Fate/Zero Over   作:形右

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 赤い悪魔の影がこの回から。
 そして、それに呼応するようにSTICKが……?


第十三話 ~夜更けの冒険の始まり~

 夜明けの冒険

 

 

 

 そこはまるで、原初の地獄を思わせた。

 

 ――赤い。

 ぐつぐつと煮えたぎるラー油の溶岩、そこで溺れる豆腐は赤く染め上げられて、亡者の如く血の海に沈む。

 釜の中で湯だつ血の様に、どろどろとしたその赤みは(まさ)しく残忍なまでの辛味の象徴。

 全てのものが倒れ伏せ、何もかもがその辛味の下に蹂躙された。

 

「これは……一体」

 

 しかし、ただ一人。

 その煉獄の釜の中身のもつ〝美しさ〟に――その醜悪なまでの有り様に、心から魅せられた一人の男……黒いカソックを纏い、首元に十字架を下げた神父を除いては。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「――何? 間桐邸が、焼け落ちただと……?」

 衛宮切嗣は、舞弥からの報告を受け、訝しげにその事案を見定めようと思考を巡らせていく。

『はい、完全に焼失と見て間違いありません。ただ、翁の姿は確認できませんでした』

「そうか……もう少しの間、監視を続けてくれ」

『了解』

 手短に交わしたやり取りを終え、切嗣は煙草をくわえて火を付けた。

 胸に吸い込まれる紫煙の味が、唐突な事態に直面して乱れた思考を整えてくれる。

 ――何が起こっている?

 今回の『聖杯戦争』の異常さ、それを差し引いてもいささか今回の事案は例外が過ぎた。

 妖怪の様にこの街に巣食う悪魔の様な老人を、何者かが襲撃した――これは間違いない。

 だが、だからといってこれが何かしらの意味を持つとは切嗣には思えなかった。何せ、そもそも間桐の影の当主――『マキリ』としての流れを牛耳っている間桐臓硯はかなり危険な相手であると同時に、今回の参加者ではないのだ。

 そんな相手に挑む危険と、それを犯すに値する見返りとが釣り合わない。

 そんな馬鹿なことをする者がいるとは思えないし、ましている筈もない。

 頭が痛くなるとはまさにこのことか……厄介な相手が野放しになったかもしれない、今後の計画に支障をきたす可能性がある。

「――厄介だな」

 ふぅ……と煙を吐き、灰皿に吸い殻を押し付けた。

 椅子から立ち上がって、次の行動をとるために話をしなくてはならない。

 何よりも守らなくてはならない『器』であると共に――彼自身はそれを捨て去ろうとしているが――最も愛しい妻である女性のために、この事態を説明しなくてはならない。

 切嗣は部屋の戸を開け、妻を呼ぶために城の廊下へと歩みを進めていった。

 

 

 

「――――落ちたの……!? あの〝マキリ〟が?」

「あぁ……不可解ではあるけどね」

 切嗣は妻、アイリスフィールに先ほど受けた報告をそのまま語った。

 その内容に、『マキリ』――つまりは彼女の生家である『アインツベルン』と同じ、〝始まりの御三家〟の一つが落ちたという事実に、彼女は驚愕を隠せずにいた。

「しかし、これであの妖怪がくたばったとも言い切れない。用心はしておいてくれ、アイリ」

「えぇ、分かってる」

「今のところ、新たな動きは以上だ。僕は少しやることがあるから部屋に戻るよ」

 部屋の戸に手をかけ、外へ出る。

 部屋の外に出ると、そこには一人の少女がいた。

 一見少年に見える中性的な顔立ちだが、折れそうに見える華奢な体躯が彼女か少女だとより強く印象付けている。だが、その実彼女は文字通り巨石をも粉砕する力を持つ条理外の存在、英霊である。

 そして、此度の『聖杯戦争』においては、切嗣と契約を交わしたサーヴァントでもあるのだが……切嗣は、自分を見つめる翡翠の双眸を全く見ようとすらしなかった。

 それどころか、彼女――セイバーが僅かばかりの言葉を発しようとも、彼は決して足を止めることも声をかけることもない。

 路傍の石以下の存在として、道具であるセイバーを無視して彼は部屋へと立ち去る。

 残されたセイバーは、自らの口からの説明もなく、ただひたすらに……それこそまるで子供か何かのように自分を避け続ける今世の主に、言いようのない悔しさを噛み締めていた。

 

 ……けれど、そんなない交ぜにされた少女騎士の心中も癒えることを待たぬまま、戦いの嵐はまた幕を開けていく。

 

 

 

 ***

 

 

 

「――――」

「――はふ……はふ、あむ」

 一心不乱に蓮華を運ぶ一人の神父。そして、それを見て引き攣った笑みを浮かべている少年が一人。洋館の食卓の上で煮えたぎるマグマのような麻婆豆腐を前にしていた。

「……ホントにそれ好きなんだな」

「? ――、……食うか?」

「いや……いいよ。それはあんたのために作ったやつだし――それに、皆の口直しもこれから作らなきゃだし」

 周りに転がっている屍――もとい、その一歩手前の人の山を見ながら、少年・衛宮士郎はそういった。

「……そうか」

 心なしか残念そうに、神父――言峰綺礼は蓮華を運ぶ作業に戻る。

 士郎は、はぁと一つ息をつくと立ち上がり、転がっている皆に口直しのリクエストをとる。

「あー、口直しのリクエストあるかー?」

 その声を聞き、いの一番に飛び起きたのは原初の王と名高き英雄王ギルガメッシュ。

 最近士郎の料理と、時臣の娘である桜とその叔父である雁夜にかまうのがお気に入りになりつつある現世満喫王である。

「甘いものを持て雑種ぅぅぅ!! そもそもだな! あんな料理が食えるかぁぁぁああああああっっっ!!!???」

「いや、でも――」

 そんなギルガメッシュを前にして、ちらりと綺礼の方を見る士郎。

 すると、

「――――食うか?」

 綺礼は再び、蓮華を差し向けた。……今度はギルガメッシュの方だったが。

 むろんギルガメッシュも、今現在怒りの原因となっているものを受け渡され、それに応じるわけもなく――

「食わんわ戯けぇぇぇ!!!!!! そもそもだな! 英霊たる(オレ)が、料理ごときで黄泉を渡りかけたのだぞ!? こんなものが食えるかぁぁぁあああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」

 再び怒りに吠えた。

 こんな二人のやり取りが漫才のように思えてきた当たり、士郎は大分この空間に溶け込んでいると言えよう。

 ……にしても、バビロニアには黄泉の概念はあったのだろうか?

「……おじさん、大丈夫……?」

「う、うん。大丈夫だよ? 桜ちゃん……」

 その隣では雁夜が麻婆に打ちのめされてるのを見て、心配そうにしている桜の姿が。助け出されて間もないため、まだまだ表情豊かとは言えないが、少なくとも桜の心は――士郎の記憶にある閉ざされた頃よりは守られている。

 しかし、

「…………私の心配はしてくれないんだね、桜」

 その代償なのか、割と大活躍だった時臣より先に手を伸ばした雁夜の方に懐き度が傾いたらしく、桜は時臣にまだ少し冷たい。……それを見て、何だか士郎は慎二に強気に出た桜を思い出したという。

 ただ、捨てたという認識だけは改められたため、嫌いというよりまだ少しどう向き合うべきか迷うという感じのようだ。

 この分なら、姉の凛辺りならあっさり打ち解けそうな気もする。

 士郎の脳裏には、事情を知って父と間桐に追い打ちをかけようとする『あかいあくま』の姿が見えたとか何とか。

 そんな中時臣は一人静かに立ち上がり、優雅にワインを取り出して開けていたが、その背中はひどく寂しそうに見えた。

 それを見て綺礼の蓮華が益々掬う速度を上げていたのを、士郎だけが知っている。

 ギルガメッシュの説法の後、軽い愉悦に目覚めたのか――自覚しているかどうかはともかく、時臣のうっかりというかフェアリーというか、そんな部分に面白味を感じているらしい。

 その程度で済んでくれればと、士郎は切に願う。間違ってもラスボス覚醒だけはさせたくない。特に、この時空の奴の娘は少しでもまともなシスターになって欲しいものである。

 何というか、さすがは始まりの御三家と言うべきか――

 

(――遠坂の家に関わると、割と誰もがラスボスになるんだよな……)

 

 英雄王に外道神父、黒い春の花に、一応士郎もまたアンリに殻を取られたことがあるのでそれも一応。

(カオスだな……)

 そんなことを頭に浮かべつつ、慣れた手つきでデザートを用意して口直しとする。ホントに、麻婆は食事の後に出して良かった。……そのせいで食事後のお楽しみにを覚えた(もとい士郎に餌付けされた)英雄王が我先にと蓮華を伸ばし、あれよあれよと先の地獄絵図に変わったのは置いておくが。

 そんな平和な遠坂邸でのひと時だが、まだ聖杯戦争は終わっていない。

 加えて、聖杯自体の性質が本当に歪んでいるかどうかも確認できていないため、完全終結は難しい。なにせ、発言をした士郎自身証拠を持ってはいないのだから、それを証明できないのだ。

 仮に証明できたとして、それを信じそうもない輩が何人かいるので更に頭が痛い。

 しかし、悩みを抱えた頭を休ませる暇もくれないまま、冬木の地で再び騒動が巻き起こる。

 すっ、と光の粒が集まり、霊体化を解除したアサシンが姿を見せる。

「――時臣殿。お食事時に失礼ですが、早急にお伝えせねばならぬことがあります」

「どうかしたのかい?」

 時臣が訊ねると、アサシンは粛々と応え始めた。

「は。教会で待機しておられる璃正殿が、キャスターの動きを把握したとのことでこちらは伝えるようにと。何やら召喚者である殺人鬼と共に夜な夜な子供を攫っているとか――」

「何――!?」

 士郎はアサシンの言葉に、勢い良く立ち上がる。

 その際テーブルが音を立てて揺れ、桜が少し驚いたようにしたのを見て士郎は我に返る。

「あ、いや……それで?」

「はい。どうやら奴らは秘術の秘匿など考えにないらしく、表の住人たちもこれに気付きかけているそうで……璃正殿は参加者全員にある一つの提案をすると申しております」

「提案? それは一体」

「璃正殿の仰った提案とは、キャスターの討伐指令でございます」

「な、それは――!」

 思わず士郎はまた声を上げてしまった。

 しかし、アサシンは士郎を落ち着けるように手で制し、ことばを続けた。

「無論承知のこと。ただ、これはキャスターを倒し聖杯に焚べるためのものではなく、他の陣営が報償を求め動くことを想定してのもの……聖杯戦争に参加する陣営ののすべて一同に会するために、他の陣営が少しでも表に出るように促す策であります」

「でも……それはっ」

 それは、確かに正しい。

 けれど、それは果てしなく間違いだ。

 葉ではなく枝、枝でなく幹。そして、その周りに広がる根や周りの木々の集まりである森。

 一部を見るな、大勢を見よ。

 そんなことは分かっている。

 しかし、それを理解しても最後までそれを全て願うことこそ、少年の抱いた夢。

「それは――絶対にダメだ」

 頑なな士郎を、綺礼は蓮華を止めじっと、ギルガメッシュは見定めるように、時臣は僅かに怪訝そうに、雁夜と桜は心配そうに見ていた。

「士郎くん……でもここは」

「分かってます。だから、討伐指令自体は出してくれていいんです。でも、その代わりに一つ頼みがある――俺が、囮役をすることを認めて欲しいんです」

「君が、囮だって……?」

「はい。キャスターのことを倒すために他の陣営が動く、っていうのは璃正さんの想像通りだと思います。

 ……でも、その間に子供をさらうのを見過ごすのは絶対に嫌だ! 守れる命があるのに、それを見過ごすなんてのは俺は認めない。それにこれには魔術側にも教会側にもメリットはある……俺がキャスターたちの邪魔をすれば、少なくともこれから失踪した子供を嗅ぎまわる表沙汰は減る」

「なるほど……確かに、それは一つの策として筋は通っている」

「しかし、お前に守りきれるとでも言うのか? だとしたらそれはさぞかし尊かろうよ。

 だがな、それは叶えばの話だ。そうでなければお前はただの愚者となろう。……加えて、私に今後麻婆を作る料理人が減る」

「そこかよ!」

 真面目な話かと思えばこれか。なんだか少し第五次の時の言峰に近くなってきた気がする……と、士郎は溜息をつく。

「たはは……まあ、冗談はさておき。士郎くんの言ってることもあながち間違いじゃない。

 それに、子供を見捨てるなんてさ。元々の集まるきっかけが子供を救うためだった俺たちがするのは、カッコ悪いだろうからな。なあ、バーサーカー」

「ええ、雁夜(マスター)の言葉最もです。私が士郎のサポートに入りましょう。私との組み合わせならば、そう負けはないかと思われますので」

「ありがとうな、ランスロット」

「いえいえ」

「ちょっとまてぇいっ! 小僧がここにおらなんだら、誰が俺に供物を作るのだ!?」

「――――はむ(麻婆の咀嚼を再開)」

 その場には、静かに沈黙が漂った。……なお、誰に言うわけでもないが、冬木市にあるとある商店街には、あらゆる料理を唐辛子塗れにしてしまう中華料理屋があるとかなんとか。つまるところ、チョイスを任せた場合死ぬ。主に辛味的な意味で。

 妙に視線だけは痛く刺さるような感覚で――ついに士郎は、嫌な予感しかしない咀嚼音の中で観念したようにいった。

「――えっと、作り置きをしておきます」

 

「「「……ほっ」」」

 

「――――――(チッ)」

 

 張り詰めていた空気が溶け、妙な安堵が漂う。

 士郎はひとまず先ほど約束した口直しを作ろうかと席を立とうとした、その時。

 

 ――ジリリリリッ! と、けたたましく電話が鳴り響いた。

 

「? 誰だろうか、こんな時間だと言うのに」

 時臣が立ち上がり電話を取ると、そこから聞こえてきた声は彼にとって聞き慣れた人の物だった。

『貴方? よかった……起きててくれて』

 酷く安心したように、葵は普段の彼女らしくもなく焦った声でそういった。

 妻のそんな反応に、時臣は不思議に思いながらも話を聞いていく。

「あぁ、葵。どうかしたのかね? こんな時間にだというのに」

『それがね……凛が』

「凛? 凛が、どうかしたのかい?」

 唐突に出てきた愛娘の名に、時臣は母と共に彼女の実家である『禅城』の家にいる少女を思い浮かべる。

 普段からとても熱心な子で、色々と気が強すぎる部分もあるがそれがまた魅力的に映るような、人を惹きつける力を持った我が娘。その上、魔術に関する資質に関しては妹である桜共々、己をはるかに凌駕するほど。

 とても優秀で自慢の娘が、何かをしでかしたのだろうか? しかし、時臣の記憶にある限り、偶にお転婆が過ぎる時であっても、葵はおっとりとした笑みを損なうことなく母として娘を導いていたものだが――と、そこまで時臣が思った辺りで、葵がとんでもないことを伝えた。

『あの子が……こっちの家を抜け出したの」

 まさに、このタイミングにおいては……最も最悪といって差し支えないそれを。

『いつのまにか寝室を抜け出していて、そこに書き置きが……あの子、お友達が例の失踪事件に巻き込まれたらしいことを随分と気にしていたようで……冬木(そっち)に戻るって』

「なんだって……!?」

 驚愕のあまり、時臣は思わず受話器を握り潰さんばかりに手に力を込めてしまう。

 だが、妻の言葉の続きを聞くために耳に意識を集中させる。

『それで、もしかしたらと思って……一度そっちの家に戻っていたりは』

「……いや、ここでは無いよ。凛はこちらには来ていない」

 僅かばかりの期待も結ばず、このままではと思ったのか葵は夫に娘を探しに出ると言った。

『そう……私、これから少しあの子を探しに出てみるわ』

「それは――」

 だが、時臣としてはこの事態は好ましくはなかった。

 娘ばかりではなく、己が妻までが殺人鬼の巣となっている冬木の夜の街に繰り出すなど……おまけに、先ほどの話を聞く限り凛は学校の友達が行方不明になったことを気にしているらしい。

 それは、凛が囚われた子供たちの元を目指すということを意味していた。

『それじゃあ、私は急いで凛を探しに――』

「待ってくれ葵。凛は、私が探そう」

『え――でも、今は』

「構わない。少し前に連絡を入れた時も言ったが、少しばかり今回の戦いにイレギュラーが多く起こっていてね……近いうちにいくつか君の耳にも入れておかなければならないことがある。

 一先ずそういった理由もあるから、凛は私が探そう。見つけたらまた連絡を入れるよ」

『そう……ですか。それじゃあ、貴方……凛を』

「勿論だとも」

 会話を終え、早速後ろに控える皆に凛を探すということを伝えた。

「それにしても師よ、奥方に一度連絡を入れておいたのは正解でしたね」

「あぁ、もしそうなら葵だけで探しに出ていただろう。おまけに、凛をただの子供と思った他の連中に連れ去られずに済む」

 実は、時臣は間桐邸から桜を奪還したのち一度葵に連絡を入れていた。

 桜のことは直に話すつもりだったので、今回の聖杯戦争が少し狂い始めていることや間桐との盟約が少し変わったという体での連絡だったが、葵は魔術師の妻らしくそれを受け入れてくれたし、桜のことも多少なり察してくれていただろうことが覗えた。

 そんなことがあったからこそ、葵は聖杯戦争中の夫に娘のことで連絡をよこしてくれた。そしてそれは、まさしく僥倖であったといえる。

 何せ、今にもキャスター討伐指令出そうというその時に、そのキャスターの元へ向かったかもしれない娘のこと側方のだから。

 下手を打っていれば、キャスターもろとも凜が殺されていたとあっても不思議ではない。

 そのため、一同は凜の行動を探り、キャスターと鉢合わせする前に彼女を連れ戻すべく動き始めた。

「凜はおそらく電車で冬木まで来ているだろうから、探るなら駅から小学生の足で移動できる範囲。それもここ三十分以内で……」

 時臣は地図を広げ、新都の冬木駅を中心に凜が行きそうな場所を探るが……凜の思考がどう向くのかなど、父親や弟子、妹にさえ分からない。

 何せ彼女は、僅か十年後には〝あかいあくま〟などと形容されるほどの狐に成るのだから。

 士郎は地図を見ながらつい、どうせなら凜との魔力パスが今も繋がっていれば、などと考えてしまう。

 この世界の凜も桜も、あくまで士郎のいた世界に続くかもしれない一端の存在であり、同一ではないことは分かっている。だが彼女たちや、もちろんセイバーやイリヤも、士郎にとっては等しく大切で、守り抜くべき存在であることには変わりは無い。

(何か……何か無いのか? 一発で遠坂を見つけ出せるような作戦は)

 だが、そんな便利な物はいかな魔術を使っても手に入らないだろう。遠見の水晶玉にしても、居場所が分からなければ使いようもない。

(いったい、どうすりゃいいんだ……いっそのこと、遠坂がこっちに引き寄せられるか、こっちから遠坂に向かっていくようなもんがあれば……。

 まさかそんな出鱈目な物――ん?)

 ふと、士郎の脳裏に浮かんだ物が一つあった。

 デタラメな代物。そんな言葉に、妙に引っかかる物が、この家にはあるはずだ。

「――あ、ぁぁああっ!」

 唐突に叫んだ士郎に、他の面々が驚いたように彼の方を向く。

「わ!? きゅ、急にどうしたんだい? 士郎君」

 雁夜がそう訊ねると、士郎は興奮したようにまくし立てた。

「あったんですよ! とおさ……凜を探し出すための代物が!」

「なに? それは本当かい、士郎君」

「まぁ、あんまり〝アレ〟には頼りたくないんですけど……まぁ、面白うそうなことと言うか、玩具にする相手として、確実に見つけてくれると思いますよ。凜を」

「玩具……?」

 綺礼は怪訝そうな顔をしたが、時臣は「まさか」と士郎の思い描いている物を想像し、冷や汗を流した。

「? どうしたんだ時臣? 顔が青いぞ」

「い、いや……なんでもないんだ。そう、何でも無い……」

「訳が分からんぞ小僧。説明せよ」

「あー、その。何つーか、さ……女の子を探すなら、たぶん〝愉快型魔術礼装〟の出番なのかなぁーって」

 なんだそりゃ、と一部を除き皆首をかしげる中……士郎は時臣に一応の確認をとっておく。

「それで……いいですか? 時臣さん」

「…………」

 時臣はしばらくの間、その問いに答えられなかったが……やがてゆっくりと、家訓である優雅さと、愛娘の安否を天秤にかけて……首肯した。

 

 その問いは、魔術師としても父親としても、逃げ道のない問いかけだったと後に時臣は語り、士郎はそんな時臣にしばらくひたすら謝り続けていたという。

 

 

 

 ――――その脇では、高笑いをする赤い悪魔と不思議そうな顔をしたその妹の黒い悪魔が居たとかなんとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ~ふっふっ~♪ なにも、一本だけだなんて決められてませんよねぇ~?(ゲス顔)』

『姉さん、ご自重ください。私たちの出番はまだ後です』

『そう言ってる時点で、すでに私たちの大暴れ決定みたいな感じですけどね~♪ やったー! アンバーちゃん大勝利ぃ~!』

『おやめください。ついでに言うと、メタとネタバレが過ぎます。内と外的な意味で』

『おやおや、それは失礼を~。では、またどこかで~』

『…………はぁ』

 

 

 

 


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