真姫は苦悩していた。
「歌詞って、どうすればいいのよ……」
いい感じのメロディが浮かんだので作曲してみたのだが、歌詞が決まらない。歌詞担当にお願いしてみたが、
「せっかくの機会ですし、真姫本人が作詞してみてはどうでしょう?」
と言われてしまった。
「曲は色々作ってきたけど、作詞って思えばした事なかったわ……」
メモ程度に書き起こした楽譜を見ながら、主旋律を少しだけ弾いてみる。ポップで明るく、聴くだけで元気の出てくるようなメロディ。底抜けの明るさでみんなを引っ張っていくリーダーには、ぴったりの曲だと真姫は自信を持って言えた。
「……あーもう! どんな歌詞にすればいいのよ!」
それ故に、歌詞が決まらない。
別に歌詞が無くても、穂乃果は喜んでくれると思う。思うのだが、
「……絶対、歌いたがるのよね……」
曲をプレゼントした時、間違いなく訊いてくるだろう。「歌詞は無いの?」と。当然無いものは「無い」と答えるしかないのだが、その後してくるであろう懇願の視線に、真姫は耐えられる気がしなかった。
つまりは結局の所、今作詞するか後で作詞するかの違いでしかないのだ。そして真姫は、『作詞ができなかった』と思われるのが嫌だった。
ペンを片手にノートを開いた真姫は、やはり固まる。歌詞が出てこないのだ。
「どうすればいいのよ……」
天井を仰いだ真姫は、ふと海未の言葉を思い出した。
『作詞に行き詰まった時は、文字ではなくイメージを考えるようにします。言葉を繋げていく事でも、歌詞になるんです』
「イメージか……。穂乃果のイメージといえば……おバカよね。あと猪突猛進。考えなし。ノーブレーキ」
本人には言えないな、と真姫は口元を綻ばせる。
「走ってるイメージもあるわね。風も追い抜きそうな勢いで」
『走る』、『風追い抜く』。真姫はノートにメモしておく。
「あとは……目は真剣なのよね。誘ってくれたあの時からずっと。私には眩しいくらい輝いてて」
『真剣』、『目の輝き』、『まぶしい』。
「一番になろうって、いつも背中押してくれるわよね。いつも笑って、自分じゃなくて誰かのために」
『一番になる』、『笑顔』、『背中を押す』。
「きっと、雨が降っても喜びそうよね。それさえも味方にしそうな感じするわ」
『雨の粒』、『光って』。
「……穂乃果の応援って、不思議とエネルギーこもってるのよね。やっぱり、熱すぎる心のせいかしらね?」
『熱い応援』、『負けない』。
楽しそうにノートにメモを綴っていた真姫は、ふと一ページが埋まるほど書き出した事に気付いた。
「私、いつの間に……」
しかも書いてある内容は、穂乃果をベタ褒めするような事ばかり。
「……ナシナシ! こんなんじゃ穂乃果調子に乗るし、歌詞進まないし!」
謎の言い訳をしながら消しゴムを手に取った真姫。消す直前に、メモが目に飛び込んでくる。
「……これ、穂乃果に対する、私の印象なのよね」
『アイドルやりませんか?』
脳裏に浮かぶ、屈託ない笑顔。
「…………。はぁ……」
真姫は苦笑して、大きく息を吐いた。
「……分かったわよ。誕生日プレゼントくらい、ちょっとだけ素直になるわよ」
誰への言葉なのか、真姫はメモを組み合わせていく。メロディを口ずさみながら、当てはまるフレーズを歌詞として乗せていく。自分でも驚くくらい、スムーズに。
「──そうだ。ここまで作ったなら、タイトルも必要よね……」
歌詞とはまた違う難しさ。このメロディや歌詞を言い表すような、ぴったりな曲名。
「穂乃果はずっと、夢を追いかけてる……。夢が穂乃果の原動力……。夢がない穂乃果は、穂乃果らしくない……。──あ、」
真姫の中で、何かがカチリとはまった。
「ふふ、ふふふっ」
真姫は思わす、声を漏らした。
穂乃果には、少し勿体ない曲名かもしれない。だがぴったりだと思った。
「──『夢なき夢は夢じゃない』」