異世界の人々は北極南極を知らない   作:峻天

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009 転生モンスター現れる

 デルムリン島南東に居るテムジン達は、ドラドーラ号を占領していた。といっても、サイドドアにロックが掛かっているので甲板上だけである。ドアを破壊しようとしたが、アルミニウムよりも軽くてオリハルコンと同等で強いアルティメットカーボンナノチューブで出来ている為、兵士の皆はお手上げだった。傷が付くとしても、塗装のニスが剥がれるだけ。また、ドアの丸い窓ガラスは新幹線の強化ガラスよりもかなり強い。ガラスは割れやすいという常識を遥かに超えた物を目の当たりにして、誰もが驚愕した事だろう。

 

 何故、テムジン達がそんな行動に至ったのかというと、空を飛ぶ事が出来る大江山ミコト達に対処する為である。テムジンの兵士達は空を飛べないし、バロンを除いて対空の手段が無い。しかも、肝心のバロンが此処に居ない。たとえ相手に空からの攻撃があっても、流れ弾で自分の船を壊してしまう恐れを利用し、何とか地上戦にさせるという考えから至った訳だ。実は、聖なる船の大砲を使う手もあったが、対人相手という的が小さ過ぎる為、アテにならないのだ。そもそも、テムジンの部下でない者達に疑われる。

 

 ドラドーラ号の船首甲板に居るテムジンと兵士九人は突然、全員倒れて眠ってしまった。その原因は、おばけキノコ達の技のあまい息によるものである。これで、姿を消す秘密道具のとうめいマントによる奇襲は成功だ。任務を果たしたおばけキノコ達は、甲板に転がった兵士達の槍を全て回収した後で船を降り、岬近くの平原の岩陰に居るミコト達の元へ報告しに戻って行く。

 

「ご苦労じゃったな。……よし、行くぞ!」

 

 とうめいマントを外して姿を現した、回収した槍持ちのおばけキノコ達を確認したブラスは、彼等を労った後でダイ、レオナ、ゴメちゃん、マァム、ミコト、大河内アキラ、ドラえもん、ドラミちゃんに号令を出した。そして岬へ駆け足で、ドラドーラ号へ向かう。日々修行している者は速く走れるが、速度を全員に合わせている。あと、ミコト達はドラドーラ号占領に対して、予想の範囲内であったので動揺していない。因みにレオナが初めてその船を見た時のコメントは「帆の赤い丸が目立つ」であった。

 

 岬からドラドーラ号に乗り込んだ皆は右に曲がって船首の方へ行き、寝ているテムジンを除いて寝ている九人の兵士達を「イルイル」で次々と魔法の筒に入れていく。そして最後に残った彼を、縄のロープぐるぐる巻きで縛るのであった。その理由は、レオナ本人が首謀者に話したい事が山ほどあるからだ。

 

 魔法の筒の仕様について。魔族の天才魔法技術者が開発した物で「イルイル」と「デルパ」のキーワードで生物を入れたり出したり出来る。大気中の魔力素を吸収してエネルギーとしており、耐用期間(寿命)は約50年。中に入れた生物はアストロン状態になる為、お腹が空く事も年を取る事もない。また、気絶状態や睡眠状態も維持される。つまり、入れられた兵士達は目が覚めたらパプニカ王国の牢獄の中という訳だ。因みに、今回使用した魔法の筒は、ミコトランド生産品である。

 

――縛られたテムジンは、マァムの呪文ザメハで起こされる。

 

「なっ!? れ、レオナ姫!?」

 

 船首フェンスに背中を預けた体勢で、目を覚まして眼前にレオナが居た事で驚き、後に自分の状況を理解して混乱するテムジン。レオナは腰に手を当てて彼を睨むように見下ろし、彼女の左右に居る皆も悪党を見るような眼差しである。敵のバロンは居なかったので、警戒も忘れない。

 

「クッ、やはり生きておったか……」

 

「私は訳の分からないまま、死ぬのは嫌よ。頼もしい人達のお陰で、此処まで来れたわ」

 

 悔しむテムジンに対して、レオナは凛とした表情で、この場に居ない兵士達についてや此処までの経緯を話す。その際におばけキノコ達が、とうめいマントを被ったり外したりして、消えたり現れたりするところを見せたら、テムジンは驚いたと言うまでもない。

 

「空を飛ぶだけでなく、姿を消す手段も持っておったとはな……卑怯者め」

 

「うっ」

 

「ごめんなさい」

 

「此方は、人間同士で戦いたくないんですよ」

 

「ええ。せっかく平和なのに、そんな事なんてとんでもないわ」

 

「そう言う事よ。観念しなさい」

 

「テムジン殿……。聖職者として心を入れ替える気はないのか?」

 

 悪態をつくテムジンに対して、ダイは痛いところをつかれ、アキラは深く頭を下げて謝り、ミコトは申し訳なさそうな顔で理由を話し、マァムはそれに同感し、レオナは降伏を求め、ブラスは憐れみの表情で「真っ当に生きろ」と言う。

 

「……わしは、まだ終わっておらんぞ」

 

「なんじゃと? どういう――」

 

 捕まってしまったにも関わらず、テムジンは諦めていない。寧ろ余裕の彼を見て、ブラスは「どういう意味だ」と訝しんで言い終わる前に、ドラドーラ号から南南西70メートル離れた聖なる船の中央甲板で爆発が起きた! その大きい爆発音でテムジン以外の者達は驚き、聖なる船に向いて視線を集中する。

 

「あ……ああっ!?」

 

 二本あった帆のマストが全て吹き飛ばされて海に落ち、黒煙を上げている聖なる船。予想もしなかった惨事でミコト達は言葉を失い、レオナは左フェンスまで走って身を乗り出して悲痛の叫びを上げた。あの船に残ったメンバーの事が心配なのは当然だが、幼少の頃よりお世話になっていて家族みたいな侍女の事が一番心配である。女の子一人では何か不便な事があるだろうから、彼女が儀式の旅に同行した訳だ。父親のパプニカ王からも頼まれている。

 

 暫くして黒煙が晴れると、そこには薄い青と濃い青の二色ボディの二本腕四足歩行ロボットが現れた。そのロボットは、丸い頭部にモノアイと言う赤い目一つだけ付いていて、右手にサーベルとも言う曲刀(刃渡り約200㎝)を持ち、左腕肘下にアームクロスボウ(ビッグボウガン)を装着し、背中に矢筒を背負っている。全高は約360㎝(足を高く伸ばした場合)とトラックのように大きい。

 

「なんだあれ!? 何処かで見た何かに似てるけど……」

 

「あ、あれは……まさかっ!?」

 

「ハハハハッ! でかしたぞバロン!」

 

「なんだって!?」

 

 あのロボットを見て、ミコトは何かを思い出そうとし、ブラスは強張った表情に染まった。そこで、口角を吊り上げていたテムジンは笑い出して叫び、彼の口からバロンの名前が出た事にダイは反応する。以前にミコトが見た何かとは恐らく、テレビアニメのガンダムのザクだろう。

 

「キラーマシンだ……いや、キラーマシーンだったかな」

 

「パプニカ防衛戦の後に、鹵獲していたのね……」

 

「その通り! 魔王が勇者を殺す為に投入した殺人機械らしいが、勇者に倒された後にわしが回収して改造したのだ! 勇者も苦戦したその威力を人間の意志で振るえるように、な」

 

 ドラえもんとドラミちゃんに応えて、テムジンは自分が縛られている事を忘れて勝ち誇ったように熱弁する。ドラミちゃんが口にした「パプニカ防衛戦」とは、14年前に起こった最終決戦の前の戦いである。魔王の居城である地底魔城はホルキア大陸にあってパプニカ王国と近い為、勇者一行が最終決戦の前にその国で宿をとって万全の準備をしていた訳で、その夜に魔王軍が襲撃して来て戦闘が発生してしまった。敵の軍勢は数百匹のモンスターで、強敵のドラゴンが居なかった代わりにキラーマシーン一体が参戦。交戦前に敵からの説明があったようで、名前が知れ渡った。圧倒的な戦闘力を持っていたので、勇者一行は苦しい戦いとなった。それでも知恵と勇気とチームワークで何とか勝利し、パプニカを守る事が出来た。そして、戦いを見ていたテムジンが目を付けたのである。なお、改造の件についてはパプニカ王に内緒であった。

 

 因みにキラーマシンは、エスタード州を除く全ての大陸群にも存在する。だがギルドメイン州では一体しかなく、名前はキラーマシーンとなっていて、大きさは従来の二倍になっていて、より戦闘力が高い。

 

「今のバロンは、地上最強ぞ! これで終わりだっ!」

 

「むぅ……」

 

 形勢逆転だとテムジンは嘲笑い、ブラスはキラーマシーンを見ながら「どうしたものか」と苦悩する。ミコト達もドラえもん達から詳しく聞いて理解し、ブラスと同様になる。

 

――何分経っても、キラーマシーンは船の上から動かなかった。

 

「……バロン? 何もたもたしておる! 早くレオナ姫と邪魔者を殺せ!」

 

「もしかして、船から降りられないんじゃ……? あれ、泳げないのかな?」

 

「……」

 

 未だ動きを見せないキラーマシーンに対して、テムジンは首を傾げた後に大声で怒鳴ったが、アキラの言葉で黙り込んでしまう。島まで約30メートル。船から降りると海に沈んで左胸の通気口から海水が入って溺れてしまうと、今になって気付いたバロン本人は何か方法を考えているようだ。

 

「ちっ。無駄に魔力を使いたくなかったが、仕方あるまい」

 

 仕方なく、バロンは頭部ハッチを開けてキラーマシーンから降りた。その次は海面に向けてヒャダルコを唱え、船から島の砂浜まで氷の足場を作り始める。キラーマシーンを動かすのに魔力が必要なので、無駄に使いたくないのだ。だから不機嫌な様子。

 

 賢者バロン。年齢は20代前半の男性で容姿は、肩まで伸びた空色の長髪でレオナと同じ賢者のサークレットを着け、顔は無愛想でクールな感じ。身長はミコトより少し低い。服装は白い道衣に薄い青のローブで羽織っているが今は、ズボンだけの上半身半裸となっている。その理由は、キラーマシーンに魔力を流し込む為のケーブルを肌に着けるからである。

 

「ハァ……。なんという事だ。船を砂浜まで停めておくべきであったか……」

 

 作業中のバロンを見て脱力し、後悔して嘆くテムジン。恐らく、聖なる船を島から離れた所で停めたのは、自分の部下でもない者達にレオナ暗殺計画を悟られない為だと思われる。

 

「ピィーーッ!!」

 

 偶々、周りの様子を見たゴメちゃんが、西北西の方の平原に向けて大声で叫んだ。それでテムジンを含む皆は、南南西のキラーマシーンとバロンの方から西北西の方へと顔を向ける。

 

「なっ!?」

 

「なんじゃとぉっ!?」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「う、嘘……でしょ!?」

 

「あれ……生き返ったというの!?」

 

「気のせいじゃなかったんだ……」

 

「く、黒い魔のサソリ!?」

 

「あれって……まさか」

 

「転生モンスター……? 此処はロトゼタシア州じゃないのに」

 

 西北西の平原で、こっちに向かってゆっくりと進んでいる、甲殻が赤ではなく漆黒に染まった魔のサソリを見たテムジン、ブラス、ダイ、レオナ、マァム、アキラ、ミコト、ドラえもん、ドラミちゃん、それぞれ驚きの声を上げた。南南東に居るバロンも、あれを見て驚愕している。そんな中、彼の背後にあるキラーマシーンが、勝手に動き出す。

 

 キラーマシーンは扉が強く閉まるような大きい音をたてて、ひとりでに頭部ハッチが閉まった。そしてボディの色が、青から赤に染まっていき、モノアイは上下左右に動いた後でマァムを見捉え、赤い光が強く輝く。パプニカ防衛戦の時に自分が倒された勇者一行の中のロカやレイラと、見なしているようだ。その機械に宿った魂からの復讐心だろうか。

 

「……!? なんだと!?」

 

 遠くの黒魔のサソリを見ていたバロンは、バタンとした音を聞いて後ろに振り返ると、キラーマシーンの異変でまた驚愕して信じられない顔になった。その間に突然、赤キラーマシーンは上半身の部分を高速水平左回転させ、左腕の裏拳でバロンを跳ね飛ばした! 飛ばされた彼は悲鳴を上げる事なく、船と島の間の海に落ちて水柱が上がる。そして気絶して海面に浮き上がり、波で砂浜の方へ流されていく。哀れ……。

 

 赤キラーマシーンの次の行動は、標的のマァムが乗っているドラドーラ号を沈めるべく、アームクロスボウを差し向けて矢……ではなく、光の矢を三発放った。彼女達全員は黒魔のサソリに釘付けで、あっちに気付いていない。そして三本の光の矢が全てドラドーラ号の船体左に命中し、その船は衝撃で揺れる。

 

「ぬおっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 波からとは違う揺れでブラス達老人陣、ミコト達男性陣、アキラ達女性陣は短い悲鳴を上げた。それで黒魔のサソリから聖なる船の方に視線を戻すと、また驚いてしまう。いつの間にか赤く染まったキラーマシーンと、気絶して海の上を流れているバロン。これは何があったのか、皆は混乱している様子。

 

 赤キラーマシーンからの攻撃が当たったドラドーラ号だが、塗装のニスが剥がれただけで船体に損傷無し。ネオハルコンと言う最強の金属で出来ているから、当然の結果だ。とはいえ、塗装の塗り直しが大変だが……。

 

「あれとあれはどういう事だ!? 何かしたのか!?」

 

「知らん! わしは知らん!」

 

「最悪だ……。転生モンスターが二体も現れるなんて……」

 

「魔のサソリの方は分からないけど、あれはタイプGね」

 

 ブラスは杖であの二体を順に指しながら、自分に心当たりがないテムジンに強く睨みつけて問い詰めている一方で、ドラえもんとドラミちゃんは深刻な顔をして転生モンスターについて話す。モンスターは倒されて死んでも、一度だけ甦って体の色または模様が変わってパワーアップする事があるらしい。だが発生率は非常に低い。また、そんな現象はロトゼタシア州だけであるとの事。その筈なのに、イレギュラーが起きて驚いている。タイプGは以前に確認されてデータベースに情報があるが、魔のサソリの方は初めて見る未確認(アンノウン)で名前が無い。前述の通り発生率が非常に低いのに、今回は二体も現れた。神の悪戯か奇跡レベルの、悪夢な偶然だと言える。あと、自分を倒した者達に恨みがあって、晴らさんとしつこく追ってくるケースが多いので要注意。

 

 この場の皆(特にミコト陣営)は知らなかった。あんなイレギュラー発生の原因は実は、未来のミコト達の手によってロトゼタシア州と繋がりが出来た事にある。これにより以後、この世界全ての各地で転生モンスターが極稀に出現するようになってしまった。まさか自分達の所為で、この世界の人々に迷惑をかける事になるとは、人生最後まで知る由もない。なお神鳥レティスは、そういう理由でロトゼタシア州だけ関わらないようにしている。

 

「ロトゼタシア州? 聞いた事が無いんだけど、何処なの?」

 

「レオナ、もうそんな時間が無いよ。その説明は後でするから、今はあの二体を何とかしないと」

 

 ロトゼタシア州の事が気になったレオナ(話を聞いたテムジンも)だが、早く混乱から立ち直ったミコトは説明よりモンスター退治が先だと応えた。それでテムジン以外の皆は頷いて賛成し、急いで戦闘の準備をする。現在、黒魔のサソリはゆっくり接近中で、赤キラーマシーン改めタイプGはバロンが作った氷の足場を通って砂浜へ移動中。無駄だと判断した為か、ドラドーラ号に射撃は止めたようだ。また、標的のマァムを狙い撃ちしないのは恐らく、距離があって躱されやすいからと思われる。

 

「アデアット!」

 

 アキラはドラミちゃんから受け取った制御補助の腕輪を左手首に嵌めた次に、アーティファクトの水神槍を召喚し、同時に防護服の青チャイナドレスを展開する。あれから三ヶ月経ってもう慣れたようで、恥ずかしがる抵抗もない。

 

「服が変わりおった!?」

 

「こ、これは……?」

 

「うわぁ、カッコイイ」

 

「ピィ」

 

「武闘家……なのね」

 

 アキラの様子を見たテムジンとブラスは目を見開き、ダイは勇者を見るみたいに目を輝かせ、ゴメちゃんは褒めるように笑み、レオナは驚きながらも以前に読んだ事がある本を思い出す。チャイナドレスは中国の民族衣装・礼服・パーティー衣装なのだが、この世界では武闘家の服の一種らしい。そういえば、アキラのアーティファクトをダイ達に見せるのは今日が初めてであった。

 

 その間にマァムとミコトはドラえもん達から受け取った装備品を素早く装備する。手装備はハンマースピアとはがねのつるぎ&アトムシールドで別だが、制御補助サークレットとネオハルコン胸当てとネオハルコン手甲(ガントレットではなく、ブレスレットタイプ)は同じ。その装備品は現在、修行の模擬戦で使用している。実戦では今日が初めて。

 

 ネオハルコン胸当てとネオハルコン手甲について。材質を全てネオハルコンにすると余計に重くなる為、構造は外から順にネオハルコン・アルティメットカーボンナノチューブ・クッションで三層となっている。また、アトムシールドやドラドーラ号船体と同じく、表面は塗装で隠している。理由は言うまでもなくレアメタルなので、知られると色々面倒だからである。今のところ、ネオハルコンを知っているのはミコト陣営とマァムのみ。因みにマァムのは赤色で、ミコトのは緑色。

 

「なぁなぁ、ミコトもできるのか?」

 

「いや、僕は出来ないよ。……これでよし」

 

 ミコトはダイに手際よく、青色塗装のネオハルコン胸当てとネオハルコン手甲を装備させている時に、アキラと同じ事が出来るのかと、期待して訊いてきたが、顔を横に振った。それで残念そうにしていた間に装備完了。因みにダイは始めから、制御補助サークレットを着けている。あと本人は、自分のスタイルに盾が要らないらしい。武器に関しては、パプニカのナイフがある。

 

 魔法主体のレオナとブラスに魔力増幅腕輪を装備させ、後衛を守る立ち位置に回るドラえもんとドラミちゃんはヒラリマントを携えて戦闘準備完了。魔力増幅腕輪は呪文の効果を上げるアクセサリー。例えば、メラミがメラゾーマになる。と説明したら引き攣った顔になっていたが、まぁ攻撃呪文だけではない。敵の手に渡らないように、と注意もしてある。

 

 ヒラリマントは、向かってくる物理や魔法や闘気等のチカラのベクトルを反射または弾く秘密道具。外見は闘牛士が用いる赤い布である。人工衛星から送電されているというエネルギー源以外は、本物と変わらない。

 

「よーし。悪いモンスターをやっつけて、島の平和を守るぞー!」

 

 勇者のように張り切るダイ。勿論、戦闘に参加する皆は応えて気合いを入れる。ミコトとアキラにとって初めての実戦であるが、限界ギリギリ難易度の模擬戦を三ヶ月してきたなら、油断しなければ大丈夫だろう。

 

 そして、ゴメちゃんとおばけキノコ達にテムジンの見張りを任せ、皆はドラドーラ号から岬に降りて、直ぐの平原で転生モンスター二体の戦場突入を待ち構えるのだった。誰一人も死なないと信じて……。

 

「勝てるのか……? あやつらは」

 

 かつてパプニカ防衛戦での勇者達と比べて、強そうに見えないと感じているテムジンであった。魔のサソリはともかく、相手はあの頃よりパワーアップしたキラーマシーンらしいのだから。

 

 

==========

 

「ガァアアアッ!」

 

 北西の方、戦場の近くまで来た黒魔のサソリは行き成り八本足を速め、雄叫びを上げながら両ハサミを広げて憎きダイに襲い掛かった。そのハサミが左右から迫り、ダイはジャンプして躱す。また、隣にいたミコトもジャンプして躱す。転生前より攻撃が速くなっているが、反応出来ない程ではない。

 

「くっ、前より硬いっ」

 

「はぁっ!」

 

 そのまま、黒魔のサソリの背中に乗る二人。ダイは両手でナイフを突き下ろして、前のように心臓を貫こうとしたが、竜の鱗並みに硬くなった甲殻に防がれた。そこで反撃の尾攻撃が彼に迫り、ミコトが割り込んで剣で攻撃を切り払う。恐らく、毒も強くなっているから何としても受けてはいけない。

 

「メラミ!」

 

「グギャアアッ!」

 

 攻撃に失敗した二人は、素早く黒魔のサソリの横に飛び降りたところで、ブラスが杖を翳してメラミを唱えた。魔力増幅腕輪によりメラゾーマとなった火球が黒魔のサソリの顔面に直撃し、苦悶の叫びを上げる。そのモンスターは背中に意識を向けていた為、魔法攻撃に反応出来なかった。

 

 一方で南南西の方、戦場の近くまで来たタイプGも行き成り四足を速めて、声を出す事なくサーベルを振り上げてマァムに襲い掛かった。上から攻撃が迫り、マァムは背を低くしてサイドステップで左に躱す。サーベルを振り下ろしたタイプGは物凄いスピードで元の体勢に戻り、直ぐに左アームクロスボウでアキラに向けて光の矢を撃った。その射程内で後ろにレオナが居る為、アキラは槍で光の矢を切り払う。これでもかと攻撃が終わらないタイプGは、再びマァムにサーベルを振り下ろした。但し一撃目より速くて強い。それでマァムはヒャリとしながらも、また左サイドステップで躱す。そのサーベルは地面に深く食い込み、三撃目の攻撃を終えたタイプGは、なんと暫く動かなかった。そのモンスターは三人居るかのように、一気に三回攻撃が可能であるが、その後の硬直時間が少し長い。よって最後の三撃目は、強攻撃もしくは大技となる。

 

「おお、一度に三回も攻撃出来るというのか」

 

 ドラドーラ号船首甲板上からタイプGの動作を見ていたテムジンは、想像以上の性能に驚いて賞賛する。キラーマシーンだった頃は、一度に二回攻撃だった。しかし今は別格となったので、そんな反応をするのも無理はない。なお、彼の背後に居るおばけキノコ達は踊って、ダイ達の応援をしている。

 

(くっ、このモンスター。なんで私ばかり狙うのかしら?)

 

 タイプGの次の行動は、四足の向きを変えないまま上半身を右90度水平回転して、マァムに集中三回サーベル攻撃だった。日々、フットワークの修行をしているお陰で速い斬撃を難なく躱したが、何故自分ばかり狙うのかと疑問を浮かべるマァム。そのモンスターは、憎きロカやレイラと見なしている。喋らないから、教えてくれる筈もない。

 

「ヒャダイン!」

 

「やぁっ!」

「はぁっ!」

 

 攻撃を終えて硬直したタイプGに向けて両手を翳し、ヒャダインを唱えるレオナ。魔力増幅腕輪によってマヒャドとなった強烈な冷気がボディに着弾して、大気中の水分からの氷が包んだ。その直ぐにアキラとマァムが息を合わせて同時に、瞬動でタイプGのボディに急接近し、持っている武器を思いっきり振り抜く。これにより、包まれた氷が砕け散って西へ五メートル飛ばされ転がるタイプG。機械なので苦痛はない。

 

「い、今のは……!? 女でありながら、力も勇者と戦士に負けていないではないか」

 

 残像が残る程の高速移動、そして打ち飛ばしを見て前より驚愕するテムジン。かつてパプニカ防衛戦において、アバンとロカがタイミングを合わせて大きいキラーマシーンを打ち飛ばした事がある。瞬動を含まないとして、今のはその再現なのだ。レオナの方でも、二人に対して想像以上の戦闘力に驚いている。瞬動に関しては、前の魔のサソリ戦でダイが使用したのを見た事があるが。

 

 場を戻して黒魔のサソリ戦では、武器攻撃にしろ魔法攻撃にしろ顔面が弱点らしいが、そのモンスターは強化メラミを受けて以来、ハサミガードが固くなってしまった。今は尾攻撃が多い。特に体を回しての尻尾薙ぎ払いが強力。

 

「くっ、どうやって倒すんだ?」

 

「表面全体が硬いとなると、裏の下からしかないと思う。ひっくり返せば……そうだ!」

 

 甲殻が硬くて武器が通らない上に、メラミでもイオラでも大したダメージがない、こっちがジリ貧の現状。ダイは攻撃を避けながら、困った顔をする。彼より頻度が低いが、自分に来る攻撃を躱しているミコトは冷静に考え、何か良い方法を思い付く。

 

「ブラスさん! サソリの片足の下にイオラを撃てますか?」

 

「足の下に? ……あっ、そうかっ!」

 

 今でも尚、黒魔のサソリはダイに集中している中、ブラスの所へ走って提案するミコト。それを聞いたブラスは、直ぐに彼の考えを理解した。詳しく聞いていないのに、流石である。そしてブラスとドラえもんは走って、そのモンスターの左横へ移動。

 

「……! イオラ!」

 

「ガァッ!?」

 

 黒魔のサソリがダイとミコトに右回転尻尾薙ぎ払いを繰り出した瞬間、ブラスはその左足の下にイオラを撃ち込んだ。魔力増幅腕輪によってイオナズンとなった爆風、てこの原理、右へ行った尻尾の遠心力によって体がひっくり返ってしまう。

 

「今だ!」

 

「おう!」

 

 バックステップで尻尾薙ぎ払いを回避した二人。黒魔のサソリがひっくり返ってチャンスが来たと、みたミコトは大声で合図を出した。ダイは返事してミコトと共に瞬動の高速移動でそのモンスターの腹の上に乗る。

 

 そして二人は同時に、両手で武器を持って、全力で突き下ろした。腹は甲殻に覆われていない為、難なく心臓を貫く事に成功し、漸く黒魔のサソリは絶命する。それで力尽きるところを確認した二人は、もう生き返って欲しくないと思いつつ、突き刺した武器を引っこ抜くのであった。

 

――こうして、黒魔のサソリとの決着がついた。

 

 また場を移してタイプG戦。さっき打ち飛ばされたタイプGは、ネジが飛んだようで一時的にボディから煙(排気ガス?)を噴出した後からは、三回攻撃後の硬直はなくなってしまった。下半身の四足の動きが速くなり、攻撃以外の全てが回避重視となっている。斬撃以外は距離を取るというヒット&アウェイも多い。かなり早足で前後左右不規則にちょこまか動いていて狙いをつけにくい為、ダメージを与えるのが難しい現状だ。それこそが、勇者達が苦戦した要因の一つである。だから観戦している(縛られているが)テムジンは、やはりという顔の様子。

 

「ダメだ……。後ろにも目が付いてるのか?」

 

 行動に変化があっても尚、上半身をマァムに向け続けているタイプG。アキラは瞬動で背後に回り込んでボディに槍で突き刺すが、左サイドステップで回避される。彼女の言う通り、後ろにも死角が無いようだ。

 

 タイプGは動き回りながら、レオナとドラミちゃんを巻き込むようにマァムへ、光の矢を乱射した。マァムは避けたり切り払ったりして、ドラミちゃんはレオナを守るようにヒラリマントで弾いてやり過ごす。後にレオナはヒャダインで反撃しても回避される。

 

「またダメね……」

 

「ええ、速過ぎるわ」

 

「アキラ。その槍の力で何とかならないかしら」

 

「上手くいくか分からないけど、やってみる」

 

 溜息をつくレオナとドラミちゃん。西から近付いたアキラはマァムに応えて頷き、水神槍の先端を南のタイプGに向けて、水を操る力を解放した。すると突然、タイプGの近くに極太の水柱が何もない空から落ちて地面に水が広がり一気に、一辺50メートルの透明ガラス水槽みたいな浅いプールとなる。

 

「氷になれ!」

 

 足元にプールが出来ても、行動に変化を見せないタイプG。アキラは命令すると、一秒も経たずにプールの水全てが氷になった。これで四足が氷に埋まってしまい、タイプGは移動出来なくなる。こんな広範囲から、限りなく回避不能であった。因みに氷になったのは、水の状態変化で液体から固体に変えたのであって、冷やして凍らせたのではない。

 

 レオナや船上のテムジンは水神槍の力を初めて見て驚いている中、厄介な相手だと判断したタイプGは標的をアキラに変えて光の矢を乱射した。狙われた彼女は、マァムがやったのと同じように回避と切り払いでやり過ごす。その間にマァムは氷のプールの上を走り、瞬動でタイプGに急接近。

 

「はぁっ!」

 

 射撃中であるタイプGの間合いに入ったマァムは思いっきり、ハンマースピアを振り下ろした。会心の一撃! これにより、左腕のアームクロスボウを破壊する。タイプGの反撃で、サーベルをマァムに振り下ろそうとする。

 

「……? 止まった?」

 

 サーベルを振り上げたタイプGは突然、停止してモノアイの赤い光が消え、上げていた右腕が力なく下りた。反撃に備えて身構えていたマァムは、タイプGの異変を見て目を見開く。彼女も含め、アキラとレオナとドラミちゃんは困惑するのであった。

 

「何が起こった……?」

 

 その様子を見ていたテムジンは訝しんで、いったい何が原因なのかと考えた。さっきアキラが何かしたのか、アームクロスボウが壊れた所為なのか、どちらでもなさそうである。

 

 アキラ達は滑り転ばないように注意しながら、氷のプールの上を歩いてタイプGとマァムの元へ移動した。タイプGが再び動き出すかもしれないので、氷のプールはそのままで警戒も怠らない。そしてタイプGの頭部ハッチを開けて、停止した原因をドラミちゃんに調べてもらう事に。その中には、魔力を通すケーブルで絡んだ木箱一ダースのガラス空き瓶があった。

 

「これ、魔法の聖水の瓶よね。カラッポだけど」

 

「確か……魔力を回復する為の消費アイテムだよね」

 

「ええ。……もしかして」

 

「多分、それで合っていると思うわ」

 

 魔法の聖水の空き瓶を一本手に取って言うレオナ。マァムは頷いてアキラの確認に応えた後、原因について推測した事をドラミちゃんに話した。魔法の聖水一ダースは、キラーマシーンを動かす魔力を補給する為に、バロンが用意した物。タイプGは魔法の聖水から魔力を吸い取ってエネルギーにして動き、それが枯渇して魔力切れを起こして停止したと言う訳である。

 

「そう言う事か……。勇者達と戦った時のように魔力コアを使えば、止まる事なかったであろうな」

 

 原因を探るレオナ達を見たテムジンは、遠い目をして呟く。キラーマシーンは元々、魔王が作った魔力コアで動いていた。勇者達が魔力コアを破壊した事で、そのモンスターに勝利した訳だ。因みに魔力コアは、魔族の高度な魔法技術で作られる物で、テムジンら人間の技術レベルではまだ困難である。また、地上で入手出来ない素材が使われている点もあるが。

 

――こうして、タイプGとの戦いは終わった。

 

 二体の転生モンスターとの戦いが終わった皆は、タイプGから北30メートルの場所に集合した。なお、テムジンは、さっさと起きて何とかせんのかと思いながら、ドラドーラ号から南の海岸でまだ気絶しているバロンを見ている。

 

「あははっ、大きいタンコブ」

 

「レオナぁ、笑う事ないじゃないか」

 

「ダイ。大丈夫? ……ごめんね」

 

 後頭部に大きなタンコブがあるのを見たレオナに笑われて、涙目で文句を言うダイ。アキラは謝り、ほか皆は苦笑している。集合してアキラが氷のプールを消す前は、そのプールの上に乗ったダイが滑って後ろに転んでしまい、後頭部を強打したのである。彼はスケートリンクのような平らな氷の上に乗った事がないから仕方ない。レオナの方も初めてだが、事前に注意を受けているので大丈夫だった。マァムはミコトランド修行場のシミュレーターによる滑る床で経験済み。ミコトとアキラは元の世界で、学校の行事やデートでスケートした事がある。

 

「いたっ!?」

 

「治してあげるから、我慢しなさい」

 

「レオナ。少し優しく当てようよ」

 

 タンコブに気遣いなく手を当てられて痛がるダイを見て、アキラは苦笑いしてレオナに指摘した。この姫様は男にキツイかもしれない。そして、レオナは「はいはい」とアキラに応えた後でホイミを唱え、ダイのタンコブを引っ込ませる。ケガの治療が終わったら、皆は報告と反省会みたいな話し合いとなった。

 

(動かなくなったキラーマシーンを壊さず、離れるとは……愚かな奴らだ)

 

 気絶……いや、その振りをしていたバロンはレオナ達を見て馬鹿だと思いつつ、身を起こして素早くタイプGの元へ駆け出した。そして中に乗り込んで頭部ハッチを閉め、ケーブルを肌に着けて再起動させる。機内にある補給用の魔法の聖水が全て無くなってしまったが、ポケットにストックが二本ある。但し、テムジン秘蔵の賢者の聖水だ。それは魔法の聖水の高級品で回復量は二倍!

 

「ハハハハッ! いいぞバロン!」

 

「ピィー!」

 

 バロンの行動を見て、自分にまだ希望があるテムジンは大歓喜。彼の背後に居たゴメちゃんは、ダイ達に向けて大変だと叫んだ。それらの声を聴いたダイ達は、こっち向いて次にタイプGの方に向いて驚く。

 

「しまった! 彼の事を忘れていた」

 

 モノアイの赤い光は前より弱いが、動きを取り戻したタイプG。それを見ながら、口を大きく開けて唖然するブラス。皆も同様で後悔した。バロンを忘れていた事と、勝利の喜び故の油断である。

 

「バロン! 先に黒髪の女を殺せ! また足を止められては、お手上げだからな」

 

 テムジンは大声でバロンに指示を出す。今のタイプGはアームクロスボウが壊れている為、遠距離攻撃が出来ない。仮にレオナのヒャダインで氷漬けにされても高い馬力で破れるが、アキラからの氷プールは分厚いので脱出不可能。よってテムジンの判断は正しい。標的にされた彼女は、表情を強張らせる。

 

「アキラも、おれが守る!」

 

「ダイ……えっ!?」

 

 タイプG・バロンに向かって前に出たダイは、パプニカのナイフを抜いて構えて言い放った。セリフを取られたと思ったミコト。感涙したアキラは声を掛けようとしたところで、彼の様子に目を見開いた。そう、ダイの体が光り輝いたのである。金色に近い神秘的な光、特に額の部分は更に光が強いが、制御補助サークレットで隠れて何があるかは見えない。

 

「あれは、あの時の……」

 

「っ!? な、なんだそれは!?」

 

 ミコト達は驚いている中、レオナはダイと穴に落ちた時を思い出した。指示があってタイプGを前進させたバロンだが、ダイからのプレッシャーで動揺して四足を止める。遠くのテムジンにもプレッシャーがあたっているようで、怯えて声が出ない様子。

 

「クッ、小僧ッ! 貴様から先に殺してやる!」

 

 バロンは気迫でプレッシャーを振り払い、大声とともにタイプGを動かした。その機体は右腕を前に突き出して右手首関節を回転させ、サーベルがプロペラ回転のようになる。そしてダイに突撃。安全フタのない巨大な扇風機が正面から突っ込んでくるようで、凄い迫力だ。あれに巻き込まれたら、ミンチは免れない。その為、皆は顔を青くするが、ダイは一ミリでも表情を変えない。

 

「この切れるような風の感じは……!? みんな伏せろっ!」

 

 ダイを中心に渦巻く、切れるような強い気流。先に気付いたブラスは皆に叫んで、素早く身を低くした。聞いた彼等も、反射的に身を伏せる。ダイの事だから皆を巻き込ませないと思うが、念の為である。

 

「バギクロース!」

 

 ダイはナイフを両手で持って腰を右に捻らせ、思いっきり呪文名を叫びながら左斜め上に斬り上げると、前方に大きな竜巻が発生した。その竜巻はゆっくりと、タイプG・バロンに向かっていく。

 

「っ、おおおおおっ!?」

 

 回転サーベルとバギクロスが衝突。これによる耳に響く騒音と機内の激しい振動に、掛け声を上げて耐えているバロン。そんな中、ダイは瞬動からの虚空瞬動でバギクロス竜巻を左で回り、タイプG・バロンの右へ高速移動する。彼は虚空瞬動がまだ未熟な筈だが、見事だと言える程までに正確であった。

 

「だぁっ!」

 

「なんだと!? 腕が!?」

 

 ダイはまた両手持ちでナイフを振り下ろして、タイプG・バロンの右腕肘上を叩き折った。回転サーベルの遠心力による腕の負荷やバギクロスの威力もあって、右腕が耐えられなかったのである。それで驚愕するバロン。その間にダイは、虚空瞬動二回でバギクロス竜巻を回って元の場所に戻る。往復で合計四回の瞬動術、もはや上級の域だ。元の場所に戻った彼だが、なんと魔力を左手に集めている。あれでも終わりではないらしい。

 

「ライデイン!」

 

「ぐああああああああっ!?」

 

 ダイは振り返り、バギクロスが止んだところで、左手を天へ翳して呪文を唱えた。すると雲少ない天空に雷鳴と放電現象が発生し、そこから雷がタイプG・バロンに落ちる。それで感電による、神経が焼けるような激痛で悲鳴を上げるバロン。あらゆる攻撃から中を守るボディだが、電撃だけは防げなかった。

 

 やがてバロンはまた気絶し、タイプGはモノアイの赤い光が消えてボディが下がって動かなくなった。全てが終わったダイに、輝く光が消えて元の状態に戻る。……以上の凄まじい光景で、テムジンも含む皆は唖然としていて言葉も出ない。

 

――こうして、タイプGを操るバロンとの戦いは終わった。

 

「……あれ? みんな、どうしたの?」

 

「どうしたって……ダイの戦いが凄すぎて、驚いているんだけど」

 

「えぇっ!? 本当かい」

 

「その様子だと、覚えてないみたいね」

 

 こちら皆の様子を見て不思議そうな顔をするダイに対して、アキラが理由を話した。それで返ってくる彼の反応を見て、レオナはやはりと思っていた通りで苦笑いする。ダイ曰く、守ると強く意識したら、何かが吹っ切れた感じがあったとの事だ。まだコントロール出来ない内は恐らく、そう意識していても強敵と当らないかぎり、あんなチカラは出ないだろう。

 

「あっ、話は後で! 急いでバロンさんを降ろさないと、手遅れになりそうな気がする」

 

 気が付いたミコトは行き成り叫んで、タイプGの元へ走って行った。それでビックリした皆は、マァムが先頭で走って後を追う。彼の予想が正しければ、タイプGが気絶バロンの魔力あるいは生命力を吸い取り、再び動き出す。そうなってしまえば最悪、生体コアとなったバロンを殺さないと止められなくなる。良くても、ミイラ化で後の祭り。

 

 タイプGの頭部ハッチは拒否していたようで、ミコトとアキラとマァムが力を合わせて、無理矢理こじ開ける羽目に。やっと開けられたのにまた閉じられると困ると思った三人は、タイミングを合わせて思いっきり蹴り上げた。怒濤の会心! これにより後ろの可動部破壊で取れてしまい、タイプG頭部は後ろ回転しながら、ホームラン級の放物線を描いて南の砂浜へ飛ばされる。そんな豪快さに、目を丸くしてしまうダイとレオナとブラス。ドラえもんとドラミちゃんは引き攣った顔だ。

 

「き、キラーマシーンが……」

 

 自慢の改造キラーマシーン(タイプG)が頭部を失った惨めな姿になった事で、テムジンは心が折れて崩れ落ちるように両膝をついた。これが野望を打ち砕かれた瞬間である。背後のゴメちゃんとおばけキノコ達は、ダイ達と同じ反応なので彼を見ていない。

 

「なんだこのケーブル」

 

「いくら外しても解いても、絡んでくるよ」

 

「くっ、このっ、しつこい」

 

 ダイ達は見守って、ミコトとアキラとマァムはバロンを降ろす為の作業をしているのだが、タイプGに魔力を通すケーブル12本が触手みたいに動いていて、外しても解いてもしつこく絡んでくるので手をやいている。乗っているバロンだけでなく、三人にも絡んでくる有様で鬱陶しい。なお、ケーブルは機体に残った微少のバロンの魔力で動いている。そういう現象は今回が初めてではない。前にキラーマシーンが転生の際、魔法の聖水一ダース入りの木箱に絡んだのだ。全く以ってホラーみたいである。

 

 奮闘の末、右側のアキラと左側のマァムが蛇の首を掴む形でケーブルを六本ずつ押さえている間に、ミコトがバロンの両腋を掴んで引っ張り出す事で救出に成功。それを確認した彼女二人は、掴んだケーブルを強く投げたと同時に素早くタイプGから離脱した。届かないものの、複数のケーブルは新たな魔力を求めて皆の方に向かい伸ばし続けている。追おうにも、魔力不足で四足は動かない。

 

「気持ち悪いわね」

 

「うん。おれも」

 

「このまま放っておいて魔力が無くなれば、止まるじゃろうて」

 

 追うように動くケーブルが不気味で、自分を抱えながら一歩ひいて言うレオナ。触りたくも捕まりたくもないと同意するダイ。だがブラスは落ち着いて、二人を安心させる。怖いのなら、見ない方が良いだろう。

 

 この時点でバロンの処遇は、先ず風邪をひかないように下着シャツと白いTシャツ(背中にドラえもん、のび太、しずか、スネ夫、ジャイアンのアニメプリント絵あり)を着せて、ロープを巻いて拘束した。そしてテムジンの隣に置く事になる。彼は首謀者の片腕という立場であるから、部下兵士達のように魔法の筒に入れない。

 

 色々とゆっくり話し合うのは昼食の時に、という事で次は前に爆発があった聖なる船の様子を見に行くと決まった。おばけキノコ達は森の中に帰り、ダイとブラスとゴメちゃんとドラえもんは、自分の家の近くでテムジンとバロンの見張り。レオナとミコト達四人はタケコプター(アキラ除く)を使い、聖なる船へ向かうのだった。別に危険はないと思うが、念の為に武装はそのままである。

 

 

つづく

 




はい。戦い中心の第九話でした。

次回、洗礼の儀式を行いますが、面倒事が発生!

ネオハルコンの詳細は、第四話後半にあります。
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