此処は森の中の村。その名前はネイル村。一部の若者達は城下町へ上京しているので人口は約100人。出入口は三つあり、北は木こりさんが良く通り、西は城下町へ行く時に通り、東は薬草等を採取する時や小川で洗濯する時に通る。中央に広場がある。北東と北西に木造の家々が建っており、南に畑が広がっていて馬小屋もある。全体は見た通りド田舎だが、静かで村人達は明るく生き生きして一生懸命に生活している。
ただ、気になる所が二つある。一つ目は、南東にある黒い瓦屋根で和風な建物である。そこだけ二階建てで大きい。二つ目は、何処にも井戸が見当たらない。代わりに中央広場真ん中で傘のような屋根の円形給水場が建っている。
給水場の東近くで、少女二人が会話をしている。一人目はミーナ。容姿は短めの金髪幼女で、年齢は7歳くらい。服装は黄色い服を着ている。二人目はマァム。容姿は背中まで伸びた桃色の長髪女性で、年齢は15歳くらい。服装はミーナと同じ黄色い服だが、ちょっと露出度が高い。ゴーグルとグローブとブーツを装備している所を見れば、森の険しい場所まで行く時もあるようだ。
「マァムお姉ちゃん。あの大きい家は変わってるよね。ドアが勝手に横へ開いたり、涼しい風が吹いていたり、夜は昼みたいに明るかったり……」
「そうね……。中の風呂場はアレと同じように水やお湯まで出るから今までの手間が無くて楽よ。更に、洗濯や絞りまでやってくれる魔法の箱とか、雨の時でも服を乾かしてくれる魔法の箱とか……」
大きい和風の建物について言いたい事が山ほどある二人。勝手に開くドアは自動ドア。涼しい風はエアコン。昼みたいに明るいは電気のLED照明。洗濯関連で魔法の箱は全自動洗濯機と乾燥機。という事を知らないのだ。魔法ではなく科学である事も。因みにマァムの言ったアレとは給水場の事で、水道がある。それが建つ前は井戸だった。今なら子供達の転落事故の心配もない。
会話から察するに、大きい和風な建物の中に村人共有の大浴場と無料コインランドリーみたいな洗濯場があるようだ。薪の用意と井戸何度往復の湯船水溜めで、かなり手間が掛かる家の風呂に入らず、その大浴場を利用する村人が増えている。二人の家族にも例外ではない。
「本当に凄いね……誰が建てたのかな?」
「……詳しくは分からないけれど、一週間前に訪れたお爺さんとお婆さんが建てたと、長老さまから聞いているわ」
マァムは先日の事を思い出してミーナに答える。一週間前に訪れた老人二人は一体、何者なのかと不思議に思う二人だった。生活が快適になったから、不安も恐怖もない。
――とまぁ、二人の会話は以上だ。
「ミーナ。もうすぐ昼ご飯だから、広場の建物で手を洗って家に戻りましょうか」
「うんっ」
マァムとミーナは広場の給水場で手を洗った後、ご機嫌な様子で自分の家に戻るのだった。恐らく此処は世界で一番、暮らし易い場所になっていると思う。
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西の出入口で、大江山ミコトと大河内アキラが村に入って来た。彼等はドキドキと緊張しながら、村全体を眺める。道中の森でもそうだが、初めての場所だから緊張しても無理はない。
暫くすると、杖をついた老人がミコトとアキラの所へ歩み寄って来る。その老人は村で一番の長老である。自分から皆から長老と呼んでいる為、本名は不明。容姿はハゲ頭で口髭と長い顎鬚がある仙人様みたいな感じだ。服装は上が白で下が茶色の服を着ていて、いつも杖をついている。かなりのおトシにも負けず、いつも元気な爺さん。
「おお……若者達よ、よく来たのぅ。儂は此処、ネイル村で一番の長老じゃ」
長老はスマイルで、ミコトとアキラを温かくお出迎えした。日本語で話してきた予想外で驚く二人。これならコミュニケーションに問題ない。好都合だ。
「はて? 驚くような事言ったかのぅ」
「あ、いえ……すみません」
驚かれると予想しなかった長老はキョトンとした。二人は直ぐに気を取り直して「失礼しました」と謝る。会話出来るという事に、またまた安堵するのであった。
「突然じゃが、話したい事があるのだ。儂の家まで着いてきてくれんかの」
「えぇ……はい。分かりました」
二人は戸惑った後、長老に返事した。そして彼に着いていき、村中の北西にある長老の家へ向かう。お年寄りは歩くのが遅いので、思ったより時間が掛かったと言うまでもない。あと「見かけない人」とこっちに視線を向ける村人達は何人か居たが、敵意も不安もなく気になっているだけである。
長老の家に入った後、長老に促されて二人は一礼してテーブルの椅子に腰を下ろした。次に彼は奥のタンスから白い封筒(A4サイズ)を取り出した後、テーブル向かいの椅子に腰を下ろす。家の中は電灯が一つも無いので薄暗い。でも目が慣れてきたら気にならない。
「先ずは確認じゃな。おぬしがミコトで、お嬢さんはアキラで間違いないかの?」
長老は封筒から写真を二枚取り出して言った。その時、二人は目を丸くして驚愕する。またまた予想外である。
「僕の写真だ……」
「私の写真だ……」
「シャシン? そういえば……あの老人が言っておったな」
その写真はミコトとアキラの顔写真だった。二人の呟きを聞いた長老は、上を向きながら先日の事を思い出す。彼が初めて写真を見た時は、本物に見える程までに出来過ぎた肖像画だと驚いたそうだ。つまり、この世界に写真という物はまだ存在しない。
「……長老さん。確かに私の名前はアキラです」
「僕も名前は間違いなく、ミコトです」
「おお、そうか。これであの老人夫妻の頼み事を果たせるわい」
気を取り直した二人は、本人であると肯定した。すると長老は、無事に会えた事を心から喜び応える。
「えっ? 老人夫妻……ですか」
「その頼み事は何ですか?」
「うむ。一週間前に老人夫妻が、この村に訪れて来てな」
アキラは首を傾げ、ミコトもその様子で質問した。長老は頷いて経緯を説明する。ネイル村に来た老人夫妻は、異世界から来たと言っていた。そして長老に頼み事をした。その後は村に施設を建てて、快適な生活を提供してくれた。全てが終わったら帰って行ったとの事だ。異世界なんて吹っ飛んだ話だが、不思議なものが多い施設を見たら信じたのである。
「あの大きい風呂はえぇぞ~! 夜でも昼のように明るいし、湯船に手すりと階段があるから出入りし易いし、お湯が雨のように降るやつは体を洗い易いわい! ふぉっふぉっ。それから――」
凄く気に入ったからか、あの施設についてマシンガントークする長老。一時間経っても終わらない。ミコトとアキラは、苦笑いしながら聞いているだけだった。
「――おっと、興奮してしまいおった。すまんの……ごほん。次は、頼まれた事じゃが」
ハッと気が付いた長老は謝って咳払いした後、頼まれた事について話す。それは、異世界に飛ばされてしまって、行き場のないミコトとアキラをネイル村に受け入れて欲しいとの事だ。して返事は「YES」と快く答えた。ウマのホネも知らない人を受け入れるなんて、普通は難しい。長老は良い人だからなのか、二人の写真を見て良い子と感じ取られたからなのか、どっちか分からないが。
「儂はミコトとアキラを歓迎するぞぃ。今日から村の一員じゃ。なぁに心配なさるな。皆は良い奴ばかりじゃからのぉ。ふぉっふぉっ」
「長老さん……ありがとうございます」
「……ありがとうございます。頂き物で恐縮ですが、感謝のしるしにこれをどうぞ。甘いお菓子です」
長老の受け入れに対して感涙したアキラは、頭を下げて感謝の意を表した。ミコトも頭を下げた後、鞄から京都お土産のおたべを長老に手渡す。本来ならルームメイトと食べるはずだったが、今となっては出来なくなった。それに、お礼に渡せる物は、これしか持っていない。あげたアキラ本人は、理解しているので何も言わなかった。
「いや、気を遣わんでも……。あっ、そうじゃった。老人夫妻から預かった物があるぞぃ」
「あ……」
「……」
長老は思い出して、封筒から預かり物を取り出した。それを見た二人は、血の気が引いて顔を青くする。預かり物はなんと、自分が持っているのと同じ携帯電話とIDカード学生証だった。って事はつまり老人夫妻の正体は、帰れる事も叶わず年老いていった未来の自分だという事になる。恐れていた事が現実となった故のショックだろう。因みに長老は、老人夫妻と二人の関係を孫かひ孫だと思っている。
「ふ、二人とも……大丈夫かの?」
「……いえ、私は大丈夫です」
「ただの貧血ですよ。ハハハ……」
心配する長老に対して、二人は大丈夫と無理して答える。ミコトは誤魔化している訳で、別に貧血ではない。
「そ、そうか……あまり無理をせんようにな。二人の住む所は、あの建物の二階にあると聞いておるよ。玄関の鍵はしもん……じゃったか? 良く分からんが……」
長老は無理するなと言った後、住む場所について伝えた。二人は頷く。指紋認証システムを知らない長老は老人(未来ミコト)から「指定した人物しか開かない魔法みたいなもの」と簡単な説明を受けたらしい。まほうのカギや鍵を開ける呪文が存在する世界だから、普通の鍵閉めはダメだと判断してこうなった。
――これで長老との話し合いは以上である。
「明日の朝集会でおぬし二人を紹介するから、遅れずに中央広場に来るんじゃぞ」
「はい。分かりました」
「了解です。その日にも宜しくお願いします」
アキラとミコトは微笑んで、長老に今日のお礼を言う。そして長老の家を後にし、中央広場経由で南東にある新しい家へ向かうのだった。表向きで二人は平然としていても、やはり元気がない。
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「あっ、先生……」
「えっ?」
村の北口から中央広場への道に出たミコトは、夕食用の薪束を持ったマァムに声をかけられる。彼女は村の北から薪を調達して家に戻る途中だ。そこで鉢合わせである。
「あっ、ごめんなさい。先生のメガネと似ていたから、貴方を見て声が出てしまったんです」
「そうでしたか。びっくりしましたけど」
人違いで足を止めてしまった事を謝るマァムに対して、ミコトは微笑んで「気にしていません」と応えた。彼の隣に立つアキラは苦笑いして、様子を見ている。
「……貴方達は旅人さんですか?」
「いいえ。こちらに事情がありまして、今日から此処に住む事になりました」
「まだ慣れていない内に、ご迷惑をかけてしまうかもしれませんが、宜しくお願いします」
此処では見かけない顔と思ったマァムは訊ねた。ミコトは顔を横に振って答え、アキラは丁寧にお辞儀する。マァムは実は、最近の噂を聞いて此処を訪れた旅人かなと思っていたりする。
「そうなんですか。私の名前はマァムと言います。分からない事があったら、気軽に声をかけて下さいね。と言っても、まだ15歳の子供ですけど」
「ありがとうございます。私の名前はアキラと言います。同じ年なんて奇遇ですね」
「うん。僕の名前はミコトと言います。年はアキラと同じ15歳です」
マァムは微笑んで親切に自己紹介した。アキラとミコトも微笑んで応える。それで自分と同じ年と知ったマァムは心中で驚く。どうやら自分より背が10㎝以上高くて年上の大人だと思っていたようだ。長老との話し合いで苗字は出なかったから二人は自己紹介の際、名前しか言わなかった。
同じ年だという事で今後から、敬語ではなく普段の喋り方で話す事になった。マァムは喜んで「友達になって欲しい」と言ったところ、二人は「勿論だよ」と笑顔で答えた。彼女がこんなに喜んでいるのは、生まれて今まで村の中に三年以内の年の差の人が居なかったからである。
――こんな訳で、異世界で初めて友達ができた。
「アキラとミコトは、何処の家に住む予定なの?」
「あの大きい建物の二階にあるって、長老さんから聞いた」
「……もしかして、建てた人のお孫さんかしら?」
「えっと……そんな所かな」
アキラはマァムに自分の予定住所を教えた。彼女の次の質問に対して、本当の事を話すと色々ややこしいと考えたミコトは孫であると答える。確かに未来の自分と言っても、誰にも信じられる話ではない。だから嘘は仕方ない。
「あの建物は変わってるから、二階にも興味があるわ。今度、機会があったら誘ってね」
「うん。分かった。約束する」
断る理由も無いとアキラは、笑顔で頷いて約束した。良い返事を貰えたマァムは、微笑んで「絶対よ」と応える。女の子同士の会話みたいで、ミコトは見ているだけだった。
それから色々会話した後、二人はマァムと別れて目的地へ再び足を進めるのだった。別れる際に「また明日」と言ったが、夜にアキラが村人共有大浴場へ行けば、今日でまたマァムと会えるかもしれない。
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「未来の僕とアキラが建てた家……か」
「近くで見ると大きいね……」
大きい建物の西近くに立つ二人は建物全体を眺めてコメントする。異世界に飛ばされて、もう見られないであろう日本の建物だ。なんとなく旅館っぽい感じ。その入口は、西側で真ん中から若干左にある。
「しかし……未来から来たという事は、タイムマシンを手に入れたんだろうか? まさか本当にあるなんて驚きだけど」
「うん。同感」
タイムマシンはドラえもん等の作り話の中だけのはずだと、未だ信じられないミコト。それに同感するアキラ。彼女は知らないが、実はクラスメイトの中に未来から来た人が居たりする。
「考えていてもしょうがない。中に入ろうか」
「そうだね」
ミコトはアキラを連れて建物の中に入る。入口の扉は長老の言っていた通り、自動ドアだった。
「休憩のロビーか……凄いな」
「うん。何人か村の人は、幸せそうにまったりしてるね。中はエアコンで涼しいし」
建物の中は、広いロビーだった。立派な一人ソファー四つで囲んだ円形テーブルが、いくつかある。奥に飲料ペットボトルの自動販売機(1本1ゴールド)もある。極め付けに、天井までデカイ金のまねきねこが奥の真ん中に配置されてインパクトがデカイ。北の自動ドアを通ると、コインランドリーみたいな洗濯場である。南に左から順で青色と赤色ののれんがあり、その先は大浴場である。
ロビーで何人か村の人がソファーで寛いでいるが、居眠りしている人も居る。天国のようで実にだらけてしまわないか、心配な所だ。自己責任であるが。
「そういえば、何処から電気が流れているんだろうね? 長老さんの口振りだと、この世界に発電所は無さそうだし」
「んー……何処かに建ててあるんじゃない? 原子力発電だったらヤバイけど」
電気に関して疑問を浮かべるアキラ。今のところ、分からないとミコトは言う。そこまで危険だと思っているなら、原子力発電は無いだろう。未来で自分自身なのだから。
二人は北東の階段を上って二階へ行くと、一つのドアが目の前にあった。その左の壁に指紋認証のリーダーがある。点灯ランプが赤になっていて、ドアロック状態だ。因みに階段の構造は北向きに上って左に折り返して、南向きに上るという造りとなっている。
「あの扉の向こうは、私達が住む所だよね」
「そうだね……今思ったけど、アキラと毎日一緒に居られるね。麻帆良に居た時は、大体一週間に一回しか会えなかったよ」
「あっ!? 確かに……。そういえば長老さんが老人夫妻と言ってたから、未来の私達は結婚してた気が……」
「ハハッ。結婚はまだ早いかな。まだ15歳だし、この世界について知らない事が沢山あるし」
苦笑いするミコトと、顔を赤くするアキラ。帰れない代償は大きかったが、早くも一緒に居られるという事は、二人にとって嬉しい話だ。二人は純情らしいので、結婚までの順序及び計画はしっかりと守るだろう。まぁ、同居というフライングを除いては。
ミコトはドキドキしながら、指紋認証リーダーに左手を当てた。すると点灯ランプが青に変わって、ドアロックが解除される。動作に問題が無かった事で安心する二人であった。
――こうして二人の新しい我が家に入った。
「やあ、おかえり」
「おかえりなさい」
「え!?」
「え!?」
玄関。笑顔でお出迎えしてくれる二人の人物を見たミコトとアキラは、時間が止まったかのように驚愕する。何故ならその人物は、ドラえもんとドラミちゃんだったからである。またまた、また予想外であるッ!
気を取り戻したミコトとアキラは「どうなってるの? これ」と戸惑いながら、靴を脱いで玄関を上がるのだった。二人っきりじゃなくて残念だったね。
つづく
はい。予想外な事が多い第二話でした。
次回は、あらすじにあった原因が明らかに!