒れているところ。部屋の奥出入口と紫ローブの魔族の間のフィールドで、左の馬獣人と右の牛獣人が挟み撃ちで、立ったまま抵抗しない黒髪口髭中年男性を殴り続けているところ。ミコト達と紫ローブの魔族の間のフィールドで、ダークシャーマンが真っ黒コゲとなって仰向けで息絶えているところ。と驚くべき点が多かった。これが初めての魔族遭遇である。

 

 人間側。白い布の服で紫ターバンと紫マントを身に着けた黒髪の男六歳児の名前は、リュカと言う。白と青い王子服を着た緑髪の男六歳児の名前はヘンリーと言う。赤タテガミでチーター模様のネコはキラーパンサーの子供で、プックルと言う名前が付けられている。白いタンクトップと白いズボンで皮の腰巻や剣の鞘(背負い)を身に着け、逞しい筋肉がつき、尋常でないカリスマを感じさせ、黒髪でツンツンとおさげ、口の上に立派な髭の30代前半男性の名前の名前は、パパスと言う。

 

 魔族側。雄々しい赤タテガミで、立派な筋肉で大きい肩の白馬獣人の名前は、ジャミと言う。軽装備鎧を着た、頭一本角で大きい犬歯牙二本のピンク色牛獣人の名前は、ゴンズと言う。紫色を地にして橙色のラインや模様が付いているローブ(フード付き)を身に着けた青色肌魔族男性の名前は、ゲマと言う。

 

「ほっほっほっほ。役立たずの報告にあった者達ですか」

 

 不気味な笑みを浮かべているゲマは、ミコト達を見て目を細め、ダークシャーマンの焼死体をゴミ扱いにして言った。その口振りで、敵前逃亡だからという理由だけで部下を殺したと悟ってしまったミコト達は、心の中で「悪魔だ」と思ってしまうのであった。話し声が聞こえたジャミとゴンズはパパスへの殴打を止めて、ミコト達の方に顔を向ける。ゲマが人質を取っている為、いくら助けが来ようと余裕な様子だ。あんな嘲笑いが腹立たしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 二人からの殴打が止み、全身打撲の痛みを我慢して、倒れないように必死で足腰に力を入れて立ち状態を保ち、人質に取られている息子のリュカやこっちと同じで王子を助けに来たであろうミコト達を見ているパパス。殴られる度に歯を食いしばる気力を消費した為、息を切らしている。予想外で助けが来たから彼は嬉しく思ったが、かなりの不安もある。それは、人質に取られている息子の命が、自分だけでなくミコト達の行動次第でもあるからなのだ。

 

「貴方達の目的はラインハットの王子でしょう。どうぞご自由に。……この子の魂は永遠に地獄をさまよう事になり、後ろの父親に恨まれるでしょうね」

 

「……ッ!?」

 

「くっ、なんて奴なの」

 

 救助の報酬を求める金の亡者の冒険者なら平気で余所の者を見捨てるであろう事を、ゲマは口角を吊り上げて促した。それで更に不安感が増したパパスは、彼の背後を睨みつけながら怒りが増していく。子を想う親の気持ちを嘲笑うなんて許せないと、マァム達もゲマを睨みつける。ミコト達がまともな人間であると分かったら、パパスはホッとし、ゲマはつまらなさそうだ。

 

「ゴールドアストロン!」

 

 ゲマの近くで、見えない何かがイエローオーブの発動ワードを唱えると、リュカが光り出して黄金像になった! その現象を見たゲマとジャミとゴンズとパパスは「何が起こった!?」と驚いてしまう。今がチャンスとなり、ミコトは瞬動でゲマに急接近してリュカを奪い取って救出し、アキラは瞬動で高速移動してヘンリーを抱いて、マァムは瞬動で高速移動してプックルを抱いて、後に三人全員は再び瞬動で高速移動してパパスの元へ。

 

「げはっ!?」

「グハッ!?」

 

 移動先の安全を確保する為に、瞬動後直ぐにアキラはジャミを、マァムもゴンズを、回し蹴りを繰り出した。彼女達に蹴り飛ばされた二人は、ゲマの両隣を通り過ぎて地面を転がる。これにより、さっきフィールド上で混ざっていた敵と味方の陣形がハッキリと二つに分けられた。

 

「り、リュカ……」

 

「金色だけれど、アストロンと同じで、お子さんは大丈夫です。……ベホマ!」

 

「! ……ありがとう。助かった」

 

 リュカとヘンリーを優しく地面に置き、素早く武器を構えて前衛に立ち、パパス達を守るミコトとアキラ。プックルにも優しく地面に置いたマァムは、パパスに近付いて落ち着かせた後に、正式僧侶修行で習得した上級回復呪文ベホマで全身の打撲傷を癒した。黄金像になったリュカを見て気を取り乱しそうになるパパスだが、話を聞いて「アストロン」のワードが聞こえたのを思い出し、息子の身の安全で安堵して両目を潤し、お礼を言う。ミコト達が来るまで彼自身は、本当にもうダメだと思っていたのだ。

 

「ほっほっほっほ。まさか一瞬で人質を取り戻されるとは、予想外でしたよ」

 

「この女ぁ。よくもやってくれたな!」

 

「オノレ……殺ス!」

 

 驚きから気を取り戻して、向きをパパスのいる方へ反転したゲマは普段の不気味な笑みの表情だが、殺気を放つ程のお怒りであった。彼の後ろで転倒していたジャミとゴンズは、起き上がってゲマの両隣に移動して、こっちを睨んでくる。ゴンズに至っては背中に背負っていた斧剣とスパイクシールドを手に持って。

 

「私からのお礼を受け取りなさい。……メラゾーマ!」

 

 人質作戦の邪魔をした報復で、ゲマは左手をミコトに向けて上級火炎呪文メラゾーマを唱え、直径三メートル近くの火球を放った。一般人では反応出来ない程、弾速が速い。それに対してミコトは、アトムシールドを前に構えて呪文防御のスキルを使い、若干の火傷で済むように耐えきる。後ろにパパス達がいる為、回避しない。因みに呪文防御とは、制御出来るようになった自分の魔力を体に纏わせて呪文ダメージを減らす防御技能である。修行場のシミュレーターで何度も練習をしてきた成果だ。

 

「ミコト……。大丈夫?」

 

「っ、なんとか。……痛いけど」

 

「ほう。少し力を入れたのですが……。意外とやりますね」

 

「大した奴だ。役に立たねぇヘビは、一発で死んだってのに」

 

 修行成果を信じても、やはり心配するアキラに応えて、多少焦げたミコトは痛みを我慢して「大丈夫」だと言った。一発でダークシャーマンを葬ったメラゾーマに耐えた事で、ゲマとジャミは意外と称賛する。あれについて正直言えば、魔法を受け付けないネオハルコンの胸当て・手甲の恩恵もあるが。後ろにいるパパスは、頼もしいと微笑むのであった。

 

「ゲマはわしに任せてくれ。個人的に用があるのでな」

 

 マァムのベホマで回復したパパスは、さっき息子が人質に取られて仕方なく地面に置いた自分の剣を拾い上げ、ミコトとアキラの前に出て息子達の事を託し、武器を構えてゲマと対峙した。数年前から因縁があるようで、息子の事と同等に重要な用事があるらしい。さっき息子を人質にした怒りはあるが、敵だから当たり前な事で仕返しする気もない。ミコトとアキラは察して頷き、マァムはミコトに近付いてベホイミで火傷を癒す。

 

「パパス王は私がお相手しましょう。他の者は頼みましたよ」

 

 ゲマは一歩前に踏み出して、右手に持つ死神の大鎌を巧みに回転させた後に構え、パパス以外の人達をジャミとゴンズに任せた。応えて二人は「了解」と頷く。パパス「王」と聞こえたミコト達は驚くも、感じられる高いカリスマから納得するのであった。

 

 パパスとゲマの両者は地面を蹴って接近し、互いに武器を振るい、カキンと大きい金属音を出してぶつかり合った。左遠回りして迫ってくるゴンズはミコトが交戦し、右遠回りして迫ってくるジャミはアキラが交戦し、マァムはリュカ達を守るように立ち塞いでいる。とうめいマントで姿が見えないが、彼女の両隣にドラえもんとドラミちゃんもいる。

 

「六年前に、お前が連れて行ったマーサは何処にいる?」

 

「貴方の王妃は今、魔界のエビルマウンテンでお祈りですよ。会う事も叶わないでしょうね。ほっほっほ」

 

「くっ、恐れていた通りか」

 

(本当に、意地悪な魔族ね)

 

 何度も鍔迫り合いする中での会話。パパスにとって重要な事は、六年前にゲマが連れ去っていった最愛の妻マーサの行方について。なんと、ゲマは親切に具体的な居場所を教えてくれた。人間の間で、魔界・天界は伝説扱いで行き方も不明である為、わざと居場所を知らせておいて悔しい思いをさせる故の嫌味である。あの日からパパスはセントベレス州を旅してきても、未だ魔界に関する良い情報は見つかっていないのが現状で、思った通りの彼の表情を愉しむゲマを睨みつけるマァムであった。

 

「ヤルナ。オ前」

 

(強い。守りも固いな)

 

 お互い剣と盾のセット装備で斬り合い。実力は互角であり、双方とも剣を盾で防ぐ戦い方の繰り返しで、一撃も入っていない。さっきマァムの回し蹴りが入ったのは、瞬動による不意打ちでの結果だ。一対一の勝負で強気なゴンズは楽しそうで、ミコトは諦めずに頑張っている。

 

「へっ、呪文も吹雪も耐えるとはな。やるじゃねぇか。女」

 

(何かに守られていて、身が固い……。しかも自然回復するし)

 

 一方、この戦闘も勝負が決まらない。アキラは余裕でジャミのヒヅメパンチを回避し、メラミ呪文攻撃や吹雪ブレス攻撃を防御でやり過ごした。アーティファクトの戦闘服の加護もあって、呪文や吹雪からのダメージは超激減。しかし相手のジャミも、特殊なバリアを張っていて全てのダメージが激減し、自己再生回復も早い。つまり、お互いの守りが強過ぎて決着がつかないのだ。それでもアキラはミコトと同様、諦めずに頑張っている。

 

「おとうさん! まけないでー!」

 

「つよいんだな。おまえのちちおや」

 

 イエローオーブの効果が切れて元に戻ったリュカ。そして気絶から回復したヘンリーとプックル。彼等は今、マァムの後ろから観戦してパパスを応援している。きっと自分の父親が勝つと信じているが、さっき自分が完全敗北した相手だから心配でもあった。でも、マァムが笑顔で励ます。

 

「しかし、おまえもオレとおなじだったんだな」

 

「そうね。私もびっくりよ」

 

「ぼくはしらないよ。あとでおとうさんにきいてみる」

 

 パパスとゲマの戦闘中会話を聞いて、パパスが王様だった事からリュカが王子だった事実に驚いているヘンリーとマァム。リュカ本人も今まで知らなかったようで、この戦いが終わったらパパスに訊いて確かめようと思っている。病気で死んだかと思っていたお母さんについても。

 

「むむっ、……そろそろ時間のようです。ここはお預けとしましょうか」

 

「何だと!?」

 

 ぶつかり合いから距離を取って、互いに隙を伺って睨み合う二人。そこでゲマは残念そうに大鎌を下げ、戦闘中断を告げた。突然の事で目を見開くパパス。警戒は続けて武器を下ろさない。ゲマは幹部であってスケジュールが詰まっており、本来なら午前はヘンリーを引き取って光の教団本部に送る予定だった。しかし邪魔が入って午前の任務が長引いてしまった訳である。

 

「邪魔者を始末しておきたいのは山々ですが、私は多忙の身。貴方達と違って暇はありません。……引き上げますよ」

 

「ちっ、もう終わりか」

 

「ハッ、命拾イシタナ」

 

 持っている大鎌を消し、相変わらずの不気味な笑みで、ミコト達とパパス達を勝手に暇人扱いする失礼な事を言って、部下二人を呼び戻すゲマ。それでジャミとゴンズは物足りない顔をして、ミコト達を見ながらゲマの元へ移動する。戦闘は終わりなので、ミコトとアキラは追わない。パパスは、失礼な事を言われて眉間にシワを寄せている。……マァムも。

 

「ほっほっほ。ラインハット王妃を始末しない限り、今回の件は繰り返すでしょうね。……それでは、ごきげんよう」

 

 ゲマは重要な事を言い残して、自分達の周りに闇の渦を発生させ、光の教団本部へ転移していった。今回、ヘンリーの誘拐はラインハット王妃の仕業だ。彼女は再婚した第二の王妃で、実の息子が一人いるが、自分と血の繋がりがないヘンリーが邪魔らしい。ゲマの言った通り、元凶を何とかしないと、また同じ事が起きる。人質を取られても、ミコト達の介入で事なきを得たが、次回は都合良くいかないだろう。そういう訳でパパスは剣を背中の鞘に納めて、浮かない顔で考え込むのであった。ラインハット王国の事情を知らないミコト達は、黒幕が王妃だと驚くばかりで何も言えない。

 

「……っ!? あ……ぐっ」

 

「おとうさん!? どうしたの!?」

 

「お、おい。だいじょうぶか!?」

 

「パパスさん!?」

 

 ゲマ一味が去って数分間は沈黙が続くと、突然パパスは右手で胸を押さえて苦しみ始めて片膝を地面についた。血圧が下がったからか、顔色が青い。その異変でリュカ達とミコト達は、驚いて彼に駆け寄る。因みにミコト達がパパスの名前を知っているのは、さっきゲマ戦で会話を聞いたからだ。

 

「拙い! 心タンポナーデだ! 急いでミコトランドに連れ帰って治療しないと命にかかわるぞ!」

 

「マァム! 早くパパスさんの心臓にベホマをかけて!」

 

「ドラミちゃん? わ、分かったわ」

 

 人の心臓には、心嚢と言う袋みたいなものに覆われているのはご存じだろうか。胸部への強打による衝撃で心臓に傷が付いて出血し、心嚢に血液が溜まっていき、一杯になると以降も出血するにつれて心臓への圧力が強くなっていき、心臓の働きを阻害して機能停止に至り、死んでしまう。その恐ろしい症状が心タンポナーデだ。パパスの異変を見たドラえもんは、自分の体に搭載されたアイカメラで彼の体内をスキャンし、心タンポナーデが判明した途端に血相を変え、とうめいマントを急に外して叫んだ。同じ方法で知ったドラミちゃんも、慌ててとうめいマントを外して応急処置の指示を出し、困惑しているマァムは従ってパパスの胸に手を当ててベホマをかける。それは心臓の傷を治す事で、出血につれての圧力上昇を止めて症状の進行を防ぐ応急処置だ。急に出てきたドラえもん達を見たリュカ達は驚いているが、それどころではない。ミコトとアキラは心タンポナーデを初めて聞いて首を傾げるが、説明も後。

 

「おとうさんは、しんじゃうの? いやだよぉ」

 

「おい。おちつけって。あいつら、なおしてくれるらしいぞ。たぶん」

 

「お父さんは必ず助かるから、ね」

 

「リュカ……。心配……するな……。わしは……大丈……夫だ」

 

 ドラえもんは四次元ポケットから救急担架を出して地面に広げ、ミコトとアキラがパパス(背中の鞘を外して)を救急担架の上に寝かせているところ。心配して泣き出すリュカを落ち着かせるヘンリーとマァム。パパス本人からも、苦しみに耐えて「大丈夫だ。マーサを取り戻すまでは、簡単に死ねない」と言う。

 

「特別製のキメラの翼で小屋まで飛ぶから、急ごう」

 

 ドラミちゃんは皆の武器を預かって四次元ポケットに入れ、ミコトが前でアキラが後ろで、パパスを寝かせた救急担架を持ち上げ、ドラえもんが先導して全員は遺跡から外に出る。そして特別製のキメラの翼を投げて、全員まとめてどこでもドア小屋へ光速飛行で瞬間移動し、小屋経由でミコトランドへ戻るのだった。パパス達にとって未知の場所へ。

 

 パパスの心タンポナーデの原因について。ザコと違って筋力が高いジャミとゴンズからの殴打によるものである。回復呪文による心臓の回復は外傷回復の後(RPGゲーム的に言えば、HP満タン時)となる為、マァムの一回目のベホマでも心臓の傷は回復しなかった。もしもあの時にベホマを二回かけていれば、心タンポナーデにならなかったであろう。知らなかった不注意は仕方ない。

 

 

==========

 

 ミコトランドタワーホテル一階のメディカルルームに運び込まれたパパスは局部麻酔の注射をうたれて、医者ロボットと医療マシーンによって治療を受けた。チューブを通して心嚢に溜まった血液を取り除くだけなので、そんなに時間はかからない。……が、治療後はコンディション調整ビームを浴びながら一時間安静(点滴も)となる。それが終わるまでの時間に、ミコト達とリュカ達はメディカルルーム近くのロビーでお互い自己紹介した後でドラえもん達から、心タンポナーデについて説明中。まだ幼いリュカとヘンリーに理解が難しいのは否めない。プックルは退屈で寝てしまった。

 

「成る程。勉強になったよ」

 

「……」

 

「マァム……。知らなかったから仕方ないよ。今回は間に合ったし、次からは気を付けよう」

 

「アキラ……そうね。これから、もし誰かが胸を強く打ってしまったら、念入りに回復呪文をかける事にするわ」

 

 説明を聞いたミコトは人間についてもっと勉強しようと考え、アキラ(アーティファクト解除)は落ち込んでいるマァムを励ました。彼女が落ち込んでいるのは、パパスにかける一回目のベホマで慢心ミスが原因。励まされて元気になったマァムは、心タンポナーデに対する厳しい注意を心掛ける。これでまた僧侶の熟練度の一つが上がった。心タンポナーデの説明の次は、パパスがグランバニア王国の王様だったとミコトランドのデータベースにあったと説明であった。

 

「リュカ。終わったぞ」

 

「あっ、おとうさん!」

 

 すべて治療が完了し、メディカルルームを出て、此処ロビーに来るパパス。すっかり顔色が良くなって、元気な笑顔だ。それで大喜びしてソファーから降りて、彼の元へ駆け寄るリュカ。声で目が覚めたプックルも追う。そんな親子を見て安堵して「良かったな」と笑顔になるヘンリーとミコト達。

 

「おかげで体の調子が良くなった。ありがとう」

 

「いえ、元気になられて何よりです」

 

 パパスは真剣な表情になり、ミコト達に向けてお礼を言った。勿論、ゲマ戦でリュカ達を助けたお礼も改めて。ミコト達は「王様」だと思い込んで畏まった態度で応え、遅くなってしまった自己紹介をする。パパス本人は「事情があって王位を弟に譲ったから、今は王様ではない」と笑っているが、その事情とはゲマ戦での会話から、妻マーサの事だと察したミコト達であった。

 

「リュカのお母さんは魔界に居るのよね……。行く方法を調べてあげられないかしら」

 

「迎えに行こうと思えば、いつでも行けるよ。細かい場所の手掛かりはゲマが言ってくれたしね」

 

 この世界の情報が何でもミコトランドのデータベースにある事を知っているマァムは、パパスに協力できないかとドラえもんにお願いしてみた。同意見だと頷くミコトとアキラ。なんと、ドラえもんはアッサリと答える。しかも苦笑で。自分にとって非常に都合が良い話だから、パパスは耳を疑ってしまう。それもそうだ。魔界へ行く方法は雲を掴むようなものなのに、直ぐにでも行けるなんて信じられないのだから。

 

「その話……。本当なのか?」

 

「はい。魔界は別世界ではなく、地下深くにある事を知っていますので」

 

(うーむ。この人達の顔を見るところ、妄言ではなさそうだ)

 

 信じられずに「真(まこと)」かと確かめたら、ドラミちゃんが笑顔で答えたので、デタラメではないとパパスは話を信じる事にする。この建物内の雰囲気、さっき自分を治療した未知の技術を感じて期待感はあった。ミコト達に対して「何者だ」と不思議に思うところはあるが、大恩人だから追求はしない。

 

「パパスさん。その前にヘンリー王子を帰してあげて、国王陛下を安心させましょう」

 

「そうだな。……しかし、お城の閉門時間まで間に合うかどうか」

 

 話を聞いたパパスのお願いに応えてマーサを迎えに行く事が決定し、ミコトはセントベレス州の魔界へ行く前にヘンリーを帰してラインハット王国を落ち着かせるのが先決だと言った。パパスは同意見だが、外は夜の帳が下りる寸前の夕方になっている窓の方を見て困った顔をする。ラインハット王国は定時を過ぎると、お城を囲む深く幅広い堀を渡る跳ね橋が閉じてしまう為、お城の中に入れなくなるのだ。閉門時間まで間に合わなかった場合、延期して翌日となる。だが……。

 

「パパスさん。此処はもうすぐ夜になりますけど、時差でラインハット王国は、まだ昼過ぎです」

 

「昼過ぎ? 時差?」

 

「ラインハット領に移動してから、説明した方が早いかな」

 

「そうね」

 

 時差を知らないパパスは、時間帯についてアキラから聞いても、首を傾げるしかなかった。その様子を見たミコトは苦笑して「場所を変えよう」と言い出し、マァムも頷いて同感する。そういう事で、ラインハット領へ行く為にタワーホテルを出てどこでもドアの館へ向かう。その途中で薄暗い外に出た時にパパス達は「建物の中は昼みたいに明るいな」とLED照明器具に対して、今更思うのであった。そのほか、ホテルの自動ドアで驚いたり。

 

「む、あの大きい球体は……?」

 

 どこでもドアの館。初めて通った時は救急だったので暇はなかったが、今は館内を見回しているパパス達。リュカとヘンリーとプックルは子供らしく館内を走り回っている中、パパスは一番東にある地球(竜星)の巨大オブジェが気になって近付きながら呟いた。その時、ドラえもんはオブジェ下のボタンを押して、表面の白い雲の部分を消して地球儀モードにする。それから操作して地球儀(竜星)をコマ回転させ、セントベレス州の部分を正面へ。

 

「世界地図のようだな。……平面ではないのか? 知らない大陸も多くあったが……」

 

「世界は丸いんです。それなのに平面に感じるのは、大地や海がかなり広いからですね」

 

 パパスは地球儀(竜星)にあるセントベレス州内の右下の大陸と右上の大陸の中央近くを順に見つめてから、全体を眺めて世界地図だと分かったが、自分の一般常識である筈の平面ではない事について訊ねた。それでミコトが説明する。この世界も、太陽や月と一緒である事を例えて理解させ、次は北極南極や六つの大陸群の紹介説明。後は此処ミコトランドについて。

 

「成る程。……しかし、おかしな話だ。今まで旅して何処でも見かける地図は、これだけの範囲でしかないのか」

 

「そうですね。……四角で囲んだ赤い線を注目して下さい」

 

 今まで旅してきて、お城の中、町内の酒場や宿屋等、定期船の中、何処でもあった地図は全て自分の常識通りだった。魔界について調べて、伝説としてはよくあったが、常識地図の外についての情報は一片も無い。もし、大きい組織の光の教団が知っていたなら、たとえ噂でも情報が漏れていた筈だ。だがその様子も無い。それで理由を知りたいパパスに応えてミコトは「よくある質問」に頷いて、地球儀(竜星)上でセントベレス州を囲む赤い線に指差して、分割結界について説明する。分割結界を施した理由は不明である事や、こっちに「旅の扉」と同じ物があって分割結界を越えられる事も伝えておく。

 

「世界を創った神々のお考えだとするならば、仕方あるまい」

 

「パパスさん。此処に関わったからお話ししましたけど、この件は今のところ御内密にお願いします」

 

「そうだな。世界中で間違いなく騒ぎになる話だ。心の中に留めて置くとしよう」

 

 地球儀(竜星)を眺めながら、自分なりに考えて、分割結界に対しての追求をしない事にするパパス。今のようにきっかけがあったか、時が来るまでは、秘密だと考えているミコトに応えてパパスは頷き、ここで世界についての話は終了。そして全員は南西のどこでもドアを潜り、小屋からラインハット領に出る。

 

「……確かに、此処はまだ昼過ぎだな」

 

「はい。これが時差です」

 

 パパスは日がまだ高い空を見上げて、アキラの言った通りだと納得し、今日中に国王陛下への報告が間に合うと安心した。アキラは微笑んで、時差について改めて説明をする。ミコトの考え通り、見て貰った方が理解は早かった。そしてドラミちゃんは、預かった武器と道具袋を四次元ポケットから出してパパスに返却する。

 

「ヘンリー王子を送ってあげても、今後は大丈夫かしら」

 

「……王妃様を何とかしないと、問題は解決しないって、ゲマが言ってたな」

 

「その事だが、ヘンリー王子が危険な目に遭う心配はないだろう。捕まえる為の証拠もある」

 

「あっ!? それは!?」

 

 剣の鞘を背負ったパパスは、ラインハット王妃の事が気掛かりであるマァムとミコトに応えて、道具袋から依頼の手紙とラインハットのカギを取り出して、遺憾の表情を浮かべて話した。その二つは誘拐犯達から取り上げた物。ヘンリーは驚いて、あの時に誘拐犯達がお城の裏口から侵入してきたのか、納得してしまう。それだけの証拠品があれば、黒幕の王妃も言い逃れはできまい。という訳で、一件落着はできそうだと安堵するミコト達。国内が混乱する恐れがあり、如何にして防ぐか、それも王の務めだ。

 

 別にラインハット王からの褒美を望んでいないので、ミコト達はパパス達と同行しない。皆で話し合って、マーサを迎えに行く日は明日と決まって待ち合わせ時間と場所は、明日の朝(時計は無いが、午前九時頃)に此処小屋前となった。顔に出ていないが、パパスは六年間長く夢見た最愛の妻と再会する日が目の前まで来た事で、胸が高鳴っている。お父さんから詳しい話を聞くのは今日寝る前にするとして、お母さんに会えると分かったリュカは走り回りたくなる程の大喜びであった。

 

「ミコト殿、仲間の皆。今日は色々と世話になった。また明日も宜しく頼む」

 

「またねー! お兄さん、お姉さん」

 

「ニャァッ!」

 

「きがむいたら、おしろにこいよー! オレのこぶんたち」

 

 パパス達は笑顔で、ミコト達にお礼と別れの言葉を言った。パパスとリュカは「また明日」で、ヘンリーは冗談で子分呼ばわり。ミコト達は苦笑いしてヘンリーに「親分」と応えた後、パパス達に挨拶を返す。ドラえもんとドラミちゃんは「アレ」の準備で忙しくなると思いながら。

 

「それでは、ラインハットに戻るとしよう」

 

 南遠くに見えるラインハット王国へ向かって、平原上のモンスター共々を退けながら進んで行くパパス達。年齢に合わず強いリュカとヘンリーに驚きつつ、ミコト達は彼等を見送るのだった。子供二人は成長すれば、ゲマに勝てるかもしれない。

 

 

つづく

 




はい。そろそろダイの大冒険が始まると思いきゃ、突然のイベントが起きた第12話でした。

DQ5の原作と違って、此処ではパパスの上半身にシャツを着せています。

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