「穂乃果ちゃ〜ん」
穂むらへやってきたことりは、幼馴染の部屋の前で声をかけた。
スパーン! と開くドア。予想以上の勢いに、分かっていながらことりはビクッと肩を震わせた。
「待ってたよことりちゃんっ!」
開かれたドアの向こう側では、瞳をキラキラと輝かせた穂乃果。相変わらず分かりやすいなぁとことりは思ったが口には出さない。
ワクワクが前面に押し出された表情を見ると、ついつい甘やかしたくなってしまうのだ。もう一人の幼馴染のしかめ面が脳裏に浮かび、少しだけ申し訳ないなと思う。
「穂乃果ちゃん、ケーキとお菓子持ってきたよ♪」
「やったぁ! ことりちゃん大好き!」
だがそんな事はお構いなし。あとで何とかなるだろう。この辺は穂乃果ちゃんの影響なのかなぁとことりは一人で笑顔になった。
「ね、ね、どんなケーキ? イチゴ?」
「そうだよ〜」
ほぼ毎年のように行われている、手作りケーキでの誕生日会。どんなケーキでも喜んでくれる穂乃果だが、一番はしゃぐのはイチゴのショートケーキだとことりは知っている。でも毎年ではこの単純な幼馴染は飽きてしまうかもしれないので、あえて数年おきに作っている。
「じゃーん! 今年はなんと、ティーセットがあるんだよ!」
テーブルの上に置かれていたのは、可愛らしいマグカップに、花柄の模様があしらわれたケトル。
「わ、可愛い〜♪」
思わず見入ってしまったことりだったが、
「でもこれ、どうしたの? 穂乃果ちゃんが持ってるの、見た事ないけど……」
わざわざ買ったのだろうか。少し考えにくいが。
すると穂乃果は、ドヤ顔で胸を張った。
「雪穂に借りたの!」
「あ……」
詳細は聞かないことりだったが、ある程度は察した。間違いなく、無断で持ち出したのだろう。もはやそれは“借りた”ではない。
雪穂ちゃん怒るだろうなぁ、とことりは思ったが、
「穂乃果だって、女の子だもん! せっかくの誕生日だもん!」
この得意げな穂乃果の機嫌は損ねたくない。心の中で雪穂に謝ると、
「じゃあ、私お茶淹れるね〜」
自分も使う訳だし、もし怒られていたら助けてあげようとケトルの取っ手を持った。
「そしたら、穂乃果がケーキ切るね!」
パン切り包丁と言えど、思い切り振りかぶられると流石に冷や汗が出る。
「ほ、穂乃果ちゃん、落ち着いてね?」
「大丈夫! ちゃんと均等に分けるから!」
そういう事じゃないよぉ、と言いたかったが同時に穂乃果ちゃんらしいとも思ってしまい、中途半端に手を伸ばした状態で止まってしまう。
だがことりの心配をよそに、意外にも慎重にケーキを分ける穂乃果。
「イチゴは……切らない!」
イチゴを避けつつ均等に分ける位置を探っているようだ。──もしかすると、イチゴを切ろうとしてスポンジの中に沈めて半ベソかいた子供の頃を思い出したのかもしれない。
そもそもあれは、オモチャの包丁で切ろうとした穂乃果ちゃんのドジっ子だったなぁと懐かしむことり。
「──切れた!」
嬉しそうな穂乃果の声でことりはテーブルへと視線を落とす。
「ええ……?」
「どうことりちゃん! いい感じに二等分できたでしょ!」
エッヘンとする穂乃果。
「えっとぉ……」
戸惑うことり。確かに、ケーキは二等分されている。真ん中を、半分にだけ切って。小さめとはいえ、ケーキワンホールを半分は食べられない。
「ちょっとこれだと……多くないかなぁ……?」
やんわり言ってみるが、
「?」
“何で?”と言わんばかりに首を傾げられた。
「じゃあ……まあいっか」
自分で切り分ければいいのだ、とことりは諦めると、自分の分のケーキ皿を引き寄せた。全部は入らないので、そこからさらに包丁で四つに切り分ける。一つは食べて、残りは雪穂ちゃん達に食べてもらおう、とことりは考える。元々そのつもりで作ってきたのだ。
だが対面に座る穂乃果は、
「ん〜〜〜っ! やっぱりことりちゃんのケーキは最高だね〜!」
そんなつもりはないと言わんばかりに、半円のケーキをフォークで切り崩す。
あはは……、と苦笑いしながら、ことりはケトルからおかわりの紅茶を注ぐ。ちらりと穂乃果のカップを見やるが、全く減っていなかった。
「ことりちゃんのケーキを食べる為に、穂乃果は誕生日まで生きてきたんだよね……」
無駄に壮大な事を呟く穂乃果は、花より団子なのだとことりはニコニコ笑顔になる。
「来年は、チョコレートケーキにしようかなぁ」
「チョコレート⁉︎ やったぁ! ことりちゃん大好き!」
ぽつりと呟いた一言を逃さず拾った穂乃果は、口の周りをクリームだらけにしながらことりにハグ。
「わわっ、穂乃果ちゃん♪」
「よーし、今年も一緒に頑張ろー! おー!」
「おー!」
おめでとう、穂乃果ちゃん♪