世界に20億の信徒を持ち、世界の管理と運営を司るローマ正教。その最暗部に位置するローマ正教の裏の頂点、世界を動かすために存在する神の右席。その神の右席を構成する四人、前方のヴェント、後方のアックア、左方のテッラ、右方のフィアンマ。この物語はそんな四席の内の一つの座につく男の物語。――――――――の予告である。

 ※感想がいいようなら連載しようかなとも思っています。非ログインユーザーの方でも感想書けるので、出来るだけ感想お願いします。

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 思いつきで書いてしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。あらすじにも書いたように感想がいい感じなら連載するかもです。非ログインユーザーの方でもどんどんどうぞ。

 まあ、もう一つの方の小説『とある科学の元魔術師』が一息つかなきゃいけないのですがね。今年中には向こうが一段落すればいいかなと思います。

 と、まあツラツラ書きましたが楽しんでいただければ幸いです。ではどうぞ。


第1話

 ここはイタリア、とある街。

 

 ポツリポツリと雨が降り始めていた。その雨は瞬く間に降らせる量を増やしていき、気がつけばバケツをひっくり返したかのような大雨へと姿を変える。

 

 その雨の影響からか街の雰囲気は一層陰鬱さを醸し出し、まるで魔窟のような印象でさえ与えるようだった。

 否、魔窟のようなでは語弊があった。この街は元々魔窟である。昼間から日光が照らしたところで大通りに人が歩くことはない。通ったところでその人たちはすぐに消えてしまうのだ。

 

 それは何故か? まずはこの街にいる人間を二種類にカテゴライズしなければならない。一つはこの街を知らない者、もう一つはこの街を知っている者。

 知らないか、知っているか。その違いでこの街はその有り様を千差万別にも変えるといっても過言ではない。

 

 まずは知らない者。この者たちはこの街では被食側。つまりはサバンナに一匹取り残された子供のシマウマ、蟻地獄にはまった蟻、彼らはその程度のものでしかない。

 例えば。この街を知らない観光者がこの街を通ったとしたら、あっという間に消えてなくなり、めでたく永久的な行方不明者リストに永遠の仲間入りである。

 

 もう察しが良くなくてもわかるだろうが、敢えて言うと知っている者は捕食側。まさしくサバンナで群れをなすハイエナ、蟻地獄にはまった蟻を食べる蟻地獄。

 

 

 人がなにゆえ大通りから消えていくか? それはもう明白、大通りを歩く被食側は捕食側に食べられる。ただそれだけ。被食側は裏通りを歩く知恵すらないからだ。

 また、捕食側も捕食側で大通りを通れば喰われることは学習している。なのでこの街の大通りを歩く人間はそうそういない。

 

 

 つまり、この街で生きるには他者から奪い、なおかつ他者から奪われないだけの知恵か、力か、はたまた両方か。それなりのものを持っていなければ到底この街で生きることはできやしない。

 そんな人間の原始的な生存過程、弱肉強食を体現したかのような。掃き溜めのような世界がこの街であり、この街そのものだ。

 

 

 

  ◆

 

 

 だが、そんな街にも。どんなものにも例外があるかの如く、知らない側でも被食側に回らない場合もある。

 

 そんな人種にカテゴライズされる人物がこの街の大通りを歩いていた。コツリコツリとブーツの音をレンガ造りの街に響かせながら、陰鬱さをさらに増長させるかのように。

 

「やはり雨というものは面倒ですねー。いちいち魔術を使わなければ濡れてしまうなんて。いっそのこと空でもぶっ壊しますか?」

 

 そう憂鬱そうに、吐き捨てるように呟いたのは一人の男だった。

 黒色の礼服を着たその姿は、頭の先から足の裏まですべてが高級そうな黒の衣に染められている。白人にしては背が低く、日本の一般的な高校生と同程度か。年齢は少なく見積もっても30を超え、体は痩せ過ぎであるものの、頬のこけた顔には妙な活力を感じさせる。

 だが、男にはどこか不自然さがあった。それは傘をさしてもいないのに濡れていない。むしろ雨が男をすり抜けるかのようにそのまま地面に落ちているのだ。

 

「とは言ってもまだまだ、そんな事は無理なんですがねー」

 

 そんな不自然さが当たり前であるかのようで男は何も気にしていない。男がまたしても呟こうとした瞬間だった。

 

 大通りを形成する建物。その建物と建物の間から多数の人間が飛び出してきたのだ。その数、およそ10程度。音もなく、ではないがそれなりにまとまりが取れた動きであった。

 各々ナイフやら包丁やらガラス瓶などなど。それなりの力さえあれば簡単に人など殺傷できてしまいそうな装備を持って、大通りを歩く男へと襲いかかる。

 この時彼らは雄叫びを上げるなどのアホなことはしない。何故ならそんなことは無駄だからである。生きるために学び、学んだことを生きるために使う。この街に生きる人間は最も生物らしい機能を備えていた。

 

 男は振り返ることさえもせずに、ただただ進行方向に歩いているだけだ。何事もなかったかのように、ただ歩くだけ。自分が襲われそうになっていることでさえ気づいていないかのようだ。

 

 

 その一方で、襲う側のリーダー格。彼はやった! と確信した。いつものような狩りではあるが、成功すればそれはそれで感動はあるものだ。他のチームに横取りされないのもその要因かもしれない。

 この街にはこのようなチームなど空いて吐くほどあるのだ。このチームもその有象無象の中の一つ。大抵は獲物を襲う前の奪い合いでひと悶着あるものだが、今日はそれすらもなかった。

 

 今日は最高にツイてる! 雨が降ったのはいただけないが、見た目は的にも金を持つオーラを漂わせるこいつを狩れば、たらふくの飯に酒、女を買うことだってできる!

 

 そう思った刹那、男が何気なしに発した言葉でこの場の状況は一変した。それはなんてことはない、ただの呟きでだ。

 

「優先する――――――人肉を下位に、小麦粉を上位に」

 

「え?」

 

 白い鋭利な塊が襲撃者たちの体をスっと通り抜けた。その白い塊はまるでギロチンのような形状の物。

 ただの目の錯覚だったかもしれない、そんなものが急に飛び出して、しかも自分達の体を通り抜けるなんてありえない。そう思って目を擦ろうとした時にやっとリーダー格の男は気づいた。

 

 腕がない(・・・・)

 

 だけではない。体は何故か雨が降りしきる地面に倒れ込んでおり、顔を持ち上げれば見慣れたズボンを着た下半身だけのマネキンのようなものが立っていた。

 辺りを見渡せば下半身しかないマネキンはいくつか立っており、その数はおよそ十程度。腕はそこら辺にたくさん転がっている。その数およそ二十程度。

 

 リーダー格の男は自分でも不思議なほどに、数を数えられるほど冷静だった。転がっている腕から血がでてないな、そうも思った。

 だがそれも一瞬で終わった。声にもならない叫び声が口から大量に漏れ出し、それに牽引されるかのように、周囲からも叫び声が大量に鳴り響く。まるでどこぞの合唱団の合唱にも似た響きであった。

 

 が、その旋律は先程までと変わらずに歩き続ける男からすれば不快なものでしかなくて、

 

「この街ではこんな音楽が流行ってるのでしょうか。なんて下賎なんでしょうかねー」

 

 近所の主婦仲間に愚痴る奥様が言うかのような、なんとも気の抜けるトーンで男が言葉を発すると、その次の瞬間には旋律は終わりを告げた。その代わりにびちゃりという水がはねる音と、ゴトリというレンガの道路に何かが叩きつけられる音が響く。

 

 

「まったく、この街に着いてか一体何回あんな雑音を聞けばいいのやら。服もまた濡れてしまいましたし、こんな街で出店しないで欲しいものですねー」

 

 男は歩みを止めることもなく、何事もなかったかのように淡々と道を進んでいく。ただしその服と体は先程までとは異なり雨に打たれ濡れていた。しかし、その道すがら白い塊を回収すると再びぼそりと呟く。

 

「優先する――――――雨水を下位に、人体を上位に」

 

 その瞬間に雨は再び男をすり抜けて地面に落ち、さらに服を濡らしていた雨粒でさえもが地面へと落ちていく。

 男はそんな事は気にも止めないで変わらずにコツリコツリとブーツの音を響かせて街の奥へと向かっていく。

 

 

 

 そう、この街で知らない側でも捕食されずに済む方法はただ一つ。喰われる前に殺してしまえ。ただそれだけだ。

 それを象徴させるかのように、男が通ってきた道のりには幾つもの、それこそ五十を超すほどの人体がバラバラになって落ちている。足やら腕やら頭やら胴体やら。そして、それらに共通することはただ二つ。

 一つはどれもこれも切断面はこれでもかというほどの美しさで、その手のものが見れば感嘆の息を漏らしたことだろう。

 もう一つの方はというと、どの人体も共通する場所を切り取られていた。その場所は首、特に声帯と呼ばれる部分。

 

 

 

 

  ◆

 

 

 コツリコツリ、さっきまで街の大通りを歩いていた男の足音が辺りに響き渡る。ただし今は屋外ではなく室内。あの街の中にあるとある三階建ての建物の中、とは言っても地下へと向かう階段の途中である。ヨーロッパの城にあるような石造りの地下室がこの建物の地下に広がっているのだ。

 

 その地下へと向かう階段は灯りとして幾つものロウソクが足元を照らしている。そのロウソクが醸し出す雰囲気と地下特有の雰囲気からか、今にも幽霊が飛び出てきそうなほど寒々しく重苦しい空気がこの空間を包み込んでいた。

 

 しかし、男はそのようなことなど気にも止めないでコツコツ、コツコツ目的地へと向かう歩みを止めることはない。カサリとクモが床を這っても、ネズミの鳴き声が聞こえても、一切気にしない。

 

 そうして歩き続けていると、階段の終わりが見えてくる。その先にあったのは鉄で補強された木で作られた重厚な扉であった。大きさ的には大人二人が同時に通れるぐらいの、まあ普通の大きさだろうか。

 ただ、その扉には様々な模様が施してあった。模様とはいっても何かで無理矢理引っ掻いたような跡や赤黒いシミ、銃弾がめり込んだ跡にナイフがぶっ刺さっていたり。一般的には模様とは言えない荒々しいアートではあったのだが。

 

 そんな扉の前には、ボロ布を頭からすっぽりかぶった男が。その男は扉の前に椅子を置き、まるでこの扉を守るかのようにどかりと座っている。

 

 そのボロ布の男は目の前に男が立つのを一瞥すると、

 

「……確認は?」

 

「こちらですねー」

 

 ここまで来た男は懐から伝票程度の大きさの紙を取り出すとボロ布の男へと提示する。

 

「ようこそ……」

 

「どうも」

 

 ペコリと外から来た男が軽く一礼するのと同時に、ボロ布の男は椅子から立ち上がってドアを開く。そして、男は中へと入っていき、残ったボロ布の男は再び椅子に座っていた。

 

 

 

 男が部屋の中に足を踏み入れた瞬間だった。

 

「ようこそいらっしゃいましたね、旦那っ! さあさあ、今日は超目玉商品が入っていますよっ!」

 

 待ち構えていたかのように突然出てきたのは、この街の雰囲気には合わないであろう、妙にテンションが高い太った豚だ。正確には太った人間なのだが、どこをどう見ても豚に見える。むしろ豚以外の何者でもない。よって、この男のことは豚と呼ぶことにしよう。

 

 豚は成金趣味のような目がチカチカするほどの金色のスーツで身を固め、歯は無駄にすべてが金歯。ぶくぶく太りに太った指にはゴテゴテした宝石の指輪が幾つも付けられている。だが、そんな事よりも。なによりも目を引くのはいやらしい笑顔であった。ギトギトに脂ぎったその顔は見ているだけで吐き気を催すほどに気色悪く、さらに媚びるかのようなその態度も気持ち悪い。

 

 だが、そんな豚の容姿を一切気にしないのか、男はいたって普通に話しかける。

 

「その目玉商品とはどのようなものなのでしょう。通してもらってもよろしいですか?」

 

「ええ、ええっ! もちろんですともっ! さあさあ、こちらへっ!」

 

 豚は跳ねるようにそう言うと部屋の奥の方へと向かっていき、それに続くように男も奥へと進んでいく。扉の奥は階段に引き続き、長い通路になっており、コツコツという男の足音、ドテドテという豚の足音のみが通路に響いている。

 この通路は、ここに来るまでの階段のようなむき出しの蝋燭ではなく、幾つものランプが行先を照らしている。そのランプから漏れ出す僅かな明かりは恐怖を誘うようで、下手なお化け屋敷よりもよっぽど恐ろしい。

 

 しかし、流石にこんな雰囲気が続いてしまえば飽きてくる。今まで襲撃者にもクモにもねずみにも大した反応を見せなかった男もここまで歩けば、

 

(さっき階段を下りてやっと扉にたどり着いたと思ったら、今度は廊下ですか)

 

 内心でそうぼやき、自身の前を歩く豚に悟られないようにため息をこぼしていた。男は自分のとある目的のためにここまで来ていたのだが、面倒事は面倒だと感じるのが人間の常である。

 

 そんな男の雰囲気に察していたかのように、豚は後ろを振り向かないで、

 

「旦那旦那っ! 目的地まで遠いとお思いかもしれませんが、勘弁願いたいんですよっ! こちらとしてもあんまり大っぴらにできないんですからねっ! まあ、こんなところまで来る人はほっとんどいないんですがっ!」

 

 大抵は配達作業が主でここは倉庫みたいなもんです、世間話をするようなトーンで豚はツラツラ言う。

 

「倉庫ですか。少しばかり迷惑でしたかねー」

 

「いえいえっ! 全然大丈夫ですよっ! やっぱりこんな稼業をやってると少しは普段と違う事がないとつまらないんでねっ!」

 

「そうですか」

 

 どうでもよさげに言った男の顔は、どこまでもどうでもよさそうだがそれも一瞬。すぐにポーカーフェイスの無表情に戻る。

 

 

 こんな感じで男と豚が歩いていれば、廊下の終わりまでたどり着いた。廊下の終わりにあったのはまたしても扉。ただしさっきの扉とは異なり、すべてが鋼鉄で出来ている。その重厚さからか、扉からはなんとも言い難い邪気のような圧力が降りかかる。

 しかし、ここを住処とする豚はいたって普通に扉の前に立つと、

 

「さあさあ、旦那っ! 着きましたよっ! 長い旅路ご苦労様でしたっ!」

 

「まったくですねー」

 

「そうおっしゃらずにっ! さあ、ようこそっ!」

 

 遊園地を前にした子供のようにルンルン気分で豚は言って、鋼鉄の扉を開け放つと中へと入っていく。そして、男もそれに倣うように、今までと同じようにして豚の後へと続いて行く。

 

 

 

 

  ◆

 

 

 なんでこんなふうになってしまうんでしょうか?

 

 とある少女は場違いながらも、自分でも不思議なくらい冷静にそう思っていた。

 

 

 今思えば、私の人生はいい事があった試しがなかったと思います。いい事があったとしてもずっと昔にあったか、すぐに消えてしまうようなものばかりでした。

 家族がいた頃はまだ良かったです。ちょっとくらいやなことがあってもすぐに忘れてしまえたし、楽しいことの方がたくさんありました。

 

 でも両親が死んでからは生活が一変しました。屋根のない外で寝て、食べ物はゴミ漁り、雨が降ったら冗談抜きで死んでしまう。そんな家畜以下の生活を強いられていました。奪って奪われて、また奪って。力のない子供の私にはどこまでも辛くて大変な毎日で、一日生きるのでも精一杯の程でした。

 

 でも、そんな中で一筋の光明が差し込んできたんです。路上生活する私を引っ張り上げて、教会に住まわせてくれる人がいました。とっても美味しい食べ物もぐっすり眠れる場所もくれました。

 でも、その人のことはどこか好きになれなくて、私は無意識に邪険な態度をとってしまいました。私の他にも保護された子はいましたが、その子達はその人にとてもなついていました。とりわけアンジェレネという娘が一番でしょうか。まあ、美味しい食べ物に惹かれていただけだと思いますが。それでもみんなあの人を慕っていました。

 

 まあ、なんやかんやで教会に拾われて少しはマシになったと思ったらすぐにコレです。あの人の事を邪険に思っていたバチがあたったのでしょうか。多分そうですね。そういえば私はあの人の名前も知りませんでした。ええと、確か……シモ……なんとかでしたっけ。……我ながらなんという恩知らずでしょう。

 

 私たちは攫われました。拾われた教会でみんなで掃除をしていたら、急に不審者が踏み込んできて抵抗もできずに今ここにいます。連れてこられたのはほとんどが私と同時期に拾われた子たちでしたが、一人だけ。シスター・オルソラだけは私たちが拾われる前から教会にいました。

 

 やっぱり私は疫病神みたいです。私さえいなければ両親だって死ななかったでしょうし、シスター・オルソラやこの子達だって巻き込まないですんだと思います。まあ、こんなことを思ってたらあの人に怒られてしまいそうですが。

 

 

 

 おや、あの扉が開く音がします。奴が来てしまったみたいですね。

 

 あいかわらずブッサイクな顔しているんでしょう。どこまで豚に似ているのか、コンテストをすれば一位を取れるほどブサイクです。臭いし、汚いし、グロくギラギラしてるし。まあ、アレの文句を挙げればキリがないのでこのへんで割愛を。

 

 はあ、ため息をつきたくなりますね。まだ自分でも不思議なくらい平常心を保っています。一周回ってハイになってしまったか。それとも、もしかしたらあの人が……いえ、こんなこと考えるなんて私には許されないでしょう。

 

 

 こんな私が祈ってはいけないことだと思います。でも、他の子達は無事であってほしいです。シスター・オルソラは特に、ですね。私、アニェーゼ=サンクティスはどうなっても構いませんから、神様。それだけはお願いします。

 

 

 

 

  ◆

 

 

 最初に感じたのは異臭。それも下卑たる臭い。家畜小屋のような場所だ。

 

 ここまで来た男の最初の感想がそれだった。

 

 先ほどの鋼鉄の扉をくぐった先に待ち構えていたのはいくつもの檻。長い地下へと向かう階段と廊下の先に待ち構えていたのは、学校の体育館程度の大きさを持つ地下牢だった。牢の中には鎖のついた手錠につながれた人間がチラホラと入っている。

 男性が大半を占め、普通に外を歩けるような服を着ている人たちもいれば、ボロ切れのようなボロボロの服を着ている人もいた。そんな人達に共通するのは諦めたように目が虚ろなところか。

 

「でゅふ、どうですっ!? 旦那!! これがうちの商品ですよっ!」

 

 豚が興奮したように男に問いかけながら、檻に入っている人達を宣伝するように大きく手を広げる。

 この檻に入れられた人間たちこそが豚の商品。つまり豚は奴隷商人と呼ばれる人種であった。この街に迷い込んだ観光客やストリートチルドレンを攫っては、必要とする人間へと売り払う。無法地帯と化したこの街ではイタリアの警察に捕まるはずもない、なんともおいしい仕事だ。

 奴隷など国際的にも非合法だが、それでも裏では欲しがる人間などごまんといる。そんな人たちをクライアントとしてこの豚は商売をしているのだ。

 

「それで、目玉商品はどこでしょう?」

 

「まあまあ、そんなに焦らんでくださいなっ! こちらですよっ!」

 

 まだ歩くのか、男はそう思ったが今回は案外近かった。体育館程度の大きさの場所を端から端まで歩かされたくらいの場所に、豚の言う目玉商品があった。

 

「でゅふふ、どうですかっ!?」

 

 その目玉商品というのは、同じ檻に入れられた十人のシスター達。皆一様に黒い修道服を着ており、頭には髪が隠れる程度の黒いフードを被った少女達だ。

 一番下が7歳くらいで一番上が14歳くらいの少女たちで皆が皆怯えていて、お互いをお互いで守るように一つに固まっている。他の閉じ込められた人たちのように目が虚ろにはなってはいないのは、おそらく最近入ったばかりなのだろう。その目には恐怖と絶望の色に染まっている。

 

「……シスターですか」

 

「どうでしょうっ!? 旦那のお眼鏡にかないましたでしょうかっ!?」

 

 男がポツリとこぼした言葉に豚は過剰に反応を示して、手をハエのようにすり合わせる。

 この豚は大抵の客に対してこのような態度なのだ。リアクションはオーバーに、要はエンターテイナー気取りなのである。

 

 そんな豚がシスター達の事をどうだどうだと連呼している中、男は俯きながら黙って地面を見ていた。しかも、ただ俯いているだけではなく若干体を震わせている。

 

「……」

 

「あれっ!? どうされました、旦那っ!」

 

 男の不自然な様子に違和感を覚えた豚は驚いたように男へ声をかける。もしや粗相をしてしまったのか、そんなことが豚の脳裏によぎっていた。

 

「……はっ」

 

「?」

 

 しかし、それは豚の勘違いであった。

 

「はっはっはっはっはっはっはっ!」

 

「へっ」

 

 男は今までのポーカーフェイスを崩して盛大に、なおかつ狂ったように大爆笑していた。腹を抱えて、これほど愉快なことはないかというように。

 男が急に笑い出したことで豚はかなり愉快に唖然としており、檻の中にいるシスターたちはびくりと体を揺らす。

 

 ひとしきり笑った後、男は嬉しそうに豚へと話しかける。

 

「これほどまでとは思ってませんでしたねー。思わぬ掘り出し物です。私はある実験で人間を大量に必要としているのですが、これは極上の素材ですねー」

 

「でっ、ではっ!?」

 

「ええ、言い値で……おや?」

 

 機嫌が良さそうに男が言おうとした時、ふと気がついたことがあった。それはシスター達がいる檻の中、少女らの中の一人だった。

 

 この先絶望しかないであろう奴隷になりかけているのにも関わらず、その少女の目には強い光が宿っていた。怯えている他のシスター達を庇うように彼女は檻に一番近い場所に座っており、恐怖の色を見せない強い表情で豚と男のことをジッと見据えている。

 

「檻を開けてもらってもよろしいでしょうか?」 

 

 男がそう言うと、豚は外見に見合わぬほどの速度で動いて、牢屋についている鍵を開けて扉を開ける。

 そして、男は牢の中へと入っていくと、例の少女の目の前に立ち、座っている少女の目の前に立ってから目線を合わせるようにしゃがみこむ。

 

「不思議ですねー。このような状況で何故そのような目をできるのでしょうか?」

 

「……何も恐れるものがないからでございましょうか」

 

「恐れるものがない? 自分の置かれた状況を察することができないほどおバカさんなのでしょうか?」

 

「いえいえ、察しておりますよ。もうすぐ私たちは売られてしまうのでございましょう。ですが、私たちには、私たちを助けてくれる方がいるのでございますよ」

 

 さっきまでは無表情とも言える雰囲気だったが、今は微笑みながら言い切った。他のシスター達は、そんなことあるものかとでもいうような諦めの表情をしていたが。

 

「おやおや、それはそれは。……主が助けてくれるということですかねー?」

 

「ええ、それもありますでしょうし――――」

 

「も?」

 

「『シモーネ(・・・・)』が絶対に来てくれるのでございますよ」

 

 少女が『シモーネ』といった瞬間、その少女の後ろで縮こまって怯えていた少女たちの肩が一様にびくりと揺れる。そして、お互いの顔を見合わせると、その表情から不安や恐怖の色が目に見えて消えていく。

 一人だけ、『シモーネ』という名を聞いてハッとした赤毛のシスターもいたが、それでも皆希望が見えたというような表情であり、諦めは消え去った。

 

 そのシスター達の反応の一方で、豚はなんとも面白くない。

 ここに連れてこられる人間たちは必ずと言っていいほど恐怖するものだ。豚としてはそれが嬉しくて嬉しくてたまらない。いわゆる豚は異常性癖者、他人が恐れおののき絶望するのが至高の喜びなのだ。

 

 そんな豚がこのようなシスター達の事を許せるはずもない。自分が求めているのは恐怖の虜になり、絶望を抱いて、苦しみ悶えるもののはずなのに。

 

「おいっ! きさまら――――」

 

「そのシモーネという人はピンチに助けに来てくれるヒーロー、ということですかねー」

 

 豚の声などまるで聞こえていないかのようにして、男は目の前の少女に問いかける。

 

「ヒーロー? ふふふ、確かに彼はヒーローでございますね。いつも太陽のようにキラキラしているのでございますよー」

 

 少女は場違いに顔を赤らめてそう言った。まるで恋する乙女のように、その姿は現在誘拐されていることなど感じさせないほど。完全に恋バナをするお年頃の女子である。『シモーネ』という名はそれほどまでの力を持つものなのだろうか。

 

「それはいいですねー。では、そのシモーネという方が本当にヒーローなのか、実験してみましょうか」

 

「「「「!?」」」」

 

 男は言い終わると同時に、目の前の少女の首に手をかけて持ち上げると、万力の如き力で締め上げる。その反動でかぶっていた黒い修道服のフードがはらりと落ち、少女の金髪のショートヘアが露わになった。ギリギリと言う音と僅かな声が少女の首から、無機質な牢屋の並ぶこのフロアに響き渡る。

 

「うっ……あぁっ……ぐぁ」

 

「シスター・オルソラ!!」

 

 シスターたちの中の一人が思わず彼女の名前を呼ぶが、その声は虚しく消えた。そう、所詮は彼女らは子供なのだ。数がいようが大人である男には適わない。

 しかも、男の表情は猟奇的で残虐であり、少女たちの恐怖をいっそうに引き立てる。 

 

「おや? ヒーローというのならこうすればすぐ来ると思っていましたが案外違うのですか。なら、もっといたぶってやれば来るのでしょうかねー?」

 

 そう言うと男はただでさえ強い力で少女の首を絞めているのに、さらに力を加えていく。男の心情としては、子供がとんぼの羽を毟るのと変わらない。無邪気な残虐さ、そして好奇心。

 この状況でなお、少女たちに希望を持たせられる『シモーネ』という存在を知りたくて堪らない。そして、あわよくばこの少女たちの前でぶち壊してやりたい。まあ、来ればの話だが。

 

「…………ぅぁ」

 

「もうすぐ死んでしまいそうですねー。どうでしょうか? シモーネという方は来ないようですが、今はどんな気分ですか?」

 

 男はそう言って首を絞める力を少しだけ弱める。あくまでも少しであり、喋れるか、喋れないかのギリギリのところであるのだが。

 

「………………彼は……」

 

「?」

 

「……彼は……私たちの……ヒーロー……なので……ございま……すよ」

 

 苦痛に顔を歪ませながら、シスター・オルソラと呼ばれた少女はそう言い切った。

 

「そうですか。残念ですが、妄想にとりつかれたままお亡くなりになってもらいましょうかねー」

 

 大層つまらなそうに男はそう言うと少女を殺す体勢に入った。

 まだ豚から買ったわけではないが、別に金など後から払えばどうとでもなる。実験材料としても一人ここで殺してしまっても代わりはまだまだあるし、生きていなくともできる実験はある。

 

 

 そして男は少女の首を絞めながら、

 

「優先する――――――人肉を下位に、肉体を上――――っ!?」

 

 言おうとした時だった。

 

 

 

 ドゴォォォォ!! 轟音と共にフロアの天井が(・・・)崩れた(・・・)

 その衝撃で男は首を絞めていた少女を一瞬で放り捨て、ほとんど反射的に声を出していた。

 

「っ優先する――――瓦礫を下位に、肉体を上位に」

 

 そう言いながらも内心では疑問が浮かんでいた。まず天井が崩れること自体がありえない。

 ここが地上ならありえなくもない(上の階を爆破するなど)のだが、ここは地下なのだ。しかも、自分で下ってきたからこそわかるがこの場所は相当に深い。デパートなどで想像するような地下などとは一線を画すほどだ。

 そのような場所の天井が崩れるなど、と考えるうちに

 

「……おや?」

 

 少し冷静になって周りをよく見渡せばまたおかしい。天井が崩れたことによる瓦礫があまりにも少なすぎ、なおかつ崩れた天井の面積がさっき知覚したと思ったよりもずっと狭い。

 

(真上が崩れたからか。慌てすぎて判断を誤りましたかねー)

 

 内心で男はそうこぼしていた。

 崩れたのはさっきまで男が立っていた真上だった。が、さっきは天井が崩れたと思ったのだが、実際はというとはむしろ天井に穴が空いたと言ったほうが正しい位くらい。

 そのため瓦礫はあまり多くなく、誰かに瓦礫があたって怪我をした。なんてことはなくシスター達も、男も、おまけに豚もなんやかんやで無事である。

 

 そして、空いた穴はしっかりと外に繋がっているらしく、外で降っている雨が穴を通って地下深いこのフロアまで吹き込んでくる。大規模な雨漏りといったところか。

 

 

「うっ、ごほっごほっ」

 

「シスター・オルソラ! 大丈夫ですか!?」

 

(ああ、アレのことも忘れてましたねー)

 

 男から投げ捨てられた少女は運良く他のシスター達の元へと転がっており、苦しそうに空気を求めるために咳込んでいる。そんな少女を介抱するためシスター達は少女に寄り添っている。

 そんな少女たちを安心させるようにシスター・オルソラと呼ばれた少女は無理やり笑顔を見せると、

 

「こほっこほっ、だ、大丈夫でございますよ」

 

「シ、シスター・オルソラ……」

 

 そうは言うが首には首を絞められた跡がくっきり残っており、かなり痛々しい。とても大丈夫とは言い難いだろう。 

 

 

 が、そんなこと男からすればどうでも良かったりする。今は状況確認の方が先決だろうと考えあたりを見渡す。パラパラと少しだけ瓦礫は落ちているが、取り敢えずこれ以上天井が崩れる危険性はなさそうだ。実験体もとりあえず無事。豚は縮こまって頭を抑えて震えている。至極どうでもいい。

 そして、―――――天井に空いた穴の大きさは、一般人が想像する程度の井戸の直径くらいだろうか。

 

 

 

 つまるところ、人一人が余裕で通る事ができる。

 

 

 

「……まさかとは思いますがねー」

 

 おかしいことはまだあった。この地下まで唐突に穴が空くなんて自然ではありえないだろう。つまりは人為的なものによると容易に想像できる。では、それをどうやってやったか。

 機械を使ったならできなくもないだろうが、まず豚たちが気づかないはずがないだろう。奴隷商なんていう職業柄、周囲のことに無警戒などありえない。もしそうだとしたら、それこそただの豚だ。

 

 機械はない、素手で掘るのもありえない、自然に空くなどそれ以上にない。それならば残っているのは――――

 

「同業者ですか」

 

 男がそう呟くのと同時、雨が吹き込んでくる穴から緑色の塊が落ちて来た。そして、その塊は瓦礫が降り積もる床にスタッと器用に着地すると立ち上がる。どうやら緑色の塊は人間のようだ。

 

 その人間は、深緑色のフード付きのコートを着ており、その身長は大体170程度。そのコートはガウンにも似ていてその裾は地面に届くか届かないかくらいギリギリ、かなりのブカブカで袖はゆったりを超えて鬱陶しそうにも思える。

 前を留めていないコートの下には、中世の銃士を想像させるような袖にフリルの付いたワイシャツ。ズボンは黒く、頑丈そうな軍用のようなブーツを履いている。

 年齢は大きく見積もっても16~18くらい少年で、最低でも成人はしてないように見える。光の少ない地下であってもキラキラと輝く金髪の短髪で、不自然に前髪が一本立つ――いわゆるアホ毛――のが特徴的だ。

 顔はある程度整っており、温厚そうな印象を与える顔立ちである。メガネの類は付けてはいないが、左耳には普通のものよりもずっと大きい十字のピアスをつけている。

 

 

 そんな落下系ヒロインのような登場をした彼はここに降りてきてから、キョロキョロと辺りを見渡していた。そして、お目当てのものを見つけると、元々柔和そうな顔をニッコリさせてその方向へ歩いていく。

 

「お待ちしていたのでございますよ、シモーネ」

 

「やっと見つけましたよ、オルソラ。アンジェレネ、ジャンヌ、シャルロット、シエスタ、ルチア、クリスタ、カトレア、メイビス、アニェーゼ。遅くなってしまって申し訳ありませんね」

 

 シモーネと呼ばれた少年は歩きながらノンブレスで言い切った。そして、オルソラの前に立ってしゃがみ込むと彼女のことを正面から思い切りでありながら、壊れ物を扱うように繊細に抱きしめる。

 

「シモーネはいつもあったかほわほわでございますね」

 

「オルソラほどではありませんよ」

 

 お互いそう言いながらイチャイチャラブラブするが、あくまでもここは牢屋。完全に二人は別空間にでも入り込んでいるようだが、他のシスター達はなんとも気まずそうにしながら二人をチラチラと見ていた。初恋の味も知らない彼女らにとってこのシチュエーションはレベルが高すぎたようだ。

 そんな二人だったが少年の方は抱きしめているオルソラの首に痛々しい痣があるのに気がついた。そして、その跡を手で撫でるようにして、

 

「これはどうしたんですか?」

 

「いろいろあったのでございますよ」

 

「……そうですか」

 

 少しだけ感情の消えた声で少年は言うと、抱きしめているオルソラから少しだけ顔を離してその痣をぺろりと舐める。

 

「ん……あっ」

 

「消毒です。少し我慢してくださいね」

 

「ふぁあ……あぁっ。く、くすぐったいので……んあぁ……ございますよ」

 

「我慢してください」

 

 有無を言わせずに少年はアホ毛をピコピコさせながらオルソラの首筋を舐める。オルソラの顔が赤くなっていることなど気にはせず、周りにいるシスター達が顔を真っ赤にして手で顔を抑えて指の間からチラ見しているのも気にしていなかった。

 

 

 

 そんな感じで作業を続けようとしている間に檻の向こう――瓦礫が落ちてきたときのショックで檻は無残に吹っ飛んでいた――は何やら騒がしい。

 

 檻の向こうだった場所では荒くれ者5人が手に手に鈍器やらなんやらを持って集まっていたのだ。そんな男達の後ろでは豚が吠える。

 

「貴様っ! それらは私の商品だっ! お前達っ、やってしまえっ!」

 

「「「「「ヘイ」」」」」

 

 豚の部下であるならず者たちがシモーネに襲いかかろうとしてくるが、当の本人はなんともマイペース。ゆっくりとオルソラの頭を撫でてから放すと、

 

「すいませんね、オルソラ。少し待っていてください」

 

「はいでございますよ」

 

 シモーネはゆっくり立ち上がってならず者たちを見据える。そして、自身の深緑色のコートを腰の辺りまで振り払うようにしてバッと捲り上げる。その腰の左側の部分には黒いホルスターと、それに入った銃。その銃をゆったりと取り出し、ならず者たちに向ける。

 銃はグリップから銃身の手前まではリボルバー、銃身はオートマチックという変わった形状をしており、銃身にはシルバーの十字架が紋章のように刻まれていた。

 

 カチャッ、という銃特有の音を出して照準を合わせた。と思ったらシモーネは突然くるりと振り返る。

 

「あ、そういえばアニェーゼ? あなた私の名前知りませんでしたよね?」

 

「……え?」

 

「私はなんだかんだで三つ名前を持ってますが、あなたはそのどれも知らないはずでした。そのはずです」

 

 確定事項のようにうんうん頷いて一人で納得しているが、その背後からは五人の武器を持った男たちが迫ってきている。アニェーゼを始めとするシスター達としては、今はそんな事はどーでもいいだろっ! と心の中で絶叫しているが、オルソラだけはニコニコしていた。

 

「アニェーゼにはそのうちの一つ、シモーネ=ダルタヴィッラを名乗るとしましょうか。改めてよろしくお願いしますね」

 

 そうシモーネは言うだけ言ってまたくるりと振り返る。そして、眼前に迫るならず者達に銃を向けて照準を合わせると機嫌が良さそうににっこり笑い、

 

「五人ですか。さっきの穴あけの一発と合計して六発。この銃もフル装填で六発。ちょうどいいですね。

 飛んでください」

 

「死ねやぁ!」

 

 一歩踏み込めば殴られてしまうような距離までならず者達は接近していた。

 が、シモーネの銃が発する、ダァァァン! という一発の銃声のみで、ならず者達が全員吹き飛んだ。

 

「「「「「うぐぅ、あぁぁ!」」」」」

 

「なっ、なにがっ!」

 

「ほう」

 

 吹っ飛んだ男たちは皆一様に壁にめり込み呻き声を上げる。まるで巨大なハンマーに殴られたようで、どう見たって銃で撃たれたような痕跡はない。

 しかし、それでも銃は弾丸は放たれていたようで、シモーネの足元には薬莢が5つ。カラカラと転がっている。

 

「とりあえず三下方にはご退場願いました。さて、もう帰らせてもらいましょうか」

 

 何事もなかったかのようにシモーネはそう言いながら、銃のリボルバー部分に一つずつ。合計六つの弾を込める。そして、自分の敵対者であろう残り二人――豚と男――に銃を向けた。

 

「あなたがシモーネ、本当のヒーローのようですねー。ですが、このまま好き勝手にさせるのは許せませんから、潰させてもらいましょうか。

 優先する――――――人肉を下位に、小麦粉を上位に」

 

「!」

 

 その瞬間にシモーネに向かって白い塊が、鋭利な刃物のような形状をとって襲いかかる。その白い塊をシモーネは頭を逸らして紙一重で避けると、白い塊へ発砲した。

 そして、発砲した瞬間に白い塊は一気に燃え上がる。塊は一瞬で轟々と燃え上がると黒い灰になって地面に落ちた。

 

「……まさか魔術師がいたとは。予想外です」

 

「それはこちらの台詞ですねー」

 

 世間話をするような軽い口調、表情で二人は言うが、その雰囲気は威圧するかのように重い。そんな二人に呑まれるかのようにオルソラを除くシスター達はびくりと震える。

 それに気づいていたようにシモーネは頭だけ後ろを向くと和らい口調と優しい表情で、

 

「大丈夫ですよ、みんな。これが終わったら教会に帰ってあったかいスープでも飲みましょうか」

 

 そして、と言ってシモーネは頭を元の位置まで戻すと、

 

「そういえば、あなたにはまだ私の名前を知りませんでしたね」

 

「? シモーネ=ダルタヴィッタではないのですか?」

 

「いえ、あなたには残りの二つの名前で名乗らせてもらう事にします」

 

 それは、と繋げながら男へ銃の照準を合せて、

 

「『splendorem712(輝きを守護する者)』」

 

 シモーネの名乗ったそれは魔法名。魔術師が自身を証明する名であり、また殺し名でもあるものだ。そして、その次に名乗る三つ目の名前は―――――――― 

 

 

 

 

 

 

 

「『左方のテッラ』

 以後を作る気はないのでとりあえずこの時間だけでもお見知りおきを」

 

 

 

 

  ◆

 

 

 世界に20億の信徒を持ち、世界の管理と運営を司るローマ正教。その最暗部に位置するローマ正教の裏の頂点、世界を動かすために存在する神の右席。その神の右席を構成する四人の中の一人である神の薬(ラファエル)の性質を持つ『左方のテッラ』。

 

 ローマ正教・神の右席『左方のテッラ』の座についたシモーネ=ダルタヴィッラ、魔法名:『splendorem712(輝きを守護する者)』。

 

 この物語はそんな彼が刻む物語。

 

 

 

 

 





 こんな感じです。いかがだったでしょうか。とりあえず考えているプロットの中で短編に一番見合ってる場所だったと思います。一部をくりぬいただけなので分かりにくい所もあっただろうと思うので当たり障りのないところまで設定の紹介をします。


 舞台
 原作開始3,4年くらい前のイタリア。


 登場人物

 まずは主人公、シモーネ=ダルタヴィッラ。神の右席、左方のテッラの座につく少年。魔法名:splendorem712(輝きを守護する者)

 容姿、服装、性格などは本編で記載しましたので。

 使用する魔術の詳細は秘密。
 最低でも『光の処刑』ではない。ただし弾丸一発で地下深くまでブチ抜いたり、男五人を簡単に吹っ飛ばしたりとかなりハチャメチャ。
 銃のモデルは某灰男に登場する某不良神父の某イノセンス。ただし外見だけで自動追尾機能なんてものはついていない……はず。

 オルソラ大好き。馴れ初めなどは秘密。シスターとは結婚できないらしいが、多分平気で結婚する。神の右席だし。好きな○○と聞かれたら大抵はオルソラの○○という返答で返す。
 例:好きな食べ物、オルソラの手料理。好きな色、オルソラの髪の色。などなど。

 孤児やストリートチルドレンの世話をオルソラと一緒にするのが普段の生活。神の右席としてローマ正教のトップのはずだが、その事を知っている人がほっとんどいないので普通に表側で生活している。



 次にオルソラとシスター’S
 
 オルソラも主人公の事が好きの両想い。主人公が神の右席である事は知らないが、ある程度のことは察している。そのことについて主人公には何も言わない。いい人です。
 まだ原作程胸は大きくないがそれでも成長は著しい。原作3~4年前なので多分14歳くらい。


 シスター’S
 みんなどこかで聞いたような名前ですが気のせいです。作者センスにより好きなキャラの名前を借りただけです。実在するキャラクターとは名前以外何の関係もありません。容姿も性格もです。
 元ネタが知りたいなら感想でどうぞ。とりあえず原作キャラ以外は一個も作品を被せてないです。
 本編を書いても出ないです。作者の思いつき企画でした。



 次は敵側です。


 豚
 純然たる豚、究極的な豚、とりあえず豚。気持ち悪くて臭い。豚に失礼かもしれなくなるほど豚。モデルは一応ある。かなりマイナーだが、シャーマンキング0:リゼルグ編に出てくるオノックスさん。わかるかな? 
 でも正直どうでもいい。モブ。


 ボロ布の男・ならず者の男たち、特になし。


 魔術師の男
 原作に出てくる人によく似たそっくりさん。あの人とは何の関係もない。
 神の右席でもないし、ローマ正教徒でもない。多分、邪神崇拝の宗教か魔術組織に所属してるんじゃないかと思う。
 それでも努力で『光の処刑』を使えるようになった努力の人。そっくりさんとしては頑張った。神の右席でないので観光客やらの誘拐ができない。よって奴隷商人に頼っている。後ろ盾がない以上、必要悪の教会(ネセサリウス)やらが恐ろしい。
 原罪を薄めてないのに『光の処刑』使えるのか? そう思うかもしれないが彼は頑張ったんです。

 読者の方のミスリードを誘うために登場してもらいました。半分過ぎたくらいまで、そっくりさんが主人公だと思ってたなら作者の勝ちです。



 最後に

 まあ、こんな感じで書きましたがどうでしょうか? 重ねて言いますが非ログインユーザーの方でも感想かけるので気軽にどうぞ。感想によって連載するかしないか決めようと思います。酷評だけでもやるかもしれないですが。

 無駄に15000字ジャストで書きましたがなんとなく合わせてみました。

 もう一つの方の小説、『とある科学の元魔術師』もよろしくお願いします。お疲れ様でした。

  

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