大江山ミコトと大河内アキラが、異世界に飛ばされて三ヶ月経った。二人の日常は、午前にミコトハウス一階の共有施設の清掃とノートパソコン座学、午後にマァムを加えて修行、就寝前に闘気と魔力の制御訓練、という一日スケジュールで過ごしていた。この先も続くだろう。魔王でも現れない限りは……。
三ヶ月間で、二人の進展について。先ず一般常識では、ギルドメイン州地上の地理と歴史、呪文の名称と効果、デルムリン島やラインリバー大陸生息モンスター全ての名前と特徴、それぞれ覚えた。また、知っておかないといけない馬の扱い方も学んだ。次に蹴りを含む剣術または槍術では、基本は順調に進んで今は中級に移っている。それから瞬動術は、一ヶ月半で初級をマスターし、今は虚空瞬動の練習中。二連続発動は可能だ。それからフットワークは、コツを掴めたようで動きが良くなった。最後に闘気と魔力の制御は、制御補助の補助率50%まで進んだ。その他、筋力向上の為に修行と入浴と就寝以外は、両手首と両足首と腰で計五つの重りを着けて日常を過ごしている。現在は10㎏×5。
次はマァムの進展について。先ず僧侶の呪文は、バギマやスクルト等の中級呪文まで殆ど習得した。次に蹴りやハンマースピアの扱い、フットワークも更に上達した。それから瞬動術は、あの二人と同じレベルで今は虚空瞬動の練習中。最後に闘気の制御は、制御補助の補助率30%まで進んだ。魔力の方は補助なしでも十分。その他、筋力向上に関しては二人と一緒である。
それからダイの進展について。呪文はレベル不足なのか、中級まで進んでいない。闘気と魔力の制御は制御補助の補助率50%まで進んでいる。そして三ヶ月の間、ミコト達の島再訪二回で色々教わった。一つ目、剣術は「正しいフォーム」で修行を一からやり直した結果、一撃の強さが倍になった。それでカカシ?を壊してしまい、今は素振りである。二つ目、ミコトに勧められて自分も瞬動術の修行を始めた。驚いた事に、次の再訪までに初級をマスターしてしまった。それで今は虚空瞬動の練習である。このまま、ミコト達を追い抜いてしまいそうだ。三つ目、回避力向上のフットワークはミコト達よりも早く上達。本人は楽しいらしい。四つ目、アキラ先生の水泳は正しい姿勢とバタ足や息継ぎの仕方を教わり、一般的なクロールを覚えた。他の泳ぎ方については今度である。五つ目、ドラえもんからタケコプターを貰って使い方を覚えたので、暇な時はゴメちゃんとキメラ等の飛行モンスターと空中散歩を楽しんでいる。六つ目、初めて甘口カレーライスを食べて大好物になった。島に無い材料は勿論、カレー粉はミコトランドしか入手出来ない為、ミコト達が来た時の楽しみの一つとしている。
――思い返せば、四人の成長速度がおかしい。
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四回目のデルムリン島旅行。一昨日までは雨だったが、今日の天気は晴れ。時刻は10時頃、ミコト達がドラドーラ号でデルムリン島東近くに着いた先に、一隻の大きな船が停泊していた。その船の外見は、木造だが頑丈な船体、国の象徴だと思われる紋章が描かれた大きい帆二つ、両サイドフェンスに並んだ黒い大砲、そして船首には口を開けた竜頭の像が着いている。大きさはドラドーラ号と比べて、少し大きい。かなり立派であるから、王族等の身分が高い者達が乗っているに違いない。
「あの紋章は確か……。パプニカ王国だね」
ドラドーラ号操縦室。運転席に座っている中世船長服ドラえもんは、スクリーンに映っている船を見て呟いた。後ろの座席の一番前横一列に座っている四人は頷く。ミコトとアキラはノートパソコン座学で、マァムはアバンの授業で、パプニカの事を知っている。
「旅行の日と重なるなんて奇遇だな……。それにしても、デルムリン島に何の用だろう?」
「考えられる事は、一つあるわ」
奇遇だと苦笑した次に訝しむミコトに対して、右隣席のドラミちゃんが応える。パプニカ王国の要人がデルムリン島に用があるとしたら、考えられる事が一つ。それは賢者になられる王家の、洗礼の儀式である。三人はそこまで知らなかった。
「洗礼の儀式は50年前から、行わなくなったらしいけど……」
何故、今になって洗礼の儀式を行うのか、気になるドラミちゃん。儀式を行わなくなった原因は、デルムリン島にモンスター達が棲みついて、王族にとって危険だと判断されたからである。
「身分が高い人が島に居るんだね。私、緊張してきたなぁ」
「そうね。下手して失礼したら、面倒な事になるし」
「一般常識で王族や貴族への接し方を学んでおくべきだった……」
ミコトの席の左の通路の左の座席に座っているアキラは、偉い人を想像して緊張し始めた。マァムは気を引き締め、ミコトは勉強していなかった事を悔いる。別に敬語で良いと思うが、緊張して深く考えてしまうのであった。
「取り敢えず、着船するから降りる準備をして」
それを聞いた四人は、シートベルトを外し、降りる支度をするのだった。なお、旅行は楽しく過ごしたい為、三人は筋トレの重りを着けていない。
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デルムリン島中央の森の南東の平原。そこにはブラスと、黒と紺のローブを着た老人と、黒いとんがり頭巾を被った白いローブの男性槍兵士七人が立っていた。彼等八人はパプニカ王国の人間である。島の者はブラスだけで、ダイとゴメちゃんの姿はない。この場の皆は、東の海に見えるドラドーラ号を見ている。いつの間に来たと感じて、パプニカ王国組は驚いているようだ。
「あれは……」
「テムジン殿。此処と親しい友人達の船です」
上はハゲていて後髪は長めの黒紺ローブ老人テムジンは呟くと、ブラスは嬉しそうな様子でミコト達の事を話す。その嬉しい気持ちの中に、来訪のタイミングが良いのか悪いのか、複雑な心境だったりする。
「ふむ、友人の船か。……帆船のわりには、良く進みますなぁ」
「そう思われますか。あの船は太陽の力を借りて動いていると聞いております」
今の風は強くない。なのに良く進む帆船を訝しむテムジンに対して、苦笑したブラスはドラドーラ号について話す。ソーラーシステムについて理解が難しいから、マァムと同じでブラスに「太陽の力」と簡単に説明してある。
「ほう……」
太陽の力で動く船は聞いた事も見た事もないと、興味深そうにドラドーラ号を見捉えるテムジン。先進国のベンガーナ王国でも、風を動力としない船を研究開発中だと、語ったりもする。願わくばパプニカ王国にも、あのような船が欲しいとか……。
彼等が見ている中、ドラドーラ号はバックせずにそのまま、いつもの岬に着船した。次に右サイドドアから出てきたミコト達は、右フェンスの乗り降り口を通って岬に降り、緊張している様子でこっちにやって来る。テムジン達は、彼等の団体の中のドラえもんとドラミちゃんを珍しそうに見ているようだ。
「ブラスさん。お久し振りです」
「うむ。お前達も元気そうで、何よりじゃ」
一ヶ月振りの再会で、喜び合うミコト達とブラス。南東に立っているテムジン達は「成る程、親しいな」と感じている。実にその通りで、ブラスは彼等に対して、いつもの口調で話している。
「そちらの方々は、パプニカ王国から来られたんですね。洗礼の儀式で間違いありませんか?」
「おお、良く知っておるな。その通りじゃ」
「ブラス老の友人達よ。お初にお目にかかる。わしはテムジン。我が国パプニカ王国で司教を務めております」
ミコトはテムジン達を確認して訊ねると、感心して肯定するブラス。そしてテムジンはミコト達に向けて跪いて恭しく頭を下げ、後ろの兵士達も同様に頭を下げる。
――ミコト達は戸惑ったが、丁寧に自己紹介を果たす。
その後、ブラスから事情を聞く。ミコト達が来る一時間前に、パプニカ王国の聖なる船が島に訪れた。その船から小舟でテムジン達が、レオナと呼ばれるパプニカ王女を連れて島に降り立った。自己紹介の後はダイが案内人となり、レオナと護衛兵士二人を連れて、中央の森の北から入って進む先にある中央の山の北側にある洞窟へ向かった。その洞窟の中は大穴になっていて、螺旋道を下って行く先に儀式の場所があるそうだ。ただし、溶岩が道を塞いでいる。
「ダイとお姫様は大丈夫かな……」
「なぁに、心配は要らん。ダイにとって、この島は庭のようなものじゃからな」
「洞窟の溶岩など、賢者のバロンが伝授した氷の呪文があれば、問題なかろう」
ダイ達を心配するアキラに対して、ミコト達は同意して頷き、ブラスは笑顔で「大丈夫」と応え、テムジンは言葉を付け加える。レオナは将来賢者になられる方、バロンは賢者の先輩であり、呪文を教えているとの事。
「……そういえば、バロン殿は?」
「レオナ姫の事が気掛かりでしてな、様子を見に行かれましたぞ」
「そうでしたか。賢者の鑑ですな」
周りを見回して、いつの間にかバロンがこの場に居ない事に気が付いたブラスは訊ねると、テムジンは中央の森を見ながら答えた。それで納得し、バロンを感心する。
「お姫様は、良い国民に恵まれているんだね」
「うん、そうだね。ノートパソコンの画像で、パプニカ王国は美しかったし」
「うん、お城はシンデレラ城のようで、とても綺麗だったね」
「……?」
アキラとミコトの談笑を見て、聞いた事がない単語が会話に出て、首を傾げるテムジン。画像で見たパプニカの王宮は純白で、千葉県への家族旅行で行った事があるテーマパークのシンデレラ城に近いらしい。まぁ、異世界の話だから、テムジンは知らないのは当たり前である。
こんな感じで皆はダイ達の帰りを待っている中、慌てた様子のゴメちゃんが中央の森の上空からやって来た。気付いた皆は見上げて、彼に視線を集める。何か大変な事が起きたようだ。
「ピィー! ピピー! ピー!」
「なんじゃとぉ! 魔のサソリの毒に姫が!?」
「魔のサソリ!? どうして、あんな危険なモンスターが!?」
ゴメちゃんの緊急連絡を受けたブラスは、盛大に驚きの声を上げた。それを聞いたマァムは信じられない顔をして、魔のサソリに対する疑問を感じる。勿論、ミコト達も。
魔のサソリとは、平和な世の中でも好戦的で、ライオンヘッドに勝る狂暴なサソリモンスター。並の毒消し草が効かない猛毒を持つので、とても危険。だから俗に言う殺人サソリ。リンガイア王国南の砂漠に生息するが、魔の森にも出る事がある。マァムは会った事も戦った事もないが、父親のロカが退治した事があるようだ。ミコトとアキラはノートパソコンで、どれ程危険なのかを知っている。なお、魔のサソリはデルムリン島に生息していない。だから疑問を感じた訳だ。
「テムジン殿、今すぐ救出に向かいましょう!」
事情を詳しく聞きたいが、今は一刻を争う。慌てたブラス達は、急いで現場へ向かう事にした。……が、テムジン背後に居た七人の兵士達に包囲され、槍の刃先を向けられる。いつでも出られるような、迅速の行動であった。
「えっ? なんで!?」
「テムジン殿ッ! これは何のマネじゃ!?」
目を疑い、今の状況が理解出来ないアキラ達。ブラスの怒鳴るような問いに対して、テムジンは意地悪い笑みを浮かべていた。さっきまで人の良さそうな雰囲気が消えている。
「ファハハハハ! 残念ながら、行かせる訳にはいかんのじゃよ。姫を助けると、せっかくの計画が水の泡になるからな」
テムジンは高笑いして、救出に行かせない理由を話す。レオナを助けると困る計画とは、自分がパプニカ王国の実権(政権)を持つ事である。今のパプニカ国王の子はレオナしかいない為、必然的に彼女が次期王位継承者となる訳だ。だから計画の第一段階は、50年前から行われていない洗礼の儀式を強行し、それを利用してレオナを抹殺する事。最終的には、何かの手段で国王を暗殺する事で計画が完了する。そんな野心家の話を聞いて、ブラス達は言葉を失うのであった。
「お前達、最初からそのつもりで……」
「いや、船に残った者は知らん。わしの直属は、この七人の部下よ。……姫の護衛二人も、バロンもな」
テムジンはブラスに応えると、ミコト達は血の気が引いてしまう。かなりマズイ状況なのだ。島に降り立ったメンバーの中に、レオナの味方が一人もいなかった事実に!
「悪いが、皆は此処で死んでもらう。友人も運がなかったな」
テムジンとしては、事件の証人になる皆を生かしてはおけないようだ。ブラス達は彼を睨みつけている中、ドラえもんは四次元ポケットから手榴弾を取り出して、力一杯で南東の砂浜へ投げた。その手榴弾は山なりでテムジンの頭上を越えて、砂浜に落ちて転がる。敵味方皆は気付いていない。
五秒後、その砂浜でイオナズン級の大爆発が起きた。もの凄い爆発音で敵味方皆は、驚いて爆発地点を見た。その隙にドラえもんとドラミちゃんは、四次元ポケットからタケコプター数個を取り出す。見事な迅速だ。
「皆! 早く空へ逃げるんだ!」
「それでダイ達の所へ急ぎましょう!」
ドラえもんとドラミちゃんは素早く、タケコプターをブラス達の頭に装着させた。彼等はまだ驚いているが、無意識で空へ飛び上がる。ゴメちゃんは慌てて空へ追う。因みにブラスは、前のミコト達再訪時にタケコプターを使った経験がある。説教から逃げるダイを追って、島上空で鬼ごっこを繰り広げる日があった事も……。
逃げる事を選択した理由は、周りを包囲されていて不利である事、不意打ちとも言える展開で戦闘準備が出来ていない事、戦うよりもダイとレオナの救出が先決である。
「……はっ!? しまった! あやつら全員、トベルーラを使えたというのか!? ……ぐぬぬ、おのれ」
動揺しながら爆発地点を見ていたテムジンは、正気を取り戻して再びブラス達に方向反転すると、唖然しながら北の中央の森の上空を見上げている兵士達だけで彼等は居なかった。自分もつられて上空を見上げると、ダイ達が居るであろう方へ遠ざかって行くブラス達を見つけて驚き、追撃困難で地団駄を踏むのだった。タケコプターを知らない為、トベルーラだと思っている。
因みにドラえもんが使った手榴弾の名前は、こけおどし手投げ弾。これが爆発すると、光と音だけ発生する。爆風の衝撃が無いので、被爆した者にダメージは無い。これを知らない相手なら、脅して威嚇に使える。
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「神に仕える身でありながら、己の欲望で主君の生命を奪おうとは……」
「ピィッ!」
上空を移動中、先頭のブラスは怒り爆発しそうな様子で呟いた。彼の横近くに飛ぶゴメちゃんも、お怒り。後ろを飛ぶミコト達は、何も喋らない。空気が重く、特にミコトとアキラはテムジンに対するショックを受けている。
そんな雰囲気を維持したまま、中央の山の上を越えた。前方の下に見える中央の森の道の途中で、魔のサソリの死体と地面に開いた穴を発見する。しかし、ダイとレオナの姿はない。
「まさか……。ダイーーッ!!」
「ピーーッ!!」
血の気が引いたブラスとゴメちゃんは、悲痛の叫びを上げながら飛行速度を上げ、穴の方へ急降下した。ミコト達も同様で、後を追う。そして穴の中へ……。
「レミーラ!」
穴の中は暗くて見えない為、ブラスは呪文を唱えて杖の先端を光らせた。続いてドラえもんとドラミちゃんは四次元ポケットからキャンプLEDランタンを取り出してスイッチを入れる。それらの光は松明より明るい。こうして穴の中の空洞の地面に到着。
「山の中だけでなく、森の地下にもこんな空洞があったとはな……。ダイーー!! レオナ姫--!!」
「ダイーー!! お姫様ーー!! 居るなら返事してーー!!」
島の地下にこんな場所があったとブラスは心中で驚き、次は大声でダイ達を呼んだ。ミコト達も反対の通路に向けて大声で呼ぶ。
――こうして何度も、呼び続けた。
「じいちゃーん!!」
「おお! こっちか!」
「ピィ!」
「生きてて、良かった……」
北の通路からダイの大声返事が聞こえてきて、ブラスとゴメちゃんとアキラ達は安堵した。そして彼等の元へ歩く。中はジメジメしており、地面は凸凹な上に滑りやすい為、走るのは危ない。
数十メートル進むと、金髪おさげ少女をおんぶしているダイが、前方の暗闇から現れた。彼はケガ一つもないが、額宝玉サークレットと白い賢者の衣を装備した13歳金髪おさげ少女改めレオナは、毒に侵されている所為で重い風邪のように高熱で息苦しそうに眠っている。彼女の右腕にある切り傷は腫れ上がって痛々しい。
「助かったぁ……。早くキアリーで治してよ! レオナが大変なんだ!」
「うむ。……マァム、手伝ってくれ」
「ええ! 急ぎましょう」
無事を喜び合うのは後回し。余裕のない顔で助けを求めるダイに応えて、ブラスとマァムは頷いた後で解毒治療に取り掛かった。先ずはドラミちゃんが四次元ポケットから取り出したクッション敷物にレオナを仰向けで乗せる。次は彼女の横にブラスとマァムが挟む位置に着いて手を翳し、二人がけでキアリーを唱える。因みにブラスは、その時にレミーラを解除している。
ダイとゴメちゃんとアキラ達は静かに見守る中、レオナの顔色が見る見るうちに良くなっていく。そして無事に解毒が完了する。後は腫れが引っ込んだ傷口を、ホイミで回復。お姫様の九死に一生であった。
――こうしてレオナは意識を取り戻して、起き上がる。
「助かったわ。ありがとう」
レオナは微笑んでブラスとマァムにお礼を言う。元気になったお姫様はカリスマ性、可憐と気品があって強気な印象があると、ミコトとアキラは改めて感じた。
「ダイもね。メソメソしないで良く頑張ったわ。えらいえらい」
「えへへ……」
レオナはウィンクして、こんな時でも諦めずに頑張ったダイを褒める。本人は照れ臭そうだ。まぁ、助かった事で皆は喜び合うのであった。
「遅れたけど、貴方達。初めて見るカオね。私はレオナ。パプニカの王女で賢者よ」
レオナはマァムとアキラ達に向けて、笑顔で自己紹介した。こちらも笑顔で、自己紹介を返す。彼女は身分の差を気にしないようで、直ぐに友達となり、公の場でないプライベートなら名前呼び捨てで呼ぶ事になる。因みにドラえもん達に対して、やはりタヌキと思われたようで「ネコ」と伝えている。
自己紹介が終わったところで、お互いの事情を話し合う。ダイとレオナの方の事情について。始めは護衛二人と一緒に儀式の場への洞窟へ行く途中で、魔のサソリと遭遇。次はそのモンスターと戦闘が始まり、レオナは護衛に突き飛ばされて魔のサソリの攻撃を受けてしまい、毒に侵される。これは突然の反逆であった為、ダイは対処出来なかった。それから護衛二人は何処かに去ってしまう中、ダイは瞬動で魔のサソリの背中に乗り、出発前にレオナから貰ったパプニカのナイフで心臓を貫いて倒した。その後にバロンが現れ、レオナの解毒を頼んだが、拒否されて自分の目的を語られる。魔のサソリを魔法の筒に入れて持ち込んだ犯人はバロンだった。そしてバロンから、イオラの呪文を受けて運悪く地面が崩れて、地下の空洞に落ちてしまった。それで出口を探す途中、ブラス達の呼び声が聞こえてきて、今に至る訳だ。
「司教が黒幕だったのね……。早く止めないと大変な事になるわ」
「そうね。レオナを殺そうとした人だもの」
「そうだね。あの人なら、独裁者になりかねない」
「どくさいしゃ?」
「ダイ。簡単に言うと、とても悪い王様だよ。例えば……逆らったら殺す、とか」
「いぃっ!? あのじいさん、魔王になるのか!?」
「いや、それに近いものじゃがな。……わしも姫に協力するぞ」
「ピィッ!」
今まで父王からも信頼されていたテムジンに対するショックを受けたが、彼の野望を阻止する事を決意するレオナ。そしてマァムとミコトも同意。自分も同意しているアキラから、独裁者の意味を教えて貰ったダイは、驚いた後でレオナに協力する事を決めた。それからブラスとゴメちゃん、ドラえもんとドラミちゃんも賛成して満場一致となる。
「ねぇ、ドラえもん。とうめいマントある?」
「あるけど、何に使うの?」
ミコトは思いついた作戦を皆に話す。目的は穏便にテムジンを逮捕する事。先ずは、おばけキノコ達にとうめいマントを被せて姿を見えなくする。次に彼等を敵陣に突入させ、あまい息で奇襲をかけ、敵全員を眠らせる。それが成功したら、後は皆で敵全員を拘束するだけである。
「卑怯だ! そんなの、勇者じゃないよ!」
「ダイ……。相手は、僕達と同じ人間だからね。たとえ敵でも、ケガはさせたくないんだ」
大声で作戦に猛反対するダイに対して、ミコトは苦笑しながら宥めて説得する。此方に人間と真剣で斬り合う覚悟が、まだ出来ていない事。負けると人生が終わるかもしれないという、後戻り出来ない事から本気で来る相手を、無傷で倒すのは難しい。それで此方も殺す気でやらないと、死傷者が出てしまう可能性が高い。だから、戦わずに穏便に終わらせたいのだ。
「分かった。まじめに考えてたんだね。怒ってごめん」
ダイが納得して謝って、他に異論者も無く、作戦が決まった。次はドラミちゃんがクッション敷物を片付けた後、皆は天井に穴がある場所へ移動する。
「さっきから思っていたけど、貴方達の頭にある変な物は何なの?」
「レオナ。あれを装備すると空を飛べるんだ。名前は……何だっけ?」
「タケコプターだよ」
ミコト達を見て訝しむレオナに対して、ダイは楽しそうな様子で説明するが、対象の名前を忘れた。そこでドラえもんが苦笑して教える。すかさず四次元ポケットから、ダイとレオナの分を取り出しながら……。
「誰でも空を飛べるのね? 凄い」
「おれ。家に忘れなかったら、こんな苦労はしなかったなぁ……」
レオナは期待感に溢れながら、ダイは笑って後悔しながら、タケコプターを受け取る。ダイも自分のタケコプターを持っているが、家に忘れてしまった。だから、直ぐにこの空洞を出られなかったのである。
――こうして皆はタケコプターで、空洞から脱出する。
「今思ったんだけど、この穴は深かったよね」
穴から外に出て地面に着地してタケコプターを外したところで、アキラは不思議に思った。それはダイとレオナが、穴の深くまで落ちたのに、よくケガをしなかった事である。
「あの時は確か……ダイが光って、私を抱えてフワッと浮いたわ」
「えっ、そうなのか?」
レオナは右手人差し指を頭にあてて思い出して、落ちてケガしなかった理由を皆に話した。ダイは覚えていないようで、驚きの顔を見せる。不明な点はあるが、彼の潜在能力であると判断して、皆は納得するのであった。
「魔のサソリ……近くで見ると大きいな」
「うん。固くて強かったよ」
ゴメちゃんがおばけキノコを呼びに行った中、穴の近くで、背中に傷穴があって地に伏せている、体長およそ三メートルもある魔のサソリの死体を見て呟くミコトに応えて、ダイはパプニカのナイフを後ろ腰の鞘から抜き出して、彼に見せながら話す。そのナイフは、良い切れ味があるようだ。
「!? い、今の……目が開かなかった?」
「え!? …………何もないじゃない」
「お、脅かさないでよね」
一瞬だけ、魔のサソリが動いたところを見てしまったアキラは、驚いて声を上げた。それでマァムは魔のサソリの状態を注目するが、本当に死んでいて何の動きもない。毒のトラウマがあるようで、レオナは声が震えている。ダイとミコトは談笑していて、気付いていない。結局、アキラは「気のせい」だと杞憂に終わるのであった。
「この穴、塞いだほうが良いね」
「そうね。そのままにしておくと危険だし」
「しかし、穴が大きいから、難しいと思うんじゃが……」
穴を開けたままにしておくと、島のモンスター達が転落してしまう危険性がある。それで話し合うドラえもんとドラミちゃんとブラス。穴は直径五メートル以上はあるので、塞ぐのは難しそうだ。
「簡単な方法があるよ。皆に手伝ってもらうけど」
ドラえもんは四次元ポケットからスケールふろしき(唐草模様)を取り出した。次は、辺りに転がっている大きさ約30㎝の手頃な丸い岩を拾って、スケールふろしきで包む。そんな行動で怪訝な顔をするブラス。
「ビッグライト」
「おお!? 大きくなった!?」
ドラミちゃんはビッグライト(懐中電灯)を四次元ポケットから取り出して、岩を包んだスケールふろしきに光を照射した。これにより対象の物が、見る見るうちに巨大化していく。勿論、ブラスはびっくりである。
ビッグライトまたはスモールライトの仕様について。本物と違い、そのまま対象物に光を照射しても、大きさは変わらない。そこでスケールふろしきが必要となる。対象物にそれを包んでから、光を照射する事で大きさを変えられる。但し、生き物に対しては効果がない。また、本物と違ってタイムリミットがなく、大きさは永久に続く。
大きさ六メートル近くまで大きくなったらビッグライトを止めて、次にドラえもんはタケコプターで頂上まで上がって、スケールふろしきの結びを解いて広げた。その中から、巨大化した岩が姿を現す。そしてドラミちゃんに呼ばれた、魔のサソリ近くの皆はその岩を見て驚愕するのであった。
「うわぁ……いつの間に!?」
「あんなに大きい岩……何処から?」
「……ドラえもんが何かしたのね」
「ねぇミコト。あれって……もしかして」
「うん。ビッグライトを使ったんだろうね。多分」
ダイは大きい岩を見上げ、レオナは不思議に思い、マァムはドラえもん達の仕業だと気付き、アキラとミコトは何したか予想出来た。そしてブラスから、理由を聞いて理解する。
「さあ、皆。力を合わせて、岩を穴に入れよう」
大きい岩の下に立つドラえもんは、皆を呼び集めた。そして全員力を合わせてその岩を押し、転がして穴に入れる。力が突出したミコトとアキラとマァムの三人だけでも転がせるが、テンションの流れのノリだろう。
転がされて穴に入った岩は大きい音をたてて、半分程地面に埋まる。その周りに多少の隙間があるが、これで転落の心配がなくなった。それでも気になるのなら、後で粘土等で詰めれば良い。
「これで一安心じゃな」
「ピー!」
問題が一つ解決して、島の長老としての肩の荷が下りた。それで上機嫌になるブラス。そこでタイミング良く、おばけキノコ三匹を連れたゴメちゃんが森の木々から出て来る。
おばけキノコは、名の通りキノコ型の植物系モンスター。身長はブラスより低め。手足が生えた茶色いキノコ体で、うらめしそうな目つきで、常に大きな舌を出している。得意な技は「あまい息」で、敵を眠らせる。また、邪気で狂暴化した場合は、毒を持つようになる。
「おばけキノコ達よ、急に呼び出してすまんな」
ブラスは申し訳なさそうな顔で、おばけキノコ達に事情を説明した。それからドラえもんと二人で、作戦の説明をする。勿論、とうめいマントの使い方も。
説明を聞いたおばけキノコ達は頷いて、お安い御用だと快く引き受けてくれた。そして、とうめいマントを受け取って被り、姿を見えなくする。これでテムジン達に気付かれないだろう。
「時間制限がない分、姿を消す呪文のレムオルより優れておるな」
改まったように、ブラスは呟く。呪文のレムオルの場合は、30秒も経たないうちに早く効果が切れてしまう。それに対して、人工衛星から送電されてエネルギー無限も同然のとうめいマントは、壊れない限り効果は永続する。
その後は各自で、魔法の筒を持たせて準備完了。そして、おばけキノコ達を誘導しつつ、徒歩で森の道から北の平原に出て島の南東へ向かうのだった。作戦が上手くいく事を信じながら……。
――皆が気付いていないところで、魔のサソリに異変があった。
つづく
はい。ダイ大のメインヒロインが初登場する第八話でした。
次回は連戦の予感……。