寝オチしたらギレンになっていたが 何か?   作:コトナガレ ガク

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第30話 信頼の裏切り

「パプア改5番艦所定位置に付きます」

「了解です」

「HLV第231番。遅れています急いで下さい」

 ヤマトの司令室のまさしく決算前の経理の如き鉄化場で、オペレーター達は次々と報告を受け取り指示を出している。

 総帥の遊びだ何だ言われたが、艦隊司令艦ヤマトの指揮能力は今回も遺憾なく発揮されている。

 良きかな良きかな。

 今地球アメリカ大陸上空衛星軌道上に、暗号名「アースドラゴンビート」作戦に向けてジオン艦隊が集結しつつあった。 

 第一陣、パプア改。

 これにはパプアを改造し、現実がアニメを超えてきた兵器「神の杖」を装備。

 衛星軌道上からレールガンで超高速で打ち出される超合金の杭。コロニー落としのように広範囲に渡って地上を破壊することは出来ないが、単位面積当たりの破壊力は此方の方が圧倒的に上、ジャブローの外殻すら貫くことも出来る。

 凄い兵器だが弱点もある。まず制宙圏を確実に取っていないと衛星軌道上に設置出来ない。だが今回はルナツーを落とし制宙圏は握っている。これで地上の対空設備を着実に破壊する。

 第二陣、コムサイ部隊。

 地上対空兵器を破壊したと言っても打ち漏らしはあるだろう。よって生き残った対空兵器を躱し確実にMSを降下させるための一番槍部隊。後続のためにも確実に迅速に行うため全ジオン軍から引き抜かれた精鋭部隊で構成されている。MSも少数ながら配備が間に合ったグフがそしてイフリートがいる。隊長にはザクでは無いグフを支給したラル少佐を任命している。

 第三陣、HLV。ご存じの宇宙地上の輸送ポッド。これで止めとばかりに各種陸戦兵器の他に大量の歩兵を送り込み敵施設を占拠する。

 結局宇宙世紀と言っても戦術の最終目標は敵本陣に歩兵を送り込み占領する事に代わりは無い。これは結局人間が戦争をする以上永遠に変わらないだろう。また、この歩兵部隊は各サイドからの志願兵も混じっている。おかげで原作では出来なかった人海戦術が可能となった。原作では歩兵のゲリラ戦法に悩まされたMSだが、今回はスムーズに行くだろう。

 以上三段攻撃で行われる暗号名「アースドラゴンビート」作戦。今度こそこれで戦争を終わらせる。

 

 ブリッジの喧噪と対象に粛々と隊列が整えられていく中、アラームが鳴り響く。

「閣下、連邦残存艦隊来ます」

 セイラさんが報告する。今回はセイラさんは情報参謀として俺の横のシートで情報の統括をしてくれている。セイラさんは原作でもオペレーターしてたし、あのお姫様ボイスは耳に心地よく、意外と向いている。

「規模は?」

「残存艦隊の半数ほどです」

 キシリアめしくじったのか、半分も逃したのか。

 キシリア良くやった、半分も足止めに成功したか。

 判断に迷うギリギリを攻めるところがキシリアらしい。

 ここには目の上のたんこぶギレンとドズルがいる。万が一が起こり二人とも戦死すれば棚ぼた式にキシリアの天下になる。本来なら素通りさせたいのだろうがガルマの目があるので、こういった結果になったのだろう。

 ガルマ君は本当にいるだけで役に立つ。

 しかし作戦が失敗に終わればジオン自体が危うくなるとは考えないのがキシリアらしい。最終防衛ラインに残した兵力と自分の交渉力で何とかなるとの算段か、流石最終決戦最中で頭パーンする女らしい判断だ。

「先頭は木馬です」

 セイラさんからの焦りが混じった追加報告がされ、ブリッジが浮き足立つ。皆パトロール艦隊が全滅させられた悪夢を浮かべているのだろう。

「浮き足立つなっ想定内だ」

 ギレンの一声で皆冷静さを取り戻す。

「セイラ、シャア中佐及びライデン中佐に繋げ」

「はい」

 モニターが左右に分割されシャア中佐とライデン中佐が並んで映し出される。

「シャア中佐、出番だ。第13独立艦隊を指揮して木馬迎撃に向かえ」

「はっ」

 ザンジバル三隻からなる第13独立艦隊。

「倒せとは言わない。木馬と白い悪魔の足止めをしてくれればいい」

 ガンキャノン・オーバー、略してジオ。THEとGの発音の区別が付かない日本人にとってみれば、あれはまさしくシロッコの乗るジオなのだろう。だがその原作でシャアは百式という型落ち機で見事足止めに成功していることからの起用である。シャアが本気を出せば足止めは可能だろう。

「分かりました」

 シャアもキシリア同様に上手くすればギレンとドズル両名を始末出来るチャンス。あの冷酷なシャアに対してセイラさんの存在がどれほどのストッパーになるかは賭だ。原作寄りのシャアならセイラを見殺しどころか奮起してくれるだろうが、オリジン版シャアだったら容赦なく見捨てるだろうな。

「ライデン中佐はキマイラ部隊を率いて連邦艦隊の側面を突いて攪乱せよ」

「はっ」

 此方もザンジバル三機とほぼ原作通りのメンバーを揃えたキマイラ隊。乗機は残念ながらゲルググじゃ無いが全員ザクR型にした大盤振る舞い、相手がニュータイプでも無ければ艦隊相手でも攪乱くらいはやってのけてくれるだろう。

 ここは二人を信じて任せるしか無い。

 俺は意識を切り替え地上降下の指揮に専念する。

 

 さて、秘密裏に先行して地上に降下させたスパイからの通信を強行偵察柄ザクⅡ改が傍受したところに寄ると、案の定カルフォルニア基地の周りには地球上から掻き集めた連邦地上軍の大部隊が巧妙に偽装して包囲しているようだ。その包囲の中にノコノコ降下すれば原作オデッサの如く幾らMSがいても戦車と飛行機の物量に押し潰されることは明白。ザクでは地上において宇宙ほど現行兵器に対してアドバンテージは発揮出来ない。せめて大量のドムがいれば違っただろうが嘆いても仕方ない。

 大部隊の集結、事前に降下ポイントを知っていなければ出来ない芸当だが、連邦は見事に果たした。その意味するところは簡単だな。

 今回の降下ポイントは未だ正式には発表していない。一部高官のみが知っている。その情報を誰がリークしたのやら。

 白い悪魔に押され地上に逃げるように降下すれば、待ち構えていた連邦地上軍に包囲殲滅される。ドズルは戦死、俺もこの場を逃げられても敗戦の責任を取らされる。

 全く一人勝ちという訳か。

 だが、ガノタである俺がこのことを想定していなかったと思うのか?

「シャア中佐が連邦宇宙艦隊を抑えている間に降下作戦を実施する。

 全将兵に通達する」

「はい、どうぞ」

 セイラさんが全部隊への通信を開いてくれる。

「我がジオンの兵士よ。

 我々を宇宙に追い出し、今回の戦争においてもどこか人ごとの気持ちでいる地球人共に我々の怒りを示す。

 暗号名「アースドラゴンビート」を解除。

 作戦名「モグラ叩き」を開始する。

 目標、地球連邦軍本部ジャブロー。

 地下に籠もるジャブローのモグラ共を叩き潰す」

 初めて明かされる攻撃目標に全ジオン兵士が騒然とする。

 下は初めて明かされる攻撃ポイントに上は変更された攻撃ポイントに。

 特に今回の降下作戦を練った作戦参謀は棒立ち。悪いことをしたが、俺も機密を守るためほぼ一人でジャブロー作戦計画を徹夜で練り上げたんだ、許して貰おう。

 ヤマトから各部隊に作戦の詳細データが送られていく、もう変更は出来ない。

 だが燃えてくるじゃないか。

 ギレンの野望をやった者なら誰でも思う。

『最初からジャブロー攻撃させろよ』

 それを今俺がやる。

 普通なら勝てない無謀な作戦。だが誰かさんが情報が漏らしてくれたおかげで連邦はジオンがカルフォルニアに降下すると思い大部隊を集結させている。それは逆に言えばジャブローは手薄になっているということ、今なら勝機はある。

「神の杖、指定ポイントに向けて発射」

 次々と打ち出される神の杖がジャブローに向けてスペースノイドの嚇怒を表すかの如く真っ赤に燃えて落下していくのであった。


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