此処はミコトランド修行場。ミコトランド北部の大きい山にカモフラージュした超巨大ドームで、緑色地面の直径は1㎞以上もある。外周は高さ5メートルの白いフェンスで、半球天井はディスプレイタイルになっていてデフォルトは太陽と青空。全体が空間シミュレーターになっていて、フィールドを森や砂漠や雪原や街並み等に変えられる。また、モンスター等の対戦相手のプログラム体を召喚出来る。
修行場の南の出入口から、大江山ミコトと大河内アキラ、そしてハンマースピアを持ったマァムが入場する。二人の武器は後で準備するとの事だ。ドラえもんとドラミちゃんは、修行場の制御室に居るので、此処には居ない。
「此処って、山の中よね? 外と変わらないじゃない」
「そうだね……。私もびっくりだよ」
「ドラえもんから聞いたけど、森とか、砂漠とか、町とか、幻みたいなものを出せるらしいね」
『もしもーし……。皆、聞こえるかい』
それぞれ思った事を話す三人。そこで外周のスピーカーから、ドラえもんの声が聞こえてきた。マァムは耳に手を当てながら周りを見回すが、アキラとミコトはスピーカーの方に顔を向ける。
「マァム。こっちだよ」
『先ずは、準備運動を済ませてね』
アキラがマァムを呼んでスピーカーを教えたところで、ランニングとストレッチを済ませるようにとドラえもんから言われる。そしてマァムはハンマースピアを地面に置いた後、二人と準備運動を開始。始めのランニングは、南端から北端を一往復する。その合計距離は約3㎞。次は各自でストレッチを行う。マァムはアバンから教わった通りに、アキラは水泳部でやっていた通りに、ミコトは陸上部でやっていた通りに。伝えていなかったが、ミコトが文化部ではなく陸上部に入ったのは、運動部のアキラと運動能力の差が開かない為である。
三人のストレッチが終わったところで、南の出入口からドラえもんとドラミちゃんが、スタジオカメラのような外見のロボット二台を連れて入場してくる。
「ドラえもん。あれは何?」
「説明は後でするよ。……はい、はがねのつるぎ。本物の剣だから気を付けてね」
スタジオカメラ外見ロボットが気になるミコト達だが、ドラえもんは後回しにして、はがねのつるぎを収めた鞘を、四次元ポケットから出してミコトに渡した。本物の剣と聞いた彼は、少し冷や汗が出て息を呑む。此処が日本だったら、立派な銃刀法違反だから当然の反応だ。因みにはがねのつるぎは、ロトゼタシア州にあるソルティコの町の武器屋で購入した物である。未来のミコトの「命を奪う目的の物は作りたくない」というポリシーから、ミコトランド通販で武器全般(練習用を除く)は取り扱っていない。
「それと……。盾のアトムシールドだよ」
もう一つ、輪郭U型のアトムシールドを受け取ったミコトはドラえもんの指示に従って、はがねのつるぎの鞘と一緒で背中に装備する。剣の刃渡りは約70㎝で、盾の大きさはミコトの上半身と同じくらい。皆に説明はないが、アトムシールドは未来のミコトの超技術で、原子一個にしたオリハルコンで出来ている。普通、物が割れたり砕けたりするのは、集まった無数の原子が衝撃で別れるからである。しかし原子一個だと二つに別れる概念が無い為、アトムシールドは「絶対」に壊れないのだ! そんなとんでもない性能だからこそ、コンピューター任せの24時間無休作業で原子を抜くのに数十年掛かる。よって生産は難しい。
「いい感じね」
「うん、似合ってる」
剣と盾を背負ったミコトを見て微笑みながら、何もおかしくないと感じるマァムとアキラ。彼の着ている登山ウェアと違和感がないようだ。剣も盾も重たいが、前にステータスが上がった彼は重さを感じない。
「次はアキラの武器だけど……。これを見て」
「槍の絵? ……水神槍?」
ドラミちゃんから一枚の紙を受け取ってその絵を見たアキラは、書かれた武器の名前を読んで首を傾げる。彼女の両端から覗き込んだマァムとミコトも同様だ。絵に描かれている槍の形状は、刃の両端にも刃がある三叉槍で、突きだけでなく斬りも可能。
「アキラ。右手を天に翳して、その絵の槍を強くイメージしながら、アデアット と唱えてみて。多分、出てくると思うわ」
「えっ、それはちょっと……」
ドラミちゃんの指示に対して、戸惑うアキラ。何の根拠も無く、アニメの変身魔法少女みたいな事をやれと言われたのだ。普通、恥ずかしくて抵抗がある。そんなアクションして何も起こらなかったら、まるで自分がバカみたいだとイタく思うのだから……。
「……アデアット!」
やっと恥の覚悟を決めたアキラは、右手を上に翳して「アデアット」と唱えた。すると彼女は青白い光に包まれる。突然なので、驚いてしまうマァムとミコト。因みに、アデアットとは「召喚」か「来たれ」と言う意味である。
包まれた光が直ぐに収まると、登山ウェア姿ではなく青チャイナドレス姿で、右手に水神槍と言う三叉槍を持ち上げたままのアキラが立っていた。変わった服装の詳細について、髪型はポニーテールのまま、頭部にはブルーアイの金ティアラ、下着全体には首から下を全て覆う黒いボディスーツで青いハイレグと重ね、胴と腰の上着には黄色い帯がある半袖膝丈の青いチャイナドレス、両腕には肘下丈の青いロンググローブ、両足には膝下丈の青いロングブーツ、服の袖口・裾・嵌め口・履き口等の体を通す部分には黄色い色違いがあり、全体的にフィット感があって機動性が高い。また、防御力と魔法防御力も高く、斬撃に強い防刃仕様である。大雑把に言って、見た目は正義のヒロインっぽい。
「服も変わるなんて……。驚いたわね」
「うん、僕も……。でも、勇ましいね」
アキラ自身も驚いて自分の服装を確認している中、似合っていてカッコ良いと感じるマァムとミコトであった。何でこんな事が出来るのか、訊ねてもドラえもん達は分からないらしい。
この場の皆は知らないが、アキラの水神槍は「アーティファクト」と呼ばれる魔法のアイテムで、元の世界の裏に存在する魔法使いとパクティオー(従者の契約)する事で召喚出来るようになる物。その筈だが、アキラはパクティオー(従者の契約)していないのにアーティファクトを召喚出来ている。原因は一つ、麻帆良の世界樹の超魔力を浴びたから、このようになってしまった。ただしアーティファクトを召喚する潜在能力を持つ人は稀少なので、ミコトはアーティファクトが無い。驚く事にアキラのクラスメイト全員は、アーティファクト持ちである。
「その槍は自分の魔力で、水を意のままに操る力があるわ」
ドラミちゃんは水神槍を指して、未来のアキラから聞いている事を伝える。呪文は習得出来ないが、アキラとミコトに魔力はある。水神槍は自分の魔力を消費して、水を意のままに操る事が出来る。魔力から作り出した水または辺りの水を利用して、水竜巻や水刃などで攻撃したり、水の壁や柱で防御したり出来る。その他にも、水を水蒸気か氷に変化させる事が可能で、その逆も出来る。等々……。まぁ、使えない呪文の代わりだと言って良い。
先述の通り水を操るには、自分の魔力を水神槍に込める必要がある。しかし今のアキラでは、まだ魔力制御が出来ない。よって、要修行だ。
「これで武器が揃ったね。次はこれ、評価判定マシーンの説明をするよ」
ドラえもんは三人の武器を確認した後、後ろのスタジオカメラ外見ロボット改め評価判定マシーン二台を指して説明する。それは名の通り、体の動きを評価する機械である。剣術や槍術を教えてくれる先生・師匠が居ない此処では、代わりに評価判定マシーンが頭部投影機で見本ホログラムを見せたり、問題点や改善点を教えたりしてくれる。我流から適当に始めて、そこから改善を重ねて重ねて、更なる上達を目指していくと言う訳だ。ミコトを評価する機械と、アキラを評価する機械で計二台。マァムはアバンから教わっているので、その分の機械は用意していない。
「ミコトとアキラの見本を映すから、良く見て覚えてね」
ドラえもんは指示を出すと、二台の評価判定マシーンは脚部のタイヤを走らせて、東と西で皆を挟む位置に着いた。次は北に向けて投影機を起動すると、その先に半透明のミコトとアキラが映し出される。二人の装備状態は今のと同じ。
見本ミコトの通常の構え方は、左足を前に踏み出して、左手の盾を前方に向け、右足と右手の剣は後方に、横に回避し易いように体を半身反らしている。攻撃の動作は基本が九つあり、上からの縦斬り、下からの縦斬り、右上からの斜め斬り、左下からの斜め斬り、右からの横斬り、左からの横斬り、右下からの斜め斬り、左上からの斜め斬り、そして突き刺し。見本であるから、素人とは思えない鮮やかな動きだ。
見本アキラの通常の構え方は、左足を前に踏み出して半身を反らし、両手持ちで槍を前方に突き出している。攻撃後の戻りによって左右反転に切り替えるので、基本の構えは右構えと左構えで二つある。攻撃の基本は剣術と同じように九つあるが、右構えで右上・右・右下からの斬り三つは、槍を半回転させてから攻撃して左構えに切り替える。そこから左上・左・左下からの斬りを繰り出したら、再び右構えに戻ると言う事だ。槍を半回転させる場合は隙が出てしまうので、縦斬りから繋げると良いだろう。とまぁ、右構えと左構えを合わせて、槍の基本素振りは18種になる。
「見本は覚えたかい? 今から素振りを始めて良いよ」
見本二人のホログラムが消えた後、ドラえもんは「素振り頑張れ」と言った。見本のレベルが高く感じて、ちょっと自信が無い様子のミコトとアキラは頷いて、周りから距離が開いた位置へ移動する。そして見本と同じ構えをとり、武器の素振りを開始。マァムは応援の笑みを送った後で、周りと距離が開いた位置へ移動して自分もハンマースピアの素振りを始めるのであった。
『バッド! 足腰ニ力ガ入ッテイナイ』
ミコトは最初の右上からの一振りをすると、評価判定マシーンからダメ出しを喰らう。アキラの方も同様だ。これは素人だから仕方ない。素人ならば腕だけ力を入れているが、このままではステータスが高くても大したダメージにはならない。評価判定マシーンの指摘通り「足腰も入れた正しいフォーム」なら、一撃の威力は別格となる。そう言う事で、評価判定マシーンからダメ出しされた一振りは、素振り回数にカウントしない。最初はゆっくりで良いから一回一回、正しいフォームで反復して身体に馴染ませるのだ。
――二人は一振り一回ごとに集中して素振りをこなす。
「ふぅ……。これで九つ目の100回は終わった……」
「ふぅ……。これで最後の右50回と左50回は終わり、かな」
「二人とも、お疲れ。この調子なら一ヶ月くらいで、ライオンヘッド相手でも戦えるわよ」
武器の素振りのメニューを一通り終えて、武器を下げて一息つくミコトとアキラ。腕や足腰に筋肉痛はあるが、運動部にいた二人なら我慢出来て早く回復するだろう。マァム達は微笑んで、二人を労う。マァムの方は筋肉痛が無さそうだ。
「次は武器を持ったまま、蹴りの素振りだよ」
タオルで汗を拭いて少し休憩したらドラえもんは、次にやる事を告げる。攻撃の手段が多い方が良いと言う事から、剣術や槍術の中に蹴りも取り組んでいる。特に槍は至近距離に対して不利なので、それをカバーする蹴りは欠かせない。
評価判定マシーンからの見本ホログラムによると蹴りの基本は、上段蹴り、中段蹴り、下段蹴り、前蹴り上げ、膝蹴り、突き蹴りで六つを左右で計12種。前蹴り上げについては、威力を上げる為のトーキック(爪先で突く蹴り)である。中級以上になれば、回し蹴りや踵落としやサマーソルト等の大技も繰り出す。
見本ホログラムが消えたらドラえもん達に「頑張れ」と言われ、三人は距離を開けた位置に着く。そして蹴りの素振りを開始。しかし、蹴りの間は片足で立つので、バランスを取るのが難しい。アバンの元で格闘技の一部の修行をした事があるマァムは大丈夫なようだが、ミコトとアキラは蹴りの度にふらついて上手くいかない。だから凹む程、評価判定マシーンのダメ出し連発である。
――二人は持っている武器の重さを利用してバランスを保ちながら、頑張って正しいフォームで蹴りの素振りをこなす。
「思ったより難しいな……蹴りは」
「うん、そうだね」
「それは仕方ないわ。始めは私もそうだったし」
「お疲れ様。これで前半は終了よ」
蹴りの素振りを終えて休憩している中、疲れた顔で感想を言うミコトに同感するアキラ。マァムは苦笑して、そんな二人を労う。修行の前半が終わったので、ドラミちゃんが持ってきてくれたスポーツドリンクで水分を補給する三人であった。
「次は瞬動術の修行だけど……。これを装備してね」
「あら、これ。昨日ブラスさんに渡した物と同じじゃない」
ドラえもんは制御補助サークレットをマァムとミコトに、制御補助の腕輪をアキラに渡して、その装備品の説明をする。初めての人でも魔力と闘気を簡単に制御出来るようになるから、毎日使い込む事で身体が感覚を覚えていき、いつか自力で制御が出来るようになる。マァムの方は魔力を制御出来るが、改めて修行する事で精度が上がるだろう。因みにアキラの分が腕輪になっているのは、髪型とティアラ装備の都合でサークレットを着けられないからである。
この日から三人は日課として、毎晩寝る前に瞑想して闘気と魔力の制御の修行を行う事になる。ミコトの場合は今のところ、魔力の使い道は無い……が、将来アキラと共に「咸卦法」と言う究極技を習得する為に、制御出来るようにしておくべき事だ。なお、咸卦法の詳細については後程。
「心を落ち着かせて、自分の体内を意識してみて」
制御補助アイテムを装備した三人はドラミちゃんの指示を聞いた後、深呼吸してリラックスして目を閉じて雑念を捨てて体内に意識を向ける。
「……成る程」
「感じる二つが、闘気と魔力……」
「体内を回っているホカホカした感じが闘気なのね」
体内から闘気と魔力を感じ取る事が出来て、理解する三人。命の力であると聞いた事があるので、血液が流れるように回っているものが闘気であると察している。だから初めてのミコトとアキラでも、二つのどっちが闘気なのかは直ぐに分かった。
「ミコト。瞬動の出し方は覚えているかい?」
「えっと、闘気を足の裏に集めて、一歩踏み出す時に爆発させる、だよね」
「うん。でも始めは少しで良いんだ。まだ未熟の内に、集め過ぎると危ないよ」
ドラえもんからの確認と注意。それで三人は頷き、闘気の集め過ぎに気を付ける。集める闘気が多ければ知っての通り、比例して速く遠く瞬動する。しかし未熟だと、地面を這うような低い角度での瞬動は難しい。初心者の瞬動の平均角度は、頑張って低くしても約30度。つまり20メートル移動してしまえば、移動後の位置の高さは10メートルになり、落下してケガをしてしまうのだ。だから練習する時は、1~2メートル瞬動が望ましい。それでも移動後の位置の高さは約1メートルになるが、落下しても大丈夫だろう。
初級マスターの目標は、10メートル瞬動して到達点の高さが約10㎝である事。そして中級マスターの目標は、瞬動術を二連続で発動、且つ虚空瞬動で意のままに方向転換が出来る事。それから上級マスターの目標は、瞬動術を三連続で発動、且つ瞬動術終了時の隙を無くす事。更なる高みを目指すなら、瞬動術を四連続以上発動出来るようにしたいところである。
「始めは僕が試してみるよ」
「ええ、分かったわ」
「無理しないでね」
始めはミコトがチャレンジ。マァムは微笑んで、アキラは心配そうで見守る。ドラえもん達は万が一に備えてタケコプターを頭に着けている。それは着ける事で、空を自由に飛べるようになる秘密道具だ。
ミコトは剣と盾を背中に背負ったまま、皆の北の位置で西向きに着いた。そして、走るような構えで瞬動を発動する。彼は残像が残る超高速で、2メートル移動。上がる角度はやはり30度だった。到達点に着いたら放物線後半のように落下し、転ぶ事なく上手く着地する。初めてにしては上出来だ。
「びっくりしたけど、どうかな?」
「転ばなかったから、良い感じだと思う」
「そうね。でも実戦だったら、唯の的じゃないかしら」
「まぁ、初級だからね」
「ええ、上級マスターまで上達すれば大丈夫よ」
『バッド! 踏ミ込ムタイミングガ遅イ』
ミコトの瞬動に対して、アキラは胸を撫で下ろして褒め、マァムも褒めて次に問題点を言い、ドラえもんは仕方ないと応え、ドラミちゃんは前向きな事を言う。そして、お厳しい評価判定マシーンからのダメ出し! それでも本人は悪い点を受け入れ、次の挑戦で心掛ける。
「あら、ドラミちゃん。頭に着けている物は何かしら?」
「これはタケコプターと言って、呪文のトベルーラと同じように空を飛べるわ」
「そういえば、あったね……忘れてた」
「うん、僕も。……空を飛んでみたいな」
「それは後で。今は修行中だよ」
ドラミちゃんは低く空を飛んでみせて、マァムに説明した。それを見たアキラとミコトは、ドラえもん原作を思い出す。自分も空を飛んでみたいと思うが、ドラえもんに後回しされるのであった。
――これから一時間、三人は何度も瞬動の練習を続ける。
「すぅ~、はぁ~。闘気は体力を使うな……」
「すぅ~、はぁ~。本当だね」
「すぅ~、はぁ~。私もよ」
深呼吸して息を整える三人。ミコトが瞬動で思った事に、アキラとマァムも同感する。闘気を多用するとスタミナを早く消費してしまう上に、お腹が空きやすい。それでも突出した体力の三人(マァムは父親譲り)は、良く一時間も続けられたものだ。
「次はフットワークだよ」
三人は落ち着いてきたところで、ドラえもんは次の修行を説明する。フットワークは回避力の向上を図るもの。その内容は、各自で武器の基本構えで立ち、号令に従って八方ステップや向き方向転換を行う。修行時間は30分。号令は「前・後・左・右・前左・前右・後左・後右・左転・右転・反転」だが、ステップと向き方向転換を同時にするという号令が来る事もある。例えば「前と反転」とか「左と右転」とか。何度もやっていく内に、動きが素早くなるコツが掴めるだろう。
説明が終わった後、三人は武器を持って距離を開けた位置に着き、南を向いて武器を構えた。ドラえもん達はタケコプターで低く飛び上がり、四次元ポケットから大き目のメガホンを取り出して三人の様子を確認した後……。
「では、号令を出すよ。……前!」
――三人はドラえもん達の号令を聞いてフットワークをこなす。
「おっと、時間だね。お疲れ様」
終了のアラームが鳴ったら、ドラえもん達は笑顔で三人を労った。それで彼等は武器を下ろして一息ついた後で、ドラえもん達の元へ集合する。初回である事から簡単でゆっくりの号令なので、三人に疲れた様子はない。
「次は最後の模擬戦だよ」
「えっ? 戦うの?」
「実際に戦ってみた方が上達は早いって、先生が言っていたわ」
「確かに、そんな感じがするね」
思っていなかった事をドラえもんから聞いて、目を見開くアキラ。昨日にダイと組手をして何となく効果があると感じたミコトは、マァムの一言に頷く。
模擬戦について。それは修行場のシミュレーターによる、実物プログラム体の敵(モンスター等)と戦う事である。戦闘時間は30分。但し、前半15分間は敵が無敵状態なので、全ての攻撃が効かない。何故なら、防御と回避の練度を上げる為だ。非殺傷設定なので攻撃を受けてもケガをしないが、痛みは本物と同じで戦闘が終わっても残る。また、気絶してしまう事だってある。なので、回復アイテムを用意すると良い。本来なら生物系の敵を斬ると血が出るが、初回はキツイという事で今回は血が出ない設定となっている。血が出る場合、返り血を浴びて血まみれの状態は戦闘終了まで続く。また言うが、初回にソレはキツイだろう。
「ぼくとドラミは制御室に居るから、模擬戦頑張ってね」
「皆、ご武運を」
そう告げた後、ドラえもんとドラミちゃんは二台の評価判定マシーンを連れて、この場から南へ去って行く。彼等は制御室でシミュレーターの操作を行うのだ。
「どんな敵が出てくるのかしら?」
「私、ドキドキしてきたよ……」
「本当に痛いらしいから、敵の攻撃に当たらないように気を付けないとね」
南の出入口の前で北を向き、武器を持って警戒する三人。その時、修行場全体は薄暗くなった。今まで天井の青空が、全て雷雲一面に変わったのである。そして鳴り響く雷鳴と、広がる修行場フィールドのあちこちに落ちる白い雷。
「だ、大丈夫なの!? これ」
「唯の演出だから、危険は無いと思う……多分」
「ちょっとオーバーじゃないかな……」
『お兄ちゃん! ボリュームを下げて!』
『わ、悪い。うっかり上げ過ぎた』
臨場感があるのだが、あんな激しい雷を見聞きして顔を青くするマァム。演出だと分かっていても、冷や汗を流すミコトとアキラ。スピーカーのマイクのスイッチが入ったままだからか、慌てているドラえもん達の声が聞こえてきた。まだ雷は鳴っているものの、激しい落雷が止む。
『驚かせてごめん。今から対戦相手を出すよ』
ドラえもんの謝る声が流れて暫くして、30メートル離れた北の地面に白い六芒星の円陣が出現した。そこから、槍を持ったイノシシ獣人が二匹、一本の片手剣を持ったコウモリ翼の鳥人悪魔が一匹、現れた後に六芒星の円陣は消える。プログラム体である為か、モンスター達の表情が固い。
「ガーゴイルとオーク二匹ね」
モンスター達を見て、少し拍子抜けして名前を言うマァム。オークについては魔の森で、何度も遭遇した事がある。ガーゴイルについてはアバンから教えて貰っていて、今まで会った事はない。なお、ドラえもんは三人の武器を考えて、それ等のモンスターを選出している。
「僕は剣を持っている奴と相手するから、アキラとマァムは槍を持っている方を頼むよ」
「うん、分かった」
「ええ、ガーゴイルは素早いから気を付けてね」
同じ武器で相手した方が良いと判断したミコトは、オーク達をアキラとマァムに任せて、ガーゴイルをターゲッティングした。モンスター達からも、こちらに合わせて標的を定める。雷鳴が響く中、三人と三匹は武器を構えて対峙していて一歩も動かない。スピーカーでカウントダウンが始まり、合図を待つのみだ。
『3……2……1……戦闘開始!』
スピーカーを通してドラえもんが合図を出すと、三人と三匹は走り出した。何故かガーゴイルは飛んでいない。そして予定通り、ミコトはガーゴイルと、アキラはオークBと、マァムはオークAと交戦する。今から15分経つまで攻撃が通らないので、三人は防戦に集中している。皆は余裕そうだが、しかし……。
制御室にいるドラえもん達は、大きいスクリーンに映っている戦場の様子を観た後、備え付けのパソコンでモンスターのステータス調整を行う。ドラえもんはガーゴイルを、ドラミちゃんはオーク(二匹共通)を、である。
調整するモンスターのステータスについて。設定の項目は七つ。一つ目「ちから」が高くなると、筋力に依存した攻撃が重くなる。二つ目「みのまもり」が高くなると、身が固くなる。三つ目「すばやさ」が高くなると、反応と動きが速くなる。四つ目「まりょく」が高くなると、呪文の威力と効果が上がる。五つ目「攻戦レベル」が高くなると、攻撃の技量が上がって、攻撃頻度は多くなって、隙が少なくなる。六つ目「防戦レベル」が高くなると、防御と回避の技量が上がって、カウンター攻撃もしてくるようになる。七つ目「呪文・特技のオン・オフ」は、オフにする事で呪文と特技を使ってこなくなる。
ガーゴイルの呪文と特技について。ギルドメイン州とロンダルキア州のガーゴイルは「マホトーン」を得意とするが、セントベレス州のガーゴイルでは「ラリホー」を得意として「マホトーン」は覚えていない。レティシア州のガーゴイルは呪文を覚えていないが、特技の「しんくう斬り」や「急降下突進」を繰り出す。でもミコトランド修行場のガーゴイルは上記の呪文と特技を全て使える。なお、今はオフに設定されているので、使ってこない。
オークの呪文と特技について。ギルドメイン州とロンダルキア州のオークは呪文も特技も無い。セントベレス州のオークはレベルが高いと「ルカナン」を覚えている。レティシア州とロトゼタシア州のオークは特技の「さみだれ突き」を繰り出す。ミコトランド修行場のオークは「ルカナン」と「さみだれ突き」の組み合わせが凶悪。でも今はオフなので、初回でキツくないだろう。
マァムはともかく、攻撃が未熟なミコトとアキラに考慮して「みのまもり」と「防戦レベル」は上げない。三人に余裕がなくなる程度まで「ちから」と「すばやさ」と「攻戦レベル」を上げていく。あと「まりょく」と「呪文・特技のオン・オフ」はまたの機会に、である。
「……うっ!?」
ガーゴイルの攻撃が段々と速く重くなっていき、盾で防いでいるミコトは、ついに焦りの表情を表した。一方でオークの大振り攻撃を、槍の柄で防いでいるアキラとマァムも必死になる。今のモンスター達の「ちから」は、突出している三人と互角。防御力が高い服を纏っているアキラを除いて、まともに攻撃を喰らったら、シャレにならないのだ。
『15分経ったわ! 直ぐに決着をつけて!』
「たあぁっ!」
「やあぁっ!」
「はあぁっ!」
ドラミちゃんが「後半突入」を告げると、防戦一方だった三人は気合いが入った反撃に転じた。その一撃でガーゴイルは唐竹割りで真っ二つになり、オークBは胴体が横真っ二つになり、オークAは頭が吹き飛んだ。戦闘不能となったモンスター達は血を出す事なく、そのまま地面を転がる。なんと一撃で倒してしまった事実で呆然する三人であった。
『はい。戦闘終了』
ドラえもんが終わりを告げると、モンスター達の死体は薄くなっていくように消えて、天井は雷雲一面から青空に戻る。これはまるで魔物を退治して、平和になったかのようだ。
「僕、さっきまで必死だったのに……」
「一撃で倒してしまうなんて……」
「オークって……。あんなに打たれ弱かったかしら……」
前半に反して後半はあっさりと勝ってしまった事に対して、釈然としない三人であるが、後で此処に戻って来たドラえもん達に修行の労いの次に説明される。一撃で倒せたのは、モンスター達の「みのまもり」が低く設定されていた事と、三人の「ちから」が並外れであった事と、必死ながらナイスな正しいフォームで攻撃した事である。また、防御と回避のレベルも低く設定されていたので、簡単に攻撃がヒットしたのである。とにかく、初回だからそれで良いとの事だ。明日も同じモンスターと模擬戦をするが、今回のように一撃では終わらない。その上、斬って出血有り。ミコトとアキラは渋っていたが、将来の為に嫌でも慣れるしかない。
「僕って、こんなに力があったかなぁ……。アキラと腕相撲で勝った事が無いけど」
「あら、彼女と力比べなんて初耳ね」
「私は望んでないし、現実の皮肉と言うか何と言うか……」
剣と盾を背中に戻したミコトは、自分の手の平を見ながら不思議に思った。彼の余計な一言を聞いたマァムはアキラを見ながら驚き、当の本人は才能も能力も選べない現実に対して諦めている。だが二人の力の差は元の世界での話。いつか腕相撲をしてみれば、今は同等になっていると初めて知るだろう。もっとも、理由を教えてくれる者は何処にも居ない。
――これで、今日の修行は終わりである。
翼を持たない人間は「空を飛びたい」という夢がある。この世界には、その望みが叶う「トベルーラ」があるが、使える者は少ない。ダーマ神殿で魔法使いや賢者や勇者に転職する事で、誰でも習得可能になる。とは言え、修行を積む必要があって直ぐには使えない。また、契約方法もギルドメイン州しか伝わっていない。だがミコトランドに、誰でも直ぐに空を飛べるようになる夢のアイテムがある!
「はい。タケコプター」
「これを頭に装備すれば、空を飛べるのね……」
「うん。ワクワクするな~」
「えっ、私の分は無いの?」
「そんな事はないけれど……。アキラは水神槍の力を使えば、空を飛べるわ」
ドラえもんからタケコプターを受け取ったマァムとミコトは、ワクワクして目を輝かせた。タケコプターを貰えなくて疑問を抱くアキラに対して、ドラミちゃんは笑顔で彼女の水神槍を指しながら、タケコプター不要の理由を話す。水神槍の力で、精製または大気中の水蒸気を自分の体に纏わせて、浮遊の操作をする事で空を飛び回れる。まだ自分で魔力制御が出来ない現時点では、制御補助の腕輪頼りで水神槍に魔力を込められる。なお、飛行で魔力の消費は「トベルーラ」と同じ。
タケコプターのスペックについて。最高速度は時速180㎞まで、空を移動出来る。人工衛星から送電されているので、バッテリーが切れる事はない。フレームの材質がアルティメットカーボンナノチューブなので、簡単に壊れない。そう言う事で性能は、本物を上回る。
タケコプターの使い方について。装備方法は頭に着けるだけで良い。後は空を飛びたいと念を込める事で、内蔵されたコンピューターが脳波をキャッチし、自動的に稼働する。地面に着地したら、自動的にプロペラ回転が止まる。外し方は着地状態で、付け根本体にあるボタンを、5秒間押し続ける事で外せる。
「取り敢えず、外に出ようか」
試して自由に空を飛び回るにしても、修行場の中だと天井にぶつかる恐れがあると判断したドラえもんは、南の出入口へ移動して皆を呼ぶ。そして修行場を出るのだった。
==========
修行場を出た皆は真っ直ぐ南を進み、タワーホテル一階エントランスを南に通り抜けて外に出る。今を時計で表せば17時過ぎなので、外はもう綺麗な夕焼けだ。東には、ちょっと早く昇った月が見える。
「思い通りに動くから簡単ね」
「うん。僕も」
「少し手間が掛かるけど、飛んだら後は簡単かな」
飛び上がって1メートルの低空飛行で、噴水広場を一周するタケコプター装備のマァムとミコト、水神槍を右手に持つアキラ。初めての体験で、三人は楽しそうだ。ドラえもん達は噴水の前で、ニッコリと見守っている。因みにミコトの剣と盾は背中にそのままで、マァムのハンマースピアは噴水の前に置いてある。
――10分間程、三人は空中散歩を楽しむのであった。
「アキラ。武装解除したい時は、その気持ちを込めて、アベアットと唱えてみて」
「うん。……アベアット!」
ドラミちゃんから解除方法を聞いたアキラは頷いて、水神槍を持った右手を上げて解除の言葉を唱えた。すると青白い光に包まれ、直ぐに収まると彼女の服装が登山ウェアに戻っている。勿論、アーティファクトの水神槍は無くなっている。装備中の、制御補助の腕輪はそのまま。言葉の「アベアット」の意味は「去れ」だ。
「便利ねぇ……。羨ましいわ」
「そうだね……。アキラだけずるいや」
制御補助サークレットとタケコプターを外しながらアキラを見て、羨ましがるマァムとミコト。先述の通りミコトは、元々アーティファクトが無いからアキラと同じ境遇でも、その召喚は出来ない。不公平だろうが、こればかりは仕方ない。でも代わりに、未来のミコトが未来のアキラと協力して製作した、アトムシールド等の彼専用アイテムがある。
その後はマァムがハンマースピアを回収し、やる事が全て終わった皆は東の館にあるどこでもドアを潜って、ネイル村に戻るのだった。そして修行の疲れを癒す為に、夕食前の入浴である。
つづく
はい。修行中心の第七話でした。
アキラのアーティファクトは原作と違って人魚になりませんが、水に関係する点は同じです。まぁ、わりと万能でチートかもしれませんが……。ご了承下さい。