異世界の人々は北極南極を知らない   作:峻天

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005 勇者の大志を抱く少年

 デルムリン島。この島はギルドメイン州の一番南西にある。島の東部から南部までは、海岸砂浜が続いている。北東部は坂と岬があって、遠く離れたラインリバー大陸を一望出来る。北部から西部までは、第二の森が続いている。南西部は、島中央の山から流れる川が海に出ており、その川は島で貴重な淡水である。中央部に大きな山があり、その周りに第一の森が囲んであり、更に平原や草原がその森を囲んでいる。あと、島全体に大小の岩・岩山が、散らばるように存在している。……以上が島の大まかな構造だ。

 

 デルムリン島に、変わったモンスター達が、平和に暮らしている。何が変わっているのかと言うと、他の大陸のと違って争いを好まず、人間臭い感じがある。食べ物に関しては、大地の恵みがあって野菜や木の実が良く実り、魚も良く獲れる。だから共食いは絶対にしない。そう、全員家族も同然だ。

 

「やあぁっ!」

 

 中央の森の直ぐ南東。木の棒を剣のように振るい、カカシみたいな物にガンガン打ち込んでいる少年。彼の名前はダイと言う。容姿は黒髪のクセ毛ツンツン頭で、童顔でも勇気溢れるような顔立ち。そして左頬に傷跡がある。年齢は11歳くらいだが、身長が平均より少し低い。服装は薄い青色の布の服で、白い包帯を腕輪みたいに巻き、足はハダシである。

 

「ピィ! ピィ!」

 

「だあぁっ! ……あっ、ゴメちゃん」

 

 慌てている様子で、東の空からやって来た翼付きの金色スライム。カカシみたいな物を打ち続けていたダイは、彼の叫び声に気付いて東の方に顔を向ける。

 

「ピィ! ピピィ!」

 

「なになに……こっちの砂浜に来てほしいって? 分かった」

 

 翼付き金色スライム改めゴメちゃんは、ジェスチャーで「砂浜に来て欲しい」と伝えた。読み取れたダイは頷いて木の棒を右手に持ったまま、東の砂浜へ走って行く。彼を追うゴメちゃんも、かなり素早い。

 

「うわぁ、船がいつの間に!?」

 

「ピィー!?」

 

 砂浜から東の海を見て、船が100メートル近くにまで来ている事にダイは驚いた。だがゴメちゃんはダイ以上に驚く。その理由は、ダイを呼ぶ前に船を見た時はかなり遠く離れていたが、今は近くにまで来ていたからである。帆船にとって有り得ない事なのだ。

 

 あの船、ドラドーラ号はデルムリン島まであと2㎞の海域で、最大船速600ノットから急停止した。次は10㎝の浮遊状態が解けてゆっくり海面に着水した後、船速15ノットの通常航行で再び前進する。そこで、島の海岸まであと100メートル位まで進んだ所で、ダイ達が東の砂浜にやって来たという訳だ。

 

「おれは、じいちゃんを呼んでくる!」

 

「ピィ」

 

 慌てた様子のダイはゴメちゃんに伝えた後、全力疾走で長老の家に向かって行った。この場に残ったゴメちゃんは海上のドラドーラ号の様子見だ。ドラドーラ号は向きを反転するように回頭した後、北東の岬の海岸側にバックして停まる。そして船の乗り降りする所の左フェンスが傾くように可動して、岬右側までの架け橋となる。中々のハイテクだ。

 

「じいちゃん!」

 

 中央の森の直ぐ南で川の傍にある丸い石の家に走りながら入っていくダイ。その家は長老の家である。

 

「ッ!? ……ダイか。何があった?」

 

 家の中で木製の杖を布で磨いている年老いた鬼面道士は、ダイの呼び声でびっくりする。その鬼面道士の名前はブラスと言い、デルムリン島の長老である。また、ダイの育ての保護者でもある。年老いているので、肌の色が真っ赤ではなく人間に近い肌色までに薄くなった。身長はドラえもんと同じくらい。

 

 家具や調理器具やダイの服など、家の中にある物は海のモンスター達が拾ってきた物である。つまり、嵐で沈没してしまった船にあった物を、使わせていただいている訳だ。何故なら、モンスター達だけで作れる筈がない。

 

「大きい船が、島に来てるよ!」

 

「大きい船じゃと!? ……むぅ、先日に大変な事があったばかりというのに……」

 

 ダイから話を聞いて、ブツブツ言いながら頭を抱えるブラス。先日にあった大変な事とは、突然やって来た勘違い冒険者四人組が島のモンスター達に危害を加えた挙句、ゴメちゃんを捕獲して行った事件である。この次に大きい船と聞けば、きっと厄介事があるに違いないと、誰でも思うだろう。だから頭を抱えてしまうのも無理はない。

 

「……とにかく、船の所に行くぞ!」

 

 厄介事に対する覚悟を決めたブラスは磨き布をカゴに放り込んだ後、ダイを連れて家を出た。そして走って東の砂浜へ向かう。注意も抜かりなく、ダイに「用心せい」と伝えている。

 

「あれか……。岬に降りるつもりじゃな」

 

 東の砂浜に着いたブラスは、北東の岬近くに停まっているドラドーラ号を見て冷静に考え、船の人達が降りて来るであろう場所を理解する。

 

「じいちゃん。船の上に赤い丸がついてるよ」

 

「まるで太陽じゃな……。紋章か?」

 

 ドラドーラ号の帆の裏にもある「日の丸」を見た二人は、太陽のようだと感じながら会話した。その次はゴメちゃんと合流して、警戒しつつ北東の岬へ向かうのだった。

 

 

==========

 

 ドラドーラ号を停めてパーキングモードにした後、皆は左サイドドアから甲板に出た。そしてドラえもん、大江山ミコト、大河内アキラ、マァム、ドラミちゃんの順でデルムリン島の岬に降りる。因みにパーキングモードとは、船が流されないように重力制御で位置固定するものでイカリ代わりである。

 

「無事にデルムリン島に着いたから、記念写真を撮ろう」

 

「キネンシャシン?」

 

「それはね、今の思い出を絵にして残す物だよ」

 

 皆に向けて笑顔で話しながら、四次元ポケットから大きめのカメラと三脚を取り出すドラえもん。そこで首を傾げるマァムに対して、アキラは記念写真について分かり易く説明する。それでも分からないので「百聞は一見にしかず」で実際に撮ったほうが早い。因みにカメラは撮って直ぐに写真が出る機能なので本体は大きめである。無論、インスタントカメラより高性能だ。

 

 皆はデルムリン島中央の大きい山や森を背にして、時限自動撮影で写真を撮った。それでカメラから出てきた写真には、笑顔の四人とキョトンするマァムが写っている。更に! 写真の一番左に、後ろで離れた所のブラスとダイとゴメちゃんも写っていた。記念写真撮影を知らない二人と一匹は「何をしているんだ?」と怪訝な顔である。

 

「ねぇ、じいちゃん。いま光らなかった?」

 

「う、うむ。雷かと思ったぞ……」

 

「ピィ」

 

 知らなかったマァムも同じだが、カメラのストロボ―のフラッシュで驚くダイ達。正に不意打ちであった。

 

「あれ? 後ろに人が居る」

 

 設置したカメラの所へ行き、写真を確認したドラえもんは、呟いてダイ達の居る方に顔を向けた。ドラえもんの様子を見たミコト達もつられて、ダイ達の居る方に顔を向ける。そこで二組とも、お互い目が合う。

 

――暫しの沈黙。

 

「……初めまして。僕の名前は、ミコトと言います」

 

「これはご丁寧に……わしは鬼面道士のブラスと言います。此処デルムリン島の長ですじゃ」

 

 ミコトとブラスは代表として組の前に出て、お互い挨拶を交わす。デルムリン組は警戒している為、握手出来る雰囲気じゃなかった。訪れた相手側に武器を持っていないからと言って、魔法が使えるかも知れない為、安心は出来ないのだ。

 

「……そなた達は、何の目的で島を訪れたのですかな? ……もしや、お連れのタヌキを受け入れて欲しいとでも?」

 

「いえ。こちらは此処を折り返し地点にして、新しい船で試しに船旅をしています」

 

「そうでしたか……ご立派な船をお持ちですな」

 

 ミコトは自分達の目的や島に迷惑をかけない事を、ブラスに話した。話を聞きながらミコトの目を見た彼は、悪意が全く無いと感じて安堵する。そして話を信じる事にし、ドラドーラ号に対してお世辞を言う。

 

「……ぼくはネコなんだけどね」

 

「え、そうなの? 私はてっきりタヌキかと思ったわ」

 

 ブラスに「タヌキ」と言われたドラえもんは「やっぱり」と苦笑いした。そして認識を改めるマァム。本物のドラえもんだったら、激怒するところだ。多分、ネイル村の皆も「タヌキ」と思っているだろう。

 

 デルムリン組の警戒が解けた所でお互いの距離を縮めた後、ミコト組から先に自己紹介をする。当然、ドラえもんは抜かりなく「ぼくはネコです」と言っている。重要!

 

「おれは、ダイ!」

 

 一回ジャンプしてブンブンと元気良く木の棒を振り回しながら自己紹介するダイに対して、微笑ましい笑顔のミコト達とゴメちゃん。そして「少し落ち着かんか」と呆れるブラス。

 

「で、こっちがゴメちゃん。おれの友達さッ!」

 

「ピィ!」

 

 元気なダイに自己紹介されたゴメちゃんは彼の頭の上に乗って笑顔で「ピィ(宜しく)」とミコト達に応える。こういう仲の良いスキンシップを見れば、島のモンスターの中で一番の友達だろう。小動物好きのアキラは、羨ましそうであった。

 

「ブラスさん。ダイって子の両親はおられますか?」

 

「残念ながら、この島におられませんな」

 

 ブラスは遠い目をして東の海を眺めながら、ミコトの質問に答える。11年前に、赤ん坊のダイを乗せたゆりかごを乗せた小舟がデルムリン島に流れ着いたとの事だ。両親は息子を優先避難させて船の運命を共にした可能性が高いと、予想されている。あくまで予想なので、きっと生きていると信じたいのも本心である。

 

(赤ちゃんだけ小舟に……)

 

「生まれたばかりから大変だったのね……」

 

「うん……」

 

 赤ん坊一人の漂流という壮絶な話で絶句してしまうミコト。話を聞いて、悲しそうにダイを見るマァムとアキラ。漂流は大人でも過酷な環境なのだが、生き延びて後遺症もなく元気である。奇跡というか、並外れた生命力だ。

 

「おれ、不思議な夢を見る事があるけど、お父さんとお母さんなのかなぁ……」

 

 両親についての話を聞いたダイは、自分の頭に左手をあてながら呟く。ごくまれに見る夢だそうで、小屋の中で二人の人物が出てくるが、顔がぼやけていて良く分からないらしい。

 

 話をしている途中で突然、地面に大きな影が通り過ぎた。それで驚いた皆は、西から東へ通り過ぎた何かを見ようと空を見上げて東を向く。

 

「うわぁ……」

 

「なんだあれ!?」

 

「大きい鳥……?」

 

「あれは、もしかして……」

 

「おお……あれは、正しく伝説の神鳥」

 

 東の空を見たダイ、ミコト、アキラ、マァム、ブラスの順で呟く。デルムリン島を通り過ぎて東の彼方へ飛んで行く何かは、藤色で鷲のような大きい鳥であった。マァムとブラスは、心当たりがあるらしいが。

 

「伝説の神鳥、ですか?」

 

「うむ。まだ謎は多いが、天界から舞い降りて世界を見守っておられるそうじゃ」

 

 ブラスはミコトの復唱に応える。詳しい事は未だ不明。突然現れて、直ぐに空の彼方へ消えていく。そんな事から天界の神の使いだと推測されている。幸せの青い鳥みたいに、あれを見た者は幸せが訪れるという伝説もあるようだ。因みにブラスが神鳥を見たのは13年ぶりであり、マァムは初めてである。

 

――しかし、神鳥について少し詳しい者が此処に居る。

 

「あれはレティスと言って、レティシア州から飛び回っているわ」

 

 ブラスからの話が終わって次に、ドラミちゃんが補足する。神鳥レティス。現在はレティシア州に住んでいる。世界で唯一、分割結界を無視して全ての大陸群を行き来できる存在だ。先述の「突然現れて直ぐ消える」は、結界に入って向こうに結界を出る事から、そうなった現象である。だから天界から来たのではない。

 

「分割結界……? これはどう言う意味ですかな?」

 

「ブラスさん。それをお話するとショックを受けるかもしれません。それでも宜しいですか?」

 

「……わしは老い先短い身故。知りたい事は知りたいのです。お話していただけますかな」

 

「分かりました。……ドラえもん」

 

「はいよー」

 

 ミコトはブラスに世界の真実を説明する為、ドラえもんに地球儀(竜星)を出して貰う。行き成り大きい物の登場でブラスとダイとゴメちゃんも、朝のマァムと同じようにびっくりする。

 

「こ、これは……?」

 

「これは地球儀と言って、極めて正確な世界地図です」

 

「世界地図じゃと!? あんな丸いのが……う~む」

 

 ミコトから「世界地図」と聞いたブラスは、信じられない顔をして地球儀(竜星)を見つめながら考える。世界は平面ではなく球体であると、認識を改めようとしているのだろう。そんな中、ダイとゴメちゃんは興味津々で地球儀(竜星)を見つめている。

 

 先ずは地球儀(竜星)を回してギルドメイン州を見せつける。確認させたら次は地球儀(竜星)を回しつつ、北極と南極と他の大陸群を説明していく。それから四角の赤い線を指して、分割結界の説明をする。その途中で、ダイは目を回してしまった。どうやら勉強が苦手らしい。

 

「大体は分かりましたぞ。わしの知っている世界は狭かったんじゃな……」

 

「はい。おっしゃる通りです」

 

 未だショックを隠せないブラスを見て、ミコトは苦笑する。勿論、後ろの皆も。良く考えてみれば、長く生きていればいるほど、ショックは大きくなるのかもしれない。

 

「あんな難しい話、分からないよぉ。おれは剣なら、なんだって出来るのに!」

 

「はぁ……まったく。勉強も大事じゃと言うのに」

 

 木の棒を素振りしながら、剣のアピールをするダイ。そんな様子を見たブラスは、溜め息をついてしまう。島育ちのダイは、アウトドア派の体育会系であった。

 

「なぁなぁ、ミコト。剣も教えてよ! 強くなって勇者になりたいんだ!」

 

「えっと……ごめん。僕は一度も剣を振った事がないんだ。でも、これから剣術を覚えようと思ってる。勿論、勇者になりたい夢も応援するよ」

 

 何でも知っていると思ったのか、ダイは真剣な顔でミコトに頼み込んだ。始めに彼は困ったような顔で断り、次に自分の思いを伝える。ミコトは近いうち、アキラと一緒に修行を始める予定だ。

 

 ダイの勇者になりたい気持ちは、数年前にブラスから勇者の伝説を何度も聞いた内に、世界を救うなんてカッコイイと憧れるようになった。ただカッコイイからという純粋なもので、名声が欲しいのではない。

 

「ミコト。丁度良い機会だから、此処で少し練習したら?」

 

「んー……そうしようかな」

 

 ミコトは少し考えた後、ドラえもんの提案に賛成した。ダイを魔法使いにしたいと考えるブラスは渋っていたが、ダイは明るい顔になって皆は提案に反対なし。そして、ダイとブラスの家近くの平原へ移動するのだった。

 

 

==========

 

 デルムリン島中央の森の南の平原。東方はミコト。西方はダイ。ドラえもんから受け取った竹刀を右手に持った二人は、身構えて向かい合う。師匠なしの我流とはいえダイは有段者と感じられるに対して、ミコトは素人丸出しで相手を威圧する感じはない。

 

 平原の北にあるダイとブラスの家の近くで、皆はプラスチック製の折り畳み式のテーブルとイスに座り、ダイとミコトの組手を見守っている。ブラスが持って来てくれたリンゴがテーブルの上にあり、大地の恵みでとても美味しい。あとは、ゴメちゃんがアキラの左肩上に乗っている。ようやら、小動物好きの彼女に一番懐いたようだ。本人も、お互い嬉しそうな様子である。

 

「ダイ君。僕は防御する側になるから、始めは軽く、で頼むよ」

 

「うん。分かった」

 

 ミコトは攻撃する心の準備がまだ出来ていないので、最初は防御側に回る事にした。この組手で防具を着けていないのは恐らく、実戦に対する恐怖心から心を鍛えたい為だろう。ミスって痛くなっても、我慢出来るようにするってのもあるが。

 

「やあぁっ!」

 

 先ず、ダイは分かり易い上からの振り下ろしの縦斬りを放った。ミコトは竹刀を横にして攻撃を防ぐ。次は竹刀を縦にして、二撃目の横斬りを防ぐ。それから竹刀を斜めにして、三撃目の右上(ダイ視点)からの斜め斬りを防ぐ。

 

「次は限界まで来てストップと言うまで、段々と力を入れても構わないよ」

 

「分かった。無理しないでね」

 

 今度は段々と、ダイの攻撃が強くなっていく。それに比例して竹刀の打つ音も大きくなる。一撃目は右上からの斜め斬り。二撃目は右からの横斬り。三撃目は上からの縦斬り。分かり易い大振りの太刀筋なので、斬撃スピードが上がっても防ぐのは難しくない。

 

――この後も何回、ダイの攻撃は続いた。

 

「おれ、もう全力なんだけど……」

 

「えっ?」

 

 これ以上強くならないと、ダイの一言でミコトは目を見開く。何回も攻撃を防いだところ、一撃一撃の重さを感じなかった為、気付かなかったのである。

 

 ミコトは知らなかった。自分のステータス変化に。元々は、突出した学習能力と平均上位の運動能力であったが、麻帆良の世界樹のエネルギーを浴びた影響で、平均上位の学習能力と突出した運動能力を持つアキラのステータスと加算されたのだ。勿論、アキラの方も同じ状態となっている。もはや、突出した文武両道なり!

 

 泣ける話だが今まで、運動能力が平均レベルのミコトはアキラに追い付こうと努力し、学習能力が平均レベルのアキラはミコトに追い付こうと努力して平均上位となった訳だ。

 

「ダイ君はまだ子供だから力はこの程度で、成長したら余裕で僕を超えられるって事かな?」

 

「そっか。そう言われたら、早く大人になりたいな」

 

 剣の腕間は別として、力の差は年の差の所為だと、ミコトは苦笑して判断した。ダイは先日、ニセ勇者に力負けした事を思い出し、早く大人になりたいと悔しく思う。

 

 そして二人は組手を再開した。ダイは思い切って、ひたすら攻撃する。無自覚であるが、ミコトはアキラの力を加算した反射神経などの身体能力で、剣の素人をカバーしている。

 

「ミコトって、反射神経が良いのね。速いダイの攻撃を全て防いでいるし」

 

(あんなに速いダイ君の動きが良く見えるんだけど……なんでだろう?)

 

 二人とも、アバンの元で修行を積めば、きっと私よりも強くなれると見て思うマァム。無自覚だが、ミコトの力を加算した動体視力を持つアキラは、ダイの速い動きが見えて不思議に感じている。

 

「ダイの奴。魔法の修行も、あれぐらい頑張って欲しいものですなぁ」

 

「ブラスさん。ダイは魔法が苦手なんですか?」

 

「うむ。日々やっても、なかなか上達しないのです。それでヤル気を失くしてしまいましてな」

 

 愚痴を聞いたマァムはブラスに訊ねた。魔法を知らないアキラは口出ししない。ブラスは浮かない顔で南のダイを見ながら、悩み事を話す。ダイは呪文の契約に成功したが、メラを唱えると極小の火で、ヒャドを唱えると極小の氷だった。以降、毎日魔力切れになるまで頑張っても変化はなかったそうだ。それで本人は才能がないと思って、ヤル気を失くしてしまった。今は魔法の修行をしていない。その分は剣の練習に注いでいる。

 

「わしの教え方に問題があるんじゃろうか……」

 

「ブラスさん。これをあげますから、あとで読んで下さいね」

 

 ドラミちゃんは四次元ポケットから制御補助サークレットと魔法の教科書を取り出して、自信を失くしていくブラスに渡して説明する。制御補助サークレットを装備すれば、魔力制御がし易くなって上手く呪文を使えるようになる。自転車の補助輪みたいな物で、初心者はコツを掴めるまで装備した方が早い。魔法の教科書は、基礎や呪文の説明から呪文の契約方法まで載っている。情報量が多いので、辞典のようにページが分厚い。重い。防水仕様。

 

「それは有難いが、しかし……」

 

「遠慮しなくても良いですよ。同じ物が沢山ありますから。是非、活用して下さい」

 

 話の内容から貴重品に感じてしまったブラスは遠慮するが、ドラミちゃんは微笑んで「そうでもない」と応える。あのアイテム二つはミコトランドへの通販で買える為、個数は無限である。

 

「沢山お持ちとは……驚きましたな。お言葉に甘えて使わせて頂きますぞ」

 

 貴重品に見えて、そうでもないと聞いたブラスは、驚いた後でお礼を言って二つのアイテムを受け取る。これで悩みは解決し、ダイの魔法の修行は捗るだろう。

 

「モグモグ」

 

「ドラえもん。どら焼きが大好きなのは分かるけど、リンゴを食べようよ。折角、ブラスさんが持って来てくれたのに……」

 

「同感ね」

 

「お兄ちゃんったら……」

 

 テーブルの上にリンゴがあるのに、ドラえもんは自分のどら焼きを食べている。そんな彼に「空気読んで欲しい」と、少し怒るアキラ。マァムもドラミちゃんも呆れ顔だ。今でもアキラの左肩上にいるゴメちゃんは美味しそうな目で、どら焼きを見ている。

 

 余談だが、昼食から気になっていたマァムやブラスとゴメちゃんがどら焼きを試食したところ、こんなに甘くて美味しい物は初めてだと感想を頂いている。

 

 こんな感じで、二人の組手と皆の会話は、夕暮れ始めまで続くのだった。組手が終わった際、楽しかった事でダイに初めての男友達(ミコト)が出来た。

 

 

==========

 

 夕暮れ始めで帰る時間になり、皆はデルムリン島北東岬へ移動した。今はドラドーラ号の乗り降りする所の前に居る。帰りの挨拶をするところだ。

 

「もう帰っちゃうの?」

 

 別れの時で名残惜しそうに、寂しくなるダイ。ミコト達と出会って三時間くらいしか経っていないが、呼び捨てで友達と呼べるまで仲良くなっている。本人としては、一緒に過ごせる時間が足りなかったのだ。

 

「ダイ……これから月に一回、此処に来るつもりだよ。それに、一日泊まる事も考えてる」

 

「ほんと!? やったぁ!」

 

「良かったな。ダイ」

 

「ピィ」

 

 そんなダイに苦笑したミコトは「また来る」と応えた。するとダイは明るい顔になり、叫んで飛び跳ねる。ブラスもゴメちゃんも嬉しそうだ。先客は酷かったが、今回は楽しかった。ミコト達なら、いつでも大歓迎である。隠れて様子を見ていた島全体のモンスター達も、彼等を信用してくれるようだ。

 

 ブラスは左手に写真立てを、大事そうに持っている。その写真には、自分の家を背景にして良い笑顔のダイとブラスとゴメちゃんが写っている。ダイの組手が終わった後に、説明を受けた上で撮った物だ。いつか、ダイが島から旅立っても、写真が心の支えになってくれるだろう。

 

「ダイ。また此処に来たら、泳ぎ方を教えてあげるね」

 

「アキラ。ありがとう」

 

 優しく微笑むアキラに対して、少し恥ずかしがるダイ。彼は海のモンスターが居ないと泳げない。組手中にそれを聞いたミコトは、水泳部エースで泳ぎ上手のアキラに「教えてあげて欲しい」と頼んだのである。

 

「勇者の夢、頑張ってね。応援しているわ」

 

「マァムも、ありがとう」

 

 マァムも優しく微笑み、アバン先生と再会出来たら紹介しようと思案しながら、ダイを応援する。優しい女性に慣れていないから、やはり恥ずかしがるダイ。

 

「そろそろ、船に乗ろうか」

 

 ドラえもんの一言で、ミコト達はドラドーラ号に乗り込んだ。ドラえもんはそのまま、左サイドドアから中に入っていく。後は出発を待つのみ。

 

 暫くして自動的に、ドラドーラ号の乗り降りする所の左フェンスが閉じるように可動した。そして岬右側と船体の間が開き、ゆっくりと発進する。出発の時だ!

 

「ダイ! また来るよー!」

 

「バイバイ」

 

「またねー」

 

「さようならー」

 

「みんなー! また来てねー! きっとだよー!」

 

「ピィー! ピィー!」

 

「元気でなー! 気を付けるんじゃぞ!」

 

 船の甲板上でミコト、アキラ、マァム、ドラミちゃん。岬でダイ、ゴメちゃん、ブラス。それぞれが手を振りながら、別れの言葉を上げる。特にダイとゴメちゃんは、岬の行き止まりまで、船を追いながら……。

 

――こうしてミコト達は、デルムリン島を発った。

 

「今日は良い奴ばかりじゃったな」

 

「うん。短かったけど、とても楽しかったよ」

 

「ピィ」

 

 ミコト達の事を思い出して、今日は良い一日だったと感じる二人と一匹。ブラスは世界について衝撃的だったり、ダイに人間の友達が三人出来たり、家族写真という宝物を頂いたり、色々あった。

 

「ダイよ。明日は久し振りに魔法の修行じゃ」

 

「えー」

 

 ブラスは杖を翳して、魔法修行の再開を告げた。しかしダイは嫌な顔をする。そこで、彼の脳天に杖の一撃!

 

「ばかもーん! 勇者を目指すにしても、魔法も勉強も大事! 分かったな」

 

「だって……」

 

「なぁに、大丈夫じゃ! とても役に立つ物をドラミ殿から頂いておるからな」

 

 怒られ説教され、自分の頭を擦りながら文句を言おうとするダイ。そこでブラスは厳しい顔からニカッと笑顔に変わり、魔法修行再開の理由を話す。

 

「それなら出来る気がしてきた。よーし、頑張るぞー!」

 

「その意気や良し。……さて、家に戻るとするか」

 

 ヤル気を出したダイから良い返事が聞けて、満足したブラスは自分の家に戻って行った。そして杖磨きの再開……じゃなくて、魔法の教科書にハマるのだった。ダイは今日貰った竹刀で、カカシ?への打ち込み再開である。

 

 ブラスが魔法の教科書にハマった理由は、ドルマ系、メラガイアー、メダパーニャ、ベホマズン、マダンテなど、ギルドメイン州に無い呪文が多く載っていたからである。契約方法もあるので、自分も新たに習得出来る呪文はあるだろう。

 

 

つづく

 




はい。原作主人公が初登場する第五話でした。

レティスが出たおかげで、ダイ達も世界の真実を知る事になりましたね。
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