二日目の朝、此処はネイル村の中央広場。雲は少し多いが、天気は晴れ。本日は朝の集会があるので、村人達が集まってきている。そんな中、大江山ミコトと大河内アキラとドラえもんとドラミちゃんの姿があった。ミコトとアキラの服装が、半袖長ズボンの登山ウェアとなっている。靴も山登り向け。村人に合わせたデザインになっていて、ミコトは緑色ウェアでアキラは茶色ウェアで二人とも黒色ズボン。上だけ色違いのペアルックだ。
「あっ、アキラとみんな。おはよう」
「あ、マァム。おはよう」
北の道からマァムと黒髪ロングのおばさんがやってきて、アキラ達に元気良く挨拶した。アキラが代表してミコトも、元気良く挨拶を返す。お互い元気一杯で何よりだ。
「そちらのご婦人は、お母さんかな?」
「ええ、そうよ」
「母のレイラと言います。娘とも宜しくお願いしますね」
マァムは笑顔で、ミコトの問いに肯定した。そしてレイラは微笑んで自己紹介する。自慢する訳でもないから、英雄であると自ら言わなかった。あの英雄と同じ名前だな、と思うミコトとアキラであった。
「マァムのお父さんは?」
「お父さんのロカは……八年前から行方不明なのよ」
父親の姿がないと気付いたアキラは訊ねると、マァムは寂しい顔で答える。八年前の夜、カクカクと高速で飛び回る変な物体が北の森に下降した為、父親のロカは様子を見に行った。それっきりで、帰ってこないらしい。
(カクカクと飛び回る物体……まるでUFOだな。……まさか)
マァムの話を聞いて、まさか宇宙人にさらわれてしまったのでは、と冗談ではない事を思ってしまうミコトであった。
「でも、きっと生きていると信じているわ。勇者のアバンさまと共に戦った人ですもの」
悲しまずに、ただ夫の帰りを信じているレイラ。その話にアバンの名が出た事で、ミコトとアキラは目を見開く。友達のマァムの両親が、英雄だと理解したのだ。
「心が強いんだね。マァムのお母さん」
「僕も、そう思うよ。英雄に関係なく、尊敬出来る人だ」
レイラの強さを感じて、いつまでも落ち込んではいられないと、改めて前向きになるアキラとミコト。二人は実は昨夜、ベッドの中で涙を流しながらうなされていたりする。
「皆の者よ。待たせたの」
杖をつきながらゆっくりと、北の道からやってくる長老。彼の姿を確認した村人達は、元気良く「長老さま」と呼んだ。そして静かに、お言葉を待つ。新参のミコト達も周りに従う。これにより朝の集会の始まりである。
「……ウム。いつも通り、元気な顔で何よりじゃ。儂からの用件は三つあるぞぃ」
長老は村人達の様子を見回した後、いい笑顔になり言葉を告げる。三つの用件は新しく入った人の紹介や、最近の出来事二件についてだ。
「先ずは、新しい仲間の紹介じゃな。……ミコト、アキラ。こっちに来なされ」
「はい。長老さま」
長老に呼ばれたミコトは手を挙げ、代表して返事をした。そしてアキラを連れて、皆の前に出る。昨日は長老を「さん」付けで呼んでいたが、村人達の態度を見て「さま」付けで呼ぶ事になった。
「遠い国から、引っ越して来たミコトです。こう見えて15歳ですが、みなさんの力になれるように努力します。宜しくお願いします」
「彼と友達のアキラです。まだ慣れていない内に、ご迷惑をかけてしまわないように努力します。宜しくお願いします」
二人は自己紹介して一礼すると、パチパチと村人達に拍手を送られる。礼儀正しくてしっかりした子だと、受け取れた大歓迎であった。なので二人は照れくさそうな様子だ。
「ふぉっふぉっ。二人とも良かったの。紹介ご苦労じゃった。戻って良いぞ」
長老は安堵の笑みを浮かべて、労いの言葉を送った。二人は笑顔で返事して、村人達の集まりに戻る。そこでドラえもん達とマァム達も労う。これで一つ目の用件は終了。
「次は、四日前のライオンヘッド騒動についてじゃ」
次の用件はライオンヘッド騒動の報告だ。ライオンヘッドが村に入ってきた時、長老とレイラとマァムと警備員二人が戦闘に出た。戦わない人達は、お城よりも頑丈で安全のミコトハウスに避難させた。戦闘が始まったら、長老がライオンヘッドにマヌーサをかけた。狂暴化していない状態は呪文耐性が低い為、あっさり効いた。次はレイラがスクルトで、皆の守備力を強化。そしてマァムと警備員二人が、ライオンヘッドと交戦。あとは長老がメラミでライオンヘッドに大ダメージを与え、マァムが会心の一撃でトドメを刺した。マヌーサが効いた事や強力なベギラマを使ってこなかった事で、負傷者なしの勝利である。平和な時期だから油断しないかぎり、当然の結果だ。
当たり前だがミコトとアキラは、マヌーサやスクルトやメラミ等の呪文を知らない。密かにドラえもん達が意味を教えてくれたが、後日にノートパソコンで一般常識の勉強だ。
「これで最後の用件じゃ。……まぁ、良い知らせでも悪い知らせでもないがの」
三つ目は、モンスター達のロモス王城襲撃について。二日前の夜、ロモス城でパーティーが開かれた。しかし突然、謎の少年が現れてモンスター達を呼び出し、襲いかかった。その目的は悪くなく、ただ仲間を取り戻しに来ただけである。聞けば勘違い冒険者四人組がデルムリン島から、とても珍しいモンスターのゴールデンメタルスライムを捕えて、ロモス王に献上したとか。先述の通り仲間を取り戻すだけなので、あの冒険者らを除いて皆にケガ人は出なかった。これは、ただのお騒がせである。
この話を聞いた事により、モンスター達の王城襲撃の噂を聞いて、不安がっていた者達は安心して落ち着いた。だから長老として、住人達に伝えなければならなかった訳である。
「話は以上かの。皆の者、ご静聴ご苦労じゃった。これより朝の集会を終わる。持ち場に戻ってくれ」
長老が朝の集会終了を告げると、村人達は解散してそれぞれの持ち場へ向かって行った。マァムは「一度家に戻る}と言ってレイラと帰っていく。広場に残ったミコト達は、マァムがまた此処に戻るのを待つ事になった。因みにミコト達の誘いで、マァムの昼食はミコトハウスで摂る事にした。
「デルムリン島の少年かぁ……」
「気になるの?」
「うん。凄い子だなーって。仲間を助ける為に、お城に突入するんだから」
「確かに……。凄い子だよね。勇者みたい」
長老の話を思い出して、デルムリン島の少年について感心しながら会話するミコトとアキラ。あの少年の行動は、誰にもマネ出来るものじゃない。余程、勇気が無いと無理である。アキラの言う通り、正に勇者!
「じゃあ、昼からデルムリン島へ行こう。未来のミコトが造った船があるんだけど、試運転も兼ねて」
「心配しなくても大丈夫よ。モンスターが沢山住んでいるけれど、あの島だけ特別だから危険は無いわ」
ドラえもんの一言で驚く二人。それで心配するが、ドラミちゃんが微笑んで「大丈夫」と答える。デルムリン島のモンスター達は、争いを好まないので安全だそうだ。そもそも危険だったら、あの少年は生きていない。
「でも、日帰り出来るの?」
「大丈夫。海の上にシーゲートと言う、超大型のどこでもドアがあるんだ。船もリニアの二倍速いよ」
「リニアの二倍って……」
ドラえもんは苦笑いして、時間を心配するアキラに答える。時速1000㎞で進む船を想像して、顔が引き攣ってしまうミコトであった。当然アキラも。
「お待たせ。……あら、二人とも顔色悪いわよ」
「な、なんでもないよ。アハハ……」
笑って誤魔化すアキラとミコトに対して、戻って来たマァムは首を傾げる。暫くして落ち着いてきたところで、ミコト達はマァムを連れてミコトハウス二階へ帰るのだった。
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「お邪魔します。……あら、此処も靴を脱ぐのね……」
ミコトハウス二階の玄関。予想外な顔をして、ブーツを脱ぐのに時間が掛かるマァム。ブーツは面倒だから今度来る時は、脱ぎ易い靴にしようと思う彼女であった。
余談だが、靴を履かないドラえもん達に疑問を感じたマァムに対して、常に三ミリ浮いているがら問題ないと説明。そしたら「何それ、ずるい」と言っていたそうな。
「これは何か、分かる?」
此処はリビング。北のソファーにマァム。南のソファーに左からミコトとアキラ。東の厚クッションにドラえもん。西の厚クッションにドラミちゃん。ミコトはテーブル上の地図に指差ししながら、マァムに確認させる。
「世界地図ね。紙が白くて色があるから綺麗ねぇ」
「うん。でもこれはギルドメイン州の地図と言って、世界地図の一部なんだ」
マァムは常識で当たり前の答えを出すが、アキラが一部訂正する。そこでミコトは、ドラえもんから地球儀(竜星)を受け取ってテーブルの上に置く。行き成り大きい物の登場で、びっくりするマァム。因みにマァム視点で、フルカラーの地図を見るのは初めてである。
「これは地球儀と言って、正確で本当の世界地図だよ」
「ええっ!? 私の世界って、太陽や月と同じだったのね……今まで平面だと思っていたわ」
地球儀(竜星)を珍しそうに見ていたマァムは、ミコトの説明を聞いて、自分の世界が丸かった真実で、衝撃的に驚く。その後もミコトは地球儀(竜星)を回しつつ、北極と南極と六カ所の大陸群を説明していく。行った事あるかの勘違いしないように、昨日知ったばかりだと付け加えて。
「成程、理解したわ。それで気になるんだけど、四角の赤い線は何かしら?」
「この赤い線はマァムが今まで、知らなかった最大の理由だよ」
こういう質問がくると予想していたアキラはシリアスな表情でマァムに、分割結界の説明をする。いったい誰が何の為にこんな事をしたのかは分からないのも話す。
「成程ね。世界中の人達が知ったら大騒ぎよ。……あの結界から出る方法はあるのかしら」
「僕もアキラも詳しくは分からないけど。一応、その手段はあるらしいよ。……ドラえもん、説明お願い」
「うん。分かった」
世界について教えてくれたお母さんと先生も知らないだろうなぁと思うマァム。分割結界から出られるかと思ったところで、ミコトはドラえもんに詳しい説明を頼んだ。始めはミコトランドの事をマァムに話してから、あの手段について説明する。ミコトランドに六つのどこでもドアが設置されており、ミコトランド周辺の海に船専用のシーゲートが六基も建造されている。そこを潜れば、結界を越えて世界を渡れる。何故可能なのかのカラクリについては、宇宙や人工衛星や通信など、彼女に理解が追い付かない為、話していないが。
「成程。旅の扉みたいな物なのね」
「旅の扉?」
「ええ。見た事はないけど、離れた所まで一瞬で行けると、先生から聞いているわ」
マァムはアキラに、旅の扉の事を話す。旅の扉は、二つセットで遠い所まで直ぐに行く事が出来る古代の魔法技術。どういう外見なのかは、まだ見た事がない。つまり特徴は、再現どこでもドアと同じである。聞いたミコトは興味がある様子。
「そういえば、マァムの先生はどんな方かな? 僕のと似たメガネをかけている事しか知らないけど」
「先生は人生で一番尊敬出来る方よ」
先生の事が気になるミコトに対して、マァムは嬉しい笑顔で答えた。そして自分のペンダントに手を添えて、遠い目で語る。先生の名前は勇者のアバン。魔王を倒して平和になった世の中に彼は、ギルドメイン州を回って旅している。そこで弟子(教え子)を見つけたら、将来の為に魔法や武術や一般で知らない知識など、色々教え込んでいる。マァムは二番目の弟子で、母と同じ僧侶を目指しての修行を受けた。しかし僧侶の魔法はベホイミだけしか習得出来なかった。このままでは母のように人の役に立てられるのかと悩んだが、父親譲りの力があるのでハンマースピアの扱いも学んだ。母のように人を助け、父のように人を守る。それがアバンの考えたマァムの行動スタイルである。とは言え、近距離しか対応出来ない事から、魔弾銃という攻防の遠距離対応アイテムを頂いた。アバンの人間性はとても優しく、豊富な知識で悩みを解決してくれる。そういう事から尊敬出来る人だ。料理も上々らしい。
「卒業して別れる前に、お守りを頂いたの」
「成程。お風呂の時でも肌身離さず、大事に着けてたね」
雫のような宝石のペンダントを見せながら話すマァム。アキラは昨日の事を思い出して納得する。ペンダントの名前は アバンのしるし と言うそうだ。アバンしか作れない上に卒業の証である為、それを着けている人はアバンの弟子だったと分かる目印だ。
「良い話を聞いたら、僕も会ってみたくなったなぁ」
「ミコト。アバンに会いたい気持ちは分かるけど、ギルドメイン州から彼を探し出すのは大変だよ」
アバンに会いたい気持ちが膨らむミコトだが、ドラえもんは苦笑いして「今は難しい」と応える。確かにギルドメイン州は日本周りより若干広いので、手掛かり無しで探すのは難しい。
――これで世界やアバンについての話は以上だ。
「そろそろ、お昼ね。次の予定はあるの?」
「ドラえもんに聞いたところ、ミコトランドのホテルで昼食を摂った後、新しい船の試運転でデルムリン島まで行く予定だよ」
「ええっ!? デルムリン島へ? でも、夕方まで此処に戻れるのかしら?」
「時間は大丈夫よ。ギルドメイン州のシーゲートからデルムリン島まで、船で30分くらいかしら」
もうすぐ昼になる頃、ミコトはマァムに次の予定を伝えた。デルムリン島に行くと聞いたマァムは驚いてアキラと同じように時間を心配するが、ドラミちゃんは「大丈夫」と答える。以前に船がリニアの二倍速いと聞いているミコトとアキラは、とても不安な様子であった。
話が終わった皆はドラえもんに着いて行って、ミコトハウス二階南東部屋のどこでもドアを潜り、ミコトランドに足を踏み入れるのだった。
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人工島ミコトランド。空高くから見れば、島の形は横正六角形となっている。北部に大きい山があり、その東と西に森が広がっている。中央部に噴水広場があり、北に五階建てのタワーホテル、北東にミニドラハウス、北西にスタッフロボハウス、東にどこでもドアの館、西に配送センター、南東に研究所、南西に工場、と言った建物が囲んでいる。広場から南へ進むと海岸砂浜が広がっている。海岸砂浜の東と西に灯台と船ドックがある。
どこでもドアの館。真上から見れば横正八角形になっていて、青い屋根に純白の壁。
その内部には、北西と北と北東と南西と南と南東で六台のどこでもドアが設置されている。東に巨大な地球儀(竜星)のオブジェがあり、西は外に出る出入口となっている。白い床に青いライン八芒星(北・南西・東・北西・南・北東・西・南東・北)のデザインがあり、天井はプラネタリウムみたいになっている。
「綺麗な星空……凄いわね」
「プラネタリウムみたい……」
「結構、造り込んでるなぁ……」
北のどこでもドアから入ってきた皆。館の幻想的な内装を見て、見惚れてしまうマァムとアキラとミコト。ドラえもん達はドヤ顔している感じだ。
「海ね……五年ぶりかしら」
「見ていると、泳ぎたくなるなぁ」
「でもアキラ。今は水着を持ってないよ」
靴を履いて館から噴水広場に出た皆。南に見える広大な海を見たマァムは懐かしむ。その傍でアキラの水泳衝動を落ち着かせるミコト。マァムにとっての海は、アバン修行以来である。アキラは泳ぐ事が大好きなので、ミコトが必死で追い続けている程だ。実際、小学スイミングスクールの進級テストで、確実合格狙いに必死だったとか。能力的ならミコトは「文」で、アキラは「武」である。
タワーホテル。五階建ての洋風なホテルで宿泊は、無料セルフサービス。なのでカウンターに人は居ない。二階から四階は、パスとトイレ付の二人部屋の宿泊室エリア。五階は展望レストラン。一階エントランスで南口は噴水広場、北口は修行場に通じている。
ホテルの中にエレベーターがあるが、ミコト達は使わなかった。階段上りも修行の一つだろう。それを考えて、決めたのはミコトである。満場一致で反対なし。
「あら。それはニホンって国の、食事前の挨拶なのね。……い、いただきます」
五階レストラン内の、南の海が一望出来る窓側テーブル。合掌して食事前の挨拶をするミコト達を見たマァムは、珍しい顔をした後で合掌して彼等と同じ挨拶をする。マァムの日常で食事前の挨拶は「アーメン」と神様に感謝のお祈りをしている。異世界でも地球のキリスト教と同じだ。
ミコトとアキラとマァムは、シーフードサラダとカルボナーラとオニオンスープと言ったランチセット。ドラミちゃんはメロンパン。相変わらずドラえもんはどら焼き。だからミコトとアキラが「それ、おやつだよ」とツッコんでしまったが、彼に「いいの」と受け流される始末であった。
皆は昼食を終えた後、ホテルを出て噴水広場を通って南の砂浜へ行った。そこから東へ進み、東の船ドックに入る。西にも船ドックがあるが、彼等の目的地ではない。
「あら、大きくて立派な船ね」
「い、意外だ……」
「あれ。どう見ても、旧時代の帆船だよね?」
「外見はね……あれが、ぼく達の船。高速帆船ドラドーラ号だよ」
「外見を帆船にしないと他の港に入る時、色々と面倒でしょ」
ドックの中にある船を見たマァムは造った人を褒めるように応え、アキラは聞いたイメージと違った事で心中驚き、ミコトはアキラと同じ反応でドラえもんに訊ねた。ドラえもんは自信満々で答える。仮に船の外見を現代物にしたら、目立ったり怪しまれたりして、ドラミちゃんの言う通り、世界各地の港で入港を断られる場合がある訳でこうなった。
高速帆船ドラドーラ号。全長32メートル。全幅8メートル。全高16メートル。最大船速600ノット。エンジンは重力制御システム。動力は太陽光発電の大型人工衛星から送電される電気。外見はマスト二本の中世木造帆船だが、主にネオハルコンとアルティメットカーボンナノチューブで組み立てられた船体である。内装は車両内のような衝撃吸収材。帆は空気の抵抗を全く受けない特殊な物で、デザインは日本国旗の「日の丸」とその下に毛筆書き「大和魂」が描かれている。船にエンジンがあるので、帆は唯の飾りである。甲板上の建物は一つだけで、それは船尾近くにある。大きさは高さ約2メートルの六畳部屋くらい。その中は、下り階段だけ。
ネオハルコンとは、実はオリハルコン合金である。それはオリハルコンにヒヒイロカネとタングステンを合成した金属で、硬さと粘りを両立した強度は……なんと五倍! この世界の神々も予想しなかったバグの最強金属だ! 恐らく、タングステンという金属はこの世界に存在しない所為だろう。ミコトとアキラの世界に存在するタングステンは、ミコトランドの機械による物質変換で創れる。オリハルコンもヒヒイロカネも創れるが、ミコトとアキラの世界では神話の中で架空である。因みにヒヒイロカネは、ロトゼタシア州でしか採れない。
アルティメットカーボンナノチューブとは、名の通り研究でその可能性を極めた物である。アルミニウムよりも軽く、オリハルコンと同等で硬く、ネオハルコンの次に粘り強い。ネオハルコンは重い上に魔力と電気を受け付けないが、こっちは逆である。つまり、簡単に千切れない電気回路を作れたり、非力な人のための最強防具を作れたり出来る。
「ぼくは船を操縦するから、皆は甲板で船旅を楽しんでね」
皆は船の左がら乗った後、ドラえもんは船尾近くの建物の左サイドドアから中に入っていく。船の操縦席は船首甲板の下にあり、スクリーンを見ながら運転する仕組みになっている。
皆は船首甲板で待っていると、船がゆっくり前進し始めた。そして南東向きの船ドックから、広大な海へ出る。マァムとドラミちゃんは楽しそうに前を見ているが、ミコトとアキラはドキドキしている様子だ。二人はリニアスピードを警戒しているのだろう。だから船首近くのマストの傍に立っている。
「風が涼しい……思ったより速く進むわね。この船は何の力で、動いているのかしら」
「ミコトハウスと同じで、太陽の力を利用しているわ」
「そうなの? 太陽は凄いのね……」
ドラドーラ号は現在、ミコトランドの南東から北へ移動中。船速は30ノット。帆船に風の力で動いているとは思えない疑問を感じたマァムに対して、ドラミちゃんは太陽を指しながら説明する。ソーラー太陽発電について説明してもマァムには理解が難しいので、簡単に「太陽の力を利用」と説明である。
「あら。二人とも、どうしたの?」
「いつ、リニアの二倍に出ないか。心配で……」
「流石に行き成り、そんなスピードは出ないわ。危ないし」
「そ、そうだよね……うん」
マァムは前を眺めている中、ドラミちゃんは後ろのミコトとアキラの様子に気付いた。それでミコトの一言に対して、苦笑いするドラミちゃん。そして落ち着くようになるアキラ。落ち着いた二人はマストから離れて前に移動する。
「あら、止まったわ」
船の停止に気付くマァム。そう、ミコトランドの真北に着いたのだ。そしてドラドーラ号は、西向きから北向きに回頭する。
暫くすると、前方の海面に大きな水柱が立った。そこから超巨大な白い扉がせり上がっていく。あれこそが、シーゲート登場の瞬間である。高さは180メートルで、横幅は90メートル。
(あ、あれがシーゲート……)
(な、なんて巨大な扉なの……)
(未来の僕が、あれを造り上げたなんて……信じられない)
天まで届くかのようなシーゲートのド迫力に、アキラとマァムとミコトは絶句した。その間に、シーゲートの二枚扉が左右へゆっくりと開く。こうして扉の向こうに、ギルドメイン州南部の大海が目の前に映る。かなり遠くにうっすらと、見える大陸はベンガーナ王国だ。
――そしてドラドーラ号はシーゲートを潜り、ギルドメイン州南部の海域に出た。
ドラドーラ号は、北向きから西向きに回頭する。それからシーゲートは扉が閉まり、海の中へ隠れるように沈んでいく。海の綺麗な風景に、シーゲートは邪魔なのだ。だから普段は、海の中に引っ込んでいる。
「あっ、ドラえもん。……船長の服を着るなんて本格的だね」
船尾近くの建物の右サイドドアから出てこっちに来るドラえもんの服装を見て、ミコトは苦笑する。ついでにアキラ達も。ドラえもんの格好は、やや暗い赤色の中世船長服であった。まるで映画ドラえもんを、見ているかのような雰囲気だ。
「皆。これからデルムリン島まで、最大船速で航行するから中に入ろう」
皆はドラえもんに着いて行って、船尾近くの建物の右サイドドアから中に入る。最大船速と聞いたミコトとアキラは、冷や汗を流していたが。
ドラドーラ号操縦室。前に大きなワイドスクリーンと運転席があり、その後ろに観光バスのような座席が並んでいる。中は暗いが、スクリーンが明るいので映画館みたいだ。現在スクリーンに、海の水平線上にうっすらと、小粒のように小さいデルムリン島が映っている。
「座席に座ってシートベルトをしめてね」
皆はドラえもんの指示に従って前の座席に座り、シートベルトをしめる。当然、初めてのマァムはシートベルトのしめ方が分からないので、隣席のアキラに教えてもらっている。皆の座席位置はスクリーンに向かって左からマァム、アキラ、通路、ミコト、ドラミちゃん。
「うん。準備はオッケーだね」
「ねぇ、アキラ。これから何が起こるの?」
「えぇっと……この船が、とんでもない速さで進む、かな」
「ええっ!?」
「マァム。喋らないで、じっとしてて。舌を嚙むよ」
ドラえもんは皆の様子を確認した後、運転席に座った。マァムはアキラの答えで驚くが、ミコトは苦笑いしながら注意する。そしてミコトとアキラとマァムは、ジェットコースター発進を待つかのように息を呑む。
暫くすると浮遊感が出て、海の波による船の揺れが無くなった。その直ぐに前から強烈な「G(ジー)」が襲い、皆の背中を座席に押さえつける。飛行機が離陸する時の急加速よりも、きつい。
こうしてドラドーラ号は600ノット(およそ時速1111㎞)で、デルムリン島へ爆走するのだった。船内の皆は、G(ジー)に耐えながら……。
つづく
はい。船が登場する第四話でした。
次回はダイが登場します。