連載中の「腰の低いマスターが行く人理修復」からの特別短編です。

絆0バグ事件を受けて咄嗟に書きました。

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注意

・真名バレあり
・独自設定および独自解釈あり
・ややキャラ崩壊?
・FGOプレイ前提


特別編:腰の低いマスターは絆を失う?

「そんな…。嘘でしょ…?」

 

 絶句した。

 僕――藤丸立香がカルデアに所属して、最悪の事件が起こった。それを知ったのは、立て付けの端末を見たときのことだ。

 赤文字で『緊急事態』と大きく書かれている。カルデアだけではない。魔術協会など、魔術師全般に関する知らせだそうだ。何のためらいもなくメールを開くと――

 

―各地でサーヴァントとの契約が解消される事象が発生。

 

 まさか…。そんなはずは…。

 一般人出身といえ、そう簡単に信じられるはずがない。半端疑った気持ちでサーヴァント登録表を開いてみる。そこには氏名や経歴などのデータが事細かく記載されている。

 

――絶句した。

 

 通称『絆PT』――すなわち、友好度を記録するデータが全て()()なのだ。言い換えると、初対面以前の状態だ。長く接していると赤や緑など様々な色彩で塗りつぶされるはずが、綺麗さっぱりになくなっている。

 

「最悪だ…」

 

 すぐにダ・ヴィンチさんのもとに向かおうとしてドアに立つ――が、開けられなかった。伸ばす手が細かに震えていることは、自分でもわかった。

 今になって考え始めた。もしサーヴァントが僕との記憶を失ったらどうなるんだろうか?

 

 僕に冷たく接する?

 僕は殺されかける?

 僕を貶す?

 

 知らない人ならまだしも、大事な方たちから急にそう言われると流石の僕も発狂してしまうだろう。

 それにサーヴァントだったら、デミであるマシュも…。

 

「僕は…」

 

 でも、それでも僕は行かなければならないのだろう。多くのサーヴァントと契約したマスターとして。

 僕を助けてくださったカルデアのために、サーヴァント達のために、マシュのために。

 意を決した僕はゆっくりと手を伸ばす。震えてても、開けようとして。

 

――その途端、ドアが開いた。僕が開けたんじゃない。

 

「せ、先輩…?」

「マシュ…?」

 

 目の前には、マシュが見上げて立っていた。

 早速、彼女と話さなければならないのか。口を開こうとして――

 

「あの――」

「先輩は、私のことを覚えていますか?」

 

 言葉を飲み込んでしまった。突拍子な質問に戸惑っている。もしかしてマシュ、君は覚えているのか?

 

「先、輩…?」

「えっ…。あ、ああ。僕は覚えているよ。頼りになる大切な後輩だって」

 

 なんとか動揺を隠して、笑顔を作って答えてみせた。ああいう態度を見せてたら、マシュは悲しむだろう。しかし、すぐに僕の表情はこわばった。

 

――マシュの瞳が、潤み始めた。

 

「マシュ?」

「先輩…、せぇんぱああああい…!!」

「うおっ!? マシュ!? 一体どうしたの!?」

 

 マシュは盛大に泣き始めて、僕に抱きついてきた。

 何が何だか分からない。マシュは僕を覚えてくれているみたいだけど、どうなってるんだろうか。

 

「無事かね、ミスター藤丸!」

「マスター!」

「お館様!」

「うおっ!?」

 

 神出鬼没。順にホームズさん、アナスタシアさん、千代女さんが現れた。

 

――ってそれどころか、在籍するサーヴァントの方々が僕の部屋に詰め寄ってきたじゃないか!? どうなってるの!?

 

「お、オレのことを全部忘れちまうなんてよぉ…!」

「そんなことしたら燃やしてやるからぁぁあ…!!」

「ええっ!?」

 

 今度は反逆の騎士のモードレッドさん、そしてジャンヌ・オルタさんが『ヤンデレじゃないか』と言われるんじゃないかのセリフを口に出しながら泣きついてきた。

 

「マスター! ダ・ヴィンチから聞いたんだ!」

「今マスターの身に大変な事が起きていると!」

「どきなさい! アタシの歌声を聞かせたら思い出すかもしれないわ!」

「余も加勢するぞ! これで駄目だったら余は…、余は泣くぞ…! 余は泣くからなぁっ!」

「ちょっと! 記憶どころとか身体ごとぶっ飛ばそうとか何考えてやがりますの!? 赤セイバーさんも言ってすぐ泣くのはやめません!?」

「オタクらどきなさいってぇの! マスターは無事かい!?」

「戯け! この(オレ)を忘れるとは慢心にも程があるわ! 雑種め、不敬であるからにはわかっているであろうな!」

「君が来てしまっては更に厄介事にしかならないと思うんだがね!」

 

 次にアーサーさんやジャンヌさんも登場。

 そしてエリザベートさんやネロさんが登場。それどころかあの歌声を解き放とうとしている! 玉藻さんやロビンさんが抑えてくれてるけど…!

 ギルガメッシュさん! よくわからないですけど殺意を向けるのやめてください! エミヤさん、僕こっちですって…!

 うわあああ!! 雪崩のように押し掛かってきたあああ!! 壁に挟まったああ、潰れるぅぅぅうう!!

 

「ギャアアア!? ちょっと待ってぇ!? 無理だから! 入らない、入りきらないから場所移って…! てか誰か状況を、状況を話してくださああああい!!?」

 

***

 

「ア゛~~~~~……」

「先輩、大丈夫ですか?」

「ごめん、今話しかけないで…。頭がクラクラぁ…」

「酸欠状態だね。しばらくそこで休むといいよ。それとすまない、本来なら医務室に連れて行きたかったけど…」

 

 僕、そしてサーヴァントの方々はレクリエーションルームに移動した。大人数での行動を目的とした部屋で、300人以上を収容できる。

 僕はあの後サンソンさんに運ばれ、用意されたマットの上に仰向けで寝かされていた。てかあんなん、満員電車以来だわ…! むしろ酷かった気がする…! 状況が状況だったけど…!

 サンソンさん曰く僕を寝かせるために医務室に移動するつもりだったが、未曾有の状況なのでやむなくここに運んだという。……まあ全員を見ておく必要がありますし…。

 

 しばらく寝込んだ後、サンソンさんに許可をもらってサーヴァント達のもとに向かった。話して見る限り、『マスターとの記憶はある、むしろマスターを心配していた』人達がほとんどだ。

 わけがわからない…。それに対し、ホームズさんが何が起こっているかを話してくれた。

 

「僕が、記憶喪失?」

「ダ・ヴィンチの調査によれば、各支部でマスターから契約した英霊との記憶が抹消される事態が立て続けに起こっていてね。召喚直後から全てにおいてだ」

 

 どうやら記憶を失ったのはサーヴァントの方々ではなく、僕達マスターの方だった。それも全部…? じゃああの絆PTリセットを示しているのはサーヴァントの方じゃなく、マスターに対する指標だったということか。

 

「でも、僕は貴方達が記憶喪失だと…」

「おいおい。お前を忘れるとか、お竜さんをナメてると見たぞ。お前を食ってやろうか?」

「やめてね、そういうの…」

「お竜さんジョークというやつだ」

 

 そこに現れるお竜さん。そして彼女の発言を宥める龍馬さん。

 

「もう…。……マスターがそう捉えていたということは、どうやら情報が錯綜しているようだね。こういった事態は初めてだから」

「そうだったんですか…」

 

 龍馬さんも探偵の1人だ。彼も加わって、今回の調査を進めているらしい。

 規模は全世界に渡っており、中には戦意喪失どころか職務を放棄するマスターも続出しているらしい。それはどういうことを示すかは、僕には何となく分かる。魔術協会にとっては深刻な状況に変わりはない。

 

「ふん、だから言ったじゃない。こいつのために心配の必要なんてなかったのよ」

「でもメルト、さっき床が穴凹だらけになるほど地団駄を踏んでたじゃない」

「ちょっ…! 余計なこと言わないでよ…! いつもリップはそうなのよ…!」

 

 横ではメルトさんとリップさんが話している。メルトさんは相変わらずだ。

 

「よがっだでずぅぅ…! ドナガイざんがわずれてだと思うどわだじ~!」

「ケッ、鼻水垂らしてんじゃないわよ…。グスッ…」

「もう、2人とも…」

「それでマスター、何ともないのか?」

「うん、大丈夫だよジーク君」

 

 サンタリリィさんは顔がエラいことになっていたので、ティッシュで鼻をかんでもらった。ジャンヌ・オルタさんは憎まれ口を叩いているが根はサンタリリィさんと同じ心境だったらしく、ジャンヌさんは微笑んでいる。

 ジーク君が話しかけてくれて、もっと安心できる。

 

「しかし異常なしとは、流石儂のマスターといったところじゃな!」

「ええ、流石に沖田さんもヒヤヒヤしましたとも! えっ、私が記憶喪失で人斬りになってたら好感度が最下層まで超下がってた!?」

「泣いてない…、泣いてないぞ…! 泣いて、泣いてた!」

「別に開き直らんでも良いのに…。あっ、茶々のハンカチいる?」

「ふん…」

 

 所謂ぐだぐだ勢は相変わらずだった。

 魔神さんの場合、どうなるかとさっき思ったけどよかった…。茶々さんになだめられている。土方さんは無愛想だが、僕のことを心配してくれていたと信じている。

 

「とにかくご無事で何よりですマスター」

「では早速、お祝いに私のマッシュポテトの出番ですね!」

「私は悲しい…。いえ、マスターのことは嬉しいです」

 

 ベディヴィエールさんにも声かけてもらえた。

 でもガウェインさん、それはいくらなんでも自重して…? トリスタンさんまたポロンと、嘆きの音色を鳴らしていますし…。

 

「しかし、何者がこのような事態を…?」

「ああ、ホームズは何かわかったのかい?」

 

 ランスロットさんとアーサーさんは今の状況を危惧し、ホームズさんに尋ねた。

 

「スタッフを含めて元を調査中だ。そしてミスター藤丸、安心するといい。先程ダ・ヴィンチから連絡が入った。バグの修正が終了したようだ。もうじき記憶を取り戻すだろう」

「よかった…」

 

 原因はまだといえ、マスターの症状が治るだけでも幸いと言うもんだ。でも、このことを知ったら他のマスターはどんな気持ちになるんだろうか。

 それを考えた束の間、燕青さんが歩み寄ってきた。

 

「マスターから俺達の記憶が消えたと聞いたときは、聞き飽きたかもしれねぇが、不安でいっぱいだったよ」

「すいません、ご心配をかけてしまって…」

「ははっ。ったく無頼漢にも腰が低いってぇの。まぁ、それがマスターの良さだろうな。サーヴァントである俺達にそこまで気にかけてくれるのは。だが…、記憶を失ったままならどうなってたんだろうな…」

「燕青さん…」

「…わりぃ、もう済んだことだってぇのに湿っぽい話をしちまって。それでも、俺は変わらねぇ。俺はいつでも、あんたの従者だ。あんたを導いてくれた恩人みたいなもんだ。それを返すために、俺はあんたに扱き使ってもらうつもりだぜ」

 

 絶句した。燕青さんの印象としては、最初は―言い方が悪いが―チャラいといった感じだ。しかし拳法のみならず、音楽や料理など様々な文化に精通している。また、過去の経歴を読んだが、こう見えて繊細な方なのだ。

 

「燕青さんには敵いませんが、私も」

「マシュ」

 

 次にマシュが話しかけてきた。

 

「先輩は、私にいろんなことを教えてくれました。空のこととか雪のこととか先輩の街のこととか! だから、私も先輩に何か恩返ししたいです! 私のことを忘れてしまっても!」

 

 自分から言うのは難だが、こう見えてマシュは健気な人だ。

 デミ・サーヴァントとして僕のためにいろいろとしてくれている。あんなに怖い思いをしているのに。冷静に対応しているに見えて、本当は戦うことに怖がっていた。サーヴァント以外ならば、僕のために戦ってくれるのはマシュだけだ。

 思えばいろんな特異点を渡って、感情を沢山見せたのは僕よりマシュの方だ。嬉しい事もあった、悲しい事もあった、共に泣けることもあった。

 感謝するのは、僕のほうだろう。

 

「でも、ごめんなさい…!」

 

 涙を浮かべ、マシュは言った。

 

「それでもやっぱり私は、いつもの先輩が大好きです!」

 

 駄目だ、もう限界だ。

 やっぱりマシュ、僕も君のことが――

 

「あの、ごめんなさい…。ちょっと僕、泣いてもいいですか?」

 

 そう尋ねた途端、また紛糾状態に――

 また僕に押しかかってきたああああ!! 泣くための隙も与えてくれない!!

 

「ギャアアア!!」

 

 お父さん、お母さん。今日もカルデアは平和です。

 

***

 

 ちなみに。

 

「このような混乱を巻き起こすとは…。見つけ次第、首を差し出してもらうほかあるまいな」

「同感だ。我は毒を用意しておくか」

「ならば槍を用意しよう」

「同行しよう。余も今回の事態に憤っておる」

「今こそ、進軍の時なり」

 

 上からオジマンディアスさん、セミラミスさん、2人のヴラドさん、そしてイヴァンさんが粛清の準備を進めていた…。物騒…!




うちの場合、無事でした_(:3 」∠)_

よくわからなかったけど、あれ表示バグなだけでデータは無事だったらしいんですよね。

なので二通りの解釈(サーヴァントが記憶を失う、マスターが記憶を失う)のはどちらもアリな気がしますが…。

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